赤と白の螺旋は相剋す

作者:銀條彦

●兆し
 ――闇に生きるモノ達が闇へと集う……。
「冴様直々に我ら『無色』を召集とは何事でござろう」
「なにやら主星は今大変な騒乱の只中と伝え聞くでござるがそれと関係するのやもしれぬ」
「我らモブが輝ける好機到来やもしれぬのでござるな」
「モブって言うなでござる。我は今宵ツインテールをセットしてきた故、もはや没個性とはおさらばでござる」
「抜け駆け厳禁でござる……が、まあ我も今宵アフロでござるがなフフフ」
「おぬしら必死すぎるでござる」
 闇へと集ったモノ達は闇に生きるモノ達なりの懸念とか自己主張とかで闇の中しばし割とワイワイ盛り上がっていたのだがそれもピタリと静まる。
「ハイハイはーい! 集まったみたいね!」
 赤纏う頭領、『魅咲忍軍』魅咲・冴の登場である。
 下級忍者である己とは輝きからして何かもう全然違うと『無色』達が気圧され畏まる様子などまるで意に介さず、冴はあくまで明るく気さくな口調のまま配下達へさくさくっと任務のあらましを説明する。
「螺旋帝の一族がなんと、この地球の、日本の、東京都心部に出現したって情報が入ったの。これが本当なら、とても凄いチャンス的な? って感じね。魅咲忍軍の総力をあげて、確保するしかないわよね。で、あなた達には足立区方面に向かってほしいわけ」
 草の根わけても探し出して来てちょうだいねとあでやかな笑みと共に『無色』達へ指令を下した後、言うまでもないことだけどと軽~く冴は言い添えた。
「他の忍軍の捜索部隊と出会った時はもちろん問答無用で皆殺し! じゃ、よろしくー」

 ――闇に生きるモノ達が闇へと集う……。
「都内で複数の忍軍が動き出しているようですね」
 白纏う頭領、『白影衆』雪白・清廉は、呼び名そのままに影のごとく頭垂れたまま居並ぶ配下達へ今こそ白影衆の力を見せる時ですと静かに語り掛ける。
「お前達は、都内に散っている忍軍を見つけ出し、狩るのです――螺旋忍軍滅ぶべし」
「「「「滅ぶべし」」」」」
 いずれも自ら螺旋の力操る忍びでありながらそれらを滅ぼすという狂気じみた渇望のみを信念と抱くモノ達。音も無く闇へと溶けた白影衆の忍び達はその後、北千住駅近くの大学キャンパスで活動中の螺旋忍軍の一団との遭遇を果たす事となる……。

●第三の色
「東京都心部で螺旋忍軍が活発な動きを見せ始めています。複数の螺旋忍軍組織が大規模な活動を行い、衝突し、抗争へと発展している様なのです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が語る内容はつまりデウスエクス同士の潰しあいであり地球にとってはむしろ好ましい事なのだがそうとばかりも言っていられない。
「……彼らは都市やそこに住む人々の被害など全く顧みません。これらの戦闘により都心の各所が破壊され、巻き添えで多数の一般人が犠牲となる未来が予見されているのです」
 そんな未来は絶対に放置できないと訴えるセリカからの依頼は当然、両軍の撃破である。
 足立区北千住の駅にほど近い大学施設屋上で遭遇した『魅咲忍軍』『白影衆』の螺旋忍軍達はそのままグラビティを用いての殺し合いを始める。戦闘発生は明け方に近い夜中だが階下の建物内はまったくの無人という訳にはいかず、また、長引けばいずれ近辺にある住宅街や鉄道駅をも巻き込んでの転戦を繰り広げると予知されている。

 被害を極力抑える為の最善策は、最速で屋上に駆けつけて争いに割って入る事だろう。
 この場合、片方に加勢してもう片方を討ち滅ぼし、返す刀で残りも漏らさず撃破できるのが理想的な展開だが、交渉時に話の運び方を誤ったりあまりに双方の消耗狙いがあからさまな闘い方をしたりすれば消耗薄い2軍団両方から同時に攻め立てられる危険も伴う。とにかく両者を連携させない事を第一に策を練る必要があるだろう。
 もう一つ考えられる方針として忍軍同士の戦いをある程度まで静観し、疲弊した処を一網打尽にして衝くという作戦も考えられる。
 介入タイミングを遅らせれば遅らせるほど螺旋忍軍は疲弊してゆくだろうが多数の一般人死傷者を出す可能性も飛躍的に高まるので慎重な判断が求められる事となる。
 この場合、現場に到着したケルベロスが有効な避難指示を的確に実行できればあるいは、より戦闘を長引かせかつ建築物以外の被害も抑えられるかもしれない。
 ただし、漁夫の利を狙うケルベロスに対しもはや一切の交渉の余地なく2勢力は結託して対抗してくるだろう。
 人的被害を抑えつつ戦いを長引かせて消耗を加速させるという困難を伴う工夫抜きでは、かえって戦況は不利となる可能性すらある点は充分に留意すべきである。
「魅咲忍軍は前中後衛バランスよく布陣し、対する白影衆は使用武器に合わせて前後衛と散ってはいますが螺旋忍軍相手とあって攻撃的な布陣で臨むようです。総合的な戦力はほぼ互角で多対多の序盤はやや魅咲忍軍優位で推移しますが両者の消耗が進めば進むほど個々の能力では上の白影衆が徐々に盛り返す様です。それぞれ特色のある敵でそこを衝けば、元々内部抗争の絶えない陣営ですし、ケルベロスといえど共闘は難しくはないでしょう。ですがそれはあくまで一時の仮初めの物に過ぎません……」
 権謀術策渦巻く中で生き抜く者達相手に真正面から情報収集等を行おうとしても、今回の相手が共に下っ端も下っ端に位置することも併せ、誤情報を掴まされ徒労に終わる可能性が高い。彼らを無事撃破できた後に各自で調査を進める方がはるかに効率が良いだろうとヘリオライダーは忠告した。
「それがいかなる大乱であろうと、デウスエクスが一方的に持ち込んだ権力争いなどに都民の皆さんが巻き込まれる謂われは有りません……」
 建造物であればヒールで取り返しがつくが人命はそうはいかない。彼らの戦いから人々を護れるのはケルベロスだけなのだと鼓舞しセリカは一同を送り出すのだった。


参加者
ゼレフ・スティガル(雲・e00179)
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)
リラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)
鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
葉室井・扨(湖畔・e06989)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)

■リプレイ

●アフロ絶対許さない番犬
 ――共に闇に生きながら決して相容れぬモノ達が闇の内にてまみえる。
「さあ、おとなしく狩られよ――螺旋忍軍滅ぶべし」
「……白影の者共でござるか」
 捜索のさなか学び舎の屋上へと差し掛かった『魅咲忍軍』に『白影衆』が立ち塞がる。
 戦いを挑みつつも伏兵を警戒し直ぐには仕掛けぬ白影の下級忍者達。
 対する魅咲の無色達も応戦の構えは取りつつも明らかに螺旋帝一族捜索の部隊ではなさそうな敵が相手。無言で目配せしあった彼女達は一瞬にして『適当にあしらい転戦しつつ振り切った後、命じられている本来の任務へ戻ろう』という方針で一致し意思疎通をし終える。
 ――だが。
「!? さらに新手でござるか!」
「これは……定命化した妖精族の技か……」
 睨み合いの後に2隊が激突しようとした寸前、待ったを掛けたのは殺界形成。
 サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)が発した殺気は二つの効果をもたらした。
 一つは人避け。おそらく今現在、大学敷地内に残る一般人達はこぞって何かの急用を思い出したり何となく未明の街へと繰り出したくなったり等いそいそと動き始めたはずである。
 そしてもう一つはケルベロス到来をデウスエクス達に伝える効果である。シャドウエルフ特有の殺界をこれほどの範囲に広げられるのはおよそケルベロス以外は考えられない。

 白のコートを夜風にはためかせ颯爽と――。
「義によって助太刀しよう」
 ゼレフ・スティガル(雲・e00179)が登場したのを皮切りに、白装束の一団が続々と屋上へと集結し口を揃えて白影衆への助力を申し出た。
「多勢に無勢――とまではいかずとも、少数では、おつらい、ご様子」
「相手はお嬢さん方とは言えその人数では大変そうだ」
「故に我らが助太刀致す! ……えへへこういうの一度言ってみたかったの。ってことで、一緒にがんばろうねっ」
 オラトリオであるリラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)、葉室井・扨(湖畔・e06989) 、メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)もそれぞれ今は揃いのフードを目深に被っての没個性。
「……何を企んでいる?」
「倒すために来た、それだけだ」
 何処かで聞いたような台詞ばかりだなとゼレフは淡く自嘲しながら、それ以上は言葉ではなく行動でと銀の切先が魅咲忍軍へと向けられる。
 唐突に共闘を持ちかけられた白影衆だがケルベロス相手と解っていながらそれに飛びつくような者はおらずいまだ警戒心むき出しである。
「てめぇアフロニンジャ今日こそぶっ潰す!」
「ぶへほっっ!?」
 そんな疑心暗鬼漂う戦場の空気なぞまるで読まずいっさいがっさい問答無用。
 鋼鬼と化したサイガの拳がアフロ無色のどてっぱらへと突き刺さり、続けて、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)もまた長柄の一刃から雷神を思わせる突きを繰り出してアフロに畳み掛ける。
「アフロとその取り巻き、ここで会ったが百年目。恨みはねーが晴らさせてもらうぞ」
「無いのにでござるかっ!?」
 いきなりくの一装束切り裂く2連発だがあいにくとアフロだ。
「貴様ら魅咲忍軍だな? これ以上の好き勝手は許さんぞ!」
 返答は待たずさらなる問答無用な白装束、レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)がYIELD-FIELD:Gを展開させる。
 装束を切り裂かれたくの一の全身に蔦が絡みついて責めたてるある種忍法帖な展開。
 だが遺憾ながらアフロだ。
「むっ!? ……そうかそうか、そっちも連中の被害者というわけだ! ならばここは一つ共同戦線と行くかっ!!」
「――何にせよ狩りの好機か」
 相変わらず相手からの返答は待たず勢いだけで押し切らんとぐいぐい踏み込むレッドレークに、否定も肯定も返さぬまま便乗して魅咲との戦いを再開する白影衆が現れ始める。
「周辺被害を極力抑えたいってこちらの思惑は初めにちゃんと伝えておくわね。単純に数の利がひっくり返る点、そちらにとってもそこそこ悪くはない話なのではないかしら?」
 一方でいまだケルベロスを訝しみ刃を向ける白影衆に鎧塚・纏(アンフィットエモーション・e03001)は平然と手を差し伸べる。すると猛然とあがる抗議の声。
「仕掛けてきたのはそもそも白影方。我らはここで戦う意思なぞ毛頭なかったでござる」
「被害を抑えたいのならそっちの見境いなし白モブ共から滅ぼすべしでござる白モブ達よ」
「そ、その呼び名はブーメランでござる……とにかく我らに戦う理由なぞござらん」
「白を纏うモブとモブとモブの邂逅の奇縁に免じ、仲良くは無理でも、全員モブらしく今宵この場は一旦ひっそりとモブっぽく退こうでござる、な?」
「モブモブややこしいモブ。あ、語尾まちがえたでござる」
「――ごちゃごちゃうるせぇ!」
 再びアフロめがけてのサイガ突貫の叫びに無言の白影衆からも何となく全面同意の空気が漂った……様な気がする。
「だからアフロ違いでござるっ! ――くっ、やはり時代は縦ロールでござったか!」
 態勢を整えがてら交渉阻止をも図る無色全員が分身忍術による自他へのヒールを選択したので魅咲側はアフロ6名・ツインテ5名・セミロング5名の計16名となり頭数だけならすっかり再逆転で視覚的にもごちゃごちゃうるせぇ状態だった。

●白たちの相克と相生
「さすが魅咲忍軍、濃いなあ」
「え!? ……ま、まあ、それほどでもあるでござるが。おぬしらも敵モブの割には素材は悪くないと思うでござる敵モブの割には」
 感嘆めいた感想を漏らし夜を炎で照らす大刃振り降ろしたゼレフの一撃を瞬時にアフロと立ち位置を入れ替えて引き受けたツインテールは苦無一本で受け止める。依然、没個性モード続ける彼から褒められた(いや、褒めてない)彼女は舞い上がりなどはせずむしろ上から目線である。
 見かけのノリこそアレだが集団戦闘のプロフェッショナルである魅咲忍軍の無色達は同時に対集団戦の巧者でもある。彼女達は堅実かつ均整の取れた戦いぶりで数の不利をよく凌いでおり、血気に逸って突出する者あれば即座に螺旋六連が牙を剥く。
「……何故……」
「白影もケルベロスも関係ないわ、今は仲間だもの」
 共闘を良しとせぬ忍者狩りもまたそんな危機に見舞われたが寸での所でメイアが身を挺し分け隔てなく庇ってみせた。僅かにずれたフードの下、間近の白影衆にだけ見せた空色と、コハブが懸命に癒しを注ぐさまは闇の中にあってなお明るさを失わない。
「……レディ達も中々に侮れないようだね」
 敵味方問わず女性に優しい扨だが、彼の意識は既に半ばこの後に控えるもう一つの戦いへと向かいつつあった。
 故に白影衆の男達の信を得るべく黄金の果実を実らせる一方で、無色の女達にさしむけるは漆黒の澱み――さあ、腐蝕よ暴食よ、と。
 戦場でブラックスライムを駆るは久々となる扨は、自身に滲みる記憶に卓越したスライム遣いである想い人のイメージとを重ねて闘い、無色の分身体を次々に喰らわせてゆく。

 利害の一致を強引に納得させ、さしあたって白影衆からの攻撃は魅咲忍軍のみに向けられ続けている。
「そうそう、敵の敵は味方ってなァ!」
 己の間合いに持ち込んでの肉弾戦にサイガはその両拳を荒々しい程に躍動させ、だが一方で、時に他のケルベロスとはあえて標的をずらし炎弾幕やガトリング乱射を叩き込んで的確に敵陣を撹乱する。
「カツラ、外せばよかったのではござらんか?」
「……あ」
 一方的に因縁つけたアフロ無色を討ちとった後もケルベロス達の闘いぶりは止まるどころかむしろ加速を見せ始める。
「や、アニメや漫画じゃああるまいしくの一な上にツインテールとか属性盛り過ぎだから! 没個性で忍んでこそのニンジャでしょ!」
 力説する纏が澪音の薄刃で結いあげた片髪を斬り飛ばした間隙を衝き、ツインテール無色へと肉薄した白影の刀使いは一呼吸、一閃のもとこれを斬り伏せた。
「ありがと、やるじゃないか」
 親しげに礼を述べるゼレフに返る声こそ無いが、仮面越しの一瞥から感じ取れる殺意は、魅咲へのそれと比べれば薄れつつある。
「つーかそこの白フード被ったサーヴァント共は何モブっぽく溶け込めたカンジになってるでござるか。ソレふつうにキャラ立っちゃってるでござろう!」
 前衛列を欠いて尚も粘る魅咲忍軍の猛攻の前に沈むボクスドラゴン。
「ああっ、フードコハブのラブリィさが仇に!!」
「フードベガ、も、かわいい――から、気をつけて、ね」
「別にそのゆるキャラ共をやっかんで倒した訳ではござらん人聞きの悪い!!」
 どうやら敵は回復役から潰す戦術に切り替えたらしく、ここまでヒール主体で戦ってきたコハブ、扨が相次いで倒される。
「流石に、少し、疲れたねぇ……」
 一方で助勢得た白影衆4名は無傷とはいえないがいまだ全員が健在である。
 元々ブレイクを携える前衛の日本刀使いに加えて、リラが放った箒星の如き煌めきの一矢によって後衛スナイパー2人もまた妖精の祝福を得た破剣の使い手となり、敵ジャマー達の付与をうち破ってくれている。
「やさしい、やさしい、星達よ。どうか、わたしに、力を貸して」
 すべてを救うと決意して今この戦いに身を置く少女の掌はそっと耀りを掬いあげる。
 なにものも取りこぼさせない、その為に。

「此処が年貢の納め時のようだな魅咲忍軍! 生かさず逃さず取り立ててやるぞ!」
 他のケルベロスと異なりレッドレークは白影衆を庇ったり癒したりはしなかった。
 だが一兵たりと逃がすまいと包囲に心砕き、魅咲忍軍への敵意を常にアピールしつつも戦友達へのフォローを欠かさない彼の戦いぶりは、尊大ともいえる言動とは裏腹にむしろ献身的であるとすら言えた。
(「俺様は無理に白影への直接アプローチなぞせん方がいい! ……きっとボロが出る」)
 もともと没個性演出にと用意されたフード付マントコートだったが嘘が苦手な彼にとっては赤き個性だけでなく本心すら覆い隠してくれる白き防壁となってくれていた。

 セミロング無色のみとなった魅咲忍軍の瓦解は急速に進む。もしもに備え介入後の殺界形成追加を準備していた紺だったがこれならば転戦を許す事なく決着をつけられそうだと思案する。始発時間も遠くはないこの時刻に鉄道駅までをも範囲に含むこの立地での殺界は早々に仕舞いたい所だ。
「戦い争う者の宿命です。どこへ行こうと、決してあなたを逃しません」
「うああああ!? モヒカンは嫌だせめてソフトモヒカンンン!!」
 『血染めの戦記』がもたらしたのは――何そのトラウマ。
 ともあれすべて討ち果たされた魅咲忍軍の無色達の、その死の前で。
 ようやく清々したと、バサリ、派手にマントを翻したレッドレークはノリノリで纏うその赤とドレッドヘアーを見せつけた。
「……モブじゃ、ない……!?」
「個性を主張したいなら髪型だけでなく、全身で表さなければな!」
 リラもまた白装束を脱ぎ捨てる。
 顕れた花のかんばせに瞬く紫瞳は逸らすことなく消え逝く命たちを見送る。
「星々が、導く先へ。 ――あるべき場所へ、おかえり」

●死を看取る色は……
「礼は言わぬ――が、お前達にいつか全てのアフロニンジャを討ち滅ぼす日が訪れる事だけは祈らんでもない」
 大真面目に、どこか吹っ切れた口調でそんな風に声を掛けて来たのは手裏剣使いの男。
 痛む胸を押し殺し、常の飄たる口元を保ったままゼレフはゆっくりとフードを降ろす。
 疲労濃い双刀使いの男の前へと歩み寄った彼から片翼が如き火勢の銀炎――『嘆きの炎(クルィーロ)』が噴きあがる。
「!?」
 逃れ得ぬ至近から発したその灼閃を皮切りに開始された、集中砲火。瞬く間にまずひとりが討たれた。
「ごめんよ、正直ひどい気はするんだけど――手加減はしない」
「『倒すために来た』、か……成程」
「こっちもオシゴトでさ? ――ニンジャ殲滅お手伝い第二段、ってな」
 どうせ飼い犬同士と悪びれず、蒼く黒く冷たいサイガの『地獄』が鬼火の如くに先迄の共闘相手に触れるや怨嗟を呻いて片腕を焼き焦がす。
「まぁ! 何だか悪者にでもなった気分だわ。でも『貴方はわたし』、貴方だって悪者!」
 纏もまたケロリとした笑顔で短剣を突き立て、謎めいたことのはと共に、活力を拝借するのだった。
「ケンカは両成敗。だから……悪い子には灸を添えなきゃ、ね」
 仲間だと告げた同じ唇でメイアは竜語魔法を紡ぎ火炎吐くドラゴンを解き放つ。
「平穏に暮らす、ひとびとを、巻き込むとあらば、見逃すわけには、参り、ません」
 リラの前で生まれた星創る稲妻は、ケルベロスの揮う武器に星屑をまぶせ更なる威力を賦活させてゆく。
 すくうべきすべてとはこの星にすむ人々。彼ら彼女らが顧みもせずたやすく散らそうとした命の耀り。故にこそリラに迷いは無い。
「さあ、喧嘩は、これでおしまい。 ……観念なさい、な」

 もはや逆転の芽はこれのみと白影残党は戦闘不能のケルベロス確保を図ったが、紺の轟竜砲に支援を受けたメイアが割って入り凌駕に至りつつも難を逃れる。注がれる星の癒し。
「メイアちゃんっ! ――『貴方はわたし』。でも。もう――『貴方』は消えなさい」
 眼前で大切な友達が危機に晒された纏の静かな怒りは、揺れるミルクティの髪と魔力を煽り、貪欲な程に空間へ生命へと浸透して『火』の生成へと到る。
「紅蓮に染まりなさい、その後は真っ黒焦げ!」
 促されるまま白影のすべてを内側から爆ぜさせた少女の魔法の絡繰は『盲愛浸透圧(オスモティック・パラノイア)』――すべては既に終わっていた。少女が『届かせる』と想い、決めたその瞬間に。数に劣り治癒手段もない白影達は順に狩られてゆく。
 ――ともあれ、ここに到ればもはや、嘘も演技も白きマントも要らない。
 最後の足掻きに放たれた螺旋の大竜巻を、ゴーグルの奥でむしろ何処か安堵すら覚えてレッドレークは受け止め、斬り刻まれながらも、揺るがない。
 無言のままに、真正面から返したのはただ嘘偽りのない渾身かつ愚直な、赤き一撃。
「なるほど我々はもっと狂うべきだった。志以外の何物にも耳を貸さず……すべて……」
 地獄の炎を纏わせた赤熊手が白影の徒めがけて振り下ろされる。ひしゃげる仮面。
「――滅ぶべし」
 血反吐まじり吐かれたその一言と共に、炎はなおいっそう赤を増して、不死の男の命脈を燃やし尽くすのだった。

 夜明けを待つ空の下。
 修復ヒールに励むリラに抱えられた黒猫が一声鳴いて何かを見つけたと伝える。
 それは唯一、白影衆に討たれた故にコギトエルゴスムと化すに留まったツインテールの『無色』だろう。先の戦いで彼女が幾度か振り撒いた白金平糖を何処か思わせるその石を、横合いから、躊躇なく掴み砕いたのはサイガの拳だった。
「――そう。ソレが似合いだよ」
 手を払いようやくマントを脱ぎ捨てた男は誰にともなくそう吐き捨てるのだった。

作者:銀條彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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