たったひとりの放課後

作者:林雪

●西校舎3階の噂
 入学式から2週間ほどが過ぎ、初夏とも思える気候の日々が続く。
 クラス内ではだんだんと打ち解け始めた友達グループが出来始めていた。ミチホも軽く挨拶を交わす程度には馴染んできたが、まだ友達と呼べるような子はいない。夜になると中学の頃仲良しだった友達と、SNSで日々の報告をし合うのが楽しみだった。
『そう言えばさ、ミチホの行ってる学校の噂って知ってる? 西校舎の3階に、放課後居残る生徒の話』
『え、西校舎って今もう使ってないとこだよ』
『そうだけど、午後4時過ぎくらいに覗きに行くと、女子生徒がひとりで机に文字彫ってるんだって」
『何て彫るの?』
『卒業したくない、って』
 翌日の放課後、ミチホはひとりで西校舎に向かった。立ち入り禁止、の看板とロープがかけてあるだけの階段を昇っていくと、件の教室の前で立ち止まる。
(「……写真に撮れるかな」)
 スマホを構えて教室の中に足を踏み入れようとしたところで、グサリ、とミチホの心臓に鍵が突き刺された。
 だが出血はなく、ミチホの肉体は傷ついていない。ただ、意識を失ったミチホはその場に倒れ込んだ。
『私のモザイクは晴れないけど……あなたの興味には、興味があります』
 鍵を刺したのは第五の魔女・アウゲイアス。ミチホから奪った興味はそのまま、ミチホと同じ制服を着た女子高校生型のドリームイーターへと姿を変えた。モザイクに覆われた顔で、ドリームイーターは黙ってミチホを見下ろしていた。

●女子高校生型ドリームイーター
「学校か。怪談といえば学校であるな……」
 奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)が調査の報告をする。何故か学校の制服を着たヘリオライダーの安齋・光弦が概要をまとめて説明し始めた。
「一十さんが警戒してた通り、学校の不思議に関する事件が起きた。第五の魔女・アウゲイアスはこれまでも他人の『興味』を奪ってドリームイーターを生み出してきた。今回はとある学校の、元生徒がずっと居残ってるっていう怪談の真相を確かめようとしたミチホちゃんって女の子が被害者なんだ。アウゲイアスはもう現場にいないけど、ミチホちゃんの興味を元に生まれたドリームイーターが、学校に残ってる。こいつを撃破すれば彼女の意識も戻るから、頼んだよケルベロス」
 現場は、今は使用されていない西校舎である。一応生徒の立ち入りは禁止されているが建物自体はそこまで古いわけではなく、時折内緒話をしたがる生徒らがこっそり侵入したりもしているらしい。
「現れる敵は1体のみ。このドリームイーター、卒業するのが寂しくて寂しくて学校に立てこもった、っていう卒業生の話が元になった怪談から生まれてるらしい。だから自分以外の生徒を見つけると『卒業しても私たち、ずっと友達だよね?』って声をかけてくるらしい。この答えを間違うと、いきなり襲ってくるから気を付けて。もっとも、何が間違いで何が正解かなんて、曖昧だけどね」
「まあ、ずっと友達だよ、が正解なのであろうな。とはいえ、僕らを襲ってくれないと困る」
 敵が西校舎の中をウロウロしている間は、他の生徒らが襲われる心配はない。万が一にも他の生徒と接触してしまう前に誘き寄せ、倒さねばならない。
「ちなみにドリームイーターは、自分のことを信じてたり、自分に関する噂が聞こえてくるとそっちに引き寄せられるから、校舎内で噂好きの生徒のフリとかをしてればきっと誘き寄せられると思うよ、というわけで、これね」
 光弦が、自分の着ている制服をケルベロスたちに見せながら、何故か嬉しそうに笑った。
「学校側に話つけて制服を借りる手配をしてるから。後でサイズ教えてね」
「待て光弦。明らかに高校生と呼ぶのは無理がある場合はどうする? 言って僕もギリギリアウトであるぞ……」
「一十さんは大丈夫でしょーいけるいける。じゃみんな頑張ってねー!」


参加者
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)
アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)
シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
カレンデュラ・カレッリ(新聞屋・e14813)
百鬼・ざくろ(隠れ鬼・e18477)

■リプレイ

●私立聖ケルベロス学園とかなんやかんや
 とある春の放課後である。西日も収まり、徐々に空の色が夕に染まり始めようかという頃合。
「この西校舎の噂を、皆さんはご存知ですか?」
 校門を抜け、昇降口から下駄箱で靴を履き替えた倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)がゆっくりと振り返る。黒髪に陽光が映え、化粧っ気のないはずの唇はそれでも赤く艶やか。この年頃の少女が制服を身につけた時にだけ発する、何とも言えない色気がある。
「噂、ですか? もしやそれは……」
 自身の銀髪により少しだけミルキーな色合いの灰の瞳に好奇心を秘め、小首を傾げて応じるのはシィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)。彼女もまた、女子高生だけが持つ冒しがたい何かを、少し長めのスカート丈の制服姿から発していた。
「ずっと居残る生徒がいるらしいですね」
「卒業するのは、そんなにさびしいものなの?」
 柚子の言葉に目を瞬かせる百鬼・ざくろ(隠れ鬼・e18477)の視線はいつもより高い。普段よりも少しだけ髪を低い位置で結び、先輩たちと肩を並べて廊下を歩く新鮮さに、胸をドキドキさせながら訊ねてみる。
「さあ、どうなのでしょうね。学校が大好きな方だったのかも」
「友達と離ればなれになっちゃうのが嫌で、ずっと教室から離れられないのかな?」
 女子高生たちが古びた校舎で輝きを放ち続けるその後ろからは、男子たちが賑やかについて行く。
「これオレイケてんだろ、めっちゃ高校生みある」
 自身の制服姿に満更でもないキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が、胸元をはだけた制服姿を見せびらかしつつ声を上げると、サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)がすかさずツッコむ。
「いっやぁ~、んなヤーサンな学生いますぅ? つかカズのコスプレ感笑うし」
 そう言うサイガは腕を捲り上げている以外は存外着崩さず、きっちりと制服に身を包んでいる。
「なんの。むしろこの顔ぶれなら僕はかなりセーフの方に入る」
 フンと胸を張る奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)はスクールバッグを携え、かなり高校生になりきれている。もっとも、バッグの中身は教科書ではなく、ボクスドラゴンのサキミだが。
「言えてる。まあ卒業しようとおっさんになろうと余裕だぞ、つうスバらしい図式だな。見てっか卒業拒否児」
 と、まだ姿を見せないドリームイーターに向けて呼びかけるサイガにキソラがつっかかっていく。
「つか誰がヤーサンよ、せめてチャラい先輩、略してチャラ先くらいな」
 なんすかそれ、と笑い合う姿から醸す空気は放課後男子高校生そのもの。
「わたしは女子校だったので、こういうのは何だか新鮮です」
 と、シィラがそっと微笑む。
 皆と足並みを揃えて歩くアレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)も、制服で学校、という未知の空気を楽しんでいる様子だった。
「制服なんて着るのは始めてです。似合っているといいんですが」
 実際童顔で細身の彼に、ブレザー型の制服はよく似合っていた。ただし。
「これで隣にお揃いの制服姿の我が愛しの姫が歩いていたら完璧でした……約束された可愛さ……そのまま放課後デート……はぁ……なんて素敵な青春。なぜ隣に制服姿の姫がいない??」
「……彼は、黙っていればビジュアル的に生徒会長キャラに見えるのだがなあ……」
 ぼそっと呟く一十の声も届かない。アレクセイ会長の脳内は、今日も愛しの薔薇でいっぱいなのである。ブレない。
 そして、何やかんやがブレてしまったらしき男が一人……。
「学校の怪談や七不思議ってのは、どこの国にもあるものなんだなァ。うまいこと記事にできりゃいいんだが」
 言ってる事は案外マトモなカレンデュラ・カレッリ(新聞屋・e14813)、本業新聞記者。目下、ドレスに身を包んで目出し帽をかぶり学校内をねり歩く36歳である。どうしてこうなった。
「カレンさん……どうしても直視出来ない」
「……寧ろアンタが記事になりそーだな」
「18歳、って方を重視した結果の惨劇がこれっすか」
 一十、キソラ、サイガが口々に揶揄ると、アレクセイも額を軽く押さえて乗ってくる。
「我が愛しの姫にはちょっと見せられませんね……」
「良かったな、生徒会長のお墨付きだぜ」
 キソラがそう言いつつ、わかりやすくカレンデュラから距離を取る。
「おいやめろ、俺が痛々しい人みたいじゃないか」
「カレンデュラさんとても似合ってると思いますよ」
 柚子の至って真面目な声が、余計突き刺さる。
「違う、別にこれが似合いたかったわけじゃ……!」
 ざくろはそっとお姉さま方の後ろに隠れて覗き込む。
「カレンデュラさん、お似合いよ……怖がってなんかないのよ、ほんとよ?」
「いや出てるだろ態度に思いっきり出てる! ……ところで校内って禁煙?」
「カレンデュラさん。煙草は二十歳を過ぎてから、です」
 おっとりと微笑みつつシィラがそう告げた。
 かなり個性的な高校生グループは、ともあれ3階教室を目指す。見るものすべてが新鮮で珍しいざくろはきょろきょろと辺りを見回し、他にも修学経験のないメンバーが多い為、他の教室なども覗いてみる。古びた木の机、チョークで白くなった黒板、掃除用具入れに張られた手書きの当番表。たとえ通ったことがなくとも、否、寧ろ通ったことがないからこそ、そうしたアイテムには心が躍るのかも知れない。
 やがて、噂の教室に続く廊下にたどり着く。教室の中には、恐らく被害者のミチホが倒れているだろう。廊下の真ん中に現れたのは。
『離れても、ずっと友達だよね……?』
 噂の、制服姿の居残り女子高生、の姿をしたドリームイーターだった。
 入る時に念の為にと、昇降口付近でサイガが激しい殺気を放って人払いを済ませてある。ミチホの他の一般生徒がこの校舎に入り込んでいる心配はまずないだろう。
「んなにべんきょースキだったんかねえ……」
 作戦は『盾役を敵に襲わせる』なので、サイガの呟きはあくまでも小声だ。対して、引き付け役の一十の声はきっぱりはっきりである。
「さて、そんなことは約束しかねる!」
「あーあ、女の子相手にあんな事言って」
「カズって案外あんな感じで冷たくフるんじゃね?」
 キソラとサイガがボソボソ言い合う。
「聞こえているぞ、君たち」
『ねぇ……秘密の話、教えてあげる……卒業しても私達、ずっとずっと友達でしょう……?』
「いえ」
 敵の真横に歩み寄り、あえてそうきっぱりと否定してみせたのは柚子。小声の内緒話とともに空を裂いたモザイクの一撃を、肘と膝でいなしてみせる。銀毛を輝かせ、ウイングキャットのカイロがいつしかその柚子の足元で敵を見据えていた。
「卒業しても友達の前に、私たちは友達になっていないのです」
『ずっと友達! でしょう!』

●女子高生
 サイガがくるりと振り返り、紙兵を盛大に撒き散らしつつ壁際にいたざくろの顔の横にドンと手をついて言った。
「今回の回復役、お前が要だ。頼んだぜ?」
「……が……頑張ります、けど?」
 なんとなく困惑気味のざくろに、一十が助け舟を出した。
「壁ドンしている場合ではない。マジメにやれ」
「わあってるって」
「どっちがチャラ男かって話だよな!」
 言うやキソラのハンマーバズーカから爆音が轟き、教室は一気に戦場に変わる。
「シィラくん、頼んだぞ」
 月の光を宿した光弾をそっとシィラの目の前に一十が差し出せば、それを吸い込み静かなだがどこか凶暴な微笑みを返すシィラ。
「ええ……彼女を卒業させてあげましょう」
 スクールバッグから飛び出したサキミが回復のお手本を示してあげるとばかりに一瞥して通り過ぎる。相変わらずのツンツン具合だが、今日は尻尾周りにシュシュでおめかしをしているのが可愛い。
「その制服、あなたには似合いません」
 噂の少女に、ではなくドリームイーターに対してそう告げ、柚子が鋼の拳を振りぬいた。モザイク製の制服が一部吹き飛ばされていく。カイロは仲間の間をスイと通り抜けて飛び、翼で風を送る。
「当たらなければ意味がない……よく狙いましょう」
 低く呟くもアレクセイの手は優雅にオーラ弾を放つ。着弾は確実、かつダメージは激しい。そこへシィラが飛び込み、まずは至近から一撃を叩き込む。その一瞬の技に、シィラの目の色にも似た氷片が散る。次の瞬間、敵がキレた。
『ちょっとぉ何?! なんなわけ意味わかんない! マジむかつくわー!』
 怒号とともに飛んだモザイクが、アレクセイに襲い掛かる。
 女子高生型ドリームイーターとわかってはいるが、ああいるなこういう女子高生……などと思ってしまうカレンデュラ。すかさずその制服の脛辺りにローキックを見舞えば、ドレスの裾がヒラァ……と舞う。覗くのは勿論、カレンデュラの生足。
「なんつー嬉しくねーサービスショットだよ」
 キソラの言葉はにべもない。
「いけませんね……あの様な言葉遣い。我が姫が嘆きましょう」
 涼しい顔のアレクセイを、ざくろが呼び出した木の葉の影が包み込む。どうも敵はやはり噂の元になった生徒の性格を踏襲しているのか戦い方にも『執着』が滲む。そしてケルベロスたちの狙いが正確なこともあるが、攻撃を避けようという動きがあまり感じられなかった。傷ついても、傷ついても……ひたすら狙った相手に自分の主張を相手に届ける、といった思春期独特の無防備さが伺えた。
「女子高生ってのはみんなそーなワケ?」
 サイガがニッと鋭く口角をつりあげ、教室の床を蹴った。
「お裾分けだ、喜べよ」
 一気に間合いを詰めて敵に触れる。指先から流し込まれた気がモザイクを内側から凍てつかせ、灰の如く崩した。
『……アァ……、嫌、イヤ……卒業ナンカ、しない……』
「気にすんな、戯言だ!」
 時折敵があげる少女の悲鳴が少しばかり耳に痛いが、そんなことでケルベロスたちの布陣は乱れない。互いに目で確認し、声を掛け合っていく。攻守のバランスと、皆で連携を意識した戦闘は敵を圧倒した。凍てつく拳の軌跡はボロボロとモザイクを抉り、制服も破れた敵はもはや模倣を忘れ単なるデウスエクスに成り果てつつあった。しかし。
『コノ学校の……噂を教エテアゲル……夜中の理科実験室ヨ……実験室ヨ……』
 一度狙いを決めた相手に執着するのか、再度アレクセイに向けて怪談とともにモザイク攻撃が放たれる。しかしそこはざくろと柚子がしっかりとカバーする。
「奔れ、アマナギノイカヅチ!」
 キソラがオーラの巨剣を轟雷の響きとともに振りぬいた。攻める手は苛烈になっていく反面、敵の精神攻撃への治癒も怠らない。
「妙に狙われますね、生徒会長……これが私の万能薬です」
 何となく副会長ポジションの似合う柚子がそう言ってサキュバスミストの色濃い液体を差し出した。普通ならケルベロス生徒会とかなんとか始まりそうであるところだが、アレクセイ会長なので残念ながら始まらない。
「ええ、何でしょうね。どんなにしつこくされようが、我が心は愛しの姫のものなのに」
 敵の打つ手も尽きたか、と思われたところへシィラの技が文字通り火を吹いた。
「わたしが、わたしで、在るために」
 リボルバー、ガトリング、そして三基の固定砲台がまるで互いの攻撃を支えあうが如く中空で交錯する。ワンフォーオール、オールフォーワン。今の戦いぶりの象徴の如きキャノンとレーザーそしてミサイルは敵に炸裂した。
 しかし、最後の力を振り絞るドリームイーター。
『マジしねって感じですけどー!』
「うおっ、キレたし、急にオレ?!」
 驚いたというより面食らった様子のキソラ目がけて飛んできたモザイクの前に、一十が身を割り込ませた。
「喜んでいる場合か、反撃」
「喜んでねーし!」
「中々気の多いお嬢さんみてェだなあ!」
 カレンデュラがどこか楽しげに言い放って再びサービスショットとともに足技を繰り返し、サイガが敵の綻びを切り裂く。
「送ってやんよ、ホントのトモダチんとこ」
「そりゃいいわ、地獄で好きなだけ居残りしな!」
 キソラが拳で突き上げ、一十のベルグタットが斬り伏せた。そして。
「しっかりと成仏させて差し上げましょうね……学校の怪談も面白いですが姫が怖がるといけません」
 最初から最後までブレないアレクセイの一撃が、女子高生特有のブレブレテンションにとどめの一矢を放った。満月の瞳は一瞬酷薄に細まり三日月を成し、モザイクは星屑の如く砕け散ったのだった。
「師を穿つ死の矢にて、安らかなる眠りを」

●本当の放課後
「ご無事ですか、お怪我などは?」
 柚子に肩を抱かれ、ミチホが目を開けた。こんな先輩いたんだ、と何故かうっすら赤くなるミチホ。
 戦いを終え、制服姿のケルベロスたちはヒール作業にかかった。もう使わない校舎とは言え、壊してそのままというわけにいかない。
「ミチホちゃーん、学校たのし?」
「……うん、まあまあ」
「まだ慣れてねえかもだけど、これからどんどん友達できるさ」
 見た目に反して意外な優しさをみせたキソラ先輩である。ミチホの頬が一層赤くなる。ふと、そのミチホの視線がカレンデュラの上で固まった。戦闘の疲労から肩で息をし、こんなもんつけてるからだ! と目出し帽をかなぐり捨てる。
「ああ、案ずることはない。あれは……思い切り怪しいが、怪しい者ではない」
 一十の説得力に欠ける説明に、ミチホが首を横に振る。
「あ、ごめんなさい違うの。金髪の先生なんていたかなって思って……」
「先生……あ、」
 シィラが、何か思いついたように声をあげた。それは場にいた皆も同じことを思ったようで。
「カレンさん、そうだよ無理に制服だのドレスとかでなく先生でよかったんじゃね……?」
「言うな、言うんじゃない……」
 キソラの真っ当なツッコミに耳を塞ぐカレンデュラ36歳。その肩をポンとサイガが叩く。
「心配しねぇで先生、バッチシ通報しといたから」
「やめろ、職質もう飽きたっつうんだよ……」
 学校、そこは時に甘酸っぱい思い出を残す場所……。
 賑やかなクラスメイトらの喧騒を聞きつつ、校舎を見渡すアレクセイは、己が得ることのなかった穏やかな学校生活に一瞬想いを馳せる。しかしその日常を得ていたならば、何より大切な人に出逢うこともなかった……ならばそんなものは、夢でいい。
「何だか、もうちょっとここにいたい気分だけれど……はやく大人になりたいわ」
 ざくろが味わったその感覚こそ、学校という場所が持つノスタルジーであるのかも知れない。次に制服を着る時は、この門をくぐるのにふさわしい年齢になってから。
 ともあれ、ミチホの今後の高校生活が楽しいものとなる事を願いつつ、皆で下校するケルベロスたちだった。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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