タコス・クライシス

作者:鹿崎シーカー

 バットがガラスケースを打ち砕く。陳列された新鮮なスシネタを床にぶちまけ、モヒカン男達は店主を威圧!
「タコスを寄越せ!」
「即座にタコスを寄越せッ!」
「ひええええええ!」
 尻餅をついた老寿司職人は激しく首を振る。奥からは他のモヒカン男に襲われた客の悲鳴と破壊音。このままでは店が滅茶苦茶にされてしまう!
「や、やめてくだい! うちは寿司屋ですッ! メキシコ料理の店は二キロ先ですよ!」
「うるせェーッ!」
 ケース内のネタが次々たたき潰された。無残に飛び散る卵やマグロ、甘エビの残骸。床に散らばるそれらを踏むのは、革ジャンを来たモヒカンの男。その顔は……羽毛を生やした鳥人間! モヒカンを従えたビルシャナは、バットのフルスイングで店主を殴った! 非道!
「テメェの店のことなんざ聞いてねえんだッコラーッ! なんでタコス置いてねえんだ! メキシコ由来の完全食、究極のメニューだぞ! それがねえとはどういうことだオラーッ! 説明してみろッコラーッ! メキシコライオンのエサにすっぞオラーッ!」
「ひえええええ!」
「たかが魚に数千数万取りやがって……タコスの方が安くてうまいし腹一杯になるだろうが! なんでそんなメチャスゲェ料理を差し置いて寿司なんだ! 何が悲しくてこんなん食わなきゃならねんだッコラーッ!」
「ひえええええ!」
 あっという間に店主が倒れる。気絶した店主を興味なさげに足でどかすと、ビルシャナはバットで店の奥を指し示した。
「お前らも行って来いッ! タコスねえ店に用はない。派手にやれえええッ!」
『ヒャッハーッ!』
 寄生を上げたモヒカン二人は、店の奥へ走っていった。


「……からい」
「チリペッパー使ってるからねー。はい、水」
 ミッシェル・シュバルツと手製のタコスをかじりつつ、跳鹿・穫はお冷を注いだ。
 四月も終わりかけとなったこの頃。とある寿司屋に、ビルシャナとその配下が襲撃するという情報が入った。
 ビルシャナの名はオクトパス。革ジャンにモヒカンという出で立ちが特徴的で、『タコスこそがこの世で最も至高な食べ物』と信じて疑っていない。タコス愛が高じ過ぎた彼は、タコスを置いていない店を襲撃し、配下と大暴れするらしい。
 何を好むかは個人の自由。しかしそれを推しつけ、あまつさえ破壊行為に及ぶなど実際言語道断である。現場の寿司屋で彼らを待ち伏せ、オクトパスを撃破してほしいのだ。
 今回は敵の性質上、襲撃場所となる寿司屋で待ち構えることとなる。が、店内は戦うには手狭すぎ、下手をすれば板前や客にも被害が及ぶ。広い駐車場になっている外で戦うのがいいだろう。駐車場には車が数台、そしてオクトパス達が乗ってきたバイク以外は何もない。
 オクトパスは両手に木製バットを二本持ち、さらに背中に生やした光の腕にも八本バットを持った十刀流で戦闘を行う。モヒカン配下は総勢七人。全員タコス大好きで血気盛んであるが、こちらは口頭説得することで無力化できるかもしれない。出来なかった場合の対処は皆に任せる。
 ちなみに余談だが、襲撃される寿司屋は回転寿司ではない。食事の際は自分で負担するように。
「ヒャッハーな信者の説得は難しそうだけど、やらなきゃ色んな人が危ないからね。とりあえずよろしく!」


参加者
陶・流石(撃鉄歯・e00001)
レーチカ・ヴォールコフ(リューボフジレーム・e00565)
篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)
ガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
ソル・ブライン(橙赤の鉄機・e17430)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
マリー・ビクトワール(ドワーフの鎧装騎兵・e36162)

■リプレイ

「あべしッ!」
「ひでぶッ!」
 横開きの戸を突き破り、八人のモヒカン男が退店。殺風景な駐車場に蹴り出された彼らは、色めき立って怒声を上げた。
「な、なんだテメッコラー!?」
「やんのかオラー!」
「民事訴訟起こすぞコラーッ!」
 口々に怒鳴るアウトロー。彼らの目の前、寿司屋のノレンを潜ったソル・ブライン(橙赤の鉄機・e17430)は肩をすくめる。
「やれやれ。おちおち寿司も喰えんな、この星は……」
『おちおち食う金もないでしょ』
 鳥型胸部装甲の嫌味を流す中、尻餅をついたモヒカン達を跳ね飛ばし、オクトパスが立ち上がる。二刀バットで鋭く威嚇。
「テメッコラーなんのつもりだオラーッ!? こっちはタコス食いに来てんだ! 邪魔してんじゃねえぞコラーッ!」
「ヘッドの言う通りだ! そこどけコラーッ!」
「燃料デスソースにされてえかコラーッ!」
 一糸乱れぬスイングを披露する七モヒカン。風圧に吹かれるソルの脇から現れた篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)がビシリと指を突きつけた。
「何勘違いしてるんだ。この店のタコスは……外だZE!」
「タコスが食べたいなら、ほら。そこにコーナーあるから」
「……なんだと?」
 同じくソルの脇から出た天司・桜子(桜花絢爛・e20368)が示す先、業務用シートがばさりと弾け、メキシコ民謡が流れ出す。シート内から登場したのはソンブレロのドラゴニアン。
 セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)は、早撃ちめいた速度で腕を振る。スモークとライトを切って飛ぶタコスは狙い違わずモヒカン達の口にダイブした。
「むご……ごばッ!?」
 モヒカンが一斉に目をむいた。スイングが止み、モヒカン根元まで顔が真っ赤になるのと同時、彼らはタコスを噴き出した。
「ご、ゴボーッ!?」
「喉が! 喉が熱いッ!」
「あがががががががががが!」
 口々に絶叫し、八人は地面をのたうち回る。阿鼻叫喚の彼らに向かって、セットはマスカラをシャカシャカ鳴らす。
「ゲー・パーサーお客さん! そんな顔して。アルトー? テンション高いか? 千手観音見えるか?」
「ゲホッ……テ、テメッコラーッ!」
 オクトパスが咳き込みながら起き上がる。瞳を怒りに血走らせ、セットをにらむ!
「これ絶対ェタコスじゃねえだろッコラー!」
「ノー! 立派なタコスこれ! キャロライナ・リーパー入りね! 唐辛子入ってるだけよ!」
「嘘つけこんな唐辛子があるかッコラー! デスソースで染色すっぞオラー!」
 セットの目が猛禽めいてギラリと輝く。音楽に合わせ、鳥にマスカラを突きつけた。
「何を言うっす! タコスは唐辛子使ってなんぼ。なのに辛いのが嫌とはどういう了見っすか! それとも唐辛子なしの緑タコスがいいっすか。完全食を謳いつつ別バージョンを求めるっすか! そうやって苦しんでる時点でもはや完全食とは程遠いっす!」
「なんだとコラ……あだだだだだだッ!」
 怒鳴るオクトパスの顔面上部にミミックが噛みついた。上向くクチバシを無理矢理開いたガロンドは、中に何かを放り込む。そしてクチバシを持って強制咀嚼!
「まぁまぁ。まずはこれを食ってみろよ。どうだ。メキシカンな味だろ?」
「おごごごべぎやぼぎゃ!」
 飲み下したのを確認し、ガロンド・エクシャメル(愚者の黄金・e09925)は這いつくばるモヒカンを見回し、皿を掲げる。そこには、暗黒物質めいた物に暗黒の物が乗った謎の物体。溶鉄の如きオレンジ色を帯びたそれを見せつける。
「いいかよく聞け。メキシコ人が最も輝く世紀末……それは西部劇! つまりッ! 西部のスタイルとして進化したこのクレイジーダイナマイト寿司こそが! 現代によみがえる真のメキシカン! 世紀末フゥゥゥドッ!」
「むごごごごアバーッ!?」
 ガロンドが拳を突き上げると同時、鳥が爆炎を吐き出した。炎にウロコを輝かせ、金のドラゴンはドヤ顔で告げる。
「この世紀末、タコスなんかじゃ乗り越えれないぜ……?」
 黒煙を吐いて沈黙するオクトパス。地にへばりつくモヒカン達は呆然とした顔を見合わせ、口々につぶやいた。
「ダイナマイト……」
「カリフォルニアロールではないのか……?」
 モヒカン天辺に疑問符を浮かべる男達に影が差す。レーチカ・ヴォールコフ(リューボフジレーム・e00565)は前方回転しながら着地。寿司屋を飛び出し、モヒカンの前に立ちはだかった。
「まだタコスとスシを区別しているようね! どっちも実際同じものよ!」
「何……?」
「タコスとは、クレープの仲間ではないのか?」
 どよめくモヒカンに、レーチカは挑戦的に笑ってみせる。
「いい? まずタコスはトルティーヤ、スシはシャリという炭水化物の塊に、色んな具材を載っけて美味しく食べる料理ね。そして回転スシという庶民の財布にも実際優しいスシがある一方で、タコスにも二八〇万する超高級品があるの!」
 レーチカの手が小刻みにチョップ。自信に満ち満ちた声で言い放った。
「この偶然とは思えぬ奇妙な共通点! つまり、こうよ。タコスは、スシ!」
「ゴホッ! ラリってんじゃ」
「シャラップ!」
「うぎゅあ!」
 反論しかけたオクトパスをガロンドが踏んでゴーサイン。うなずくレーチカは一息に追撃した。
「とにかくっ! タコスはスシよ! スシの不当迫害はタコスを踏みにじるのに等しいわ! 本当にタコスを愛してるなら、そんな真似はできないはずよっ!」
「お寿司って、色んなネタがあって何回食べても飽きないよね。凄く素敵な料理だと思うな」
 にこにこ笑顔の桜花が続き、呆れ顔のメノウが首を振る。
「ていうか、確かにタコスはおいしいけどさ……別に必ずしもタコス食べる必要ないじゃん。そもそもTPOってもんがあるでしょ? 寿司屋まで来てタコス頼むとか……空気読みなよ。日本人の美徳はどこやったのさ」
 投げ槍に言われたモヒカン七人がついに沈黙。目配せで数分相談した彼らは、打ちのめされたような顔で沈んだ。カラフルなモヒカン全てがしなび、枯れた花めいてしおれていく。
「俺達は……ダイナマイト寿司でタコスを爆破すればよかったのか……?」
「ンなわけねえだろ……」
 陶・流石(撃鉄歯・e00001)が眉間に指を当てて突っ込んだ。食べかけの寿司を食い、何事か言おうとした直後!
「アミーゴッ!」
「へばァッ!」
 あごを打たれたガロンドが飛翔。放物線を描いて飛ぶ彼とミミックが寿司屋の屋根に飛んでいく中、モヒカンズとケルベロスの間に金のマンダラ模様が広がる。聖なる光を背負ったオクトパスは二刀バットを手に片足立ちで戦闘態勢!
「シューッ……黙って聞いてりゃ寿司寿司と……他のタコスを知らんのか?」
「ほら、タコスがスシとか言うせいで」
「私のせいなの!?」
 言い争うメノウとレーチカをよそに、クチバシが蒸気めく息を吐き出す。マリー・ビクトワール(ドワーフの鎧装騎兵・e36162)は残っていた上がりを飲み干すと、袴に結んだタッパーを外した。
「タコスタコスうるさい鳥頭じゃのぅ……ほれ」
 無造作に振られる包帯の手。そして、油断なく宙舞う容器を見据えるオクトパスは見た。中を満たす液体とそれに浸かったタコ足を。
「タコ酢じゃ」
「…………」
 オクトパスは無言で半身になった。全力スイングでタコ酢タッパーを打つ!
「ナメてんじゃねえぞコラーッ!」
 へこみ蓋が弾けるタッパー! 酢と足をまき散らした容器はソルの胸部装甲に命中。酢を垂らしながら転がった。
「誰が上手いこと言えっつったコラーッ! 豆と一緒に炒めるぞコラーッ!」
 無残に飛び散る酢の物を悲しげに見やり、マリーは首を振る。
「のぅ鳥頭よ。こんなタコスない店を襲うより、美味いタコスの店を経営したほうが良いのではないかのぅ? 悪名は広がってもタコスの名は広まらんぞい。おぬしはそれでいいのかのぅ?」
 語るマリーの隣で、ソルははがしたタコ足をまじまじ眺める。物言いたげに明滅する胸部装甲のレンズはスルーし、それを口に放り込んだ。
「ところでよ……タコスとタコって関係あるのか?」
「無ぇ」
 流石が渋い顔で即答。こめかみを指で押さえ、頭をひねる。
「うろ覚えだけど、確か包むっつう意味のタコから来てるんじゃないっけか。少なくとも海産物は関係ねえ」
「タコスにタコが入りますか? おかしいと思いませんか? あなた」
「寿司ネタにもタコ、あるよね」
 レーチカ背後で、桜花がちゃっかり流石の皿からタコを取る。虹モヒカンを逆立て叫んだ。
「うるせえッ! タコスをコケにし、オレの舎弟も世話ンなった。黙って引きさがったらタコスの面子丸つぶれなんだコラーッ!」
 マンダラが強く輝き、千手観音めいて八本の光腕が現出。その手に全て木製バットを装備し、先端を内側に向けて構える。
「鳥よ。タコスの名を汚しているにはおぬしの方じゃ。わらわもタコスは好きじゃが、おぬしの所業は許しておけん! 成敗するのじゃ!」
「やってみろッコラーッ! 今日の晩飯はお前らのミンチ挟んだタコスだッ! 全員! この場で! ぶっ殺すッ! テメーら起きろッコラーッ!」
 檄を飛ばされ体勢復帰する七モヒカン。内五人の口にダークマターが連続ダイブ!
「せい・はッ・そいッ!」
「はばーッ!?」
「へぶぁッ!」
「ゴバーッ!」
 モヒカンの口が次々爆発。再び卒倒する彼らを寿司屋屋根から見下ろし、ガロンドはタンカを切る。
「タコスの時代はここまでだ。このダイナマイト寿司で、君らの時代を消し飛ばす!」
 ミミックから巨大マラカスめいたモーニングスターを持ち出し宣戦布告。その瞬間、オクトパス頭に浮いた血管が千切れた! バットを構えてロケットスタート!
「ミンチにしたるッコラーッ!」
 オクトパスが逆上突進! 迫る計十本のバットと対峙したメノウは流れるように舞い踊る。スミレ色のオーラが黄金色に変色し、風になる!
「清き風、昇華し羽ばたけ! 『黄雀風』ッ! 存分にやったれぇッ!」
 黄金の追い風を受けたケルベロスがオクトパスを真正面から迎え撃つ! 伸長し殴りかかるバットをセットのホログラムを頼りにステップ回避し一気に肉迫。腕を濃褐色のウロコで覆った流石とドリルめき腕を回す桜花が先陣を切った。
「まあタコでもタコスでもいい。ぶっ飛ばしゃあ同じことッ!」
「それードリルの腕だよっ。その守りを崩してあげるねー!」
「かかってこいゴルァッ!」
 横殴りの雨が如き拳のラッシュを木製バットが連続ガード! 吹き荒ぶ桜吹雪を光の腕がかき回して後続をけん制。光の嵐外側を走るモヒカン二人の顔面に、包帯の拳がめり込む!
「おぬし達もタコスの名を汚すものじゃ! この大バカ者め!」
「あべし!」
「ひでぶッ!」
 撃沈する二人を放り、花柄の大斧を携えて跳ぶ! 光の風と振り回されるバットを足場にオクトパスの直上へ。気づいたセットが高速演算。ホログラムがラッシュの隙間を提示した。
「マリーさん、今っす!」
「はあああああッ!」
 大上段に振り上げた斧を持ったマリーがモヒカンめがけてダイブアタック! バットを避けて下がる流石・桜花と入れ替わり、巨大な刃を振り下ろす! 寸前で気づいたオクトパスは二刀バットを交叉する。光の腕は自立追撃!
「せぁぁぁぁッ!」
「うごおおおおおおッ!」
 オクトパス直下の地面が陥没! ガロンドはミミックの吐く小型自分人形にトゲマラカスをフルスイング。直後光の腕に弾かれた人形を、レーチカはバレーめいて打ち返し、阻みに来る三本の腕にスマホを向けた。
「Скажите Сыр!」
 カメラが光り腕が硬直。防御をすり抜けたガロンド人形に向かう腕がさらに三本! これを流石が打ち落とす! バットを振り切りマリーを下げるオクトパス。彼にガロンド人形が飛んでいくのに合わせた桜花は、桜に幕のカードを掲げる!
「桜の花々よ。紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ!」
 鳥周囲に舞う花弁とガロンド人形が同時爆発! 紅蓮の炎と呪いめいた絶叫がほとばしり、殺風景な駐車場を吹き抜けた。ガッツポーズを決めるガロンド!
「やったか!」
「うおおおおおおおッ!」
 光の腕が爆炎をふっ飛ばす。振り回される焦熱バット。メノウの暴風を背に受けたソルは臆せずに突っ込んでいく。
「よし行くぜ! コードアルファ起動。微塵切りにしてやるぜーッ!」
「やってみろッ! ミンチにしてやるッ!」
 叫びオクトパス特攻! バットラッシュがトゲマラカスと斧に砕かれる中、二刀バットと橙の大剣と剣翼が高速でしのぎを削る。周囲に飛び散る木の破片!
「うおらああああああああッ! なんだかんだ言ってっけどそもそもお前鳥だろうが! 何でオクトパスで腕増えて脚入れたら十二本になるんだよ!? もはやタコでもイカでもねぇ! テメェは一体何なんだァッ!」
『てかよくもアタシにタコつけてくれたわね! やりなさいポンコツ! 特例中の特例で力貸してあげるからバラッバラに刻みなさいッ!』
「テメーこそタコスの何が不満だッコラーッ! 何がダイナマイトで二八〇万でタコ酢だッコラーッ!
 バットと剣が激突し……木製バットがへし折れた! 勢いづいたソルはそのまま回転。斬撃の竜巻に飲まれたオクトパスは細切れのクズ肉と化した。


 数分後、寿司屋店内。
「……やっぱり、値段書いてない……」
「まだ言ってんのか……」
 お品書きを取り落とすレーチカの横で、流石はイクラを口にする。さらにその隣では、鉄の歯でサーモンを噛むソル。
「だから言ったろ。回らない寿司は時価が相場だ。値段なんて、その時々で変わるのさ」
「おいしいもんね、お寿司。タコスもおいしい」
「イケなくはないよね」
 言いつつ、メノウと桜花がタコスと寿司を交互にかじる。漂うサルサの香りをワサビで誤魔化すガロンド。トビッコを食す片手間で板前を呼ぶ。
「ま、経費だしいいんでない。大将、マグロひとつ」
「経費?」
 ヒラメを運びかけたマリーの手が止まる。ヒラメを離し、仲間の方を振り向いた。
「何言ってるのじゃ。寿司は自腹と言われとったじゃろ?」
「……え?」
 凍りつくセットに、ガロンドの首が方向転換。
「セット君。……お金、もらった?」
「た、タコス代くらいは……全部、使っちゃったっすけど……」
「あ、そうだ。タコスコーナーどうしよっか?」
 小首を傾げる桜花をよそに、レーチカは冷凍マグロめく目で手を挙げた。
「マグッ……いや玉子。……ガリで」
 店内雅楽にソルとセットの小銭を数える音が混入。虚しい金属音を無視し、ガロンドはミミックを手で招く。
「仕方ない。とりあえず、子供分は奢っとこうか」
「ついでにアタシのも頼む。大将にケルカ渡しちまった」
「がんばれ」
 にわかにざわつく仲間をよそに、マリーは軽く肩をすくめる。食べかけのヒラメを放り込み、茶をすすってつぶやいた。
「ま、なんとかなるじゃろ」

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 2
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