対決! 螺旋忍軍新宿の乱

作者:林雪

●魅咲忍軍vsテング党
『はーい、これで全員いるかな。じゃ指令を伝えるから、よく聞いて。なんとね『螺旋帝の一族』が都心部に出現したって情報が入ったの!』
 魅咲忍軍の指揮官、魅咲・冴が、集まって片膝を着いている4人の下級忍者の少女たちに向かってそう言い放った。螺旋忍軍の主星『スパイラス』で起きた政変に敗れ、落ち延びてきた螺旋帝一族を確保することが出来れば、この大事変への干渉力を得ることになる。
『この情報が本物なら、旗印として……うんまあとても凄いチャンス、的な?』
 ざわつく下級忍者たちが事態をイマイチ理解していないのを見て取って、話を切り上げる冴。
『とにかく、魅咲忍軍の総力をあげて捜索するわよ。あなた達は今すぐ新宿区に向かって『螺旋帝の一族』を草の根わけても探し出し、確保してきてちょうだいね!』
 やることはシンプル。御意、と頭を下げた少女たちに向かって冴が問いかける。
『あ、他の忍軍の捜索部隊に出会ったら……どうするんだった?』
 4人は一斉に顔を上げ、声を揃えて答えた。
『問答無用で皆殺し!』
『よくできました! それじゃ、いってらっしゃーい』
 そして、同じ頃。
『良くぞ集まった、我が精鋭達よ』
 テング党指揮官、マスター・テングが鍛え上げた両腕を組み、重々しく呼びかける。
 ザッ、と頭を低く下げるのは通信螺旋忍術教育、優秀修了者のシタッパ・テングズの皆さんである。
『お前達こそは、次代の螺旋忍軍を支える星である。その大切な次代を担うお前達にしか出来ぬ任務を与えよう! 心してきけい!』
 5人のテングズたちは鼻先を持ち上げ、面越しにマスターを見つめる。
『現在、東京都は新宿区内に『螺旋帝の一族』が御降臨なされておる。艱難辛苦に耐えておられるその御前に、我がテング党が最も早く参ぜねばならぬ。よいな、他の忍軍に絶対に先を越されるな!』
『御意、マスター・テング!』
『他の忍軍どもを蹴散らし、『螺旋帝の一族』を見つけ出すのである!』

●螺旋忍軍の乱
「都内での螺旋忍軍の動きが活発になってるみたいだ。螺旋忍軍の組織、ってのが複数確認されてるんだけど、どうやらそれが互いに争って戦闘にまで発展し始めてる」
 ヘリオライダーの安齋・光弦が状況を説明する。別に、デウスエクス同士が争うだけならばケルベロスが首をつっこむ必要もないのだが。
「何だか知らないけど、あいつら都心で戦うもんだから。街が壊されて一般人に被害が出るのは放っておけない。下手したら人的被害が出ちゃうからね。撃破を頼むよケルベロス」
 被害を最小に抑える方法として、まずこの両螺旋忍軍の戦いにケルベロスが最初から割って入り、螺旋忍軍同士が連携しないよう片方に協力する体で戦い片方を撃破、返す刀でそのまま味方していた螺旋忍軍をも撃破する、という作戦。ただしあからさまに双方を消耗させようという意図を敵に覚られてしまうと、やはりケルベロスを倒すべきだと判断されて疲弊していない螺旋忍軍二組を相手に戦わなくてはならなくなる。
 もうひとつは、双方の螺旋忍軍が戦いを始めてから暫し様子を見、双方が疲弊したところを叩く、漁夫の利作戦。ただしこれは戦いに介入するタイミングを見誤ると、市民に死傷者が出る可能性が高い。更には双方が不利を悟り、やはり敵対組織同士が結託してケルベロスに対抗してくる状況が予想されるため、戦いを長引かせて敵の疲弊を待つなどの工夫をしないと逆に不利を招く作戦となりかねない。
「僕としてはやっぱり一般の人の安全を考えて欲しいけど、実際戦うのは君たちだから慎重に考えて判断してね」

 敵が戦闘区域に選んだのは、新宿区。駅の出口を出たすぐの広場で、この時期の人通りは相当多い。
「現れる螺旋忍軍はまず『魅咲忍軍』の下級忍者が4人。魅咲・冴って女幹部の手下で、全員女の子らしい。団体戦に長けてて、逆に個別だとポンコツだとか……でも今回は彼女らをいちいち分断するような手間はかけられない。すばしっこく動き回って敵を攪乱、懐に飛び込んでの足技が主な攻撃だ。個体としては確かにそう強くないんだけど、集中狙いとかされると厄介かも」
 おだんご結びのタエ、おさげのチエ、編み込みのミエ、パーマのモエという名で全員似たような背格好、マスクで顔の半分が覆われているため個性は……髪型くらいしかない。体術自慢で、互いに庇い合って戦う等の連携を見せる。
「もう一方は『テング党』のシタッパ・テングズ5名。単純に数で考えるならこっちがひとり多いね。彼らは通信螺旋忍術教育でそのオテマエ……才能を認められた優秀な……通信教育? まあ、下っ端だね。螺旋手裏剣を使って遠距離から絡め手で敵を包囲していく戦法を取るらしい。毒を使うなんて話もあるから、その辺の対策は十分にね」
 こちらは個体名は特にない。隊列をしっかり組んで攻撃してくるようだ。
「一体どうしてニンジャ大戦が始まっちゃったのか、まだよくわかってないけど、彼ら下っ端を問い詰めたって何も出やしないだろうね。情報収集はこちらに任せて、素早い撃破を頼んだよ、ケルベロス」


参加者
レイ・フロム(白の魔法使い・e00680)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
上里・もも(遍く照らせ・e08616)
アドルフ・ペルシュロン(塞翁が馬・e18413)
ドラーオ・ワシカナ(栄枯盛衰歌龍エレジー・e19926)
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)
桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)

■リプレイ

●新宿騒乱
 グオォッ、とエンジン音が低く重なった。
「心配は要らないっす! どうか、落ち着いて行動して欲しいっす、自分らはケルベロスっす!」
 新宿東口駅前の人波が溢れて大混乱になる前に、と、大きく外側から包み込むようにライドキャリバーで走るのはアドルフ・ペルシュロン(塞翁が馬・e18413)とレイ・フロム(白の魔法使い・e00680)のふたり。線対称の位置を走っていたレイが、路地裏に逃げ込もうとする人を止めるべくスピードを上げた。
「そこの人、この辺りは危険だ。向こうの大通りルートを進んで逃げるんだ」
 予めルートを確認し、誘導計画を立てていても人数が多いので気は抜けない。上空からはドラーオ・ワシカナ(栄枯盛衰歌龍エレジー・e19926)が、カラオケで鍛えた美声を駆使し、めっちゃ通るいい声で避難誘導に当たる。
「あー、そうじゃそこの白線をそのまま真直ぐ進んで下されよぉお~! エト嬢ちゃん、あそこの一団をな、あっちで張りきっとる泰地殿のとこまで誘導じゃ」
 仲間の位置を把握しつつドラーオが的確に指示を飛ばし、それを汲んでレイがガストで反転し、アドルフはカブリオレから飛び降り、ケガ人がいないかどうかを確かめる。
 一方、普段は車の行き交う大通りの真ん中を占拠して睨み合う二組の螺旋忍軍、『魅咲忍軍』と『テング党』である。
『何用か小娘ども、さては!』
『出たわ、冴様の仰せのままに……問答無用で皆殺し!』
 テング面の男5人と、4人の少女螺旋忍軍、おだんご結びのタエ、おさげのチエ、編み込みのミエ、パーマのモエが一触即発状態。ここへケルベロスくノ一軍団が割り込み、魅咲忍軍との共闘を繰り広げようという作戦なのだ。
「新宿駅前で戦闘とかいい迷惑にもほどがあるっつーの……」
 桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)の本音はこれだが、実際に萌花が口にしたセリフはこうである。
「……やっと見つけた。ここで会ったからには決着をつけようか」
 思いつめたような表情で魅咲忍軍のタエの隣へ近づき、だが視線はテング党に向ける萌花。
『……新手か?』
 双方の螺旋忍軍がキョトンとしているところへ畳み掛けたのが鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)。その姿は丈の短い袷と帯のくノ一装束に足元は網タイツ、魅咲忍軍に合わせたかのような顔の下半分を覆うマスク。何より特徴的なのは、高い位置で結ったツインテールの髪型である。
「おっす! あちきの名は『ツインテの五六七』、そしてこいつは忍猫のマネギっす!」
『え、嘘! 忍猫初めてみた……』
 マンガのドロボーさん風味の唐草ほっかむりをさせられたウイングキャットのマネギに、魅咲忍軍たちは興味津々である。
「そして、アタシが『三つ編みの桃』だ。こっちは忍犬のスサノオ」
 シュタッと華麗な壁歩きから、五六七の反対側に駆け込んだのは上里・もも(遍く照らせ・e08616)だった。名乗りに合わせてたっぷりとした三つ編みを揺らし、服装は五六七のものと似たくノ一スタイルだ。
「来てくれたっすね、ももおねーさん!」
「待たせたね、ツインテ!」
 そう言ってハイタッチを交わす三つ編みとツインテも気になるし、忍犬忍猫も気になる。動揺しだした魅咲忍軍たちに声をかけたのは、これまたセクシーな忍装束に身を包んだ獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)である。
「私達、テング党を追ってここまで来たの。もしあなた達も奴らが標的なら、協力しない?」
『追って、来た……?』
「忍法浄霊眼!」
 突然そう叫んだももの声に、タエチエミエモエが一斉にビクウと跳ねあがる。
「この術は、そう、テング党に殺された我が友の秘儀……」
『こ……殺された?! アンタたちは一体……』
 パーマのモエが周囲の様子を恐る恐る見回すと、五六七は震えながら目頭を押さえ、銀子はそっと瞼を伏せ、萌花は眉を寄せて下唇を噛み、比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)はおにぎりをもぐもぐしていた。
『お、おにぎり食べてる……?』
 しれっとしている黄泉の様子を訝しんだおだんご結びのタエを、ももが力技で遮った。
「私たちとテング党との因縁が始まったのはあの雨の日……全ては我らが宝『蔵美亭知恵院』を奴らが奪った事より始まったのだ――……!」
 チエとタエとミエも、どうやら現れたケルベロスくノ一たちを『テング党を仇と狙うなんやかんや』だと思い始めたようだった。その様子を注意深く観察していた萌花が言った。
「ねぇ、キミたちもテング党の敵なら、この際ちょっと力貸してくれない?」
『て……テングどもは確かに私たちの敵だけど……』
「どうやら、女性陣はうまくやってるみたいだな」
 避難誘導をあらかた終え、レイがその様子に気を配る。異変があれば即駆けつけるつもりなのだ。
 突如倍増した敵に、勿論焦ったのはシタッパテングス。
『まずいぞ。このまま奴らが手を組むのはまずい』
 地味忍軍だが、それくらいは流石にわかるので、必死の説得を開始する。
『待たぬか小娘ども! 突如現れ手を貸すなどと、明らかに計略だとは思わぬか!』
 と、必死にケルベロスたちの怪しさを説きだした。
『恐らくこれは『駆虎呑狼の計』じゃ。曹操の策略ぞ!』
『……?』
「……?」
 声高にそう言い放ったが、残念ながらちょっと何言っているのかケルベロスくノ一にも魅咲忍軍にもわからなかった。
「あー、『三國志』じゃな……若いお嬢さんたちに振る話題ではなかったのぉ……っと、せやっ!」
 シタッパテングスが動いたそこへ、ビルの上で待機していたドラーオが束ねた矢を放った。矢はふたつの勢力の間の地面に激しく突き刺さる。
『なんだと?!』
「……ふふっお嬢さん方、怪我はないかの?」
 ナイスシルバァ~という謎の効果音が流れたかどうかは定かでないが、ドラーオが紳士的に登場。めっちゃどうでもいい情報だがおじいちゃんっ子だったチエはだいぶグラッときたらしい。
 レイがガストに合図を出して駆け寄り、戦闘態勢は整った。
 アドルフが壁になる位置までずいと前に出て、テング党どもに向かって訊ねた。
「先に聞いとくっすが、大人しく退く気は……?」
『笑止な、突如乱入した挙句怖気づくとは』
 じっと敵を見据えるうちに、アドルフの中には怒りが湧いてくる。今、目の前にいるのは『ニンジャ大戦』なんて付け火をしておいて、その火の後始末も焼け出される被害者のこともロクに考えてない大馬鹿野郎どもだ。絶対に許してはおけない。
『貴様らこそ、何故魅咲忍軍に加担する?! 何を企んでいるのだ!』
 いっちょ前に情報収集を試みてくるシタッパテングをドラーオが一喝した。
「味方するなら見目麗しいお嬢さんの方に決まっとろうが!」
 ゴォっと炎の吐息が見舞われた。ももが味方の守りを固めるべく金色に輝く果実を呼び出し、忍犬ことスサノオは口に咥えた剣で、一番前に出ているテングを斬りつけた。
 攻撃の片翼を担う黄泉がハンマーで派手に叩き伏せたのは、どうやらテング側の攻撃手だったようである。
『……ぬかったわ、許せ』
『なんのこれしき!』
『次こそは必ず拙者が守ろうぞ!』
 敵は攻撃役と盾役をきっちり分けてきているようで、盾役は全ての攻撃を自分が受ける! という気迫でやたら前に出てくる。しかし逆に言えばテング党の攻撃リズムは実に単調、数の有利と回復手段を持つケルベロスたちにとっては造作なく倒せる相手となった。
「……少し静かにしてもらおうか」
 レイがそう言って駆け抜けた跡には、まるで蜘蛛の巣のような白雷の網が張り巡らされ、テング党の足を止める。
『魅咲忍軍、おだんご結びのタエ、参る!』
『同じくおさげのチエ、参る!』
 すっかりケルベロスを信用したらしい魅咲忍軍たちは、積極的に前に出てテング党と戦った。結果、攻撃はケルベロスたちから彼女らへと逸れ、文字通りの大乱戦が繰り広げられた。周辺の避難は無事に済んでいるため、誰かが巻き込まれることはなかったが、アドルフとももは極力全体を見渡して、これ以上戦場が広がらぬようにと気を配りつつ戦う。
「こんな街中で戦闘しおって……身をもって償え!」
「召しませ、Sweet Temptation♪」
 萌花が小悪魔の紅い唇で囁く言葉はシタッパ・テングスを骨抜きにし、ドラーオが遠距離から確実に狙い撃つ。
『……無念……!』
 左右ふたりから守られていたはずの攻撃手が黄泉の斧の前に倒れ、その盾役も体力を削られ機動力である足を潰され、手裏剣をばら撒いていた最後のひとりはアドルフの獣の一撃で消え去った。
『……やった!』
 あまり実戦で勝ち慣れていないらしい魅咲忍軍たちが、肩で息をしながら歓喜の声を上げた。
「ありがとう、これで次の目的に向かえる……」
 銀子が編み込みのミエの肩をポンと叩きしおらしくそう言ったが、次の瞬間顔にはニヤリと凶悪な笑みが貼り付いているではないか。
「やったっすー! くノ一最高ー……からのォ!」
 五六七がはしゃぎ、おだんご結びのタエとハイタッチを決めた直後、ドボォ! と重たいボディーがタエの下っ腹に重たく食い込んだ。
『な、何だとぉ?!』
 驚愕するおさげのチエに、五六七が瞳孔かっぴらいた強烈な笑顔で宣戦布告。
「ハァッハー! 騙して悪いが! これも作戦のうちでねぇー!」
「なかなか楽しかったんだけど、あんたたちも野放しにはできないんだよね」
 萌花の表情が、先までのくノ一演技からいつものケルベロスへとごく自然に変わる。呼び方も「キミたち」から一気に『あんたたち』へと降格するドライな萌花である。
『き、貴様らの手は見切っているー!』
「だぁから! こっからは手もくそもないの、ガチの殴り合い!」
 狼狽えつつ凄むパーマのモエにももがそう言い返せば、銀子も畳み掛ける。
「キッツイ修行してきた私が、通信教育にも没個性にも負ける訳無いでしょ!」
 この煽り文句で、4人の顔色が変わった。
『ぼ、ぼ、没個性!!!』
『言ってはならぬことをー!』
 どうやらものすごく気にしていたらしい。
「すまんな、これも戦争なのじゃ」
 本当に済まなげな声を出しつつ、ドラーオが再度、前に出ているタエ、ミエ、チエに向かって炎を吐いた。
『こ、このぉ、卑怯者どもお』
「卑怯? 忍者が何言ってるんだか」
 当然の如く、銀子は厳しい。
「さぁやってやろう、五六七ちゃん!」
「ヘーイももおねーさん! あちき達の連携も見せてやるっす! おらおらー容赦しないっすよ!」
 ツインテから普段の呼び名へと変わったももの激励に嬉しそうな声を返し、五六七がランチャーからすごいトリモチ弾を放って敵の足を止めにかかる。
「……正直なところ、あまり女性を手にかけたくはないのだが」
 先は白、今度は黒い太陽の力を借りて同じく敵の機動力を奪いにかかりながら、レイが呟く。やることの手順としては先と同じなのだが、ごく一瞬でも共闘した相手かと思えば忍びない。尤もだからと言って、手加減はしない。
「火消しはする。……守るために」
 そこはアドルフも同じ気持ちであるし、テング党に対して抱いた怒りを等しく魅咲忍軍にも抱いている。だが、どこかでほんのちょっぴり胸が痛むのも事実だった。
 銀子が纏ったオウガメタルと共に放った強烈な一撃が、タエの顔面にまともに入る!
『ブベェ!』
「……あんたたちもさ、次生まれてくるときは忍者やめときなよ。多分向いてないから」
 ミニスカートから覗く、すんなりと伸びた形のいい脚に装着したガーターリング風のナイフホルダーからナイフを取り出し、萌花が淡々とそう告げた。
『うるさいっ、必殺編み込みシュート!』
 そんな技はない。だが、ミエが回転しながら放った蹴りは旋風を巻き起こしケルベロスたちを吹き飛ばそうとする。そうはさせじとガストとカブリオレが走り、忍猫忍犬コンビのマネギとスサノオも果敢に暴風に飛び込んでいく。巻き上がる瓦礫と粉塵をレイとアドルフが叩き落し、その間から跳び上がった黄泉が、構えた斧を振り下ろしてタエの肩を打ち据えんとしたところへ、モエが飛び込んで身代わりに攻撃を受ける。
『くぁあっ!』
『モエ! ごめん……』
 敵とは言え、未熟な少女の顔を見せられるとドラーオの胸中は複雑だ。その罪過を焼き払ってやるべく、歌を口にする。
「回れくるくる風車、ポトンと落ちるは地獄の炎。燃えよ尽きよ咎人よ。そなたは救いに満たされる……」
 全員前衛の総力戦、だが回復を持たない魅咲忍軍たちは既にケルベロスの射程から外れることは出来なかった。黄泉がミエを、五六七がチエを落とし、ドラーオがモエにとどめをさした。最後のひとりになっても逃げだしはしなかったモエの最後の火を消したのは、アドルフだった。
「……これで、しまいっす!」
『……!』
 悲鳴が聞こえなかったのは幸いだったかも知れない。超重量級の一撃により、戦いは終止符が打たれたのだった。

●螺旋の行方
「皆、お疲れ様だよ、無事に倒せてよかったね」
 黄泉が持参していたスポーツドリンクを仲間たちに配り、自分でも飲みながら言った。
「それにしても、螺旋忍軍がここまで必死に探す帝ってどんな存在なんだろうね」
「本当に、仲間同士で争うほどの価値がある物なのか……」
 レイも、ドリンクを受け取りながらそう呟いた。
 銀子がふう、と息を吐き、全身から緊張を解いた。面差しが少しだけ日頃の柔らかさを取り戻す。
「この迷惑な派閥争い、いつまで続くのかしら。まあ、早く終わらせるように動くだけね」
 戦いの行方はまだ知れず。ともあれ、新宿駅前の大惨事はケルベロスたちの活躍により防がれた。
「守れるものは守ったっす。自分はそれで満足っす……」
 アドルフがそれだけ言って、踵を返した。ドラーオがその背中を静かに見送る。
「……どうにも、のう」
 敵は敵、割り切って戦ってはいるもののどこか感傷的になってしまうのは、彼らが皆戦いの痛みを知っていればこそだろう。
「はぁ……帰ってカラオケじゃ」
 そう呟いて己も帰路につこうとするドラーオ。その言葉を受けた萌花が、傍にいたももに訊ねた。
「あたしたちも寄ってく?」
「カラオケ?! いいねぇ」
 パッと表情を明るくし、五六七も声をあげた。
「あーあちきも! ももおねーさん、あちきも行く!」
 ウオオわしも行きたいめっちゃ一緒に行きたい、と思いつつ奥方の姿がフゥッと脳裏に浮かび、そっと目を伏せて諦めるドラーオ。ともあれ、少女たちの明るさはいつでも戦いのほろ苦さを少しだけ薄めてくれるものなのだった。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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