ツチノコの怪

作者:あかつき

●ツチノコ探索隊
「そして私は噂を聞きつけ、この山までやってきた……ここにツチノコが居るという! あの腹が横に太くて高くジャンプするというあの夢の生物、ツチノコだ!」
 彼は自分で回すビデオカメラに向かって熱く語りながら匍匐前進をする。そして、一度スイッチを切って息を吐いた。
「ふぅ……いやしかし、一人だと大変だ。昔は何人も居たのに、今や俺一人。なんたってみんな諦めていくんだ。古くは縄文時代から目撃例のある蛇なんだぞ? 居ないわけがないのに」
 かなり痩せた三十半ばの男性は、迷彩柄の帽子を直しながらぶつぶつ言う。
「しかし偶には酷い噂もあるからな……それに当たった奴は可哀想だが……。しかし今度こそ本物だ……今回こそ俺は、あの幻の蛇を捕まえる。なんたって目撃例が10件もあるんだから!」
「なるほど」
「そうそう……って、何?!」
 男性が突然聞こえた女性の声に立ち上がろうとした瞬間、その心臓を一突きされる。そのまま地面に倒れ臥す男性。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 そう言うのは、魔女アウゲイアス。そして彼女の横には、人間サイズで胴体がモザイクになっているツチノコが尻尾で器用に垂直に立ち、どうやってか知らないが鍵を持って舌をニョロニョロさせていた。

●ツチノコ?
「ウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)が危惧していた通り、ツチノコを探していた三十半ばの男性がドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が発生してしまったようだ」
 ヘリポートに集まったケルベロス達に、雪村・葵(ウェアライダーのヘリオライダー・en0249)が告げる。
「興味を奪ったドリームイーターは既にその場から去って居るが、奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型……いや、ツチノコ型ドリームイーターにより時間を引き起こそうとしているらしい。このツチノコ型ドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破してきてほしい」
 葵はケルベロス達に頭を下げた後、付け足す。
「また、このドリームイーターを倒す事ができれば、近くで倒れている男性も目を覚ますだろう」
 敵のドリームイーターは一体のみで、ポジションはクラッシャー。
 ドリームイーターは人間を見つけると『自分が何者であるか問う』ような行為をして、正しく対応しなければその相手を殺してしまう。また、このドリームイーターはツチノコの存在を信じていたり、噂をしている人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質があるので、上手く誘い出せば有利に戦う事ができる。
「ツチノコがいるかいないかは知らないが、善良な一般市民の平和な興味を使って人々を襲うというのはいただけないな。誰かが被害に会う前に、是非このドリームイーターを撃破してきてくれ」
 葵はそう締めくくった。


参加者
ゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)
津上・晶(錆びついた刃・e15908)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
詠沫・雫(海慈・e27940)
弐番堂・むささき(紫電の歯車・e31876)
ウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)
春夏秋冬・零日(その手には何も無く・e34692)
森・奈々(ラヴアンドピース・e36923)

■リプレイ

●ツチノコ探そうぜ!
 がさがさと草木をかき分け、8人のケルベロスは山道を歩く。
 エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)は周囲を見回し、一般人が居ない事を確認した後、口を開く。そこはこの鬱蒼とした山の中にあって、ぽかりとひらけた場所だった。
「どうも、この辺りでツチノコが出るらしいな」
 その言葉に頷いたのは、津上・晶(錆びついた刃・e15908)。
「そのようですね。噂、ではありますが」
 内心、いまだにツチノコを探して居る人がいるのか、と思いつつ。
「ツチノコって本当に存在するんでしょうか?」
 詠沫・雫(海慈・e27940)が首を傾げると、エメラルドが笑顔で返す。
「目撃例も多い。私は、個人的にツチノコという生き物がいるのでは無いかと信じているよ」
「ツチノコー! 俺も見て見たいな!」
 楽しそうに叫ぶのはゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)。
「もしかすると……すげー太った猫なのかもしれない! スコティッシュみたいに耳が折れてたらなお間違えそう! それならぴょーんとジャンプするのも納得できない?」
 身振り手振りを加えながら語るゼロアリエだが、横を歩くテレビウムのトレーネは全く相手にする様子はなく、寧ろ呆れたように溜息を吐く勢いだ。
「ツチノコ狩りか。誠に奇妙な相手じゃな。腕も腹も鳴るわい」
 じゅるりと生唾を飲み口元を拭いながら言うのは、春夏秋冬・零日(その手には何も無く・e34692)。ツチノコに会うのであれば、是非とも味を確かめてみたいところではあるが、それよりも作戦通りに動くのが第一。零日は精一杯、自制心を働かせた。
 その横で食欲を自制する事なく、バーベキューコンロに火を入れつつ目を爛々と輝かせるのは森・奈々(ラヴアンドピース・e36923)。
「ツチノコの肉は松茸みたいな味がするとかいう話もありますし、実はヒラメが地上に適応した姿とか言われてます。という事は、何にしろ焼けば美味しいとななもりは思うんです」
 食う気満々の奈々。しかし、実は奈々はベジタリアンだった。焼いたとして、食べるのは無理なので、ならば誰かに食べさせようと他のケルベロス達に目をやる。
「お世話になってる方がツチノコ見たいと言っていたので、捕まえたら持って帰りますからね! 森さん、食べちゃダメです!」
 奈々が目をやった先にいたのは、ウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)。焼く気満々の奈々に、ウエンはばたばたと左右に手を振った。
「ダメですか?」
「食べちゃダメかのう」
 こてんと首を傾げる奈々と、零日にウエンは叫ぶ。
「春夏秋冬さんも食べちゃダメです!」
「た、確かに中国などでは蛇を漢方などの食材に使うとは聞いたが……食べても大丈夫なのだろうか」
 その横で難しそうに首を傾げるのはエメラルド。どうやら本気で食べる事の是非について考えているらしい。
「多分美味しくないですよ」
 ツチノコに食欲を滾らせるケルベロス達に、晶が冷静にツッコミを入れた。
 その様子を静かに見守っていた弐番堂・むささき(紫電の歯車・e31876)が口を開く。
「未知との遭遇はどの生命体にとっても浪漫あふれるものなのでござろうな。小生も俄然、興味が出てきたでござる」
 そして、むささきは用意してきた釣竿を取り出した。
「小生、事前にツチノコの生態について調べてきたでござるが、酒やスルメの焼く匂いが好きと聞いたでござる」
 釣竿の先にはスルメ、日本酒の瓶は腰に引っかかっている。
「奇遇ですね。実は僕もそう聞いたので、こんなものを用意してきたんです」
 そう言ってウエンが取り出したのはスルメと味噌、七輪。
「…………ツマミのようじゃな」
 口元を拭いながら零日が呟く。酒と、ツマミ。これでツチノコが食べられればどんなに良いだろうか。そんな事を考えながら。
「なんだかおっさんくさいなと思ってしまったでござるよ」
 釣竿の先にぶら下げたスルメをぶんぶん振り回しながら、むささきが言うと、ウエンは無言で頷く。
「なんにせよ、ツチノコを捕まえるチャンスです。森さん、少しお借りできますか?」
「どうぞどうぞ」
 火をおこす時間を短縮する為に、奈々のバーベキューコンロの火を貰い、山火事に気を付けながら七輪で煙を起こす。
「小生のも使うでござるか?」
 尋ねるむささきに頷くのは零日。
「スルメは焼いた方が美味いのじゃ」
 その言葉に、むささきもスルメを手に七輪へ近づく。
「…………本当にこれで、現れるんでしょうか」
 スルメと煙で何やら物凄い様相を呈している森の中、晶は天を仰ぐ。
「出てきたら楽しいよねー! 世界の謎、っていうの? そういうの、あった方が楽しいじゃん!」
 楽しそうに七輪を覗き込むゼロアリエと、そんなゼロアリエを好きにすれば良いと言った感じで見つめるトレーネ。
「しかし、少し調べただけで地球の文献にはツチノコのように正体不明の怪生物が多く存在するようだ。デウスエクスと何か関係があるのだろうか……?」
「そうなんですか? 他にもたくさんいるんですね」
 真面目な顔で深く考え始めるエメラルド、感心したように手を叩く雫。
「そういえば髪の焼ける臭いも好きらしいでござるよ。…………ぐんじょうの毛でも大丈夫でござろうかな」
 自分の髪を焼くのはちょっと、と思ったむささきは、自身のサーヴァントであるぐんじょうに視線を向ける。
「…………シャー!!」
 主人の視線に身の危険を感じたぐんじょうは、毛を逆だたせて威嚇する。その貫禄のある体躯と相まって、かなりの迫力だ。
「さぁ見つけます、ツチノコ! 見つけます、人類の夢!」
 スルメを掲げ、ウエンが叫んだその瞬間。

●ツチノコらしきもの。
「あ、ツチノコだ!」
 ゼロアリエが指差すのは、ウエンの背後。
「わぁ……ぁ……、……なるほど。……そう来ましたか」
 ウエンは、わぁ来た! と振り向いたものの、その姿があまりに想像とかけ離れすぎていて、上がっていたテンションは急転直下。
 そこにいたのは尻尾で器用に立ち上がり、どうやってかは知らないが鍵を持ち舌をニョロニョロさせ胴体がモザイクに包まれた太めの人間サイズの蛇だった。
「ツチノコ……本当に出てきましたね……」
 呆気に取られたように呟くのは晶。
「聞く前に答えるなチー!!」
 怒ったように鍵を振り回し、ツチノコ型ドリームイーターは叫ぶ。
「気を取り直して……僕は何だと思うチー?!」
「ツチノコであろうな。少々でかいが、恐らく間違いないのぅ」
 食欲に滾った瞳でツチノコを見つめ、零日が言う。
「なるほど、ツチノコか。確かに文献や噂に聞く姿に相違はない……少々でかいが。探せば会えるものなのだな」
 感慨深そうに頷くのはエメラルド。
「ツチノコでござろう? 本当に居たでござるな。なるほどおっさんくさいでござる」
「おっさんじゃない!!」
 シャー、と舌をチロチロさせながらむささきに威嚇するツチノコ型ドリームイーター。
 その横では、ウエンががっくりと項垂れている。
「さては、妖怪ですね?」
 雫がツチノコ型ドリームイーターを指差し、答える。
「フハハハハ!! 間違えたチー!!」
 爬虫類然とした目を細め、心底楽しそうに笑うツチノコ型ドリームイーターは、ブンブンと尻尾と鍵を振り回す。
「あなたは今日の晩御飯です」
 その時、ツチノコ型ドリームイーターの耳に奈々の言葉が飛び込んだ。
「な……何ィ?」
「今日の晩御飯です」
 そして、奈々はバーベキューコンロに手を向けて、続ける。
「新しい寝床を用意しました」
 じゅるり、と口元を拭う奈々を見て、ツチノコ型ドリームイーターは怒りに打ち震える。
「バ……バカに……するなぁっ!! だチー!!!」
 振り上げた鍵を、奈々に振り下ろすツチノコ型ドリームイーター。
「あなたの正体はずばり!! 森のコウイカ!! です!! ……ちょっと大きいですけど!!」
 しかしツチノコ型ドリームイーターと奈々の間に、ウエンが飛び込む。
「イカじゃなぁあい!! チー!!!」
 ツチノコ型ドリームイーターの怒りを乗せた心を抉る鍵は、ウエンの身体を斬り裂いた。
「ウエン殿!!」
 崩れ落ちそうになるウエンの身体をむささきが支え、すぅっと息を吸い、そして歌う。
「研ぎ澄ませ、凍てつく感覚を呼び起こし、眼前へ向かう礎となれ」
 むささきの歌うChange(ヘンカクノウタ)はウエンの傷を癒し、そして他のケルベロス達の力となる。
「夢を壊すような輩は、許さんでござるよ!! ぐんじょうも頼むでござる!!」
 先ほどまで毛を狙われて怒っていたぐんじょうだが、戦闘になれば話は別。清浄の翼でむささきの治療を手伝う。
「すいません、ありがとうございました」
 自信を庇う形になったウエンに対し礼をしつつ、奈々はブレイジングバーストを放つ。炎はツチノコ型ドリームイーターを包む。
「正直、見た目はあんま迫力ないよねぇ? 油断も手加減もしないけどさ」
 ゼロアリエはそう言いながらドラゴニックハンマーを砲撃形態に変形させ、ツチノコ型ドリームイーターに狙いを定める。
「敵とはいえ、ツチノコが見られて嬉しかったよ」
 そう言いながら、轟竜砲を撃ち込んだ。
「よし、今だ!! ツチノコを殴れ!!」
 トレーネに叫ぶゼロアリエ。トレーネは手にした凶器を振り上げ、ツチノコを殴りつける。しかし、主人のことはあまり気にしていない様子。
「いつも通りだけど、冷たいね!!」
 少しだけ悲しそうなゼロアリエだが、やはりトレーネは気にかける様子は無かった。
「メルは回復を!」
 雫は自身のサーヴァントにそう声をかけ、自分は一歩踏み出し、歌う。
「水を起こす、詠」
 ティタンの長兄(オケアノス)により、仇なす者を縛る大蛇の水流が巻き起こる。
「チー!!!」
 自由を奪われるツチノコ型ドリームイーター。雫の横では、メルが清浄の翼を使っている。
「ツチノコとは言えドリームイーター、好きにさせるつもりはない!!」
 ツチノコ型ドリームイーターを見据え、エメラルドはジュデッカの刃を食らわせる。そこへ晶が拳を振り上げ、ツチノコ型ドリームイーターに肉薄した。
「行きますよ!」
 そう言って振り抜いた絶空斬はツチノコ型ドリームイーターの胴体に斬り裂く。
「ヂィ……!!」
 斬撃を受け、ツチノコ型ドリームイーターの舌がべろり、と力なくはみ出た。
「叩けば肉は柔らかくなるのか?」
 ツチノコを食べる夢を諦めきれない零日は、怪しい目つきで一気に距離を詰める。動きの鈍ったツチノコ型ドリームイーターに、大きく振りかぶり達人の一撃を食らわせていく。
「ふんっ、ふんっ!」
 狙うは腹。力一杯殴りつけるが、ツチノコ型ドリームイーターの肉は柔らかくなる訳がない。
「っ……そもそもツチノコは喋りません。鍵なんか持てません。あなたがツチノコだなんて、信じません!」
 ウエンは叫ぶ。そして、ルーンアックスを振り上げ、偽物のツチノコの頭目掛けて振り下ろす。
「ヂィイイイ!!!」
 ウエンの強烈な一撃を受け、ツチノコ型ドリームイーターは真っ二つになり、色々ぶちまけながら倒れ伏し、空気に解けるように霧散した。

●ツチノコよ、永遠に。
「うーん、あんまカワイくなかったなー……太ってる猫でも無かったし……どっちかっていうと、消化不良の蛇って感じだったなぁ……残念」
 ツチノコ型ドリームイーターが消えるのを見ていたゼロアリエが、ぽつりと呟く。
「冷やしてから焼くお肉もオツな物ですが……食べられなくて残念です」
 がっくりと肩を落とす奈々。その後ろで、零日ががっくりと膝から崩れ落ちた。
「儂のツチノコ初体験が……未知の世界が……」
 春夏秋冬・零日、31歳。ツチノコ初体験ならず。
「先日の河童の方が、夢がありました……」
 涙を堪えつつ、ウエンが零す。握った拳が震えているのは、きっと見間違えでも気のせいでも無い。
「未確認生物が安全なものであるという保証は無いので、危険なのもある意味浪漫通りのものでござろうが、あくまでそれは自然の中で発生するものでござる。意図的に作られるものではないでござるよ」
 うんうんと頷きつつ、むささきが悟ったように言う。
「一先ずはめでたしめでたし、ですね」
 ほっとしたように雫が言う。晶はそれに頷きながら、辺りを見回した。
「然程壊れてはいませんが、取り敢えずその辺りをヒールで治してしまいましょう」
 その言葉にケルベロス達は頷き、手早く地面の穴や折れた木々をヒールで治していく。
 それから彼らは、倒れている男性の元へ急ぐ。草に埋もれるように倒れている男性を、ゼロアリエが助け起こした。
「こんなトコで寝てると風邪引くよ」
 呼びかける声に、男性はぱちりと目を開けた。
「…………あれ? 俺、何を…………あっ、ツチノコ! ツチノコ見ませんでした?!」
 慌てて問いかける男性に、ゼロアリエはへらりと笑う。
「んー、見なかったな〜」
 その返事を聞くや否や、男性はがっくりとうな垂れた。
「そうですか……、漸く見つけたと思ったのに……」
「気を落とさずに。まだ、チャンスはあります」
 そう言って励ますのは、ウエン。
「僕も、今日は夢だけ持って帰ります」
 悔しそうに唇を噛みしめるウエンに、男性は何かのシンパシーを感じたらしく、だいぶ険しい顔で大きく頷いた。
「ええ……、ありがとうございます」
 そして、頭を下げながら夕日をバックに去っていく男性の背中を、ケルベロス達は見守る。その胸には、出来の悪い偽物のツチノコに対する落胆、本物のツチノコに対する浪漫溢れる夢や希望、それから味に対する探究心があったとか、無かったとか。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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