復讐の炎よ、舞え

作者:青葉桂都

●ドラグナーは嗤う
 そこは、薄暗い部屋の中だった。
 病院のベッドを思わせるパイプベッドに寝かされているのは、赤髪の女。
 部屋が暗いせいだろうか。鮮やかな赤ではなく、どこか黒みがかった赤だった。
「喜びなさい、我が娘、No222」
 ベッドのかたわらに立つ人物が声をかけた。
 女が彼を見上げる。オレンジ色の瞳に映ったのは、仮面の男。
「君は、ドラグナーとなったのだよ。素晴らしいドラゴンの因子を得たのだ」
 仮面の男の声は静かだったが、抑えきれぬ熱を帯びていた。
「だが残念ながら、まだ完全なドラグナーとなったわけではない。いずれ肉体は因子に耐えきれずに崩壊するだろう」
 男は言葉とは裏腹に冷たい目で彼女を覗き込む。
「生き延びるにはグラビティ・チェインが必要だ。なに、君の得た力をもってすれば、手にいれるのはたやすいことだよ」
 人を殺せ、と、彼は告げた。
 まるで、棚から器具を取り出すことを命じるような、事も無げな口調だった。
「そう……これが、親に売られた女の末路と言うわけね」
 No222と呼ばれた女が唇を歪めた。
 大きく目を見開き、そして、彼女の表情が笑みを形作った。
「いいわ、わかってた。もう二度と取り戻せないんだってことは。もう二度と!」
 薄暗い部屋に甲高い声が響く。
「みんな殺してやる。私を差し置いて幸せそうに笑ってる奴らを。そして、私から幸せを奪った奴らを見つけ出して無様に命乞いをさせてやるわ!」
 跳ね起きた彼女は、まるで揺らめく炎のようにリズミカルな足取りで部屋を出ていった。

●逆恨みを止めろ
「ドラグナーになりかけた人が事件を起こそうとしています」
 石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は集まったケルベロスたちに告げた。
 事件を起こすのは竜技師アウルというドラグナーによってドラゴンの因子を移植された、新たなドラグナーだ。
 もっとも、まだドラグナーとしては未完成な状態であり、完全な力を得るために人々を殺してグラビティ・チェインを得ようとしているらしい。
「なんらかの不幸な目にあったようで、彼女は復讐と称しているようです。もっとも、殺される人たちが直接なにかをしたわけではないようですが」
 ありていに言えば八つ当たりということだ。
 急いで現場に向かえば、犠牲が出る前に凶行を止めることができるはずだと、芹架は言った。
 ドラグナーが現れる場所は夜の繁華街だ。
 レストランや居酒屋、その他が並ぶ大きな通りに現れてその場にいる人々を皆殺しにしようとする。
 高校生くらいの年齢と思われる赤い髪の女性だ。名前はNo222とだけ名乗るらしい。
「出現するのは彼女1体だけで、アウル本人や他の配下などはいません」
 手にしている赤い剣は、鉄塊剣に似たグラビティを使える武器のようだ。
 それをダンスを踊るように軽やかに操るという。
 また、左腕のブレスレットから発生する炎を操る力もあるらしい。彼女の舞に合わせて炎は戦場のあらゆる場所で踊り、敵を焼き尽くす。
 手にしている赤い剣は、鉄塊剣に似たグラビティを使える武器のようだ。
「幸いなことに、まだドラグナーとしては不完全なのでドラゴンに変身する能力は持っていないようです」
 とはいえグラビティ・チェインの収集を許せばその力を得る可能性もある。
 いや、仮になんの力も得られないとしても、人々を殺させるわけにはいかないだろう。
「未完成とはいえドラグナーと化した彼女を救うことはできませんが、八つ当たりで人を殺そうとする方に同情の余地はないでしょう」
 被害が出る前に撃破して欲しいと芹架は頭を下げた。
 いかなる不幸に見舞われたのであろうと、殺される人々には関係ないのだから。


参加者
ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)
壬育・伸太郎(痕業訃壊・e00314)
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
ジン・ヤサカ(銃装騎攻ドラグライザー・e02001)
ジェノバイド・ドラグロア(元八八八番被験体・e06599)
一目・深山(黒焦げ・e18929)
シンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)
アシュリー・ハービンジャー(ヴァンガードメイデン・e33253)

■リプレイ

●繁華街の悪意
 ケルベロスたちは駆け足で移動していた。
 すれ違う人々の表情は楽しそうだったり疲れていたりと様々だ。
「僕たちが勝たなければ、この人たちが危険にさらされてしまうんですね」
 ライドキャリバーのラムレイを駆るアシュリー・ハービンジャー(ヴァンガードメイデン・e33253)は拳を握りしめた。
「復讐の欲望は否定はしないけどねぇ……やるなら当人に留めておかないと。関係の無い人にやるなら……もう、終わりにしてあげるしかないわね」
 銀のマントをなびかせるデジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)が、幼く見える顔に妖艶な笑みを浮かべた。
「無差別殺戮が復讐だと? それは違うな。だから止める」
 ジン・ヤサカ(銃装騎攻ドラグライザー・e02001)の口調はのんびりとしていたが、吐いた言葉には彼の意志がこもっている。
「ヘリオライダーも言ってただろう。八つ当たりだってな」
 褐色の顔に薄笑いを浮かべて、ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)が告げる。
「八つ当たり。成る程。分からないではないですが。処置なし、というやつですね」
 呟いた壬育・伸太郎(痕業訃壊・e00314)は、眼鏡の奥に何の表情も浮かべていない。
「八つ当たりは……うん、よくないんよ。酷い事されたのはわかったし、しっかり終わらせてあげよーね!」
 同意の声を上げたのは、ウサギのウェアライダーだ。
 シンシア・ミオゾティス(空の弓・e29708)の表情は悲しげに見えた。
「そうだな、終わらせなきゃならねぇ」
 ジェノバイド・ドラグロア(元八八八番被験体・e06599)は奥歯を噛み締めた。
「だが、ドラグナーになっちまったあいつは、もう俺一人じゃ相手できねぇ……みんな、よろしく頼むぜ」
「俺たちは仕事をしに来ただけさ。要はおまぬけにも利用されてるだけのバカ女ってことだろ? 同情の余地はねーな」
 一目・深山(黒焦げ・e18929)が冷笑を浮かべてみせる。
 視線の先に敵がいた。
 赤いドレスを身に着けたその姿は、ここが繁華街であることを考えれば、水商売の女性に見えたかもしれない。
 だが、彼女はデウスエクスなのだ。
「ま、一先ず巻き添え食らいかねない一般人を逃がすか」
 今にも人々に切りかからろうとしているドラグナーの姿に、深山が告げた。
 4人が素早く繁華街に散り、残る4人が敵に接近する。
「よぉ、久しいな、牢獄の中に居た時以来かぁ? 俺の事覚えてっか?」
 ジェノバイドが声をかけると、ドラグナーは素早く飛びのいた。
「……ケルベロスね。もうかぎつけてくるなんて」
 質問に答える様子はなく、敵は忌々しげに呟いて見せた。
 赤い剣の切っ先がジェノバイドに向けられる。
 ドラグナーがアスファルトを蹴り、演舞のようなスマートさで剣が振りあげられた。

●人々を逃がす時間を
 体全体を使って横薙ぎに振るわれる赤い刃。
 接近していた者たちが、一気に薙ぎ切られた。
 残っているのはジェノバイドの他、ジンと伸太郎、そしてシンシアだ。それに、シンシアのウイングキャット、ネコやアシュリーのラムレイもいる。
 ジンは鉄塊剣で受け止めようとしたが、刃はすり抜けるように彼を切り裂く。
「復讐そのものの否定はしないがな……やっちゃあいけないんだよ、そういうのはッ!」
 痛みをこらえて、ジンは敵に向かって叫んだ。
「やっちゃいけない? いったいどんな権利があって、そんなことを言うの? 私はなにもかもを奪われた。名前すら失って、No222という無機質な番号でしか呼ばれない」
「番号もいりませんよ。貴女は『数字』で十分です」
 言い募る彼女の言葉を、伸太郎は切り捨てる。
 ジェノバイドが得物を振り上げた。
「もう、あの時にゃ戻れねぇ……アンタもあいつらも……俺が殺らなきゃいけねぇんだ……俺は殺戮の道具として利用されたくはねぇ!」
 彼の心を映すかのように、戟に地獄の炎がまとう。
「だから逃げたんだ、だけどよ、アンタらと殺り合うなんてこれっぽっちも思ってなかった! まさか、ドラグナーなんかに成り果てちまうとはなぁ!」
 薙ぎ払う反撃がドラクナーの体を焼き切るが、彼女は身じろぎ一つしなかった。
「一緒に時間を稼ぐよ、ネコっ。ダンスは苦手だから付き合えないけど、シンシアの代わりにネコが付き合ってあげるんよ!」
 薬液の雨を降らせるシンシアをサーヴァントが真顔で見上げた。それでも清浄なる風を吹かせて仲間たちを回復する。
 支援を受けながら、ジンや伸太郎も攻撃に移った。
 伸太郎の銃撃は敵に回避され、かすめただけでどこかに飛んでいく。だが彼の表情は動かず、むしろ敵が苛立ちを見せる。
「人生のラストダンスですよ。ちゃんと踊りなさい。死の舞踏を」
 冷たい言葉が響いた。
 ジンも鉄の塊のような剣を、思い切り振り下ろす。
「自分だけ不幸だと思い込んでるあたり、おめでたいね。いやはや、お可哀相に」
「黙りなさいよ。不幸なのは私だけじゃないから、だから我慢して生きろって言うの? みじめなままで死ねって?」
 ドラグナーの剣に炎が宿る。
「そんなのは、お前がケルベロスだから言えることよっ!」
 怒りをこめて振り下ろされた剣がジンを焼き切る。熱が体の中を走っていく。
 だが、望むところだ。攻撃を食らうためにジンはここにいるのだから。
(「とにかく、一般人から引き離すのが最優先だ」)
 痛みをこらえて、ジンは仲間たちとともにドラグナーの前に立ちはだかる。
 4人とサーヴァントが敵の攻撃に耐えている間に、残る4人は繁華街の人々を避難させていた。
 吹き抜ける風はアシュリーが吹かせたものだ。人々に礼儀正しく振る舞わせる風は、いくらか混乱を押さえてくれる。
 もっとも、それも適切な避難活動があってのものだ。
 ヒルダガルデはよく通る声で、人々に呼びかけていた。
「失礼、皆様方。我々はケルベロス。デウスエクス出現につき、どうかこの場から避難していただきたい。焦らず落ち着いて、迅速にな」
 デウスエクスの言葉に巻き起こるざわめきの中でも、ヒルダガルデの言葉は届けたいと思う場所にしっかりと届く。
 戦場により近い場所で呼びかけているのはデジルだった。
「急いでね。早く逃げないと、この辺は危ないわよ」
 彼女は危険な場所に近い人たちに重点的に声をかけている。
「命が惜しけりゃとっとと逃げな、怪我しても治療費は出せねーからな!」
 上空では翼で飛行している深山も声を響かせていた。
 いざというときは体を盾にして守るつもりでいたヒルダガルデだが、今のところ足止めのメンバーはうまくやってくれているようだ。
 あの女の魂はどんな味だろうか。
 戦場の様子に目を向けて、ヒルダガルデはニヤと笑った。
 足止めのメンバーはドラグナーの攻撃を必死でしのいでいた。
 ジェノバイドは長柄の得物で炎を剣を受け止めようとする。
 だが、流れるように踊る刃は、ジェノバイドの長双方天戟に触れることさえなく迫り……寸前で割り込んだラムレイを切り裂く。
「これがドラグナーの力か……おい、お前にその力を与えたのはどういう奴なんだ?」
「それを聞いてどうするの? どうせ、あなたたちはここで死ぬのに」
 薄笑いを浮かべてNo222は答える。笑っていてもその目は憎しみに満ちていた。
「なあ、俺のこと、本当に覚えてないのか?」
「知らないわ」
 軽やかな動きで距離を取る。
「たとえ知っていても、ケルベロスになったならもう知り合いじゃない」
 追撃をかけるジェノバイドに、冷たい言葉が投げかけられる。
 本当に覚えてないのか、それともケルベロスへの嫌悪からの言葉か、いずれにしても問いの答えは得られそうにない。
「……わかった」
 呟きとともに、ジェノバイドは跳躍する。
 力任せに振り下ろした戟が、彼女の頭をしたたかに打った。
 見える範囲にはもう人影はなかった。とはいえ戦場は徐々に移動していくので十分とは言えない。
 テープをはっている間にも敵の攻撃は続いていた。
 伸太郎は、薙ぎ払う剣からジェノバイドをかばいながら、対デウスエクス用のアサルトライフルの狙いをつける。
 機械的に引き金を引く。三点バーストの弾丸は、またドラグナーをかすめて飛んでいく。
 だが、敵も気づいているだろう。伸太郎がわざと外れるように撃っていることに。
「あんた……なんのつもりよ!」
「踊るのが得意だったんでしょう? ちゃんと踊ってくださいよ」
 怒りの言葉に、伸太郎は眉一つ動かすことはなかった。
「そんなに私のことを馬鹿にしたいの? ヒーローのくせに!」
「わめいていれば誰かが優しく撫でてくれるとでも思いましたか? 抱きしめてくれるとでも思いましたか? 知ったこっちゃないんですよそんなの」
 ドラグナーの顔が怒りで紅潮する。
「もう思ってない! 思ってないわよ! そんな甘いことを考えてたから、私はこんな場所にいるんだから!」
「ああ。そう。知らないですね」
 無表情に切り捨てた彼を、怒りの炎が取り巻く。
「どこまでも直線的。馬鹿馬鹿しい。だから『そうなった』」
 それでも、伸太郎は無感動に挑発的な言葉を投げかけ続ける。

●孤独な死
 戦場となった繁華街から、ほどなく人影は完全に消えていた。足止めをしていたメンバーの負傷は軽くないが、誰も倒れてはいない。
 ジェノバイドの戟と伸太郎のナイフが敵を捉える。
 誘導していたケルベロスたちも、戦闘に加わるべく駆け戻った。
 ドラグナーが舌打ちする。
「ほら、余所見をしているからそうなる」
 伸太郎の言葉に歪めた顔を、デジルが簒奪者の鎌で切り裂いた。
 後方でヒルダガルデが深山に祝福の矢を放った。
「さぁ、打ち砕いておくれ」
 仲間の呼びかけに応じて、次の瞬間仮面のドラゴニアンの姿が戦場を満たした。
 とっさに手近にいた1人をNo222が切り裂くと、爆発が巻き起こる。
「やっぱダンスショーは人数そろえねーとなぁ? おっと、下手にぶつからねぇ方がいいのも、ダンスと同じだぜ、気をつけろよ?」
 深山は爆炎の中に嘲笑を投げかける。
 偽物の彼はすべて人間爆弾なのだ。
 回転しながらすり抜けた敵の足を止めるべく、偽物の深山がまとわりつく。
「どうして私の邪魔ばかりするの? 私にはもう、この力を使うことしかないのに……」
 苛立ちを隠さない敵に深山はなにも言わなかった。
 彼女になにか告げるべき人物は深山ではない。
 アシュリーの機巧槍が氷の光線を放った。
 手の中でブラックスライムを槍に成型しつつ、深山もまた攻撃の機会をうかがう。
 足止めのメンバーはどちらかというと守りを重視した構成だったため、ドラグナーの体力はさほど削れていなかった。
 だが、全員そろったケルベロスたちの攻撃が敵の体力を削り取っていく。
 デジルは艶やかに、敵へと微笑みかける。
「ドラグナーに関わらなければその欲望、面倒見てあげたかったけどね。せめてその魂だけでも、残してあげるわ。私の体に、ね」
 欲望を解放することは、彼女にとって避けるべきことではない。ただ、無関係な者に手を出すなら止めざるを得ない。
 無造作に振り下ろした鎌が回避される。
「避けられた、なんて思った? 魂の残滓、刹那の精霊を作り上げなさい」
 けれど、回避した先に人影があった。
 それはデジルが作り上げたもの。かつて戦った敵の攻撃がデウスエクスを傷つける。
「仕事だぞ、ほら」
 ニヤニヤと笑うヒルダガルデの手から、白い猛禽も襲いかかった。
 ドラグナーは剣を変形させて自らを強化するが、それも一時しのぎにしかならない。
「リミッター、オールカット――聖剣、抜刀ッ!」
 砲槍ロンゴミニアドのリミッターをすべて解除し、アシュリーが生み出した光刃が敵を切り裂いた。
 攻防は続き、やがてジンをかばったネコが炎弾に倒れた。
「ネコッ!」
 シンシアは叫んだが、サーヴァントはもう動かない。
 けれど、彼女は怒り以上に哀れみを感じていた。
 ケルベロスたちはNo222をもう立て直しようのないほどに追いつめている。
 なんとか治してあげられるなら……そう思うけれども、今は方法がないことくらいわかっている。
 想いをこらえて、妖精弓の狙いをつける。
「黒ヤギさんたら読まずに食べたっ」
 攻性寄生因子弾が敵の傷口を食べて、回復する力を弱める。
 伸太郎の見せたナイフに映る像を見て、ドラグナーが意味の分からぬ叫びをあげた。
 けれど少年の無表情に敵を追いつめ続ける。
 もはや、ドラグナーは限界だった。
「最後は任すぜ。友達だったらよ、自分の為にやってくれること全部嬉しいもんだろーがよ? 喧嘩友達ならなおのこと、決着つけねーと死んでも死に切れんだろ」
 爆発する無数の深山のうち1人が、ジェノバイドに声をかける。
 アシュリーはラムレイに飛び乗った。
 彼も深山と同じ意見だった。きっとNo222はジェノバイドの知り合いなのだろう。だからこそ、彼のために隙を作るつもりで、ラムレイを走らせる。
 槍を構えての痛烈な突進が敵の足を止めさせる。
 薙ぎ払うジンの鉄塊剣が旋風を起こして、最後の反撃と放たれた炎を吹き消した。
「ねえ……どうして、私はあなたたちに……救ってもらえなかったの?」
 死の予感に泣きそうな声を出すドラグナーへ、ジェノバイドが接近する。ギザギザの刃には炎が燃えている。
 彼はなにも言わなかった。
 振り下ろした戟から、ジェノバイドの心を映すかのように一瞬炎が激しさを増す。
 赤いドレスが燃え上がり、少女の断末魔が響き渡った。

●怒りの矛先
 炎はすぐに消えたが、彼女が動くことはもはやなかった。
 ジェノバイドの横をすり抜け、伸太郎は静かに彼女の死を確かめる。
「踏みにじることしか考えられないから……『こうなった』」
「……わかっちゃいるが、まったく本当……くそみてーな世界だぜ、この巷はよ」
 少年が告げた後ろで、深山が大きく息を吐いた。
「少なくとも……もう、苦しまなくてすむんよね」
 ネコを抱き上げたシンシアがいたましげに呟いている。
「魂が欲しいとは言い出しにくい雰囲気だな」
「あら、そう? 喰らって残しておいてあげるのも救いになるかもしれないわよ」
 ヒルダガルドとデジルが、少し離れた場所で言葉を交わす。
 止めを刺したジェノバイドは、ただ無言で立ち尽くしていた。
「あの。……いえ、その。お疲れ様、です」
 声をかけようとして言葉を濁したアシュリーに、彼はゆっくりと目を向けた。
「ああ……あんたも、お疲れさん」
 息を吐くような言葉が漏れる。
「竜技師アウル……このままでは済まさん……」
 ジンが怒りのこもった声を吐き出した。
「そうだな……こいつ等をドラグナーにした野郎、許さねぇ」
 血の気がなくなるほど拳を硬く握りしめて、ジェノバイドは告げる。
 青年の赤い瞳は、まるで燃えているような色をしていた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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