黄金の波涛

作者:黄秦


 千葉県の沿岸部のとある港町。
 うららかな春の午後、海沿いにある臨海公園には町の住人が集い、浜辺に降りて彼方まで広がる海の見晴らしを楽しんでいた。
 その海の彼方、何かがきらりと光った。かと思えば、みるみる大きな黄金の輝きとなり近づいてくる。
「……ドラゴンだ!」
 それは全身を黄金の鱗に覆われたドラゴンだった。眩い陽光を弾いて煌めく威容が、見る者を圧倒した。
 人々が逃げを打ったときには遅く、黄金色のブレスが陸に向かって放たれる。それを浴びた人々は、黄金の像のようになって固まった。
 地上に降りたドラゴンは、人も車も見境なく当たるを幸い尾で薙ぎ払う。鉤爪を振るい、切り裂く。
 阿鼻叫喚の中、誰もその姿をまともに見る余裕などなかったが、黄金色はどこかくすみ、激しく動くたび、鱗の欠片がぽろり、ぽろりと剥げ落ちていた。
 ドラゴンは、『重グラビティ起因型神性不全症』―定命化の病に冒されているのだった。
 人々を喰らいながら、黄金竜は怒り、嘆いていた。
 地球侵攻の尖兵として潜み、他の同胞に手を貸し、雌伏に甘んじたのは、こうして存分に暴れ狂う日を夢見ていたからだ。なのに、自分はもう間もなくここで死ぬしかない。
「ならば、せめて、同胞のために! この身が果てるその瞬間まで暴れ狂い、この地を恐怖と憎悪で満たしてくれる!」
 黄金竜は振り仰ぎ、水族館に目を留めた。
 憎悪を滾らせて突撃する。何度もブレスを吹きかけ、尾を叩きつけ、破壊した。
 倒壊した建物から黄金の海水が溢れだし、人々と共に多種多様の海洋生物の死骸が流されていった。

 ここにはまだ多くの人間がいる。
 自身が力尽きるまで殺し尽くさんと、黄金竜は再び翼を広げ飛び立った。


「定命化が始まってから時間が経過し、死を迎えようとしているドラゴンが、市街地に飛来して人々を襲うことが予知されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は予知を語る。
 放置すれば、人々のグラビティ・チェインが奪われるだけでなく、その恐怖と憎悪によって竜十字島のドラゴン勢力が定命化までの時間的猶予を得てしまうのだと。
「人々を守り、ドラゴン勢力に時間を与えないためにも、ドラゴンの撃破をお願いします」

 今回、ドラゴンが飛来するのは、千葉県の東端にある小さな町だとセリカは説明した。
 町は海に面しており、沿岸には臨海公園が広がっている。
 広大な浜辺の一部をアスファルトなどで整地して公園として開放したもので、遊具や休憩所、観光用の大きな駐車場がある。また、少し高い場所に水族館が造られている。
「避難勧告は出しますが、別の街への移動には時間が足りず、避難途中で襲われる危険が高いのです。
 水族館が、もともと、災害時の避難所として指定されているようですから、近隣の住民にはここに避難していただきます。
 皆さんは、水族館を背に、臨海公園で黄金竜を迎え撃ってください。
 文字通りの背水。皆さんが敗北すれば、その時は大きな被害となることを、肝に銘じてください」

 今回のドラゴンは全身を黄金の鱗で覆われた、その名も『黄金竜』である。
 自分の能力に絶対の自信を持ち、最大限に活かせる立ち位置で戦おうとするようだ。
 定命化によって死に瀕しているため体力も下がっており、ケルベロス8人でも撃破は可能な状況だが、強敵である事には違いない。
 能力はまず、黄金のブレス。
 粒子状の黄金を吐きかけて来る。これは高熱を発しており、皮膚に張り付いて焼くだけでなく、即座に固まって動きを阻害する。全身に浴びれば、黄金の彫像のように見えるだろう、とセリカは言う。
 そして黄金の鉤爪で引き裂き、尻尾で薙ぎ払う。


「黄金竜に逃走はありません。少しでも長く多く恐怖と憎悪をもたらすために死ぬまで戦うでしょう。
 ドラゴンを倒し、その悪意から人々を護ってください。どうぞよろしくお願いします」
 セリカはそう締めくくると、ケルベロスたちをヘリオンに誘うのだった。


参加者
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
陸野・梅太郎(ゴールデンサン・e04516)
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)
矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
エルガー・シュルト(クルースニク・e30126)

■リプレイ


 千葉県の東端、太平洋を望む臨海公園に、ケルベロス達は待機していた。
 浜辺に打ち寄せる波は穏やかで、春の陽気を照り返してキラキラと輝いている。
 砂浜を開拓して造られた広大な広場に、彼ら以外の人気はなく、海鳥の姦しく鳴く声と波の音だけが響く。
 水平線を眺めながらお弁当でも食べたくなるようなような、うららかさだけれど、ケルベロスたちに行楽のつもりはない。
 やがてここへ、黄金に輝く敵が来る。水平線の彼方を睨み、彼らはそれを待ち構えているのだ。
 近隣住民を背後の丘に建つ水族館へと避難させ、文字通りの水際で、彼らは文字通りに背水の陣を敷いた。
(「まだか、まだか」)
 陸野・梅太郎(ゴールデンサン・e04516)は小鼻をひくつかせた。
 彼のきらきらふわふわの毛並みにも劣らぬだろう金色の敵に実は結構関心があるのだ。
「悪いドラゴンはボクとタマでやっつけちゃうんだからね! ねっタマ?」
 ファイティングポーズを取り、シュッシュとパンチを繰り出す矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)に、ボクスドラゴンのタマが勇ましい鳴声で答えた。
 海の彼方がきらりと光った。
 黄金に輝くドラゴンが、凄まじい速度で近づいてくる。
「来ましたね」
 西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)は眼鏡をはずし、無表情になる。
 ケルベロスたちは即応して戦闘態勢を取った。
 ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)は無言でアームドフォートを構えた。
 渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)は一歩さがり、逆にドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)が前に出る。

 『黄金竜』は陸地を一瞥し、その場にいる8人と2体を見つけた。
 ――これだけか?
 大量虐殺を夢想していた黄金竜は、想定外の寡数に激昂する。咆哮すれば、振動で剥がれた鱗が、キラキラと光り海に零れ落ちた。
「カッカッカ! 絶望の黄金竜よ。わし等が引導を渡してくれる! 殺意ならばこちらに向けよ!」
 ドルフィンの宣言で、黄金竜は彼らこそが定命化の病原菌であり、ドラゴンを屠るものだと気づく。
 黄金竜は、元凶との邂逅に激昂し、そして歓喜した。
 この者どもを引き裂き喰らい、己の留飲を下げる。そうすることで、その後ろに隠れている者どもに与える憎悪と恐怖もいや増すだろう。最後の僥倖だと黄金竜は思った。
「憎め! 怯えよ! 臓腑を撒き散らし我と我が同胞の糧となれ。それでも我が無念に比べれば、産毛の一つにも満たぬ」
「『同胞のために』か。抱えた想いには敬意を表するが、悪いな」
 金色に輝き猛り狂うドラゴンの威容も、感情の欠けたエルガー・シュルト(クルースニク・e30126)には恐怖も憎悪も齎さない。
「後ろにゃあ護るべきみんながいる、なるほど背水の陣ってやつかそれじゃあ一歩も退くことはできねぇなぁ!」
 梅太郎の言う通り、ここから先へは通さない。


 波打ち際に降り立つかどうかの位置から、黄金竜は先制のブレスを吐いた。
 金色の焔のような高熱の粒子がドルフィンを中心に、最前線へと襲い掛かる。
 噴きつけられたそれは皮膚を焼き、金箔を刷いたように固まった。
「カッカッカ! やはりドラゴンとの戦は滾るのう!」
 金の張り付いた腕を無理に動かせば、ビリビリと皮膚が裂ける。竜種との戦いに高揚するドルフィンには、その痛みも心地よい刺激のようだ。
 地にめり込むほど踏み込み、体内で練り上げたオーラを掌に込めて叩き込む。
 胴にめり込み、衝撃に黄金竜は呻いた。
「まったく、同胞の為だか何だか知らんが、そちらの勝手な都合にこちらを巻き込むな!」
 巫・縁(魂の亡失者・e01047)はハンマーを「砲撃形態」に変形させ、竜砲弾を発射する。
 緑のサーヴァント、オルトロスのアマツが黄金竜に瘴気を吐きかけた。
「敵ながら見事な金色じゃねえか」
 ブレスのことか、黄金竜そのものに言っているのかはさておき、梅太郎は黄金に煌めく光を放出した。
 その毛並みにべったりと纏わりつき、霧華やドルフィンを束縛する粒子が光によって消えていく。黄金がぶつかり合ってちょっと眩しいけど我慢だ。
 砂浜に降り立ち、追撃せんと翼を広げ突進する黄金竜へ、渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)は重力の蹴りを見舞って動きを止めた。
 エルガーの紙兵が舞い散る中を菜恵のヒールドローンが飛ぶ。タマも手伝って、援護で仲間の守りを厚くする。
「種の存続をかけて、その想いだけは否定できません。ですが、それは私たちだって同じ事」
 霧華は斬霊刀を振るう。熟達した、無駄のない一刀が数汰の蹴りで隙を見せた黄金竜を襲う。鱗が剥げ落ちて剥き出しになった皮膚を深く切り裂いた。
「人の世を脅かすのであれば、斬ります」
 振り返りそう言う霧華を、黄金竜は睨みつける。彼女に襲い掛かろうと爪を伸ばすが、飛び来る無数の砲弾に、間合いを離す。
 ピコがアームドフォートの主砲を一斉掃射したのだった。

 末期のドラゴンと同じくらいに狂って見せようと、傷を厭わずドルフィンは降魔真拳を叩きつける。
 縁のサイコフォースは、黄金竜の尾を爆撃する。アマツのソードラッシュは、鱗に弾かれた。病で弱っているとは言え、まだ大部分はその硬度を保っていたのだ。
 それならば、と数汰はフロストレーザーを放射する。確実を期しての攻撃は、ドラゴンにそれなりにダメージを与える。
「そんなものか!」
 この程度の痛みかと嘲笑う黄金竜だったが、凍てつき、熱を奪われていくことに気付き牙を打ち鳴らした。
 エルガーはケルベロスチェインを展開し、魔法陣を描いた。強敵に相対して、幾重に防御を固める。
 霧華は炎を纏った斬霊刀を気合とともに振り下ろした。叩きつける刃はドラゴンの肉を裂き、炎が焼き焦がした。
 菜恵は破鎧衝で痛烈な一撃を見舞うそこへ、ピコが螺旋氷縛波で凍らせた。


 波打ち際で、ケルベロスとドラゴンとは入り乱れての混戦状態となる。黄金竜は巨大な尾を振るい、近くにいる者たちを薙ぎ払った。
「憎悪、恐怖、貴様らにこそあれ! 矮小なるものどもよ」
 仲間を庇おうと前に出た梅太郎と菜恵がまともに食らって吹き飛んだ。威力を殺してもなお、ダメージは浅くない。
「わしが倒れるか! ぬしが倒れるか! どちらかになるだけよ!」
 ドルフィンはむしろ高らかに笑う。地竜八卦掌を撃ち込むその拳に黄金竜は食らいついた。それでも気脈を乱す衝撃は牙の数本を折った。
 黄金竜は折れる似構わず、ドルフィンの腕を振り回し、海へと投げ出した。
「『龍浄琥珀!』」
 緑は鉄塊剣『牙龍天誓』を天に掲げた。周囲に琥珀色の粒子が展開して癒す。
 多種の黄金が輝きを放ちあい、どうにも眩い空間となっている。
「お前を倒して「黄金」の名は俺が貰ってやるよ、観念しな」
 梅太郎の降魔真拳で戦う。
 数汰はスターゲイザーで、ドラゴンの前進を阻む。巨体には死角も多い。ドラゴンと何度も戦った経験が生きて、的確な攻撃を仕掛けられていた。一撃入れれば、反撃が来るより早く敵の爪や尾の届く範囲から離脱する。
 霧華の振り下ろす刃は鱗を掠めて砂浜を叩いた。
 ピコはアームドフォートを撃ち続けた。無数の砲撃が黄金竜の動きを阻害した。

 浜に波が寄せては返すように、一進一退の戦いが続く。
 海鳥はどこに隠れたのか、今は鳴き声もない。


 黄金竜は身の内に滾る怒りそのままブレスを吐く。命尽きかけていると言えど、その威力は決して衰えるものではなかった。
 威信をかけた黄金の灼熱は容赦なくケルベロスたちを焼き焦がした。
 構わずドルフィンは跳躍する。高揚のままに旋回し、その勢を利用して鋭く蹴りを叩き込む。
 縁の轟竜砲が火を噴いた。黄金竜の足元で炸裂し、よろめく。アマツがそこへ走り込んで、咥えた剣で斬り刻んだ。
「そちらが死に物狂いで事を成そうというのなら、こちらも同等の覚悟を持って闘うとしよう。後はどちらの覚悟が上回るか、それだけだ」
「囀るな、羽虫が!」
 黄金竜は、翼を広げて緑へと肉薄する。前脚で殴りつければ、鋭く硬化した爪が、緑を貫いた。
「死に物狂いとは何だ! 『死ぬ』だと? 『覚悟』だと!? 貴様らのごときに、憐れまれてなるものかっ!!」
 言い終わらぬうちに、数汰の凍結光線が直撃して熱を奪った。
 エルガーの紙兵散布が舞い、癒す。
「『天に祈りを、地に花を、嘆くあなたに安らぎを…。』 」
 霧華の此岸華で安らぎを与え、莱恵のヒールドローンが飛ぶ。タマも体当たりで頑張っている。
「我々を侮り、回復を軽んじた時点で、貴方の敗北は確定しました」
 ピコは黄金竜に淡々と語りかける。
「我々に恐怖も憎悪も与えられない以上、貴方の行為は無意味です」
 そう言いおいて、ピコは『紅竜鱗』を抜刀する。影の如く密やかに迫り、刃を閃かせ、的確にドラゴンの脆弱な部分を切り裂いた。体だけではない。強大なドラゴンであるがゆえに、気づくことなかった心の脆弱さをも、ピコはその言葉で貫いていた。
「黙れ! 黙れ黙れ黙れっ!!」
 猛り狂い、黄金竜は爪を振るう。ピコを狙う容赦のない鋭い爪は梅太郎が飛び込んで食い止めた。
 受け止めてしまえば、間合いの裡。梅太郎は即座に反撃の拳を突き上げた。バトルオーラが黄金に輝き、黄金竜の魂に食らいついた。
 命を鷲掴みにされ、内側から破壊されるようで、黄金竜はかつてない恐慌を覚えた。
「カッカッカ! 図星を差されて怒っておるのか?」
 ドルフィンはガントレットのジェットエンジンを起動し、高速の重拳撃を放った。
 数汰は死角から躍り出ると、剥き出しの傷口へ惨殺ナイフを突き立てる。ぎりりと食い込ませ、深く抉る。
 霧華の熟達した一撃は鋭く、黄金竜と言えど何度も躱せるもぼではない。まして、傷は広がり、凍てつき、身体が思うように動かせないのだ。
 莱恵の弾丸がさらなる凍結を呼び、動きは鈍る一方だ。
 一旦間合いを離したピコは黄金竜に狙いを定め、無数のレーザーを放ち攻撃する。

 黄金竜は、気力を奮い立たせ、ひときわ大きく吼えた。気力を込めて、動きの鈍る体を無理に動かし黄金のブレスを吐いた。全身が震え、鱗が剥げ落ち血が噴き出した。
 悪なる竜の様相は、ドルフィンを悦ばせた。
「こちらも狂わねばドラゴンの打倒など不可能よ!」
 その破滅に付き合おうと、ブレスを吐き続ける顎へ、その身を躍らせ、拳を叩き込んだ。
 ドルフィンが黄金の彫像のようになって吹き飛ぶのと、顎を破壊された黄金竜が仰のいて後ろに倒れるのが、同時だった。
 縁はサイコフォースが、倒れた黄金竜の背を爆砕する。
 黄金に光るドルフィンの金箔が剥がれ、傷がふさがっていく。梅太郎の光にエルガーの癒しが重なって、致命傷を免れている。
 数汰はライフルを投げ捨てて走る。
「これで終わりだ、『氷屍雪魄』!」
 短剣を両手に持ち、倒れた黄金竜へと深々と突き立てた。更に、体内へ冷気を流し込む。
 ギィ……アァアアアアアアアアアア!!!
 黄金竜は叫んだ。深く貫く刃が冷たい。あまりにも冷たいそれが、何故か恐ろしくて、ただ、ただ黄金竜は叫んでいた。
 霧華は絶空斬で追い撃ち、さらに傷口を広げる。
「死にそうだからといって悪い事していいわけないんだからね!」
 菜恵は黄金竜の剥き出しとなった横腹に痛烈な一撃を浴びせる。同意とばかりにタマが吠えた。威力に劣るタックルでも、急所を捕らえればそれなりにダメージとなる。
 黄金竜が小さなボクスドラゴンに振るった爪は、菜恵が防いだ。

 急速に力が抜けていくのを黄金竜は感じていた。かつてないほど肉体は傷付き痛み、凍てついて思うように動かない。
 身体の奥底から闇がせり上がる感覚を、黄金竜は生まれて初めて覚えた。
 その感覚から逃れようと、黄金竜は立ち上がり尾を振るった。せめて1匹、2匹でも道連れにしなくては、同胞への立つ瀬がないではないか。
 今、黄金竜に残された矜持はそれだけだった。
 それでも威力の落ちた尾の衝撃を梅太郎は躱わし、菜恵が立ちはだかり受け止める。
 縁の轟竜砲が唸り、アマツの瘴気が満たす。
 梅太郎は降魔真拳で、滅多打ちに打ち据えた。
 数汰は飛び蹴りを食らわして、その場にくぎ付けにする。
「癒し、いや……ここは攻め時か」
 ここまでサポートに徹したエルガーも、攻撃に転じる。
「『――シュネールガン・アクティーフ。我が身に来たれ、雷鳴の牙。我と共に咆哮せよ――』 」
 詠唱により風と雷の力を呼び、急加速し突進しする。蒼い稲妻を纏った一撃は黄金竜の胴を貫き、黄金の翼をも突き破った。

 心臓が砕ける音を、確かに聞いた。

「……こざか、しい、狗、どもが……っ!!」
 核を失ったドラゴンの肉体は力を失い、崩れ落ちていく。凍てついたそこかしこがパキパキと音を立てて砕け散った。
 身を焦がした怒りも凍てつくような闇に包まれ、萎み、薄れて消えていくのをただ感じていた。
(「……これが『死』か」)
 力尽きる間際に黄金竜が思ったのは、ただそれだけだ。
 波打ち際にドラゴンは崩れ落ちた。金の混じった血が流れて打ち寄せる波にさらわれていく。それは陽光を弾いて、海を金色に輝かせていた。


「病にも侵され元の世界に帰れないか。端からこの世界に居場所なんてなかったのだろうな」
 波に洗われるドラゴンの骸を見遣り、緑は煙草に火をつけた。
「仕方あるまい。黄金の名を汚す者は許せないからな!」
 黄金の毛並みに誇りを持つ梅太郎だから、黄金竜のしたことは一層許せなかったのだ。
「とりあえず、お前の『黄金』の名前は貰ってやるよ」
 波に洗われる骸にそう声をかけるが、当然答えはない。ただ、ひときわ大きな波が打ち寄せて、黄金色の飛沫を梅太郎に浴びせた。
「カカッ、やはりドラゴンとの戦が一番じゃて!」
 あちこち傷だらけにもかかわらずドルフィンは満足気に哄笑した。

 もう安全だと知らせるため、菜恵は丘の水族館へと走った。その後をタマがパタパタと飛ぶ。
「悪い竜はボクらが懲らしめたんだからね!」
 勝利宣言して走る小さな姿が水族館へと消えてしばらくすると、避難していた人々が、少しづつ表に出て来た。
 海鳥がまた鳴き始め、静かだった海辺が徐々ににぎやかになっていく。
 ドラゴンの脅威は去り、平和が戻ったのだ。
 それを実感した霧華の顔に、儚げな笑みが戻っていた。

作者:黄秦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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