●かんざし職人を守れ!
簪……かんざしといえば、髪飾りの一種。
現状、様々なヘアスタイルが存在し、髪飾りも多種多様になっている為に使用される頻度も減ってしまったが、真鍮、べっ甲などを使ったものが一般的であるものの、金銀や宝石を使用したかんざしなどは見た目も楽しませることもあり、コレクターズアイテムともなっている。
そこは、とある廃工場の中。
すでに電気系統が機能しておらず、外の光も入らぬ場所。
薄暗い場所で道化師風の姿をした螺旋忍軍の女が、アコーディオンを持ったサーカス団員のような姿の男性を従えていた。その2人の頭には、螺旋模様の仮面が装着されている。
「あなた達に使命を与えます」
指示する女の名は、ミス・バタフライ。彼女は指令を出すのだが、これがなんとも珍妙なものだった。
「この町に、かんざしなる髪飾りを作る職人がいるようです。その人間と接触し、その仕事内容を確認。可能ならば習得した後、殺害しなさい」
また、ミス・バタフライはその際、グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないと配下に告げる。
「ミス・バタフライのおおせのままに」
それを聞いた女性配下は口元に笑みを湛えて立ち上がった。
「意味の無いように見えますが、地球の支配権を大きく揺るがす為、全力を尽くしてまいりますわ」
そう言った女性配下は、男性と共にこの場から姿を消したのだった。
とあるビルの屋上に集まるケルベロス。
彼らは、そこで待っていたリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)の頭に着目する。
「似合っているかな?」
それは、先にナノナノのアクセサリーのついた竹製のかんざし。普段はポニーテールのリーゼリットだが、くるっと纏めて一本ざししている。これだけで纏められるなんてと彼女は不思議そうに鏡で見ている。
「簪職人さんがミス・バタフライの目に留まったと聞いたけれど、関係があるのかしら」
そんな様子のヘリオライダーにスズネ・シライシ(千里渡る馥郁の音色・e21567)が問いかける。
「うん、それでかんざしに興味持ったんだよ」
それはそれとして。依頼の説明をと、リーゼリットは話を始めた。
この敵が計画する事件は、直接的には大した事は無い。だが、巡り巡って大きな影響が出るかもしれないという厄介な事件だ。
今回は、かんざし職人という比較的珍しい職業を営む一般人の所に、螺旋忍軍の配下が送り込まれ、その配下に職人の仕事情報を得させた後、職人を殺させるのだという。
「この事件を阻止しないと……、そうだね。『風が吹けば桶屋が儲かる』って言葉があるよね。ああいった具合に、ケルベロスに不利な状況が生まれる可能性が高いんだよ」
直接的な関係がない事柄であっても、何がどこで繋がって影響を及ぼすかは分からない。
螺旋忍軍の動きは、可能な限り止めておきたい。何より、デウスエクスに狙われる一般人がいる。これを見過ごすわけにはいかない。
「皆には、一般人の保護と、この螺旋忍軍の撃破を頼みたいんだ」
敵は、狙ったかんざし職人宅を訪問してくるという。
今回は予見が早かったこともあり、事件の3日前から事前準備ができる。
「ただ、事前にその人を避難させてしまうと、敵が別の職人を狙ってしまうから、被害自体を防ぐことができなくなってしまうよ」
この為、対策を講じるのなら、狙われたかんざし職人と接触し、事情を話して作り方を教えてもらうなどするとよい。そうすれば、螺旋忍軍の狙いを自分達に変えさせることができるかもしれない。
「自分達が囮となる為には、見習い程度の力量をこの職人に認めてもらう必要があるよ」
かんざし製作の経験がなくとも、簡易的なものは作るのはさほど難しくない。形にするだけならば、3日あれば問題なく作れるようになるだろう。
「あと、敵の能力だけど……」
螺旋忍軍とその取り巻きと戦う状況となれば、道化師風の衣装を纏った女性配下は配下はジャグリング用のナイフを操り、取り巻きの男性は所持するアコーディオンで音楽を奏でて攻撃、支援を行う。
「場所は、京都府某所のかんざし職人の自宅だね」
普段、職人は工房に詰めており、そちらを訪問することとなる。自宅は裏手にある為、連絡を取るのはさほど難しくない。
工房はそれほど大きなものではない為、戦いは正面の道路などを使うか、職人にヒールグラビティでの修復を行うことについて予め説明した上で、工房にて戦うことになるだろう。
「基本的には、職人を護りながら戦うと思うのだけれど……」
状況によっては、戦況は大きく変わる。職人に認めてもらい、自分達が囮となれるのであれば、螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を始める事が可能となる。
「上手くいけば、2体の螺旋忍軍を分断するとか……、一方的に先制攻撃ができるかもしれないね」
囮となるのが難しければ、予めかんざし職人を護る作戦を行う方が無難かもしれないので、どういった作戦をとるかは仲間内で作戦を詰めておきたい。
一通り説明を終えたリーゼリットは、自身の髪に刺したかんざしを気にしつつ語る。
「折角だから、自分専用の、あるいは誰かのかんざしを作ってみるといいかもしれないね」
自分へのご褒美に。誰かのプレゼントにと作ってみるのもいいかもしれない。
「それでは行こうか。よろしく頼んだよ」
にっこりと微笑むリーゼリット。彼女の髪に刺したかんざしの先、ナノナノの形のアクセサリーが小さく揺れていた。
参加者 | |
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アッシュ・ホールデン(無音・e03495) |
七道・壮輔(詞喰らい・e05797) |
クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416) |
蓮水・志苑(六出花・e14436) |
西院・織櫻(櫻鬼・e18663) |
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339) |
スズネ・シライシ(千里渡る馥郁の音色・e21567) |
仁王塚・手毬(竜宮神楽・e30216) |
●かんざし職人との邂逅
現場に向かうヘリオン内。
しばし、ケルベロス達は歓談し、到着を待つ。
「今回御一緒出来まして、とても心強いです」
「ま、気負い過ぎずに頑張ろうや。折角なら楽しまねぇとな」
依然、同じ旅団に所属していたことで面識のある蓮水・志苑(六出花・e14436)がぼさぼさ頭のアッシュ・ホールデン(無音・e03495)が挨拶を交わす。
「自分だけのかんざし……。なんて素敵なのでしょうか!」
そこで、ウェーブヘアのクリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)が叫ぶ。お手製の簪(かんざし)と聞いた彼女のテンションは高い。
「素敵な簪を生み出す職人さんに目を付けるなんて、許せないわ」
「技術と知識は力になります。易々と渡す訳にはいきません」
螺旋忍軍の思い通りなどさせないと、スズネ・シライシ(千里渡る馥郁の音色・e21567)は意気込む。一方、淡々とした口調で語る西院・織櫻(櫻鬼・e18663)は、被害を防ぐのはもちろんのこと、かんざし作りに興味を抱いて参加していたようだ。
「技術を奪い、職人の命を奪うなどあってはならない事。……阻止しなければなりません」
仲間達の言葉に、志苑は強く同意するのである。
ケルベロス一行が京都府内在住の簪職人、幸島・新之介の工房を訪れたのは、それから数刻してからのこと。
「場合によっては、あなたが螺旋忍軍に狙われ、工房にヒールでの修復の手が入る可能性もあります」
志苑が隣人力を働かせ、礼儀正しい態度で幸島へと事情を話し、理解を求めた。
「狙いを私達に向ける為、簪作りのご教授をお願いしたいのです」
そこで、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)がケルベロスだと名乗った上で合いの手を入れる。
さらに、着物姿の仁王塚・手毬(竜宮神楽・e30216)が職人の作った簪を覗き込み、感嘆の声を上げた。
「これは……良い物じゃな。美しいが品があり、華美に過ぎぬ」
和装の装飾品には明るい手毬がその簪を絶賛した。
「……これだけの物を作る職人を失うのは惜しい。儂らも出来得る限りのことはする故、どうか、協力してくれぬか」
これも巫女の役割と手毬は堂々とした振る舞いで要請すると、紺もまた、職人に本心で対する。
「敵の思惑が何であれ、幸島さんの命も技術も、私達が必ず守ってみせます」
そんな若い彼女達の頼みに、幸島は少しばかり戸惑っていたものの。自分の技術を伝える機会と思い直したらしい。
「ほんなら、よろしゅう頼んます」
彼は受け入れを決めたケルベロス達へ、丁寧に頭を下げてくれた。
●かんざしを作ってみよう
一口に簪といっても、ポピュラーな玉簪、平打簪、花簪など幾つか種類がある。
(「縁日の出店や和服店に並ぶのを見たことがあるが……」)
それらの細かい細工や意匠はこうした場所で作られるのだなと、七道・壮輔(詞喰らい・e05797)は感嘆しながら見つめる。
紺もまたそれを感心し、熟練の業を目に焼き付けていたようだ。
「ともかく、やってみよう」
一通り、工程を見せてもらった壮輔が早速、それをなぞってみる。
メンバー達の多くが臨むのは、花簪。ピンセットに装飾を付けたつまみ細工だ。
「地味に、螺旋忍軍との戦いより悩むぞ……これ」
ワンポイントを何にするかで唸る壮輔。販売用として考えると、大いに悩むもの。これが自分用であれば……。
「それはそれで、アウトだな!」
そんなセルフツッコミしている彼はさておき、メンバー達は思った以上に苦戦していたようである。
良い簪は見慣れており、目が肥えていると手毬は威勢良く製作に取り掛かっていたが、形にすると上手く纏まらない。
「まあ、そう上手くはいかんの……。見るとやるでは多い違いじゃ」
手先は人並みに器用と自負する彼女は、この3日で習得できるようにと励んでいたようだ。
隣で微笑むクリスティーネは、おっとりとした笑みを浮かべて自作の簪を見つめる。
「ふふふ、このかんざしを付けて沙雪さんに会ったら、反応してくれますでしょうか?」
果たして、かなり不揃いになった装飾のついた簪を見た彼女の想い人はどう反応するだろうか。
アッシュはというと手先はそれなりに器用な様子で、上手く整えた装飾を手がけていた。
それは、司獅子……春牡丹と呼ばれる花を模したもの。内側に向けて濃くなるその花を上手く表現しようとしていたが、器用貧乏といった彼は形にはするものの、いまいちパッとしない出来に首を傾げていたようだ。
そのアッシュを気にかけている志苑。日常的に簪を使っている彼女は、真鍮と天然石を使った玉簪を考えていた。
(「職人技がすぐに習得できるとは思えませんが」)
真鍮であれば、加工が必要となる。そちらは職人が大部分をフォローする形であったが、飾りの部分の装飾について志苑は自らの感性でデザインを提案し、それを形としていく。
手先は割と器用な志苑は、少しでも職人に認めてもらおうと奮起していた。
「刃を磨く、刃の糧にする」
こちらは、陶芸を趣味でやっていた経験を持つ織櫻。彼は口癖にもなった言葉を呟き、作業に当たる。
以前、同様の螺旋忍軍関連依頼で陶芸家の下でろくろを回した際、『心が篭っていない』と指摘されたことを織櫻は気にしていた。
(「心を伴わぬ技には限界があるとか」)
市販の簪が合わないという人の為の物を目指し、大振りな黒地の本体に金と紫を合わせたデザインで華やかな一品を目指して作成する。
「力、入りすぎちゃいますか」
そんな織櫻に、幸島はアドバイスする。繊細な作業には力の加減が必要なのだと。それに、表情を変えずとも織櫻は技術を磨く為にともう一つ作り始めていた。
工具を使った細かい作業を、スズネは真剣に行う。彼女は率先して幸島へと質問し、徐々に細かい作業をこなしていく。
「凄い腕前ですねー」
「ほんまに、飲み込みええですな」
覗きこむクリスティーネが目を丸くすると、幸島が同意する。
「私の腕ではなくて、お師匠様の教えがいいからよ」
珍しく照れるスズネはさらに、和鈴やとんぼ玉……ビー玉を取り出し、うまく合わせた簪が作れないかと幸島へと尋ねる。彼は快くそれに応え、様々なアドバイスをしてくれたのだった。
●螺旋の来訪
その後、メンバー達は職人、幸島の修行時代の話を耳にしながらも、丸3日間、簪を作り続ける。
緻密な作業に滅入る仲間を、紺が自身の作業の合間にサポートを行う。シンプルな一品を作れるようになれて満足していた紺は、仲間の為にと気を回す余裕すら見せていた。
そして、3日後――。
結局、技術の全てを吸収するのは難しかったが、スズネとアッシュは一定の見込みがあると職人は判断してくれた。
その2人を見習いとして、仲間達は手伝いという形で工房にて待機する。
「こちら、簪職人宅で間違いありませんね?」
訪れたのは螺旋の仮面を被った2人組。カルーメと名乗った道化師風の女性、そして、サーカス団員のような姿のキパだ。
2人を、壮輔が物腰柔らかに応対する。職人は歩いて2,30mの距離にある母屋に避難してもらっており、自分達が職人だと自己紹介する。
「こうした伝統の継承には、それなりの作法というものがある。まずは信じよ。習ってみれば意味も分かる」
手毬は自作の簪を見せながらも、その作成手順を示していく。
小一時間ほど、メンバー達はこの3日の成果を発揮する。多少危なげな場所は紺がサポートし、事なきを得ていたようだ。
「基礎は十分出来たみてぇだな。んじゃ、師匠に会わせるから行くぞ」
ある程度、説明を終えた地点でアッシュが立ち上がると、螺旋忍軍2人も同時に腰を上げた。
「すみません、個別に会わせたいもので」
「職人になりたいなら、和気藹々とだけじゃ、やってけねぇぜ?」
紺、アッシュの言葉もあり、先にキパが向かうことでカルーメも同意し、6人のケルベロスと共にキパは工房を後にする。
「その間、私達はもう一品作ってみましょうか」
スズネ、志苑の2人がカルーメをこの場に留め、時間稼ぎを行う。
一方、キパを連れ出す面々は正面道路へと出て、極力工房から離れる。
そして、頃合いを見計らい、メンバー達はキパを取り囲む。
「おっと。職人には会わせないぜ」
「…………!」
壮輔が呼びかけ、その場の6人は皆、攻撃準備を整える。
嵌められたと気づいたキパはすぐにアコーディオンに手をかけ、攻撃の為の演奏を始めるのだった。
●業を盗む螺旋忍軍に裁きを!
戦いが始まる中、工房に残るメンバーはカルーメを足止めする。
「お師匠様にお会いする前に、お茶でも如何でしょうか」
スズネが改めて作業工程をなぞってカルーメに実践させる間、志苑が茶を振舞う。
「……一体何の音ですか?」
「近くで工事中なの。余所見をしないで集中して」
外が気になるカルーメをスズネが叱責すると、カルーメは目の前の作業に専念していたようだ。
同じ頃、やや距離を置いた正面道路にて。
鮮やかな指使いで鍵盤をかき鳴らす、キパが奏でる激しい曲。前に出たオルトロスのオっさん、テレビウムの御芝居様が手毬と共に仲間の前で壁を成す。
「土台、業を盗もうという性根が気に食わぬ」
螺旋忍軍の行いに呆れる手毬は立ち止まることなく、扇を手にして戦場を舞い踊る。その舞いの合間に彼女はグラビティを織り交ぜて。
「なれば皆々、お手を拝借――」
竜神の力を下ろすその踊りは、見るもの全てを引きつける。命に輝きを増す演舞は前に立つ仲間の不浄を取り去っていく。
その間に、同じ前列のクリスティーネが攻め入った。
「かんざし作りを邪魔するのでしたら、女性の敵、ですね~」
己の天使の翼を1枚むしった彼女は、敵の挙動を見定める。
「ただ一枚の羽ですが、これで貴方を止めてみせます!」
クリスティーネの投擲した羽根は敵の左脚へと命中し、その動きを止めた。
そこへ、斬霊刀「櫻鬼」を携えた織櫻が飛び込み、刀身に雷の霊力を纏わせて敵を貫いた。続き、オウガメタルを纏ったアッシュが拳を叩きつけ、敵の服を破いていく。
キパは焦りながらも楽しい曲へとメロディを換え、ケルベロスの攻撃の手を止めようとした。しかし、壮輔が仲間達へと鎧へと変形させた半透明の御業で包み、敵の演奏から護る。
狙い通りに積極攻勢を仕掛けていき、徐々にキパを追い込むメンバー達。
トドメが近いと察した手毬が攻撃に打って出て硬化させた竜の爪を振るい、敵の体を大きく引き裂いた。
そこに、紺が飛び込む。
「思いっきり行きます!」
まずは実行と思い切りの良さが取り柄の紺は、ドラゴニックハンマーを振り上げ、力の限り目の前の螺旋忍軍へと叩きつけて行く。
「…………」
崩れ落ち、仮面を残して消え去るキパ。その仮面もまた、真っ二つに割れ、砕け散っていった。
アッシュは敵が消えたのを確認し、工房に残った2人へと携帯電話で連絡を取る。
首尾よくキパを倒した報告を耳にしたスズネは感情を抑えながらも、作業の手を止める。
「では、私達もお師匠様の所に」
そうして、スズネは志苑と共に、カルーメの誘導を開始する……のだが。
「キパはどうしたのです?」
さすがに、事がうまく運びすぎたか。敵もそうあっさりと誘いには乗ってはこない。身体の至る所からナイフを取り出すカルーメは、2人に向けて投擲してきた。
それを志苑が受け止めつつ、黄金の果実で自らに進化を促しつつ道路へと下がっていく。
「聡いようだけれど、少し遅かったわね」
2人が正面道路まで後退すると、そこには、キパを倒し他メンバー達が駆けつけてきていた。
「ちっ……」
キパの姿がないこともあり、カルーメは次々にナイフに手をかけるが、すでに攻撃態勢を取っていたメンバーが攻め入る。
先ほど同様、雷の刃を相手に見舞う織櫻。今回は仲間が盾となってくれているが、彼は構うことなく前線で敵を斬り付け、殴りかかる。これが織櫻の戦闘スタイルなのだ。
態勢を整えたスズネが続く。軽やかに跳ぶ彼女は、敵の腹目掛けて蹴りを繰り出し、くすりと小悪魔的な笑いでカルーメを挑発する。
「馬鹿にして……!」
敵はスズネに向けてナイフを投げつけるが、応援動画を流す御芝居様が身を挺してくれた。
「……此処は戦場、綺麗事で生き残れるほど甘かねぇよ」
アッシュは敵の死角に回りこみ、エアシューズで敵の膝を一蹴する。
脚の腱を傷めたと察したカルーメは次々にナイフを投げ飛ばすが、戦場を舞う手毬が受け止めた。彼女はまたも扇の舞いを披露しつつ、仲間の回復へと当たる。
仲間が万全に近い状態ならば、回復役の壮輔も攻撃を行う。降ろした御業から炎弾を発し、カルーメの体を焼いていく。
「こ、こんな……」
パートナーのいない状況では、カルーメは十分な力が発揮できないのだろう。攻撃はことごとく志苑に受け止められ、スズネが突き出す槍「Flosdraco」が帯びた稲妻によって身体を痺れさせてしまう。
「だから言ったわ。集中が足りないって」
スズネの言葉に、ぐうの音も出ないカルーメ。
ただ、紺がハンマーによる殴打で畳み掛け、クリスティーネが石化光線を浴びせかけると、追い込まれた敵はこの場から切り抜けようと周囲を見回し始める。
しかしながら、眼光鋭く敵を睨む織櫻がそれを許さず、緩やかな斬撃を見舞うと、敵は血を撒き散らしながら果てていく。
「ミス・バタフライ……、お許し、を……」
カルーメがそう呟き、爆ぜるようにして消滅していったのだった。
●別れのとき
螺旋忍軍を倒した一行はすぐに被害状況を確認し、戦場となった道路の修復に当たる。
壮輔は御業の力で道路を舗装していき、志苑は敵が暴れた工房を含め、気力を撃ち出して修復していった。
それも程なく終了し、ケルベロス達は工房を後にすることとなる。
職人と過ごしたこの数日は、ケルベロス達にとっても思い出深いものとなった。
そして、銘々の荷物に入っている自作の簪。手毬は誕生花である天竺牡丹をあしらった一品で自らの髪を飾っていたし、アッシュもまた司獅子を模した飾りをつけた二股簪を完成させていた。
「おおきに。楽しい3日間でしたわ」
幸島は全員と握手を交わし、感謝の意を表す。
笑顔を浮かべる幸島に別れを告げ、ケルベロス達は工房に背を向ける。その後方では、幸島がいつまでも手を振ってくれていたのだった。
作者:なちゅい |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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