ミッション破壊作戦～デンジャラス・メカニクス

■リプレイ

●一意専心
　小松空港上空を無数の飛翔機士が旋回し、飛び交う姿が眼下に映る。
　我が物顔で飛翔するそれらを見下ろしながらクロエ・アングルナージュ（エルブランシュガルディエンヌ・e00595）は唇を噛み締めていた。
（「……収まりなんか、つくわけないじゃない」）
　姉を助けたい――その一心で再びこの地にやってきた。
　姉と同様に半身を改造された飛翔機士に同情がない訳ではない。だが、それ以上の感情には至らない。
「降りたらすぐ戦いになるでシょうね……コインさん、本日の行方は如何に？」
　千里・雉華（絶望齎す狂犬・e21087）が真上に弾いたコインは無情にも裏を示す、『努力次第』というなんともつれない返答に雉華は肩を竦める。
「問題ないさ、頑張りゃどうとでもなってこったろ？」
　ハッチに足をかけるレオン・ヴァーミリオン（リッパーリーパー・e19411）は肩を揺らして笑いを漏らすとクロエに視線を移す。
「慣れないけどまあ、支援は任せな」
　後ろに振り返る必要はない、ただ存分に力を尽くせばいい。激励の言葉をかけているうちにいよいよ降下空域に到達し、アリシア・メイデンフェルト（マグダレーネ・e01432）が一息に飛び込み、次々と降下する。
（「我が志は、たとえどのような場所であっても一片たりと揺らがない」）
　無辜の民を、無謬の平和を脅かす存在は見過ごせない。斯様な壁もその一つ――民を守り、平和をもたらす。それこそ王族の務めなれば！
「……控えなさい。我を、我らを誰と心得るか！」
　憤懣に満ちた思いを乗せて、淡い光の刃を無色の防壁に突きたてる。瞬間、爆炎と雷光に視界は白む。
「お前達が好き勝手する時間は終わった。明けない夜はないように、この場はこれより私達がいただく――さぁ、今此処に蹂躙と洒落込もうじゃないか！」
　狐面を片手で押さえながらアルケミア・シェロウ（罠仕掛け・e02488）がグラディウスに意識を集中させる。
　さぁ、聞くがいい！！
「此れがわたしたちの咆哮よ――！」
　更なる爆風を前にメイカ・ミストラル（ガーリィフォートレス・e04100）はありったけの想いを込めようと強く念じていた。
「平穏な空、今度こそ返して貰います！」
（「ミッションでさんざん苦しめられたこの地域、必ず解放してみせます……！」）
　――ならばこそ。より強く、明確な想いを欲したのか。グラディウスの光は儚い。後を追うシャウラ・メシエ（誰が為の聖歌・e24495）も祈るように柄を握り締める。
（「あとにつづくひとのくなんが、すこしでもへらせますように」）
　脳裏には思いつめたクロエの横顔、少しでもその苦悩が晴れるよう幼い少女は願いを託す――ヴァルキュリアに新たな道を切り開いてくれた地球の皆の為にも、少しでも報いたい！
「わたしは、みんなをたすけることしかできません……けど、だからこそ、ぜんりょくでみんなをささえます！」
　ほぼ同時に突入したメイカとシャウラの爆風により周囲にスモークが立ち込めるが、メイカのグラディウスは出力不足だったか。バリアに弾かれる勢いで手元を飛びだす。
「っ、グラディウスが！？」
　伸ばされた手は空を切り、煙幕の中に消えていくグラディウスは加速度を増して地上に向かう。白煙が立ち込める中、黒岩・白（シャーマン系お巡りさん・e28474）は神妙な面持ちで見据えていた。
（「正義の味方として、悲劇は終わらせる――僕だけでもやってみせる！」）
「ダモクレ連中はどうも血縁で揺さぶったり、むやみに増えてきたりってのが大得意みたいでスね。特に『改造された』という点が気に喰いまセん」
　雉華にも心当たりがある。否、『あった』というべきか――故にこのミッション地域は早々に解放したい。解放こそ、巻き込まれたクロエの姉への供養になると信じて。
「この空港はこの国の領土（シマ）だ。サツのアタシの目が黒いうちに――テメェでどうのこうのできると思うなよ？」
　――二つの閃光が瞬き、残すはレオンとクロエの持つグラディウス。
（「理屈で考えんな、８本全部ぶちこんで行き渡らないはずがない――今は、バリアをぶっ壊す！」）
　敵の位置がどうとか、巻き込むにはどうとか考えている場合じゃない。今こそ魔空回廊を断ち切る絶好のチャンスなのだから！　思考をクリアにしようと双眸をギュッと瞑り意識を一点に集中させる。
「……さあ、全力で僕らの正義を果たさせてもらおうか。絶望を覆したいって人も身内にいるもんでね？」
　無色透明の防壁を断つ。道を切り開くイメージを描け！
「そうだとも――絶望なんぞ、まとめて吹き飛ばせ！」
　――叫びが鼓膜を震わすたびにクロエの中の激情は一層膨れ上がり、涙となって溢れていた。目尻が濡れるのも構わず、辺り一帯を埋める煙幕の先を見据える。
（「ロザリー姉さん……待ってて。必ず、必ず帰してあげるから！」）
　優しくて陽だまりのような暖かさをもつ、たった一人の家族――例えこの身が戦いに不向きだとしても、私の手で！！
「だから、お願い……絶望しないでっ…………！！」
　震える声を気丈に絞り出し、振り下ろした刃が見えない壁にぶつかる――飛び散る火花が収まった直後、地球の引力は法則に従ってその身を引き寄せていく。

●空爆天女
　バリアを突き破った手応えはない。
　歯噛みしている暇（いとま）はないと告げるように、白煙を突き抜けてミサイル群が襲いかかる。脚部を戦闘機型モジュールに接続された生体兵器、飛翔機士の一体がアリシア達の前に立ち塞がっていた。
「さ。普段の手際見せてもらおうじゃねっスか。……黒岩さーん、あんまりアレだったら……わかってんだろうなぁ？」
「お、お手柔らかに頼むっす」
　警察官たるもの初動こそ迅速に。雉華の鋭い視線に敬礼を返して白が突出していく。
「なんだか銃を使うのも久しぶりの気がするっスねぇ」
　ライフルを構えたと同時に左翼のミサイルパックを撃ち上げ、アリシアがボクスドラゴンのシグフレドと共に鮮やかな極彩の爆風で鼓舞する。
「僕のことは塵と思ってくれて結構。今日は援護がメインだ」
「んじゃ、お言葉に甘えてガッツリいこうじゃねぇか」
　レオンの放つ雷光が防護壁を形成して矢面に立つアリシア達を包み込むと、雉華が滑走路に向けてDETERMINATIONの引き金を引く。鋭角に跳ねる弾丸に飛翔機士が気をとられた隙に狐面を被ったアルケミアが空間掌握による敵機の動きをクロエに伝える。
「ある程度近づかないと攻撃出来ないみたい、降下した一瞬なら接近戦もできるはずだよ」
　飛行する相手は近接攻撃の射程外になるが、自ら降りてくるなら話は変わる。
「オライオン、みんなをまもってください」
　冷凍光線をウイングキャットのオライオンが受け止める隙に、シャウラがバトルオーラを放つ。追尾するオーラの弾丸は右肩を掠め飛翔機士は再び上昇していく。
「っ……戦闘モード起動、行きます」
　落下したグラディウスの行方は気になるが、敵を排除しなければ探す余裕もない。治療用ドローンを展開しながらメイカは豪快にガトリングガンを取り回し、獄炎を乗せた機銃掃射を仕掛けた。返礼に絨毯爆撃が見舞われ、周囲は火の海と化す。
「クロエさん、行ってくるといい。僕達に背後は任せろ」
　オウガ粒子を散布するレオンの呼びかけに頷き返すと、燃え盛る滑走路を駆け抜けた。
「あなた達のオリジナル……ロザリー姉さんは、必ず連れ戻すわ」
　滑るように突撃してくる相手との距離を目測しながら、すり抜け際を狙って飛び上がる――！
「絶対に、死んだって諦めない！！」
　気持ちが先走ってか、当たりは浅い――ならば、何度でも喰らわせるまで！　クロエの熱い思いを後押ししようと一丸となり飛翔機士を迎え撃つ。

『――……』
　沈黙を保つ飛翔機士は対話機能を搭載していないのか、あるいは発する声すら奪われてしまったか。モジュールから身を乗り出すとアルケミアの頭上へ急降下する。
「好都合、そのまま降りてきなよ！」
　光の雨を縫うように切り込み、脇腹や肩が薄氷に蝕まれ冷えていく。射程範囲まで詰め寄ると得物を全力で振り下ろし、勢いのまま叩きこんだ回し蹴りに装甲が僅かに歪む。
「シグ、あちらに！」
　反撃のレーザーをシグフレドが受け止める間にアリシアは魔力を編み、次第に宝剣が姿を現していく。
「我が身に宿る加護よ。遍く災禍を払いたまえ――我は以て、全ての征服者を超えるものなり」
　復活のルーンより出でし剣をアルケミアに向けて最上段から振り下ろす。斬撃は三日月を描いて浸食する氷雪を断ち、創傷の悪化を抑えた。急旋回した飛翔機士は赤い眼を光らせ、再装填したミサイルを惜しみなく放出する。
「く、はは……大盤振る舞いだなぁ！」
　後方支援に徹していたレオン達に向かう誘導弾をメイカとオライオンが追い迫る、ミサイルはぐんぐんと距離を縮めていく。
（「例え装甲が抜かれても、クロエさんが攻撃に集中できるようにしないと――」）
　接触まで数メートル手前で飛び込む。炸裂した弾頭に皮膚が焼け爛れオライオンは姿を消していく。肉の焼ける嫌な臭いを意識的に無視すると両手の機関銃を上空に向ける。
「鮫の牙よ、この戦場でもう一度力を……！」
　自らを砲塔にしてメイカは地対空ミサイルを放ち、飛び回る機兵に合わせて銃口を上下させる。対空弾を受けながらも銃弾の嵐を縦横無尽に避けていく機士に白の放つ砲撃が尾翼を捉え――僅かに火花が散り、姿勢制御が乱れる。
「ジャストミートっすよ」
「これで、おとします！」
　身の丈を超す大槌を振りかざしてシャウラは一気に跳びこむが飛翔機士は左腕のシールドで受け流す――しかし、生じた隙を見逃すほど甘くはない。涙で視界が滲もうとクロエは狙いを外していない。
「その機動性、封じてあげるわ！」
　獄炎を帯びる砲弾が放物線を描いてモジュールに直撃、反転して宙吊り状態になった機士の目の前を孤影が遮り、影をまとう右腕を振りかざしていた。
「――土を、噛め」
　無防備な腹部に強烈な一撃。雉華の影が飛翔機士にまとわりついて記憶媒体を浸食していく――無感情に思われた彼女は僅かに歯噛みしたように感じる。強引に押し退けた飛翔機士の頭上を、微かに空の青が覗き始めていた。

「残り３分ってとこか？時間切れなんてつまらないオチはお断り、ってな」
「そうです、退く訳にはいきません――この地を救う為にも！」
　時間内に押しきれるかどうか――スモークが薄れていく中、残り少ない猶予を愉しむように口元を歪めるレオンは再びオウガメタルにグラビティを回す。触媒を通して放出される光輝は精神を研ぎ澄ませ、アリシアの爆風が雉華達の気炎を一層高めていく。
　白も出し惜しみは不要とアームドフォートとバスターライフルを絶えず取り回し、マズルフラッシュめがけて狙い撃たれたレーザーを庇ってシグフレドも遂に霧散する。
「人を読み敵を読み状況を読む――力押しは、シュミじゃないけどね！」
　火の粉を潜り抜けたアルケミアが最適な位置を確保し、竜語魔法の詠唱を始める。機士が砲撃を掻い潜る刹那、間合いに飛び込んだ僅かな一瞬を狙ってドラゴンの幻影を放つ。
　火竜の影に飲み込まれる飛翔機士も凍傷と熱傷で、人体部分の損傷は遠目に見ても酷いものだ。しかし機械は痛みを知らず、感じた様子もなく引き金を引く。
（「――絶対に護るって、決めたんです！！」）
　精密な一射が立ち昇る炎を突き破り真っすぐ伸びる。射線上に割り込んだメイカは銃身を盾にして身構えるが耐え切るだけの地力はない、本来の標的たるクロエの元に弾き飛ばされた。
「下がったほうがいいわ、それ以上は危険よ！？」
「いえ、あと一発くらいなら……だから、あなたは、あなたの本懐を……！」
　なにがメイカを駆り立てているのだろう。知る術はないが、ただ気力と戦意が少女を奮起させていることだけは理解できる。すぐさまレオンが治療にあたるがグラビティでの応急処置では塞ぎきれない。
　飛翔機士の仮面をシャウラの燃える健脚が砕き、素顔が半分露出する。瞳に生気はなくガラス玉を思わせ、撃ちだしたファミリアは動揺して狙いが逸れていく。
「……そんな、あれで『いきている』のですか……？」
（「ヒトの形をした機械の目、生きたまま死んでいる象徴……胸糞悪ぃ」）
　雉華は心中で悪態を吐きながら『繋命』を鋼の拳に変形させる、大器晩成の一撃を以て幕引きの一助としよう――炎の波を滑走する戦闘機に雉華の渾身の一撃が放たれ、豪快にスリップしていく。
「アングルナージュ様、援護いたします」
　スモークは役目を終えて消えかけ、同時に複数のエンジン音が迫ってきていた――体勢を立て直される前に、雌雄を決してしまわねば！
　支援に専念していたアリシアも戦斧に持ち直し、大破した飛翔機士の装甲板を大きく斬り裂いた。刃は配線にまで達し裂け目から電気が漏れ出る。
「――アーバレストモード、イグニション」
　試作攻撃システム、Etoile Filanteの起動を承認――クロエのグラビティが宙に収束して巨大な結晶を形作る。再浮上を試みる機兵を見据えて終幕の一矢を放つ。
「ＣＤＳ、フルドライブ！」
　垂直に急上昇した結晶は上空で砕け散ると矢の雨となり、飛翔機士を容赦なく射貫く。
　――だが、絶命を確かめるだけの時間は残されていなかった。

　新たな空爆がアルケミア達に襲いかかる。
「あっはははは！！今頃増援か、来るのが遅すぎやしないか！？」
　いよいよもって身の危険を感じる状況の中でレオンは高笑いをあげる。しかし、あの飛翔機士は放っておいても衰弱によって絶命する可能性が高い。
「離脱しましょう、これ以上の戦闘は無用ですわ！」
　アリシアの一言ですぐに意志はまとまり、追撃を振り切ろうと一斉に走りだす。
「ま、待って、私のグラディウスが、どこかに……！」
　レオンに担がれるメイカは小剣の行方が気がかりだったが、すでに探している余裕はない――かに思えた。
「あ、あれですね！？」
　シャウラの視線の先。進行方向からやや逸れた位置にグラディウスが！
「かいしゅうします……！」
　幸運なことに進路上にあったそれを回収しようと一目散に目指すシャウラを狙って追撃するダモクレス達は照準を合わせる。
「アルケミアさん。締めの一発ぶちあげようじゃねェっすか」
「か弱い少女を狙う不届き者には、これだよ！！」
　回収を支援しようとアルケミア達は牽制を仕掛け、狙いが逸れた隙にシャウラは見事に引き抜き走りだす。
　グラディウスを回収したとなれば後は離脱するのみ――再充填を終えたその時、再びこの地の解放を目指せ。

作者：木乃	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年5月7日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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