月華白影相討たん

作者:柊透胡

●月華白影相討たん
 ――何処とも知れぬ闇の中。ポツリと灯った明かりに、浮かび上がる螺旋忍軍が一。
「……螺旋帝の一族が、東京都心部に現れた。一刻も早く、我らが月華衆が、その御身を保護せねばなるまい」
 まるで独り言のような、静かな声音。その顔は螺旋の仮面で隠されているが、女性だろうと窺えた。目立つのは、暗色の振袖と鋼の蹴爪鋭い脚甲、そして、蝙蝠のそれを模ったカラクリ細工の翼。
 彼女こそが、螺旋忍軍の一派「月華衆」の指揮官。その名も『機巧蝙蝠のお杏』。
「お前達は千代田区の探索を行い、どんな些細な情報であっても報告せよ」
 よくよく暗闇に目を凝らせば、同様に螺旋の仮面を被った螺旋忍軍が跪いているのが判っただろう――月華衆では、黒鋤組と呼ばれている。その数は4。一応に没個性の風体で、得物に彫り込まれた月下美人の模様まで共通していた。
「既に他の忍軍も動いているだろう。もし、他の忍軍と接触した場合は、最優先で撃破せよ」
 彼の御身を、他の忍軍に奪われる訳にはいかない――お杏の言葉に無言で首肯し、黒鋤組は闇の向こうへと消えた。

「都内で複数の忍軍が動き出しているようです」
 青白い月影に照らされる、白髪に白装束。白面を外した螺旋忍軍は、黒の双眸を剣呑に細める。
「今こそ、白影衆の力を見せ付ける時。お前達は、都内に散っている忍軍を見つけ出し……狩りなさい」
 丁寧な口振りに酷薄を滲ませる、その螺旋忍軍の名は雪白・清廉。
「螺旋忍軍滅ぶべし」
「螺旋忍軍滅ぶべし」
 淡々と清廉の言葉を唱和したのは「白影衆」に属する螺旋忍軍、その数4名。何れも、螺旋の仮面含めて白尽くめの装束だ。
「行きなさい。お前達の奮闘に、期待しましょう」

●螺旋動く
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 ヘリポートに集まったケルベロス達を見回し、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は静かに口を開く。
「東京都心部に於いて、螺旋忍軍の活動に活発化の兆候があります」
 既に複数の螺旋忍軍の組織が活動を拡大しており、螺旋忍軍同士の戦闘にも発展しつつあるという。
「デウスエクス同士が争うだけならば、放置しても良い案件ですが……その巻添えで、都心が破壊されたり一般人の犠牲者が出るとなれば看過出来ません。皆さんには、相争う螺旋忍軍の撃破をお願いします」
 周囲の被害を抑える為には、両者の戦いに割って入った上で、敵の連携の前にまず片方の忍軍を撃破、返す刀でもう一方をも倒さねばならない。
「或いは、忍軍同士を戦わせて疲弊した所を叩くという作戦も可能ですが……この場合、一般市民に死傷者が出る可能性が高くなってしまいます」
 更に、呉越同舟となった螺旋忍軍同士、協力してケルベロスに敵対してくる為、戦いを長引かせて敵を疲弊させる工夫が無ければ、却って戦況は不利となってしまいかねない。
「どの作戦を採るかは、慎重に判断して下さい」
 タブレット画面の地図を見せる創――螺旋忍軍2派が激突するのは、東京都千代田区。宵の口、神田明神近辺の路地裏に現れるという。
「神田明神は近々、江戸三大祭の1つ、神田祭が執り行われます。その準備の為、表通りは人や車の往来も多いです。螺旋忍軍の争いを表通りまで出さないようにして下さい」
 周辺の一般人避難も行われるが、螺旋忍軍同士は巻添えなどお構い無しだ。戦いが長引けば、一般人にも死傷者が出るだろう。
 争う螺旋忍軍は、片や「月華衆」。かつても暗躍した月下美人を旗印とした集団だ。
「配下の『黒鋤組』は、事前の下準備と堅実な調査で成果を上げるのを得意としています。戦闘の技量はさして、のようですが、けして油断しないように」
 もう一方の螺旋忍軍は、「白影衆」と呼ばれている。
「螺旋忍軍の中でも独特で、『螺旋忍軍滅ぶべし』という信念の下、同族狩りに精を出しているようですね」
 白影衆の実働隊は、全員白装束に身を包んでいる。月華衆の黒鋤組はその名に違わず黒尽くめなので、見間違える事は無いだろう。
「双方、数は4体ずつ。最初は路地裏のどん詰まりにある空き地で戦い始め、徐々に表通りの方へ移動してきます」
 時刻は宵の頃。街中故に、街灯や建物の灯りで手元不如意の心配はなさそうか。
「それぞれ、螺旋忍者や武器のグラビティを駆使します」
 得物は共通の螺旋手裏剣に加え、月華衆は日本刀、白影衆は如意棒を使うようだ。
「都心部での戦闘ですが、人的被害さえ無ければ、建築物などの破損はある程度許容範囲内です。最終的にヒールを掛ければ問題ありません」
 元より派閥の小競り合いが多い螺旋忍軍だが、ヘリオンの演算に算出される程の大規模な抗争は珍しい。
「螺旋忍軍の動きが活発化した理由も知りたい所ですが……実働隊が重要な情報を把握している可能性は低いでしょう。よって、尋問などは不要です。速やかに撃破して下さい」
 デウスエクスが何か話したとして、それを鵜呑みにするのは危険だ。騙す為に嘘を吐く事もあるだろうし、彼らが本当と思い込まされている情報が正しいとも限らない。
「螺旋忍軍の目的については、彼らの行動から独自に調査するべきでしょう。皆さん、どうぞ宜しくお願い致します」


参加者
鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632)
椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)
空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)
霧崎・鴉(霧・e05778)
輝島・華(夢見花・e11960)
小鞠・景(冱てる霄・e15332)
レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)

■リプレイ

●三つ巴開戦
 初夏の気配さえ感じる陽気も失せた宵の口――神田明神近くの路地裏の邂逅も、螺旋忍軍大戦の開幕を告げる数多の対決の内の1つ。
「他勢力確認。忍務を遂行する」
 黒と白、対峙の数も同じならば、武装を構えるのも同時。宵闇の空気が殺気を孕む。
「螺旋忍軍滅ぶべし」
「おや? 場違いに出くわしたざんしかね」
 白装束の螺旋忍軍――白影衆の宣戦布告に、いっそ惚けた横槍が入る。一斉の視線にも怯まず、椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)は悠然と笑む。
(「今回の事の発端……螺旋忍軍にも帝らしき者が存在するらしいざんしな」)
 お偉方の御出迎えに、我こそはと血道を上げる……正直、そんなモン他でやれ、はた迷惑な! と思う。
「久しぶりだなぁ、猿真似の糞ども」
 荒っぽく吐き捨てたのは、空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)。その視線は黒の螺旋忍軍――月華衆へ。
(「乱破の糞神共が跳梁跋扈するだ? 気にくわねぇ……シマ争いだかなんだかしらねぇが、てめぇらの思惑通りに行くと思うなよ」)
 実際、月華衆と戦った経験のある満願は、技を真似る連中と快く思っていない。
「今回も無様に屍晒してけよ」
 故に、剣呑な言葉は本気も本気だ。
(「忍軍共が……内戦とは実に連中らしい。この期に狩れるだけ狩らせて貰おう」)
 物騒な本音は霧崎・鴉(霧・e05778)も同様か。これまでの一般人の犠牲も忘れていなければ、連中を叩く機会を更々見逃す心算もない。
「もはやお前らを狩るのを数えるのも飽きた、月華衆……先よりの因縁、さっさとケリを付けさせて貰う」
「なるほど、貴様らはケルベロスか」
 小振りの日本刀二刀流の月華衆が声を発した。それは、確認でなく断言。月華衆、白影衆、ケルベロスの三つ巴で睨み合う事暫し。
「螺旋忍軍滅ぶべし、その言葉には同感です。月華衆を倒す目的は同じ筈。ここは共闘させて戴けませんか?」
 輝島・華(夢見花・e11960)が白影衆に呼び掛けるも、返答は無かった。それでも、こちらに刃が向けられていない分、まだ脈はありそうか。
(「螺旋忍軍の動きが活発化、ですか……大事になる前に片付けてしまいたい所ですね」)
 ならば、行動で示すのみ。本心を沈着な面に出す事なく、小鞠・景(冱てる霄・e15332)より奔る気咬弾。
「我が名はレイリア・スカーレット、兵站と看取りを司る者。貴様達を葬り去る者の名だ、その魂によく刻んでおけ」
 続いて、レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)は全身を光の粒子と化して突撃する。
(「デウスエクスと一時とはいえ、手を組むのは気に入らないが……」)
 生真面目な性分は方便を良しとせぬが、敵を殲滅する為ならば、1つの手段と割り切るまで。
 相次いで、ケルベロスが月華衆を強襲すれば、斯くて、戦いの火蓋は切って落とされる。
 ―――!
 ケルベロスに反応し、応戦する月華衆。螺旋手裏剣が分裂するや、レイリアを中心に雨あられと降り注ぐ。同時に、初撃を受けた前衛の少女忍軍に分身の幻がちらついた。
 呼応するように白影衆も動けば、半数を以てこれに当る。だが、如意棒二刀流の白影衆に浴びせられる氷結の螺旋を、執事姿のビハインドが遮る。
「流石は僕の執事。的確だね」
 満足そうな笑みを刷き、爆破スイッチを押すアルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684)。カラフルな爆風は如意棒二刀流のみならず、手裏剣を両手に構える白影衆も彩る。主従の行動は、何れも白影衆へ共闘のアピールだ。
(「もう、場所も考えず身内争いして!」)
 飛び交うグラビティを目印に、最後に駆け付けた鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632)は眉を顰める。敵の目的も勿論気になるが、来る祭りも構わぬ争いには憤りを覚える。
 ケルベロスは、螺旋忍軍の争いに即介入する方針を取った。一般人に被害を出さない選択肢であったが、それは避難指揮を執る時間も惜しんでの行動だ。故に、レイリアが一般人に避難を促す暇も無ければ、ハクアも路地の入口にボクスドラゴンのドラゴンくんとキープアウトテープを貼るのが精一杯だった。
(「殺界形成も使う心算だったけれど……」)
 殺界形成の範囲は、半径300m。神田明神を中心に、東西は東京メトロ銀座線から東京医科歯科大学、南北は神田川から三組坂の辺りまで収まってしまう。
 人々は粛々と殺界から遠ざかろうとするが、範囲内の一般人全てが一斉に移動しようとすれば、渋滞や混雑は予想に難くない。
 殺界形成は人避けに非常に有効だが、範囲の融通は利かない。過ぎたるは及ばざるが如し。種族・防具特徴は適切に使いこなしたい所。
「よし、私もお手伝いするざんしヨ!」
「わたしもキミ達月華衆の事、良く思ってないんだよね。技を真似されたりで散々……倒すのお手伝いしちゃっても、良いよね?」
 ともあれ、月華衆も白影衆も、この路地裏から出さなければ問題ない。まずは月華衆から片付けるべく、笙月の加勢の言葉に応じたハクアは小さき妖精達の名前を呼ぼうとして、あっと息を呑む。
 確かに妖精達の囁き聲は力の加護を齎す。けれど、小さき者の囁き故に、ジャマーの位置から前衛には届かない。シュンと俯くハクアを励ますように鳴いて、ドラゴンくんはディフェンダーのアルシェールから属性をインストールした。

●月華を疾く散らせ
「まずはディフェンダー……日本刀二刀流からざんしな」
 白影衆の攻撃に分身の術を編む同胞を庇った動きから、月華衆のポジションを看破する笙月。藍の双眸を細め、ルーンの光輝と共に斧を振り下ろす。
「喰い潰してやる」
 鴉の螺旋氷縛波に追撃して、胃袋に宿る地獄を以て、魔獣の大顎を右腕に模る満願。咆哮を上げ、獣の咢獄が月華衆の盾へと襲い掛かる。喰らい付いた所から、氷結が広がった。
「シェル君、無理しちゃ駄目だよ」
「別に無理も無茶もしてない、けど……っ!」
 ライトニングウォールを構築する華のお姉さんぶった言葉に、素っ気無い応え。だが、明らかにメディックたる彼女を狙った毒手裏剣の射線を、アルシェールは遮る。
(「しっかりと護って、男らしい所を見せてやるぞ!」)
 何せ、背後には知己のお姉さんが何人も。自宅貴族の意気も上がるというものだ。
 時に連携すべく声を掛け合い、時に裂帛の気合と共に月華衆を攻撃するケルベロス達。
(「帝という単語が気になるのだけど……」)
 戦闘の掛け合いに乗じて何か聞き出せないか――カラフルな爆風を流水斬に散らされたのを見て取り、改めて白影衆へオウガ粒子を放出しながら、アルシェールは耳を澄ませる。
 応酬に毒手裏剣を手繰り、鴉も尋問の機会を窺うが……ケルベロスと対照的に、螺旋忍軍は静かだ。双方、声もなく、風を切る音や剣戟の音が響くのみ。何れも素顔を螺旋の仮面で隠し、表情を読む事も出来ない。
 余計な情報は一切発しない。忍者らしい敵の態度は、ケルベロスにとっても幸いであっただろう。デウスエクスの言葉を鵜呑みにする危険は、ヘリオライダーからも警告されている。沈黙の壁に阻まれる方が、真贋定まらぬ文言に惑うより余程良い。
 時折、白影衆の出方を窺いながら、景は黙々と後方から狙いを付ける。スナイパーの身で攻撃を外す事はほぼ無いだろうが、「全員の攻撃が当る」状況こそ大事。流星も斯くやの飛び蹴りが鮮やかに天翔ける。
 気を取り直し、精霊魔法を唱えるハクア。吹雪を象る氷河期の精霊を召喚すれば、レイリアは無言のまま接近、破鎧衝を繰り出す。素直な少女と生真面目な戦乙女は、発言の揚げ足を取られぬよう、唇を引き結んでいる。
 事前の下準備と堅実な調査で密やかに立ち回る黒鋤組は、月華衆の中でも戦闘の技量は平均を下回る。白影衆に加え、ケルベロスまで同時に相手取る事となれば。
「ぐっ……」
 一連の行動で、月華衆4体のポジションは既に知れている。ディフェンダー故の打たれ強さで暫くは持ち堪えるも、高々と跳躍した笙月にルーンアックスを頭上から叩き込まれ、とうとう崩れ落ちたのが最初の1体。
「次はジャマーを!」
 突撃を敢行するレイリアの声に、ケルベロスの攻撃も中衛に集中すれば、白影衆は更に後方に立つメディックを襲う。
 月華衆の闇雲を反撃は、アルシェールとその執事が身体を張って盾となった。
「ありがとう」
 庇われた景の感謝に、肩を竦めて見せた少年の横顔は何処か誇らかだ。そんな様子に思わず唇を緩めるも、一転、バトルオーラ纏う景の拳は、凛々しくも分身や螺旋の仮面を消し飛ばさん勢い。
「さあ、よく狙って。逃がしませんの!」
 華もヒールの合間に魔法の花弁を作り上げれば、切り刻まれたジャマーが身を捩じらせて倒れるのと、メディックが白き螺旋の渦に呑まれたのはほぼ同時。
 残る月華衆は後1体。気圧されたように首を巡らせる少女忍者に、満願の拳が叩き付けられる。
「逃走など許さん」
「……っ」
 キャスター故に、その動きは俊敏。それでも、足止めの技を一斉に浴びせられれば、堪え切れず体勢を崩した。鴉のヘッドショットで、最後の月華衆は螺旋手裏剣の投擲を前にま崩れ落ちる。
(「次は、白影衆を……」)
 こちらから『共闘』を呼び掛けながら……ハクアの善意がチクリと痛み、小さく頭を振る。4体全てが白の相似ならば、最初の標的であるディフェンダーを見定めんと視線が揺れる。
「あ゛ぁぁけったくそ悪ぃ」
 だが、次の瞬間。吐き捨てた満願が竜爪を伸ばすより早く――螺旋射ちが、螺旋氷縛波が、螺旋竜巻地獄が、如意直突きが。敵の一斉攻撃が鴉の武装コートを貫き凍らせ、長躯を抉り穿つ!
「……っ」
「螺旋忍軍滅ぶべし」
 その圧倒的な速さに思わず景が息を呑めば、冷ややかな声音が如意棒二刀流の白影衆より発せられた。

●白き影を討ち果たせ
「……面白い、では有言実行してもらおうか」
 クラッシャーの如意直突きに肺腑を抉られ、鴉は込み上げる苦さを飲み下す。小さく悲鳴を上げた華は、慌てて祝福の矢を射た。流石に足りず、ドラゴンくんも属性インストールする。
(「そんな簡単に騙されちゃ……ううん、騙されていたのは、誰?」)
 震えるハクアの指先が、魔導書の頁を手繰る。招来するは、水晶剣の群れ――魔力中和の剣を撒きながら、少女は実感する。
 そう、敵は夜討ち朝駆け騙し討ちが十八番の螺旋忍軍。白影衆に『共闘』の意識は全く無かった。或いは、こちらにまで攻撃してくるなら迎撃もしただろうが、ケルベロスの標的は月華衆。それを邪魔する必要も無い。利するは用する、流石は忍者、汚い。
 そして、白影衆の行動基準は「螺旋忍軍滅ぶべし」の一点に尽きる。ぶれの無い行動基準は速さを生む。結果、先手を取った白影衆は、用済みのケルベロスの中で唯一螺旋の技を使った鴉を強襲したのだ。
「舐めた真似しやがって」
 ギリッと歯噛みする満願。剣呑に目を眇め、竜爪を振り上げる。
「こっちこそてめぇらと肩並べて戦うなんぞ、反吐が出るぜ!」
 心底嫌う螺旋忍軍に遅れを取ったままでは、腹の虫が収まらない。同様に憤懣やる方無しのレイリアは、ゲシュタルトグレイブの切先を白装束に突き付ける。
「敵は全て殲滅する、ただそれだけの事だ」
「如何にも! ただ前へ。それが僕達の勝利への道となる!」
 号令下すは貴族の務め――鼓舞込めたアルシェールの声は凛として、前進する力を齎す。
 仮初めの共闘の片鱗は尽く砕かんと、グラビティが奔る。時に白装束を抉り裂き、時に弾かれて硬質の火花を散らす。
「天と人と地の理……総じて環の理なり」
 その実、螺旋忍者の片鱗を持つ笙月は、螺旋の力で1体の動きを封じる。
「かくありき汝が御霊荒魂候。臨める兵闘う者、皆陣をはり列をつくりて前に在り。我が神御手にて封術」
 降魔術式『陰陽』――憑依呪術の一種であり、御業の奇蹟を以て彷徨いし荒魂を自らの内に封じれば、前衛にて負った傷も幾許か癒える。
「……Slan」
 1つの言霊が無数の霜柱を表出させる。京の厄術は最果ての凍土に住まう人々の箴言の結。一見繊細なる霜柱は、敵が踏み入れれば最後、槍の如き鋭利な氷棘へと変貌する。
「螺旋忍軍、滅ぶべし」
 それでも白影衆は執拗に、鴉を狙う。時にシュリケンスコールに巻き込まれながら、華とドラゴンくんは一心にヒールを続けている。1度ならずアルシェールの執事が少女を庇ったのは、果たして主の意向と無関係にか。
「ああ、お前達は正しい、螺旋忍軍は滅ぶべきだ。当然……お前達白影衆も含めてな」
 怯む事無く言い放った鴉に迫る螺旋の軌跡を、満願が力づくで叩き落す。いっそ粗暴な笑みを浮かべ、満願は降魔真拳を以て白影1体に引導を渡した。
「螺旋忍軍、滅ぶべし」
「違う。俺は、ケルベロスだ!」
 既に月華衆の骸も跡形無い。技を真似る連中が消えれば心置きなく、深き霧と化す鴉。白影衆を取り込み、見えざる刃で滅多切りにする。
「今が、貴様の終わりの時だ」
 前衛から中衛、やがて後衛へ――ケルベロスの武威は、順番に白影衆を呑み込んでいく。アルシェールのブレイブマインに勢いづき、ハクアの青きドラゴニックミラージュが3体目を吹き飛ばせば、残るは癒し手1体のみ。
「その身も、血も、全て凍らせよう」
 仲間が植えた氷結の種を、レイリアの絶空斬が芽吹かせ、繁らせていく――最後に残った氷像を、ケルベロスの一斉攻撃が粉々に砕いた。

 そして、螺旋忍軍はいなくなった。戦闘は路地裏の空き地に留まり、一般人の犠牲が無い事に、レイリアは安堵の面持ちか。
「何も残っていませんの」
 一方、残念そうに溜息を吐く華。指令書など、手掛かりが欲しい所だったが、敵の骸自体が霧散しては探りようも無い。
「調査はこれから頑張りましょう。焦っては事を仕損じます」
「そうですわね。今、出来る事をやる……それだけですの」
 尊敬する景の言葉に、少女は素直に頷き返す。
「それにしても、どうして螺旋忍軍同士で戦ってるんだろう……」
「帝、だっけ?」
 ドラゴンくんと揃って小首を傾げるハクアに、アルシェールは小さく肩を竦めて見せた。戦闘でほてった肌に夜気は冷やりとして。身震いを見逃さず、執事は主に星套を羽織らせる。
「帝が何人かいて、縄張り争いのような事をしているのかな?」
「螺旋忍軍の、大人の事情とやらでざんしな?」
 笙月にしてみれば、螺旋忍軍大戦など傍迷惑以外の何ものでもない。
「螺旋忍軍滅ぶべし……個人的には『この手で忍軍を狩る』事に意味がある。連中が大きく動き出したとなれば、好機か」
 昏い眼差しで路地裏の空き地を眺めやる鴉。満願はいっそ不敵に唇を歪める。
「ま、何にせよ、糞乱破共は皆ぶっ潰してやるぜ」
 少年の胃袋に宿る地獄の黒炎が、再び右腕に魔獣の頭を象る。ゴウと獰猛な唸りを上げた。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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