さまようキャンディアーマー

■リプレイ

●徘徊する鎧
　夜も更けた住宅地にケルベロス達が降り立つ。
「あまーいキャンディーが動きだすのは素敵かもですけど、危害を加えちゃうのはダメなのです……ですので、ここは懲らしめて、普通のキャンディーになってもらわないと、なのです！」
　甘いキャンディを想像して緩みそうになる頬をキリッとさせて、癒伽・ゆゆこ（湯治杜の人形巫女・e00730）はバイオガスを散布して外からの視界を遮断する。
「そういえば、飴細工で作られた動物さんを見た事があるんだけどね。本当に飴なのって信じられないくらい凄くて可愛くて、食べるのが勿体なくて、ある意味、今回の鎧も飴細工みたいなものなのかな？」
　姫百合・ロビネッタ（自給自足型トラブルメーカー・e01974）は飴細工の鎧をイメージして、壊すのは勿体ないかもと思う。
「飴で出来てるなら、砕けた部分おいしいのかな？」
　包装された飴をぽいぽいばら撒きながら円谷・円（デッドリバイバル・e07301）は飴で出来てるのなら食べられるのだろうかと期待する。
「ちょっと狙ってみちゃおっと……や、真面目にね。装甲剥がしたら、中はドロっとしてるタイプの飴もあるし！」
　言い訳にならない言い分を述べた円は飴鎧との遭遇にわくわくと胸躍らせながら、キープアウトテープを貼りつける。
「キャンディの剣と盾を身に着けた、キャンディの騎士……とても可愛らしい夢だと思います……なんだか、癒されます」
　ラズ・ルビス（祈り夢見た・e02565）も飴の騎士を思い描き、無表情のまま楽しそうな雰囲気をみせる。
「……そんな可愛らしい夢を、バッドエンドで終わらせるなんて、できませんよね。全力で、対処いたします」
　まずは被害を出さないようにと、テープ張りを手伝う。
「飴の鎧でございますか。飴のようにカラフルだったりするのでしょうか。面白そうです」
　飴で出来た鎧とは珍妙なものだとラーヴァ・バケット（地獄入り鎧・e33869）が楽し気な声を漏らすと、兜の隙間からも地獄の炎が感情に合わせて漏れ出た。
「しかし金属鎧に比べれば脆そうじゃあありませんか？　ふふん。たいしたことはございませんよ」
　自らの纏う甲冑を誇るように胸を張り、対抗心を燃やす。
「キャンディーに限らず、食べ物を粗末にするのはダメだわ」
　棒付キャンディを銜えたセラ・ギャラガー（紅の騎士・e24529）が翼を羽ばたかせ、空から周囲を警戒する。
「好きな食べ物をないがしろにされたら、腹が立つけど、相手を害したりしないわ。そこがケルベロスとドリームイーターたちとの大きな違いね」
　セラは敵を誘き寄せる為に、新たに取り出した棒付きキャンディを地面に落とした。
　機理原・真理（フォートレスガール・e08508）も周辺に包装された飴をばら撒く。
「……噛んで食べるのが粗末に扱ってる事になるかは、分からないですが」
　そして一粒を口に入れ、カリッと噛んで砕く。
『キャンディを粗末にするのは誰だ……』
　するとその音を聞きつけたように、ぬぅっと曲がり角から大きな影が街灯の下に現れる。それは色鮮やかなキャンディで出来た動く西洋鎧。リビングキャンディアーマーだった。
「食べられるデウスエクスなんて……始めて見たよ」
　ネリシア・アンダーソン（黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221）は物珍しそうに敵の姿を観察する。
「……造形も良いし……食べれる芸術って……こう言う事を言うのかな？」
　見た目の次は味が気になりつつも、ネリシアは黒鉛の三綺竜をワッフル盾の姿に変えて構える。

●その体はキャンディで
　闇を裂くようにケルベロス達が向けるライトが鎧を照らす。するとカラフルに光を反射する飴の鎧が鮮明に映る。
『キャンディを粗末にするのは貴様達か！』
　キャンディの剣と盾を構えてドシンドシンと向かって来る。
「誘き寄せられて出てきたわね」
　落下しながらセラが蹴りを頭に浴びせ、反動で跳んで仲間の元へ着地する。
「大きい……３ｍもあるキャンディは初めて見ましたです」
　思わず敵を見上げた真理は、見惚れている訳にもいかないとドローンの群れを飛ばし、仲間を警備させるように陣を組む。
「ふわぁ……思った以上にカラフルでファンシーなのです……っと、でもでも油断はしないのです！」
「飴色って言葉があるけど、この鎧カラフルだよね」
　目を引かれながらも、ゆゆこは気持ちを強く持って御幣を振りかざし雷を放ち、ロビネッタも視線を釘付けにしながら大口径の銃を向け、弾を連続で叩き込んだ。
『キャンディは銃よりも硬し』
　盾で雷と銃弾を防ぎ、穴を空けながらも距離を詰めてくる。
「わ～っ、本当に飴でできてる……戦いにもちゃんと集中するよ！」
　飴鎧に目を引かる円を、ウイングキャットの蓬莱がつつく。我に返った円は三日月型の鱗を投げ月竜の幻を見せて相手を威圧する。そこへミミックのエイドは足に齧りつきガリガリと飴に歯形をつける。
『美味かろう、冥土の土産に味わっておくがいい』
　飴鎧がキャンディー剣を振り下ろす。エイドは咄嗟に身を躱すが、先端のキャンディが爆発して飛び散りエイドの体を吹き飛ばした。
「動くキャンディ……綺麗なオブジェのようです」
　ラズは雷の壁を作り出して散弾のように迫る飴を防ぐ。
「甘い香りがする……こんな事言ってる場合じゃないかな？」
　死角から接近したネリシアは盾を横っ腹に叩き込み、衝撃で鎧にひびを入れた。続けてライドキャリバーのプライド・ワンが黒い車体に炎を纏って突っ込み、飴鎧をよろめかせる。
「ほう、見事な飴細工。ですが強度の方はどうでございましょう」
　その隙に近づいたラーヴァは間近で見た飴鎧の姿に感嘆の炎を上げ、手にした矢に雷を纏わせ脇腹に突き刺した。
『我が甲冑はいかなる傷もたちどころに再生する』
　飴鎧の表面がとろりと溶け、真新しい飴に覆われ一回り大きくなる。
「ちょっと恥ずかしいですけど……やるしかないのです！」
　ゆゆこは胸部から発射口を展開し敵を包み込むように光線を浴びせる。だが飴鎧は盾を構えて体を溶かしながら突っ込んでくる。
「どれが飴色なんだろ？　あの部分はオレンジ飴色かな……橙色とどう違うの？」
　じーっと鎧の色合いを観察しながら、ロビネッタは弾を撃ち込んで腕を凍りつかせる。
「可愛らしいキャンディでも、人を傷つけるなら、容赦はしません」
　ライフルを構えたラズも凍結光線を撃ち込んで足を凍らせ、動きを鈍らせていく。
「あんまり大きいキャンディは食べ辛いのです……バラバラに、しちゃうのですよっ！」
　真理はアームドフォートを展開し砲撃を撃ち込む。盾で受け止めた鎧が衝撃にひび割れる。
『次はこちらの番だ！』
　飴鎧は先っぽに新たな飴を装着した剣を振り下ろし爆発を起こす。それを前に出た真理とプライド・ワンが受け止めた。
「なんてもったいないことするの？　あなたもキャンディ、拾いなさい」
　セラは飛び散った飴の破片を指差す。
「拾わないならあなたも同類よ」
　そして降魔の力を込めて拳を打ち込み、塀に叩きつけた。
「食べられるのかなぁ……いっしょにやるよ蓬莱！」
　呼び掛けた円がロッドを振るい雷で壁を築くと、蓬莱も仲間へと清楚な風を起こして傷を癒し耐性を高めた。
「見た目だけよくとも、強度が足りなくては甲冑としては不合格でございますね」
　ラーヴァはスナイパーライフルを構え、弾丸を撃ち込むと傷口から鎧を凍結させる。
「綺麗な飴の鎧が壊れるのは……ちょっともったいないかも」
　だが手は抜けないと追い打つようにネリシアもライフルを構えて光線を放ち、更に鎧を凍らせていく。
「今がちゃ……わふぅ！？」
　攻撃しようとしたゆゆこの口に、飴の破片が入り込む。飴鎧が剣の爆発を起こして氷ごと吹き飛ばしていた。
「ほわぁ……お口の中にあまーいのが飛び込んできて、ころころしてますですぅ……」
　イチゴの甘さが口いっぱいに広がり、思わず頬を緩めてしまう。
「美味しそう……食べられるんだ」
　その様子に意識を奪われながら、円はスイッチを押して飴のようなカラフルな爆発を起こして士気を高める。
「キャンディにも、これは効きますよ」
　ラズが麻酔薬を塗布したメスを幾つも投げつけると、盾では防ぎきれずに鎧に浅い傷を刻む。そこから浸透した薬が意識を刈り取る。
　そこへ背後から盾を構えたネリシアが突進し、思い切り盾をぶつけて鎧をワッフル型に凹ませる。
「綺麗……いただきます」
　そして砕けた破片をキャッチして口に含む。するとシュワッと泡と共にソーダの味が口に広がった。
『美味であろう、腹が裂けるほどたっぷりと味わえ！』
　飴鎧は地面に剣を叩き込み、爆発を起こして飴の破片を鋭い刃のように撒き散らす。
「キャンディーは食べるものなのです、武器ではないのです！」
　真理がドローンを周囲に展開し、飛んでくる飴の破片を防いで墜落していく。
「派手に飴を撒き散らすわね。どちらが粗末にしているのかしらね？」
　突っ込んだセラは蹴りを浴びせ、そのまま踏みつけるように押し倒した。
　ロビネッタが銃口を向けると、倒れたまま飴鎧は盾を構えてくるくると回す。渦巻きキャンディが回転しロビネッタの意識を朦朧とさせる。
「ぐ～るぐ～る……はっ！？　引っ掛かるところだったよ！」
　目が回ったロビネッタは頭を振り、自分の感覚を高めて意識を覚醒する。
「お嬢様方、お菓子に夢中になるのは程々にしておくのが宜しいでしょう」
　フォローするように弓を構えたラーヴァは、雷光のように奔る矢を頭に撃ち込んだ。

●巨大キャンディ
『効かぬ！　我が体は無敵のキャンディなり！』
　またもや体が溶けて修復されていく。そしてそのサイズは５ｍに達する。そして大きなキャンディ剣を叩きつ飴が爆散する。
「おいしくっても……悪い子は懲らしめるのです！」
　美味しく飴を味わったゆゆこが御幣を振って祈りを捧げ、加護の力で飛び散る飴を出来るだけ防ぐ。
「かったいなー、これだけ硬いと食べやすく砕くのも大変そうだね」
　飴を掻い潜って懐に入ったロビネッタは、膝に蹴りを叩き込み鎧の姿勢を崩す。
「固い飴も……いつかは溶けてなくなっちゃうんだよ」
　円はロッドに魔力を溜めて敵へと向ける。
「あなたも砕いてあげる……！」
　放たれた閃光が鎧を打ち据えて紫の肩が砕け落ち、電流が流れて痺れさせる。
『粗末に扱われたキャンディの怒りを思い知れ！』
　よろめきながら飴鎧は剣を振り回す。その前でエイドは中からキャンディをばら撒き敵の注意を引き付け、蓬莱が振り下ろされる剣を弾く。そのキャンディの破片が真理の口に飛び込んだ。
「うっ食べてしまったのです……でも美味しいのですよっ」
　柑橘系のキャンディを口にして真理は無表情に味わう。だがはっと戦闘に意識を戻しアームドフォートから砲撃を行い、敵の足元を爆発させた。
「見た目だけなら、微笑ましいのですが」
　飴が飛び交うのを眺めながら、ラズはロッドから電気を飛ばし真理に活力を与え傷を癒す。
「キャンディー怒らないわ。その代わりに勿体ないお化けが出るのよ」
　ほらねとセラが仲間を指差すと、ちょうどラーヴァが攻撃を加えるところだった。
「美味しそうに食べているところを見てしまうと、食べてみたくなってしまいますねえ」
　ラーヴァは空の霊力を脚甲に纏って蹴りつけ、砕いた飴を落ちる前にキャッチし鎧の隙間から口に入れる。
「ほう……これはなかなか……」
　兜から漏れる炎が上機嫌に揺れた。混じってセラも拳で腹を打ち抜く。
「いろんな味が楽しめるね……次は何味かな？」
　飛んできたメロン味の破片を口の中で転がしながら、ネリシアは銃口を向けて光線を撃ち、盾ごと腕を凍らせて盾の動きを鈍らせた。
『キャンディは食べるものなり！　喰らえ』
　飴の盾で押し潰すように上から覆い被さってくる。
「飴は美味しくいただいちゃうから、粗末にはしないよ！」
　ロビネッタが銃弾を撃ちまくる。その弾痕で『R．H．』の文字を描こうとするが、その前に盾が砕けた。
「キャンディを一番粗末に扱っているのは、そちらの方です」
　ラズの投げたメスが鎧の顔に掠り、薬の効果で動きを止めた。
「キャンディで人を攻撃するような子にはお仕置きよ」
　セラの指先に光の矢が現れ、詠唱と共に飛翔して疾く空を駆け敵の兜を貫いた。
「果汁たっぷりグレープ味……た、食べてないよ！」
　口をもぐもぐさせていた円は、ばっと立ち上がって三日月型の鱗を投げつけ、月竜の幻に敵を襲わせる。
「プライド・ワン、危ないキャンディ一緒に倒すです。突撃、ですよ！」
　怯んだところへ、キャリバーに乗った真理はエンジンを唸らせ突進し敵の右足を砕いた。
「甘露でございました。しかし大きくなるほど装甲が薄くなっているようですね」
　続けてラーヴァが輝くほど灼けた金属矢を連続して放つと、全て左脚に刺さって撃ち砕いた。
「ワッフルフォトン……バスタービームソードッ！」
　ネリシアの手にした盾からビームが放たれ、それが巨大な剣と成る。大上段に構えて振り下ろし鎧を斬り裂くと、返す刃で斬り上げて相手を宙に浮かし、幾度も斬りつける。
「これで普通の美味しいキャンディーになるのです！」
　最後にゆゆこが御幣を掲げ雷を落とす。衝撃にワッフル型の大爆発が起こり鎧がバラバラに砕け散った。

●甘い宝石
　バラバラになった鎧が雨のように降り注ぎ、飴の山となって積まれていく。
「すごい量のキャンディね。どれくらいあるのかしら？」
　セラは山となったキャンディを見上げた。
「キラキラして宝石みたい！　繋げたらネックレスになりそう、一度やってみたかったんだ」
　ロビネッタは飴を手に取り繋げてみせる。
「上の部分なら汚れてないし食べられそうだよね！」
「なのです！　あまおいしいキャンディー、みんなでいただきましょうですー！」
　そしてゆゆこも一緒にパクリと飴を口に放り込み、甘酸っぱいオレンジの味が口に広がる。
「ガラス細工みたい……こっちのはリンゴの味」
　ネリシアが飴を集めながら味見してみる。
「しばらくおやつはキャンディにしましょうか」
　一つ口に含んだラズは、表情を変えぬまま呟く。
　そうして皆で飴を集めて食べていると、キラキラと飴が瞬くように消え始め、夢幻であったように姿を消してしまった。
「消えちゃった……もっと食べておけばよかったよ」
　しょんぼりと円は肩を落とす。それを励ますように蓬莱が最初に撒いた飴を拾い集めて眼前に突き出した。円はその包装を解いて一緒に食べ、美味しいねとにっこりと笑みを浮かべた。
「お土産にしようかと思っていたのですが、残念でございますね」
　ラーヴァの兜から噴き出る炎が元気をなくした。
「キャンディアーマー……そもそも何味の飴だったのですかね？」
　皆が違う味を堪能した事に真理は首を傾げ、空を見上げる。そこにはまるでキャンディのように星が輝いていた。

作者：天木一	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年5月5日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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