びっくりピエロにどっきり!

作者:なちゅい

●驚きのあまり……
 夢というのは、本当に不思議なもので。
 無意識な中で見て、想わぬ体験をすることも多々ある。
 それは、子供のときだとなお強く、ビックリとするような夢を見るものだ。

 一人の少女がてくてくと歩く。
 まだ、小学生にも上がっていない、可愛らしいお下げの少女、諏訪・優。彼女は歩くうち、どこかのテーマパークのような場所に出る。
 皆、様々なアトラクションに乗って楽しそうに遊んでいる。自分も遊ぼうとしている途中、何気なく広場にいたピエロに目を奪われた。
 ピエロは集まる子供達に一芸を披露していた。ステッキを振るい、お菓子を出現させる。それに子供達は驚きながらも目を輝かせている。
 優もまた、ピエロからお菓子をもらい、その大道芸に見とれてしまう。ジャグリングにパントマイム。好奇心旺盛な彼女にはどれも目を奪われてしまう。
 次の芸をと準備するピエロは、優に向けて手招きをする。彼女は何の疑いも抱かずにてくてくとピエロの下に向かう。
 刹那、ピエロが不気味に笑ったが、優は気づかない。ピエロは瞬く間に優を箱のようなものに首を出した状態で閉じ込め、箱ごと彼女を切り裂いて……。
「きゃああああっ!」
 自身の声で目覚める優。驚き、きょとんとしていたのも束の間のこと。彼女は背中から大きな鍵で心臓を貫かれてしまう。彼女は意識を失い、ベッドの上へとばったりと倒れてしまった。
 その鍵を持っていたのは、ウェアライダーの姿をした少女だった。そいつは、白い鹿のような生物に跨っていて。少女の胸部、そして、跨る鹿の生物はうっすらとモザイクに包まれている。
 第三の魔女・ケリュネイア。それがこの魔女の名だ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 倒れた優は心臓を貫かれたはずだが、その体には傷すらついてはいない。
 その隣には、新たなドリームイーターが姿を成す。それは、優が夢で見たピエロと同じ姿をしていた。唯一違うのは、その両手がモザイクに包まれていたことか。
 不気味な笑いを浮かべたピエロはベランダに通じる戸を開き、そのまま外へと飛び去ったのだった。

 とあるビルのロビーに集まるケルベロス達。
 ドリームイーターが相手ということで、夢に関する話題を語り合っている中、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が到着する。
「皆、来てくれてありがとう」
 挨拶もそこそこに、彼女は早速依頼の話を始める。
「ドリームイーターに襲われて、『驚き』を奪われた少女を助けて欲しいんだ」
 『驚き』を奪ったドリームイーターは姿を消してしまったが、奪われた『驚き』を元にして現実化した新たなドリームイーターが事件を起こそうとしている。
 被害が発生してしまう前に、この夢喰いを撃破してほしいとリーゼリットは言う。
「このドリームイーターを倒す事ができれば、『驚き』を奪われてしまった少女は目を覚ますはずだよ」
 無事、事件が解決したならば、自室ベッドで眠る少女へフォローを行うとよいだろう。
 現れるドリームイーターは1体。赤と白を基調としたピエロの姿をしており、その両手がモザイクに包まれている。
「誰かを驚かせて仕方ないのか、戦闘でも相手を驚かせようとしてくるようだね」
 このピエロの姿をした夢喰いは、手にするステッキを振るって何かを出したり、マジックへと強制的に誘ったりして相手をビックリさせてくる。また、夢喰いとして、両手のモザイクを飛ばして相手を悪夢に包み込もうとしてくることもあるようだ。
「ドリームイーターは夜、高知県某所の住宅地に現われるようだね」
 敵は被害者の少女、諏訪・優の自宅周辺を彷徨い、出会った相手を驚かせようとする。この為、現場周辺を歩いているだけで、向こうから驚かせにやってくるはずだ。
「あと、ドリームイーターは驚かない相手を優先的に狙う習性があるようだよ」
 これを踏まえておくと、作戦が立てやすくなるかもしれないので、活用するとよいだろう。
 説明を終えたリーゼリットはにっこりと笑う。
「さすがに、ケルベロスの皆が驚くことって、あまりないと思うけれど」
 皆は何をされたら驚くのだろうと問いかけつつ、彼女はケルベロス達へヘリポートに向かうよう促すのだった。


参加者
凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)
久遠・征夫(静寂好きな喧嘩囃子・e07214)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
藤林・シェーラ(詐欺師・e20440)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)
ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)

■リプレイ

●道化師とはかくありき
 高知県某所。
 夜、住宅街へと降り立ったケルベロス達は現場を目指す。
「ピエロね……。昔はあの独特のメイクがむしろ怖かったな……懐かしい……」
 今回のメンバー紅一点、着物姿の少女、四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)は小さいときの記憶を思い返す。
 それもあり、一行はピエロについて語り始める。中性的な見た目の凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)はううんと小さく唸ってから口を開く。
「手品やら曲芸やら、見てて楽しいけど、夜とか夢にみたら流石に怖いかな」
「ひとを喜ばせるのが本業の道化が子供を脅かして殺すなんて、悪趣味だね」
 レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)は黄色の眼鏡を吊り上げながら、小さく首を振る。これは、プロのピエロへの侮辱だと。
「ピエロって言ったら、楽しませるのが本分だろうに。これじゃあ、本末転倒だよねェ」
「夜中に出るなんて、ビックリというより怖いよね」
 こちらも大人びた少年といった印象の藤林・シェーラ(詐欺師・e20440)が嘆息すると、かなり甘党な、ヴァーノン・グレコ(エゴガンナー・e28829)が棒つき飴を口で転がしつつ、目を細める。
「海外でピエロが暗闇から現れるイタズラが流行ったそうですから、その影響かな?」
「そうかもしれないですね」
 そういえばと思い返す久遠・征夫(静寂好きな喧嘩囃子・e07214)に、こちらも中性的な外見の筐・恭志郎(白鞘・e19690)が相槌を打つ。
「呆れた所業だよね。怖がらせてどうするんだ」
 ホラー映画じゃないのだからと、両手を上げるシェーラ。もっとも、夢から作られたドリームイーターに、文句言っても仕方ないのだが……。
「ともかく、ピエロ恐怖症ってのもありますから、早めになんとかしましょうか」
「……ま、今回は戦いの方で、楽しませて貰おうかな♪」
 そう仲間に促す征夫は、警察へと状況確認の為の連絡をとる。悠李はその報告を待ちつつ、僅かに目じりを下げるのだった。

●闇から出し抜けに……
 警察によれば、人払いは完了し、万一の事態に備えて住民に外出を一切控えるよう連絡していたそうだ。
 さらに、シェーラが戦場想定場所の路地をメインに、キープアウトテープを張り巡らせる。狭い場所の為、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)はバイオガスの使用を止めていたようだ。
 これで、ドリームイーターと交戦する為の状況は整った。夢喰いを探そうと促す千里に、同い年のシェーラが立派なもみ上げを揺らして首を振る。
「敵は勝手に出てくるみたいだからね」
 適当に歩けば現れるとのこと。恭志郎は相手の目を引くべく、さらに視界確保の為にハンズフリーライトを点灯させる。
「どんな驚かせ方をしてくれるのかな」
 夢喰いがどう現れるか、ヴァーノンなどは期待すらしていた。
「……夜中にピエロで、軽くホラーですけど……」
 幽霊ではなく、相手はドリームイーターだと分かっている。
(「警戒も充分ですから。驚きません……驚きませんよ」)
 驚かない者を襲う夢喰いの盾となる恭志郎は、そう自己暗示をかけていた。
「ピエロ自体が驚かせてナンボって職だから、その時点で意外性は落ちる! 大丈夫……俺なら大丈夫……」
 持ち前の騎士道精神もあって、紳士的に振舞う右院も同様に自身へと言い聞かせる。
(「昔は殺されても死なないから、驚くことは少なかった気がする」)
 定命化の影響なのか、気弱になった性格を自認する彼の前に……突然、頭上からピエロが飛び降りてきた。
「ばあぁぁぁ」
「…………!!」
 どうやら、電信柱に登ってタイミングを見計らっていたらしい。突然現れたドリームイーターに右院は肝を潰してしまうが、表面上はなんとか冷静を保とうとする。恭志郎も平静に振舞っていたようだ。
 一方で、他のメンバー達は大仰な態度で驚く振りをする。
「えっ、何アレ、ピエロ? うわ、なんか不気味なんだケド?!」
 わざとらしく驚くシェーラ。征夫は大きく目を見開いて日本刀を落としかける。
「う、うわああーっ」
 こちらは、ピエロが驚かせるのが当たり前とすら考えていたヴァーノン。それでも、今回は狙われるわけには行かぬと、出来る限り驚く振りをしていたようだ。
「ケケッ」
 小さく声を上げた夢喰い。赤と白が目を引くメイクをした衣装を纏っており、その手はモザイクで覆われていた。
「本来、ピエロは人を楽しませるものなのに、攻撃するなんて悪趣味だね」
 さっさとご退場願おうとレスターがバスターライフルに手をかけると、夢喰いは奇妙な笑い声を上げて襲い掛かってきたのだった。

●「驚き」の感情を取り戻せ
 ピエロの姿のドリームイーターに、人を楽しませるなどという思考は存在しない。
 敵と見定めた相手には、グラビティの手品によって驚かせにかかる。
 世界的な大サーカスでは、ピエロはあらゆる曲芸を習得する。生半可にかじった程度で、一流の信念まで再現できるはずもない。
「ピエロなら曲芸をこなすんだろ。キミの腕前を見せてくれ」
 そんなことを考えるレスターはそう呼びかけ、ピエロの動きに注視する。
「悪夢はとっとと晴らしてしまおう!」
 敵が動き出す前に、シェーラはすかさず紙兵を撒いて対策を練る。夢喰いの手品にはこちらのメンバーを攻撃の手を止め、思考を惑わせる効果があるのだ。
 敵より少し速く動くヴァーノン。回復役として動こうと考えた彼は初手を攻撃の為に使い、愛用のリボルバー銃「紅」の銃口を敵に突きつける。
「願いの力を俺に」
 発射した弾丸は折鶴の形となり、ピエロの肩を鶴の鋭い嘴が貫く。
 だが、一撃で倒せる相手ではない。夢喰いはステッキを振るい、いきなり眼前に現れた風船を破裂させて相手を驚かせようとする。
「きゃっ……」
 千里がそれに、驚きを装う。平静を装う彼女だが、内心ではかなりビクビクしており、全てが演技というわけではなさそうだ。
 他の前列メンバーもそれを間近で見ることとなるが、紙兵のお陰で幾分か衝撃は和らいでいたらしい。右院は心臓をバクバク鳴らせながらも、真に自由なる者のオーラを発して個別にやる気を出させていく。
「………………?」
 これではダメかと考えるピエロは次なる手段をと動くが、その頭上には悠李が軽やかに宙返りをしていて。
「あはっ、ノロノロだなぁ……♪」
 戦いに身を置く彼は頬を上気させ、気分をハイにさせて身を躍らせる。ややその口調や思考が歪んでいるらしく、不規則な動きで敵を翻弄しつつ言い放つ。
「僕も曲芸には、それなりの自信あるんだよねぇ……ッ!」
 敵の奇術に備えた仲間のフォローがあったことで、悠李は攻撃へと出ていた。アクロバティックに舞う彼は敵の頭上から強襲し、手にする二本の刀、「神気狼」「魔天狼」の刃をピエロの体へと刻み込んでいく。
 正面からは、恭志郎と征夫が同時に仕掛ける。
「この刃は布石の一手――逃がしませんよ!」
「凍てつけ、鳴龍っ!」
 互いの戦い方を踏まえ、2人で編み出した連携技。
 斬霊刀「白綴」に空の霊力を込め、恭志郎が深く踏み込んで真一文字に切り払う。淡い光の花が咲くように霊力は敵の衣服を裂いて留まる。
 そこへ、征夫が飛び掛りざまに、氷のブレスを吹き付けた妖刀亀斬りの刃を叩きつけた。刹那凍りつく斬撃痕。淡い光の花と合わさり、渾身の2連撃がピエロの身に食い込み、そいつを苛む。
 とはいえ、敵の動きは素早い。千里は手にした簒奪者の鎌に虚の力を纏わせ、ピエロの体を切り裂いていく。傷口から飛び散るモザイクを浴びることで、千里はそいつから生命力を奪い去る。
 仲間が夢喰いの気を引く隙に、レスターは敵の死角へと回り込む。
「悪く思わないでくれ。背中をとるのは狙撃手の鉄則なんでね」
 そうして、レスターは凍結光線を敵の背に浴びせかける。
 身体を凍らせるピエロだったが、その顔は狂気の笑みが浮かんでいた。

 あの手この手で、ケルベロスを驚かせてくるドリームイーター。
 何が出るか分からぬ夢喰いのステッキからは、破裂する花火や噴き出すスモークとギミックが現れる。
 また、いつの間にか捕らわれた右院が人体切断マジックや、自身の体をピエロの手が貫通するマジックを受ける幻術を見せ付けられていた。
「うわっ、うわああっ!」
「ああああああっ!!」
 その度に、右院、恭志郎は絶叫にも近い叫び声を上げていたようである。
 さらに、両手からモザイクを飛ばすピエロを、悠李が驚く素振りを見せつつもすぐに反転して飛び込む。
「ほらほら、そんなんじゃ追い付けないよッ!」
 くるりと宙返りした彼は、敵の二の腕を触る。巻き起こる螺旋の力は、敵の体内を激しくかき乱す。
 敵にプレッシャーを与えれば、モザイクをその身で抑えた恭志郎が白綴を一閃させた。
 傷口を凍らせたそいつへ、征夫が妖刀に空の霊力を纏わせて大きく斬りつける。凍った体が砕ける衝撃に、ピエロは顔を引きつらせていたようだ。
 一方で、ピエロの手品は盾となる恭志郎、右院をメインとしてその精神をすり減らすこととなる。シェーラは彼らを癒す為にと、グラビティを使う。
「あめつちにやどりししんれいにねがいたてまつる。はらいたまえ、きよめたまえ、いやしたまえ」
 後光すら発するように見えるその光。幻術を併用することで、シェーラは仲間の怪我や異常を振り払う……ような気にさせていた。回復で立ち回るヴァーノンもまた、攻性植物から実った黄金の果実を輝かせ、仲間の不浄を取り払っていく。
「グ、ググ……」
 奇妙な声を漏らすピエロの夢喰いは、再び両手のモザイクを飛ばしてくる。
 仲間の壁となってモザイク受け止めた右院。徐々に脳内を侵食する悪夢を振り払うべく、彼はルーンストーンを取り出す。
「欠乏と束縛のナウシズよ、超克の力を齎せ!」
 並び替えた石は言葉となって力を持ち、彼に正気を取り戻させた。
 その間にも、悠李は敵の攻撃に驚く演技をして日本刀「魔天狼」を投げ飛ばし、さらに接近して柄を握って切り上げる。
 敵の体は深く傷つき、そこからモザイクが零れ落ちていた。その存在が消滅するのは近い。
「他人から奪った驚きの感情……返してもらおう……」
 千里は弓を引き絞るように妖刀”千鬼”を構え、鋭い突きを繰り出す。敵の体を貫く瞬間、彼女は重力エネルギー塊を相手の体内へと流し込む。
 同時に、レスターが敵の左後方から狙いを定めていた。
「ひとを笑顔にするのがピエロの仕事さ。心得違いも甚だしい」
 呪文の刻まれた弾丸を撃つレスター。顔の右半分に紋章の刺青を現した彼は、自身を中心に結界を張り巡らせ、その中で自在に魔弾を操作する。仲間のつけた傷を抉るように、彼はその弾丸を夢喰いの体深くに撃ち込んでいく。
「ク、クケ……」
 口からモザイクを零れさせる夢喰いだが、それでも倒れない。
 そこで、回復の手を止めたヴァーノンがリボルバー銃を構える。
「もう驚かせるってお仕事は、おしまいだな。さようなら」
 ヴァーノンの言葉の直後に乾いた銃声が鳴り響き、夢喰いの頭を砕く。
 全身をモザイクと化し、霧散するドリームイーター。その殲滅を確認した悠李は深呼吸し、昂ぶる精神をクールダウンさせるのだった。

●真夜中のコミカルショー
 ドリームイーターを倒したケルベロス達。
 まずは、戦闘場所となった路地を補修すべく、シェーラは先程と同様に神々しさを抱かせる光によって、周囲の抉れた壁や地面を埋めていく。
 征夫もドローンを展開して荒れた場所へと力を与え、右院はルーンストーンの力で人の往来に問題ないよう路地を修復していった。
 その後、メンバーは被害に遭った少女、諏訪・優の家にお邪魔する。
 夢喰いを倒したことでは目覚めてはいたが、彼女は小さくその身を震わせていた。
「怖くないからね」
「もう悪い夢は見ないから」
 右院、シェーラが少女に声をかける。うんと小さく頷くも、まだ不安が拭えないのか眠れずにいたようだ。
 それならと、千里が一緒について少し話を始める。
「世界はあっと驚くような不思議に溢れている……」
 その驚異を感じたまま素直に驚いたり、感動したり出来る心。それはとても大事なものだから、これからも変わらず持っていてほしいと、彼女は語った。
「あと、もしよければ……今度一緒にサーカスでも見に行こう……」
「アレは怖いピエロだったけれど、いいピエロも沢山いる」
 そこで、合いの手を入れるレスター。優は小さく頷いてはいたが、まだ釈然としない心持ちのようだ。
「いやー、それにしても、色々出したりして面白かったね。もう1度見せて欲しいものだ」
 ヴァーノンが言っていたのは夢喰いのことなのだが、その手があったかと悠李が前に出る。取り出したハンカチを片手に載せた彼は3カウントの後でそのハンカチを取り、小さな花束を出してみせた。
「うわあ……」
 優が目を丸くして驚くのに、二股のピエロ帽子を被って和風ピエロに扮した征夫が光るライブボールで曲芸を始める。
 それは、武者修行時代に彼が見につけた技。刀の上にボールを載せ、さらに複数のボールを両手だけではなく、ドラゴンの尻尾も使ってジャグリングしていく。
 恭志郎が曲芸の手伝いをし、ジャグリングをする彼とボールの受け渡しを行うのだが、その一つのボールを恭志郎が優に差し出すと、そこにはいつの間にかキャンディが現れていた。
「ありがとー」
 そんな手品や曲芸に拍手する優は、表情を少しずつ綻ばせる。
 一緒に手を叩くレスターは優にもジャグリングをやってみるよう促しつつ、自分でも試してみるのだが。うまく、複数のボールを宙で回転させることが出来ない。
「これをこうして……意外と難しいな、あはは」
「あはは」
 おどけたレスターの笑いに優も微笑んで見せたが、彼はそれに上手く笑い返すことが出来ない。
(「笑顔が寂しそう……か」)
 そう指摘されることも多い彼は、ピエロのように人を魅了する笑顔に憧れて。いつか、本当に笑えるようになるだろうかと密かに考える。
「ピエロ見てたら……。ハンバーガー店に行こうかな」
 ジャンクフードを食べたくなった右院。話題のナゲッツや完熟キウイのシェイクなどに興味を引かれていたようだ。
「ハンバーガー? ……はっ、この後夜勤でした。イラッシャイマセ!?」
「きゃははは……!」
 話を聞いていた恭志郎が突然錯乱して叫ぶ。そんなケルベロスの様子にすっかり笑顔を取り戻した優は程なく、安らかに寝息を立て始めたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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