ビックリ卵のチョコウサギ

作者:白黒ねねこ

●夢の中の卵探し
 広い公園の中、バスケットを腕から下げた少女が一人で歩いていた。少女はきょろきょろと辺りを見まわし、何かを探している様だ。
「あ、あった!」
 何かを見つけたのか、嬉しそうに花壇へと走って行く。しゃがみこみ、花と花の間に隠されていた卵を拾い上げた。
 それはレモン色をした卵型のカプセルで、少女は迷うことなく開けた。中身はウサギの形をしたキャンディーが二つ。
 可愛らしいキャンディーにはしゃいだあと、カプセルを閉めてバスケットへ入れる。バスケットの中には他にもカプセルがあり、色とりどりの卵でいっぱいだが、まだ入りそうだ。
「よーし、もっと、もーっと集めるぞー!」
 ぴょこんと立ち上がった少女は、駆け足でカプセルを探し始める。そして見つけたのは、少女よりも大きい茶色の卵だった。
 卵が真ん中からひび割れてゆく。中から顔を出したのはホワイトチョコで作られ、マスコットの様にデフォルメされたウサギだった。短い腕には少女と同じようにバスケットを下げている。
「か、可愛い!」
 目を輝かせた少女が手を伸ばすと、にやりとウサギが笑った。そのままバスケットの中に手を突っ込み、大きな卵を取り出すと少女に投げつける。
 卵が目の前に迫った瞬間。
「ひゃあっ!?」
 ぱちりと目が覚めた。広がるのは暗いが、間違いなく自分の部屋だった。
 起き上がった少女はベッドの上から、何もないこと確認して肩の力を抜いた。
「ビックリしたぁ……夢? 夢かぁ……」
 よかったと、少女が深く息を吐いた。その胸を背後から大きな鍵が貫く。
「あら、あなたの『驚き』は新鮮で可愛いわね。私のモザイクは晴れないけれど」
 どこからか、知らない女性の声が少女の耳に届いた。
 鍵か引き抜かれ、少女はベッドに倒れこむ。そのまま眠るように意識を失ったのだった。
 いじわるな笑みを浮かべる、チョコレートのウサギを残して。

●チョコウサギ現る
「子供の見る夢は、いろいろなものがありますよね。あ、眠る方の夢のことですよ」
 ケルベロス達を見つめ、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は続けた。
「ビックリする夢をみた少女が、『驚き』を奪われてしまうという事件が起こっています。既に『驚き』を奪った第三の魔女・ケリュネイアは姿を消していますが、奪われた『驚き』から現実化したドリームイーターが、事件を起こそうとしているようでして。皆さんには被害が出る前に、このドリームイーターを退治してもらいたいのです」
 全身がホワイトチョコで作られたウサギのドリームイーターで、卵の入ったバスケットを一つ下げたマスコットの様な姿をしていると、セリカは紙に描いた。
「このドリームイーターは一体だけです。とにかく誰かを驚かせたいみたいで、深夜、少女の家の近所を歩いているだけで、向こうからやって来ると思いますよ。ただ、驚いてくれない相手を優先的に狙う性質があるようですね」
 バスケットに入れたカラフルな卵を投げつけて、攻撃してくる、とセリカは言う。
「卵は当たると爆発し、爆発すると様々な中身が飛び出してきます。これは攻撃だけではなく、驚かせる時にも使ってきます。気をつけて下さいね。人払いについてですが、深夜ということもあり、人通りはありません。が、念のためしておいた方がいいでしょう」
 言い終えたセリカは姿勢を正した。
「どんな夢であれ、利用するなんて許されることではありません。何より、被害者の少女が再び目覚められるように、事件の解決をお願いします」
 そう言ってセリカは、ケルベロス達に向かって頭を下げたのだった。


参加者
シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)
パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)
アマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993)
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)
ノイアール・クロックス(魂魄千切・e15199)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
眞守・白織(しろきつね・e21180)
長谷川・わかな(笑顔花まる元気っ子・e31807)

■リプレイ

●ウサギ捕り開始
 深夜、人気のない通りを歩くケルベロス達。各々に照明となる物を装備し、サーヴァント達を連れている様は、仮装行列の様にも見えた。
「うぅ、暗いよぉ」
 ビクビクしながら長谷川・わかな(笑顔花まる元気っ子・e31807)は周囲を窺いながら歩いている。その横を歩くノイアール・クロックス(魂魄千切・e15199)はあまりにも怖がる、わかなに苦笑いをした。
「怖がりすぎっすよぉ、大丈夫っすか? わかなさん」
「だ、大丈夫……じゃないかも。だっていつ驚かされるか、わからないんだもん。ノイアールさんは平気なの?」
「どのぐらいびっくりさせてくれるか、ワクワクしちゃうっすね♪」
 にっこりと答えるノイアールの前方では、眞守・白織(しろきつね・e21180)とトエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)が歩いている。
 時々、転びそうになる白織をトエルが支えたりと、会話は少ないものの和やかだ。
 その更に前では、不安げなアマルガム・ムーンハート(ムーンスパークル・e00993)と様子を窺う湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)が歩いており、列の先頭となる位置にはシエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)とパティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)の二人も、辺りをキョロキョロとして何かを探している。
「ウサギさん、どちらにいらっしゃるのでしょう?」
「そうじゃのぅ、さすがに目立つと思うのだ。うーむ、チョコのウサギってどんな感じなのかのぅ?」
「そうですね……きっと可愛らしくて、甘い匂いがすると思いますけど……」
 シエルが言い終わるのと同時に、甘い香りが漂い始めたその瞬間。パンッと大きな破裂音が響き、頭上からヒラヒラと紙吹雪が落ちてきた。全員が驚きの声を上げる、が。
「うわぁああああ!?」
「わぁっ」
 アマルガムのオーバーともいえる驚きは、わざとらしく見えた。トエルにたっては声がかき消され、目がちっとも驚いていなかった。ボクスドラゴンのサチも、つまらなそうに睥睨している。
 妙な沈黙がおりてから一拍置いた後、どこに隠れていたのか、ホワイトチョコのウサギが最後尾に飛び出して来た。
 ウサギはアマルガムを睨むと、卵を振りかぶる。
「ヤリナオシ、ウサ!」
「えぇっ!?」
 卵を避けたアマルガムはすぐ近くの公園へと、駆け込んだ。
 その後をウサギが追いかけていく。他の面々もそれに続き、最後、パティとシエルによって入口がキープアウトテープで塞がれた。
「できたのだー!」
 その声にケルベロス達は足を止め、戦闘態勢に入る。

●卵は乱舞、ウサギは避ける
 様子が変わってもなお、ウサギは全身で怒りを表し、アマルガムに向かって緑色の卵を投げつける。爆発と共に大量の小麦粉が彼を襲った。
「げほっ、ちょっ、俺ばっかり!」
 粉まみれのアマルガムの声に怒気が混ざり始める。一方で、ウサギはあっかんべーをすると、バスケットの中をガサガサし始めた。
「せっかく可愛いのに、台無し」
 トエルが炎を纏った茨を叩きつけようとするも、するりとかわされてしまう。だが、直後に、わかなの飛び蹴りがウサギの腰の辺りに直撃した。
 腰をさすろうとするも上手くいかず、転ぶウサギを見たわかなの表情が緩む。
「やっぱり、可愛いなー。お持ち帰りしちゃだめかなぁ」
「だめに決まってるでしょう」
 きっぱりと言い切った麻亜弥が前に出る。
「私の技術を、見せてあげましょう」
 達人の一撃を放とうと接近するが、ウサギの方が素早く、かわされてしまった。
「ホワイトチョコ……美味しそうなのだ」
「パティ様……」
 目をキラキラさせるパティをたしなめながら、シエルはハンマーを砲撃形態に変形させた。口を尖らせつつも、パティはアマルガムを見た。
「ちょっと、落ち着くのだ」
 パティが放ったオーラがアマルガムを包み込み、彼の肩から力が抜ける。
 その横でシエルがウサギに向かって、砲撃を始めていた。腰に痛みが来たのか、ウサギは避けきれず、砲撃が命中した。
「ありがとう、助かったよ」
 一方、冷静さを取り戻し、礼を言ったアマルガムは、ウサギを見据える。
「さっきのお返しだよ。ウサギさんは卵の中にお帰りっ!」
 放たれたマジックミサイルは避けられてしまう。だが、ウサギに隙が生まれ、ノイアールの砲撃がウサギの足元で炸裂した。援護するようにミミックのミミ蔵がウサギの右足に噛み付くが、暴れたウサギによって振り払われてしまった。
 後ろ向きに倒れたミミ蔵をボクスドラゴンのジャックが助け起こす。何かを頷き合った二匹はウサギに視線を向けた。ミミ蔵に目は無いが、ジャックの目がキラリと光る。
 視線を向けられているウサギはビクリとして後ずさった。
「ちゃんと、はたらいて。ね?」
 白織は面倒くさそうにしているサチに向きなおり、話しかける。
「てきの、前。いく、んだよ」
 白織に指示されサチは白織とウサギの間に移動し、そのまま、あくびを一つ。白織が力を籠めると、杖から雷撃がウサギへと放たれる。が、避けられてしまった。
 しかし、先程までと違い、動きは鈍くなっている。
 それからも、ウサギは驚いていない者を狙って卵を投げ続けていた。
「にぎゃぁぁ!? 何か、ねばねばがー! 目がー! 目がー!?」
「わ、わ、いたい…ね、ヒール。飛ばす、よ」
 ある者は赤い卵によって、頭からねばねばをかぶり。
「だから、何で俺ばっかり狙われるの!?」
「うわわわっ、後ろからなんて卑怯っすよ!」
 ある者は卵を投げられては、自分のサーヴァントや仲間に庇われたり、そもそも回避できたりと攻防が続いた。
 その間、狙われない様に驚くまたは驚きのアピールを繰り返していた。時には驚いていないと逆に狙われたりもした。そして……。
『海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ……』
『ばっつーん!! ってハジけさせてやるっすよ!』
 麻亜弥の鮫の牙の様な暗器と、ノイアールのオーラによる大技を受けて、ウサギの体……特に、両足に大きな亀裂が入った。

●ウサギ、砕ける
「ウ、ウサッ!?」
 自分の惨状に気が付いたのか、ウサギは慌て始める。ヒビは、ほぼ全身に入り、体の表面は溶けかけているのか、汗をかいた様な光沢を放っていた。
 甘い匂いも初めの時より強くなっている。この反応が示すのは一つだけ、ウサギは確実に弱り始めている。
「もう少しってところかな」
 小麦粉にねばねばが追加されたアマルガムが、ウサギを見て言った。彼の驚きはウサギのジャッジではアウトだったらしい。主人を庇い続けてきた、シャーマンゴーストの梟男爵も同じような姿になっている。
 同じく驚くことが苦手なトエルや仲間を庇ってきた麻亜弥と、ジャックやサチも小麦粉やねばねばまみれになっていた。
 まみれとはいかなくても、かぶっているのは全員共通だ。
 先に動いたのはトエルだった。
『鍵はここに。時の円環を砕いて、厄災よ…集え』
 白い髪をほんの少し切り取り、その髪を媒介にトエルは茨を召喚する。纏った茨がウサギに襲いかかり、からめ取られたウサギがもがくほど、亀裂が大きくなっていった。
 解放された頃には目立つ亀裂が、二本に増えていた。
「短期決戦って、わけだね!」
 鉄鍋を構えたわかなが、ウサギに向かって駆け出した。
『どいてどいてー! 遅刻しちゃうー♪』
 ウサギに急接近し、思いっきり鉄鍋で殴りつける。鉄鍋の重量と勢いによって威力が増した一撃によって、ウサギの右耳が折れて吹き飛んだ。
「ウサーッ!」
 わかなから距離を取ったウサギは、折れた耳を押さえて涙目になっている。そんなウサギに追い打ちをかけるように、炎を纏った鉄塊剣で麻亜弥がウサギを切りつけた。
 亀裂から深く食い込み、炎の熱で溶けたが故に、ウサギの右腕が切り落とされた。
 その後ろでは、シエルが魔導書に綴られた詩を読み上げている。現れたのは小さな妖精が一人。
『妖精さん、妖精さん。どうか、わたくしに教えてくださいませ』
 召喚された妖精は、シエルの耳元で何かを囁く。答えを聞いたシエルは迷いの無い表情で、ウサギを攻撃する。
 避けることもできずにウサギは。
「キュー!」
 間の抜けた断末魔を上げて、砕け散ったのだった。

●チョコの香りは現にて
 窓から少女の部屋を覗き込むと、ちょうど、少女が目を覚ましたところだった。
 体を起こした少女は不安そうに部屋を見回している。そんな彼女に声をかけたのは、パティだった。窓の開く音に少女がこちらを見る。
「こんばんはー、なのだ」
「だ、誰?」
 窓から身を乗り出す少女に、パティだけでなく、シエルやわかなも安堵した。
「起きた、よかった。よかった」
 白織も尻尾が揺れていることから、喜んでいるのがわかる。少女は首を傾げると考え込んだ。
「よく、わからないけど……私に何かあってお姉さん達? が、助けてくれたってことかな?」
「そんなところ、なのだ♪」
「なんともないみたいで、よかったよー」
「無事も確認いたしましたし、わたくし達も戻りましょうか」
「ですねー。お風呂、入りたいですし」
 シエルの一言にわかなは頷いた。
「おやすみ、いい夢。見れると。いいね」
 少女に手を振った白織は窓から離れる。それにシエルとわかなが続いた。もちろん、おやすみなさいと挨拶を忘れずに。
「おやすみ、なのだ! それとこれ、あげるのだー」
 少女に小さな袋を渡して、パティも窓から離れた。夜の闇に消えていく彼女達を、見送った少女は、手にした袋を開ける。
 中に入っていたのは、小さなチョコレートの黒ウサギだった。

 公園の戦いで破損した部分は、麻亜弥とノイアールが修復した。
 修復が終わり、少女の様子を見に行った面々と合流し、帰路につくケルベロス達。
「あ、あれ? 食べたい物がチョコレートと、卵焼きしか思いつかない……? う、あのウサギさんの影響かな」
 アマルガムの呟きに、様々な反応が返ってくる。にぎやかさを増した一行を、夜空の星々が見守っていた。

作者:白黒ねねこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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