烈し!強し!もやし!?

作者:ZOO

 抗争は膠着していた。
 二つの若者グループは互いに攻めあぐね、攻め手を欠いていた。
 そこに片方のグループから声がかかる。
「兄貴! おねがいしやす!」
 すると、グループの奥の方から、長身の、しかし、ひょろひょろとして、とても頼りがいがあるとは言えない男が現れる。
 その男を見て、相手グループの数人が馬鹿にした笑い声を上げる。
「ははっ! 誰かと思えば、うちのグループでパシリやってた『もやし』じゃねえか! ……ふざけてんじゃねえよ!」
 一人の男がその『もやし』に向かって殴り掛かる。
 しかし、その拳が届くことはなかった。
 不思議なことにもやし男の腕は関節がないかのように、ぐるぐると殴った男の腕に絡みつき、パンチを止めていた。
「この腕でさあ、よく僕のことを殴ってくれたよね」
 そう言ってから力を込めると、相手の腕はボキボキと折れていく。
「うわああ!」
 その様子を見て逃げ出す相手グループ。
「誰も逃がさないよ。僕のことを馬鹿にしたやつは……誰も」
 いつの間にか彼の体からは触手のような蔓が何本も飛び出し、相手グループの人間を絡めとり、握りつぶしていった。
 白昼の街に悲鳴がこだました。
 
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がケルベロスたちに向かって切り出す。
「茨城県のかすみがうら市で、またしても若者グループの抗争事件があったようです。最近、このようなことが多くなってきています。ただの抗争であれば、地元の警察に任せるところなのですが、今回はその中に、デウスエクスである攻性植物の果実を体内に受け入れたものがいるようです」
 セリカがため息をつく。
「残念ながら、攻性植物を取り入れた人間を助ける術はありません。皆さんの力で、攻性植物の撃破をしてもらうのが今回の依頼です」
 間を空けてからセリカが詳しい状況説明を行う。
「抗争は市内の廃ビル内で行われているようです。攻性植物を体内に宿したものは一人です。それ以外の若者たちはただの人間ですので、気にする必要はないでしょう。対象の敵はひょろりとした細身で長身の男で、体から蔓を伸ばして攻撃することに長けているようです。捕まることのないように、うかつに近づかないでください。また、状況が悪くなれば、近くの人間を人質として、盾にすることも考えられます。グループのただの若者たちには、早めにこちらの力を示して、わざと逃がした方がいいでしょう。廃ビルの外には警察なども待機していますので、保護は彼らに任せて大丈夫です」
 最後に、と前置きをしてセリカが話し始める。
「今回の目的はあくまで攻性植物の撃破です。ですが、若者たちが異形の力に頼ること自体が良くない事態だと考えています。生き残った若者たちの対応については皆さんの判断に任せますが、多少の教育をしてもよいでしょう」


参加者
ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)
蒼龍院・静葉(蒼月の護光を導く白狐・e00229)
雨津・あすた(一番星の天狐・e00713)
グレイブ・ニューマン(神滅せしは我が意也・e01338)
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)
トニー・ロックヤード(座敷ウェアライダー・e04748)
天坂・新九郎(彷徨う烏・e11888)
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)

■リプレイ

●説得
 ケルベロスたちは廃ビルの前にいた。
 もうすでに悲鳴は聞こえない。
 大きな音は止み、少しのざわめきだけを感じた。
「抗争は終わったようだが、一般人はいるようだな」
 グレイブ・ニューマン(神滅せしは我が意也・e01338)が軽く中の様子を耳で探った。
「したらば、おらはここで準備をしてから行くべ。先に行ってくれろ」
 山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)が華やかな衣装姿で廃ビル前にアンプやマイクの準備をしながら話す。
「それでは、私たちは先に中へ参りましょう」
 蒼龍院・静葉(蒼月の護光を導く白狐・e00229)が、廃ビルの中に踏み込む。
「事前に工作しておきたかったですが、奴らに気づかれずに上階の工作をするのは難しいようですね。残念です」
 トニー・ロックヤード(座敷ウェアライダー・e04748)が廃ビルの構造を見てつぶやく。
「……」
 チキリとナイフに手をかけて、天坂・新九郎(彷徨う烏・e11888)が戦闘にすぐ入れるよう準備しながら後に続く。
 廃ビルの入り口には誰もいないようで、グループの若者たちはもっと上の階にいるようだ。
 誰もいないとは言っても、生きているものはいないというだけで、廃ビルに入ったところからいくつもの若者の亡骸が転がっている。
 おそらく今回のデウスエクスのいるグループと敵対していたグループだろう。どの死体も骨が粉々に折られていた。
「……報復とは中々に血腥い」
 ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)が足元に転がる死体を見てつぶやく。
「デウスエクスの脅威があっても、ヒト同士で争ってしまうものなのですね」
 レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)が悲しげな顔をして、ため息をついた。
「復讐や仕返しの気持ちはわかんなくもねぇけど……そのために異形の力を借りるなんて、絶対間違ってるぜ」
 雨津・あすた(一番星の天狐・e00713)が苦い顔をする。
 ケルベロスたちは上階へと移動していく。
 ざわめきは大きくなり、地上から数えて三階の部分に彼らはいた。
「おおっと、兄貴、まだ生き残りがいたようですぜ」
 少し広い部屋の奥から、若者グループの一人がケルベロスたちを見て、不敵に笑う。
 自分たちが負けるはずがないとたかをくくっているのか、グループの若者たちはニヤニヤと笑っている。
 そこへグレイブが前に出る。彼の鍛え上げられた肉体を見て、ニヤニヤ笑いが少し治まる。
「死にたくなければ今すぐ離れろ!」
 空気がビリビリと震えるほどの一喝。
 部屋の空気が一変し、若者たちは動けなくなる。
「これは生易しい喧嘩じゃねえ、生きるか死ぬかの戦場だぞ」
 あすたが若者たちにひと声かける。若者たちはおろおろとして動かない。
「……殺されたくねぇヤツらはとっとと逃げろっつってんだよ!」
 あすたが近くにあった机を蹴り飛ばす。
 机は折れ曲がって飛んでいき、窓を突き抜けて見えなくなる。
「ヒィ!」
 その威力に若者たちが悲鳴を上げる。
「素直に成ると良い。不自由の身に成りたくは無かろう」
 ディディエが炎で出来た竜の幻影を放ち、近くの壁を溶かし、穴を空ける。
「ふへぇ!」
 情けない声が若者たちの中から上がる。
「……そいつから離れろ!」
 今まで沈黙していた新九郎が気を放つ。
 そのプレッシャーに若者たちがパニックを起こした。
「やべえ、やべえよ! ぜんぜん今までと違うって、ぜんぜん!」
「どうすんだよ! 死にたかねえよ、俺は!」
 若者たちは逃げ出したいながらも、奥に控えるひょろりと背の高い男を気にして、踏みとどまっている。
「その男が気になるのなら、構いません! ここはわたくし達に任せて外に避難しなさい!」
 レーンがその豊満な体を見せつけながら、ケルベロスたちの後ろにある道を譲る。
 若者たちの心が揺れる。
 そのとき、外から大きな音が響いた。
「♪響け、雄々しく! すべての過ち、乗り越えて、こだまを返す、峰のように!」
 廃ビルの前からほしこの声が響く。
「おらもやさぐれたことあったけど、もう傷つけ合って誰かを悲しませんのやめっぺ! やり場のない心は歌や踊りにぶつければいいだ! 一緒に歌うべ! 『山彦のメモリー かすみがうらver.』!」
 次の瞬間、重厚でハードなビートと共にギターがかき鳴らされる。それに合わせるようにボリュームのある歌声が響き渡る。
「おお!」
 その音楽は激しいながらも若者たちの心を優しく包み、荒れた気持ちを癒していく。
「もうこんなことしてる場合じゃねえ!」
「なんてことをしていたんだ俺は!」
「お母ちゃーん!」
 そう叫びながら、ケルベロスたちの横を通り抜け、廃ビルから出ていく若者たち。
 後には、長身痩躯の男とケルベロスたちだけが残った。
「……お前たちはいつもそうだ」
 そのひょろ長い男が鋭い目でケルベロスたちを睨みつけた。

●トラウマ
 ケルベロスたちに憎々しげな目を向けながら、もやしのような男が話す。
「お前たちみたいなやつはいつだって僕を馬鹿にするんだ」
 もやし男はグレイブに目を向ける。
「例えばお前だ。自分の肉体を自慢して、いつだって僕みたいな細い奴に力を見せつける。やめろといっても殴るのをやめない力自慢のクズ野郎め!」
 言われてグレイブは哀れみの表情を向ける。
「君の境遇には多少の同情はしている。しかし、君自身、その歪んだ力を手に入れてから、同じことをしているのではないかな。階下の死体がいい証拠だろう」
 言われて、もやし男は激昂する。
「うるさいうるさい! あれは復讐だ! ただやり返しただけだ! 馬鹿にしやがって! お前らも返り討ちにしてやる! かかってこい!」
 男がゆらりと構えを取る。
「力に溺れるとは、愚かな……」
 新九郎が遠くからナイフを構えて、男の視線に入る。
「ぐっ、なんだこれは!」
 もやし男には何が見えているのか手を自分の周りにブンブンと振り回している。
「……成程、それは効果がありそうだ」
 ディディエもナイフを構えて、男に幻影を見せる。
「やめてください! 殴らないで殴らないで!」
 もやし男は誰にも触れられてもいないにも関わらず、見えない拳を避けながら半狂乱になっている。
「貴方の心、覗かせてもらいましょうか?」
 さらに静葉もナイフを構えて、男に向かって幻を飛ばす。
「あー! あー! 近くに寄るな! 触れるな! 死ね! しね! シネ!」
 そのとき男の近くの足元から地面を突き抜けて触手が現れた。男の動きと合わせて、いやいやをするように触手も暴れまわる。
 触れることのできない幻影を両手だけでなく触手を使ってでも遠ざけようとする姿は傍目にも哀れであった。

●枝払い
「くそっ! 変なもん見せやがって!」
 もやし男は息を荒げながら、ケルベロスたちを睨む。
「その触手。地面に隠して私たちを不意打ちするつもりだったのだろう。奥の手の種が知れたな」
 グレイブはそう言いながら、巨体に似合わない素早い動きで射撃を行った。
「ぐっ!」
 バチンといくつもの触手がグレイブの銃撃で弾けていく。
「そのひょろっちいうねうねを切り取ってやるよ。ヨワムシのもやしちゃん」
 あすたが鋭い蹴りを触手に向かって放つ。炎を纏った斬撃が飛び、触手が焼け落ちる。
「てめえの情けねえ根性ごと刈り取ってやる!」
 トニーがバスターライフルを構え、触手に向かって光弾を放つ。光弾の当たった触手はへなへなと萎え、使い物にならなくなる。
「オークの触手とどう違うのか興味はありますが、あまり気持ちのいいものじゃなさそうですわね。払ってしまいましょう」
 アームドフォートを構えたレーンが主砲をさく裂させ、触手は跡形もなく消え去る。
「くそ! くそ! 何でだ! 何で動かない! 僕の触手が! 強さが! お前らのせいで!」
 自身の触手を奪われた怒りでもやし男は再び半狂乱になる。
 そのとき、男の頭がばっくりと割れた。
 男の頭は四分割され広がり、気持ちの悪い花を咲かせる。
 いつの間にやら、男の体は頭だけでなく、全体が人間らしさを失い、植物の化け物になる。
「みんな! どうなったべ? って、なんだべ!? これ!」
 一般人の避難を終えたほしこが戦闘中の部屋に現れ、その状況に驚いている。
「……もう話すことも出来ねえみてえだな」
 トニーがぼそりとつぶやく。
 もやし男の顔はすでになく、口も鼻も耳もわからなくなっていた。
「ウウゥ!」
 どこから声が出ているのか、化け物は叫びだし、右手をケルベロスに向かって伸ばした。
「……巫山戯たことを」
 そう言って、ディディエは自身の武器から弾丸を射出し、眼前に迫った触手に当てる。凍り付いた触手がディディエの目の前で止まる。
「……哀れな」
 こつんと目の前の触手を叩くディディエ。
 触手は化け物の腕の根本から折れる。
「ウアァ!」
 やけになったかのように残った最後の触手、つまりは左手を再び伸ばす。
「私ですか」
 静葉に向かって飛んでくる左手。
「無駄ですっ! 白狐四天・弧月無影閃っ!!」
 音もなく、動いた気配もなく剣が左手を通過する。
 しかし、ぴたりと静葉の眼前で止まった左手は一時の時間を置いてから、ぼとぼとと切り裂かれて落ちていく。
「ガァアアァ!」
 声にならない叫びをあげ、触手の最後の一本まで無くした男は最後のあがきか、頭の花から光線を放とうと光をためる。
「させるかよ! 地に膝付けてな! 狐星号蹴!」
 化け物の背後から、いつ回り込んだのかあすたが強烈な回し蹴りを放つ。
 不意の背後の一撃に攻撃の準備は水泡と帰し、前方に吹き飛ぶ。
「破っ!!」
 その前方からレーンがこれでもかというほどの勢いで腕部を炸裂させ、パイルバンカーを射出する。
 それは見事に化け物の腹部に当たり、化け物はゴムまりのように再び吹き飛ぶ。
「……ヒュウ……ヒュウ」
 空気漏れのような呼吸を男は繰り返し苦しんでいる。
 そこにゆっくりと近づく男が一人。
「楽には死ねんさ……」
 新九郎がナイフを構える。
「……さて、斬るとしようか」
 ナイフがもやし男の急所を切り裂く。
 そして、沈黙した。

●真相は闇へ
「そちらには何かあっただろうか?」
 グレイブが廃ビルの探索から戻ったトニーと新九郎に声をかける。
「……」
 黙って首を横に振る新九郎
「何もないですね」
 同じく落胆の表情をトニーも浮かべる。
「こちらも同じく、目新しい情報はないですね」
 静葉も聞き込みの結果を伝える。
「俺も同じだぜ。グループのやつに聞いても、加わったときにはすでに植物人間になってたってことしかわかんなかったぜ」
 あすたも芳しくない結果に気落ちしている。
「ふむ、きな臭い匂いだけが残ったな」
 ディディエが今後の不安を口にする。
「ほしこ君はどうした」
 グレイブが周りを見渡す。
「ん」
 あすたがある方向を指さす。
 指のさす方向を見てみると、ほしこがおにぎりを若者たちに配りながら、情報を集めようとしているのが見える。
「今日のライブは終わりだっぺ。また今度だべ。な」
 情報を集めようとしているものの、若者たちにアンコールをせがまれ、困っているのが見える。
「情報も大切ですが」
 レーンがケルベロスたちに言ったあと、近くにいる若者たちに向き直って話し始める。
「今回、貴方がたが見たのがデウスエクスです。やんちゃしてないで大人になって下さい……。そして、わたくし達に貴方がたの力を貸して下さい。失望はさせませんから」
 真剣なまなざしで話すレーンに若者たちも深く感じることがあったようだ。
 攻性植物の真相は闇の中へ。
 しかし、生きている若者たちの心は一つにまとまっていっているようだ。

作者:ZOO 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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