一角獣は、男の子がお好き？

■リプレイ

●伝説の神獣
　奥深い森に包まれた山の中。鹿や猪しか通りそうにない道を分け入りながら、ケルベロス達は噂の具現化したユニコーンを探していた。
「ククク、男好きのユニコーンとは！！　我の目を持ってしても想像もつかなかったわ！！」
「乙女じゃなくて男に従順なユニコーンとは面妖な……いや、全然従順じゃあないか」
　龍造寺・天征（自称天才術士・e32737）が大声で叫んだところで、ライ・ハマト（銀槍の来訪者・e36485）が横から溜息一つ。
　今回の敵、確かに珍しさはあるものの、できれば存在して欲しくない相手である。おまけに、無駄に攻撃的で精力絶倫な感じが溢れている辺り、本家本元のユニコーンよりも性質が悪い。
「シュッと刺して捻る！　シュッと刺して捻る！　シュッと刺して捻る！」
　ライトニングロッドで素振りをしながら、霧鷹・ユーリ（鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284）は早くもユニコーンを退治するための予行演習真っ最中。
（「すまん……。皆、本当にすまん！」）
　ルシッド・カタフニア（真空に奏でる・e01981）に至っては、自らの尻を案じるあまり、上空からの偵察に留まっている始末。まあ、気持ちは解らないでもないが、しかし肝心のユニコーンと遭遇できないまま夜が明けてしまっては話にならない。
「出てらっしゃい！　此処にも男の子いっぱいよ！　色んな子がいるから好みの子も絶対いるわよ！」
　少しばかり開けた場所に出たところで、エディス・ポランスキー（銀鎖・e19178）が周りに聞こえるよう大声で叫んだ。その音に驚いたのか、梢に止まっていた鳥が一斉に夜空へ飛び立って……同時に茂みが激しく揺れたところで、いかにも神々しいオーラを纏った一頭の獣が現れた。
「出会えたわね、男好きのユニコーン。さぁ、この中に好みの子はいるかしら？」
　敢えて男性陣に注意が向くように、エディスが興奮気味に問い掛けた。
「うわ、本当にユニコーンなんですね！　これで中身が変態じゃなければ……」
　どこか残念そうな表情を浮かべつつも、朱藤・環（飼い猫の爪・e22414）もまた、男性陣の姿を懐中電灯で魅力的にライトアップしながら呟いている。そんな光に誘われたのか、ユニコーンは蹄を鳴らしてゆっくりとケルベロス達に近づくと……実に物々しい口調で、彼らに自らの存在について問い掛けて来た。
「我、汝ラ二問ウ……。我ハ、何者カ？　汝ラノ思ウ真実ヲ答エヨ！」
　その身に違わぬ、威厳に満ちた雰囲気。しかし、残念なことに中身はガチホモ！　蹄の先から角の先まで、紛うことなきガチホモ野郎！
「えっと……ユニコーン、なんじゃないかな？　……一応」
　かなり引きつった表情で、井之原・雄一（快楽喰いの怪物・e05833）問に答えた。ここで下手に間違った答えを言って、激高された挙句、執拗に尻を狙われては堪らない。
「……まあ、よい子のみんなには見せられない存在だわな」
　モザイク状の、どう見てもアレな物体にしか見えない角を横目に、分福・楽雲（笑うポンポコリン・e08036）も呟く。だが、そんな楽雲の答えが不満だったのか、ユニコーンは途端に鼻息を荒げて蹄で大地をかくと、主に楽雲に対して猛烈な怒りの視線を向けて来た。
「貴様……我ヲ愚弄スルツモリカ？　許サヌ……許サヌゾ！」
　全身から立ち昇る、異様な空気。獰猛なガチホモの本性を剥き出しにして、ユニコーンはモザイクの角を振り立てながら、ケルベロス達に襲い掛かって来た。

●後ろ、後ろだ！
　鋭い一本角をモザイク化させた、ガチホモ趣味のユニコーン。だが、デウスエクスとしての力は確かなようで、開幕と同時に楽雲目掛け、伸縮自在の角を伸ばして突き立てて来た。
「……っと！　そう簡単に、当たるかよ！」
　ギリギリのところで攻撃を避ける楽雲。如意棒のように伸びた角の先は彼の後方へと飛んで行ったが、果たしてそれで、本当に回避できたのだろうか。
「楽雲さん！　後ろ！　後ろに角が！」
　慌てて環が叫ぶが、もう遅い。なんと、明後日の方向へ伸びて行ったはずのユニコーンの角は、あろうことかＵ字状に折れ曲がり、そのまま楽雲の尻目掛けて一直線に突撃して行ったのだから。
「えっ、後ろ……って、うぎゃぁぁぁっ！！」
　森に響き渡る楽雲の悲鳴。尻に深々と角が突き刺さった彼の姿を、ある者は哀れむような目で、またある者は口元を覆って言葉を飲み込みながら、それぞれドン引きしつつ見つめていた。
「なんと！　伸縮自在なだけでなく、あのような軌道まで描くとは……これは、油断できんな」
「楽雲……ドンマイだ……」
　感心したような口調で叫ぶ天征に対し、ライは既に目元まで手で隠しつつ溜息を吐いている。
　ああ、これは酷い、あんまりだ。一刻も早く敵を倒さねば、本気で男性陣の尻が危ない。
「ユニコーンってつまり処女好きってことだよね？　男子のお尻を狙うってのは、つまり男子の処女厨……？　う、ん……可能な限り速やかに消そうか」
「よし潰そう、とっとと倒そう、そして消そう。こんな存在あっちゃいけない！」
　楽雲が倒されたら、次は自分だ。背中に冷たい物を感じ、雄一とルシッドの二人は思わずユニコーンから距離を取る。雄一が狙撃に最適な間合いを取り続けているのに対し、ルシッドは本気で近づかれたくないのか、懸命に時間を凍らせる弾丸を放って敵の動きを牽制していた。
「チェインの罠にも引っ掛からない……。性癖はともかく、知能は高いみたいね」
　続けて、エディスもまた空の霊気を宿したナイフを片手に、ユニコーンの身体を擦れ違い様に斬り付ける。
　本当は色々と仕込みをしたかったのだが、そもそもケルベロスの使用する武器は、攻撃手段以外の方法で用いることに向いていない。手番を遅らせることも考えたが、常に状況が変化する戦場で、チャンスを潰してまで自らの手番を遅らせるのは、攻撃の機会を大きく見逃すだけの悪手に成り兼ねない。
「うぅ……お婿に行けなくなるじゃねーか！　責任取れ！！」
　尻の痛みに耐えながら、跳び上がった楽雲が敵の難きモザイク角目掛け、巨斧を容赦なく振り下ろした。続けて、天征が側方から回り込み、卓越した匠の技でユニコーンの身体を凍結させ。
「みんなのお尻……じゃなかった！　後ろは、私が守ります！」
「動き回られると厄介だからね。足を止めさせてもらいますよ！」
　環のオウガメタルが銀色の粒子を散布する中、その力によって極限まで集中力を覚醒させたユーリが、ハンマーの柄から竜砲弾を発射した。
　山間に轟く凄まじい響き。さすがのユニコーンも、これには少々怯んだのか、忙しなく動かしていた脚を止めてしまい。
「よし、取った！」
　側方から飛び掛かったライが敵の背中に乗り、手にしたナイフで滅多刺し！
「クッ……不埒ナ女子メ！　我カラ離レヨ！！」
　背中のライを振り落とすべく、滅茶苦茶に暴れながら叫ぶユニコーン。ガチホモ故に、女子に乗られるということは、屈辱以外の何物でもないのだろう。
「これ以上は危険だな……離脱する！」
　掴んでいたタテガミを切断し、ライは受け身を取る形で山の斜面を転がった。見れば、敵のユニコーンは早くも傷だらけになっていたが、しかし何故か慌てる様子もなく。
「我、神ナル獣……故ニ、不滅ノ存在ナリ！」
　気合いと共にモザイクを飛ばし、ユニコーンはそれを自らの身体に張り付けることで、難なく傷を回復させてしまった。
「不滅の神、だと？　ククク……そうでなくては、面白くない！」
　復活したユニコーンを前にして、天征は何やら高ぶる物を感じつつ、再び果敢に仕掛けて行く。だが、その一方で他の男性陣達は、ユニコーンの誇る変幻自在の角攻撃に、完全に尻込みしてしまっていた。

●尻の仇
　深夜の山奥に響き渡る轟音と爆音。ガチホモユニコーンのドリームイーターを相手に、ケルベロス達の戦いは佳境を迎えつつあった。
「サア、受ケヨ！　我ノ聖ナル角二ヨル一撃ヲ！」
　額の角を振りかざし、突進してくるユニコーン。その瞳が自分を捉えていることに気づき、ルシッドは思わず正面にいた楽雲を盾にした。
「すまん！　こればかりは、本当に無理なんだ！　本当にすまん！」
「ちょっ……そんなの、俺だって同じだ！　ってか、二回目とかマジで勘弁してくれ！」
　ドリームイーターそっちのけで、自らの尻を守ろうとする男が二人。だが、そうこうしている間にも、敵の伸ばした鋭い角は、一直線に彼らへと向かって行き。
「「うわぁぁぁっ！　く、来るなぁぁぁっ……って、あれ？」」
　同時に悲鳴を上げたところで、ルシッドと楽雲は互いの顔を見合わせた。
　いつまで経っても、尻を突かれる気配がない。そればかりか、敵の角は真っ直ぐに大地を突き刺しており。
「ふん、耄碌したか！」
　攻撃に失敗したのだと思った天征が自信満々で前へと踏み出したが、それが拙かった。
「このまま一気に押し切ってくれ……ぐぁぁぁっ！？」
　大地を貫き、天征の真下から現れたのはモザイクの角。地中で方向を転換し、相手の油断した尻を一突きにしたのである。
「ぁぁぁぁっ！　わ、我の尻がぁぁぁっ！？」
　よりにもよって尻にクリティカルをもらってしまい、天征は下半身を押さえたまま悶絶していた。
「サア、次ハ汝等ノ番ダ。大人シク、神獣ノ裁キヲ受ケルガヨイ……」
　雰囲気だけは威厳に満ちた様子で、にじり寄って来るユニコーン。その光景に、本当の意味で男性陣達は血の気が引いた。
　真横に避けても後ろから刺され、後ろに注意を払えば真下から刺される。どう足掻いても、あの角から逃げることは不可能。一度、狙われてしまったら最後、確実に尻の貞操を奪われる。
「冗談じゃない！　こうなったら、先手必勝だ！」
「お、おう！　殺られる……いや、犯られる前に殺ってやるぜ！」
　ルシッドが両手に長剣を、楽雲が釘の生えたエクスカリバールを手に、猛烈な勢いでユニコーンへと突進して行く。仲間の回復を放棄していたが、そんなことは知ったことか。今、この瞬間に大切なのは、自分の尻を守ることだ！
　二つの守護星座の力を乗せた十字の一撃が、釘バールによるフルスイングが、共にユニコーンの頭を捉えて炸裂した。さすがに、これは効いたのか、ユニコーンも前脚を折って膝をついた。
「先程の返礼だ！　受け取れ！」
「ウィッチドクターの本領発揮！　これが触診です！！」
　この機会を逃してはならないと、続けて天征とユーリが同時に仕掛けた。
　極限まで研ぎ澄まされた匠の一撃が、獣の力を宿した拳が、それぞれ敵の尻に炸裂する。瞬間、ユニコーンは自分が膝をついていたのも忘れ、後ろ脚だけで立ちながら跳び上がった。
「おお！　すっごく効いています！！」
　どうやら、自分が尻を狙われるのは、得意ではなかったようである。まあ、ここでこれ以上変な性癖に目覚められても困るので、このままさっさと始末したいところではあるが。
「お尻を狙われる側の恐怖……君も、存分に味わうといいよ」
　まだまだ、この程度では終わらない。地を蹴って跳び上がった雄一が狙いを定め、銃口から発射するのは漆黒の魔弾。当然、狙うは敵の尻。
「オッフォォォォッ！？」
　今まで威厳が全て崩壊しそうな叫び声を上げて、再びユニコーンが跳び上がった。しかも、なにやら頭の角を振りかざし、一心不乱に見えない敵を追い払っている模様。
「ワ、我二近ヨルナ、不埒者ドモメ！　貴様達ノ様ナ、年経タ雌二用ハナイ！」
　言葉から察するに、どうやら熟女の集団にでも襲われる幻覚を見ているようだ。さすがのガチホモユニコーンにも、食えない者は存在したようで。
「これは駄目押しだ。持って行け！」
　悶えるユニコーンの尻目掛け、ライが槍を投函する。必殺のＧＡＹ掘具……否、ゲイボルグ投擲法が尻に決まり、とうとうユニコーンの後ろ脚も崩れ落ち。
「第陸術色限定解除。原初の赤、猛る血潮の本流、アタシの声に応えなさい！」
「一瞬をしのげば終わり、なんて大間違いですよ！　その性癖、浄化します！」
　周囲の物体全てを血に染めてエディスが殴り掛かれば、同じく環も一気呵成で敵の懐へ潜り込み、至近距離から燃え盛る蹴撃をお見舞いする。
　葉が、石が、そして拳が……。およそ、エディスの周囲にある全ての者が凶器となって襲い掛かり、最後は環の蹴りが生み出した紅蓮の炎に包まれたまま、ユニコーンの身体は夜の闇の中へ溶けるように消えて行った。

●忘れたい黒歴史
　戦いは終わった。ドリームイーターを撃破し、夜の山林に平和を取り戻したケルベロス達だったが、代わりに大切な何かを失った者も少なくなかった。
「これはもう……犬に噛まれたどころか馬に突かれた、だな……」
　尻を突かれた男性陣に、ライが生暖かい視線を送りながら呟いている。もっとも、実際に突かれた者からすれば、これは正直なところ、洒落になっていなかった。
「そのぉ……お疲れ様です」
「傷を治療します！　それにしても、色々と危ない相手でしたね……」
　環が円形の座布団を取り出し、ユーリが傷ついた男性陣の尻にヒールをかけているが、肉体的な傷は消えても、心の傷まではそうそう消えまい。
「いやぁ、本気でいたら困るけど興味深い相手だったね、いろんな意味で」
「なっ……じょ、冗談じゃないぞ！　もう、金輪際、こんな相手は勘弁だ！」
　さらりと流すようにして言った雄一の言葉を、ルシッドが慌てて否定した。
　今回は無事に切り抜けることができたが、そう何度も逃げられるとは思わない。できることなら二度と関わりたくないと、自らの記憶を黒歴史の彼方に封印し。
「そ、そういや、ドリームイーターやっつけたら目覚めるとは言え、こんな山の中だ。ハンターちゃんの無事を確認しておかないとマズくね？」
　ようやく尻の傷が治ったところで、楽雲が思い出したように顔を上げたが。
「いや、心配は無用だろう。遭難や滑落をしたわけではないからな」
　同じく、尻の傷が癒えた天征が、感情を押し殺すような口調で否定した。
「次に生まれるときは、もう少し上手な愛を囁ければいいわね」
　最後に、木々の梢の隙間から覗く満天の星空を仰いで、エディスが祈るように言葉を紡ぐ。それを聞いたルシッドが一抹の不安を覚えながら軽い悲鳴を上げていたが、無理やりに襲って来る相手でなければ大丈夫なはずだ……いや、たぶん、なんとなく。

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年5月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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