春爛漫に華の舞う

作者:黒塚婁

●血染めの華
 ふ、と一息で無骨な太刀を袈裟懸けに振り下ろす。吹き荒れるは血風。
 燃えるように赤い髪が揺れ、成果を見つめる。
「弱ェなァ。肩慣らしにもなりゃしねえ」
 男は首を鳴らし、ひとたび剣を肩に担ぐ。ひらりと落ちる桜のひとひらを仰ぐ。
 そこに根ざすは三メートルの体躯を誇るエインヘリアルであっても、見上げる程見事な大樹であった。
 折角得た自由。平穏に慣れた一般人をひたすら屠るだけでは味気ない。
「こいつが落ちる前に全員殺る――なら、多少は楽しめるか?」
 言うやいなや、桜畳みを蹴る。
 ひらひら舞うそれらより鮮やかな華を散らしながら、男は笑んだ。

●桜散る
 エインヘリアルによる、人々の虐殺事件が予知された――雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はケルベロス達を一瞥すると、そう告げた。
 このエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者である。
「奴がここへ放たれたのは、人々の虐殺そのもの――と同時、一般人に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることが目的だ。当のエインヘリアルにはどうでもよいことであろうが」
 こちらとしても、細かい経緯などはどうでもいい。辰砂はやや乱暴に言い放った――急ぎ現場へ向かい、討ち取るだけだ、と。
 件のエインヘリアルは、凶星のジンと呼ばれる男。
 その性格はやや奇妙で――目的のためならば手段は問わず、残虐な事さえ遊戯と興じる。だが、いざ戦闘となれば冷静な武人と変じる――もっとも、知性はそれほど高く無いため、狂戦士と称するのが正しいだろう。
 ジンは無骨な形状のゾディアックソードを自在に操る。殆ど鎧を纏わぬ軽装は、守りよりも機動性を重要視していることの証であろうか。
 戦場は花見で賑わう昼の公園――ひときわ大きな大樹の元に、奴は送り込まれる。
 周辺では当然人々が無防備に花見をしている。
 よって、まず彼らの避難などが必要となるだろう。
「奴の気性を考えるに、一般人を屠る事で貴様らが狼狽えるのならば、それを狙うだろう。不必要にそちらに手を割く必要が無いよう、策を立てるか……或いは、相手に余裕を与えぬほどの力で押すか。どのように立ち回るかは、貴様らに任せる」
 そう言って目を細めた辰砂は再びケルベロス達を見つめ、
「強い者との手合わせ、望みを叶えてやれ」
 その代償はコギトエルゴスム化などでは済まぬものとなるであろう――そう淡々と告げた。


参加者
リリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
此野町・要(サキュバスの降魔拳士・e02767)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
白嶺・雪兎(斬竜焔閃・e14308)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)
差深月・紫音(自称戦闘狂・e36172)

■リプレイ

●開宴
 はらはらと、桜が舞う。目尻に朱をさした差深月・紫音(自称戦闘狂・e36172)はそれを掬うように掌をかざし、笑みを深くした。
「また桜に関わるとこで、やり合うことになるとはなぁ」
 ――ま、死闘を演じんにゃ丁度良いがな。
 ひとりごつ。彼の掌から花弁はひらりと逃げていく。
 艶を競う季節も終わりの兆し――だが、上を見ても下を見ても、小さな花弁が絶える事無く広がっている。
 それを楽しむ人々の姿を見つめ、スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)はきゅっと小さな拳を握る。
「遊戯気分で人の命を奪うなんて、許せませんっ!」
 凶星のジン――エインヘリアルという種族の意向であらば、彼の行いは彼らの正義でもあろう。とはいえ、地球に住まう者達からすれば、同情の余地の無い悪行に変わりなし、その手段が残酷であれば、尚更だ。
「ハン、外道だな」
 草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)の感想は簡潔だ。
 エインヘリアルの中でも犯罪者として捕らわれていた――つまり、勇者然とした性質でないことは確か。予知より報された凶行含め、彼女には度し難い存在だろう。
 かねてより戦いを待ちかねて、そわそわとした気配を纏う白嶺・雪兎(斬竜焔閃・e14308)の様子に相対し、此野町・要(サキュバスの降魔拳士・e02767)は目を閉じて、呼吸を整えている。
 ひゅるる、る――。
 嫌な風がひと啼きした――ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)は軽く視線をあげる。
 小さく起こった桜吹雪がぐにゃりと歪む。幻覚か、確かめるべく瞬く間に現れたのは、長躯の戦士。無骨な剣を肩に担ぎ、燃えるような長い髪の隙間から、鋭い眼光が覗く。
 知覚するやいなや、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)が声を発する。
「今からここは、戦場になりますので。死にたくない方は迅速に、避難をしてください」
 注意は敵に向け、過分な感情を廃した警告は、どんな談笑よりもはっきりと人々の耳に届いた。
 それだけでは混乱を呼ぶだけ――否。
「落ち着いて、皆でお互いに助け合い行動して」
 凛乎とした声音は、リリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)のもの。彼女の言葉は、誰を押しのけても逃げよう、という人々に理性を呼び戻す。勿論、他人の行動を操る術というわけではないから、そこは各自に任せることになるが――。逆に、彼女達はそれ以上のことは何もしないと突き放す言葉でもある。
 瑛華の警告と同時、重力を宿した跳び蹴りが、ジンの鼻先を掠めた。
「遊ぼっか? ルールは簡単。僕等が君の的。全員殺せれば君の勝ちで、賞品は逃げてる人達の命。まさか、ルール破って先に賞品掻っ攫うなんて真似、しないよね? しちゃったら真剣勝負で僕達に勝てない腰抜けって証明するようなものだし! 」
「オイオイ。情けなく捕まってた犯罪者くずれに遊び相手が務まるのかよ?」
 緩く孤を描く剣戟は急所を狙った鋭いもの――仕掛けたあぽろは、にっこり笑って挑発する要の言葉に、肩を竦めて首を振る。
「同じゾディアックソード、でしょうか? ちゃんと手入れしていないようですけれど、大丈夫ですか?」
 ジンの反応を待つより先、檳榔子黒の長剣を手に問いかけながら、化け狐の変化呪符をスズナは投げつけた。
 ――錯視のまじないが籠められたそれは、攻撃対象を誤認する力がある。
 銀色の狐耳をぴんと立て、藍色の瞳で彼女は正面から見据える――相手は見上げる程に、大きいが視線は絶対に逸らさないと決めていた。
「まさか、わたし相手に逃げたり、しませんよね?」
 そんな彼女を守るように、古い木箱型のミミック――サイが、武器を具現化し、威嚇する。
 目を細めてケルベロスを睥睨するジンの背後、斜め下へ振り下ろされる炎の軌跡、逆袈裟に輝くエネルギーの残像が同時に走る。
 ほう、声を出したのは紫音だったか。
 彼のマインドソードは無骨な刃で受け止められ、雪兎の脚は柄に繋がる鎖を伸ばすことで完全に振り下ろせずに、地へと叩きつけられた。
 児戯のような牽制、殆ど殺気といって過言では無い闘志は隠さず仕掛けたとはいえ、二人の攻撃はジンに届かなかった。
 難なく着地した雪兎は穏やかに笑んで、こう言った。
「周囲の一般人を斬るよりも同類同士で喰い合った方が楽しいでしょう」
「こんな楽しい死闘を前に、余所見なんて無粋な真似、凶星の旦那はしねぇよなぁ?」
 合わせ、紫音が軽く応じる。
 ここに至るまで――ケルベロス達が怒濤に攻め込んだ、というのもあるが――一言も発しなかったジンが漸く口を開いた。
「楽しい、ねぇ?」
 揶揄するような声音。鋭い視線が値踏みするようにケルベロスを、周囲で少しずつ逃げようと動き始めた人々を射る。
「俺は強い奴の言葉しか聴かねぇ。てめえらのゲームなんぞ知るか」
 無骨な剣を再び肩へ担ぎつつ、にや、と笑った。
 万が一に備え、前のめりになりそうなケルベロス達を征するは、不要な感情はそぎ落とした低い声音。
「以前にも罪人のエインヘリアルと戦った事があるが、あんたはちょっと空気が違うな」
 ウルトレスは淡々と続ける。
「無抵抗の者を嬲る事よりも、戦士としての熱い闘いを求めている様に感じる――どうだろう、俺らと真っ向勝負してみないか。退屈はさせない」
「聴かねぇっつっただろうが……ま、いいぜ」
 ぶん、と一薙ぎ――花弁がくるくると踊り舞い上がる。燃えるような赤い髪の下、彼は言葉似せず殺気をケルベロス達へと叩きつけた。
 彼の長躯でもってしても、避難を始めた一般人までは、ひと間合い以上はある。
 それまでに、その言葉を証明してみろ、と。

●饗宴
 ジンの剣が光を放つ。解き放たれた獅子のオーラが、ケルベロス達を蹴散らすべく飛びかかってくる。
「わたしはあなたを……逃がさない」
 同時、涼やかな声がそう謳えば、ジンの腕に鎖が巻き付く。
 瑛華によって具現化されたグラビティの鎖は、細く繊細であるが容易くは千切れない。
「ふふ。チェインデスマッチでも、構いませんけれど」
 艶やかに、彼女は微笑む。その折れそうな身体、細腕も鎖と同じ――確りとその場に留める。
「何も知らぬ人々の命を踏みにじってまで生き延びようとする……その方法、悪巧みは見逃せないわ」
 強い意志を籠めた言葉、視線で以てリリアは相手を見据えた。
 仲間へ送るオウガ粒子が金の髪に映え、きらきらと輝く。
 おおお、気合いを籠めながら、要が踏み込む。数メートルをひと跳びに、加速を乗せて振り抜く降魔真拳。
 それを刃の腹で受け流し、鎖がじゃらりと音を立てた。体勢を崩したのは、紫音。マインドリングを短刀に、再び仕掛けたところをあしらわれた。
 戦場に低音の旋律が奔る。ウルトレスは弦のタッピングに合わせ、担架しているバスターライフルからエネルギー光線を放つ。
「太陽の力は欠片でも半端ねーぞ、歯ァ食いしばって耐えろよ!」
 激しい演奏を背に、強気に言い放ち、あぽろは半透明の御業を繰り、ジンの脚を掴む。
「『余所見してたから負けたんです』なんて情けねえ言い訳聞きたくねーしな」
 こっちに集中しろよ、と低く囁く。それを断ち切ろうと剣を振り上げたそれは、違和感に気がつく――雪兎の放ったブラックスライムが、どろりと腕に食らいついていたのだ。
「久々に同類と会えたんです。全力で楽しませてもらいましょうか」
「は、そうかよ」
 ジンは低く笑い、剣を乱暴に振り回す――ぼう、と地面が光る事で、彼が闇雲に振りほどこうとしたのではなく、星座を刻み込んでいたとウルトレスは目を細める。
 粗雑に見えて、このエインヘリアルはやはり武に長けている。
 多くの攻撃を受け止めながら、致命的な創は巧く避けている。聴いていた情報通りであれば攻撃に特化している状態だから、こちらの攻め込み方がまだ足りぬのかもしれぬ。
 リリアも察したのだろう。すかさずメタリックバーストを重ね、不足を補う。
 再び、白刃をもってあぽろが斬り込む。彼女に合わせ、要が上空から仕掛ける。
 敵の選択は、あぽろの攻撃を受けること――金属が噛み合う不協和音、蹴撃はジンの鼻先を切りつけ、朱を走らせる。
「じゃあ、旦那。次はこういう手はどうだい」
 親しげに声かけ、紫音が吼える――魔力を籠めた咆哮は呪縛となって、動きを一瞬封じた。
 その隙をついて斬り込むは、雪兎。非物質化された刃はあらゆる障害をすり抜け、霊体を汚染する――受けた刃は寸で、間に合うが、浅い創でもその毒は染みこむ。
「ほらほら、どうしました? もっと楽しませてくださいよ!」
 雪兎の挑発に応じ、ジンは両手に握りを変え、一閃する。
「受けてみな――!」
 花弁が左右に舞い上がる。剣風が、スズナの銀髪を乱す――覚悟は決めている。目を逸らさず剣を構えた彼女の前に、小さな影が飛び込んできた。
 サイ、小さな悲鳴は暴風に掻き消された。庇って砕け散った相棒へ、小さく礼を告げ、彼女は拳を振るう。
「子供だとおもってると、足元すくわれますよっ!」
 次いで、瑛華が竜砲弾を撃てば、ジンは後ろへと退いた。空いた距離を追うように、ウルトレスのフォートレスキャノンが爆ぜた。
 打ち返すように、剣で受けて、それは笑う。
「そこそこ、面白くなってきたぜ」
 ぶらぶらと軽く利き手を振って、ジンは構え直した。

●桜舞
 瑛華が銃を持たず徒手、低い姿勢で構えている。オーラを纏い加速させた掌底を叩き込む。加護を打ち破った手応えを感じ取り、艶美に微笑む。
 更に破壊のルーンを受け取ったウルトレスのフォートレスキャノンが肩口を穿とうと――構わずジンは剣を振り下ろした。
 凄まじい音を立てた剣風。
 守護も断ち切る重力を乗せた烈風で、要が吹き飛ぶ――攻撃を予測し、オーラとガントレットで庇っていながら、めきめきと嫌な音がした。
「ここはわたしが……! リリアさんは、そのまま攻撃の援護をおねがいします」
 すぐさまスズナが声をあげ、オーラを彼女へ送る。
 その一撃に、思わず感嘆するは雪兎。
「いいですね、あれ。斬りたいなぁ。あれほど強力な英雄を斬れるなんて、燃えるなぁ」
「あんたも大概だな」
 紫音が片頬を上げる。凍り付いた衣服、全身傷だらけだというのに、彼は全く気にせず、駆けだした。
「数多の生き血と悲鳴を啜り、人々より忌み嫌われた紅蓮の波刃よ、今こそ我が手に来たれ。その美しき刃をもって、この地を絶叫で満たせ!」
 解放の言葉を諳んじれば、裂傷剣・煉獄紅刃――霊力で刃先を波打たせ、炎を付加する。
 紅に染まった刃は何者にも遮られることはない。儘に、振り下ろす。
 加護が断ち切られていた彼の一撃は、背に回された剣で受け止められる――が、やや遅い。腰の途中から斜めに、焦げた創を刻み込む。
 更に、目眩ましにでもなればいいと仕掛けた紫音の短剣が、深々とその太腿を斬り裂いていた。
 やられっぱなしでは済まさないよ、要は片腕をだらりと下ろしたまま笑う。スズナの治療を受けても、この傷は治せない。
「……開放っ!」
 その借りを返すとばかり、カードを手に、ジンの間合いの内に飛び込んだ。欄外ノ壱「近衛魂札切り」――零距離でそれを押し当てれば、触媒から魂を喰らった。
 ウルトレスの演奏はいよいよ佳境に入っている。
 激しさを示すように、打ち込まれたゼログラビトンは、ジンの毀れた刃の疵を深くした。
 それを確かめた瑛華がもうひとつ楔を打ち込んで、目配せを送る先――右手に太陽の力をチャージしながら、あぽろが待ち構えていた。その髪は眩く光を放っている。
「喰らって消し飛べッ!『超太陽砲』!!」
 至近距離から、超克示す太陽神の火砲を解放する――直視できぬほど眩い光線が、ジンの左腕を灼き焦がす。
 その成果に彼女はにやりと笑い、
「終わりだ、テメェの凶星はここにいるぜ」
 背後に凛然と控えるリリアへ、道を譲る。
 他のケルベロス達の視線も受け、感謝の意を内心に唱えながら、リリアがすっと腕を伸ばす。
「誓約の舞、魅せてあげる。」
 ――光を受けて輝く、青翠の風。彼女の舞に合わせ、ふわりと優雅に揺らめく比礼が、いつしかその指先に風の力を湛え。
 優美な舞に惹かれるように、桜がひらひらと彼女の元へと寄っていく。
 指先がすっと、ジンへと向けられる。極々自然な所作であるが、数多の花弁がそこへ吸い込まれるように流れていくのは、何故か。
「罪を悔いて祈りなさい」
 告げるや否や、エインヘリアルの四肢を深く斬り裂く旋風。螺旋状に吹き付けた風で剣が砕け、抵抗する術も失い、ただジンは天を仰ぐ。視界を埋め尽くすは鮮やかな薄紅の花々。
 これを、彼がどう見たかは解らぬが――。
 突風で散り散りになった桜を染めるは、彼の鮮血。
 全身を赤く染めた巨躯の男が倒れた――重く伝わる地響きに、リリアは瞑目し、物言わぬ観衆に頭を下げ、舞を終えた。

●散華
 ライブ終了――とベース弦を素手で引き千切ったウルトレスは、折れた剣を手に取ると、桜の樹の下に突立てる。
「彼が実際、武人の心を持っていたかはわかりませんが」
 罪人と言えど自分が捨て駒であることを理解した上で、最後まで命を賭して戦ったことへの敬意を表し。
 デウスエクスは倒さねばならぬ敵。ジンは倒すに心の痛まぬ精神を持つ敵であった。
 だが、ひいてはエインヘリアルという種への断罪でもある。
(「生きるもの全てが理解し合える日など訪れないかもしれない……そう考えると悲しい気持ちになるけど……」)
「今だけは……わたしたちの手で守れた命があったことを神さまに感謝し、慰めを見出しましょう」
「……ま、そう悲観することでもねえだろうさ」
 祈るリリアとは対照的に、紫音は笑う。
 ああいう手合いにとっては、コギトエルゴスムとして封じ込まれているより、ずっと満足のいく状態だろうと。
「外道が還る場所に還っただけだ。それが俺達の役割だろ」
 あぽろも頷く。太陽の巫女、と戦いで魔を祓う身、リリアの祈りが揺らぐことはないだろう、と知ってはいたが。
(「実際、悔いるどころか……といったところでしょうか」)
 僅かに見た最期の表情を思い返し、雪兎はその感想を敢えて言葉にはしなかった。だが、それは誰もが察するところであろう。
「皆さんも、サイも、お疲れ様でした」
 スズナがほっとしたような様子で形を取り戻したサイを労るように撫でる。それを何となく眺めていた紫音が、そうだ、と皆へ声を掛ける。
「今年最後の桜ってことで花見でもしていかねぇか?」
 誘いに要が負傷も構わず手を上げ、いいですね、と瑛華は微笑んだ。
「避難された方々にも声をかけてあげましょう」

 去って行くケルベロス達を見送る折れた剣の墓標にも、はらはら桜が舞い落ちるのだった――。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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