駅の前、攻めと守りのせめぐ時

作者:譲葉慧

●潜む者たち
 折からの激しい雨風が、地へと叩きつけられている。山際にひっそりと建つ小さなお堂も例外ではない。
 破れ打ち捨てられた風情のお堂の中からは、ぼんやりと灯が見えるが、この荒天の中、怪しんだ人が近づくことはないだろう。良からぬ者が身を潜めるには丁度よい塩梅だ。
 中では細い灯の下、少女達が集っていた。皆一様に背は高からず低からずで整った顔立ちをしている。しかし、恵まれた容姿なのに、一見ではどうもそれを感じ取れない。
 華のない少女たちの中で一人だけはっきりと美少女と言える娘が、頃合いと見たのか少女たちへと語りかけた。
「皆集まったところで、任務のお話だよ。今、東京都心部に螺旋帝の一族が潜んでいるんだって。魅咲忍軍としては、これは逃せないチャンスだと思うんだ。あなた達は江東区に向かって。ここで一花咲かせれば、トップ忍軍も夢じゃない。頑張って探してきてね!」
 指示が終わると同時に少女たちは動き出す。お堂の灯りが消え、中から幾つもの影が東京都心へと向けて走り去った。

 時を同じくして、別の場所でも同様の密談が交わされていた。
 窓の一つもないその部屋は、どうやら地下のようだった。バーカウンターと数組のボックス席だけの小さな酒場の風情だ。
 席をみっしりと埋めつくしているのは中年に差し掛かる程の男性……いや、おそらく当人たちの装いからして、男性扱いすると憤りそうだ。
 彼らのドレスと壁のネオンの色彩は、視覚へと強烈に訴えかけてくる。その色彩の渦に、遅れてやって来た一人分が加わったところで、カウンター内にいた酒場の主っぽい一人が、部屋内を見渡した。
「やっと皆揃ったわね。とてもいいお仕事の話だから、あなた達よーく聴いてちょうだいな。螺旋帝っているじゃない? その一族が東京に現れたのよ。身柄を確保できれば、真理華道の名が忍軍全体に響き渡るというものだわ。あなた達、江東区へ急いで。邪魔が入る前に確保よ! ……もし邪魔者がいたなら、解るわね、いつも通りぶちのめすのよ」

●ヘリポートにて
 螺旋忍軍の動きが東京都内で俄かに活発化している。複数の忍軍が都内各所で相争っているのだ。同族が争う事自体は螺旋忍軍でも珍しいことではないしケルベロスが止める謂れもないが、巻き添えになる人が出る以上は、介入せざるを得ない。
 マグダレーナ・ガーデルマン(赤鱗のヘリオライダー・en0242)も、この戦いの予知内容を携え、ヘリポートに立っていた。
「螺旋忍軍の小競り合いに介入する。昼頃に東京都江東区へ行ける者はいないか?」
 ヘリポートへやって来たケルベロスに、彼女はまず用件だけ切り出した。興味を持ったらしいケルベロス達に、続けて作戦の詳細を語る。
「場所は江東区、ある駅前だ。そこは木材の街で、商業地として発展しているな。戦闘など起これば、確実に巻き込まれる人が出る。人的被害を避けつつ、螺旋忍軍を撃破するのだ。少し戦法を考える必要があるぞ」
 そこでマグダレーナは鞄からプリントアウトした写真らしいものを何枚か取り出した。戦場となる駅の航空写真や、駅前の写真のようだ。それを掲げて見せた。
「この通り、駅の前敷地は戦いに充分な広さがある。ここで、2つの忍軍が鉢合わせし、戦闘となるのだが……奴らを一手に相手するとなると流石に荷が重い。そこで取り得る戦法としては、各個撃破か損耗を狙って叩くかだが、それぞれに注意点があるぞ」
 マグダレーナは一通りケルベロスが見終わったと見て写真を下ろすと、息を吐き、後を続ける。
「各個撃破だが、まず一方の忍軍に攻撃を集中させ倒してから、残りの忍軍を叩く。シンプルだが、忍軍同士を連携させてはならない。後に残す方には、敵の敵は取り敢えずの味方と思わせておくのだ。奴らは疑い深い。敵の敵はやはり敵、が当たり前なのだろう」
 この作戦は、忍軍の戦闘開始後直ぐに介入するので、彼らをケルベロスに引きつけることで人的被害を避けられそうだ。
「次に、損耗狙いだが……作戦上、ある程度の時間経過が必要となる。その間忍軍どもは駅前を好き放題暴れまわるから、避難救護について考えておかねば、人的被害が出るだろう。その数は時間経過と共に増えるはずだ。そして損耗した忍軍はケルベロスに対し、共同して対抗して来る。そうしなければ勝てないからな」
 忍軍の損耗狙いが長引けば、人的被害が出やすくなるようだ。ケルベロスの思惑に気づかれる確率も上がってゆくだろう。
 取る戦法は任意だ、と選択をケルベロス達に委ね、次はマグダレーナは螺旋忍軍達について語る。提示すべき資料は見つからなかったのか、手持ち無沙汰そうに赤鱗の手を腰に当てた。
「螺旋忍軍の片方は魅咲忍軍という。皆十代の少女の姿をしている。特徴と言えばそれ位か。集団戦闘を旨とするようで、全員で庇いあいながら戦う。見かけよりはしぶといだろうな。長期の消耗戦に持ち込むのが戦法のようだな」
 説明がケルベロス達に浸透するのを待ってから、マグダレーナはもう片方の螺旋忍軍について語り始めた。何故か腑に落ち無さそうな顔をしている。
「もう片方は真理華道という名を名乗っている。構成員は……三十代から四十代位の男だ。理由はよく解らんが、服装や髪形は女物、化粧までして言葉遣いも女のそれだ。が、間違えようもなく男だ。こちらは攻撃的でな。全員で近接して積極攻勢をかけてくる」
 どちらを先に落とすか検討する際に参考にしてくれと言い置き、マグダレーナは資料を鞄に仕舞いこんだ。
「突然の螺旋忍軍同志の抗争には、必ず何かの理由があるだろう。しかし予知した限り、どうも今回交戦する相手は下級戦闘員のようでな。尋ねても得る物はなさそうだ。戦闘に専念してくれ。真相は戻ってから腰を据えて情報収集する方が良さそうだ」


参加者
スレイン・フォード(ロジカルマグス・e00886)
大粟・還(クッキーの人・e02487)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
灯紀・玖魂(拙い咄・e26307)
黛・朔太郎(みちゆくひと・e32035)
一比古・アヤメ(信じる者の幸福・e36948)

■リプレイ


 いきなりの爆音が、駅前を揺るがせた。あまりの衝撃に停車中のバスが小さく跳ね上がる。歩道では幾人もの人が転んでいた。爆音の余韻がまだ微かに残っていたが、それを貫くように巻き込まれた人達の悲鳴が駅前に響き渡る。
 何が起こったのか解らないまま、人々は駅の外側へてんでに逃げ出した。その行く手に次々と爆発が起こる。しかし、何故か逃げる人達は巻き込まれていない。狙いがいい加減なのか、それとも狙う対象は別にいるのか……?
 その理由は、煙の中から走り出た4つの人影によって、あっさりと判明した。
「大層なお出迎えねぇ! おもてなしには、相応のお返しをして差し上げるのが、アタシ達真理華道の流儀。隠れても為にならないわよ。出ていらっしゃいな!」
 昼の駅前に不似合いなドレスを翻し、彼らは人間離れした脚力と恵まれた体躯で、爆発を強引に突っ切り駅へと走り込む。それは爆発を操る者達の居場所が見えているかのように、一切の躊躇いがない疾走であった。
 至近へと肉薄され、隠れるのは不可能と悟った爆発を操る者達は、駅の建物から姿を現した。涼やかな少女の声が、鋭く真理華道の男達を制する。
「同じ螺旋忍軍であるボク達を邪魔するの? ならばこの魅咲忍軍も容赦はせぬ……しないんだから!」
 どうやら慣れない言葉を使って話しているらしく、少女は、ぎこちなく台詞を言い直す。
 魅咲忍軍を名乗る彼女達も4人。相対しお互いの出方を探る彼ら彼女らの動きが止まり、街の人を恐慌に陥れていた爆発も止んだ。それを好機としたかのように、避難を促す声が駅前に響き渡る。どこか気だるげなその声は、駅の敷地から離れるようにと、繰り返している。ゆったりとした口調ながら、その言葉の一言一言には『従えば助かる』と人に確信させる力が込められていた。
 避難誘導の声の主、大粟・還(クッキーの人・e02487)は、次第に人の流れが整然としてゆく様を見守り、息を吐いた。避難方向を違える人を、ウイングキャットのるーさんがやんわりと避難の列へと戻している。
 列の先には、続々と到着した警察や消防が、避難した人を迎え入れ、救護を始めている。マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)の通報が功を奏したようだ。彼を初めとした仲間達は、この騒ぎの渦中で今螺旋忍軍と相対しているころだ。
 それにしても、忍軍……忍びとは、夜の街の底で暗躍とまではいかないにしても、密やかに活動するもののはずだが、こうも昼日中とは。
「忍者なんですから、忍びましょうよ……こんな場所で人まで巻き込んでくれちゃって」
 避難誘導の道筋は、もうすぐ出来上がる。既に仲間達は戦端を開いているはずだが、この様子なら還とるーさんも戦況が決する前に合流できるだろう。

 忍者なら忍者らしく、ひっそりと争ってもらいたい。螺旋忍軍二派に対峙したケルベロス側では、黛・朔太郎(みちゆくひと・e32035)が奇しくも還と同様のことを思っていた。
 予知通り、魅咲忍軍、真理華道共に4人ずつが確認できる。彼らはその場に現れた7人のケルベロスの出方を伺っているようだ。一応忍軍同士の攻撃の応酬はあるものの、牽制にとどまっている。ケルベロスが仕掛けてきたならば、共同して対抗する構えなのだろう。
 彼ら全てを排除するためにケルベロスのとり得る作戦は二つ。まず忍軍の片方と共闘し、然る後共闘した忍軍も葬る作戦。そしてもう一つは、忍軍同士を争わせるに任せ、消耗を待ってから潰す作戦。どちらの作戦にも利点と欠点があるが、ケルベロス達は、片方と共闘する作戦を執る事で全員の意見が一致していた。
 一先ずの共闘相手――魅咲忍軍に向けて、朔太郎は声をかけた。舞台で培った艶やかな声が、戦場の喧騒を割り、彼女達へと届く。
「一般人を脅威に晒しかねない彼らは、我々にとっても倒すべき存在。どうです? 今は利害を同じくする者として、共に闘いませんか?」
 デウスエクスの敵対者に他ならないケルベロスとの共闘。予期せぬ提案に、無機質なまでに整然と動いている魅咲忍軍達の瞳が、少し揺れた。彼女達は提案に関心を持った――その微かな反応をとらえ、灯紀・玖魂(拙い咄・e26307)はたたみかける。
「君達は損害少なく敵を倒せ、僕らは君達に加担する事で被害を防げる。winwinじゃあないか」
 目を細め笑顔を浮かべた玖魂は、少し大仰とも取れる所作で彼女達へと左腕を差し伸べた。腕の元の主である彼の師匠もまた螺旋忍軍の一人だ。幾派もの螺旋忍軍が相争う都内で師匠も動いているのだろうか。仲間を優しく迎え入れるようなポーズを取りつつ、玖魂の眼は彼女達を越えた遠くへと向いている。
 魅咲忍軍にとって、それは悪くない提案だった。共闘すれば、邪魔な真理華道を約3倍の戦力差で攻められる。しかし、応える暇を与えず、彼女達に真理華道の面々が、切り込んできた。彼らにとって、共闘などされてはたまったものではない。
 だが、目前に迫った刃は説得の一押しになるはずだ。カルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657)は、歯を見せてにっと笑った。
「まあ、それによ。美人の危機に駆けつけねぇとかそれこそケルベロスの名が廃るてもんだろ」
 魅咲忍軍の動きが、そこで牽制から攻撃へと転じた。彼女らの標的は真理華道だ。取り敢えずはケルベロス達の話に乗ることにしたようだ。そうマークは判断し、自らの精神を戦闘体勢へと切り替え、レーザードローンの展開準備動作に入る。
「SYSTEM COMBAT MODE」
 作戦の肝である交渉は成立をみた。以降一番巧く立ち回った者が戦場を制することになるだろう。それはケルベロスでなくてはならないのだった。


 マークの展開したドローンが、魅咲忍軍達の攻撃に被せるようにレーザーを放ち、攻撃威力を底上げする。魅咲忍軍達は彼の援護に一瞬だけ意外な顔をし、そのまま得物を振るった。
 スレイン・フォード(ロジカルマグス・e00886)は、ゾディアックソードの先端で地面をかるく突いた。ほの白く光る守護星座が足元に描き出され、禍を振り払う力を仲間達にもたらした。それに次いで、朔太郎が放った鋭く目を射る銀閃が、仲間の超感覚を目覚めさせる。
 共闘の交渉は通じたが、結局は螺旋忍軍全てを滅せねばならない。長丁場を生き抜くには、初動から積み上げた態勢固めが物を言うはずだった。魅咲忍軍も同様の戦術らしく、響き渡る爆音と目も綾な色鮮やかな爆風で、自分達の意気を上げている。一方で、真理華道は小細工は弄さぬとばかりに日本刀と己の掌で攻撃を仕掛けていた。
「アンタ達、中々嫌な動き方するじゃないのよ」
 フューリー・レッドライト(赤光・e33477)に、朔太郎を狙った掌底を受け止められ、真理華道の一人がケルベロスへとごちた。彼らは集中攻撃で確実に一人ずつ仕留めようとしているが、攻撃を通しやすいケルベロスの殆どは、彼らの刃の届かない場所取りをしている。そして届きそうかと思った相手は護りの態勢をとった仲間達に庇われるのだ。
 攻撃を受け止めた鉄塊剣『赤光』を、受けた力を載せたまま翻し、フューリーは真理華道へと攻撃を叩き込んだ。命中と共に火勢を増した炎が燃え移り、傷口の縁を舐めるように揺らめいている。
 その機をとらえた一比古・アヤメ(信じる者の幸福・e36948)は、翼を拡げ、光を集めた。ふわふわと掴みどころのない光の塊が収束し、幾筋もの光の筋となって真理華道の面々を貫いた。光それ自体は温度を持たないにも関わらず、彼らに纏わりつく炎や氷の勢いを増すのだ。
 そうして傷ついた真理華道の一人に圧倒的な手数の攻撃が集中する。彼は創痍を通り越し、あっという間に倒された。だが、残された彼らに動揺はないようだった。共闘が成立してしまった時点で、覚悟を決めたのだろう。そして、魅咲忍軍の方も情け容赦の一片もない。撤退という選択肢は双方ともに視野にないらしい。
 ドレスの袖をなびかせ、真理華道の剛腕に握られた日本刀が、魅咲忍軍を一挙に撫で斬った。恐るべき威力に耐え切れず、魅咲忍軍の一人が倒れる。庇いあい戦う彼女達の中で、一際多く仲間を庇い、傷ついていた一人だった。
「大丈夫~? ええっと、ポニテちゃん」
 玖魂は倒れた魅咲忍軍へ心配げな様子を装い、声をかけた。まあ、コギトエルゴスム化しても、どの道後で砕いてしまうだけなのだが、こちらの意図を覚られるのを遅らせるための、布石というわけだ。
「我らを構いつけずともよい。貴様……いや、キミ達は、アイツらを攻撃してくれる?」
 相変わらずぎこちない言葉遣いで返す彼女達の瞳は、台詞のアンバランスさに反して冷徹にケルベロスの動きを観ている。玖魂は、そこに欺き欺かれるのが常の螺旋忍軍の在り様を見た。ケルベロス同様、自分の攻撃の仕掛けやすい相手は彼女達にも見えている筈だ。彼女達を敵にした時、そこから突き崩しにかかってくることは解りきっている。
 ならば、それに備え傷つき陣の綻びには今のうちに修復を。真理華道の攻撃を受け、手傷を負ったマークを揺らめくオーラが包み込んだ。突き抜ける程の開放感と高揚感が、彼の身体を駆け巡り、活力を漲らせた。
「避難は、終わりました。……正念場はこれから、ですね?」
 真に自由たる者のオーラを操ったのは還だ。るーさんと共に戦線へと合流したのだ。損耗への本格的な対処が必要となる局面での戦力増強である。回復援護要員である彼女達の合流で、仲間達は攻撃へ専念できるというものだ。
「こいつを喰らいな!」
 カルナの声が、相争う者達以外、誰もいなくなった駅前に響く。声の方角――上へ向け、警戒態勢を取ろうとした真理華道の腕をすり抜け、カルナの足技が体躯へと全き威力で叩き込まれる。その圧倒的な一撃で、また一人葬り去った。
 丁度その時、魅咲忍軍達も最後の真理華道を仕留めたところだった。そして戦場に奇妙な沈黙が下りる。そう、未だここは戦場なのだ。ここに立つ者の誰一人、これで終わりなどと思ってはいなかった。
「騙してすまねぇが消えてもらうぜ。……恨み言は死んでからたっぷりしな」
 口火を切ったカルナの顔からは先程の気さくな笑顔は消え、今は酷薄そのものの表情を浮かべている。その言葉を聞いても、3人の魅咲忍軍は驚いた様子はない。この状況も初めから織り込み済みだったということだろう。
「ゴメンね! ……まあ、好き勝手暴れたんだし、こうなる事くらい予想してたでしょ?」
 距離を詰め、魅咲忍軍に仕掛けるアヤメの動きが、戦闘再開の皮切りとなった。空を切って放たれる拳の圧が、鮮やかな爆発で高めていた彼女の意気をも吹き飛ばし攻撃力を削ぐ。
 彼女へ集中する反撃を、張り付く薄氷をものともせずにスレインが受け止める。
「お前達は人々を危険に晒した。私達の介入を許す口実を作った方が悪いのだ」
「とんだ正義の味方様だな……だが、真理華道を倒す役には立った。後は退場してもらうとしよう」
 彼女達はもう言葉を装う気もないようだった。かちりと爆破スイッチが押され、派手に巻き起こる爆音が、また魅咲忍軍達の力を高める。緒戦から高め続けた彼女らの力は、侮れないものとなっていた。スレインは彼女達の足元を狙い、地面すれすれの水平回し蹴りで態勢を崩しにかかる。玖魂もまた、身にまとうブラックスライムを差し向けた。思うさま纏わりつき貪るブラックスライムは彼女達のテンションを更に下げる。
 その間、マークは当初魅咲忍軍を支援させたレーザードローンの支援対象情報を仲間へと更新し、攻撃支援をを開始させた。
 対して魅咲忍軍は可憐な見かけに反した狡猾さをちらつかせ、一点集中攻撃を仕掛けて来た。氷を纏う螺旋忍術が陽にきらめきながら飛び交う。その狙いはアヤメだった。一度命中した時点で彼女らに判ってしまったのだ。命中のさせやすさに加え、身に着けた服に、切り裂く氷の術を防ぐ力が無いことが。
 還とるーさんが都度、生命力を賦活するが、それにも限界があった。不幸中の幸いは、魅咲忍軍は戦闘不能者への追撃をせず、標的を大火力を誇るカルナへと変えたことだ。
 だが、ケルベロスとてそうそうデウスエクスの好き通りなどさせはしない。フューリーはガードの暇もないまでの上段蹴りを強かに魅咲忍軍に打ち付けた。次いでマークはアームドフォートの砲塔全ての照準を合わせ、幾度目かの斉射を行う。二人の攻撃は、相手の身体能力を鈍らせ、時に自在な動きを阻む。現に、反撃に移ろうとした彼女の身体は付いてこなかった。
 彼女達を縛るのはそれだけではない。舞の所作でまるで装束のようにオウガメタルを操り、朔太郎が戦場に再生した、レギオレイドの太陽の記憶、地球の太陽とは逆の滅びの黒光が、負の力となって彼女らへ重くのしかかる。螺旋忍軍の身上である身軽さを到底発揮できない程だ。
 そこまでの縛りを受けながら、魅咲忍軍は自らそれを払う術を持たない。そして、ケルベロスの強化術を破る術も持たない。その術を持っていたのは真理華道の方だったのだ。共闘するという考えは間違いではなかった。間違っていたのは組む相手だったのだ。
 仲間を倒され、ただ一人残された魅咲忍軍がそれを悟った時、終始平静であった表情に、初めて後悔とも取れる気配が混じった。
「詰めが甘かったな。もっとも君に教訓を生かす機会はもう無いが」
 惨殺ナイフの刃をスレインは庇うため腕だけで受け止めた。刺さったナイフを引き抜こうとした魅咲忍軍の脇腹に出来た隙へ、カルナのドラゴニックハンマーからの砲撃が至近距離から打ち込まれ、魅咲忍軍の命をあえなく散らした。
「何もかもが俺の知ってる忍者とは違った。何もかもが」
 倒れ伏す螺旋忍軍達を見下ろし、マークは深く息を吐く。彼の言葉の端々には失望の念がありありと滲み出ていた。


「ケッ、スッキリしねぇ仕事だったぜ」
 カルナは胸のもやもやを隠そうともせずごちた。人々を救護し、デウスエクスを倒す。任務は完遂したものの、欺瞞を重ねて得た勝利だ。
 静寂に沈む駅前を、人気が戻らないうちにと、還と朔太郎がヒールして修復している。ケルベロスが早期に介入したため、破壊の規模はさして大きくならずに済んだようだ。
 修復箇所は木造のような外見になっているが、木材の街としては、かえって良い感じの外観になったのかもしれない。
 戦いの痕跡を消し、全てが終わったことを警察に伝えると、直に規制が解除され、駅に人や車が戻って来る。ケルベロス達も、それぞれ自分の帰る場所へ戻っていった。
「あーあー、人生で二度も陣営を裏切るなんて、喜劇的だね」
 顔にいつもの笑顔を貼りつかせ、玖魂もまた雑踏に消えてゆく。螺旋忍軍の大戦は未だ始まったばかりだ。彼の喜劇はまだ続くのかもしれない。

作者:譲葉慧 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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