面妖な鎧武者ゆく春の夜半

作者:奏音秋里

 その村には昔から、或る言い伝えがあった。
 曰く、丑三つ時になると、首のない鎧武者が敵を探して徘徊すると。
 だから夜中に出歩いてはいけないというのが、村の教えだった。
「本当かよ……」
 しかしながら、そんな言い伝えにも大人にも、反発したいお年頃の少年。
 懐中電灯を持って、村中を歩いてみることにしたのである。
「へへっ、いねぇじゃん」
 風の音や猫にビビりながらも1時間弱の散歩を終えて、あとは家へ入るのみ。
 だったのだが。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 振り返るより早く、魔女の鍵に胸を貫かれてしまう。
 扉の前で崩れた少年の横に、噂の鎧武者が立ち上がるのだった。

「新たなドリームイーター事件が発生しました。向かえる方はいらっしゃいますか?」
 皆の集まる部屋へと、足早に駆け込んで。
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、呼びかける。
「村の言い伝えにたいする、少年の『興味』が奪われてしまいました。新たな被害が出る前に、ドリームイーターを退治してください」
 追って入室した、シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)もともに願い出た。
 敵を倒し、少年の意識をとり戻してほしいのだと。
「姿は、首から上のない鎧武者です。背中には自陣を示す幟を立て、日本刀で戦うようですね。刃毀れしているので、地味に痛いみたいです」
 刀は激痛とともに、トラウマを引き起こす。
 幟も、此方の視界を塞ぎ、攻撃の威力を抑えたいがために振りまわしてくる。
「少年の家から東へ7分ほど歩くと、保育園の跡地があります。其処まで誘導できれば、戦闘で被害を出す心配もほぼありません」
 大人達の教えもあり、この時間に出歩いている村人はいない。
 たいしてドリームイーターは、自らの『敵』となる者を探している。
 ケルベロス達が現れれば、彼方から寄ってくるだろう。
「ちなみにですが、今回のドリームイーターは、自分のことを信じていたり噂していたりする人に引き寄せられる性質があります。上手く誘き出せば、戦闘も有利に進められるかも知れません」
 更にドリームイーターは、自分が何者かを問うてくるらしい。
 答えられなかったり間違ったりすると、怒りに任せてその相手を狙ってくるのだとか。
「ヒトの興味を利用するなんて、許せません。少年のこと、よろしくお願いします」
 家の前でそのまま倒れていますからと、付け加えて。
 丁寧に一礼し、セリカはケルベロス達を送り出すのだった。


参加者
寒島・水月(吾輩は偽善者であるが故に・e00367)
ルーカス・リーバー(道化・e00384)
西水・祥空(クロームロータス・e01423)
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
柊・乙女(春泥・e03350)
鵜飼・海咲(粉砕アンカーガール・e21756)
エング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)

■リプレイ

●壱
 少年の家へ急いだケルベロス達は早速、噂話を始める。
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……あ、いや。出るのは鎧武者か」
 わざと間違って切り出したのは、シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)だ。
「それはどのような姿をしているのですか?」
 西水・祥空(クロームロータス・e01423)の問いが、興味を拡げていく。
「あたし聴きました! 首がないらしいですね!」
 はーいと手を挙げて、鵜飼・海咲(粉砕アンカーガール・e21756)が答えた。
「いやあ、首の無い鎧武者ですか。なかなか古風で風情がありますねえ」
 ルーカス・リーバー(道化・e00384)の口許は、いつもの柔和な表情を湛えている。
「首が無いとは言え、鎧武者には変わらぬ。一度、この刀で手合わせ願いたいものだな」
 腰の日本刀に触れて、エング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)が呟く。
「それにしても、噂の鎧武者はなんで首が無いんだろう?」
 寒島・水月(吾輩は偽善者であるが故に・e00367)は、この疑問に心惹かれまくり。
「なんでだろう。敵に斬られたか、斬首刑か、はたまた事故か。そう言えば、首なし騎士っていう単語はたまに聞くけど、首なし武者っていう単語はあまり聞かないね……話じゃなくて単語ね。落ち武者の亡霊、みたいな話はあるようなないような」
 可能性を探って、燈家・陽葉(光響射て・e02459)は首を傾げる。
「……出てくるものがデウスエクスでなければ、それなりに楽しめもするものを」
 柊・乙女(春泥・e03350)も、懐中電灯で前方を照らしながらふぅっと息を吐いた。
「首の無い鎧武者だってさ。まぁ噂話ではあるけど……こんな時代だし、案外噂話だけじゃなくて、本物が居たりしてね?」
 と、シェイが笑んだとき。
 背後に、事前情報どおりのドリームイーターが現れた。
『わしは……何者か……』
 ドリームイーターが疑問を発するが、先を急ぐケルベロス達が足を止めることはない。
「はあ、お約束の問いかけですか。それにしても、どこから声を出していらっしゃるんでしょうねえ」
 答えるではなく呆れや驚きのような気持ちを、ルーカスは告げる。
「何者? そうだな……あ、もしかして最近よく見るアイドルさんですか!?」
「首がないので、デュラハンさん? なんでしょう、さっぱりわかんないですっ」
 ディフェンダーである水月と海咲は、見当違いな回答でドリームイーターを挑発した。
「貴様に武士としての誇りは無いのか? 刀の手入れも行き届かず、あまつさえ己の立場と覚悟を示す為の幟を武器として振りまわすなど愚の骨頂。貴様は武士の風上にも置けん!」
 エングも、本当に許せない感情もありつつ、言葉で相手の武士としての尊厳を否定する。
「へぇ、本当に首がないね。キミは首のない鎧武者だね」
「私も燈家と同意見だ」
 ストレートに正しい答えを告げる陽葉と、同意する乙女には、興味を示さない。
「私、先に行きますね。足許にお気を付けください」
 丁寧に断り、誰よりも早く保育園跡地へと足を踏み入れた祥空。
 フェンスに『小型携帯ライト【避役】』をくくりつけて、照明を確保した。
「念のために、こっちも貼っておくね」
 出入口は、シェイが立入禁止テープで塞いで。
「さて。早速で申し訳ありませんが、ご退場いただきましょうか」
 ローラーダッシュからの跳び蹴りを、背後から決めるルーカス。
 不意の炎を喰らい、ドリームイーターは保育園跡地へと転がり込んだ。

●弐
 すぐに立ち上がると、幟を抜いてばっさばっさと振りまわす。
 おかしな返答をした者達のいる前衛列が、武器封じの状態となった。
「凍てつけ!」
 それでも負けじと真っ先に、薙刀で斬りつける陽葉。
 集中させた極低温の凍気が刃からドリームイーターの腕へと移り、氷つかせた。
「まったく……デウスエクスが絡まなければ微笑ましいだけのものを、迷惑な話だ」
 月を仰ぎつつ呟くと、縛霊手の祭壇から紙兵を撒き散らす。
 メディックとして、乙女は常に皆の状態に気を配っていた。
「作家としては、今回のドリームイータのことは純粋に興味深い。我輩の宿敵も、ドリームイーターだったからな」
 なんとなく乙女の感想に応える水月は、自身の宿敵を想い出してやるせない表情をする。
 エクスカリバールを勢いよく振り下ろし、鎧を破損させた。
「痛いの痛いの、飛んでいけ。ほら、飛んでいったでしょう?」
 前衛メンバーにたいして、ルーカスの唱えるおまじない。
 言葉はグラビティの力を持ち、受けとる者を癒して耐性を持たせた。
「これより私の権限において、あなたを投獄します」
 冷えた金属のように硬い表情と声質であくまでも丁寧に言い放ち、祥空は手を捻り握る。
 創造した『小規模封鎖領域』へ一時的に隔離して、その足を止めた。
「貴様には刃を交える価値などない。守りに徹するとしよう」
 攻撃対象を外れないよう挑発し続けるエングが、小型治療無人機を飛ばす。
 最前列の防御力を高めると、相棒のテレビウムにも応援動画を放送させた。
「ありがとう。私は攻撃に集中するよ! 南海の朱雀よ、焔を纏い敵を穿て」
 己の拳に纏うのは、朱雀の加護を帯びて激しく燃え盛る焔。
 神速の一撃を、シェイはドリームイーターの腹部へとお見舞いした。
「アドミラル、皆さんを守ってくださいっ」
 真っ白な水兵服の帽子を押さえながら元気に駆け、電光石火の蹴りを繰り出す海咲。
 呼ばれたウイングキャットは、後衛から邪気を払う風を送る。
 全員が命中率を基準に攻撃グラビティを選んだため、より多くのダメージを与えられた。

●参
 少しでも損害を抑えたくて、ドリームイーターは再び幟を振りまわす。
 最も人数の多い前衛5名の視界を、暫しのあいだ塞いだ。
「立て……まだ、やれるだろう」
 体力の残量からしてエングのうしろへ立ち、乙女の伸ばす指先まで痣が浮かび上がる。
 血を織り込めば痣は百足となり、這いて傷やバッドステータスを喰らっていった。
「日本武器対決は楽しみだったけど、その刀はダメ。手入れはちゃんとしないと……」
「陽葉の言うとおりだ。そのような毀れたのこぎり刀でなにが斬れようものか。刀とは殺す為のものではなく、斬る為のものだ」
 陽葉は稲妻を帯びた刃で以て、ドリームイーターの神経回路を麻痺させる。
 視線の先には、鞘もなく刃毀れした日本刀が在った。
 乙女に感謝の言葉をかけたうえで、陽葉に同意を示すエング。
 テレビウムともども、味方の回復を繰り返す。
 しかしドリームイーターは、そんな刀でケルベロス達へと襲いかかってきた。
「おや、そんな攻撃が効くとでもお思いですか」
 ルーカスは『ファントムマスク』の下で笑みを零すと、礼服を翻して華麗に躱す。
 振り向きざまドラゴニックハンマーを振り下ろし、進化可能性を奪い去った。
 ドリームイーターは軽く自棄になったと見え、標的も誰でもよくなったらしい。
 次の瞬間、その日本刀はシェイの胸を貫いていた。
「っ……嫌な物を視せるんじゃないよ、まったく。お互いなにを視たのか分からないけど……ま、ひとまずは目の前のことをしっかりしようか」
 トラウマである父親の姿を視せられて、苦々しい表情になる。
 降魔の一撃でドリームイーターを剥がし、努めて飄々としたいつもの顔に戻った。
「あなたは私達に倒される、かかしに相違ございません」
 極限まで集中させた祥空の精神が、ドリームイーターを捉える。
 言い終わるや否や大きな爆発を起こして、攻撃の隙を与えない。
「穏やかな海の力ですよ~っ! お願い、みんなを守ってくださいねっ!」
 海咲の召還したマンタが仲間達の周囲を悠々と旋回し、優しく滑らかな水幕を張る。
 ウイングキャットの風と重ねて、不調を癒して傷を塞いでくれた。
「決めた。きみのことを、次の小説の題材にしよう」
 創作活動をおこなう身にとっては、日常の総てがその材料となる。
 流星の煌めきと重力をその足に宿して跳び、水月はドリームイーターを蹴り飛ばした。

●肆
 トラウマを視せられたのは、祥空である。
 幼少期に遭遇し、自身がブレイズキャリバーになった原因であるデウスエクスだ。
(「いつか、必ず……白黒つけます」)
 心のなかで決意を新たに、まずは眼前のドリームイーターに集中。
 記憶に燃える地獄の青い炎で、祥空は自らの全身を覆った。
「もう少しだよ。僕達が成仏させてあげるからね」
 陽葉の意思に応じて、鋼の鬼と化したオウガメタルが拳に集まる。
 早く苦しみから解放させたくて、純白の髪を振り乱した。
「えぇ、このターンで終わりにしましょう」
 影に紛れて、斬霊刀を振り薙ぐルーカス。
 急所を掻き斬り、いろいろな意味で駄目押しをする。
「のこぎりでは、痛みと傷を残すことはできても、心を残すことはできん。そのようなものを振りまわすことこそ、恥と知れ」
 所謂武士道を曲げることなく、エングは遂に愛用の刀を抜いた。
 納刀すると同時に、ドリームイーターの刀が折れる。
「最後、決めてこい」
「寒島さん、シェイさん、一緒にいきますよっ!」
「あぁ。柊先生の想い、受けとりました。詠唱起動、鹵獲術式弾壱号――!」
「私達のコンビネーション攻撃は避けられないよっ」
 あくまで仏頂面でぶっきらぼうに言い、乙女はケルベロスチェインを地面に展開。
 反撃を怖れることなく挑めるよう、最後まで治療を怠らない。
 友人からのヒールを受けて、海咲と水月にシェイも同時に動いた。
 回避される確率を下げるようタイミングを合わせ、攻撃の出所も分からなくするためだ。
 海咲の魂を喰らう一撃を追うように、鉄砲のカタチにした右手から弾を撃つ水月。
 冷気の着弾と時を同じくして、音速を超えるシェイの拳が命中する。
 吹き飛ばされたドリームイーターが手を着くが、体重を支えることはできず。
 敢えなく、ぼろぼろと消滅するのだった。
「お疲れさま」
 陽葉を中心に手分けして、仲間達と保育所跡地をヒールする。
 いつもの笑顔から奏でられる元気で明るい歌声が、夜闇に響きわたった。
「俺もいつか、お前の刀に誇ることができる存在になれるのだろうか」
 帰り際、エングはテレビウムに問いかける。
 いつも刀を手入れしてくれている相棒に恥じぬよう、己を鍛えんと誓った。

作者:奏音秋里 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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