咆哮は藤の花を揺らして

作者:なちゅい

●紫の花々の下で……
 兵庫県某所。
 そこは、藤の花の名所となる公園。
 大きく垂れ、薄い紫色の花を咲かせる藤の花。大きく、蔓が右巻きと左巻きとに分けられるが、この地にあるのはノダフジと呼ばれる右巻きの種類だ。
 古来から日本では藤の名前が使われることも多く、万人に愛でられてきた花。それが満開となれば、現地の人々だけではなく、多数の観光客も訪れる。
 ただ、そのタイミングにおいては、この地を訪れた人々は不運としか言い様がなかった。なぜならば、公園に3本の竜の牙が降ってきたからだ。
 それらはすぐに人の形を取り、怪しく瞳を光らせる。
「サア、キサマラもゾウオとキョゼツにマミレルがイイ!」
 3体の竜牙兵は、大鎌、星辰の刻まれた剣。そして、全身を覆うオーラと別々の武器を所持している。そいつらはそれぞれ手にする武器で人々を惨殺し、粉砕し、瞬時に死へと至らしめてしまう。
「グラビティ・チェインがコンナにあるゾ……」
 頭上に垂れる藤の花にも紅いものが飛び散らせ、竜牙兵の1人が声を上げる。もはや、この場に生きている人間は1人たりとも存在しない。
「「「グァハハハハハハハ……!!」」」
 竜牙兵だけが藤の花の下に立ち、多数の死者の中で高らかに笑う。
 その咆哮に煽られる形で、藤の花は小さく揺れていたのだった。

 ヘリポートにて。
 竜牙兵の精鋭部隊、『竜牙竜星雨(ドラゴンファング・ファランクス)』襲来の予知があったとのことで、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は表情を険しくして、ケルベロス達を迎える。
「ようこそ。来てくれてありがとう」
「藤の名所を、『竜牙竜星雨』が襲うそうですね」
 百鬼・澪(癒しの御手・e03871)の言うことは残念ながら本当らしく、リーゼリットは大きく頷く。
 場所は、兵庫県の某公園。藤の名所なのは澪が告げたとおりだ。
「申し訳ないけれど、現場到着は敵の出現直前になってしまいそうだよ」
 取り急ぎ、現場にはヘリオンで向かうものの。事前に避難勧告などを行うのは避けて欲しいとリーゼリットは告げる。これは、敵が別の場所に現れ、結果的に事件を阻止できなくなってしまうからだ。
 また、戦場にケルベロスが到着した後は、避難誘導は警察などに任せることができる。
「皆は、竜牙兵の撃破に集中してほしい」
 現れる3体の竜牙兵は、ゾディアックソード、バトルオーラ、簒奪者の鎌と武器がバラバラだ。
 剣、鎌についてはそれぞれ1本のみの所持であることが確認されている。グラビティはいずれの武器もケルベロスが使用するものと同じだが、場合によって初期配置が異なる場合がある。
「敵の布陣が如何なる場合であっても対応できるよう備えられれば、効率的に戦いを進めることができるはずだよ」
 あとは、メンバー同士で戦いやすい形での作戦を心がけると、さらにうまく立ち回ることができるだろう。
 現場は兵庫県内にある藤の名所となる某公園だ。この地へと降った竜の牙は人の形を取り、それぞれの武器で人々へと襲い掛かってくる。
「ケルベロスとの戦闘が始まれば、竜牙兵が撤退することはないようだよ」
 ヘリオンでの到着もこの前後となる予定なので、竜牙兵の登場直後から積極的に迎撃し、討伐してしまいたい。
 説明を終え、リーゼリットはさらに続ける。
「襲撃場所は藤の名所だから、竜牙兵討伐後はヒールでの修復を頼むよ」
 修復作業が完了すれば、ゆっくりと公園を歩いて藤の花を見て回るのもいいかもしれない。
 人々を、そして、美しい藤の花を守る為に。ケルベロス達はヘリオンに乗りこみ、現地へと赴くのである。


参加者
アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)
安曇・柊(神の棘・e00166)
百鬼・澪(癒しの御手・e03871)
キーリア・スコティニャ(老害童子・e04853)
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)
アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507)
アーシィ・クリアベル(久遠より響く音色・e24827)

■リプレイ

●藤に似合わぬ竜の牙
 兵庫県某所。
 そこは、淡い紫の花が咲き乱れる藤の名所だ。
「せ、折角綺麗な場所なのに、惨劇なんて御免、です……!」
 おどおどしている安曇・柊(神の棘・e00166)だが、大切なものを守る為にと強い気持ちを抱き、この場にやってきている。
「『藤を見に来ましたー!』って事なら、大歓迎なんだけどねー」
 戦乙女の鎧に身を包むアーシィ・クリアベル(久遠より響く音色・e24827)はそう言うものの、竜牙兵に雅趣を感じる感性などあろうはずもない。
「まったく、風情のねぇ、骨だけのクズどもめ!」
「竜牙竜星雨の竜牙兵部隊も散々来ておるが、未だに兵が尽きる様子が無いのがなんともじゃな」
 大声で怒りをぶちまけたマサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)に対して、少年のような見た目のキーリア・スコティニャ(老害童子・e04853)は達観した様子で語る。
「じゃが、一本一本折ってやるわい」
 とはいえ、刺激を求めて戦いの場に身を置くキーリアである。
「一般人の避難は、警察がしてくれるようです、し、僕達は、出来ることを」
「さぁ、張り切ってお仕事お仕事!」
 柊は状況の確認の為に周囲を見回す。アーシィも張り切って、作戦に臨んでいた。
 その直後、藤の花々を突き抜け、竜の牙が地面に突き刺さる。
「ゾウオ、キョゼツ……!」
 鎧兜を纏った人型を取った3体の竜牙兵はそれぞれ異なる武器を持ち、人々を襲おうと動き出す。
「「「きゃあああっ!」」」
 藤の花に癒されていた人々は出し抜けに現れたデウスエクスの姿に怯え、慌てふためいてこの場から走り出す。
「ケルベロスの到着ってやつだ。さっさと逃げな!」
 マサヨシは藤を見に来た一般人へと呼びかける。彼は自らをアピールをすることでこの場の人々を安心させ、同時に現れた竜牙兵の注意を引く。
「いらっしゃーい! 一応言っとくけど、帰るなら今のうちだよ?」
 愛用の日本刀を構えるアーシィ。しかし、それで敵が退くはずもなく。
「藤の花も、公園の人々も、どっちも守らないといけないね!」
 全身の頑強な鎧を鳴らし、イルルヤンカシュ・ロンヴァルディア(白金の蛇・e24537)が敵の前へと立ちはだかった。
 対して、敵は早速、武器を振るって攻撃を仕掛けてくる。
「特攻玉砕大いに結構。……だが、無粋だな」
「はい、藤の優しい紫に、惨劇の紅は似合いません。必ずや食い止めてみせます」
 炎のような赤いポニーテールを躍らせながらも、敵の一撃に対してクールに対処する、アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)。その友である百鬼・澪(癒しの御手・e03871)も微笑みたたえつつ、毅然と敵に言い放つ。
「藤の花が咲く場所で戦闘なんて、綺麗だけど良くないな! 暴れるやつは自分達が成敗する!」
 アニー・ヘイズフォッグ(動物擬き・e14507)が素早い動きで敵に応戦し始める。
「「「グオオオォォォォ!!」」」
 一斉に吠える竜牙兵達。その声は、藤の花々を大きく揺らすのだった。

●藤の花舞う戦場で
 『竜牙竜星雨』と呼ばれる精鋭部隊は、星辰の剣、大鎌、そして、全身にバトルオーラを纏って攻撃を仕掛けてくる。
 レプリカントのアニーが素早く敵に迫り、彼女がなりたいと願うウェアライダーさながらの動きで敵へと飛び込む。狙うはオーラを武器とする竜牙兵だ。
「気合入れていこう!」
 アニーもまたオーラを纏い、それを弾丸となして撃ち出していく。それは狙い通りに敵の体を食らいついた。
 どうやら、駆けつけた警官隊によって避難誘導も始まったようだ。ケルベロスは竜牙兵を押さえ、攻撃に専念する。
 獣のような洞察力でマサヨシは、敵が自分達から視線を反らす事すら許さず、ヌンチャク型如意棒を振り回す。
 しかしながら、マサヨシのその殴打を大鎌持ちの竜牙兵が庇い、受け止めて見せた。
 それを見たケルベロス達はすかさず、狙いを大鎌持ちへと定める。
「鎌持ちはディフェンダーだよ!」
 アーシィの声に応じるイルルヤンカシュが動こうとしたが、竜牙兵達の攻撃が速い。
「竜牙竜星雨がなんだろうが、全力でしのぎ切って見せよう」
 そして、彼女は構えを取りつつ、傍のウイングキャットを見る。
「オニクシア、しっかりと盾になるんだよ!」
 呼びかけられたオニクシアは傲岸不遜な態度の主人に嘆息しつつも、敵を引っかくべく爪を伸ばしつつ前に出た。1人と1匹は振るわれる大鎌の刃と、音速の拳をそれぞれ受け止める。
「その程度の攻撃では、私を崩すことはできん! お返しの一撃を喰らえ!」
 大鎌の刃で裂かれようとも動じぬイルルヤンカシュは冥府深層の冷気を帯びた手刀で、防御態勢を取る竜牙兵へと切りかかる。その一撃は、オーラを纏う敵も纏めて切り払っていった。
 ケルベロスの作戦としては、集中攻撃による各個撃破だ。予め、敵が如何様な布陣をしていても、倒すべき順番は仲間内で共有している。
「戦場で、私の前に立ちはだかるというのなら……。いきます!」
 アーシィは日本刀「星河」による居合いで盾となる敵を襲う。その刹那、彼女は刀身を全てを凍てつかす冷気で纏い、高速で斬りかかる。
 目視すらできぬ刃。ただ、凍った斬撃痕は敵の体へとしっかり残っていた。
「往くぞ、骨ども。何本でも砕けるがよい」
 竜牙兵に呼びかけるローブ姿のキーリアの後ろから、敵へとミミックが大きく口を開けて食らいついていく。
 そこへ、キーリアが敵の頭上から飛びかかった。
「潰れよ!」
 キーリアの繰り出した流星の蹴りが炸裂する。いくら構えを取っていようが、炸裂した箇所に大きな亀裂が走っていた。
「藤の花を、守りませんと……!」
 竜牙兵を前にびくびくしていた後方の柊。普段は気弱な彼だが、一度目の前の相手を倒すと決めれば、正面から勢いよく振り上げた脚を叩きつけて行く。
 真白な長毛のウイングキャットも柊の要望どおりにケルベロスの前で身を張り、尻尾のリングを飛ばす。それは、敵の持つ大鎌の刃の先にしっかりとはまっていたようだ。
 だが、後方にいた星辰の剣を掲げた竜牙兵が地面に守護星座を描き、大鎌持ちの不浄を取り去ってしまう。
 澪もまた前列の仲間のサポートの為にとライトニングロッドを振るい、電気ショックを発して仲間に生命力を与えていく。
 一方で、澪のウイングキャット花嵐は姉のような相棒からの攻撃指示もあり、敵の硬い表皮を引っかいていた。
 戦う中、頭上から藤の花が舞い散るのを目にするアマルティア。ボクスドラゴンのパフに仲間のカバーを任せた彼女はすらりと日本刀を抜く。
「断ち――――斬るッ!!」
 敵へと飛びかかったアマルティアは刃を振り下ろし、着地と共に踏み込みながら真横へと剣戟を見舞う。その動きは花びらと共に舞っているようにも見えて。
「玉砕に花を巻き込むんじゃない、勝手に散っていろ」
 胸から腹に十字の傷を深く刻まれた竜牙兵はカタカタと全身の骨を鳴らし、大鎌に虚の力を纏わせるのだった。

 前線で、がんがん攻撃を仕掛けていくアニー。
 時に彼女は仲間の陰で息を潜め、仲間に紛れるようにしてオーラを纏う敵に近づいて。
「……それ!」
 飛びかかったアニーの前に、大鎌持ちが前に飛び出す。
 アニーは構うことなく、思いっきり竜牙兵へと噛み付いた。骨を噛み砕くような感触。しかし、防御態勢の大鎌持ちはなかなか崩せない。
 力任せに武器を叩きつけてくる敵の攻撃を受けてくれているのは、サーヴァント達だ。
 冬苺、パフ、オニクシアがイルルヤンカシュと合わせてケルベロスの盾となり、代わる代わる竜牙兵の猛攻を受け止める。
 反撃に冬苺が引っかく隣で、パフは自分達へと自らの属性を注入していく。大きく翼を羽ばたかせたオニクシアは回復に回っていたようだ。
 ニーレンベルギアの花を属性として持つ花嵐はその花々をブレスとして、竜牙兵へと吹き付けていく。
「誰も、手折らせなどしません。――花車、賦活」
 頑張るサーヴァント達へと澪は真白の微弱電流を撃ちこみ、彼らの治癒力を高めた上で傷を塞いでいた。
 今回は、柊、アニー、イルルヤンカシュと、旅団「SSFM」所属の頼りとなるメンバーも一緒の依頼。攻撃を彼らに任せ、澪は後方支援に徹する。
 次第に大鎌持ちは傷つき、全身にヒビを走らせていた。そいつへ、ミミック、千罠箱が偽物の財宝をばら撒く。
「千罠箱、よいぞよいぞ、暴れてしまえい!」
 キーリアもただ声援を送るばかりではない。彼は敵の頭上へと黒太陽を具現化させていたのだ。
「定命化以上の絶望をくれてやるわい」
 放射される絶望の黒光に焼かれた大鎌持ちがついに、叫び声を上げて身体を崩していく。
 そして、メンバー達は次に、隣で黒光に苦しんでいたバトルオーラ持ちに狙いを定める。
 光に耐え切った竜牙兵は食らいつく弾丸を飛ばすが、ガードしたイルルヤンカシュが戦場にばら撒いていた見えない地雷を爆破させ、竜牙兵に爆炎を浴びせかけていった。
 それによって足を止めた竜牙兵の隙を、後方にいた柊は見逃さない。
「……彼女の為にも、もっと、強く、なりたいんです……!」
 柊もまた、黒太陽の光で竜牙兵の体を焼いていく。伸ばした腕に煌くは、想い人とお揃いの繊細なリングブレスレットだ。
「い、今です……!」
 黒光に苦悶する敵を抑える柊の呼びかけに、アマルティアが応じる。彼女は日本刀で緩やかな斬撃を浴びせ、竜牙兵の体をオーラごと切り裂く。その動きは一切の無駄を感じさせない。
「外道を捻じ伏せ、覇道を創る軍神の剣よ、我が炎を依代に顕現せよ!」
 さらに、マサヨシは己の手に地獄の炎とグラビティによって小剣を具現化する。それは、魔空回廊を砕くグラディウスを模倣した刃だ。
「捩じ切れて、この世から消えちまえよッ!!」
 獰猛な笑みを浮かべ、内なる凶暴さを現したマサヨシはその小剣を投げ飛ばす。竜牙兵に突き刺さるそれは爆炎を巻き起こし、極小規模の魔空回廊の開通、及び破壊を行い、敵の体を空間ごと砕かんとする。
「いっくよー!」
 敵と仲間に呼びかけたアーシィが畳み掛ける。光の翼を暴走させた彼女は、全身を光の粒子に変えて突撃していく。
 重なる攻撃にも耐えていたバトルオーラ持ちは仲間の回復を受けてはいたが、脚がふらつき始めており、倒れるのは時間の問題となっていた。

 盾を失った竜牙兵達は布陣を変えることなく攻め続けてきていたが、サーヴァントを含めたケルベロス一行を攻めあぐねていたようだ。
「これは躱せるかの? ほっ!」
 キーリアが振るうは、不可視の魔力の刀。異空間を渡る斬撃は、敵の死角から浴びせかけられる。
 そこへ、アマルティアが確実に地獄に送るべく、燃え上がる刀を振り上げた。
「刻んで、火葬に出してやろう」
 刃を一閃させたアマルティア。切り捨てられた敵の体が燃え上がる。
「……墓ではなくゴミ処理場に、だが」
 彼女の冷ややかな一言に、敵の体は瞬く間に燃え尽きてしまったのだった。
 残るは、星辰の剣を持つ竜牙兵だ。回復に当たっていたようだが、1人となれば前線に立って刃を振るってくる。
 仲間の布陣もあって、体力に余裕を持つマサヨシはヌンチャクのように如意棒を叩きつけ、イルルヤンカシュはサーヴァント勢に守られながらも、炎を舞わせて敵を一蹴させていた。
「ほらほら、よそ見してると危ないよー?」
 素早く躍りかかるアーシィが敵に隙を与えない。居合いの上で、彼女は敵の体へと緩やかに弧を描く。
(「あ~、楽しみだったのにな~」)
 着地したアーシィは用意していたバスターライフル「叶わぬ夢を見つめる望遠鏡砲」に視線を移す。この分では、出番はなさそうだ。
 なおも、ケルベロスの攻撃は続く。
「あまり動くで無い、手間じゃからな」
 古代語の詠唱を紡いだキーリアは、魔法光線を放つ。敵の腰部に命中したそれは、見る見るうちにその周辺を石へと化していく。
 なんとか応戦をともがく竜牙兵は星座のオーラを飛ばすが、柊の相棒、冬苺が身を挺して受け止めた。
「もう……少し、です……!」
 柊は電光石火の蹴りで敵の正面から攻め込む。彼の精一杯の攻めに、澪も続く。もはや回復は必要ないと電撃杖を振るい、迸る雷を剣持ちの竜牙兵へと浴びせかけた。
 全身を痺れさせたそいつへ、アニーが飛び込んだ。機械となった腕は激しく回転し、敵の体へと抉りこむように一撃を叩き込む。
「グ……グアアッ……!」
 胸元に風穴を穿たれ、一声呻いた竜牙兵はカラカラと音を立てて崩れ去る。その場に吹いた一陣の風が灰塵と化した竜牙兵の残骸を運び去ってしまったのだった。

●藤の花を見上げて
 竜牙兵を倒したケルベロス達。
「まずは急いで、ヒールをしなきゃね!」
「きちんとヒールをして元の姿に戻さないと、ここで楽しんでいた人たちも悲しむからな!」
 アーシィにアニーは同意するが、アマルティアは小さく頭を振った。
「……そういうのは、あまり得意でなくてな」
 その為か、灰の属性持ちのパフが周囲を飛びながら灰を撒き、再び淡い花を咲かせていく。同じくヒールを行う澪の花嵐と一緒に、じゃれあいながら属性注入へと動いていた。
「ったく、俺はあんまりヒールが得意じゃねぇからよ。アイツラ派手にぶっ壊しやがって」
 こちらは愚痴を口にするマサヨシ。彼は四苦八苦しながらも作業に当たっていたようだ。
「さぁ、行っておいで」
 柊が広げた翼から溢れた光の雫は、荒れた足元の舗装や、藤の蔓が巻きつく格子状のアーチを幻想交じりに修復していく。
 そうして、作業を終えたメンバー達はしばし藤の花を見上げ、散歩を始める。
「花はとっても綺麗だ!」
「なんだか、イルルヤンカシュの髪の色みたいだね!」
 修復が終わり、アニーが両手を広げて叫ぶ。はしゃぐアーシィが自分と友と藤の花を見比べるが。イルルヤンカシュは自分の髪の方が綺麗だと胸を張っていた。
「やっぱり、藤は優しい紫が似合います」
「……綺麗な場所です、し、守れて良かった、です、ね」
 花が好きな澪が笑顔でその花々を見つめていると、同意した柊がほのかな笑みを浮かべて爽やかな香りを楽しむ。
 そよぐ暖かな春風。揺れる小さな藤の花々を、ケルベロス達はしばし堪能するのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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