白銀の星屑

作者:犬塚ひなこ

●流れ星は堕ちる
 夜空に輝く星の波間に一筋の光が流れる。
 其処から零れ落ちる銀色のひかりはまるで雪のように、きらきらと丘に降り注いだ。やがて流星はひとつ、またひとつと増えて空を光に染めてゆく。
「わあ、星屑の欠片……流星群だ!」
 綺麗、と星空を眺めていた少女は呟く。流星は次々と空を舞い彼方に降りそそいでいった。暫しその光景を見つめていた彼女はふと違和感を覚える。
 あれ? と首を傾げた少女は流星のひとつが逸れたことに気付く。
 みるみるうちに星屑は丘に向かって燃えながら近付いて来た。しかも星屑には怖い顔がついていて瞳が此方を睨んでいる。驚きで逃げることも出来ず、少女は空を裂く光に怯えて悲鳴をあげる。

 ――次の瞬間、少女はベッドの上で飛び起きた。
「何だ、夢だったんだ……良かったあ」
 星屑が迫ってきた光景が現実ではなかったと知った少女は安堵を覚える。だが、その背後には夢よりも恐ろしい存在が迫っていた。ふふ、という不思議な笑い声が聞こえたと思った刹那、少女の胸が魔女ケリュネイアの魔鍵に貫かれる。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
「……え?」
 何が起こったか理解する間もなく少女は倒れ込む。
 やがて魔女は部屋から去り、ベッドの傍から具現化したドリームイーターが窓辺から飛び立つ。その姿は少女の夢の通り、恐ろしい顔をした星屑の姿をしていた。

●銀の星
 流星群から逸れた星屑が落ちてくる夢の驚きが魔女に奪われ、現実になった。
 シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)は自らが予見し、ヘリオライダーが予知した事件について語る。
「驚きを奪った魔女は既に姿を消しているようですが、奪われた『驚き』を元にして現実化した星屑型の夢喰いが事件を起こそうとしているようです」
 このままでは少女が目を覚ませないままなうえ、窓から飛び出したドリームイーターが誰かを襲ってしまうだろう。協力して欲しいと告げ、シィラは仲間達を見つめた。
 今回の敵は一体。
 その姿は大きな星屑。白銀の隕石めいた形をしており、其処に少しコミカルな顔がくっついている形だ。少女の夢から具現化したそれは現在、周囲の丘付近を彷徨っている。
「ドリームイーターは相手を驚かせたくて仕方がないようです。わたし達が付近を歩いているだけで向こうからやってきて、驚かせようとしてきます」
 その性質を利用すれば一般人の被害が出る前に戦いに持ち込むことが出来る。
 しかし、その際に気を付けなければいけないことがあるとシィラは告げた。それは出会い頭の驚かせにある。星屑ドリームイーターはきらきらと光る小さな銀の欠片を飛ばしてケルベロスを驚かすだろう。
「敵は自分の驚かせが通じなかった相手を優先的に狙ってきます。敢えて驚かないようにすれば攻撃の矛先を絞れるようです」
 後は全員で力を合わせて敵を倒せばいい。
 そうすれば夢喰いは消え、自宅で眠らされている少女も目を覚ます。シィラは灰色の瞳を瞬かせ、説明は以上だと締め括った。
「子供の無邪気な夢を奪ってドリームイーターを作るなんて……。銀の星屑はきっと綺麗ですが、何としても倒さないといけません」
 ドールじみた微笑を浮かべながらもシィラは決意を言葉にする。
 戦いの後に少しだけ星を眺めていってもいいかもしれない。そう告げたシィラは抱いていたテディベアをそっと見下ろし、白銀の睫を揺らして眼を閉じた。


参加者
クローチェ・ドール(愛迷スコルピオーネ・e01590)
スプーキー・ドリズル(ゴーストレイン・e01608)
クイン・アクター(喜劇の終わりを告げる者・e02291)
シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)
ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)
咲宮・春乃(星芒・e22063)
苑上・郁(糸遊・e29406)

■リプレイ

●落ちぬ流星
 春の夜空を見上げれば瞬く星が瞳に映る。
 涼やかな風が吹き抜ける夜の丘は今、夢喰いが彷徨う場所と化していた。
「きらきらお星さまにコミカル怖いお顔……何だかシュールなの」
 アウレリア・ドレヴァンツ(白夜・e26848)は振り仰いでいた空から視線を落とし、周囲の気配を探る。仲間達が持つ照明で周辺は照らせても、草の影や空の向こう側まで見通すことは出来ない。
「コミカルな顔が付いた隕石……想像するだけで何か恐ろしそうっすね!」
 ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)も警戒を行いながら、星の丘を見回した。遠目に見る流星はロマンがあるが、件の流星夢喰いはお断りしたい。
 その傍ではウイングキャットのみーちゃんを連れた咲宮・春乃(星芒・e22063)が夜空を眺めていた。
「おほしさまも、流れ星もすきだけど、悪戯なおほしさまにはお仕置きが必要かな?」
 これが全部片付いたら、みんなで星を見よう。
 そう誘った春乃に、クローチェ・ドール(愛迷スコルピオーネ・e01590)が頷く。
「そうだな、星見の前の準備運動にはいいのではないか。滑稽な相手とはいえ放置はできないからな……」
 そうして、クローチェが顔をあげたそのとき。
 スプーキー・ドリズル(ゴーストレイン・e01608)が何かに気付き、小声で囁いた。
「こうしていると夜のピクニックみたいだね。……あのお星様も散歩中かな?」
 見上げた上空には煌めく流星――ではなく、星屑のかたちをしたドリームイーターが降ってくる姿が見えた。それは物凄い勢いでケルベロス達の元を目指し、轟音を立てながら着地する。
「まあ、凄い光です」
「わ、目の前がちかちかしますね……流石お星さまなのです」
 シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)や苑上・郁(糸遊・e29406)をはじめとして、其々に驚きを見せるケルベロス達。だが、スプーキーとクローチェ、クイン・アクター(喜劇の終わりを告げる者・e02291)はまったく驚く様子を見せずに平然としていた。
「星に願いを~ってね♪」
 お邪魔虫が消えるコトを願ってあげる、と軽く笑ったクインは敵を見遣る。
 するとドリームイーターは彼等を睨み付け、驚かなかった三人に狙いを定めた。シィラは仲間達と目配せを交わし、作戦が上手く巡っていることを感じ取る。
「悪戯なお星様は懲らしめちゃいましょう」
 お願いします、と盾役の仲間に告げたシィラは自らもしかと身構えた。
 星屑の煌めきは美しいけれど、それが夢を穢すものならば滅するのみ。そして、星の丘の戦いは始まりを迎えた。

●星屑は煌めく
「お星さまお星さま、在るべき場所を違えていますよ」
 遠い空へお帰り下さい。どうか、貴方に願いを託したい人々の為にも――。百日紅めいた瞳に敵を映し、郁は呼び掛ける。
 しかし夢喰いは此方の言葉を無視してクローチェ達に狙いを定めて小さな流星を放った。前衛に襲い掛かる光の軌跡は鋭く疾い。
 咄嗟にクインがアウレリアを庇い、スプーキーはその身を以て衝撃を受け止める。そして、クローチェは身を翻して反撃に移った。
「しかし無粋だな、夜空を見るには邪魔だというものだ。Buona notte」
 星を壊すなどというのは非常に心苦しいが、クローチェは電光石火の蹴りで敵を穿つ。僅かに相手が揺らいだ隙を狙い、シィラはアームドフォートを展開した。
「お星様、わたしのアトスと踊りましょう?」
 シィラの言の葉と共に主砲が一斉発射され、弾幕が敵を襲う。
 その間にザンニが体勢を整え、肩に止まっていた青い眼をした鴉に目配せを送る。すると鴉は鳥を模した形状の杖に変化した。
 よし、と口にしたザンニは仲間を見据え、杖を握り締めながら魔力を放つ。彼の力に呼応した紙兵が宙を舞い、仲間達の守護となった。
「今のうちにお願いするっす!」
「わかったよ。援護にまわるね」
 ザンニの呼び掛けに春乃が頷きを返し、みーちゃんも身構える。
 春乃が守護星座を地面に描くと守護の光が夜の暗闇を照らした。更に翼猫が清浄なる羽を広げて更なる加護を与えていく。
 アウレリアは仲間達から与えられる力を感じ、自らも攻勢に入った。
 敵に向けて駆ける彼女は愛刀である花月姫を抜き放ち、精神を集中させる。刀剣士らしく凛としたアウレリアの薄桃滲む白い髪が風に揺れた。刹那、振り上げた刃が示す先で爆発が巻き起こる。
 だが、敵は負けじと更なる攻撃を放ってくる。
 スプーキーは逸早く星屑の動きを察し、誘うようにして前に飛び出した。
「さあ、こっちだ。よく狙って来ておくれよ」
 されど彼もただ攻撃を誘発するだけではない。銃口を敵に向けたスプーキーが引鉄を引く。すると林檎飴を彷彿させる深紅の弾丸が解き放たれた。
 敵の綺羅星と紅い衝撃が交差し、血より鮮やかで煌めく彩が宙に散っていく。
 その隙を狙ったクインも身構えた。
「守るのが仕事だけど……でも、こ~んな防戦ばっかりじゃちょっぴり癪だな~」
 ということで、とクインは大罪の鎖を紡いでゆく。黒き雷を纏う一対の鎖は対象に絡み付くように迸った。
 仲間達の攻撃が効いていると感じ、郁達も追撃に走る。ユラ、と郁がその名を呼べば玉響が星空を映した応援動画を流して仲間の傷を癒した。そして、郁自身は思いきり地面を蹴って跳躍する。
 その連携と一閃は流星の如く、流れるような蹴撃が星屑を襲った。
「ふふ、お星さま、この星屑も煌いているでしょうか?」
 郁の問いかけに夢喰いは怒ったような動作を見せる。クローチェは冷ややかな眼差しで敵を見遣った後、ひといきに距離を詰めた。
「――riposa riposa stella」
 歌うように囁いたクローチェはナイフを振り下ろし、幾重もの斬撃を星屑に見舞う。そして彼は敵を蹴りあげることでくるりと身を翻した。
 アウレリアも攻撃手として敵に更なる一撃を与えに向かう。
「星屑は綺麗だけれど、お顔を見ると何かしら……何かしら……」
 不可思議な気分になりつつもアウレリアは夕花の力を解放した。瞼を閉じ、祈るように言の葉を囁けば開いた花弁が一斉に散る。周囲を茜色で覆い尽くした力は敵に大きな衝撃を与えた。
 されど、敵とてやられてばかりではない。
「おっと、もう一回来るみたいだよ~」
 クインが流星の到来を察知して仲間に呼び掛ける。クインは慌てることなく、敵の怖い顔に対抗するようにいつもの笑顔を浮かべたまま対応した。
 だが、クローチェやスプーキーは多少なりとも痛みを受けている。春乃はすぐに反応し、特に傷の深い仲間を癒そうと決めた。
「行くよ! おほしさまのパワーを、しっかり感じてねっ」
 春乃が細くしなやかな指先で仲間を示せばきらきらと光る星達が収束する。そうして、ゆっくりと息を吹きかけると光は流星のように仲間の元に降り注いだ。
 星燈の欠片のやさしい癒しを感じ、スプーキーは顔をあげる。
「どうやら僕はお茶目な天体と御縁が在るようだ」
 何処か嬉しそうに口にしたスプーキーは春乃に礼を告げた。彼が指したのは星燈のことでもあり、目の前の敵のことでもある。
 そして彼が星の煌めきを宿す一閃を放つと、郁も其処に続いた。
「あれがお茶目だと言えるまま、終わらせてしまいましょう」
 もし誰かが被害に遭えば笑い事では済まない。その為に自分達が来たのだと考え、郁は刃で月の軌跡を描いた。
 月光めいた光を反射した一閃は敵の体勢を打ち崩し、傾がせる。
 シィラは仲間が作った好機を見逃さず一気に接敵した。その瞳は揺らぐことなく自分と同じ銀の色を抱く星屑に向けられている。
「凍てつく星も綺麗でしょうか」
 その一言が紡がれた刹那、ほぼ零距離からの射撃がアトスから放たれた。
 流石っす、とザンニは仲間に賞賛を送る。そして彼は自分の得意な事で以て役割を果たそうと心に決め、掌を掲げる。
「そろそろ向こうも弱って来たみたいっすねぇ。負けないっすよ!」
 濃縮されたエネルギーが霧となって戦場を包み、皆を癒していった。
 ザンニが示した通り、星屑夢喰いの光も弱々しくなっている。仲間達はしかと意志と視線を交わしあい、終わりに向けての思いを強めた。

●終焉の星
 夢喰いの躰から銀の欠片が零れ落ち、淡い光となって消えていく。
 郁とシィラは星屑が崩れ始めたのだと察し、同じ思いを抱いたクローチェも掌の上で弄んでいたナイフをくるくると回した。終幕が近いのなら後は全力を賭すだけ。
「Fac me Cruce inebriari」
 薄く笑んだクローチェは銀の星に対し、敢えて黄金の星を繰り出そうと決めた。
 刹那、星屑を集めたような金の光が凝縮され、銃弾として撃ち放たれた。鮮やかな金の光は鮮烈な尾を引き、銀の星に突き刺さる。
 クインも其処に続き、再び鎖を紡いだ。
「キミのお顔見飽きちゃった。別に怖くもないし…」
 溜息を吐き、呆れ顔をみせたクインは敵の咎を責めるが如く、幾度も鎖を打ち付ける。悪しき夢が赦される時、それはただひとつ。その身が滅びた時だけ。
 スプーキーも紅の銃弾を放つべく、狙いを定めた。
 次は相殺されぬようにと素早く放った一撃は鮮烈な彩を広げ、星屑を固めて林檎飴のように絡め取る。しかし、スプーキーは相手が自分を狙っていると察した。
「おっと、またか。流石にこれは避けられないけれど……頼んだよ」
 痛みを覚悟した彼だったが、決して焦ってはいない。何故なら、受けた衝撃を癒してくれる可愛い子が居ると知っていたから。
「大丈夫だよ。痛いのなんて全部、取り払ってあげるから!」
 ね、とみーちゃんに語り掛けた春乃は相棒猫と一緒に背の翼を広げた。
 炎の色の羽は今までちゃんと広げることが出来なかった。けれど、だいすきな人が受け入れてくれた色だから今は平気。だから、と春乃が顕現させた極光は仲間をやさしく包み込んでいった。
 足りぬ分は玉響が動画を流して担い、仲間達をしっかりと支える。
 アウレリアは春乃達に頼もしさを覚え、口許を淡く緩めた。
 此処からが畳みかけるべき時だと感じたアウレリアは今一度、花を咲かせる。
「――夢も視ずに、眠って」
 花降る褥で、夢も視ずに。星に願うように告げた彼女が刃を降れば、狂いそうなほどに燃える赤が敵を包んだ。
 ザンニも今が攻撃に移るべき瞬間だと気付き、地面を蹴る。仲間が宿した赤に炎を重ねるように蹴りの一閃が敵を穿った。
「皆さん、今っすよ!」
 身を翻したザンニの声が戦場に響き、クローチェとスプーキーも頷く。後は頼んだよ、とクインが笑顔を向けるとシィラが行動で以て応えた。
「いきます。……わたしが、わたしで、在るために」
 一度だけ目を瞑り、すぐにひらいたシィラはひといきに敵に向かう。拳銃で薙ぎ、機関銃で撲ち、固定砲台で叩伏す。
 そして――さようなら、の挨拶は一斉射撃で。
 星屑が崩れ、大きく揺らいだ。シィラの一閃が致命傷になり、次が最後になると感じた郁は拳を握る。
 星を砕くのは少しだけ憚られた。だが、歪んだ夢を打ち砕くのが役目。
「空で輝く貴方を探してみますから、寂しくないですよ。だから、」
 ――お休みなさい、お星さま。
 静かな言の葉と共に郁の掌が星屑に触れる。そうして、戦いは終わりを迎えた。

●白銀の軌跡
 星屑が砕け散り、元の夢へと還ってゆく。
 煌めいた光の残滓を目で追い、スプーキーは戦いが終わったことを実感する。
 ザンニも安堵を抱いて住宅街の方を見つめた。きっと今頃、夢を奪われていた少女も自宅のベッドで目を覚まし、次は穏やかな眠りについているはずだ。
「じゃあ次は、みんなでおほしさまの観察!」
 春乃はみーちゃんを伴い、丘の上へと駆けていく。その後を玉響が追いかけ、郁やアウレリア、シィラ達もゆっくりと歩んでいった。
 そうして一行は暫し星見の時間に浸る。
 春の空に光る星は静かながらも、不思議なあたたかさが感じられた。
「星か、あぁ……静かに眺められるのはいい。たまには休むのも悪くはないな」
 出来れば家族にも見せたかったと思いを馳せながら、クローチェは丘のやわらかな緑の上に腰を下ろす。
 クインも仲間に倣い、群青と漆黒が入り混じる夜の色を眺めた。
「流れ星見えるカナ~? お願いゴトは……フフ、な~いしょ♪」
 もし星が流れたなら願うのは恋人との幸せ。二人だけの永遠。自分達以外は消えてしまえばいい、なんて思いは敢えて口にせずにクインは笑顔を浮かべていた。
 郁は其々に星を見る仲間に温かいお茶と砂糖菓子を差し出す。
 皆へ配るのは金平糖。これは甘い星屑だと郁が微笑むと、ザンニがその通りだと笑って受け取った。
「こういう丘の上だからこそ、流れ星が見つかると嬉しいっすよねぇ」
「そうだねぇ、眺めていればきっと見えるさ」
 ――皆の願いが叶うよう。それが僕の希。
 スプーキーはよく星を眺めた昔のことを思い返しながら夜空を見渡す。月と木星の共演に惹かれつつも出来れば皆が流星を見られるように、と目を凝らす。
 小さな光が見えるようにとアウレリアは照明を消し、辺りを暗くした。
「あ、小熊座」
 すると星座を見つけたシィラが、可愛い、と星を指でなぞる。よく見えるね、と微笑んだアウレリアが春乃に語り掛けた次の瞬間。
「流れ星はね、あたし、見付けるの得意だよ~! ほら!」
「……見て、流れ星!」
 二人が同時に流星を見つけ、仲間達も空に目を向けた。
 アウレリアの願い事は、皆が笑っていてくれますように。それから――倖せでありますように、ということ。
 シィラもそっと両手を重ね、仲間の願いが叶うようにと願った。
 祈るように願いを紡ぐシィラ達の横顔を見つめ、郁は皆がどんな思いを込めたのかと考える。どうしてだか空に消えゆく星の尾の余韻が少し寂しい。
 星との約束を果たそうと空を見上げるけれど、やはり見つけられなかった。
「あの、お星さまは……」
 郁がぽつりと呟いた言葉を聞き、春乃はそっと隣に座った。
「ひとりで見るのは、さみしいからね。誰かと一緒に見上げるおほしさまはきっと、すごくキレイに見えるよ。そうだよね」
 春乃の微笑みにはっとした郁は頷き、仲間と共に今一度空を振り仰いだ。
「そう、ですね。それに――」
 消えていった星の傍にも、たくさんの星々が居るから独りじゃない。良かった、と心からほっと笑んだ郁は星空へ手を伸ばした。
 クローチェとスプーキーは和やかな仲間達を眺め、クインも己の願いを星に祈る。
 シィラも皆の声を聴き、そっと目を閉じた。
 夢から生まれた白銀の星屑は砕けて散ってしまった。けれど瞼の裏には未だほんの少しだけ、流れる星の軌跡が光っているような気がした。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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