土の下這いずる影に

作者:幾夜緋琉

●土の下這いずる影に
『はぁ、はぁ……う……うぅう……』
 深夜、何の変哲も無い部屋の中。
 冷水を頭から何度も何度も被る男。
「……や、やなもん、みちまった……ううううう……」
 その顔は、恐怖に引きつっている。
「何だよ……あれ……あんなでっけえミミズ、見た事もねえよ……ううう、悪夢だ。悪夢だ……」
 ……譫言のように、幾度となく繰り返す、彼。
 そんな彼の背後から、そっと近づいてくる……女。
「……」
 そして、女は、彼の心臓を、背後から一突きに突き刺す。
 心臓を穿つ鍵は、体を突き抜ける。
 ……そして、女は。
「あははは。私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『嫌悪』する気持ちも分からなくは無いね」
 と笑う。
 そして、男はそのまま意識を失い崩れ墜ち、それと共に、人並みの大きさをしたミミズが出現。
 声にならない鳴き声を上げると、男の家からうぞろうぞろと抜けだし、夜の町へと侵出していくのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスか? それじゃ、早速ッスけど、説明させて貰うッスよ!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスらに一礼し、早速。
「ケルベロスの皆さんも、嫌いなモノはあると思うんッスけど……ミミズが苦手な人も居るッスよね?」
「今回、この苦手なものへの『嫌悪』を奪い、事件を起こすドリームイーターが現れた様なんッスよ」
 と、錆滑・躯繰(屍と踊れ・e24265)に視線を配す。
 そして、更にダンテが。
「この『嫌悪』を奪ったドリームイーターは、既に姿を消してしまってるッスけど、奪われた『嫌悪』を元にして、現実化した怪物型ドリームイーターにより、事件が起きようとしているんッス」
「ケルベロスの皆さんには、この怪物型ドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破してきて欲しいッス。このドリームイーターを倒す事が出来れば、きっと『嫌悪』を奪われた被害者も、目を覚ましてくれる筈ッスからね!」
 そして、ダンテは詳しいドリームイーターの情報の説明を続ける。
「このミミズのドリームイーターは一体のみで、その他に配下の様な存在は居ない様ッス。まぁ、巨大化ミミズが何体も現れたら、それはそれで恐怖ッスけどね……」
「このドリームイーターの攻撃方法は二つある様で、一つはその口のような所から緑色の液体を噴出する事ッス。この液体は毒の効果か、服を溶かす服破りの効果のどちらかが発生する様ッス」
「そしてもう一つは、そのぬめぬめした巨体をフルスイングで振りかぶり、殴りつけに似た様な攻撃をしてくる様ッス。この攻撃は、単体の接近攻撃ッスけど、一撃がかなり痛い様ッスから、注意して下さいッス」
 そして、ダンテは。
「こういう生理的に受け付けないモノって、誰でもあると思うんッスよ。でも、それを奪ってドリームイーターにするのは決して許せないッス。気持ち悪いかもしれないッスけど、どうか宜しく頼むッス!!」
 と、ぺこりと頭を下げるのであった。


参加者
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)
斎藤・斎(黒の剣の担い手・e04127)
荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)
尽影・ユズリハ(ロストブレイズ・e22895)
錆滑・躯繰(屍と踊れ・e24265)
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)
八剣・小紅(花香・e29167)

■リプレイ

●土の下の不気味者
 巨大ミミズが、第六の魔女・ステュムパロスによりドリームイーターとして産み出される……という話を聞いたケルベロス達。
 既に深夜の刻、町は静けさへと包まれており、何処か不気味な雰囲気が漂っていた。
「ミミズか……害もなく、普段見えない存在だから、そう嫌わなくても良いと思うが……」
 と、尽影・ユズリハ(ロストブレイズ・e22895)が肩を竦めると、それに錆滑・躯繰(屍と踊れ・e24265)
「……土の中をうごめくならともかく、外に出られるとこれはもうただの害悪だな……それに巨大な虫は、この地球にもう必要ないからね。邪魔なだけ」
 そして、躯繰は八剣・小紅(花香・e29167)を見返しながら。
「ま、とはいえ現実にも体長3m近いミミズは存在しているけど……これは体長だけでなく、胴まわりもかなりありそうだな」
「そうね。一番苦手な虫……なのに、大きいなんて最悪……躯繰がいなければ絶対に参加しなかった類いの依頼なんだけど……ここまで来たら頑張らないと……う、うん」
「まぁ、何というか、嫌悪感は無いけどひたすらに面倒臭い相手だな。仕方ない。害虫駆除に勤しむとするか」
 ……小紅に対し、躯繰は何処か余裕を口にする。
 そんな会話に対し、セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)は。
「みんなミミズ嫌いなのかー。自分は好きなんだけどなぁ、作物美味しくなるし」
 と。
 確かにミミズは、田畑の鍬とも呼ばれる程に、作物を美味しくしてくれる生物であるのは間違い無い。
 ただ……流石に3mと言うミミズは、作物に良を与えてくれるとは、正直思えない所もある。
 でも、その姿形についてはやはり……。
「ミミズかぁ。うーん。まぁ、好きか嫌いかで言うととても嫌いだな。殺すのもおぞましいから、普段なら触らず放っておくんだけど、有害で巨大とあっちゃ仕方ないね。せめてとっとと倒されてくれって所だ」
「ええ……大きなミミズ……怖いというか……気持ち悪いというか……その……わたしも苦手で……」
 イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)と荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)に、アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)と斎藤・斎(黒の剣の担い手・e04127)も。
「うんうん。そうだねそうだね! でも、一般人に被害が出ない様にしないとね!」
「……そうですね。街や人に被害が出るより早く、ドリームイーターの殲滅を行うとしましょう」
 そう頷き合って、そしてケルベロス達は……巨大ミミズの出現場所へと向かうのであった。

●滑りの体に
 そしてケルベロス達は、夜の街を歩く。
 ……幸いな事に深夜の時間故、殆ど出歩いている人はいない。
 そんな深夜の時間、更にセルリアンが殺界形成を発動して人気を遠ざける。
「セルリアンくん、ありがとうね。代わりに僕、いっぱい殴るね。美人なレディ達にも、服破りなんて届かない様、守って見せるよ」
 と宣言すると、躯繰がそれに。
「そうだね。私達で守ってあげないとね。小紅ちゃんはミミズが大の苦手だそうだし」
「……うん……」
 ……と、そう言ったその瞬間。
 甲高い鳴き声の様なものが、突如其の場に響き渡る。
「え、こ、これって……?」
「ネズミの鳴き声……かな? 声じゃないよね」
 と苦笑するイブ。
 程なくして、そんな巨大ミミズがうにょうにょにょと、目の前に姿を現わす。
 やはり、3mの巨大な胴回りのミミズはとてつもなく、気味が悪い。
 ……そんなミミズがうねうねと、目の前に蠢いているのは、正直……トラウマになりそう。
「……!!」
 そんな蠢きに、最早涙目な小紅。対しセルリアンは。
「ほんと、大きなミミズだね。これだけ大きなミミズなら、一匹で大量の良い土を作ってくれそうだけどなぁ……悪さしてるならお仕置きしなきゃいけないなぁ。気が進まないなぁ」
 と、何処か苦笑しつつ、対峙。
 その隣では、イブも。
「そうだね。こんなミミズだけど、耳はあるのかな? ……僕の歌、ちゃんと聴いてよね?」
 と不敵に微笑む。
 その間に、周りにぱぱっとキープアウトテープを張り巡らせて、その場に他の一般人を立ち入らせなくするアイリス。
 ……一通りの人払いが終わり、全員がミミズの目の前に対峙すると共に。
「皆、準備はいいか? ……それでは、始めるとしよう」
 とユズリハの言葉に頷き、ギャウ、とボクスドラゴンのシオンが鳴いて、仲間達に次々と属性インストールを展開し、BS耐性を展開していく。
 そんなケルベロス達のグラビティに反応するかの様に、ミミズは緑色の不気味な液体をプシュウ、と噴射する。
 ……その液体が服にかかると、シュウウ、と白煙を上げて、服が溶ける。
 更に、その液体が肌につくと、火傷したような、そんな痛み。
「ん……ッ!」
 と、その攻撃を受けた小紅は、唇を噛んで耐える……そして、軽く肌身が露わになったのを、見返して。
「キャ……ッ!!」
 と、悲鳴を上げる。
 そんな彼女に、速攻綺華のウイングキャットのばすてと様が、翼を広げて回復。
 更に、アイリスが。
「大丈夫? すぐ、回復するね!」
 と、黄金の果実で、回復とBS耐性を重ねていく。
 そして、ミミズの消化液攻撃の後、続く躯繰が。
「本当、その図体だけ見ると巨大になったミミズ、って感じだね。確か兄これを見たら、普通悪夢になるよ」
 と言いつつも、相手に接近。そして小紅に。
「さ、行くよ。併せて」
 と言うと、頷く小紅……躯繰の血襖斬りに、合せる様にして。
「ぬめぬめって凍るもの? わからないけど……お願い、凍って」
 と、氷鎖斬の一閃で叩っ切る。
 ……その一撃に、軽くではあるが、その周りの粘液が凝固する。
 が、全身とまでは行かず、ほんの一部分が氷るがのみ。
「……一応、凍るかと言えば凍るみたいですね。そこまで効果は無さそうですが」
「そうだね。元々表面がぬめぬめしているから、打撃自体の効果は低そうだけど。それなら……獲物はこの子が良さそう。おいで、遍喰」
 と、斎に頷きつつ、セルリアンはブラックスライムを召喚。
 ……その目の前で蠢くブラックスライムに。
「終焉が来たるその日まで、障害の全てを斬獲するって契約だろう? それなら、この程度はただの通過点だろう? さくっと殺って、糧にしてしまおう」
 と、言い放つ。
 ブラックスライムはその指示を受け、ミミズへと襲いかかっていく。
 ミミズに襲いかかる、スライム……奇妙な光景。
 とは言えそんなミミズを倒さなければ、話は終わらぬ訳で。
「まぁ……ミミズだけあって、動きはそんなに素早くないみたいだし。まぁ、素早いミミズなんていうのもごめんだけど」
 と言いつつ、イブがポジショニングで狙いアップを付与すると、それに合わせる様に斎もインフェルノファクターでの壊アップ。
 ディフェンダーの綺華も。
「天におられる……わたしたちの父よ……み名が聖と……されますように……」
 と、『剣士ニ捧グ少女ノ祈リ』で、前衛列を一斉に強化する一方、ユズリハはスターゲイザーで、シオンもボクスブレスでミミズを攻撃為ていく。
 そして、次の刻。
 ミミズの蠢きはさほど変わる事無くウネウネとしている……本当、常人だったらば、それで発狂もしかねない。
 ……でも、一般人の足止めは完全にされているから、それが障害になる事は無い……気持ち悪いだけ。
 勿論、服を溶かす消火液の攻撃は絶え間なく続く……それを一つ一つ交わし、耐える前衛陣。
「……ファンの前で格好悪い姿なんて見せらんないな。服が溶けている姿なんて特にね」
 とイブは特に、それら攻撃を徹底的に回避する。
 そして、反撃とばかりに、ミミズをグラインドファイアの炎で一気に包み込んでいくと……ミミズは炎の中で悶え苦しむ。
 そんなミミズの火葬、氷葬を、次々と喰らわせる事で……ミミズは明らかに、体力は削れていく。
 ……経過する事十数分。
 その蠢くミミズの動きが、少しずつ、鈍り始める。
「……? もしかして……」
 と、綺華が言うと、それにアイリス、ユズリハが。
「うんうん。もう少しみたいだね!」
「分かった。君の終わりを、私が見よう……」
 と言うと共に、ユズリハは『無明の月』を放つ。
 その一撃に、ミミズは吹き飛び、壁へと叩きつけられ……。
「Erue a framea animam meam et de manu canis unicam meam Salva me」
 と、イブが「慟哭のシンフォニア」の旋律を口ずさむと……ミミズは、甲高い鳴き声の様なものを上げて、崩れ墜ちて行くのであった。

●恐怖に蝕まれる命
 そして……どうにか巨大ミミズのドリームイーターを倒したケルベロス達。
「よし、一件落着……と、すっかり汚れてしまったな」
 と、自分の服の汚れを見返すと共に……ユズリハは綺華にコートを掛けて上げる。
 その一方、小紅も……自分の体に着いた、気色悪い液体に嫌悪感を露わにしながら。
「うぅ……夢に出て来そう……早く、この液体を、拭わないと……この辺りに、水場は、っと……」
 と、周りをキョロキョロと見渡し、水場を探す……が、そう簡単に水場の様なものは街中にある様なものではない。
「……ほら」
 と躯繰は小紅にタオルを掛けてやる。それに、あ、うん……ありがとう……と、小声で。
 ……躯繰はそんな小紅に苦笑。
「まぁ、みんな、早く帰ってお風呂にはいろ!!」
 とアイリスが提案すると、それにセルリアン、斎も。
「そうだな。後は破壊痕の修復と……被害者の安否確認もしておかないとな」
「そうですね……ああ、服の汚れについては、クリーニング出来ますから、言って下さいね」
 と提案、小紅が。
「あ、お、お願いします……!」
 と、渡りに船的な感じで、クリーニングとヒールを受け手、服の汚れや破れを全て、回復していく。
 一通り回復し終わった後に、土地の回復も行って……大方終わった頃には、うっすらと空も明るみ始めた頃。
「さて……無事に終わった様だし、折角だ。皆にミミズ料理を振る舞う事もやぶさかではないぞ。阿鼻叫喚の表情が見たいからな」
 と言う躯繰に、更に涙目になる小紅。
「まぁ、冗談だ。とはいえ本来ならば栄養豊富で薬にもなり、生物循環の根拠を担う生物なんだよな、ミミズは。完膚なきまでに駆除するのは、本来気は進まなかったが……まぁ、仕方ないだろうな」
「そうだね。ま、何にせよ、後は無事を確認した上で帰るとしよう」
 と、躯繰、イブの言葉に皆も頷き、そして……男性の下を経由し、帰路につくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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