琥珀糖職人・amberの幸福

作者:林雪

●琥珀糖職人・アンバーさん
『琥珀糖、というものを作る人間がいるそうですね』
 そう配下の螺旋忍軍に告げるのは、ミス・バタフライ。
 食べる宝石と呼ばれる琥珀糖。色も形も様々で目に美しいそれを作る職人が、山奥に住んでいるという。
『その人間に接触し、その琥珀糖とやらの作り方を確認、出来れば習得して……その者を殺しなさい』
 ミス・バタフライが冷酷に告げた。
『承知致しました、ミス・バタフライ。その琥珀糖職人を殺すことで……地球の支配権は大きく揺るぐことになりますね……クックック』
 答えたのは、道化師の恰好をし、顔に螺旋の面をかぶった螺旋忍軍の少女だった。ちょっと悪者の笑い方がぎこちない。後ろに控えているのは、ものすごい筋肉モリモリマッチョマンの螺旋忍軍である。こちらも仮面の下で頑張って悪者っぽく笑おうとしているが、だいぶぎこちない。
 ともあれふたりは、使命を果たすべく山奥へと向かうのだった。

●琥珀糖職人・amber
「琥珀糖、って知ってる? 僕初めてきいたよそんなお菓子」
 ヘリオライダーの安齋・光弦がそう言うと、事件調査の報告に来ていたアレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)が静かに告げた。
「とても美しいお菓子ですよ……そう、薔薇のように美しい」
 琥珀糖、とは寒天に砂糖や水飴を加えて作る、伝統的な和菓子である。色や形も様々な種類があり、外側は結晶化しているためシャリっとした食感、中はふわりと柔らかい。
「ちょっと調べちゃった。最近じゃ、自分で作ったりする人もいるみたいだけど……今回狙われたのは、この琥珀糖ってお菓子を専門に作る職人さんなんだ。ええっと名前が……amber? アンバーってことか。なんか、バンドマンみたいだね」
 資料を手に光弦が首を傾げる。ちょっと個性的な活動を行っているアーティストらしい。
「情勢が変わっても、相変わらずミス・バタフライの尻尾が掴めないし、本当、関係ない人ばっかり狙ってるようにしか見えないんだけど……このアンバーさんを狙って配下を送り込んで、その技術を習得してから殺せっていう指令を出したみたいなんだ。この一見関係ない出来事は巡り巡ってケルベロスの不利になるって話なんだけど、そうでなくとも一般の人が殺されるのを見過ごすわけにはいかないよね」
「美しいものを紡ぐ手が折られるなど、我が姫が悲しむ要因にもなりかねない……全て、排除します」
 アレクセイの行動は基本、愛する妻のためである。
「そのアンバーさんなんだけど、京都の山の方にある温泉地の方に住んでるんだ。水も空も空気も綺麗なとこじゃないと綺麗なお菓子は作れない、ってことらしい。敵は恐らくアンバーさんの自宅に襲来すると思うんだけど、彼を事前に避難させてしまうと敵の行動が予知と変わっちゃう可能性がある。そこでね、君たちにアンバーさんに弟子入りして貰いたい」
 今回の事件では、発生の三日ほど前からアンバーさんに接触することが出来る。事情を話して技術を教えて貰い、職人を装える程度身に着けることが出来れば、螺旋忍軍たちはケルベロスを職人だと思い込んで狙いを変えることが出来るだろう、という作戦だ。
「見習い程度の事は出来ないと、囮にならないだろうからかなり頑張って修行はしなきゃだね。アンバーさんはパッション重視の人で、かなり個性的な芸術家らしいから……君らもパッションで頑張ってみてね」
 アンバーさんは基本、自宅の工房で作業をしている。かなり立派な造りの日本家屋で、裏手には清流、なんと庭先には露天の温泉がある。
「やってくる敵はふたり組の螺旋忍軍らしい。周辺は何にもないし人も住んでないから、避難とかは考えなくて大丈夫だよ。君たちが職人になりきることが出来たら、敵に修行だよとか言って攪乱して有利に戦えるんじゃないかな」
 薔薇の花を模った琥珀糖の箱を片手に、アレクセイが言う。
「悲劇を生み出す蝶の羽ばたきは……許しておけません、絶対に」


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
アイン・オルキス(誇りの帆を上げて・e00841)
シェリル・プリムヴェール(幽明に咲く花・e01094)
アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)
ヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266)
輝島・華(夢見花・e11960)
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)
ザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)

■リプレイ

●職人修行
「パァアァッショオン! いいねケルベロスいいよ……! 君たちの存在そのものがアンバーのパッシオンをめっちゃ刺激スルー!」
 今回の護衛対象・琥珀糖職人のアンバーが、集まったケルベロスたちを前にエビ反りで絶叫した。あれこの人本当にヤバい? という沈黙が一瞬訪れる。
 ここは彼の屋敷内にある工房である。白を貴重にしたモダンな作りの部屋には大きな窓があり、豊かな自然の景色を眺めながら仕事が出来るようになっている。皆で中央にあるこれまた大きなテーブルを囲む形で立ち、お誕生席位置でエビ反っているアンバーを眺めている、という状態である。ただしテーブルの上に乗っている色とりどりの琥珀糖は浮世離れした、夢のような美しさである。輝島・華(夢見花・e11960)の視線はアンバー本体よりこちらに釘付けになっている。
「うん! パッションすごいね!」
 無邪気な笑顔で沈黙を破ったのは叢雲・蓮(無常迅速・e00144)。瞬間移動の如き速さで蓮に駆け寄ったアンバーが頭を撫で回しつつ声を上げた。
「イイネ、れんれん素直! よくわかってない感丸出しなとこがすごくイイ!」
「えへへ~♪」
 尚、アンバーはケルベロスたちの名を一発暗記し、しかも呼びたいように呼ぶ自由な男である。
「琥珀糖……星のような金平糖とはちょっと違うっすけど、綺麗で不思議なお菓子っすよねぇ……とにかく、見習いくらいにはなれるよう頑張るっす!」
 と、やる気を表明したザンニ・ライオネス(白夜幻燈・e18810)の元にアンバーがシュッ! と瞬間移動した。
「君は既にザンニという名の完成形だから! 見習いじゃない、アンバーがアンバーしかいないように、ザンニはザンニだから!」
「は、ハイ……、自分は自分!」
 謎の勢いにたじろぎつつも、これがパッションかなと前向きに学ぶザンニ。
 全然わからん、というのを思い切り表情に出しているのはアイン・オルキス(誇りの帆を上げて・e00841)。気持ちはわからなくもない。
「アイン~、君の内なるパッションをね、僕が引きずり出してアゲル」
「う、内なる……?」
 戸惑うアインの元を離れ次にアンバーが近寄ったのは、ほーっとテーブルの上の琥珀糖を見つめて無言になっていたマティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)。気配に気づいたマティアスが、アンバーを振り返る。
「あ、いやすまない。琥珀糖というもの、初めて知ったので……つい、見入ってしまって」
「イイネマティアース! なんか君からは少年みたいなパショオーんを感じる!」
 パッションという単語すら崩壊しつつあるが、アンバーは気にしない。
「何かはわからないけど……、何だろう」
 ヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266)は皿の上の琥珀糖をじっと見たまま何か考え込んでいる。
「ヴィイーンセェーント、君みたいなタイプは考えるより感じるのが早いよっ、てなわけでGO!」
 アンバーに促されて、皿に並んでいた中から不思議な銀色の琥珀糖をひとつ、ヴィンセントが口に運ぶ。
「……何だろう、すごく甘くて柔らかい。でも上手く言えないけど……複雑?」
「その通り! それはね、僕がパッションに迷った時期に悩んで悩んで作った、僕の心入りの琥珀糖なんだよ」
「わーい、お味見、なのだよっ」
 と蓮が続き、皆手を伸ばして食べてみる。マティアスも表情を緩める。
「琥珀糖、気に入った……! 作り方を覚えて是非自宅でも作ってみよう!」
 何となく切ない味と食感に感じ入った様子で アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)が口を開いた。
「これがアーティストいうものなのでしょうね……師よ。我が愛しの薔薇の天使もそうなのです。彼女の歌に、芸術に迷っている……貴女の歩みは間違っていない。私は誰より何より貴女を、貴女の歌を愛している……貴女の歌う『物語』もっとみせて、笑顔で歌う貴女が大好きなんだ……私に出来るのは、そんな想いを琥珀糖にこめることだけ……」
「イイネ! それこそパッションだよアァレクセェイ!」
「パッション……砂糖菓子よりも甘く、薔薇よりも美しく優しい私の姫への愛……」
 本日二度目のエビ反りで感動するアンバー。そしてそのままくるりと振り向き、シェリル・プリムヴェール(幽明に咲く花・e01094)の銀色の瞳と視線を合わせた。
「よろしくね師匠。私にもパッションを教えて?」
 シェリルはおっとりを首を傾けながら微笑むが、アンバーは黙ってシェリルを見つめている。
「シェリル、君はもしや……」
 そう言うが早いがアンバーは突然ボウルに材料を突っ込みつつレシピ分量を叫びだした。
「材料! 砂糖amberグラム、寒天amberグラム、水ambercc! そして無限のパッショオン!」
「ええー?!」
 いやそんな、とザンニが慌てたが、その謎のamberレシピをシェリルは目分で解読し、電光石火でメモを取った。
「これで……どうかしら?」
 シェリルが少し緊張した表情で答え合わせとばかりメモを見せると、満面の笑顔とサムズアップが返された。
「パアァッっっション! 君、何かのアーティスト?」
「一応フラワーデザイナー、やってるの」
「そんな気がしたぁ!」
 どうやら限りなく正解に近い分量レシピを得る事に成功し、ケルベロスたちは皆でそれを共有した。まずはベースとなる水飴のようなものを作り、それに色をつけて型を作り乾燥させる、という流れのようだ。
「私は……花が一番輝く時を切り取ったような、菫が花開く瞬間の形を作りたいのです」
 どこか夢見るようにそう言った華の瞳を、アンバーがじいっと無遠慮に覗き込む。
「あの……先生?」
「OK、華。この色。この色を正確に写し取ろう。君のその夢の奥みたいな瞳の色、この青紫をんバッ……っちり再現しよう!」
 少しだけ顔を赤らめた華の手元のボウルに、アンバーが食品用の着色料を混ぜていく。それを見ながら皆、思い思いの色を作り始める。
「これなら、お家でも作れるかも……」
 と蓮が瞳をキラキラさせ、マティアスはアンバー作の琥珀糖をじっくりと観察し始める。色とりどりの琥珀糖はなるほどこの辺りの自然の美しさを思わせる、と、ザンニは窓の外の風景に目を細めてみた。
「……」
 シェリルはサクラソウの色を作りつつ、今はこの場にいない恋人に想いを馳せる。彼に贈ると思えば自然とパッションが湧くのだ。
 アレクセイの手元のボウルの中身は深い菫青石色。そこに砕いた薔薇の花弁を混ぜ込むと、星が散る夜空のようだった。
「アレクセイ兄様はやはりロゼ姉様のための……ヴィンセント兄様は、桜色にはなさいませんの?」
 ふたりの『パッション』の向く先を知っている華が、興味津々に訊ねる。ヴィンセントがまず作ったのは、抜けるような空色の砂糖液だ。
 結局この3日、アンバーはほぼ自分の仕事は放り出してケルベロスたちにほぼつきっきりだったようだ。ただし、指導は主にパッション方面のみであったため、製菓方法は皆で観察して練り上げた。
「露天温泉、めっちゃ気持ち良かったっす! さーてまた頑張るぞ!」
「誰か味見を頼む」
「出来たのだよー!」
「俺もついにできたぞ……至高の琥珀糖が!!」
 皆素晴らしい集中力を見せ、琥珀糖作りの腕はぐんぐんあがった。
 そして、襲撃当日の朝が来た。

●螺旋襲来
「ねぇ~本当にダメぇ~?」
「師匠、だめっす。本当に危ないから」
 ケルベロスたちの戦闘が見たくて見たくて駄々を捏ねるアンバーをザンニが宥めて、地下シェルターへ一次避難してもらう。渋る彼に蓮がそっと言い足す。
「ニンジャやっつけた後でボクがお話してあげる。待っててねアンバー」
「レンレンやっさしい☆ きっとだからねっ」
 一方、工房でアンバーの代わりに敵を待ち受けるのはマティアスとアインだった。囮をふたりに任せ、残る6人はアンバー邸の裏手にある清流付近に身を隠す。
「見た目はとても上手くいったと思うのだが……」
 囮役に相応しい、と言われるほどに琥珀糖を上手く作れた筈なのだが、アインは浮かない顔をしている。マティアスが応じた。
「ああ、すごく綺麗に出来てる」
「だがamberは物足りない顔をしていた……一体何故だ?」
 やはりパッションなのか? と頭を抱えそうになったその時、門外から響く少女の声。
『たのもー! 琥珀糖職人さんちはここ?』
 来た、とマティアスと目配せしてなるべく自然な雰囲気を装うアイン。中に入ってきたのは少女の螺旋忍軍と、同じく大柄な男の螺旋忍軍だった。
「私がここの責任者のマティアスだ。こちらは兄弟弟子のアイン」
『ふうん。じゃ琥珀糖の作り方を教えてっ』
 どうやらこちらを怪しむ気配はない。
「まずは『パッション』の習得が肝要だ。師のパッションを感じるために、辺りの風景を観に行こう」
『ぱ……ぱっそん? 何それ』
「わからないなら、今はまだわからなくていい……」
 私もわからんからな、という一言は飲み込むアイン。敵はアンバーが職人であることのみを知っていて、その人格や個性については何も把握していない様子だった。
 澄んだ空気の中、清流のせせらぎを聞きながらふたりの螺旋忍軍は歩く。陽光は温かく鳥が囀り……こんな場所を戦場にするのは申し訳ないほどの美しさだ。しかしこれを守る為にも、敵は素早く撃破せねばならない。
「お前の相手は、私がしよう」
『ええっ? 何すんのよいきなり!』
「私は職人ではない、ケルベロスだ!」
 名乗り上げ、アインの蹴りが少女型の足元を払った。
『うわ!』
『なんだぁ?』
 何が起きたのか把握出来ず、怪力男がのそりと首を返した瞬間、アレクセイの低い呟きが忍び寄る。
「姫の笑顔を影らせる悲劇など不要……」
 アレクセイの敵は彼の姫君を悲しませる暴虐そのもの。轟音と共に怪力男の胸元に砲弾が炸裂し、衝撃と土煙に敵は思わず膝を着く。そこへ5人が次々飛び出し、包囲を完成させた。
『ブヘッ!』
「援護しますね、ヴィンセント兄様!」
「うん」
 華がばら撒いたオウガ粒子の輝きを身に受けつつ、ヴィンセントが低い位置への回し蹴りで更に敵の動きを鈍らせる。伏せていたケルベロスたちの奇襲により、先手を取ることに成功したのだ。
『あーっ! 隠れてやがったのか、卑怯者ども!』
 アインに足止めされている少女型がそう叫ぶのを一瞥し、マティアスは即座にプログラムを呼び出し組み上げた。コマンドに応じて出現した無数の大剣が中空を覆った。
「お前たちこそ、アンバーさんを狙うなんて卑怯そのもの……相手を見て喧嘩を売る事だ」
『っぐあー!』
「こっちのデカブツからっすね!」
「先にお前をやっつけちゃうのだよ!」
 作戦に則り、ケルベロス達は猛攻を仕掛ける。狙いを怪力男に集中させ、1体ずつ撃破を狙う。ザンニが高く跳び、ほぼ同時に蓮も駆け込んだ。流星の輝きを纏った蹴りが左右から挟みこむように炸裂!
『お前らー! 弟分に何をしやがる』
 激高した少女型が走る導線を、シェリルが塞ぐ。
「大人しくどうぞ……貴方に最高の花を贈ってあげましょう」
 先までのおっとりと女性的な口調から一転、シェリルのそれは慇懃な冷酷さを纏う。古代魔法の詠唱を終え、アネモネの血飛沫舞う中でゆっくりと少女に近付き、力を分断する。
『ぐっ……う!』
 先手でダメージを叩き込めたのはかなり有利だった。いきなり足を止められた忍軍たちの動きは鈍く、攻撃は精度を欠いた。それでも敵は連携を図り、攻撃の要であるヴィンセント、蓮を狙おうとするが三枚壁のアイン、マティアス、ザンニはそれを許さない。
『どけよお前たち!』
「どけと言われてどく壁がいると思うのか」
 アインが斬撃をガントレットで弾き、雄叫びを上げて突進してきた怪力男はザンニが体を張って止めた。
「ってて……、バカ力っすね」
 メイン攻撃は少女の居合いで怪力男は盾、という作戦を敵も立ててきていたが、傷を負わせる端から回復され、疲労が溜まっていく。
『姐さん……後は頑張って……』
「その健気さは認めるが、お前は倒させて貰う」
 弱弱しい応援と共に怪力男は少女型を回復させるだけさせて、アインの刃の前に倒れた。
『おのれ仇は討つ!』
 まだ力が残っている少女型が、水が流れるような動きでケルベロスたちに斬りつけた。
「痛いなあ! 怒ったぞー」
 蓮が振りかぶった斬霊刀が敵を裂く。決着を急ぐべく威力を重視した技に切り替え、盾役も畳み掛けるべく攻撃に移る。華が皆の体力を確実に支え、アレクセイとヴィンセントが呼吸を合わせた大技で敵を追い詰めたところへ、マティアスの大剣が降り注ぎトドメとなった。小さな悲鳴のみを残し、螺旋忍軍は消え去った。
「相手を見て喧嘩を売れと、言ったはずだ」
 工房では戦いが終わるのを待ちかねたアンバーが、沢山の紙袋を用意して待っていた。
「君たちのパッションの結晶、あとアンバー印のも入れといたから食べてね!」
「やった! お姉ちゃんにお土産だー!」
 蓮が子犬のように喜び、アンバーブランドのオシャレな紙袋を受け取った。
「綺麗に咲いてくれたわ」
 袋の中を覗き込み、半透明のサクラソウの出来栄えにシェリルは元のおっとりした笑顔を見せる。華も菫の咲き初めを再現した琥珀糖を、そっくり同じ色の瞳で見つめていた。
 アレクセイが受け取ったのは夜に染めた薔薇型の琥珀糖。彼女への目一杯の愛が溢れる。
「貴女の歌に導かれ出会ったあの薔薇園……私を救ってくれたあの夜の奇跡……」
「……ありがとう」
 ヴィンセントが受け取ったのは、青空色の小さな立方体キューブの上に、桜花と葉を模した琥珀糖を乗せたもの。大切な人と出会った時を閉じ込めた。
「桜の中で妖精が泣いていると思ったんだ……きれいな涙だと、思った」
 大切な人との出会いの瞬間を封じ込めた琥珀糖だ、とアレクセイと華に話すヴィンセント。だが、ふとアンバーの方へ向き直る。
「でも、もう少し琥珀糖作ってたい」
「私も……パッションが少しはわかるようになった、気がしている」
「俺もまだ極められる気がする」
 アインとマティアスもそう言って工房を見る。勿論アンバーからの返事は本日最初のエビ反りから。
「大歓迎だよぉ! パッショーン!」
 ケルベロスたちの任務は無事に終了した。順に温泉で汗を流し、作った琥珀を食べてと穏やかな時間が過ぎる。
「君たちと過ごして新しいアイデアが沢山浮かんだよ! これからもどんどんパッションで作っていくよ」
 そう言って笑うアンバーは心から幸せそうだった。これからも彼の作るお菓子で沢山の人々が幸せになってくれたらいい。勿論、今日手に入れた琥珀糖レシピで、一番身近な大切な人を幸せにすることも忘れまい。それぞれの胸の内に小さな幸せのレシピを抱え、急ぎ帰路につくケルベロスたちだった。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 7
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。