夜のオフィス街に位置するビルの屋上。人気の無いその場所には、人外の者達が人目を避けるように集っていた。
この場の中心となっている存在は、独特な意匠の着物とでも形容するべき衣服と身体の一部に纏う攻撃的な甲冑という出で立ちだ。そして何より目を引くのは、蝙蝠の羽のような装飾だろう。その顔は、螺旋模様の面に隠れている。
その人物の名は、螺旋忍軍の一派である月華衆に属する『機巧蝙蝠のお杏』。
お杏は眼前に佇む配下の者達へと端的な指示を下す。
「螺旋帝の一族の所在は、東京都であると判明した。他の何者よりも先んじて、我等月華衆が御身を保護せねばならない。お前達は、千代田区外神田を捜索せよ」
指示の後に、お杏は言うまでも無いがと付け加えた。
「これを阻む者は、あらゆる勢力、いかなる輩であろうとも容赦無用。抹殺せよ」
その言葉に従い、お杏の配下達は急ぎ行動を開始した。
他者の干渉を一切排したその空間は、異様な風体の者達が支配していた。
「東京都内で、いくつもの忍軍が活動しているようです。これは白影衆の力を示すまたと無い好機です。お前達は、活動中の忍軍と接触しこれを狩りなさい。螺旋忍軍悉く滅ぶべし」
全身を白の忍装束で覆い、さらに白い独特な面を被った白影衆『雪白・清廉』は、自身と同じような白忍装束の配下達へと命じる。
命を受けた配下達は、音も無くその場から去って行った。さながら、獲物を求める狩人の如く。
ようやく、ヘリポートで受ける風から厳しさが和らいでくる季節となった。
そんな時候の話もそこそこに、ヘリオライダーである静生・久穏はケルベロス達へと今回の招集の趣旨を語り始めた。
「東京都心部において、螺旋忍軍が活動を開始しました。その理由は不明ですが、非常に活発かつ大規模な様相です。ご存じのように螺旋忍軍は同種族同士の抗争が絶えない種族ですが、今回の活動もそうした異なる勢力間での争いが行われています」
デウスエクス同士が相争うだけならばむしろ好都合だと言えなくもないのだが、戦いの場が地球上の市街地となれば話は別だ。戦闘によって齎される被害は深刻なものとなることは、考えるまでもない。
「ですので、皆さんには螺旋忍軍同士の戦闘に割って入り、双方を撃破して頂きたいのです」
2つの勢力を撃破する。それは、簡単な事ではない。しかし、ケルベロスとしてデウスエクスを放置ことは許されない。
「正面から2勢力を相手にしては、皆さんでも勝つことはかなり困難です。ですので、相応の手段が必要になるでしょう」
久穏が提示した方法は、大まかに2つ。
1つはどちらか一方に味方する体裁で一方を撃破し、そのまま残った勢力を撃破する方法。
もう1つは、2勢力が互いに潰し合うのを待ってから、適当な頃合いを見計らって双方を討つという方法であった。
「ですが、どちらにせよ考慮するべき点があります」
久穏がそう注意を促したのは、下手をすれば大きな損害を被る可能性があるからだ。
一方に味方する方法は、巧い手段なり口実がなければ、怪しまれどちらもを敵に回してしまいかねない。その場合、消耗の無い2勢力を相手に戦わなければならない。ただし、2勢力が協調する訳ではなく三つ巴の戦闘となる。
双方の消耗を待つ方法は、周囲への被害を許してしまう事だ。建造物などは後でヒールを行えばいいだろうが、人命が失われたなら取返しがつかない。しかし、この場合は2勢力が窮地を脱するために一時協力する可能性が高いため、戦いを長引かせておかなければ十分な消耗を見込めない。
どちらの方法を採るにせよ、相応の工夫がなければ苦しい状況に追い込まれてしまうだろう。
「敵勢力ですが、一方は月華衆と呼ばれる勢力です。能力はやや低いですが、本来は下準備を整えて行動する堅実かつ慎重派のようです。人数は6人で、月下美人が彫り込まれた短刀や螺旋手裏剣を所持しているのが特徴です。もう一方は白い忍装束が特徴の、白影衆です。こちらの人数は4人で、日本刀と螺旋手裏剣で武装しています」
数では月華衆、質では白影衆が勝る。どちらも螺旋忍軍の能力と所持する武器を駆使して戦う。
戦力はほぼ拮抗しており、どちらが勝つかは分からない。
「この両者がぶつかる場所は、秋葉原駅前です。夜中なので人通りはほぼありませんが、それでも皆無ではありません。この点には十分注意して作戦を立ててください」
どう立ち回るかによって、大きく状況が変わる戦いとなる。物的損傷はまだしも人的被害は極力抑えなければならないと、厄介な任務となるが、ケルベロスにしか担えない重責である。
「突然活発になった螺旋忍軍の行動理由も気になるでしょうが、今は目の前の戦いに集中してください。戦闘中に敵から情報を引き出すことはまず不可能でしょうし、得られた情報があったとしてもそれが真正情報であるという保証もありませんから」
もしそうした情報を探るのであれば、この依頼をこなした後に調査を行うべきだろう。
事実、ケルベロスはこれまでもそうして少なくない成果を挙げて来たのだから。
参加者 | |
---|---|
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
竜ヶ峰・焔(焔翼の竜拳士・e08056) |
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046) |
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801) |
小鳥谷・善彦(明華の烏・e28399) |
御忌・禊(憂月・e33872) |
津雲・しらべ(きゅーきゅー・e35874) |
●螺旋激突
列車の運行も終了した深夜の秋葉原駅前。
そこに居合わせた者がいれば、その異様な光景を目にしただろう。
まるで漫画に登場する忍者といった風体の2つの集団が、相対しているという光景を。
この秋葉原という場所では、そうした扮装はそう珍しいものではないのかも知れない。或いは、もっと大胆であったり奇抜であったりする装いも見られるだろうか。
だが、この集団は中身が伴っている。漫画のような超常の能力を行使できる、本物なのだ。デウスエクスの一種、螺旋忍軍なのだから。
全くの偶然だが、秋葉原駅前のやや広い路地には、螺旋忍軍の2つの集団以外に人通りは無かった。その為、超常の力同士のぶつかり合いを目撃しているのは、今のところこの事態に対処するために駆け付けたケルベロス達だけだ。
「……まずいな、もう始まったぜ」
そう呟いた竜ヶ峰・焔(焔翼の竜拳士・e08056)は、物影に潜み戦いの推移を見守っている。
「思ったよりもずいぶん早いです。間に合わないかもなのです」
黒毛のウイングキャットを肩に乗せたヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)も、やや焦りが混じった口調で状況が芳しくないと零す。
黒い忍装束と白い忍装束の螺旋忍軍同士は、苛烈な攻防を繰り広げている。この両者を潰し合わせ、戦闘が決着する前にケルベロス達は介入し弱った双方を平らげる予定であった。その意味では、これは予定通りの状況だ。
しかし、ケルベロス達は螺旋忍軍が戦い始める前に、この場に一般人が紛れ込まないよう人払いの準備を行うつもりでもあった。
「そっちどーよ? 早く済ませて戻って来いよ、こっちはもう始めやがったぞ」
レプリカントである燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)が、この場にいない仲間達へとアイズフォンを用いて連絡を行う。
戦術面だけを考慮するなら、ケルベロス達は全員が揃った状態で居るべきであっただろう。しかし、それでは一般人がこの場に紛れこんでしまう可能性が高い。止むを得ず、当初の予定通りにメンバーの半数は一般人を巻き込まない為に行動したのだった。
「もう始まっテしまったか……。ここは危なイ、お前も逃げルぞ」
主だった通りに急ぎキープアウトテープを設置した君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)は、路地から顔を出した野良猫を優しく抱き上げた。視線を向ける秋葉原駅の方向からは、戦闘の轟音が響いている。
「……相変わらずの勢力争い……。変わりませんね、螺旋忍軍は……」
眸とは別方向の路地にキープアウトテープを張っていた御忌・禊(憂月・e33872)も、手早く作業を終え仲間達と合流するべく駆け出した。
「そういう事……なので……危ないから……ここから出ないように……ね」
途切れ途切れの口調で、津雲・しらべ(きゅーきゅー・e35874)は駅構内に残っていた職員に外の危険を伝え、ここから出ないよう言い含めた。
不幸中の幸いと言うのだろうか、外からは戦闘の破壊音が聞こえて来るため、説得は容易だった。
駅から正面に出ては螺旋忍軍の戦闘に鉢合わせしてしまうので、しらべは駅構内から戦況を観察する。
他のケルベロス達も、それぞれが螺旋忍軍の戦いを隠れながら監視できる位置に潜んでいた。この状況では一般人対策に動いていたメンバーは、合流しようとすればまず見付かってしまうだろう。動くべきタイミングを合わせるしかない。
「遅くなってすまない、避難誘導で戦闘に遅れちまったら元も子もないからな。しかし、仲間割れとは随分と余裕だな」
唯一合流できたのは、駅前路地を見下ろせる建物の屋上に静かに着地した小鳥谷・善彦(明華の烏・e28399)と、そこから戦況を監視していたティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)であった。
どうやら、数で勝る黒忍装束の月華衆黒鋤組は、実力で白忍装束の白影衆に劣っているようだ。当初は6対4であったが、1人倒れ5対4となった。
「まずいな……動くようだ」
このまま戦い続ければ、月華衆が敗北することは素人目にも明らかだ。状況を変えるべく、月華衆達は戦いの場を移し始めた。
ティーシャは音を立てず隣の建物の屋上へと跳び移り、善彦もその後に続いく。
地上のケルベロス達も、気付かれないよう細心の注意を払いながら螺旋忍軍達を追った。
●螺旋合致
移動しながらの攻防の最中、月華衆と白影衆は互いに1人が倒れた。
これによって4対3となった螺旋忍軍同士の戦いは、新たな局面を迎えていた。
螺旋忍軍の戦闘は、間も無く予めキープアウトテープで封鎖した範囲を越えてしまうだろう。
そうなれば戦闘による被害がどのような規模に広がってしまうかは予想出来ない。
けれど、それ以上にケルベロスにとっては深刻な事態が展開している。
月華衆と白影衆が、ふいに戦闘行為を中断した。
「戦闘を停止した? しまった! 私達の存在に気付かれたぞ!」
その理由は、路地に張られたキープアウトテープに気付いたからだ。
互いに合い争う螺旋忍軍同士とは言え、第三者の介入に気付いたなら休戦は不思議な選択ではない。さらに、この状況で一般人を遠ざけるような手間を掛ける勢力が存在するというなら、それがケルベロスであると推測するのは容易だ。となれば、共闘もまた当然の成り行きだろう。
ケルベロスの中でその事実に真っ先に気付いたティーシャは、仲間達に連絡すると同時に戦闘行為を開始した。
敵に向かって屋上から飛び降り、ドラゴニックパワーの噴射で加速したハンマーを、月華衆の1人に叩き付ける。
隠密気流を解除しながら敵前に躍り出た焔を始め、ケルベロス達は各々が隠れ潜んでいた場所から姿を現し敵を取り囲んだ。
「お家騒動だか派閥争いだか知らないのですが、もっと他に迷惑の掛らない所でやって欲しいのですよ」
ケルベロスの存在に思考が至っていたとは言え、月華衆も白影衆も互いに共闘に同意する間を要した。その隙がケルベロスに先攻を許す。
ヒマラヤンが召喚した氷河期の精霊が、一時共闘中の螺旋忍軍2勢力の前衛陣を氷に閉ざした。その隣では、ヴィーくんが味方前衛陣に邪気を払う羽ばたきで敵攻撃からの悪影響に耐性を齎している。
「内輪揉めならバ地球外で勝手にやってくれ。ヒトを巻き込むな」
愛用のマインドリングに地獄の炎を纏わせ、眸はティーシャが攻撃した月華衆が立ち直る暇を与えず追撃を加えた。ビハインドのキリノも、同じ対象の行動を阻害するべく心霊現象を引き起こす。
螺旋忍軍がケルベロスの存在を気取ったと察知し逸早く攻撃を仕掛けたのは、ケルベロス達の経験と心構えの賜物だったのだろう。
しかし、敵もまた先手を打たれたままいいようにやられる程に甘くは無い。それぞれの武器を構え、ケルベロス達へと殺意を向ける。
「漁夫の利を狙うか。薄汚い番犬風情が、我等を出し抜こうなどと思い上がりも甚だしい」
そう口にした月華衆は、言外に白影衆ならばいざ知らずという含みがあった。口に出しこそしないものの、白影衆も同じような考えをその目が雄弁に語っている。
「ぁ? 文句あんのかコラ」
対する亞狼は簡潔明瞭に敵意を返す。
亞狼の背後に浮かんだ黒い日輪が放つ熱波に焼かれた螺旋忍軍は、亞狼に敵愾心を抱き排除するべき敵の上位に位置づけるのだった。
その影響から、螺旋の軌跡を描く手裏剣や、螺旋を籠めた掌が亞狼を襲う。無論、敵の攻撃はそれのみに留まらない。ケルベロス前衛陣に大量に分裂した螺旋手裏剣が降り注ぎ、流水のような滑らかな太刀筋の刀が薙ぎ払う。
「まあ、水を差されて気分を悪くしたんだろうが、俺達も仕事なもんでね。土産ついでに、ドンパチやてる理由を教えてくれねぇか?」
特に期待はせず螺旋忍軍の抗争理由を問いながら、善彦は傷を負った前衛陣の足元にケルベロスチェインを展開し守護の魔法陣を描いた。
「厳しい……ですね。ですが……まだまだ……倒れま……せん」
声音とは裏腹に、強い意志でしらべはその場に踏み止まっていた。小型治療無人機を操作し、自身を含めた味方に治療と警護を行う。
善彦としらべのこの行動によって、以降の味方前衛陣への負担はある程度軽減するだろう。しかし、負傷の治療は追い付いてはいない。
ケルベロス達の計画では、月華衆か白影衆のどちらか一方が残り1人となった時点で戦闘に介入するはずだった。そうなっていれば、敵の数はせいぜい3人から4人といったところだっただろう。
それに比べると、月華衆4人と白影衆3人の合計7人はほぼ倍の敵戦力であり、苦戦は必至だ。螺旋忍軍同士を戦わせ続ける工夫が不足していたと言わざるを得ないだろう。
もっとも、それには周辺への被害を許容が必要になるため、それを嫌うなら3人分の敵戦力が減少したのは十分な成果だとも言えるのだが。
「……元螺旋忍軍、不知火衆が一人。……求道の徒、御忌……参ります……」
敵螺旋忍軍の姿に、禊はかつての己の境遇を思い郷愁の念を滲ませながら名乗りを上げた。月華衆からはさしたる反応は無かったが、白影衆は戦闘に影響しない程度に禊を視界に捉えている。
螺旋忍者排除を掲げる白影衆にとっては、捨て置けない発言だったのだろう。禊の魔力を籠めた咆哮に動きがやや鈍ったものの、眼光の鋭さはむしろ強まったかのようだ。
「まとめて相手してやるから掛って来い! 焼き尽くしてやるからよ!!」
全身を地獄の炎を覆い尽くし自身の戦闘能力を増幅させながら、焔は見得を切る。計画が狂おうとも、士気は高く、焦りや弱気は微塵も抱いてはいない。
ケルベロス、月華衆、白影衆。そのいずれもが想定外の状況で戦っている現状、敗北を喫するのは精神が遅れを取った者であるのだろうか。
●螺旋潰滅
ケルベロスと螺旋忍軍、深夜の市街で繰り広げられる火花を散らす激闘は、先の螺旋忍軍同士の対決とは異なり、どちらが優位かすら容易には見極められない危うい均衡のまま進んでいく。
「メガヒマラヤンあとみーっく、おしおきパーンチ!」
両手のオーラを巨大ガントレットに変え、敵を殴り倒す力そのものを撃ち出すヒマラヤンの攻撃に、月華衆の1人が倒れた。
だが、それでケルベロスが優勢を得たとは到底言い難い。
「ぁ? うるせーよ。チマチマした動きばっかしやがって、それが螺旋の秘儀ってか?」
「堅実な戦術とイったところか。一見すると小技だガ、少しずつ追い詰められてイる」
味方を守るべく己を盾とする亞狼と眸は、ナイフや体術での攻めを幾度となく受けていた。一撃で深刻な痛手とはならないが、積み重なった負傷は耐えられる限界に近い。
「……でも……負けられ……ない。向こうが……巧みでも……耐えていれば……綻ぶことも……あるはずよ」
ティーシャを狙った白影衆の刃を代わりに受けたしらべは、戦闘の興奮からか普段に比べて口数が多い。それだけ、平静でいられないということだろうか。
「これ以上の長期戦は、こちらが不利だ。何としても潰す」
白影衆の1人の頭上にルーンアックスを振り下ろし撃破したティーシャは、戦況を至って冷静に分析し、仲間達へと一気に勝負を掛けるよう促した。
「……熱を奪い、全てを凍て付かせてしまいましょう……。全てが氷の中で眠ってしまえば……争いも無くなることでしょうね……」
禊の持つ堕ちた御霊を鎮め救う願いが込められたケルベロスチェインが媒介となり、熱を奪う黒い炎が召喚される。広がった黒炎に触れた螺旋忍軍は、一瞬にして凍て付いた。しかし、複数の対象に及んだ黒炎は1人を除き避けられてしまっている。
螺旋忍軍達が着実にケルベロスを追い詰めているのに対して、ケルベロス達の攻撃は平均して2割ほどは命中していない。個人でなら、5割に満たない者もいる。このため、長期戦ではケルベロス達は無理をしなければならない状況であった。
禊が仲間の回復より攻撃を選んだのも、これが理由の一つ。もう一つは、もう回復がさして効果を上げられないほど追い詰められているからだ。
「まだ立ち上がれるなら、何度でも掛って来い! 焼き尽くしてやるからよ!!」
愛用の籠手に地獄の地獄の炎を纏わせ繰り出した焔の殴打が、月華衆に突き刺さる。崩れ落ちた敵は、再び立ち上げることは出来なかった。
それとほぼ同時に、白影衆の投擲した螺旋手裏剣が焔へと飛来する。とても躱せる余裕はない。
「オラっ、どけや」
身構える焔を横合いから蹴り飛ばすようにして庇った亞狼は、それがこの戦いでの最後の行動となった。
「善彦、ワタシへの治療は不要ダ。攻撃に回っテくれ」
亞狼が倒れ、ケルベロスの戦線は大きく崩壊しようとしている。こうなれば、先に敵を倒すしか勝ち筋はない。眸は善彦に攻撃を促し、自身もキリノと共に攻勢を掛けた。
「人の真を映すは陰なり……あんたに『コレ』が見えるかい?」
善彦の言うコレが、ケルベロス達には理解できなかった。しかし、その対象となった螺旋忍軍には足元から己の身体を這い上って来る己の影が見えていた。
自身の記憶から作り出された恐怖の記憶に苛まれ、螺旋忍軍の足並みが僅かに乱れる。
これがケルベロスが勝利するための最大最後の好機。これを逃すまいと、ケルベロス達は果敢に攻め立てた。
「煉獄の焔に焼かれて、燃え尽きやがれぇ!!」
「やっつけちゃうのですよ。ヴィーくんリングあんどヒマラヤンビーム!」
焔が体中から放出した炎に焼かれる白影衆を、ヒマラヤンとヴィーくんの連携攻撃が捉える。
敵もまた、ケルベロスの勢いに抗った。必殺の気合いと螺旋を込めた掌撃は、精神力で身体を支えていた眸には耐えられなかった。
「体術が得意か。俺だってなかなかのものだぜ」
眸を倒した月華衆に、善彦が電光石火の速度で重い蹴りを浴びせる。よろめく敵は、ティーシャの飛び蹴りの直撃を受け倒れ伏した。
「遠距離での火力制圧が得意だが、体術というのも悪くはないな」
あまりにも綺麗に決まった飛び蹴りの感触に、ついそんな感慨を抱いてしまう。
月華衆、白影衆どちらも最後の1人となったが、撤退する様子は無い。命を賭して任務を全うする忍びの矜持なのだろうか。
「戦いに生きるなど、愚かな事です……。こんな末路がお望みだったのでしょうか?」
禊が全方位に射出したケルベロスチェインに刺し貫かれ、月華衆最後の1人は絶命した。
「最期に……想うのは……誰ですか……?」
そして、螺旋忍軍で最後まで戦い抜いた白影衆も、斬首されしらべの腕の中で息絶えた。螺旋の面に覆われた顔からは問い掛けの答えは窺い知れず、末期の言葉もありはしない。
薄氷の勝利を収めたケルベロス達。今後、さらに活発化するであろう螺旋忍軍に対処するには、より一層の研鑽が必要なのだろう。
作者:流水清風 |
重傷:燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184) 君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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