●美しき光の鳥・サンダーバード
「この森を抜けた向こうにいるんだよね。光輝く綺麗な鳥が……」
夜の森の中を香苗は抜けていく。森を抜けたところには泉があり、満月を湖面に映してとても綺麗だ。
「サンダーバードって呼ばれたりするんだっけ? 雷の精霊で大きな鳥……。きっと強い光を放つ綺麗な鳥なんだろうな……。でも、雷を自由に落とせるから……それだけは気を付けないと」
空を仰いでいる香苗の傍に第五の魔女・アウゲイアスが現れる。そして、手に持った鍵で、彼女の心臓を一突きにした。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
崩れ落ちる香苗。そして、その傍から強い光を放つ大きな鳥が現れたのだった。
●ヘリオライダーより
「サンダーバードって知ってる? 伝説の鳥なんだけどね」
そう言って、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は話を始める。
「不思議な事に強い『興味』を持って自分で調べたりしている人が、ドリームイーターに襲われて、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったみたいなんだ。『興味』を奪ったドリームイーターは姿を消してしまったんだけど、奪われた『興味』を元にして生まれたドリームイーターが事件を起こそうとしているみたいで……被害が起きる前に倒して欲しいんだ。このドリームイーターを倒せば、被害者の人も目を覚ましてくれるんじゃないかな?」
デュアルは状況の説明を始める。
「場所は深夜の森を抜けた先にある湖。そこは空が開けていて夜空が綺麗に見えるんだ。月が凄く綺麗みたいだよ。そこに、強い光を放った大きな鳥のドリームイーターが現れるみたいだ。雷を操れる鳥だから、とにかく気を付けてね。そして、このドリームイーターなんだけど、『自分は何者?』みたいな質問をしてきて、正しく対応できないと殺してしまうみたいだ。だけどね、このドリームイーターは自分の事を信じていたり噂をしている人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質があるんだ。だから、それを上手く利用すれば有利に戦えるんじゃないかな」
デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、わくわくした表情をしている。
「光っている綺麗な鳥さんなの? 凄く見てみたいの! ……でも、雷を落とす子は危険なの。ミーミアも、みんなと一緒に頑張るの!」
参加者 | |
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十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031) |
夜月・双(風の刃・e01405) |
クリスティ・ローエンシュタイン(行雲流水・e05091) |
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247) |
ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163) |
磯野・小東子(球に願いを・e16878) |
櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222) |
フィオナ・オブライエン(アガートラーム・e27935) |
●美しき光の鳥・サンダーバード
場所は森を抜けた先にある湖。そこは空が開けていて、暗闇の中を照らす様に美しい満月が輝いている。湖の湖面は月の光を受け、それに呼応するかのように輝いていた。
ケルベロス達は、まずは人払いをする事にする。深夜であり、場所が場所である為か、幸いにも人影は見当たらなかったが、夜月・双(風の刃・e01405)は念のために殺界形成を施して人が誤って近寄らない様にした。
そして、月があるとはいえ、暗い事には間違いはないので灯りの準備も怠らない。
噂話を始める前に、十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)は、こつ、こつ、こつと踵を打ち鳴らす。それは、無事に帰る為のおまじないだ。
噂話を切り出すのは泉。
「光り輝くもの、雷のような翼をもつもの、確か名は……」
「光り輝く雷の精霊、サンダーバードか。きっと綺麗で気高い鳥なんだろう。それに、森の中の湖に現れるなんて、さぞかし幻想的な雰囲気だろうな」
それに合わせて双が頷く。双はグラビティで鳥の精霊を呼び出す事がある。だが、サンダーバードは見た事がない。だから、雷の精霊に興味を持っている。それに鳥も好きだから。
(「光の鳥か。名前的に綺麗な感じはするし、興味はあるのだが……」)
クリスティ・ローエンシュタイン(行雲流水・e05091)は、話に頷きながらそう思う。倒さないといけないのが残念なのだが、せめて写真くらいはチャンスがあれば撮りたい所だ。
「雷の鳥……ですか。なんだか、伝説になりえそうな鳥ですね。非常に高度な知性を持っている、そんな風な印象を受けることができます」
そう話す沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)の声色は、どこか敬意と少し以上の好奇心を含ませたもの。彼女自身、雷を運ぶ鳥がいてもおかしくないのではないかと思っているからだ。
「サンダーバードは神鳥で、雷を纏って光り輝く神秘の鳥だそうです。きっと綺麗なのでしょうね~。気になりますね♪」
「雷をまとうって、いったいどんな感じなんだろ?」
歌うような声で話すのは、ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)。それに、フィオナ・オブライエン(アガートラーム・e27935)が共に来てくれたリサ・ギャラッハ(悪魔は月を夢見て微睡む・e18759)と共に相槌を打った。
「少し、調べてみましたが……姿は概ね『非常に大きな鷲』なのですね。鯨をも……捕食したという。伝承も、ある様で」
「く、鯨さんを食べるの!? 鯨さんって、とっても大きいのよ!?」
調べた話をする櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)に、ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)が驚いた声を上げる。確かに伝承の一つにサンダーバードは鯨を捕食するとされるものがあり、更に鯨で飢餓を救ったという話まであったりするのだ。
「雷も落とすらしいね。雷を落とす鳥なら、天気を操ったりもできるのかねえ?」
サンダーバードがアメリカの妖怪と知り、対峙と一緒に伝説見物もしようと思っている磯野・小東子(球に願いを・e16878)。そんな彼女の袖を掴んで項垂れているのはテレビウムのいくらだ。雷=電気という事で怖いらしい。
「でも、あんまりバリバリだとちょっと困るかも。ほら、ウチのいくらがさ……」
そんないくらに気が付いた小東子は、いくらをなでてやる。テレビウムはサーヴァントなので、電気も問題ないのだけど、いくらにとっては重要の様だ。
「我は雷を自在に操り落とす事は出来るが……流石に天候を操る事は出来ぬと思うぞ?」
そう声が聞こえたかと思うと、ケルベロス達は強い光にさらされる。上空には光り輝く巨大な鷲がいた。
「いや、ちょっとこんなにデカいとか聞いてないんだけど!」
「灯りを持ってきましたけど……必要なかったかもしれませんね」
慌てる小東子に対して、ユイはその美しい輝きにそう呟いた。
「しかし、こうして我の事を信じてくれているのは実に嬉しいものだな。……では、改めて聞こう。我は何者であるだろうか?」
「サンダーバード」
「サンダーバード、だよね?」
「サンダーバード、ですよね」
「雷の鳥でしょう」
泉と双は言葉を合せ、小東子と叔牙、そして瀬乃亜もそう答える。
「そうか。やはり我を知っていてくれたか。嬉しく思うぞ」
満足そうな声色で答えるサンダーバード。誇り高き伝説の精霊は非常に嬉しそうだった。それを見て、クリスティはさりげなく動き、誇り高いその姿を写真に収める。そして、満足気な笑みを浮かべた。
肝心のサンダーバードは攻撃を見せる素振りは一つも無い。恐らく、答えに十分満足しているからだろう。それは、ケルベロス達にとって絶好の好機とも言えた。
●サンダーバード型ドリームイーター
最初に動くのは泉。満足をして去ろうとしているサンダーバードのドリームイーターに向かって、左手のナイフを使って激しく斬りつけた。完全に不意を打った格好だったので、その攻撃をサンダーバードはまともに受ける。
驚いたサンダーバードは、ケルベロス達へと振り返った。
「汝等は、我を知っていて戦おうというのか? それならば、我も容赦は一切しない。雷の精霊の力、思い知るが良い!」
強い光が夜空一面に輝いたかと思うと、泉に向かって巨大な落雷が襲い掛かる。眩いばかりの雷光に、フィオナとウイングキャットのキアラが共に泉を庇った。
「いったー! お、思ったより強烈だ……」
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫、大丈夫! この程度で僕はやられたりしないよ!」
庇って貰ったものの、かなり痛そうなフィオナに泉は心配して声をかける。それにフィオナは元気よく答えた。この程度で、負けたりはしない。想像以上に痛かった事は間違いないのだが。
その間、落雷の隙を突いてクリスティが氷の弾丸をサンダーバードに向かって撃ち放ち、続いて叔牙も攻撃に移る。
「本来なら。神鳥としての、側面も。あるらしいですが……これは、単なる……紛い物、ですからね」
背中と肩、前腕より光学攻撃用励起体を露出させると、叔牙は誘導レーザーを連射して、サンダーバードの翼を撃ち貫いた。
「行くよ、しっかり狙っとくれ!」
小東子は泉達に向かって、オウガメタルからオウガ粒子を放ち、その神経を研ぎ澄ませていく。いくらはフィオナの所に急行し回復に努めた。
双はサンダーバードに狙いを定めて、煌めきを伴う重い蹴りを放つ。その間に瀬乃亜は星の煌めきによる守護の力をユイ達に送って護りを固めた。瀬乃亜のテレビウムの赤薔薇は鋭い閃光を放つ。しかし、その光は雷の光に掻き消えてしまった。
フィオナはGui ar Dian Cechtを用いて医神ディアン・ケヒトへの祈りによって齎された光で自らの傷を癒す。キアラも清らかなる風で回復をしていった。
ユイは歌に乗せてサンダーバードを潰しにかかるが、サンダーバードは眩い光と共に翼を羽ばたかせて旋回し、その攻撃を優雅に避けていく。
ミーミアはフィオナに雷による回復を施し、シフォンも重ねて清らかなる風を送り、リサの力も得ながら傷を癒していった。
「……ふむ。中々やるではないか。だが、我を甘く見るではないぞ?」
サンダーバードは翼をはためかせる。そして、その羽ばたきにより自らを加速させるとフィオナに向かって鋭く掴みかかってきた。キアラ、赤薔薇が共に庇いに入るが、フィオナにも攻撃が及んでしまう。
泉はサンダーバードの動きを見ながら纏わせたオウガメタルによる鋭い拳を放つが、サンダーバードの方は攻撃の動きを見ながら、それに合わせて翼を旋回させ輝きを放ちながら回避してしまった。
「クリスティさん、申し訳ないですがフィオナさんの回復のお手伝いをお願いします」
「オブライエンの回復だな。任せろ」
瀬乃亜の要請を受け、クリスティもフィオナへとルーンによる回復を行う。一撃が重いため、中々回復が追い付かないのだ。
「あたしも回復支援を兼ねていくよ。いくらも頼むよ!」
小東子はオウガ粒子を放ち、いくらも引き続き回復をしていく。その間に、叔牙はドラゴニックハンマーを変形させて砲弾をサンダーバードに向かって撃ち放った。更に、双が急所を狙って斬りつける。
「A red rose is not a rose red flo」
「汝神の腕を繋ぎし者、汝銀の腕を創りし者。ディアン・ケヒトよ、癒やせる者よ。我が祈り聞こしめさば、彼の者の傷癒やし賜え」
瀬乃亜も回復を重ねていき、フィオナ自身も自らの傷を癒していく。
ユイは流星の煌めきの歌を奏でてサンダーバードを捕らえ、重い一撃を喰らわせた。
ミーミアはオウガ粒子を、シフォンも清らかな風を泉、ユイ、フィオナ達へと送っていく。
「まだ立ち向かってくるか……。よかろう、我も戦いがいがあるというものだ」
サンダーバードは雷を身に纏い、それを更に眩しく輝かせて、巨大な身体でありながらも見事に舞い踊る。その美しく輝く世界はまるで魅入られるかのようで……。誰ともなく惹かれそうになるそれを、フィオナが立ちはだかって受け止めた。輝く光がフィオナを包み込み、彼女を光の中へと誘っていく。
「出来るだけ早く終わらせねばなりませんね……」
まだ、サンダーバードには余裕がある様に見える。泉は激しくサンダーバードを斬りつけた。本来なら血飛沫を上げる所だが、雷の鳥ゆえなのか、溢れるのは強い光。
クリスティは炎の龍を、叔牙は重い蹴りをサンダーバードに叩き込む。その間に小東子は癒しの調べを、いくらは応援動画を使ってフィオナを正気に戻した。
双はサンダーバードに重い蹴りを放ち叩き込む。その間に瀬乃亜は泉達を力づける爆発を起こし、フィオナはキアラ、赤薔薇と共に回復に努めた。それにミーミア、シフォンも加わる。
ユイは高らかに歌い上げ、サンダーバードを激しく切り裂いていった。
「……くっ、我は負ける訳にはいかないのだ」
言葉こそ辛そうだが、サンダーバードは誇り高い表情をしている。それは、弱さを見せたりしない気高さからだ。
サンダーバードは翼をはためかせる。そして、何回か旋回すると一番危険だと判断した泉に向かって鋭い爪で襲い掛かった。だが、それをフィオナが必死で庇う。
「……倒すの、任せるからね?」
「はい、分かっています」
二人のやり取りの間に、クリスティがサンダーバードに向かって氷の弾丸を撃ち込み、叔牙はドラゴニックハンマーで激しく叩きつけた。
「突貫! 気合!! 根性ー!!!」
小東子は自らの翼も使って、サンダーバードに全力で体当たりを喰らわせる。
「制御できる自信はありませんが、ヒトツメ、行きますよ?」
泉はlarkspurを抜く。そして、サンダーバードに向かって、速く、重く、正確に急所を狙い貫いた。
サンダーバードは光り輝き夜空を眩く月の光も飲み込み全てを明るく輝かせて照らす。そして、その羽根が星屑の様になると、美しく煌めきながら夜空へと溶けていった。
泉はブルースハープを奏でて消えゆく光を惜しむ。
……それは、本当に美しく……精霊が消えゆく時の様だった。
●月夜の下で
「ふっかーつ!」
「今回の一番の功労者だな」
「フィオナちゃん、お疲れ様です」
無事にサンダーバードを倒した後、フィオナは皆にしっかりと回復をして貰い元気を取り戻す。そんな彼女に、クリスティとリサが労いの言葉をかけた。
今回の被害者である香苗も見つかり、回復して意識を取り戻して貰った。
「夜に森の奥は危険ですよ。危ないものを呼ぶかもしれませんから」
「好奇心は、結構ですが……女性一人で、この様な所へ……赴くのは、危険です。どうか、無茶な事は。慎まれます様……」
「……はい」
泉と叔牙に優しく諭され、香苗は頷く。でも、それはどこか寂しそうで……。
そんな彼女に双は煌鳥を呼びだした。
「雷の鳥ではないが……一応こいつも光の鳥の精霊だ。綺麗だろう」
美しい長い尾羽を持つ光の鳥に、香苗は目を輝かせる。
「……綺麗。ありがとうございます」
嬉しそうに微笑む香苗に双の無表情な顔も少し綻んだ。
「一応、写真を撮ってみたんだ。……まあ、凄く光ってたから、上手く撮れてるかは分からないけど……ちゃんと撮れていたらあげよう」
「本当ですか? ありがとうございます!」
微笑むクリスティに香苗は嬉しそうに笑った。そんな香苗に泉、叔牙も嬉しくなるのだった。
「ね、せっかくだしお月見しよう? サンドイッチ持ってきたんだ」
元気になったフィオナは、先程ミーミアに手渡されたクッキーと共にリサに声をかける。
「ええ、勿論です。サンドイッチ、楽しみですね」
二人揃って腰をかけると月を見上げる。
「いつか、本当のサンダーバードに会えると良いですね」
「うん、そうだね。今度は誰かの夢じゃなく、本物をね」
「みんなお疲れ様なのー!」
「ミーミアさん、お手伝いしますね」
持って来たクッキーやら飲み物を取り出すミーミアに、ユイがカップを並べたりクッキーをお皿に盛ったりとお手伝いをする。そして、お茶会が始まった。勿論、香苗も一緒に。
温かい紅茶を戴きながら、月夜と湖面に映る月の光を楽しむ。
「温まるな。それに、クッキーはサンダーバードの形か。凝っているし……ん、美味しいよ」
「いやあ、きれいな月だねえ。あたしは雷よりもこっちがいいな。……これなら大歓迎だけどね!」
「えへへ、ありがとうなの!」
「素敵なクッキーです。本当にお上手になりましたね」
双と小東子、瀬乃亜に褒めて貰ってミーミアは嬉しそうに、にっこり笑う。
「紅茶にはミルクと砂糖もありますが、いかがですか?」
「うん、ミルクティー好きなの! お砂糖は……多めが良いの!」
ミーミアの言葉に瀬乃亜は微笑むと、紅茶を作ってあげる。
月夜のお茶会を楽しむ。先程までは、月の光が霞む程の光りがあった。でも、やはり月の光は柔らかくて優しくて、心が安らぐ。
(「今宵のようにきれいな月があるこの世界ではそう信じられないようなまだみぬ生き物がいてもおかしくないですね」)
月を見上げて瀬乃亜はそう思う。
あのサンダーバードが本物だったら……そう思う人は他にも沢山いて。
優しい月光を眺めながら、不思議なものにそっと思いを馳せる……そんな夜だった。
作者:白鳥美鳥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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