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「ここに来るのは……初めてね。暗くて、埃臭いけど……今の所はそんなに変わった所はないみたいだけど……?」
つい先日卒業したばかりの高校に、少女は深夜零時、再び脚を踏み入れていた。
だが、同じ敷地内であっても、少女が今現在いる場所は少し違う。ここは……。
「旧校舎……閉鎖される前は、何人も行方不明になったと言われている曰く付きの場所だそうだけれど……。でも、それはもう十年、二十年以上前の話らしいし……」
真偽は不明。
「ただ、長期休暇の度に、学校側から旧校舎に入ってはいけないって周知があったくらいだから、まったくのデマって訳でもないんだろうけどね。一説じゃ、レイコさんって女の子がイジメを苦にして自殺。その残留思念が旧校舎に取り付いて、友達を求めて他の子をあの世に誘ってるっていう話しもあるようだし」
少女――カエデが、今になって旧校舎を訪れたのは、ここがカエデにとって最後の心残りだったから。
「心霊研究部元部長として、大学で県外へ出る前に、どうしてもこの旧校舎を一度この目で見ておきたかったのよね」
不思議と、カエデの在学中に旧校舎に入ろうという話は、部内でも一度も出ることはなかった。その理由は、本能的にこの場所を忌避していたのかは分からないが、卒業式を終えたカエデは、まるで誘われるようにこの場所へ……。
ビリリリリリリリィィィィ!!
「ひっ!」
唐突に、持ち歩いていたバッグの中に入っていた携帯がバイブ音を鳴らし、カエデは飛び上がるようにして驚く。
「……非通知?」
携帯を確認してみて、カエデはさらに表情を険しくした。この状況で、非通知から連絡。そのバイブ音が、ついたり消えたりを幾度も繰り返す。
「……これ、やっぱり噂は本当――!?」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があるわ」
そして、怯えるカエデにトドメを刺すように、クスクスと、嘲るような笑いと共に聞こえてくるのは、カエデに心当たりのない女の声。
「い、いやああああ!」
悲鳴が上がる。その時! ブスリと……。
駆け出そうとするカエデの胸には、第五の魔女・アウゲイアスが手にする鍵状の凶器が突き刺さっていてた。
そして……。
「新しいお友達、嬉しいな……うふふ……」
崩れ落ちるカエデの変わりに、楽しげに手を打つ脚のない少女の霊がそこにいた。
●
「旧校舎といえば、怪談や心霊現象の宝庫ってイメージ、ありますよね」
子供の頃は、トイレの花子さんとかすごく怖かったと、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は苦笑を浮かべ、ケルベロス達を会議室に迎え入れた。
「植田・碧(エンジェルハイロゥ・e27093)さんの懸念通り、不思議な物事に強い『興味』をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったようです」
元凶となるドリームイーターは姿を消しているが、旧校舎に関する噂を元に生み出されたドリームイーターは健在だ。
「どうか被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して下さい! また、ドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われてしまったカエデさんも、目を覚ましてくれるはずです!」
セリカは、事件の概要を纏めた資料をケルベロス達に配る。
「今回皆さんに倒してもらうことになるドリームイーターですが、両脚のない、典型的な幽霊の外見をしています。それゆえ、足音は一切聞こえませんし、気配も非常に希薄です。そして、悪夢を見せつけたり、所持している携帯電話から電波を発して周囲の者を操るといった攻撃方法をとってきます」
ドリームイーターは自分の事を信じていたり、噂している人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質がある。
「どこかの教室に誘き寄せる方法が無難だと思われます。旧校舎で足場があまりよくないので、事前にチェックなり補修なりをすれば、より万全となるでしょう」
そこまで説明を終えると、セリカは資料を閉じる。
「現れたドリームイーターは、レイコさんを模して生み出されたのでしょうか……。レイコさんの境遇を思うと悲しいですが、放っておく訳にもいきません! カエデさんを助けてあげてください!」
参加者 | |
---|---|
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031) |
ミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213) |
上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125) |
佐藤・非正規雇用(こわいものみたさ・e07700) |
メルーナ・ワードレン(小さな爆炎竜・e09280) |
雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316) |
ミハイル・アストルフォーン(白堊・e17485) |
植田・碧(エンジェルハイロゥ・e27093) |
●
「碧さん! その板取ってくれ」
「ええ、分かったわ」
来る深夜零時に向けて、ケルベロス達は比較的状態のよさそうな教室の補修を行っていた。床に開いた穴を埋めるため、その中に入り込んでいた佐藤・非正規雇用(こわいものみたさ・e07700)が、植田・碧(エンジェルハイロゥ・e27093)に声をかける。
だが――。
「へぶっ!!」
次に聞こえてきたのは、補修時には相応しくない佐藤の苦悶の声。
「佐藤さんの考える事なんて、お見通しよ?」
そう、佐藤は、穴の下から碧の下着を覗こうとしていたのである。それをいち早く察知した碧によって、佐藤の顔面は床板で打ち付けられていた。
「アルバ……お前という奴は……。それはそうと、邪魔な机は壊しとくか?」
「……ああ、なら僕も手伝うよ」
佐藤に対し、呆れた視線を向けるミツキ・キサラギ(ウェアフォックススペクター・e02213)と、上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)。
「学校関係者から許可は貰ってるんでしょ?」
「はい、自由にやってくれて構わないようです」
旧校舎とはいえ、好き勝手に弄っているのだ。少し心配したメルーナ・ワードレン(小さな爆炎竜・e09280)が、ミハイル・アストルフォーン(白堊・e17485)に問いかけた。それに、ミハイルが笑顔で頷きを返す。
「最悪ダンボールに隠れようとも思ってたが、ベランダ辺りにも隠れられそうだな」
「掃除する必要はありそうですけどね」
そこに、身を隠せる場所を探していた雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)と、十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)が戻ってくる。
隠れられそうな場所は、無事に見つかったようだ。
――午前零時5分前。
「噂話とかは女の子の方が好きだろうからな。俺達は、その辺で隠れてるよ」
「誘き寄せはそっちに任せるぜ」
佐藤とミツキの言葉を合図に、泉とミハイル以外の男性陣が、それぞれの場所に身を隠す。隠密気流で気配を消す零のように、大人しくしていてくれればいいのだが……。
「学校の隠れ場所と言ったら、ここが定番だぜ――って、ミツキ!? ロッカーは俺が入るの!!」
「ちょっそっち行けって! せ、狭……!?」
何故かロッカーを巡って争う、佐藤とミツキ。
「何やってんだ。雰囲気もロマンもあったもんじゃないな」
その様子に、達也はベランダから顔を覗かせながら、深々と溜息をついた。
「もうっ、いい加減にしなさいよ、あんた達!」
相も変わらずロッカーに執着する佐藤とミツキに、我慢の限界に達したメルーナが、ドアを足蹴にして、二人纏めて強引にロッカーへ押し込む。きっと、中では佐藤が、狐に変身したミツキを抱きかかえるような格好になっている事だろう。その証拠に、ロッカーの中からは苦しそうな、嫌そうなミツキの鳴き声が時折聞こえてくる。
「……自業自得、だな」
零の言うように、同情してくれる者は一人もいない。数分の間、二人には我慢して貰う他ないだろう。
――午前零時2分前。
「深夜の旧校舎……流石に雰囲気が出るものですな」
「そ、そうね……雰囲気が良く出てるわ」
ミハイルと碧が教室内を見渡す。準備が整った教室内は、一転して静寂に包まれていた。
「ゆ、ゆゆゆ……幽霊なんて、ほ、ほほ、本当にい、いるのかしら?」
時折感じる、振動や物音。それらは、老朽化した校舎のせいだと半ば理解しているものの、震える声のメルーナは、思わずビクリとしてしまう。
「どうでしょうか。でも、私も幽霊ってその……苦手、なんですよね」
それは、ミハイルも同じ気持ち。ケミカルライトをばらまいて光源を確保しながらも、背筋を冷たい汗が伝う。
「真偽は分かりませんが、虐めを苦に自殺された、レイコさんという方がいたそうでよ」
時折相づちを打ちながら、泉もそう告げる。緊張でガチガチになっているメルーナとミハイルのために、「甘い物、お一つどうですか?」柔和な表情で、手持ちの金平糖を分けてあげながら。
「さ、佐藤さんに聞いた話では、『幽霊でレイコと言えば、カシマレイコを思い出す』なんて言ってたわね。足を持っていかれたりするらしいけど……何か関係あるのかしら?」
「あ、それ私も聞いた事あります! アニメとかに出てきたりして、結構有名ですよね」
碧が又聞きした、カシマレイコという名。その名を出すと、ミハイルも知っていると手を打った。
「もしもの時は、頼りにしてましね、あおいちゃん!」
「え、……ええ」
ミハイルが、碧の肩のコテンと頭を乗せる。碧は、ピンと背筋を張った体勢で、涙目で頷いた。
「な、何言ってるのかしら、そんなものがいる訳ないじゃない。いたとしても、それは――ひぃ!?」
ビリリリリリリリィィィィ!!
「きゃあああああっっ!!」
メルーナが、雰囲気に堪えきれず声を張ろうとした瞬間、携帯がけたたましく鳴り響く。その音に、メルーナは悲鳴を上げかけるが、彼女よりも早く絶叫が迸ったため、メルーナは逆にポカンとした。
「碧さん?」
「……もしかして、あおいちゃん、幽霊苦手なんですか?」
悲鳴を上げたのは、碧だった。碧は、集まる泉やミハイルの視線を自分から逸らすように、教室のドアの方を指差す。
「ち、違!? そ、それよりもあそこ! きっとレイコさんよ!」
そこには、確かに、両脚の透けている少女の霊がいた。
●
鳴った携帯を確認した零は、そこに一通のメールが届いているのを知る。内容は、『私はだーれ?』。
「……さびしがりの女の子」
零はそう言葉に出しながら、一気に少女――レイコの背後から襲い掛かる。地獄の炎を纏った武装は、無防備なレイコの背中へと吸い込まれて……。
「ああああああッッ!」
幼さを残す少女の悲鳴に、零は唇を噛んだ。
「お前は誰でもない。さしずめジェーン・ドゥ《名無し》ってところだな。行くぞ、アルバ!」
「おう!」
零の先制を契機に、一気に行動を開始する。ロッカーから飛び出したミツキの白い肌に、返り血のような紅色の呪文が浮かんだ。身に宿すのは、いろいろとミツキと因縁のあった、先代巫女の恩師の魂。
「お友達に、なってくれないの?」
魔人の加護を得た肉体で、ミツキは悲しげな表情を浮かべるレイコの鋭い爪を、扇翼で受け止める。
「こっちだぜ、お嬢さん」
拮抗するミツキとレイコ。佐藤はその両者の側面に回り込むと、店長と共に、後方からレイコを一気に燃やしつくさんと炎を放つ。
「まさか、自殺したというレイコさん……?」
「アナタはレイコさん。虐められて、でもそこから救ってくれる友人のいなかった、哀れな女の子」
達也とミハエルの返答は、正鵠を射ていたのだろう。
「……うん、そうだよ、その通り……ふふ……」
レイコさんは寂しげに、自嘲するように頷いてみせた。見ているこっちまで、悲しくなってくるような、儚げな気配。
「う、うるっさいわよ! この『オバケ』! なんでもいいから、早く成仏なさい!!」
その雰囲気をぶち壊すように、メルーナの地獄の炎を纏った鉄塊剣が、レイコを薙ぎ払う。同情する必要はない。眼前の彼女はドリームイーターで、噂から生み出された偽の存在でしかないのだから。
「オカルトの類いは、フィクションだからこそ面白いのさ。だから、早々に退場願おうか!」
達也が縛霊手でレイコを殴りつけると、そこから網状の霊力が放射され、彼女の身体を拘束してしまう。
「今です!」
動けないレイコに対し、ミハエルは「砲撃形態」に変形させたドラゴニックハンマーの銃口を向け、竜砲弾を発射。
「い、いやああ、やめてぇ! 虐めないでぇっ!」
轟音と共に砲弾は着弾し、派手に粉塵を巻き上げる。
「こんなこと、早く終わらせたいものです」
ドリームイーターだと理解していても、少女の叫びは聞いていて決して気持ちの良いものではない。泉は踵で、小さく床を規則的にこつ、こつ、こつと踏みしめる。それは、夜明けの訪れを願うおまじない。
そして、泉が改めてlarkspurを構え直した瞬間――。
泉の眼前から、仲間も、レイコも姿を消す。変わりに、視界を覆う程の幽霊が、泉に襲い掛かろうとしていた。
「な!? これは、一体!」
幽霊には、larkspurのダメージが一切通らない。そして……。
「ミカン、泉を援護してあげて!」
メルーナの声と、ミカンの属性注入によって、泉は自身が悪夢に囚われていたことを知る。次いで、反射的に幽霊に対して振り続けたlarkspurによって、運良く泉の中から悪夢が霧散した。
「敵はジャマーよ、落ち着いて対処しましょう!」
レイコのBSは厄介だが、備えは十分にある。碧の呼びかけによって、ケルベロス達は落ち着きを取りもどそうとしていた。
だが、そうはさせまいと、レイコの霊気を纏った鋭い爪が碧を襲う。
「あ、あおいちゃん後ろっ!? っ、私に任せてください!」
「アストルフォーンさん、ありがとう!」
迫る爪を間一髪、ミハイルが傷を負いながらもハンマーで防ぎきる。そして、ニオーがすかさずミハイルに属性を注入するのを横目で見ながら、碧はレイコの至近距離からグラビティ弾を撃ち出し、彼女の首筋を抉った。
●
「零さん、俺は敵じゃないぞ! ぐぅっ!」
零の達人の一撃が、達也の脇腹へと痛烈に叩き込まれる。零の燃え盛る炎の瞳の奥は虚ろであり、それは彼が操られている事を意味していた。
「ニオー、お願いします!」
ミハイルの声が響き、ニオーが零に属性を注入する。零が自我を取り戻す時間を稼ぐため、ミハイルはゲシュタルトグレイブに稲妻を帯びさせ、レイコを貫いた。
「……い゛ッ……ふ、ふふ、仲間割れ、醜いですね。生きている人間は、いつもそう」
苦痛に喘ぎながらも、レイコの憎悪の籠もった声色が、教室内を満たす。
「お前が零を操ってんだろうが!」
ミツキの怒声にも動じず、レイコはクスクスと含み笑う。
すべては、レイコの所持する携帯から流れる、歪な怪奇音が原因だ。これまで怪奇音に操られたのは、いずれもクラッシャー達。火力に特化した陣形で戦闘に望んでいるケルベロスであったが、それを逆手を取るように、レイコはクラッシャーを操ってはその攻撃力を利用していた。
「……厄介だな」
達也が、霊力を帯びた紙兵を大量に前衛の前に散布する。だが、減衰が発生している事もあり、耐性の付与は思ったようにはいっていない。頼りは、メディックのサーヴァント2体という状況。
「上野さん、しっかりしなさいな。ワードレンさんが見てるわよ!」
「そ、そうよ、いつまであたしの前で無様な姿を見せる気!? しっかりしなさいよねっ!」
メルーナが零に対して気力を溜め、その隙を潰すように立ち回る碧が、電光石火の蹴りでレイコを牽制する。
「……はっ! ……悪い皆、メルーナ、迷惑かけたね」
その呼びかけに、零はようやく洗脳から解き放たれ、申し訳なさそうに苦笑を浮かべる。
「気にすんな! 迷惑なら、俺の方がよっぽどかけてるしな!」
友人の無事に胸を撫で下ろしながら、佐藤は店長の放った瘴気によって視界を奪われているレイコの身体に、歪に変形したナイフを突き立てる。
「自慢げに言うことじゃないぞ、アルバ」
「否定はしてあげないんですね」
「事実だからな」
ミツキと泉が、軽口を叩きながらレイコに迫る。
「制御できる自信はありませんが、ヒトツメ、行きますよ?」
「あなたの攻撃は、当たりません!」
レイコには、力任せに叩き付けるような攻撃が、泉の印象としてあるのだろう。泉はそのレイコの余裕に対し、「それはどうでしょう?」そう頬笑むと、先程までの攻撃とは打って変わった、無駄のない斬撃で、レイコに斬り掛かった!
「ッ!」
早く、重く、正確な攻撃に穿たれ、なんとか捌こうとするレイコだが、次第に爪がボロボロと欠けていく。
「Sterben !!」
さらに、ドイツ語で『死』を意味する単語を叫びながら襲い掛かるのは、ミツキの掌打と符術のあわさった無数の斬撃。直接体内に及ぶ衝撃に、レイコの身体がグラリと揺れる。
「悪いな、レイコさん。そろそろ終わりだ」
限界の近いレイコに、達也の電光石火の蹴りが入り、その腹部を貫いた。
「……合わせるよ、メルーナッ!!」
借りはきっちり返さないと気が済まない。虐め、自殺と聞く度に零の心は乱れそうになるが、彼はそれを必至で押さえつけ、友の名を呼ぶ。
「ええ、私についてきなさい!」
以心伝心、返事はすぐに返ってきた。勝ち気な笑顔を浮かべるメルーナを、零は失望させぬよう、自身が持つ最大の出力で、掌から「ドラゴンの幻影」を放つ。
合わせ、メルーナも自身を越える優に越えるサイズの翼をはためかせ、口のみならず全身に紅蓮を纏いブレスを放射する。
漆黒と紅蓮が絡み合い、うねりながらレイコを焼き尽くしていく。
「……あ、あ……ああ……」
炭化したレイコが、空を見上げる。そこには、教室の天井があるはずであった。
しかし――。
「月下の元に眠ってください!!」
「……綺麗」
ミハイルの声が響くと同時に、レイコが見上げたそこには、月が浮かんでいた。そして、佇む美しい鬼。足元の小路、両脇の竹林。そのすべてが、幻想的で。
レイコが目を閉じる。虐め、友達への執着。すべてが、どうでも良くなっていた。そんなレイコに救いをもたらすように、鬼の刀が月光の下、奔る。朱が舞い、それすらも美しく……。
レイコは、静かに息を引き取った。
●
カエデが目覚めると、辺りは泉の奏でるブルースハープの優しい音色で満ちていた。
「大丈夫かしら?」
ゆっくりと上半身を起こすカエデに、碧がその背中を支えながら問いかける。するとカエデは、「はい」と頷く。
「ここに居たのは、残念ながらドリームイーターだったよ」
何が起こったのか、いまいち理解できていないカエデに、達也はことのあらましを簡単に説明してやる。
その中で、泉の演奏する曲に、葬送の意がある事を知ったカエデは、祈るように、静かに目を伏せた。
「お嬢さん、大丈夫か? ちょっとそこに『自由の羽根亭』という良い宿があるから、休憩していくのがいいんじゃ……」
「……ウチの宿を何だと思ってるんですか……」
佐藤は佐藤なりに、下心満載でカエデを心配していたが、零の呆れたような声と、女性陣の冷たい視線に晒され、それ以上の言葉を紡ぐ事はできない。
「遠慮しておきます」
続けて、カエデにはっきりと断られ、佐藤は肩を落とした。
「――悪いわね。アンタの『トモダチ』には、なれないのよ」
カエデの状態が安定した後、メルーナが、ふと呟いた。
「レイコって子の事なら、俺が祓っといた。ノーギャラだけどな」
その呟きを聞いていたのか、ミツキがメルーナの背中を軽く叩く。
願わくば、向こうでは友達ができる事を願って……。
作者:ハル |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年5月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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