本物のような味わいを、本物のようなお値段で

作者:飛翔優

●イミテーションレストラン
 ――彼の唇は、何度声にならない叫びを漏らしたのだろう?
 ため息が堆積したかのように重々しい空気。薄暗い闇、音に乏しき小さな世界。
 男が一人、橙色の灯りの下でうなだれていた。
 口をついて出るのは、後悔。
「やっぱり、無理があったのかなぁ。本物のような味、出せてたと思うんだけどなぁ」
 本物のような味わい、をテーマに開いた料理店。値段も味の一つだと本物のようなお値段で提供していた。はじめは面白がって足を運んでくれた人々もいたけれど、定着することはなく客足は途切れ……。
「潰れちまうとはなぁ……どうすればよかったんだろう。あの時、ああすべきだったか……いや、あるいは……」
 悩んでも悩んでも、答えは出ない。
 深い溜め息。
 小さな、足音。
「……え?」
 男は、足音の方角に視線を向けた。
 女が一人、手を伸ばせば届く距離に佇んでいた。
 戸惑い口を開ける男に、女は……。
「あ……」
 無防備な男の胸に鍵を突き刺し、軽くひねる。
 一拍置き、目を細めた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの後悔を奪わせてもらいましょう」
 鍵を引き抜くと共に、男は倒れた。
 入れ替わるようにして、コック帽を被った別の男が一人どこからともなく形をなす。
 妙な部分があるとするならば、その唇。
 ドリームイーターであることを示す、モザイクに覆われている唇……。

●ドリームイーター討伐作戦
 足を運んできたケルベロスたちと挨拶を交わしていく笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)。メンバーが揃ったことを確認した上で、説明を開始した。
「自分のお店を持つ、そんな夢を持ってる人もいますよね! そんな夢を叶えたのに、色々あってお店を潰しちゃった人の後悔がドリームイーターに奪われてしまう事件が起きちゃったみたいなんです」
 後悔を奪ったドリームイーターは既に姿を消している。しかし、奪われた後悔を元にして具現化したドリームイーターが事件を起こそうとしているようだ。
「この、具現化したドリームイーターによる被害が出る前に、撃破してきて欲しいんです! そうすれば、後悔を奪われちゃった人も目をさましてくれるはずだから……!」
 ねむは地図を取り出した。
「事件が起きてるのはこの街の、色々なお店が並んでいる通りの……このお店! ここで、具現化したドリームイーターは、後悔を持っていた人と同じような営業を行っているみたいなんです」
 内容は、本物のような味わい、がテーマのレストラン。普段は手を出せないような高級料理に似せた味の料理を、和洋様々に取り揃えている。
 しかし、値段も味のうちという思想を持っており、値段もまた本物と同一だった。
「多分、それが主な原因で潰れちゃったみたいで……それでドリームイーターは、そんなお店を開いているみたいです」
 まずはそんな店に乗り込むことになる。
 その際、いきなり戦闘を仕掛けることもできるが、客として店に入り、料理の提供を受け、その味を心から楽しんであげると、ドリームイーターは満足して戦闘力が減少する様子。また、満足させてから倒した場合、意識を取り戻した被害者も後悔の気持ちが薄れて前向きに頑張ろうという気持ちになれる、そんな効果もあるようだ。
「どういう風に行くのかはおまかせしますけど……でも、できれば、楽しんであげてほしいな、と思います!」
 最後に、戦闘能力などについて。
 相対することになるドリームイーターは一体。
 姿はコック。唇がモザイクに覆われているのが特徴。
 戦いにおいては妨害特化。美味しい料理で心を奪ってきたり、料理を本物と錯覚させる事で攻撃の勢いを削ぎ落としたり、情熱の炎を燃やすことで相手を焼いたりしてくる。
「これで、説明は終わりです!」
 ねむは資料をまとめ、締めくくった。
「きっと、料理が美味しいことは間違いないと思うんです。ただ、ちょっとだけやり方を間違えちゃっただけ……だから、どうかお願いします! 後悔を奪われてしまった人を、救ってきて下さい!」


参加者
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
鳴神・猛(バーニングブレイカー・e01245)
ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)
ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)
神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)
天原・俊輝(偽りの銀・e28879)
イ・ド(リヴォルター・e33381)
リオネル・ジヴェ(静謐の藍・e36251)

■リプレイ

●イミテーションに飾られて
 仕事に一区切りをつけた者たちが、昼食を求めてごった返す商店街。飲食店が立ち並ぶ通りの一角にある店の前に、ケルベロスたちは集まっていた。
 本物のような味わいを、本物のようなお値段で! そんな謳い文句が記されているのぼりを見つめながら、神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)は半歩分だけ後ろに佇んでいるユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)に語りかけていく。
「アイディアは悪くなかったと思うっすけど値段設定とか間違ったすねぇ」
「あるいは、ここが余程の観光地であったのなら、割高感のある変わった料理店も成り立ったのだと思いますが……」
 右を見ても左を見ても、歩いているのはサラリーマンやOL。合間合間に観光客と思しき人もいるけれど、主要な層ではない。
 結里花が小さく肩をすくめていく。
「こういう場所で営むなら、値段の割にそれっぽいのが食べれてよかったとか、そういったお得感こそが売りなんじゃないかな―って思うんすよね。同じ金出すなら本物食べるし……」
「値段がリーズナブルなら、リピーターも出たでしょう。高級志向の店主と、そもそもリーズナブルなイミテーションとは相性が悪いのでしょうし」
 ついついため息が混ざってしまうのは、店主の方向性が惜しいからだろうか?
 鳴神・猛(バーニングブレイカー・e01245)もまた小さな息を吐き、玄関口前のブラックボードに記されたメニューを見つめていく。
「……ほんと、発想は悪くなったけど言って足りないって感じねー。これなんて、お手頃価格なら誰だって食べたいと思ったでしょうに……」
 世界の三大珍味の一つ、フォアグラのような味わいを! お値段なんと……。
「……」
 彼女の横から覗き込んでいた天原・俊輝(偽りの銀・e28879)も体を戻し、ため息一つ。
「明らかにイミテーションの利点を潰してしまってませんかね、これ」
 否定する者はいない。
 ケルベロスたちは概ね似たような想いを抱いたまま、改めて店の中へと突入していく。
 来客を告げるのだろう軽快なベルが響いた後、奥から白いコック帽をかぶっている店主が……唇がモザイクに覆われているドリームイーターがやって来た。
 手短に人数を告げたなら、十人はゆうに座れるだろう奥の大テーブルへと通される。
 席についた後、どことなく違和感を覚えるドレスを着込んだ村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)が、メニューを開きながらドリームイーターに告げた。
「まずは食べさせなさい。吟味してあげる」
 桁が一つは違うような料理の数々を、視界の端に収めながら……。

●本物のような味わいを
 一見だけならきらびやかで、とても豪華に見える調度品の数々。しかし、どれもこれも真新しく、輝きにも鈍さが混じる。質感も比べるべくもなく……それらもまた、イミテーションを揃えたのだと教えてくれていた。
 けれど決して不良品などではなく、くつろぐのに不都合はない空間。ケルベロスたち心も体も落ち着けながら出された水に口をつけ待つ中、次々と注文した料理が運ばれてきた。
 フレンチ風フカヒレスープのような春雨スープ、と題された品を前にして、ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)は目を輝かせる。
「凄い……」
 はやる気持ちを抑えながらさじをとり、一口。
「……見た目だけじゃなく味も本物の味です」
「ほんと、美味しい。まさか、この牛肉が……」
 猛もまたステーキを口にするたび、目を輝かせて一口、二口と食を進めていく。
 時には本格蟹玉スープ風玉子スープを口にして舌鼓。
「そしてこっちは……」
 舌を落ち着かせるために、ふんわりとしたパンへと手を伸ばす。
 噛むたび、ほのかに香る甘みを感じ、頬を緩めた。
「凄いな、ほんと。材料が普通の家でも手に入りそうなものだとは思えないよ」
「……なるほど、これはこういうお味なのですね」
 俊輝もまた高級フォアグラのステーキ風肝臓のステーキを口にして、とことん縁がなかった高級料理風の味を楽しんでいく。
 一方、ユーカリタリスは辛めの料理を中心に、結里花は和食を中心に楽しんでいた。
 例えば本格四川の麻婆豆腐風麻婆豆腐。方や、北海道カニ鍋風鍋料理。
 ユーカリプタスは涼しい顔で麻婆豆腐を口に運ぶ内、結里花の視線に気が付き顔を上げた。
「どうされました?」
「いや、うん。相変わらず辛いものメインなんだなーって」
 どことなく呆れた調子の結里花に対し、ユーカリプタスは淡々と告げていく。
「相変わらずのお子様舌でございますね」
「む」
 唇を尖らせながら視線を落とし、鍋へと箸を伸ばしていく。
 見守りながら、ユーカリプタスは再び麻婆豆腐へ。
 心通ったやり取りを行いながら、美味しい料理を食べる時間。たとえそれがイミテーションだったとしても、大切なひとときであることに違いはない。
 穏やかで楽しげな時間を過ごしていく仲間たちを感じながら、リオネル・ジヴェ(静謐の藍・e36251)もまたトリュフソース風のビーフハンバーグを口に運びながら記憶の中で比較する。
 本物と変わらない……といい切ってしまうには語弊がある。しかし、たとえ本物の材料を使ったとしても生半可な腕では届かないだろう味わいが、そこにはあった。
 これで、値段が本物相当でなかったなら……。
「……」
 叶わぬもしもを巡らせながら、リオネルは心の中で嘆息し……。

 一通りの食事が終わり、食後のコーヒーやドリンク片手に落ち着くケルベロスたち。
 ベルはコップ類を除く食器が厨房へと下げられたタイミングを見計らい、ドリームイーターを呼びつけた。
 落ち着いた足取りでやって来たドリームイーターを真っ直ぐに見つめながら、ベルは微笑んでいく。
「味は確かに良かったわ。料理を運んでくるペースも、こちらの希望に合わせつつ丁度よい。……でもね」
 肩をすくめ、ため息一つ。
「本物には本物に相応しいお値段があるように、フェイクにはフェイクの相応しい値段ってものがあります。何をどう勘違いしたのか知りませんけど、これじゃあお店潰れても文句言えませんよね」
「だがまあ、料理が美味かったことに違いはない」
 続けて、イ・ド(リヴォルター・e33381)がドリームイーターに感想を述べた。
「俺は、こういうものは少々未体験なものも多い。だが、美味かった。それは曇りのない事実。これほどの味が出せるのならば、一度は閉店したことが少しもったいない、と思うくらいにな」
 ブラックボードに記されていた、高級フォアグラのステーキ風肝臓のステーキ。謳い文句に負けることない味わいだった。
「値段に無茶があったとはいえ、料理が美味なるに間違いはないのだからな」
 美味しく感じた。それは、全員にとって共通だっただろう。
 ドリームイーターはひとりひとりの表情を見回した後、ホッとしたような吐息を漏らしていく。
 モザイクが晴れることはない。
 けれど、人を害なす気配も感じられない。
 きっと、この先も受け入れてくれるはず。
 後悔へと回帰し、本物の店主のもとへと戻ってくれるはず!
 信じ、ケルベロスたちは立ち上がった。
 ドリームイーターを打ち倒し、本物の店主の未来を取り戻すのだ!

●後悔を取り戻せ!
 俊輝がメガネを外し、身構える。
「それでは、始めましょう」
「ユーカリ、守りは任せます。私は……全力で攻めます!!」
 スカートの裾をつまみ折り目正しく一礼するユーカリプタスに命じながら、結里花はオーラを雷の羽衣へと変換し、突撃。
 虚空にて華麗な舞を描き、一撃、二撃と、ドリームイーターに連続攻撃を刻んでいく。
 最後の一撃がドリームイーターの体を宙に浮かべた時、リオネルの姿がかき消えた。
「つなげます」
 次の刹那には体当たりをぶちかまし、ドリームイーターを壁へと叩きつけていく。
 ずり落ちていくその体に狙いを定め、猛は放つ総合用OFGの様な形状をした縛霊手をはめた掌から。
 眩いほどに輝く光弾を。
 光に飲み込まれていくドリームイーター。
 気配だけで居場所を探り、ティオは腕装着型のドワーフ専用粉砕機を起動する。
「先ほどはご馳走様でした。これはほんのお礼です、受け取ってください!!」
 視界が晴れ始めてきた頃に飛び込んで、膝をついていたドリームイーターに両肩を掴み取った。
「料理美味しかったですよ。ご馳走様でした」
 力を込めるとともに爆発させ、ドリームイーターを地に伏せさせる。
 バックステップで距離を取れば、仲間たちが次々と攻撃を加えていった。
 それでもなお立ち上がっていくドリームイーターを見つめながら、ティオは体を捻っていく。
「だから、これからも美味しい料理を作ってもらうためにも……戻って下さい、あるべき場所へ!」
 力強い回転撃をぶちかまし、ドリームイーターを壁へと縫い付けた。
 やぶれかぶれと言った様子で、ドリームイーターが何かを差し出してきた。
 それは、黄金色に輝くスープ。
 ユーカリプタスは一瞬だけ動きを止めた後、改め一礼した。
「申し訳ございません。お料理は落ち着いてから食させて頂きます」
 ミミックのトラッシュボックスによる治療を受けながら踏み込んで、脇腹の辺りに鋭い拳を叩き込んだ。
 よろめき、背を壁に預け始めるドリームイーター。
 その懐に、リオネルが瞬く間も与えず踏み込んだ。
「――参ります」
 抜刀一閃。
 鋭き斬撃を叩き込み、ドリームイーターの体を軽く浮かばせる。
 さなかには至近距離で見つめ合い、その瞳に宿る輝きを見据え……。
「……終わらせましょう。彼が、再び始められるように」
「ええ。それじゃ皆さん、トドメをよろしくお願いしますねー!」
 ベルが薬液の雨をばらまいて、シャーマンズゴーストのイージーエイトも治療へ向かい、総攻撃の背を押していく。
 動きの精細を取り戻した仲間たちが攻め上がる中、俊輝は足に炎を宿し飛び上がった。
「まずは一撃……」
 空中でひねりを入れながら、放つは飛び蹴り。
 胸元へと突き刺して、飛び上がりながら主砲を展開する。
「そして……」
 空中にて砲口を突きつけていく中、機械鎧で武装していたイが片腕を近接格闘用アームへと変換し、土手っ腹へと叩き込む。
「逆巻け、其の命!」
 螺旋の力の奔流で、その意識を乱しながら空中へと打ち上げた。
 すかさず俊輝は位置を変え、砲口を額に突きつける。
「止めだ」
 トリガーを引けば、ドリームイーターは反対側の壁へと吹っ飛んだ。
 ケルベロスたちが見守る中、ドリームイーターは光の粒子へと変わっていく。
 光の粒子は一つの塊となって、店の奥へと向かっていく……。

●新たな道へ
 各々の治療や修復を終えた後、ケルベロスたちは店の奥へと移動した。
 スタッフルームと思しき小さな部屋の椅子に座り、寝こけている男が一人。安らかな寝息を立てている横顔を見つめ、リオネルは安堵の息を吐き出した。
「顔色は良さそうですね。悪夢にうなされているわけでもありませんし……あるいは、後悔を晴らす事ができたのかも……」
 言葉半ばにて男が身じろぎし、瞳を開く。
 寝ぼけ眼で周囲を見回し、ケルベロスたちに気がついた。
 簡単な説明を行ったなら、男は盛大なため息とともにうつむいていく。
「すみません、迷惑をかけました」
「いえ、それよりも……」
 ティオは首を横に振り、微笑んでいく。
「料理、美味しかったです。ですから同じ値段でも、付加価値をつければ話題性も上がると思います。例えば本物と同じ値段dねカロリー少ないとか、本物にはない栄養素が豊富とか、味が同じでも必ず何かが違うはずで……それを上手く使ってはどうでしょう?」
「あるいは……そうだな、本物を作るのも良いかもしれん。客に十分美味いと思わせる料理が作れるんだ。ならば、自分だけの本物も作れるということではないかな」
 自分の料理の腕の使いみちをもう一度考えるのも、合理的帰結。
 イもアドバイスを施せば、猛も低カロリーや肉だけど動物性食品不使用などといった言葉を伝えていく。
 しばし考える素振りを見せた男は顔を上げ、力強く頷いた。
「そう、だね。確かに色々と試せる事はあるかもしれない。一度失敗した身で、やり直すのは大変かもしれないけど……でも、頑張ってみるよ。何故だかわからないけど……そんな気持ちになったんだ」
 瞳に宿る光は力強く、迷いはない。
 欠点を補うことができたなら、長所を伸ばすことができたなら、きっと……末永く愛される料理店となっていくことだろう。

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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