匂ひぬる彩手箱

作者:銀條彦

 ──うづきにみかづきと喚ぶ声に応えて馳せ参じた影は2人の少女。
「ハイだぴょん♪」
「ミス・バタフライ様がお呼びとあらば即参上ですにゃあ!」
 どちらも地球のウェアライダーに似た容貌の持ち主だが、道化師姿の兎少女は耳や尻尾が生えた人型タイプに近く、空中ブランコ乗りの衣装に身を包む猫少女はほぼ獣人型。
 共にミス・バタフライの配下として暗躍する螺旋忍軍である。
「あなた達に使命を与えます。この街に住む麦藁細工職人の男と接触し殺害するのです。ただし彼の職人としての仕事の全てをあなた達の眼で見届け、可能ならば習得もした後にそれは実行なさい。グラビティ・チェインの略奪については好きなようにするといいでしょう」
 彼女達の主たるミス・バタフライの命令はいつだって簡潔かつ不可解。
「了解だぴょん!」
「今度はいったいどんなスゴいコトに繋がるのか楽しみですにゃあ♪」
 だがこの偉大なる風桶の術の使い手の意味不明が本当に無意味であったためしなどただの一度たりと無いと心から信じる少女達にとってそれは胸躍る任務の始まりなのだった。

「ねむ、最初はてっきり麦わらぼうしの職人さんかと思ったんですけどちがったんです!」
「編み細工も趣深く心惹かれますけれど、今回狙われたのはこういった……主として桐の箱物を麦藁の張り細工で飾りつけるご職人様でございますわね」
 ぶんぶんと身振り手振りつきでストレートに驚きを伝えようとする笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)に代わり、詳しい説明を引き受ける形となった今回の件の情報提供者、深景・撫子(晶花・e13966)がそっと取り出したのは色とりどりの小箱と、兵庫在住の麦藁細工職人との肩書きが飾り気なく印刷された十倉・一灰(とくら・いっかい)の白い名刺。
 糸駒を納める為の仕切り箱の蓋部分には花菱や流水といった文様が京千代紙を想わせる愛らしさで細やかに施され、細長い文箱には箱一面に螺鈿のごとき絢爛さで春の花鳥が活き活きと配されており、いずれもたおやかな和服姿の撫子が手にすれば尚いっそう良家の令嬢の嫁入道具といった風情を漂わせる。
 一方で草木染めのみに拘った麦藁を用いて幾何学模様をあしらった桐の煙草入れは現代的な男性向けの作品としてデザインされている様であり、その落ち着いた風合いは麦藁細工のまったく別の魅力を再発見させてくれる。
「あいにくと此処にはございませんが、作品は桐箱だけに留まらず、請われて、時に独楽や絵馬などにも縁起物としての細工を施すこともあるそうですの」
 これぞと厳選し1年がかりで乾燥させ色あざやかに染められた麦藁を用いて、桐箱に様々な意匠を切り貼りする繊細な手しごと。
 材料として用いられている大麦の藁は使いこむ程に絹のような光沢となめらかな手触りを纏い、味わいを増してゆくという。

「こんな素敵な工芸品を作る職人さんがミス・バタフライっていう変なことばっかりしかけてくる螺旋忍軍の今度のターゲットにされちゃったんです!」
 予知された未来から大きく状況を変えてしまうと予知自体が意味を為さなくなってしまう為、螺旋忍軍の到着前にターゲット本人を別の場所へ逃がすという対策は採れない。最悪、予知から外れたまったく別の人間が何処かで命を落としてしまうかもしれないのだから。
「次善の策として考えられるのは私達ケルベロスの誰かが十倉様と成り代わり囮役を果たすこと。ですが、螺旋忍軍到着までに残された猶予は最長でも3日間。ご厚意で彩色まで終えた麦藁をそのまま修行に使わせていただける事にはなっておりますが……」
 敵の眼を一時しのぎで騙し切る最低限の技量さえ身につければ良いとはいえ人命が懸かっている以上、安請け合いも出来ないとドラゴニアンの少女は気鬱げに睫毛を伏せる。
 螺旋忍軍はひとときたりと待ってはくれない。ウェアライダーの女の子にしか見えないその外見を最大限に活かし、天真爛漫な見学希望・弟子入り志願を装って何食わぬ顔で接触を試みてくるだろう。
 抜群のコンビネーションを誇る彼女達相手に職人の身の安全を確保し優位な戦場とタイミングを選ぶ為にもやはり一番効果的なのは囮作戦である。
「一灰くんは年月もセンスも軽視してはいけないけど、どんな不可能も可能にしようって、がんばる熱意こそがいちばん大事だしケルベロスのそれを見てみたいんだってはげましてくれたんです」
 ちなみにヘリオライダーにくん呼ばわりされている十倉一灰さんは御歳ちょうど八十歳である。

「ミス・バタフライの眼にどんな光景が視えていて、なにをめざしているのかは、ねむにもちっとも分からないです……でも何の関係もないひとを殺して完成する術なんて絶対に絶対に見過ごせないのですっ!」
 そう力説する小さなヘリオライダーの大きな瞳はたのみとするケルベロス達へとまっすぐ注がれるのであった。


参加者
真柴・勲(空蝉・e00162)
ツヴァイ・バーデ(アンデッドライン・e01661)
ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)
水無月・一華(華冽・e11665)
志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)
深景・撫子(晶花・e13966)
アキト・ミルヒシュトラーセ(星追い人・e16499)

■リプレイ


「老い先短いワシの命と麦藁細工の技法が廻りまわって世界を大きく揺るがすかもしれんとは──それもまたちょっとした浪漫じゃの」
「ちょ……!?」
 冗談じゃよ冗談と白髭の老人は豪快に笑い飛ばした。まあ少なくとも老い先短いようにはとっても見えない。そんな元気とおちゃめないたずら心あふるる麦藁細工職人、十倉・一灰くん(80)の元で見習いに臨む8人のケルベロス達。

 本来なら麦刈りから始めたいが時間と敵が許さぬ短期集中修行。大麦の染色や加工、桐箱の縁取りといった前段階を済ませた材料が所狭しと作業場に並べられた。
 桐箱の上へ麦藁を隙間なく敷き詰めてゆく地張り、その上から下絵を重ねて型通りに切り抜いた後に麦藁をはめ込んでゆき図柄や絵を作ってゆく模様入れ、そして仕上げ……というのが大体の手順だ。
「ただ編めばいい、というワケではないのですね」
 先のねむ同様、編み細工のイメージばかりで張り細工は初耳だったソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)は歴史ある伝統工芸を学習すべく冷静に作業工程を検分する。
「ふむふむ、麦藁に麦藁で象嵌してゆくカンジなのかな」
 ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)がいつもの帽子姿ではなくオラトリオ特有の翼と髪花を固く封じつつ地毛を晒しているのは細工とやんちゃの師匠に対する彼なりの敬意。
 感触を確かめるように彩箱を手に取り暫し見惚れる真柴・勲(空蝉・e00162)。
「へェ、綺麗なもんだな」
「可愛らしくもカッコ良くもなれるなんて麦藁細工って凄いですわね」
 深景・撫子(晶花・e13966)からも思わずといった様子で何度もため息が漏れる。
「切欠はお仕事ですけれど、修行はめいっぱい楽しんでいきますの!」
「うん……こういう『業』の一端に触れられる貴重な機会を有難く思うよ」
 撫子の素直な言葉にアキト・ミルヒシュトラーセ(星追い人・e16499)が心から同意する。そりゃ何よりじゃと年長の師というよりもまるっきり遊び相手を見つけた童子のような笑顔が彼女達に応えた。

 ──台所の床板の一つを外せば地下へと降りる階段。
 その下に広がるのは、未使用と事前に伝え聞いた通り、豆電球が1個垂れ下がる他は何もない石造りでがらんどうの地下室。
「ではギルティラはここに潜伏をお願いします」
 ソラネは相棒たる赤き機械竜としばしのお別れ。
 念の為にと封印箱は更に空の段ボール箱の内へと収納され、地下の階段裏へと置かれる。
「出入りのチェックを頼む必要はなさそうですか……」
 戦闘時予想される状況と障害とを脳内で弾きだしながらソラネは再び修行場へと戻る。
 小さく愛媛みかんの文字に手を振りながら。

「どうせならう~んと複雑な文様柄に挑戦! ボクの器用さと忍耐があれば最後はものにしてみせるにゃ!」
 獣人タイプのデウスエクスが起こす事件なんて見過ごせない、彼女達の魔の手から十倉さんを護ってみせるという熱い怒りをモチベーションに、志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)は修行に燃えていた。そして直ぐに盛大に行き詰った。
「……うーん、こういうのは好きだから何とかなると思ったのに」
「なになに。壁にぶつかるのはまっすぐ壁に挑もうとした者だけじゃ、その意気やよし」
 大言にも降参にもさっぱりと迷いのない少女は何度も手を止め、師に助言を請い、そして自身の力で乗り越えてゆく。台詞通り、その持ち前の器用さと忍耐強さがあればどんなに難しい技法でも最後にはきっとものにしてしまう事だろう。
「わぁ……」
 興味津々といった表情で一灰の作品や指導がてら披露される技術に魅入るアキトは憧れや向学心を糧にまずは模倣を繰り返す。
 水を吸うスポンジの如くとことん素直に教えを自分の物とする事のできる彼女は真っ先に基礎を習得していった。
「一つ一つの色がこんな柄になるなんて」
 それもこれも唯『こんな幾何学模様を自分も作れるようになりたい、そして触れたい』一心でなのだから恐るべし。
「撫子は可愛らしさと優美さ、どちらも兼ね備えた素敵な花なのでそれを少しでも表現出来るようになれれば嬉しいですわ」
 ドラゴニアンの少女の筆は広げた和紙に同じ名を冠する花弁を丁寧に下絵描きし始める。
(「最初は名前が切欠。でもその魅力を一つずつ知ってドンドン魅かれていって……」)
 撫子の名に恥じぬ自分で在りたい。そんな決意を彩手箱へと籠める為に粘り強く丹念に、重ねられる質問と手仕事。
 ──作りたい拘り、籠めたい想い。
 ツヴァイ・バーデ(アンデッドライン・e01661)にとってそれは密かな難題であった。
(「『魂』を籠めるトカイワレテモ……」)
 彼は根本的に芸術に向かない。どちらかといえば器用な部類だし即物的な良し悪しに関する目は利く方だが感性がその方向を向こうとしないのだ。
 故に、模倣から入るというアキトの手法を妙案だと倣い、何気なく手に取った小物入れの一つを彼はトレースし始める。

 画材や布地が並ぶ店の如くよりどりみどりの麦藁をじっくりと吟味しつつルードヴィヒは御目当ての色藁を手に取ってゆく。イメージは大事な仲間が連れ歩く桐箱型のミミック。
(「贈りたい相手がいて、囮だって果たしたい。そりゃ気合いも入るでしょ!」)
 詰め込み特訓どんとこいの熱意で青年はぐいぐい師に教えを請いながら文箱に細工を施してゆく。
 機械そのものの精密さを発揮して制作を進めるソラネもまた出来れば贈り物にと考えはした。だが日頃お世話になるケルベロスの仲間の顔を一人一人思い浮かべ……どう計算しても人数分の完成は不可能と判断し一箱に感謝の丈全て注ぐ事にしたのだ。
(「大切な人に贈ることを想って……」)
 彼に長く使って欲しい。彼の大切な物を入れてもらえるような箱にしたい。
 水無月・一華(華冽・e11665)がそんな想い籠めて意匠し、細工し、仕上げた箱は五色を配した艶やかな滝縞柄。彼の人の面影を彩に籠め、春詠う色と己が色を添えて。
 細部に到るまでに神経が行き届いたその出来は作り手の器用さ以上にどれだけ心血注いだかが垣間見えるようだった。

「染色から遣らせて欲しい」
 自ら希望した小筋張りの基礎を修め終えた後そう申し出たのは勲だった。工房に揃えておいた色藁じゃ気に喰わなかったかと試すような笑顔の一灰に、そんな事は無いがどうしてもと頭を下げた彼の為、染料と染色道具が置かれる別室が新たに解放された。
「それっくらいの我がなきゃ職人ってのは長くは続けられねぇからなぁ……」
 記憶の糸を手繰るように、探り探り。それでいて何処か懐かしげに、黙々と作業をこなす勲を見守る一灰の眼差しはいつもの悪戯っ子のものでは無かった。

「うーんなんかはまりそうな面白さ」
 初日にこれと決めた紋様に四苦八苦を繰り返していた藍も最終日を迎える頃にはすっかりとマスターし、今はもっともっと難しく楽しくと独自に技巧のアレンジまで始め出しており止まらない様子だった。
 ──物創りは楽しい。
 ツヴァイにとってそれは『自分』作りにも何処か繋がる。
 並々ならぬ集中を以って初日からひたすら『見本通り』を貫き通して完成させたそれは、
「我ながら気に入るデキには仕上がったっす」
 一番気に入った……本当にたったそれだけが理由で選んだ図案はディフォルメされたカワセミの意匠。
 集中の隙間を縫う様にして『何か』の……本当はよく識る筈のなにものかの面影が掠める感触を、彼の無意識は掌の小箱へと圧し込め、忘れ去ろうとしていた──。


 さていよいよ囮役……螺旋忍軍の前で十倉・一灰として振舞うケルベロスを決める段となり、一同は今回の作戦内容を伝え、その要となるべき人選を作品の出来をもとに一灰本人が選んでくれるよう申し出た。するとこの3日間ずっとご機嫌状態だった彼のシワだらけの顔がみるみると渋面を作った。
「どうしたのさ十倉の先生……まさか全員不合格? それならそれで弟子役ぐらいなら務まらないかな?」
「バカモン、んなワケあるか。むしろ逆じゃ逆」
 落ち着けルー坊とルードヴィヒをたしなめつつ、一灰は浮かぬ表情のままポリポリと頭を掻きながら、
「んー……今のお前さん達ならみな素人さん相手にそれっぽく振舞うこた可能だと思うし、急拵えながらも心尽しの逸品揃いでこれに優劣なんて野暮は正直言いたくねえ。それに」
 ケルベロス達の顔を1人1人見回した、その後。
「──そもそもじゃ。家電屋じゃあるまいしそんな人一人入って隠れられるような巨大段ボール、しかもこれだけの人数分の持ち合わせは無いわい!」
「え、悩んでたトコそこ!?」
 今も地下室でひっそり愛媛産やってるギルティラとお揃いのみかん箱ならまだまだあるがとても標準的な青年・少女が納まるとは思えない、衣装箪笥を空にして運び込めばイケるかもしれないと示されたそれはどうみても年代物の桐箪笥でとても壊せそうにはなかった。
「みかん箱に入るのではなく、重石を入れた空箱を数多く積んで遮蔽にしても、全員を隠すのは苦しいでしょうか……」
「ボクたちだけなら動物変身を使えば箱内にも隠れられるにゃ」
 思案する一華に補助案をひらめいた藍が乗っかる。
 なんだかんだ懸命にあれこれ考えてくれた一灰も交え改めて作戦会議となり、結局、一灰役とその弟子役に身長が高い順から3人が残ってそれぞれ囮役と地下室入口を封鎖する役。残りは動物変身中の2人を一番上に積んだ段ボールの山の後ろで待機する事となった。
 当日は更に上からブルーシートを掛ければ資材置き場らしい体裁は整うし、無理なく数人が身を隠していられる。
「自分は囮補助役ってトコっすね──つーかこのシート酒くせ~」
「春に職人仲間を呼んで花見宴会に使ったっきりだったからのぉ」
 一見常にへらりとしているようで案外と万事にそつのないツヴァイが念の為にとシートの現物を確認してみれば……ちょっと難アリであった。
 その晩の締めくくりを総力あげてのブルーシート洗濯へと費やされる中、アキトは何処か嬉しげにくすりと笑みを漏らす。
 個性豊かなケルベロスと職人がこうして力を合わせて事を成し遂げる。彼女にはそれ自体が美しく色匂う麦藁細工の様にも思えたのだ。


「うづき、今日からでも先生にお弟子入りしたいぴょん! ぜひぜひおねがいだぴょん!」
「私も同様の思いですにゃあ……でももしもご迷惑だというのならせめて完成までのお作業を今日一日かたわらで見学させてほしいのですにゃあ♪」
 翌日、さっそく現れた螺旋忍軍。兎少女はとってもやる気満々だし猫少女は……さっさと殺る気満々だ。
 『十倉・一灰』としてうづきとみかづきを迎え入れた勲は、熱心な弟子入り志願はこちらとしても願ったりだとあっさり受け入れた。嬢ちゃん達のイメージだと即興で白と黒の麦藁を用いての小筋張りでするすると市松模様を作りあげて見せる。
「……弟子入りといってもいつも通り仕事を進めるだけだが、横にくっついて覚える分には好きにするといい」
 そう告げてから本日の作業分の資材を地下室から取ってくると席を立てば当然の流れで少女2名も後ろに続く。地下入口のある台所では先輩弟子の青年が2人、炊事の途中だった。
「あそこには習作も色々あるっすし、見せてもらうとイイっすよ」
「実物を色々見ながら聞く方が耳に入るでしょう?」
「わぁ、それはぜひ! 楽しみだにゃあ♪」
 赤髪と白髪、好対称の先輩達は親しげに後輩を送り出す。足音が遠ざかるのを見計らいキュッときつく蛇口の閉まる音が響いた。

 ポジションは判らぬがまずは手近からと、寄り添ううづきへ勲が浴びせた旋刃脚を合図に奇襲は開始される。
「逆鱗・抜刀――凡ゆる加護を、断ち切ります」
 着物姿も勇ましくチェーンソーの大太刀を構えるソラネ。駆動音が高らかに響き渡る。
「技術はやれませぬがこの剣技ならば、どうぞ死出の土産に」
 ひとがたを取り戻した一華の手から光芒の花の如き閃刃と涼やかな殺意が奔る。
 完全な不意討ちで次々に浴びせられる状態異常攻撃と自陣エンチャント。
 直ぐにうづきはクラッシャー、みかづきはジャマーと判明し撃破順は切り替わるが結果として初手でうづきがBS塗れとなった事が最後まで響き、連携阻止と順次撃破はより容易となる。

「獣人としてのどちらが正しいのかこの戦闘で決着をつけるにゃ」
「たかが神造の出涸らしみたいなのの分際で厚かましいのにゃあ」
 キャットファイト勃発……かと思われたが螺旋繰る猫と兎のコンビネーションの標的はあくまで勲。例えそれがケルベロスの偽装だとしても『1度は一灰の名を名乗った麦藁細工職人の殺害』という条件で術の発動が促せるかもという一縷の望みからだろうか。
「相変わらずこの一派は大局観ありすぎるのかなさすぎるのかよく分かんねっす」
 彼女達の思惑を探ろうとも測りかねながら、ツヴァイは間隙を衝く竜爪の一撃を超高速で繰り出し壁も天井もお構いなしの黒猫の喉元を脅かした。
 身を挺して同じディフェンダーである勲を庇ったのはボクスドラゴン。
「あー、ジャマするなっぴょん!」
 強力な同時攻撃に幾度となく晒され盾の役目を全うしたギルティラは戦線離脱となる。

「これ以上誰一人、倒れさせない。ボクが癒すからキミ達は前へ」
 これがボクの守り方だとアキトから発せられた眩いばかりの星光は仲間を癒しと守護とで満たした。
「――呪われし槍よ、敵を射殺せ!」
 ここ迄はBS付与優先の藍だったが既に攻勢の頃合と忌まわれし『殺意の瞳』を敵の金色の猫目へと投げて打ち貫く。
「にゃ、にゃあ!?」
 視覚から全身へと伝播した激痛に黒猫のブランコ乗りは宙から失墜し、追って花と翼封じたオラトリオから撃たれた時を止める弾丸がまず一人目のデウスエクスの時間を完全に終わらせた。
「みかづきぴょん……!!」
 残るうづきも必死の抵抗を見せるが多勢に無勢。
「さあ、おいでませ。夜の帳が下りるまで、遊んで差し上げて下さいな……」
 純潔たる撫子を創りあげた、その指先が、魔すら惑わす紫水晶の花を妖しく咲かせる。
 逢魔に踊る幻は、既に満身創痍の体でそれでも跳ね回る兎を執拗に追い回し、遂に、道化芝居に終止符を打つ死を見舞うのだった。


 修行中とは立場逆転。
 ケルベロス達の修復ヒールに今度は一灰くん(80)が眼を見張る番だった。
「しかしまあ本当に完成させちまうとは……」
 半日足らずだけ襲名し今はもう返上済の二代目一灰くん(33)はギリギリ清酒用桐箱を完成させていた。
 落とし蓋には亀甲柄があしらわれたやや大物サイズ。しかも染色工程からなのだから、勲の奮闘はもはやどれが本題だったのか判らない程である。
「一灰の爺さん、酒はイケる口なんだろ? 修行つけてくれた礼にコイツに美味い酒入れて贈るわ――楽しかったぜ、有難うよ」

作者:銀條彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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