その日の空は鉛色の雲に覆われていて、小さな雨粒が糸を引くように、曇天模様の空から滴り落ちてくる。
降りしきる春の長雨は、時間を経ても止むことは無く。街には薄ら霧が立ち込めて、人々に陰鬱とした重い空気が圧し掛かる。
彼等はこの時まだ気付いていなかった。雨に紛れて隠れるかのように、巨大な災厄の影が街に近付いていることを――。
霧は次第に濃さを増し、周りの景色が朧気に霞んで視界を遮られてしまう。だがその霧は、澱んだ色をしていてまるで瘴気のような――。
すると次の瞬間、人々は突然苦しみ悶えて、悲鳴を上げる間もなくその場に崩れ落ちていく。それは猛毒の息だった。
毒に当てられた者達は、次々に物言わぬ骸に変わり果て、屍の山を築いていった。
迫り来る死の恐怖に戦慄し、薄れゆく意識の中で彼等が見たモノは――生命を貪る破壊の権化、不気味で醜悪な姿のドラゴンだった。
鳥の仮面のような顔をした邪悪な竜は、濡れた路面に横たわる屍の群れを一瞥すると。人には理解し得ない怪音を響かせながら、嘲り笑うように歓喜する。
猛る奇声に合わせて、ドラゴンの胸の懐中時計が狂える時を刻み続ける。彼の竜に残されている生命の時間は後僅か。『重グラビティ起因型神性不全症』――定命化の病に侵されたドラゴンは、己の毒を以て人間達を死に至らしめ。
我が身が朽ちる最後の時まで、永遠の恐怖と憎悪を人々の心に刻み込んでいく――。
ケルベロス達に予知の内容を伝える玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)の表情は、いつも以上に真剣味を帯びていた。
「定命化の影響で死を迎えようとしているドラゴンが、市街地を襲撃しに現れるんだ」
これまでにも幾度となく発生してきた、死に瀕したドラゴンが襲来する事件。今度もまた同様ではあるが、次に発した言葉を耳にした途端、ヘリポートの空気が一層緊迫感を増す。
今回出現したドラゴンの名前は――災厄の道化竜『ジャバウォック』。
約一年程前にケルベロス達と死闘を繰り広げた八竜の生き残り。今まで鳴りを潜めていた最後の一体が、いよいよ飛来してきたというわけだ。
もしジャバウォックを放置しておけば、人々のグラビティ・チェインが奪われてしまう。そして恐怖と憎悪が齎され、竜十字島のドラゴン達に定命化までの時間的猶予を与えることになってしまう。
「人々の尊い命を守る為にも、必ずジャバウォックを討ち倒してほしいんだ」
シュリはケルベロス達に懇願し、続けて作戦の概要について説明する。
戦場となるのは、三重県南東にある沿岸部の地域だ。
一般人を他の都市に避難させようとした場合、避難中に襲撃を受ける危険性がある。従って、街の避難所に集まってもらい、そこを守るように戦うのが良いだろう。
ただしジャバウォックには、最大1Km圏内まで毒を撒き散らす特性がある。
既に避難勧告は発令されており、到着後すぐに沿岸部の先端にある灯台で迎撃すれば、ジャバウォックの毒が避難所まで及ぶことはない。
しかし敵に押し込まれて撤退でもすれば、人々は毒の脅威に曝され虐殺されてしまう。そうした事態を防ぐ為にも、全力でドラゴンを食い止めなければならない。
ジャバウォックの攻撃方法は、前回対戦した時と変わらない。唯一異なる点があるとするなら、最後まで治癒を用いず死ぬまで戦い続けるというところだ。
嘗ては三十人でも倒せなかった相手だが、今は定命化により生命力が著しく低下している状態である。その為、八人で挑んでも太刀打ちできることが十分可能だ。とはいえ戦闘力は以前と変わらないので、油断だけは禁物だ。
――奇跡の一戦と謳われた戦いから一年後。
ケルベロス達はあの時よりも更なる強さを身に付けている。そして何よりも、守るべき人々の存在が、彼等にとって大きな力となるだろう。
「これが八竜との戦いに、決着を付ける最後の機会になるからね。今度こそキミ達の手で討ち取って、勝利してくれると……そう信じているよ」
過去の因果をここで断ち、新たな未来を切り拓く為――。
シュリはその赤い眼差しで、戦場に向かうケルベロス達を見守り、武運を祈った。
参加者 | |
---|---|
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584) |
周防・碧生(ハーミット・e02227) |
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959) |
大成・朝希(朝露の一滴・e06698) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273) |
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977) |
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432) |
●災禍の詩は再び紡がれる
空から零れ落ちる無数の雨粒が、昂る心と肌を薄ら濡らす。
小雨混じりの霧に包まれた世界は不気味なまでに静まり返り、吹き抜ける風が次第に強さを増してきた。それは大きな嵐の接近を予感させられる。
沿岸部の先端に立つ灯台に陣取ったケルベロス達。高まる緊張感を孕ませながら、彼等は決戦の時をじっと待つ。
「……風の流れが変わりましたね。気を付けて下さい……来ますよ」
些細な変化も見過ごすまいと警戒していた周防・碧生(ハーミット・e02227)が、空を見上げながら注意を促す。鉛色の雲に覆われた空の一部に、巨大な影が浮かび上がった。その巨影を見た瞬間、ケルベロス達の武器を持つ手に力が入る。
「あれが噂の八竜……。一年前の戦いの、災禍の具現者……」
近付いてくるドラゴンの影を前にして、プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)は身を強張らせながらその姿に畏れを抱く。
――災竜再臨。
継ぎ接ぎだらけで毳毳しい極彩色の全身に、鳥の仮面を被ったような奇妙な風貌。八竜最後の一体、残虐なる道化竜――ジャバウォックがケルベロス達の前に再び姿を現したのだ。
「メアリは忘れない……。パパとママが殺された、あの日のことを……」
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)の脳裏に去来するのは、鮮烈な赤が一面に広がった世界。彼女の全てを奪った元凶と、今一度相見える機会に巡り合えたことを感謝して、大きく息を吸い込み声を張り上げる。
「おいで、ジャバウォック! 遊んであげる!」
敵の意識を引き付けようと叫ぶメアリベル。彼女の声に気付いたか、ジャバウォックは地上で待ち構えるケルベロス達を捉えると、脇目も振らず襲い掛かってきた。
「――ЖΘΛ ΨΦΠ μ∂ £∀!!」
人の言葉では言い表せない、奇怪な咆哮。ジャバウォックは幼い少女の柔肉が大好物だ。舌舐めずりしながら毒の唾液を滴らせ、獰猛な顎門が獲物に喰らい付こうと迫り来る。
「そうはさせません!」
竜の毒牙がメアリベルを噛み砕こうとした瞬間、一つの影が間に割り込んだ。フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が光の盾を用いて身を庇い、牙の脅威を防ごうとする。しかし牙から垂れる強酸が、戦闘スーツを溶かして灼けつく痛みを植え付ける。
そこへ大成・朝希(朝露の一滴・e06698)が、すかさず癒しの術を駆使して、フローネが負った傷を瞬く間に治療する。
一年前の八竜との戦闘で、彼の竜と戦った者達は、一人も零すことなく敵を退けた。そんな彼等の代わりに自分はこの場に立っている。
自身があの時挑んだ傷竜は、別の仲間が果たしてくれて。ここに至るまでの様々な思いを引き継いで、八竜との完全なる勝利を届けることが、課せられた役目だと。
「もう一度、戦い抜いて、今度こそ――勝ちます」
朝希は揺るがぬ意思を宿した強い眼差しで、正対する道化竜を鋭く睨め付ける。
「きらめきを つむぎむすびて かたちなす――光以て、現れよ」
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)が指で印を描いて詠唱すると、光の柱が玲斗の周囲に放たれて、内に眠る力を仲間達から引き出し強化する。
「厄災を振り撒くドラゴン、か……。相当厄介な相手だが、此処で止まってもらうぞ」
まずは守りを固めていこうと、アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)が縛霊手から紙兵の群れを展開し、護りの壁を築いて臨戦態勢を整える。
「幼女が好きとは、とんだ変態竜ですわね……!」
アームドフォートで的を絞って、ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)が砲撃を狙い澄まして一斉発射する。轟き響く砲声が、戦いの火蓋を切る合図となって。番犬達と災竜の、雌雄を決する再戦の幕が今開かれる――。
●狂気と嗜虐のティーパーティ
定命化の病に侵されたとはいえ、ドラゴンが放つ威圧感に碧生は気圧されそうになる。
だが怖気付いている暇は無い――そう覚悟を決めて、伏せた目を見開いて、気を引き締め直して眼鏡越しに敵を見据える。
そうした碧生の気持ちを察したか、ボクスドラゴンのリアンが波長を合わせて碧生に魔力を注ぎ込む。
「僕達を信じて待つ人々や、嘗て挑んだ仲間の想いに応える為――今日こそ因縁に幕引を」
碧生が腕から伸ばした黒鎖を自在に操り、竜の脚を狙って巻き付ける。
「縛ってあげる、こういうのは好き?」
淡々とした口調でドラゴンに話し掛けるプラン。だからといって答えを待つわけでなく、すぐに御業を召喚させて竜の巨大な体躯を絡め取る。
「守るべき人々の為にも、必ずジャバウォックを止めてみせます!」
この地はフローネにとって恩人の魂が眠る土地。だからこそ余計に蹂躙されることが許せない。ココロに燻る怒りを力に変換し、縛霊手から霊力の網が放射され、敵を捕らえて締め付ける。
ケルベロス達は捕縛攻撃を集中させて、機動力を奪おうとする。対する災竜は番犬達の搦め手を振り払おうと、雄叫びを上げて猛毒の息を吐き散らす。
澱んだ瘴気が霧と交わるように戦場中を埋め尽くす。この状況に、フローネや玲斗が我が身を盾に仲間を守るが、毒は彼女達の身体に入り込み、体内を巡って蝕んでいく。
「行けません……っ! 一刻も早く毒を消さないと!」
先の戦いで、多くのケルベロスを苦しめた道化竜の毒。朝希はその脅威を取り除くべく、薬液の雨を降らせて毒の苦痛を和らげる。
「メアリの後ろには守るべき人達がいる。隣には一緒に戦う仲間達がいる。だから退けない……絶対に!」
災禍に襲われたあの日の痛みが、流れた血の温かさがメアリベルの中に染み付いている。その時欠落した感情を埋め合わせるかのように、小さな唇でマザーグースを口遊み、煉獄を帯びた鉄塊の如き巨大な剣を振り回す。
ジャバウォックは攻撃を躱そうとするものの、これまでの捕縛攻撃が効き目を成したか、動きが鈍って回避が間に合わずに直撃を受けてしまう。
「少しずつ効いてきたようね。それならこれはどうかしら」
ケルベロス達の攻撃は、徐々にではあるが敵に蓄積されている。玲斗はこの機を逃すまいと攻勢に出る。家系に伝わる小太刀を振るえば、月のように弧を描き、煌めく刃の軌跡が血飛沫を舞い散らす。
「お前の毒と俺達の『毒』、果たしてどちらが勝るかな……?」
アスカロンが不敵に微笑みながら駆け寄って、短刀を刻んだ傷に重ねるように突き立てる。そして捻りを加えて、傷口を広げるように掻き抉る。
「わたくし達の力で最期の時を刻み付け、終わりにして差し上げましょう!」
時計の針を思わせる刃を備えた機重光砲を道化竜に向け、ミルフィが時空を凍て付かせる光弾を射出する。一直線に放たれた光芒は、竜の身体を射抜いて生命力の源たる熱を奪う。
「――ζθψ Щμτ БπЭД!!」
幾度となく立ち向かってくる番犬達を煩わしく感じたか、ジャバウォックが猛り狂うようにけたたましく吼える。怪音波の如き混沌の雄叫びは、脳の奥まで振動し、ケルベロス達の足を竦ませ怯ませる。
「これしきのことでは、私の盾は砕けません。ココロが折れぬ限り……何度でも……!」
フローネの心が恐怖で支配されそうになる。だが自らを盾とする彼女の信念が、菫色のオーラを発して光の盾に纏い、ココロの力に呼応しその強度が増していく。
「ええ、何も恐れることはありません。僕が確り支えます」
戦医として仲間を補佐し、戦線を維持することが朝希の務めだ。思いを込めて握り締めた掌の中で小さな音がする。と同時に、色鮮やかな噴煙が巻き上がり、戦場の空気を一変させて仲間の士気を奮い立たせる。
「参りましょう。ここで手を緩めるわけにはいきませんからね」
自分の役割は火力を集めることだと碧生は心得て。少しでも敵の体力を消耗させようと、杖を掲げて無数の魔法の矢を撃ち込んでいく。
「そんなに目移りしないで、私だけをみて――」
プランはデウスエクスの欲望を満たす奴隷として生きてきた。そんな彼女が身に付けた術――唐突に服を肌蹴させ、妖艶な笑みを携えながら、煽情的に蠱惑的に相手を魅了する。
「めをはなさないで どこをみたいの? みたいところ――おしえて」
真白な髪を掻き上げ、甘い吐息を漏らして囁いて。紫の瞳で誘うように視線を絡ませる。プランはそうして自分に見惚れさせ、ジャバウォックの心を惑わし取り込もうとする。
プランの色香漂う忘我の誘いに、竜の動きが一瞬止まる。その間隙を縫うように、玲斗が敵の懐に潜り込む。
「甘いわね。脇がガラ空きよ」
掌に込めた螺旋が渦を巻き、玲斗はそれを竜の身体に押し当て、内包された力を一気に解き放つ。螺旋の力は内部に打撃を与え、衝撃の威力でジャバウォックの上体が揺れ傾ぐ。
ケルベロス達は十全に対策を練って、盤石の態勢でこの戦いに挑んでいた。その成果が功を奏して、八竜相手に一歩も引けを取らず、互角の勝負に持ち込んでいる。
しかし時間が経つにつれ、竜の猛毒が彼等の生命力を削いでいく。どれだけ回復を施し耐性を高めても、強烈な毒の巡りは完全には止められない。
戦況が膠着して撃破に時間を要すれば、今度はこちらが不利になる。毒に体力を奪い尽されるより前に、敵を早く倒さなくては――ケルベロス達に焦りの色が滲み出る、その僅かな隙をジャバウォックは逃さない。
「――£ΘЭЖ Λψ§Ω!!」
首をもたげて獲物を定め、牙が乱雑に並ぶ巨大な口が開かれる。襲い掛かった毒牙の標的となったのはプランだ。盾役の防御も間に合わず、ジャバウォックがプランに喰らい付く。鋭利な牙が彼女の肌に食い込んで、流れる赤い雫が肢体を染める。
「くぅ……っ!? そ、そん……な……」
プランの顔が苦痛で歪む。抗うことすら赦されず、毒牙の檻から解放された時には既に力尽き――意識を失い、その場に崩れ落ちてしまう。
●斯くして復讐劇は終幕へと至る
ケルベロスの一人を倒し、哄笑を響かせながら狂喜するジャバウォック。
一年前から自分達も強くなったが、それでもあの災竜はやはり難敵だと思い知らされる。その事実を痛感しながらも、ケルベロス達は退くことなく決死の覚悟で攻め立てる。
「ジャバウォック! お前だけは、必ずこの手で討ち倒す!」
竜の翼を翻し、アスカロンが地表を滑空するかのように突撃を掛ける。刃を納刀し、空の霊力纏いて振り抜く一閃――逆袈裟斬りが竜の巨体を斬り裂いた。
「定命化しつつもこの戦闘力……やはり八竜は侮れませんわ。ですが……わたくし達だって負けません!」
アスカロンと入れ替わるように、ミルフィが敵の前に躍り出る。彼女は装備の全てを融合させて機械兵器に変形、自身の腕に装着させる。
「貴方を討つには……この腕一本で、事足りますわ……!」
出力を一点に集めることにより、威力を限界まで発揮させられる。ミルフィが機械の腕を大きく振り被り、重力を乗せた最大火力の一撃を叩き込む。
一人を欠いても決して諦めない、ケルベロス達の飽くなき執念。彼等の原動力とも言える不屈の魂が、苦境を撥ね返して勝負の流れを引き寄せる。
「アナタはわるい子。だからメアリがおしおきするの」
追い詰められて苦しみ悶える竜を一瞥し、漸く仇を討てると悦びに浸るメアリベル。しかし彼女の悪夢はまだ終わらない。
――刹那。強酸塗れの毒牙の群れが、幼い少女の視界を遮った。彼女の身体は激痛を伴いながら闇に呑み込まれ、意識が次第に遠退いていく。
嗚呼――これではまたあの日と同じ。三度悲劇に見舞われようとする、少女の心を救ったものは――。
「……マ、マ……?」
薄らぐ視界に、手を差し伸べる黒衣のビハインドが映り込む。そう――もう二度と、あのような過ちを繰り返してはいけない。堕ちかけていた少女の魂が、肉体を凌駕し戦場へと舞い戻る。
ジャバウォックを見つめるメアリベルの灰色の瞳には、明確な殺意の炎が灯る。溢れ出る激情は彼女の全身を包み込み、地獄の炎が熱く烈しく燃え盛る。
「――ЛΨξ λ∽¢ ΔБβ!?」
ジャバウォックは苛立ち気味に奇声を上げながら、形振り構わず毒息を撒き散らす。だがフローネが紙兵を張り巡らせて、毒の侵攻を最小限に食い止める。
「……今回、奇跡は必要ありません。人々のココロが力となって、私達と一緒に戦っているのですから」
凛々しく締まった表情で竜を凝視しながら、フローネは友の想いが詰まった四色の髪飾りにそっと手を触れる。
「最後に笑うのはお前じゃない――我が敵を、捕らえよ」
碧生が魔力を集束すれば、月光のように煌めいて、敵に向かって放たれる。すると光の後を追うように、足元の影が狼の形を成して顕れて。召喚された狼は、竜に牙剥き吠え猛る。
「このまま一気に畳み掛けるぞ! 『尋龍点穴』――この力で邪を討ち払う!」
アスカロンの縛霊手に込められた数多の霊達。そこに纏わる気の塊を龍脈に活性化させ、更なる力を彼に齎した。『マジナイ』による加護の力がアスカロンに憑りつく邪気を祓い、敵を蝕む『ノロイ』の炎で災禍の竜を灼き炙る。
「自分が定命の毒と恐怖に侵されるなんて、哀れでしかないですね」
死を恐れることを自覚した時点で、彼の竜は既に負けていたのだろう。朝希は憐憫の眼差しをジャバウォックに向けながら、大地に手を添え魔力を注ぐ。
「――いざ征かん、王さまのお通りです!」
土の中から生まれ出づるは、摩訶不思議な妖精達だ。朝希が指示を下すと、根の子の王が家来を従え、悪しき邪竜を倒せと勇猛果敢に飛び掛かる。
「姫様よりお借りしたこの剣にて、わたくしが道を切り拓きます! ――後はメアリベル様の手でご決着を!」
少女の想いを導くかのように、ミルフィがドラゴン目掛けて疾駆する。白羊の星辰宿した剣を携えて、紫電を帯びた刃を突き刺すと――狂える時を刻み続ける胸の懐中時計を、深々と穿ち貫いた。攻撃を終えたミルフィは、傍らに立つ少女に頷き、後を託した。
「これで終わりにさせるわよ。最後は任せたわ」
玲斗が雷の杖を振り翳し、メアリベルの四肢を刺激し戦闘力を賦活する。
「さようならジャバウォック……飢えに狂って死に苛まれたかわいそうな子」
メアリベルの幼い手には、赤黒く染まった禍々しい斧が握られている。せめて安らかなる死を餞に、鎮魂歌を唄いながら手負いの竜に刃を振り下ろす。
儀式のように斧を打ち込んで、竜の仮面を叩き割る。尚も少女は、斧で何度も滅多打ちにする。そしてジャバウォックは遂に息絶えて――永き悪夢に終止符が打たれた。
静寂を取り戻した戦場に、悼みの雨が降り注ぐ。
悪夢から醒めたばかりの少女の瞳が視る現実世界。
陽の射さない空を仰ぎ見て、心の中で静かに冥福を祈った。
これでお別れね――アナタのことは、忘れない。
作者:朱乃天 |
重傷:メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959) プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年5月10日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 10/感動した 4/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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