●雪月花
黒い翼を折り畳み、舞い降りた螺旋忍者が部下達に指令を下す。
「螺旋帝の一族が東京都心部に現れた。一刻も早く、我らが月華衆が、その御身を保護せねばならない。お前達は文京区の探索を行え。何かあれば、どんな些細な事でも報告せよ」
「御意」
月華衆のリーダー格である『機巧蝙蝠のお杏』の声に応え、五人部下は揃ってそれに頷いた。
「既に他の忍軍も動いていると思われる。もし、他の忍軍と接触した場合、最優先でこれを撃破するのだ。他の忍軍に奪われるわけにはいかぬからな」
月下美人をあしらった揃いの武器を手に、彼等はその場から姿を消した。
また別の場所では、こちらも部下に対して特別な指令が下されていた。
「都内で複数の忍軍が動き出しているようです。今こそ、白影衆の力を見せる時ですね」
闇夜の黒とは正反対の、白を身に着けた白影衆は、指揮官である雪白・清廉の言葉に頭を垂れる。
「お前達は、都内に散っている忍軍を見つけ出し、狩るのです。螺旋忍軍滅ぶべし」
殺意を滲ませながら、どこか淡々としたそれに従い、白影軍螺旋忍者の一グループがそちらに向かうべく立ち上がる。
●その交差する場所
「皆さん大変です! 忍者同士の抗争ですよ、抗争!!」
騒々しい声と共に、白鳥沢・慧斗(オラトリオのヘリオライダー・en0250)がケルベロス達に画面を指し示す。表示されたのは東京都の地図。その中で、複数の螺旋忍軍が入り乱れて戦うことになるという。
「ま、まぁデウスエクスが潰し合うのは良いんですけど、問題はその戦場が都心って事ですね!」
当然、彼等は周りに配慮などしてくれない。ゆえに一般人の被害が出ないよう、介入する必要があるのだ。
「取り得る作戦は大きく分けて二種類です。よーく聞いててくださいね!」
プランA。忍軍同士を戦わせ、疲弊した所を叩く。この場合は二軍の戦闘の影響が周りに広がりやすいため、避難誘導などの対応が必要になる。さらに、呉越同舟となった敵は協力してケルベロスに敵対してくる為、戦いを長引かせて敵を疲弊させる工夫が無ければ、かえって戦況は不利になってしまうかもしれない。
プランB。即座に両者の戦いに割って入り、敵を連携させないように片方の忍軍を撃破し、返す刀でもう片方の忍軍を撃破する。
戦いに早期から介入する事で、周囲の被害を最低限に抑える事ができるが……敵は無傷のグループが二つ。戦力的に厳しい分、忍軍同士に協力されないような工夫が必要になるだろう。
「現場は文京区にある高級ホテルの『庭園』です。ホテルを含めて周辺に避難指示は出ていますが、敵がその中だけで戦い続ける保証はありません! 注意してください!」
今回この場所でぶつかる事になるは、月華衆と白影衆の二つ。両者とも螺旋忍軍であり、螺旋忍者のグラビティを使用してくるほか、月華衆は手裏剣を、白影衆は日本刀を使用してくる。
「装束が黒いのが月華衆、白いのが白影衆です。わかりやすい!!」
そして、この両者が大きく違うのはその『目的』だ。何者かの捜索をメインに据えている月華衆に対し、白影衆は螺旋忍者の殲滅を主軸としている。
目的のためには手段を選ばない螺旋忍軍だ。目的の内容からして最終的にこの二軍が潰し合うことは確定しているが、最終目標の相違は『二軍の交渉の余地』ともなり得る。
吉と出るか、凶と出るかはケルベロス次第か。
また、螺旋忍軍が争う理由が気になるところだが……戦場に現れる者は恐らく末端。その上、情報工作の得意な螺旋忍軍である。情報を知らない、噓を言う、偽の情報を握らされている……などなど、危険性は腐るほどある。口で情報を得るのはやめておいた方がいいだろう。
「戦場はお値段的に『お高い場所』ですが、物的被害についてはヒールである程度なんとかなります! 皆さんは人的被害を抑える事に注力してください!」
最後にそう言い添えて、慧斗はケルベロス達を送り出した。
参加者 | |
---|---|
メルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283) |
キアラ・ノルベルト(天占屋・e02886) |
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036) |
ショー・ドッコイ(穴掘り系いけじじい・e09556) |
エルトナ・シュピルーイン(スタンドアロン・e15368) |
ウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596) |
成瀬・涙(死に損ない・e20411) |
片桐・与市(墨染・e26979) |
●白と黒
「ホテルに来てもディナーじゃなくて討伐仕事ときた。番犬てのはつらいねェ」
戦場となるホテルの庭園を目指しつつ、ウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)はそう呟いた。
「次来る時は仕事抜きじゃとええのぅ」
事前にある程度避難が進み、人の居なくなったホテルの様子を見て取り、ショー・ドッコイ(穴掘り系いけじじい・e09556)が頷く。
「しかし、喧嘩するなら自分達のところでやってくれんかのぅ」
「地球の外で潰し合ってくれりゃ、俺らの仕事も減るンですがね」
「せめて山の中やったらまだよかったのに、迷惑な話やね」
ウィリアムとキアラ・ノルベルト(天占屋・e02886)が口々に言い合う。予知によれば、月華衆と白影衆、ふたつの螺旋忍軍の派閥がこの先でぶつかり合うはずである。
「忍が表立って抗争とは……形無しだな」
「しかし、同種でそんなことをしている暇があるというのは何だか癇に障る話ですね」
片桐・与市(墨染・e26979)の言葉に、メルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283)が応じる。今回現れる派閥は二種類だが、別の場所でさらに多くの螺旋忍軍が動いているのは分かっている。その中で、地球側は言うなれば『巻き込まれた』状態だ、彼女の反応ももっともだろう。
「其程迄に価値が高い存在、か」
それを受け、与市が事の中心に考えを及ばせる。事態の余波でこの有様である。そこにはそれだけ重要なものがあると思われるが。
「易々と渡す訳には行かぬな」
「とはいえ、当面の目標は市街地に敵を逃がさないことだね」
戦場が近いのを感じ取り、エルトナ・シュピルーイン(スタンドアロン・e15368)がそこへ視線を戻す。それに頷く成瀬・涙(死に損ない・e20411)に合わせ、彼のウイングキャット、スノーベルがみゃあと鳴いた。
ガラス張りの扉をくぐれば、そこは整えられた庭園。テラスを設えた洋風の場所から地続きで、日本庭園として作られた区画が見える。丁度その境目を挟み、黒と白が対峙していた。
●月喰らい
「月華衆、お主等にアレを渡すわけにはいかんな」
「白影衆だと? まさか、貴様等も……!」
それぞれに、抜刀し武器を構える。遭遇した螺旋忍軍が一触即発の空気を醸し出す中、口火を切ったのはしかし別の陣営だった。
「人の庭で、勝手なことしてんじゃねぇ!」
轟く音色は竜の咆哮。アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)の手でドラゴニックハンマーが火を噴き、砲弾を黒い影へと叩き込む。
「なっ……ケルベロスか!」
そしてどよめく螺旋忍軍の間に現れたキアラは、その片方のみを指さした。
「月華衆、君らまた暴れとって! 今度こそ堪忍せえ!」
「まーた月華衆かよ! オタクらのお陰で仕事が増えるんですけどねェ!」
続いて前線へ出たウィリアムが音を超える速度の拳で敵を弾き飛ばす。
対峙する二者に対し、ケルベロスの選び取ったのは早期の介入。だがそのまま両者を相手取るのでは分が悪い。それゆえに取った行動は……。
「ん? そっちの白いのもアレに迷惑してんの?」
「ならば目的は一緒だな」
ウィリアムの言にエルトナが付け足し、立場を明確に示す。
「……上弦の月の如く、……満ちろ」
その間に涙が杖を掲げ、降り注ぐ治癒の矢雨で味方の戦力を補強。そして、キアラと同様に月華衆へと指を向けた。
「……?」
「ここは我々の縄張り、どういった用事でお越しですか、月華のシノビよ」
言葉を探すように小首を傾げた涙に合わせ、メルカダンテが噴射加速付きのハンマーの一撃を放ち、それを受け止めた相手へと問うた。
「言う必要があるか?」
対する回答は素っ気ないもの。突き放すようにそう言い、月華衆の一体が味方に分身を纏わせる。
「邪魔立てするなら、容赦はしない!」
次いで飛び来る手裏剣の雨。ケルベロス、そして白影衆を狙ったその間を潜り、与市もまた槍の雨を敵へと降らせた。
「……以前は散々盗みを働いてくれたそうだな。今度も、また探し物か?」
「だったらもう必要ないぜ。ここで忠誠心も、野心も、何もかも滅ぼしてやる」
問う与市に続いてアバンがそう宣告する。ここまでしっかりと示した態度に、白影衆もまた便乗し始めた。
「丁度良い。仕留めさせてもらうぞ、月華衆」
手にした刃を閃かせ、白い影もまた前へ。
手裏剣をメインの装備とした月華衆と、日本刀を得物とする白影衆、そしてケルベロス達。ぶつかり合う三者だが、劣勢になる者は、すぐに明らかになった。
「全開で叩き込んでやる……塵一つ残さねぇッ!」
乱舞する手裏剣の中を強引に突き進み、アバンがその手にした武器に指を這わせる。宿った力が空間に染みるように溢れ出し、それはすぐに光の本流へと姿を変えた。
撃滅の霊魂爆流。光が一体の月華衆を呑み込むのに合わせ、白影衆が切り込んでいく。
「おのれ、この数の差では……!」
先頭の一人がやられた事もあり、距離を詰められるのにつれて、月華衆がそれぞれに下がり始めた。
「……」
その動きは想定内。だが対応は必要だ。事前に定めた作戦の事もあり、与市が仲間へ視線を走らせる。戦況から目配せに応えたのは二人。
「――ああ、『戦場』はここだけにしよう」
「ったく、俺はとっとと終わらせてェんですがね」
敵の動きの頭を抑えるように、エルトナのガトリングが火を噴く。そしてウィリアムもまた別の一体の方へと駆け、虚を纏う刃を大仰に振るってみせた。
言うまでもなく、これらは牽制の意味合いが強い。戦場のコントロールこそが早期介入作戦の肝だ。
「――真髄を」
二人の塞いだ残りの一方向には、与市が音もなく迫る。突き込む一太刀もまた真っ直ぐに。そしてその刃には、麻痺毒が仕込まれている。
派手さは無いが、役割を確実に果たす。まさしく今の彼等の動きに沿った一撃が、敵の足を止めた。
「くっ、貴様……!」
月華衆がせめてもの反撃に出るのを見て取り、与市が翼を打ち振るう。攻撃を躱すための一瞬の飛翔、その白羽混じりの黒翼の下から、現れたのは漆黒の花を散りばめた白い髪。
「逃がさない」
そう、逃がしたその果てに起きる事、それを彼女は何よりも嫌う。メルカダンテの腕に伴ってナイフが踊り、追い詰められた月華衆の一人が血煙の中に倒れた。
激化する戦闘の中で、それが広がらないようバランスを取って抑え込む。準備してきた作戦の通り、ケルベロスによる戦場のコントロールは今のところ上手くいっている。
「……というか、上手くいきすぎかのう?」
状況を鑑みてショーが呟く。同士討ちは続いている。月華衆は勿論、螺旋忍軍総合で見れば戦力は急速に削れているのだ、白影衆側もそれを気にしてくる頃合いだろうか。
「こっちの回復は任せたって、あの人たちを!」
紙兵を味方の側に舞わせ、回復を施していたキアラが、ショーと、テレビウムのブラウン艦長へと呼び掛ける。
「承知したぞい」
ショーが癒しの詩を歌い上げる傍らで、ブラウン艦長、スペラ等の応援動画が流れ出す。
「あー……スゥ? それこの間の戦隊もの?」
「どこで覚えて来たんだブラウン艦長……?」
忍者ものも兼ねた番組のテーマソングに、キアラとエルトナが苦笑を浮かべる。その回復効果はケルベロスの他、白影衆にも向けられていた。続けて、涙のオラトリオヴェールもまた白影衆の傷を癒していき――。
「お主等、こちらにまで……?」
「じじいら、月華衆は敵なんでの。ちっと手を貸させてもらうぞい」
「……俺たちは、いい仲間」
そうだろう? と涙が目線で問う。それらにより、毒に喘いでいた彼等はケルベロスへの対応が後回しになっていく。
「来る、よ」
並び立つような位置での涙の言葉に、白影衆の注意が月華衆へと向いた。
覆る事の無かった戦力の差は、すぐに結果に表れる。ケルベロスと白影衆の攻撃に晒され、一体、また一体と、月華衆の忍は打ち倒されていった。
「さあ、諦めるが良い。アレは我等がいただくゆえ」
「ぬかせ、お前達の狙いは帝ではないだろう」
白刃を手にした白影衆の言葉に、追い詰められた月華衆が歯噛みしつつ応える。仮面の下の表情までは、読み取る事は出来ないが。
「……良い機会だろう? 滅ぶべきなのだ、お主等は」
『何かの探索』に注力している月華衆に対し、白影衆はそれを名目にしながら『螺旋忍軍の撃滅』のために動いていた。先に月華衆のみを狙うというケルベロス側の手は、この点を上手く突いていたと言うべきだろう。
「――ああ、全くその通りだ」
自ら螺旋忍軍でありながら、螺旋忍軍は滅ぶべきというその言葉に、アバンは小さく、そして吐き捨てるように同意する。
「貴殿らの任は、我らが継いで果たすとしよう。――徒花として、散り行け」
与市の槍が稲妻を描き、紫電を纏わせたアバンの一撃がそれを追う。そして二条の雷が、後列から引きずり出された最後の月華衆を貫いた。
●影を奪る
「白影衆……惜しいもんだな。お前等が螺旋忍軍じゃなかったら、俺も仲間に入れてほしい所だったぜ」
倒れた月華衆から視線を切って、次にアバンが銃口を向けたのは、白影衆の方だった。
言葉に混じる苦い感情は、憎い螺旋忍軍に同調している自らに対してのものか。だが先程までの、轡を並べるような状況に比べれば、それも幾分かましだろう。
「ほう、芝居は終わりと言いたいわけか?」
「敵は倒す。おまえたちもそうでしょう、白影の」
燻る復讐の火はメルカダンテの中にもある。その刃に、今更迷いは見られない。
「権謀も掌返しも忍の性。望み通りに滅して進ぜよう」
「ま、俺らは地球に仇なす奴らを倒すのが仕事なんで。悪く思うなよ」
与市が静かに、そしてウィリアムが軽い調子で戦いの再開を告げる。
「このまま帰れば見逃してやったものを……我等に刃を向けたこと、後悔するが良い」
それに対し、向き直った白影衆はそれぞれに日本刀をケルベロス達へと向けた。波打つ水面を描く斬撃に、月の弧を描く刃が重なる。
「まだいけるか、ショーじいさん?」
「当然じゃろ、この程度で音は上げんぞい」
怒涛の連続攻撃に、庇いに入ったショーと涙の後ろから、切り込んだウィリアムが愛用の打刀を抜き放つ。振り下ろされたそれは、横合いから飛び込んだ別の白影衆の刃に受け止められ、硬質な音色を響かせた。
「きつかったら素直に言うんよ?」
後方からキアラが気を込め、ショーの背を支える。
「……大丈夫」
こちらもスノーベルの羽ばたきに癒され、涙が仲間達に頷いて見せた。
月華衆と違い、白影衆は前衛を固めた防御寄りの陣形を敷いている。続けての戦闘となり、ケルベロス側の壁役の消耗は大きい。だが……。
「思想通り滅んじまえよ! 滅ぼしてやるから!」
「君達の抱える矛盾は、興味深くもあるけどね」
アバンの拳が先頭の一体を打ち据え、エルトナの喚んだ黒き太陽が敵前衛を闇で照らす。既に消耗している様子が見られるのは、敵もまた同じ事。
「畳み掛けよう」
「承知」
再度、与市の投じた槍が空中で枝分かれし、驟雨となって降り注いだ。戦いの終結は、程なく訪れるだろう。
攻撃手が突破のための布石を打つ間、疲弊した前衛を癒すべく、二体のテレビウムの応援動画がまたリピート再生される。何かやたら気に入ってしまったのか、流れるのはまた同じ曲だ。
「……何か別のにできませんかねェ?」
「んん? 何があかんの?」
調子が狂う、というようなウィリアムの申し出をキアラが笑顔のまま却下。一方「別にこのままで良いのにな」的な表情を浮かべつつ涙が気力を巡らせ、纏ったオーラで敵の斬撃を受け止める。
「……ッ」
「涙、離れろ」
揺れる喉元の地獄に声を投げかけ、メルカダンテが側面に回る。そして涙の後ろへの一歩に合わせて、手にしたナイフを敵の身に押し当てた。
「奇跡を殺せ、ルクスリア」
押し込められた理力と共に、切っ先が対象に潜り込み、貫き、抉り飛ばす。
「無駄口は要りません。働け」
「はいはい、っと」
たまらず下がった敵を追って、ウィリアムが再度斬りかかった。
「もうちょっと耐えるんじゃぞ、ヨッコイ」
身を挺して攻撃を庇うボクスドラゴンの後ろで、ショーが爆破スイッチを押す。敵前衛を牽制する爆発で、一拍の間が空いた。
「そろそろ突破できるんと違う?」
その隙に敵の様子を観察し、キアラが紙兵を撒きながら仲間達を促す。
「ああ、後一歩で突き崩せるだろう」
それに応じた与市は、先の投槍により混乱し、同士討ちが発生した場所目掛けて切り込んだ。
最速最短で突き込まれる槍に、さらに光を帯びた白刃が続く。
「Truth, the daughter of Time」
ウィリアムの放つ『幽き光』が刀を伝い、盾役を担う白影衆の一体を消し飛ばした。
一角が崩れる頃には他も同様に疲弊している。そのままの勢いで前衛を突破したケルベロス等は、敵を逃がすことなく追い詰めていった。
「終わりにしよう」
「こいつで決めてやる! スピリット・ストリィィィィム!」
エルトナの投げたバールが、アバンの放つ撃滅の霊魂爆流が、それぞれ後衛の白影衆を貫く。
「おのれ、ケルベロス。だが、これで……」
これで、螺旋忍軍は一人減った。そんな事を呟きながら、白影衆の一人は事切れた。
●勝ち残った者
月の華と白い影、番犬は目的通り、その両方を平らげた。
敵を仕留めてなお、裡に燻る暗いそれを抑えつつ、アバンが深く息を吐く。
事件解決の報に、ホテルのスタッフなど避難していた人々も戻ってきている。そちらから話を聞いて、キアラが第一報に相好を崩した。
「人的被害は無しかあ、良かったあ」
「何よりだ」
勝ち得た成果に、メルカダンテもまた内心胸を撫で下ろす。護るという役目は確かに果たせた。
「ああ、それと流れ弾による被害はなかったかな?」
そして「近くに文化財の展示施設があったか」と気を回すエルトナに、ホテル関係者や警察が情報を伝えていった。
話によれば、どこも目立った被害は無いという。……ただ一点、この庭園を除いての話だが。
「さて、じゃあ現場のヒールをしていこうかのー」
荒れた現場を見回し、ショーの言葉に涙がこくこくと頷く。一方で完全に休憩する体勢に入っていたウィリアムは、難儀そうに顔を顰めていた。
「潰し合うにしても、俺らに迷惑かけないで欲しいよなぁ」
そうは言うが、同様の事件はこの東京の各所で起こっていると聞く。
「……早急に、終息させたいものだな」
断ち切るべきは禍根の根本か。そちらに考えを巡らせて、与市はそう頷いた。
まだまだ調査が必要なものの、この場所での戦いは終結。穢れから守られた庭園は、また元に戻り、人々を楽しませることだろう。
「ところでスタッフさん、どないな風にヒールしたらええか教えたって……!」
きっと少しだけシャープで、ファンタジックな姿になって。
作者:つじ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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