猛り狂う、かつて戦士であったモノ

作者:天枷由良

●虜囚の身から、解き放たれ
 大型連休に差し掛かり、賑わう繁華街。
 商業ビルの屋上から人々の姿を見下ろし、それはくぐもった笑い声を上げる。
「……ぐふ、うふ、ぬふふふふ……」
 3メートルほどの強靭な肉体。構成する細胞一つ一つが、これから始まる虐殺に興奮して脈動する。
 それはかつて重罪のモノと断じられ、コギトエルゴスムに還されたエインヘリアル。
 戦い、奪い、殺す。ただそれだけにしか価値を見出さない、狂気の存在。
「げふ、ふふふふ、ふふふふうふははははははは!!!」
 白目を剥き、ビルから投げ出した巨躯は壊れた笑い声を高らかに。
 エインヘリアルは地に降り立つと、呆然とする人々の首を引きちぎって血を浴び、さらに笑い狂って空へと咆えた。

●ヘリポートにて
「……まずは集ってくれたことに礼を言う」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)はケルベロスたちをゆっくりと見回し、深く頭を垂れた。
「またしても重罪のエインヘリアルが現れるのだ。先に同様の作戦を処理してもらった差深月・紫音(自称戦闘狂・e36172)から、似たような者たちがまだまだやってくるのではと伝えられた矢先のこと。既に袂を分かった身ではあっても、エインヘリアル第一王子であった私としては慚愧に堪えん。本当にすまない」
 僅かな沈黙の後、ザイフリート王子は一つ大きな息を漏らす。
「……兎にも角にも、気の触れた輩によって地球の民草を失うわけにはいかん。急ぎ現場に向かって、重罪人を撃破してくれ」
 敵はエインヘリアル1体、場所はとある繁華街・商業ビルの屋上だ。
 そこには貯水施設があるくらいで、ひと気も邪魔なものもない。
 激しく動き回れるだけの広さもあり、戦うには全く問題ないポイントだと思われる。
「ヘリオンで急行するゆえ、不届き者が地上へ降り立つより先に戦いを挑めるだろう。お前達が滞りなく撃破に至れば、平和な日常を営むものたちは何があったのかすら知らずに済むはずだ。捨て駒である敵が、途中で逃げ出すことは絶対にないだろうからな」
 なおエインヘリアルは得物を持たず、強靭な肉体を武器としている。
「お前達の扱う、バトルオーラとやらに似た技を使うことだろう。あれは……たしか回復能力も有しているのだったな。敵は単体であるから、治癒に手数を裂いた所でさほど脅威とも思えぬが……いや、それ以前に回復することを考えすらしないやもしれぬな。強烈な打撃に撃ち負けることないよう、備えを怠ってはならんぞ」
 まさかお前達に、油断などありはしないだろうが。
 ザイフリート王子は自嘲気味に笑ったあと、再び声音を戻す。
「身内の不始末を押し付けるようで悪いが、なんとしても被害の生じぬように頼む。私に出来るのはこうして予知することと、お前達を運ぶことだけだからな……」


参加者
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
アリューシア・フィラーレ(亡羊の翼・e04720)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
近藤・美琴(鍵上の神子・e18027)
フィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)
久瀬・了介(二二二九七号・e22297)
エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)
クリームヒルト・ブラーシュ(我が燃え盛る愛を御身に・e30010)

■リプレイ

●相対する狂気
 戦いなど望むべくことでないと、そう思う事は何ら不思議でない。
 例えば、今の近藤・美琴(鍵上の神子・e18027)のように。
 しかし一方で、激しい戦いだけを渇望する者もいる。
 例えば、これから倒すべき敵のように。
(「……やるだけやってみるかな」)
 美琴の囁きは強風に流され、消えていく。
 商業ビルの上空。
 眼下に敵を捉えたケルベロスたちは、それぞれ武器を手にヘリオンから飛び降りた。
「下に被害が出る前にカタをつけるよ」
「わかっていますわ、どうせ話の通じる相手ではありませんもの!」
 フィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)に答えたエルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)が、ふわりと優雅に屋上へ降り立つなり、引き金を引く。
 長い砲身の先に集まった光は、弾と呼べるほどの大きさになったところで縛めを解かれた。
「先手必勝ですわ!」
 グラビティを中和する効果を含んだ塊が、ビルの縁から街を覗いていた巨漢の身体に打ち当たる。
「――ぐふふ……う? んん?」
 漏れ続けていた笑い声が止む。
 けれども、振り返ったそれが孕む狂気は沈黙の中にすら滲み出て、ケルベロスたちの肌を刺激してくる。
(「こんな奴が野放しにされていたら……」)
 待ち受ける未来は容易に想像がつくだろう。
 ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)は瞳に宿る地獄を通して、最悪に続く道を断つための最善を探し始めた。
 その答えが出されるよりも先に、エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)の放った無数の小型無人機が飛び交う合間を、紅い輝跡が駆けていく。
 満月に似た光球で、身の内から意図的に凶暴性を引き出したフィオだ。フィオは深い青色の刃を手に、自らの倍以上もある巨躯の懐へと踏み込んだ。
 飛んで火にいるなんとやら。そんな事を思う知性などないだろうが、エインヘリアルは格好の獲物を捕らえるべく両腕を振るう。
 空気すら裂くような豪腕が――しかし、裂いたのは無人機一つだけ。
 残骸に紛れる紅い軌跡は鋭角に幾度も折れて曲がり、いつの間にか終着点を巨躯の後ろに置いていた。
「こっちだよ、お前の相手は」
 言い捨てつつ、フィオの手から唸るような音が鳴る。獣の牙と化した青刃は巨体の背を袈裟懸けに激しく斬り裂き、確かな手応えを感じたフィオは敵との間合いを取るためにビルの縁を蹴る。
 だが、直線的な軌道は次第に垂れ、瞳の紅い輝きも失せて一時的な限界が訪れた。味気ない灰色の床に足を止めれば、その姿を隠すものは何もない。
 斬り開かれた身体も滴るものも意に介さず、エインヘリアルは腕を広げる。
 大股で数歩行けば、息を切らした細身の小娘を掴み取ることが出来るだろう。
 首を引き抜いてやろうか。捩じ切ってやろうか。それとも地に叩きつけてやろうか。
 狂ったエインヘリアルの頭には、そんな妄想が巡り広がっていたに違いない。
 故に、フィオが慌てず留まっている意味を推し量ることは出来なかった。忍び寄る者がいることにも、己を見続ける地獄の炎が揺らめいたことにも気付かなかった。
 久瀬・了介(二二二九七号・e22297)。口を真一文字に結んだ男が敵の真横から振りかぶり、縛霊手を思い切り叩きつける。巨大な祭壇を兼ねる腕用武装は、接触と同時に網状の霊力を放出した。
 絡め取られて、思うように動けなくなったことでようやく、巨漢の白く濁った眼は了介という存在を認識したらしい。不自由な身を力づくで進めて腕を伸ばすが、其処にはもう、求める姿などない。
 代わりに与えられたのは、新たな傷だ。今この時の最善手としてルージュの撃った鉛玉が巨体を穿ち、エドワウのボクスドラゴン・メルが、ぬいぐるみにしか見えない可愛らしい姿から一杯にブレスを吐きつける。
 それからぴたりと動きを止めた敵の視界を埋めるのは、一本の禍々しいナイフ。エインヘリアル相手では恐ろしさも幾ばくか霞むが、何かを殺めるには十分な刃。
 その持ち主である美琴は斬るでも突くでもなく、刃に込められた亡者の怨念を解き放つ。柔らかくも冷たい声が、エインヘリアルを此方から彼方へ導こうと掻き撫でる。
 ぐらりと巨体が揺れ――。
「……ふふ、ふふふははは!!」
「っ!」
 眼前へ身を晒したことを相手に後悔させる暇もなく、鉄柱のような腕が薙いだ。
 魔術的防御、霊的加護。そんなものすらも打ち砕く拳に襲われた美琴の居所が、一瞬にして貯水施設の外壁へと移る。
 ぱらぱらと欠片の落ちる音が聞こえ、視界が明滅する。それでも何とか、大地に引かれて倒れゆく身体を支えようと突き出した手が、女性の美琴よりも更に華奢な肩を掴んだ。
「……少しだけ、我慢、してね」
 半身で仲間を受け止めつつ言って、アリューシア・フィラーレ(亡羊の翼・e04720)は魔導書から禁じられた断章を紐解く。
 記されているのは、脳の細胞に強化を施す術。その常軌を逸した効果は治癒再生を飛び越えて、戦うための力を半ば強制的に引き出す。
 ぼやけた景色が一気に補正され、美琴の両眼は再び敵の姿を、その前に立ちはだかる仲間の背を捉えた。
「来いよ、あたしが相手になってやらァッ!」
 にわかに広がった恐怖を荒っぽい叫びで跳ね返す、うら若き戦乙女。
 クリームヒルト・ブラーシュ(我が燃え盛る愛を御身に・e30010)は雷杖を差し向け、敵と同じエインヘリアルでありながらケルベロスの側へと付いた、彼の王子に対する敬愛を戦意に変えて迸らせる。
 青天の下、響く雷鳴は狂気の存在から生命力のみならず、身体の自由も、そして笑い声さえも奪おうと荒れ狂い、役目を果たすと空に消えた。

●続く攻勢
 しかし戦場が静まり返ったのは、ほんの一瞬。
 電撃の余韻など気にする素振りもなく、エインヘリアルは拳を突き出す。何もないはずの空間が揺らいで、形を成した闘気が撃ち放たれる。
 それは勇猛果敢なヴァルキュリアに向かって――道半ばで、小さなレプリカントの少年に阻まれた。
「えっちゃん!」
 仲間を庇って吹き飛ばされ、屋上を転がる友の身を案じたルージュが声を張る。それにエドワウは一瞥くれて首を振り、片膝立ちのままバスターライフルを構えた。
(「これくらい……っ」)
 破壊の力に備えた防具では軽減できず、全身を襲った猛烈な痛みを食いしばって耐え、指に力を込める。
 球体関節人形のような小さい身体に柔らかそうな癖っ毛と、お供のメルも合わせて争いより幻想の中が似合いそうな姿をしているが、エドワウとてケルベロス。盾役の務めを果たすと気概を銃口に集めれば、放つ直前に聞こえたアリューシアの詠唱が討つべき者の姿をより鮮明に見せた。
 光が射出されて地を滑り、エインヘリアルの腹に炸裂する。続けて、プレゼント箱に入ったメルが主の奮闘に応えるような体当たりをかませば、入れ違いにフィオが非物質化した刃で斬って抜け、美琴もジグザグに形を変えたナイフで肉を裂いていく。
 広げられた傷口には霊力が残って漂い、それをルージュが強烈な力の奔流で叩き込むと、さらに間髪入れず、エルモアのライフルより撃ち出された光線がエインヘリアルから熱を奪った。
 熱は存在の証明。失った先に待つものは、死以外にあり得ない。
 だが、冷ややかな死を安寧として与えるにしても、己の罪を自覚させる必要はあろう。
 その為の道具を、クリームヒルトが高らかに叫んで喚ぶ。
「血の盟約に従い天上の天秤より来れ。ヴァーリの鎖よ、汝が法を犯せし罪人をその名の元に縛れ!」
 現れたのは、司法神のものを模した魔力の鎖。敵が悪辣であればあるほど拘える力を増すというそれは、罪を犯して封じられていたエインヘリアルに勢いよく振るわれ、巨躯をぐるりと囲って縛り上げた。
「さあ、感じやがれ! その鎖の重さが、テメェの罪の重さだッ!!」
 力強く言い放ち、クリームヒルトは鎖を絞る。
 まるで簀巻だ。けれど嘲り笑うことも勝ち誇ることもせず、了介は無言のままで敵を睨めつける。
 ただ相手を退けるということだけに精神を研ぎ澄ませ、極限まで高められた集中力が、半球状の爆炎となってエインヘリアルを包み込んだ。
 その真っ赤な覆いが、風で消し飛ばされた頃。
「――ふふ、はは、うはははは!!」
「っ……壊れた笑い袋ですか、貴方は!」
 立っていたものの変わらなさに、思わずエルモアが嘆いた。
 元からなのか拘禁の末になったのか。
 傷だらけでも至極楽しげに笑い続ける気味悪さには、時も凍りつく。
「悪意なら闘志も沸くが、これはもはや狂気か……確かにやりにくいな」
 了介でさえ、眉を顰めて零すほどの雰囲気。
 これを何とかしようとしたのか、それとも空気にあてられてしまったのか。
 エルモアは手の甲を口元に添えて、何故かお嬢様調の高笑いを返した。
 エインヘリアルからも、また大きな笑いが溢れ、負けじとエルモアも音階を二段飛ばしで上げていく。
「ふひひひはは!!」
「おほほほほほ!! ごほっ、ごほっ!」
 さすがに無理があったらしい。
「……どう、しよう……回復、する?」
 一体、何処に張り合わなければならないポイントがあったのか。
 全く理解の及ばない状況に、無表情ながらも困惑を含んだ声でアリューシアが尋ねる。
「いえ……大丈夫ですわ。それより、今ならどんな駄洒落にも笑ってもらえますわよ」
「……えっ、と……」
 この金髪縦ロールは何を言っているのだろう。
 やっぱりちょっと、脳髄を賦活してやったほうがいいんじゃないか。
 アリューシアは静かに魔導書を開く。
 けれど仲間たちを置いてけぼりにしたまま、エルモアは自らの言を実践してみせる。
「隣の家に囲いができたって――」
「ぐわははははは!!」
「オチを言う前に笑ってどうするの!!」
 要求も叱責も無茶苦茶な寸劇は呆気なく幕を閉じ、エルモアの装着している流麗な砲台群からは抗議の光が伸びた。

●討ち果たせども
「こんなの……きっと、おかしいことだよ」
 応酬の合間に、フィオが呟く。
 先のふざけたやり取りについて、ではない。今しがた斬った相手の話だ。
「昔、あなたに何があったのかは、わからない……けど、こんなことでしか満たされないなんて……」
 己に抱かれている感情など知る由もなく、エインヘリアルは笑い続ける。
 その声を聞くたびに、投げる言葉から角が取れるほど哀れみが募る。
「……やめておけ」
 感慨に浸りすぎていると察したか、了介が短く告げた。
 成すべきは、敵をこの場で討ち果たすこと。
 ただそれだけ。フィオだって分かってはいる。
「あなたにとっての救いになるのかはわからないけど……せめて、ここで終わらせるよ!」
 息を入れ直し、瞳を紅く染めて跳ぶ。
 狙うは死角よりの急襲。巨躯を回り込んで、青い刃が横薙ぎに振るわれた。
 また一つ、大きな裂傷がエインヘリアルの背に増える。凡人なら疾うに果てているであろうほど斬り刻まれて、しかし戦いと略奪と殺戮にしか価値を見出さない、かつて戦士であったものは笑う。
 その姿には、ルージュの求める正義も信念もない。
(「ならば紅引き否定しよう。彼のような存在は、誰の未来にもいてはいけない!」)
 瞳の地獄を揺らして、ルージュは最善を――引き当てようとした矢先、何を視るよりも前に気味の悪い声を聞いた。
「あひっ」
 瞬間、目の前に迫る巨大な拳。奇跡を手繰り寄せるために必要な僅か数秒の合間に、それは無情にも視界を覆い尽くす。
 ……しかし、訪れた衝撃は随分と小さなものだった。
 まるで子供の――と、その正体にルージュが感づいた時、灰色の床に叩きつけられた小さな盾が跳ねる。
「あ……く……っ」
 桃色がかった金髪の合間から覗く宝石のような瞳をルージュに向けて、エドワウは声を絞り出す。
 そして魔力で形作る蝶を飛ばし、降りしきる鱗粉を浴びることで己を癒そうとして……その効力を受けきる前に、落ちてきた二発目の剛拳で叩き潰された。
 ゆっくりとエインヘリアルが腕を上げれば、穴にならなかったのが不思議なくらいに窪んだ場所で横たわる少年は、まるで糸が切れてしまったかのようにぴくりとも動かない。
 グラビティ中和弾で多少弱体化していても、拳撃は防具を魔力と等しい闘気で容易く貫き、仲間を護ろうとする覚悟ごと砕いてしまっていた。
「あは、あははひゃひゃ!!」
 興奮の極致に達したエインヘリアルの口から、笑いと飛沫が散る。気の昂ぶりは数多受けた傷すらも癒やし始め、肉体の力強さや俊敏さを復活させていく。
「――ッ!」
 湧き出てくる怒りを言葉にも出来ず、ルージュは変形展開した胸部から必殺のエネルギー光線を放った。
 残る力の全てを振り絞るように強く、強く。
 仲間たちも連なるように攻撃を仕掛け、雷やブレス、斬撃や砲撃が次々と巨漢に傷を付けていく。
 しかし苛烈な戦いを存分に味わうエインヘリアルは、着実に死へと近づきながら、それをまるで感じさせぬほどに活力を漲らせ、腕を振るい続けた。
 飛び交う気弾に主を失ったメルが必死で身を投げ打ち、強力な拳撃には美琴が立ちはだかる。拳を通して打ち込まれる狂気に、一人と一匹はアリューシアが唱え続ける呪文を支えとして辛うじて耐え、仲間たちの反攻を後押しする。
 それでも、盾の及ばない瞬間をエインヘリアルは本能で嗅ぎ取ってしまった。
 ルージュが剛拳に捉えられ、屋上の端にまで吹き飛ばされる。闘気が身体を弄び、戦う力全てを奪う。
 また一つ得た戦果に、エインヘリアルは天へと吼える。
 裂かれても、貫かれても、クリームヒルトの振るう鎖に縛られても。
 雄叫びは止むことなく、ついには了介が袖口に隠し持った自動拳銃から連射した燃ゆる地獄の弾丸で、巨躯を蜂の巣にして死に至らしめても、ケルベロスたちの耳に反響し続けた。

「えっちゃん、しっかり」
「……だいじょうぶ、です」
 ふらつくエドワウを支えて、ルージュがビルの中に下りていく。
「真下の階とか、事情を説明しに行かなきゃね……」
 クリームヒルトと共に戦いの跡を癒やしたアリューシアも、二人に続く。
「それにしても、罪人をもけしかけてくるなんて、ねぇ……」
 地球攻略の手札に困っているのか。
 アリューシアが示した問いに、了介が首を振った。
 重罪を犯して封じられていた存在など、元から手札の外だろう。
 そう考えれば、またどことなく虚しさも湧いてくる。
「……寂寞を歌おう。想いを忘れた、かつて、猛々しい戦士であっただろう誰かの為に」
 クリームヒルトは足を止め、屋上の一点を見つめて口を開いた。
「……わたくしも、カラオケでも寄って帰りましょうか」
 物悲しい調べで笑い声を打ち消しながら、エルモアが独り言ちて去る。
 やがてフィオも美琴の姿も消え、ヴァルキュリア一人が残る空間にはただ、歌声が響き続けるのだった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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