動乱の兆し

作者:さわま

●暗躍するものたち
 何処とも知れぬ闇の中。女の螺旋忍軍が配下に新たな使命を授けていた。
「螺旋帝に連なる一族が東京都心に現れた。一刻も早く、その御身を我ら月華衆が保護せねばならない。お前達は江東区の探索を行い、どんな些細な情報でも報告せよ」
「はっ、このような地道な調査は我ら黒鋤組が得意とする所。お任せください」
 女の命に配下の螺旋忍軍が応える。
「既に他の螺旋忍軍も動いている事だろう。もし、他の忍軍と接触した場合、最優先でこれを撃破するのだ。他の忍軍に奪われるわけにはいかぬからな」
「御意」

 ほぼ同時刻。テング面の螺旋忍軍がカラス面の配下へと指令を下していた。
「よくぞ集まった、我がテング党の誇るシノビメイツの諸君。通信螺旋忍術において優秀なオテマエを収めたお前達こそ、次代の螺旋忍軍を支える星である。そのお前達を見込んで、江東区の捜索という重大任務を与える事とする」
 騒つく配下たちに、テング面の螺旋忍軍は更に言葉を続けた。
「今、東京都には『螺旋帝の一族』が御降臨なされておるのだ。我らテング党が他の忍軍に先駆けて、その御前に参じなければならぬ。他の忍軍どもを蹴散らし、『螺旋帝の一族』を見つけ出すのである!」

 闇の住人たちの交錯する思惑。
 戦いの時はすぐそこまで迫っていた。


「螺旋忍軍に動きがあった。東京都心で複数の螺旋忍軍組織が大規模な行動を起こしているようで、螺旋忍軍同士の戦闘に発展し始めているようだ」
 山田・ゴロウ(ドワーフのヘリオライダー・en0072)が集ったケルベロスに告げる。
「そして、江東区で2つの螺旋忍軍組織が衝突するという予知があった。螺旋忍軍同士が争うだけなら放置してもよいが、彼らの戦闘に巻き込まれ多数の死傷者が発生するとなればそうもいくまい。争う螺旋忍軍の撃破をお願いしたい」
 ゴロウがぺこりと頭を下げ、更に作戦の説明を続ける。
「作戦は2つ考えられる。1つは、衝突直後に戦闘に介入する作戦だ。この場合、2勢力の螺旋忍軍が連携してケルロベロスに挑むような事になれば勝ち目は薄い。しかし、状況的に螺旋忍軍側も貴殿らを利用して戦いを有利に進めようと画策するだろう。一方を優先して撃破し、返す刀でもう一方も撃破できるよう立ち回る必要がある」
 螺旋忍軍にとって他の螺旋忍軍組織はケルロベロスと同様の敵である。立ち回り方を誤らなければ敵が連携する状況も起こりにくいはずだ。
「もう1つの作戦は、螺旋忍軍同士が戦い疲弊した所で介入する方法だ。介入までのタイミングが遅ければ遅い程、敵は疲弊する事になる。しかし戦闘は周囲の被害をかえりみず、移動しながら行われる。戦いが長引けばやがて一般人に死傷者も出てしまう」
 犠牲者を考慮しないならばかなり有効な作戦である。死傷者が出ないようにするならば、そのタイミングを見極めて介入する事になる。戦闘と並行して行われる避難誘導がスムーズに行けば行くほど疲弊した状況で戦闘に持ち込めるだろう。
「この作戦を採用する場合、敵は状況を理解し、互いに協力して貴殿らに向かってくる」
 これが漁夫の利を狙ったケルロベロスの作戦である事はすぐにバレてしまう。従って生き残った敵全てを相手取らなければならないだろう。
「衝突は夜、港湾部の無人の倉庫で開始されるので、ここで介入するならば人払いは考慮しなくても大丈夫だろう。その後、次第に人気のある場所へと戦場が広がっていく事になる」
 周辺住人の事前の完全避難は敵に察知される可能性が高く難しい。敵の消耗を狙う作戦を採用するならば衝突開始後に素早く避難を行う工夫が必要だ。
「衝突する螺旋忍軍だが、1つは月華衆の黒鋤組。個々の技量は高く無いが、入念な下準備と高い調査能力を誇る。もう一方はテング党のシタッパ・テングズ。通信螺旋忍術の遣い手で、その実力は下っ端とはいえ侮れないものがあるようだ。個々の戦闘力はシタッパ・テングズの方が上だが、黒鋤組は数が多い」
 衝突時の人数は黒鋤組が6人、シタッパ・テングズが4人。全てを同時に相手取ればケルロベロスといえども勝ち目は薄い。

「螺旋忍軍が争う理由を知りたい所だが、戦場に現れる螺旋忍軍は重要な情報は持ってはいないだろう。今回の事件に関する情報収集は螺旋忍軍から話を聞き出そうとするよりも、後日彼らの動きを独自に調査する方が有効だろう」
 最後にケルロベロスたちに信頼の目を向けてゴロウが言った。


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
エニーケ・スコルーク(鎧装女武・e00486)
レーチカ・ヴォールコフ(リューボフジレーム・e00565)
アリエット・カノン(鎧装空挺猟兵・e04501)
一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)
伊・捌号(行九・e18390)
エヴェリーナ・パルシネン(蒼天に翔ける・e24675)

■リプレイ


「テング党、実在していたとは……まさしく『事実は小説よりも奇なり』よね」
 そう呟いたレーチカ・ヴォールコフ(リューボフジレーム・e00565)の手には、何やら怪しげな通信武術講座のテキストがあった。テキストの表紙にはデフォルメされたテング面のマスコットが印刷されていた。
「えぇ、社会のあらゆる場所にニンジャは潜み、悪辣な陰謀を巡らせているのです」
 エニーケ・スコルーク(鎧装女武・e00486)がレーチカに訳知り顔でうなずき、ハッと何かに気づく。
「そういえば私も急な入院で、GW中に計画していた旅行が中止になってしまいましたのよ。きっと螺旋忍軍の仕業に違いありませんわ。そう、そういう事にしましょう!」
「はー、ニンジャ許すまじ慈悲はない、っすねー」
 伊・捌号(行九・e18390)がチョコをポリポリしつつ、昂ぶるエニーケに相槌を打った。入院とニンジャ関係無くね? と、若干思わなくも無かったが、そんな事より来る途中で買ったチョコが美味しかった。口の中に広がる、くどくない優しい甘みとみずみずしい林檎のフレバーが心地よかった。帰りにもっと買っていこうと思った。
「そう……全ては螺旋忍軍の企みなのです」
 どこか遠い目をしたアリエット・カノン(鎧装空挺猟兵・e04501)が呟く。彼女の手にはクシャクシャに丸められた真っ白な紙が握られていた。
「ええ、ええ、そうです。ニンジャ滅ぶべしですわ!」
「へー、ニンジャ以下略、っすねー」
 エキサイトするエニーケに、捌号はチョコを頬張りやる気の無い相槌を打ち続ける。
「それはともかく、だ」
 コホンと咳払いをするエヴェリーナ・パルシネン(蒼天に翔ける・e24675)。
「螺旋帝に連なる一族とやらの騒ぎで無関係な人々に被害が及ぶのはいかん。みんな、今回の作戦は分かっているな?」
「イエッサー、です! 迷惑なニンジャには腕力で黙らせて、お面引き剥がしてご退場して頂きましょう」
「かっかっか此度の戦、最後に笑うのは我らがケルベロ忍軍でござる……なんちゃって!」
 一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)が元気に答える。レーチカも冗談交じりに頷いてみせた。
 と、彼女たちの会話を静かに見守っていたアルスフェイン・アグナタス(アケル・e32634)の目に、何やら硬い表情の鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)の姿が映った。
 何やら考え込み、心ここにあらずといった様子のヒノトの顔を、アルスフェインの相棒の水竜のメロが心配そうに覗き込む。
「……わあっ!?」
 メロに気付いたヒノトの身体がビクッと跳ね上がり、その肩に乗っていたヒノトのファミリアであるネズミのアカがチチッと驚きの声を上げた。
「何か気にかかる事でもあるのかい?」
 そばにやってきたアルスフェインにヒノトが慌てて首を振る。
「……いや、何でも無いんだ。心配をかけて悪かったな」
 どこか無理をして笑うヒノトに、アルスフェインは小さくため息をついた。


「ムムム、お前たちはテング党か!」
「そういう貴様らは月華衆。ここであったが百年目よ」
 倉庫の立ち並ぶ夜の埠頭で偶然鉢合わせた螺旋忍軍たち。一触即発の彼らの耳に海の波音に混じって澄んだ声が聞こえた。
「聖なる聖なる――」
 声に一同が振り向く。すると闇の中から両手を組んで祈りを捧げる黒いシスター服の少女と白い小竜が姿を現した。
「聖なるかな。十字なる竜よ、我が神の威光を示せ――『神聖たる十字に集いて咆えよ(セイント・クロスロアー)』」
 少女――捌号の祈りに応え、ボクスドラゴンのエイトが夜の闇をつんざくような破邪の咆哮を天へと轟かせる。
 それが戦いの始まりの合図となった。
「なっ!?」
 月華衆の黒脛組の頭上、漆黒の空から突如として無数の槍が雨のように降り注ぐ。たちまち混乱に陥ったニンジャたちを、槍を持った甲冑姿の戦乙女――エヴェリーナが上空から見下ろしていた。
「今だ、かかれ!」
 混乱する集団に巨大な薙刀を構えた馬の獣人騎士――エニーケが突入する。
「私のGWを台無しにした落とし前をつけさせていただきますわ!」
 異様な気迫で遮二無二に刃を振るうエニーケにたじろぐ黒脛組。その背後に音も無く忍びよった茜がニンジャの脳天めがけハンマーを振り下ろす。
「オラァッ、肉……ではありませんでした! 面おいてけ、です!」
 乱戦へと突入するエニーケと茜。彼女たちに続くべく、物陰から飛び出たヒノトもフードをひるがえし敵へと迫る。
「いくぜ、アカッ!」
 手にしたファミリアロッドの先端に火球が出現。大きく跳躍し、集団の中心へと飛び込んだヒノトが勢いよく火球を地面に叩きつける。刹那、破裂した火炎が周囲に広がり、夜の闇と敵をオレンジに染め上げていった。
「あれは、ケルベロスか? 何故ここに……」
 次々と黒脛組に襲いかかるケルベロスに、テング党のシタッパ・テングズの面々は困惑の色を浮かべていた。
「絶対に逃がさないわ――『螺旋幽導弾(サモナヴィジーニャ・スピラーリ)』!」
 散開し態勢を立て直そうとした黒脛組にレーチカが螺旋の弾丸を放つ。それを見たテングズの1人が驚きの声をあげた。
「ナニィ、あの技は!?」
「いや、所詮はケルベロスの使う紛いものよ。それよりも、だ」
 別の仲間がニヤリと意地の悪い笑みをもらす。
「彼奴らの狙いが何であれこれは好機。我らも黒脛組を叩くぞ」
 ケルベロスに便乗する形で、テングズも混乱する黒脛組へと狙いを定め攻撃を開始する。
「ガハハ、最後に笑うのは我らテング党よ!」
 高笑いを上げて戦いに加わるニンジャたちの姿を確認し、アルスフェインは心の中でホッと胸をなでおろす。
(「狙い通りといったところか。油断はできないが、まずは……」)
 こちらに向け反撃を繰り出す黒脛組に意識を集中させる。
 戦いはケルベロスたちの思惑通りに進んでいた。


 打ち込まれた刃に、水竜メロの淡い色合いの羽が鋭く舞った。傷ついた水竜は、しかし怯むこと無く涼しい瞳で次の斬撃をさっとかわしてみせた。
「咲き花は露と消え、恵む光を空へ残す――」
 聞き慣れた主の声に水竜は振り向く。こちらへと手を差し伸べるアルスフェインの掌の上で光の花弁がゆったりと渦を巻き、薄闇を照らしていた。
「これから紡ぐは花の歌。揺れし可憐を謳い詠う」
 掌から舞散った輝く花びらと優しい香りに包まれ、水竜は心地よさげに目を細める。淡く闇へと溶けていく光が水竜の傷を癒していった。
「多勢に無勢、このままでは……」
 黒脛組の1人が続く言葉を濁す。反撃は試みるものも、2倍以上の戦力差の前にひとりまたひとりと味方はやられていく。頭に撤退の二文字が浮かび、勝ち目の無い戦いを続けて犬死は御免とばかりに足が勝手に後ずさった。と、背中に何かがぶつかり、振り返る。
 なぜか目前に牙を剥き出しにした鮫の顎があった。
「あら? はしたないですね」
 アリエットがフフフと蠱惑的に微笑む。彼女の尻尾の先は鮫のような形状に変化し、その足元には頭を噛み砕かれ絶命した黒脛組の死体が転がっていた。
「こりゃ回復の必要はなさそうっすね」
 残る黒脛組は1人のみ。一方的な展開に回復役の捌号も攻撃へと転じようとした矢先、戦場の喧騒に混じって、笑い声が聞こえた。
「グハハ、かくなる上は黒脛組を始末し次第、返す刀でケルベロス共も血祭りだ!」
 勢い付き調子に乗っている様子のテングズに捌号が肩をすくめる。
「何つーか、分かりやすい連中っすね」
「ですが、そうは問屋が卸しません事よ!」
 同じく連中の会話を耳にしたエニーケが狙いを変更し、それまで不干渉であったテングズたちへと刃を一閃する。
「ヌォッ、何だと!?」
「こういう展開ぐらい想像できたでしょう? 長いのは天狗の鼻だけにしてくださいな!」
 突然の攻撃に驚く敵にエニーケがフフンと鼻息をはき出す。
 さらに間髪入れず3対の光の翼を激しく輝かせたエヴェリーナが突撃する。
「お前たちの命。ここで刈り取らせてもらおう」
 全身を光へと変換した光速の一撃にテングズの1人が吹き飛ぶ。
 テングズたちとケルベロスの間で戦端が開かれるのを見て、黒脛組の生き残りが地を這いつくばい戦場から逃げ出そうと試みる。
「どこへ行くつもり? 絶対に逃がしはしないわ」
 気がつけば逃げ道をふさぐように立ちはだかるレーチカとヒノトが前方にいた。
「いいからとっととお面置いてけよ、です!」
 後ろからは目をギラギラと血走らせた茜が迫る。その姿はまるで獲物を狩る肉食獣のようであった。
「オラァ! お面よこせ、です!」
「アイエエエ!」
 恐怖で喚き散らすニンジャに、良く分からないテンションで茜が襲いかかる。
「お面、ゲットだぜぇ! です!」
「無、無念……」
 ガクリと息絶えた黒脛組の後ろで、剥ぎ取ったお面を高々と掲げる茜の姿があった。


「心に剣と輝く勇気、そして私の想いをこの旗へ確かに込めます! 『ヴィクトリアフラッグ』!」
 エニーケが天向かって武器を掲げると、その長柄の先から光輝く旗が出現し、周囲の闇を明るく照らし出した。
「今ですわよ! 私に続きなさい!」
 光の旗を振り回し、怯むニンジャたちに突撃するエニーケに続き、ケルベロスたちは怒涛の攻撃を開始する。
「おのれッ、我らを利用したのか。この卑怯者共が!」
 攻め立てるケルベロスに気圧されテングズたちは毒突く。
「謀は忍びの常……っていうか、利用しようとしたのはお互い様でしょ!!」
 レーチカが螺旋のオーラを至近距離からニンジャの腹に叩き込む。
「お前たちもまさしく強敵(トモ)だった、ということで面おいてけよ、オラァ!」
「グハァ!? ニンジャの仮面を剥ぐとは何たる非道……」
 茜に飛びかかられ、テングズはお面を剥ぎ取られまいと必死に抵抗する。
 敵味方入り乱れての乱戦に、捌号は仲間たちへと目を配らせ支援を続けていた。と、そんな捌号の背後に回り込んだ敵が大きく武器を振りかぶる。
「残念でしたっすねー」
 とっさに捌号が身体をひねる。炎を纏った後ろ回し蹴りを叩き込まれ、テングズが宙に舞った。
「巨王ヒューゲル―――我が領域にて全てを圧し潰せ。『赤キ巨獣ノ咆哮』!!」
 赤いオーラを纏った茜が吠え猛ると、発生した力場が敵を地面に縛り付ける。そこにアリエットが攻撃を叩き込む。
「クソ、こんな筈では……」
 片膝をついたテングズの前にヒノトが姿を現す。テングズがキッと恨みのこもった視線を向けると、ヒノトは一瞬たじろぎを見せた。
 肩に乗ったネズミのアカがヒノトに向かってチチッと小さく鳴いた。
「……ああ、アカ、そうだよな」
 ロッドへと変化したアカがヒノトの手の中に収まる。
「悪く思わないでくれ――『フロイズフィジオール』!」
 ロッドから放たれた鋭い氷の塊がテングズの命を絶つ。ヒノトはそれに振り向く事なく、残りの敵へと向かっていった。
「あと少しだ。メロ、共にいこう」
 アルスフェインの放った魔法の弾丸が敵へと命中すると、間髪入れず水の魔力を纏ったメロの体当たりが直撃し、テングズは力なく地面に崩れ落ちた。
 もはや趨勢は決した。
 残り1人となったニンジャにエヴェリーナが一歩一歩近づいていった。
「戦乙女の鉄拳。食らうが良い!! 『hakkaa paalle!(タタキコロセ!)』」
 たじろぐニンジャの顔面に痛烈な右ストレートがめり込む。砕かれたお面の欠片がゆっくりと宙を舞った。そして大きく仰け反ったニンジャの身体がドシンと地面に沈み込み、やがて動かなくなった。
「私たちの完全勝利ね! みんなお疲れ様」
 スカートの埃をパンパンと払い、レーチカが満面の笑顔をみせた。


「コギトも、ゲットだぜ! です!」
 茜が地面に落ちていた手のひら大の宝石を高々と掲げる。それはテングズによってトドメを刺された黒脛組のコギトエルゴスムであった。
「ミッションコンプリート、です! オラァ!」
 間髪入れず地面にコギトエルゴスムを叩きつけると、甲高い音を立てて砕け散る。
「あの連中、本当の本当に下っぱだったようですわね」
「こちらも何もみつからなかったな」
 エニーケとエヴェリーナが顔を見合わせ肩をすくめた。戦闘後に何か手がかりが無いかと調べてみたがめぼしいものは無かった。
「ヒノト、少しいいか?」
 アルスフェインの声にヒノトが振り向く。ヒノトのどこか元気の無い表情に、やはりとアルスフェインは心の中でうなずいた。
「戦闘前から何か思いつめているようだったからな。何かあったのか?」
 とっさに「何でもない」と口から出かかったヒノトだったが、一度大きく首を振ると、ためらいがちに口を開いた。
「一人前のケルベロスになる為には、甘い考えは捨てなくちゃダメなんだよな……」
 今回の敵を利用した作戦に、ヒノトはどこか心の中で葛藤があった。そしてそう感じる自分の甘さにも自己嫌悪を感じていたのだ。
「ニンジャたちもウチらを利用しようとしてたし。そんな気に病まなくてもいいんじゃねーっすかね?」
 捌号があっけらかんと言ってのける。
「だけど、それじゃアイツらと同じって事だろ! 目的の為には手段を選ばないってのは……」
 責めるような口調になってしまい、慌ててヒノトが口をつぐむ。
「何が正しくて、何が間違いなのか。それは俺たちが答える事じゃないんだろうな」
 バツが悪そうにうつむいたヒノトにアルスフェインは穏やかな調子で続けた。
「だが、今回の連中はヒノトのように思い悩んだりはしない。それは確かだ」
「そうっすねー。ヒノトさんは連中とは全く違う人種っすよ」
 顔を上げたヒノトが目をパチクリさせるのを見て、捌号がニヤリと笑った。

「ねぇ、みんなはお腹が空いていたりしないかしら。何か食べていかない?」
「お面じゃ肉の代わりにならないですからねー。大賛成、です!」
「それは良い考えだ。かくいう私も先ほどからお腹と背中がくっつきそうでな……」
 レーチカの提案に茜とエヴェリーナが激しく賛同を示す。他の仲間たちも同じように頷いてみせた。
「それじゃ、祝勝会といきましょうか!」
 賑やかな声が夜の埠頭から遠ざかっていった。

作者:さわま 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。