修羅の道へと至るモノ

作者:朱乃天

 筋肉質な男達が集う、とあるトレーニングジム。
 室内は男達の汗と熱気に包まれており、言うなればここは筋肉を練磨するボディビルダー達の聖域である。
 しかしその聖域に、一体のビルシャナが突然足を踏み入れ、ボディビルダー達に人としての在り方を説き始めたのだ。
「お前達は何の為に筋肉を鍛えようとする! 戦って、戦い続けることこそ人の本質ではないか!」
 羽毛に覆われてはいるが筋骨隆々で、赤い格闘服を纏ったそのビルシャナは、筋肉は戦う為に鍛えるものだと熱弁を振るう。
「見世物じみた飾りだけの筋肉など必要ない! ただ戦うことのみを考えて、己の筋肉を躍動させるのだ!」
 ビルシャナは上半身以上に逞しく発達した脚で、勢いよく蹴りを繰り出すと。大気が激しく震えてその振動が室内中に伝播する。
 ボディビルダー達はビルシャナの言葉に心酔し、室内はビルシャナを讃える男達の野太い雄叫びが轟いた。そしてこの場所は、魅せる為に筋肉を鍛えるジムでなく、肉体同士をぶつけ合う血生臭い闘いの場と化していた。

「というわけで、今度は武闘派なビルシャナが現れたみたいだよ」
 玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)がヘリポートに集まったケルベロス達に目を向けながら、予知した事件について語り出す。
 そのビルシャナは戦い続けることが人の在り方だと考えているようだ。そして己の教義を広める為に、ジムに通う10人のボディビルダー達に布教活動を行なっている。
 そこで現場となるトレーニングジムに乗り込んで、ビルシャナの陰謀を阻止するのが今回の任務の目的となる。
 鍛え上げた筋肉を持つ全国のボディビルダーがビルシャナの配下になってしまえば、何れ大きな脅威となるだろう。だからこそ、彼等を説得して目を覚まさせる必要がある。
「説得をする上で重要なのは、ビルシャナの主張を覆せるだけのインパクトが最も効果的なんだ。理屈めいた呼び掛けだけでは、彼等の心は動かないと思った方がいいよ」
 大切なのは、心の底から強い意思を込めること。魂を揺さぶるような熱い想いを届ければ、ボディビルダー達を正気に戻すことができるだろう。
 ただし説得中でも、ビルシャナはケルベロス達に容赦なく攻撃を仕掛けてくるらしい。
 ここで注意すべきは、ビルシャナの教義が戦うことだという点だ。もしも説得中にこちらが手を出してしまえば、ビルシャナの教義を肯定することになる。そうなってしまうと、信者達は説得に耳を傾けることなくビルシャナの配下に堕ちてしまう。
 従って、説得を終えるまでは反撃せずに耐えなければならない。その辺りについても、対策を考える必要がありそうだ。
「今回戦うビルシャナの名前は『六道衆・修羅道』。筋肉質の巨漢で、相手を『足蹴にして踏み躙る』のが得意らしいんだ」
 そうした性質から、攻撃方法も蹴り技が主体となっている。時には炎のように激しく打ち込み、時には嵐のように纏めて薙ぎ倒そうとする。そして漲る殺意は相手を震え上がらせる程だ。
 ビルシャナとはいえ敵はかなりの戦闘狂だ。戦いにおいても油断をすれば、痛い目を見ることになるだろう。
「気を引き締めて臨まないといけないことは確かだけれど、歪んだ教義を広めるわけにはいかないからね」
 戦うことを説きつつも、相手に敬意も尊厳も持ち合わせようとしない。そのような外道は正攻法で討ち倒すのみである。
 シュリは期待を込めた眼差しでケルベロス達の顔を見て、全てを彼等に託すのだった。


参加者
アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)
ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)
シィ・ブラントネール(星抱くオロル・e03575)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
星澤・コッペ(サイボーグ小学生・e33927)

■リプレイ

●出会って5秒で宿敵認定
 トレーニングジムの室内は、ボディビルダー達の汗と熱気に満ちていた。
 しかし本来であれば、筋肉美を追求し鍛錬する為の場所である筈なのだが。現在は互いに肉体同士をぶつけて強さを競う、格闘の場となっていた。
 男達の鍛え抜かれた筋肉が鬩ぎ合い、戦い続けることで人を戦闘マシーンに変えていく。
 戦いこそが人の在り方であると説くビルシャナによって、ボディビルダー達は筋肉を魅せる為でなく、戦いの道具として用いるようになっていたのだ。
 しかしそのような状況を打破すべく、筋肉の聖域と言えるこの地に足を踏み入れたのは、八人の勇敢なケルベロス達だった。
「戦いが人の在り方なんて間違いよ、ワタシ達が今からそれを証明するわ!」
 開口一番、シィ・ブラントネール(星抱くオロル・e03575)が声を張ってボディビルダー達に呼び掛ける。突然の来訪者にボディビルダー達は驚きざわめくが、彼等を制するようにビルシャナがケルベロス達の前に出る。
「アナタとはこれっぽっちの因縁もないけど、気に入らないから阻止させてもらうわよ!」
 筋骨隆々な武闘派ビルシャナとは全く縁がなさそうな、細身の身体で優雅な雰囲気を漂わせるシィではあるが。彼女の内に眠る潜在意識が訴えているのだろうか、初対面のビルシャナに対抗心を燃やして宣戦布告する。
「奇遇だな。俺もたった今、貴様のことが気に食わないと思ったところだ!」
 対するビルシャナ『六道衆・修羅道』も、長い首をもたげてシィを威圧するかのように見下して。逞しく発達した強靭な脚から挨拶代わりの蹴りを繰り出した。だがそこに一つの影が割り込んで、庇うようにして蹴りを受け流す。
 影の正体は、黒で統一された衣服を纏ったヴディアウルガゥア・ゲヴゥルタリバェル(悪魔的な何か・e33997)だ。彼は恋人であるシィを抱き寄せて、自身が身代わりとなってビルシャナの蹴りから守ったのだ。
「俺はこうしてシィを守る為に自分の身体を使う、戦う為ではなく、愛する人を守る為に」
 戦いよりも愛することが何よりも尊いと。恋人同士で抱き締め合って見つめ合いながら、ヴディアウルガゥアの頬が仄かに赤く色付いた。
「下らぬ戯言を。他人を守って己が傷付くのなら、それで苦しむのなら、愛などいらぬ!」
 愛を叫ぶケルベロス達に憤慨し、ビルシャナが荒れ狂うように吼え猛る。こうして二人がビルシャナを引き付けている間に、残りの面々はボディビルダー達の説得に当たった。
「ハッ! 肉体ぶつけて小突き合う程度で戦いとか笑わせるぜ! 漢だってんなら、紳士的に頭脳や運を懸けてこその勝負だろ!」
 気のいい姉御肌のカルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657)が、肉体ではなく頭脳を使う賭け事こそが本当の勝負だと、熱い口調で話を切り出した。
 ところが、今まで筋肉を鍛えることにしか頭脳を使ってこなかったボディビルダー達は、カルナの言葉を今一つ掴み切れずに、腕組みしながら考え込んでいた。
 それならばと、今度はスポーツガールのジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)が、鍛え上げた腹筋を見せてボディビルダー達に訴える。
「私も鍛えるのは大好き。見なさいなこの体っ。でもね、その体を戦いだけに使うなんて勿体無い!」
 そう言いながら、ジェミは真っ赤な薔薇の髪飾りを取り出した。それは誕生日に貰った友達からの贈り物。二人で過ごしたひと夏の思い出を、楽しそうに惚気混じりに語り出す。
 すると筋肉同士通じるところがあったのか、ボディビルダー達は彼女の話に聞き入って。鍛えた身体でエンジョイすることも大事だと、力説するジェミの健康的な肉体美に男達はすっかり魅了されていた。
「あなた達、その筋肉は何の為に鍛えたの? 魅せる為? 戦う為? そいつの言う戦いは『暴力』の延長線上にある物で、全然美しくないよ」
 鮮やかな桃色の髪を靡かせながら、モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)がボディビルダー達に問い掛ける。
 彼等が日夜鍛錬し、苦労して得た筋肉は『彼女』も同然である。その美しさを手に入れる為、これまで幾度の艱難辛苦を乗り越えただろう。モモは筋肉の魅力を恋人のようだと例え話を交えつつ、ボディビルダー達の良心に働き掛ける。
「その通り。何かに挑み、何かに抗うのなら、それは全て等しく戦いだ。いわば鍛錬そのものが戦いとも言える」
 如何にも屈強そうな漆黒の竜戦士、ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)が話の流れに乗って鍛えることの意義を論じる。
「俺の仲間を見ろ。人を救わんと熱を込め、壁として攻撃に晒される。あれもまた戦いだ」
 敵の攻撃に反撃せず耐え凌ぐ姿勢を称賛し、傷付け合うのではなく守ることこそが、戦うことの真の意味だとヴァジュラが諭すように説く。
 彼の意見に星澤・コッペ(サイボーグ小学生・e33927)も同意して、力の使い方について正しい在り方を伝えようとする。
「守りたいと思うものはないのか? 大切な人、物、思い……そういうのを守るために鍛えあげて、その力はいざというときに使うべきだと思うぜ?」
 力は無闇に振るうものではない、大切なのは信念を持って行動することだ。若干11歳にして人生を悟ったかのように、コッペは真摯な眼差しで目線を逸らさず向かい合う。

●そのビルシャナ、修羅につき
 ケルベロス達の熱い思いを込めた説得により、ボディビルダー達の心が揺れ動いている。男達の迷える気持ちを目覚めさせようと、アリス・ヒエラクス(未だ小さな羽ばたき・e00143)が言葉を掛ける。
「あの男には、戦士が戦士であるが為の矜持が無い。命の価値、その重み。戦いが如何に悲愴であり、凄惨たるものか」
 アリスは無表情で淡々と、しかし凛とした声色で、綺麗事ではない負の部分を訴える。
「……戦士として或るものは、その全てを背負わねばならないのだわ。それらを受け止めて尚、戦い続けるという覚悟が貴方達にはあるのかしら」
 静かな語り口調ではあるが、だからこそ一層説得力が強まり男達の心に突き刺さる。アリスの揺るがぬ意思が届いたか、彼等は遂に心折れて跪き、洗脳から解けて滂沱の涙を流すのだった。
「お前の目論見は失敗したみたいだな。ならばそろそろ本気で行かせてもらう」
 説得が無事完了したことを確認し、ヴディアウルガゥアがビルシャナを蔑むように挑発をする。信者達が教義から解放された以上、守りに徹し続ける必要はなくなった。今度はこちらが攻め手に転じる番である。
「フン、小癪な真似を。まあ良い、それよりも俺を甘く見てもらっては困る!」
 配下化に失敗したものの、修羅道は不敵に笑んでケルベロス達を迎え撃つ。全身から溢れんばかりの殺意を漲らせ、気勢を上げるケルベロス達を竦ませる。
「大丈夫、ワタシがすぐに治してあげるわよ!」
 そこへすかさずシィが癒しの力を行使する。まるで彼女の姿を模したような銀色のオウガメタルから、光の粒子が散布されて仲間の戦意を研ぎ澄まさせる。
「ハーッハッハッハー! 我慢、解・禁! こっからはアタシ等のターンだ!」
 頭を使って説得するよりも、純粋に戦う方が性に合う。カルナはこれまで抑圧してきた闘争本能を剥き出しにして、高らかに叫びながら全力で突撃を掛ける。
 肩に担いだ黒鉄の巨大な戦槌を、カルナは軽々と取り回して、大砲へと変形させて狙いを合わせ。竜の咆哮の如き号砲を轟かせると、砲弾をビルシャナ目掛けて派手に撃ち込んだ。
「この紅焔に輝く日輪を恐れぬなら、かかって来なさい! ……なんてね」
 眩く輝く光に包まれながら、姫騎士の如き紅蓮の衣装を身に纏うジェミ。力を込めた拳に闘気を練り上げ、敵の死角を突いて懐に潜り込み、脇腹を抉るように拳撃を叩き込む。
「どうしても戦いたいと望むなら、それに応えるのも戦闘狂の務めだ――我が炎を宿し我が血肉と成れ」
 ヴァジュラの全身に刻まれた傷痕が、赤く脈打ち炎となって噴き荒れる。盛る地獄の炎が濃紺色の鎧装に流れ込み、敵を蹂躙せんと禍々しい姿に変化する。
「クク、そう来なくては面白くない! さあ、存分に殺し合おうではないか!」
 気迫を前面に出して戦いを挑んでくる番犬達に対して、修羅道が衝動を抑え切れずに襲い掛かってくる。丸太のような脚を豪快に振り回し、大気がうねりを上げてケルベロス達を薙ぎ倒そうとする。しかし盾役のヴァジュラやジェミが身を挺してこの攻撃を防ぐ。
「こいつ、今まで戦ったビルシャナとは一味違う……!?」
 これまで経験したことがない武闘派ビルシャナとの戦闘に、モモは表情を強張らせながら戦慄を覚える。しかし、戦場に身を置いているという緊張感が、彼女の闘争心を高揚させる。
「……戦いにおける本当の敵ってのは『自分』なの。限界の場面で勝負を楽しんで、自分を乗り越えたところに勝利があるのよ」
 勝負師としての落ち着きを取り戻し、ポケットから飴を取り出し頬張って、奇縁のある武器を装着して獲物を狙う。刃を仕込んだ白黒模様の手甲にモモが念を込め、冷静に敵を見極めながら放たれた一振りが、修羅道の鎧のような筋肉をも斬り裂いた。
「ビルシャナと戦うのはちょっと複雑だけど……やるしかない!」
 コッペにとってビルシャナという存在は、過去に何かの因縁があったのか、戦うことに躊躇い葛藤していたが。ボディビルダー達を説得する際に、脳裏に浮かんだ言葉を反芻し、悩める心を払拭させて、気持ちを引き締め立ち向かう。
 今は悩んでなんかいられない。コッペは自ら士気を鼓舞させて、ビルシャナに負けじとばかりに、脚を撓らせ疾風の如く鋭い蹴りを炸裂させる。
「……戦いや殺しなんて、血生臭いだけ。気持ちの良いものではないでしょう?」
 ビルシャナを戒めるように呟くアリスの手には、惨殺ナイフが握られていた。これまで幾度となく双手を血に染めてきた、だから今回も。鷹の名を冠する暗殺者の少女は、影のように刃を振り翳し。繰り出す無音の斬撃が、敵の身体を斬り刻む。

●最強なるモノ
「威勢がいいのは最初の内だけか。お前の唱える戦いの道とは、結局口先だけみたいだな」
 嘆息混じりに言葉を吐き捨て、ヴディアウルガゥアが手を緩めることなく攻め立てる。
 地獄を灯した双眸が赤く煌めき、漆黒の鎖が炎を纏って敵に絡み付き。修羅の道に堕ちたビルシャナを灼き尽くさんと、炎熱を帯びた煉獄の鎖で締め上げる。
「ほざくがいい! 貴様等の方こそ、いつまでも虚勢を張っていられると思うなよ!」
 武闘派を名乗るだけあって、ビルシャナの戦闘力もかなりのものである。だがケルベロス達の統率された連携力が、敵の力を上回る。
 配下を増やせなかったこともあり、修羅道に焦りの色が少しずつ見え出した。得意とする蹴り技も、守りを固めた彼等の前に悉く阻まれる。
「何度でも来なさいな! ただ鍛えただけじゃない――想いの篭った装束を纏ったこの肉体は、あんたのような鳥頭には絶対砕けない!」
 炎のように激しい烈火の蹴撃を、ジェミが腹筋に力を溜めて正面から受け止める。その行為が痛みを伴おうとも、歯を食い縛って踏み止まって。気合を込めて耐え抜く彼女の勇姿に感化され、ケルベロス達の闘志が弾けるように迸る。
「行くわよ、レトラ! 一気に畳み掛けるわよ!」
「そうだ、想いを利用するビルシャナなんて許せない! おいら達も行くぜ、プリン!」
 シィとコッペが、互いのシャーマンズゴーストに命じて同時に仕掛ける。二体のシャーマンズゴーストは、左右に分かれてビルシャナを挟み込み、鋭利な爪で十字を描くように斬り付ける。
 直後にシィが、ジャスミンの攻性植物を伸ばしてビルシャナに喰らい付き。コッペは熱い想いを脚に乗せ、炎を宿した強烈な蹴りを敵の腹部へ捻じ込んだ。
「――遠慮はいらねぇぜ。鱈腹喰らっていきな!」
 カルナが腕を頭上に掲げると、空間が捩れて大型ガトリング砲が手元に顕れる。召喚された火器を手にしたカルナは、楽器を奏でるように砲撃を放つ。深紅の髪を振り乱し、集中砲火の音色がけたたましく鳴り響き、弾丸の嵐がビルシャナを容赦なく穿ち貫いていく。
「……触れれば散る、泡沫の夢。然れど……その刃に偽りは無い」
 独り言ちるようにアリスが静かに囁くと、彼女の傍らに朧気な影が形を成していく。それはアリスと瓜二つの姿をした幻影だった。
 幻影は惑わすようにビルシャナの意識を逸らし、生じた隙をアリスが逃さず背後を奪う。息を潜めるように隠したナイフを突き刺して、ビルシャナが触れた幻影は、幽かに揺らいで霧のように儚く消えていく。
 ケルベロス達の息をもつかせぬ猛攻に、修羅道は追い詰められて後がない状態だ。しかし圧倒的不利であろうと、最後まで戦い続ける信念だけは崩さない。名前に恥じぬ修羅の如き戦いぶりを見せるビルシャナに、ケルベロス達は引導を渡すべく最後の攻撃に出る。
「――我が戦友に幸運を、我が戦友に勇気あれ!」
 モモが指先に魔力を集束させて、黄金色に輝く弾丸を造り出す。竜の牙を思わせる弾丸をリボルバー銃に込め、地面に撃つと周囲が加護の光に包まれて、仲間に勇気と気力を齎していく。モモは戦いの勝利を仲間に賭けて、後の二人に全てを託した。
「殺すのは好きではないが、それ以上にこの世で苦しむものを見ていられないからな」
 ヴディアウルガゥアの影が長く伸びて、ビルシャナの影と重なり合ったその刹那――。
「重なったな。影の痛みを知るといい」
 影は巨大な鎌となり、命を刈り取るようにビルシャナの影を斬り払う。そして鎌が元通りの影に戻った瞬間、ビルシャナの影に与えた傷と同じ斬撃が、敵の肉体にも刻み込まれる。
「――『戦いこそ全て』と識るならば、『全ては戦いに通ず』と悟るが善い」
 決して退かず、呻かず、恐れない。無骨な鉄塊の如き巨大剣を握り締め、瀕死の修羅道と対峙するヴァジュラ。滾る血潮を炎に変えて、紅蓮に燃える分厚い剣を大きく振り被り――ヴァジュラの渾身の力を込めた一閃が、ビルシャナの血肉を圧し潰すように叩き斬る。
「ば、馬鹿な……俺がケルベロスなんかに負けるとは……」
 この一撃が決定打となって、修羅道は断末魔を上げながら消滅していった。

「やったわよ! やっぱり愛し合うことが一番強いのね、ゲヴ♪」
 束の間だけでも宿敵だった相手を討ち倒したことにシィは歓喜し、飛び跳ねるようにヴディアウルガゥアに抱き付いた。
「ああ、こうして愛し合えることが一番幸せだ。愛はこの世で最強だからな」
 ハートマークが周囲に飛び交う様子が目に見えそうな程、二人を包む空気は濃厚な物理的糖度を帯びていた。
 戦いが互いの絆を深め合い、愛することが人を強くする。
 抱き締め合う二人はそれぞれの温もりを感じつつ、愛を語らいながら優しい幸福感に満たされるのだった――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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