氷結のフィンブルヴェトル

作者:柚烏

 あたたかな微風が街路樹を揺らし、降り注ぐ陽光は何処までも穏やかだった。既に凍てつく冬の気配は遠ざかり、ひとびとは新たな季節の到来に心浮き立たせていたことだろう。
 ――しかし、そんな優しい春のひと時は、突如現れた侵略者によって無残にも打ち砕かれたのだ。
「ハハ、絶好の遊び場だなァ……思う存分暴れて、殺しまくっていいんだろォ?」
 奇妙に浮かれたその声は、まるで氷を砕いたようにひび割れており――冷え冷えとした中に確かな狂気を孕んでいる。いろを失った白い髪、青ざめた肌はぬくもりを感じさせず、ただ深紅の瞳だけが炎のように熱を帯びていた。
「嫌な景色だなァ……どいつもこいつも浮かれて、生温い陽気に包まれて――」
 その男は、巨躯の戦士であるエインヘリアルで――慌てふためくひとびとを視界に捉えると、その唇がニィと歪な笑みをかたどっていく。その刹那、彼の周囲が急速に凍えていき、季節外れの氷結晶が陽光を反射してきらきらと輝いた。
「凍てつく冬、吹きすさぶ雪……そして、整然と並ぶ氷像達! ヒャハハハハハ! 壮麗な光景ってヤツだよなァ! お前ら纏めて氷漬けにしてやるよォ!」
 甲高い哄笑を響かせながら、エインヘリアルの剣が星辰の光を一帯に降り注がせる。その輝きは凍える冷気を引き連れて、ひとびとも木々も建物も――全てを氷に閉じこめようと牙を剥いた。
「知ってるか? 冬は戦を呼ぶんだ……同胞同士で殺し合う、最高に愉快なひと時だァァ!」

 エインヘリアルによる、人々の虐殺事件が予知された――その話を聞いたレイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)は、氷の如き美貌に微かな嫌悪を滲ませて溜息を吐いた。
「理性すら置き去りにした、只の殺戮者か……戦士の矜持など持ち合わせていないと見える」
「うん……このエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者みたいでね。永久コギトエルゴスム化の刑罰から解き放ってから、地球に送り込まれたようなんだ」
 エリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)が語る所によると、これを放置すれば多くの人々の命が無残に奪われるばかりか――人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることにも繋がるのだと言う。
「敵は人格に問題があって、加減と言うものを知らない災厄みたいな存在だから……皆には急いで現場に向かい、このエインヘリアルの撃破をお願いしたい」
 エインヘリアルの名はユルヤナと言い、人を氷漬けにするのを好む歪んだ嗜好を持っているようだ。二刀のゾディアックソードを振るう彼は戦を求める余り、仲間すら手にかけようとする戦闘狂で――恐らく同族殺しが過ぎて刑罰を受けたのだろう。
 なお、使い捨ての戦力として送り込まれている為、彼は戦闘で不利な状況になっても撤退することは無い。いや、撤退すると言う判断が出来ないと言うべきか。
「冬は戦を呼ぶ……そんな妄執に囚われた彼を、野放しには出来ない。だからどうか、いのち芽吹く春を守って欲しいんだ」
 エリオットが祈るように手を組む中で、レイリアはふと思案に耽る。相手は血も涙もない外道であるが、もし選定の末に戦士となったのであれば、看取りを司る妖精族として終わりを与えねばならないだろう。
「……その身も、血も、全て凍らせよう」
 毅然としたまなざしで空を見上げるレイリア――そんな彼女の腰に下げられた剣に絡まる鎖が、その時しゃらりと澄んだ音を鳴らした。


参加者
陶・流石(撃鉄歯・e00001)
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)
フェイト・テトラ(悪戯好きの悪魔少年・e17946)
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)
セリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288)
レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)
カティア・エイルノート(蒼空の守護天使・e25831)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)

■リプレイ

●狂戦士の宴
 優しい風と柔らかな日差しに包まれた街は、巡る季節を――春のぬくもりを、存分に味わうことが出来た筈だった。しかし、突如として彼の地に降り立ったエインヘリアルは、暴虐の冬を呼び戻そうと冷ややかな刃を向ける。
 罪人が求めるのは、血で血を洗うような果て無き戦――風に舞う花弁が凍気に晒されていく中、彼は凶悪な笑みを浮かべて無力なひとびとを見下ろしていた。
(「エインヘリアルに、この街を壊させたりなんかしない。……ボクがここを絶対守る」)
 其処へ颯爽と駆けつけたのは、カティア・エイルノート(蒼空の守護天使・e25831)らケルベロス達で。直ぐに一般人との間に割り込むように立ち塞がった仲間たちと手分けして、カティアは表情を変えぬまま警察へと避難を要請した。
「さぁ、街のみなさんを守りましょう! アデル、今日もよろしくね」
 一方のフェイト・テトラ(悪戯好きの悪魔少年・e17946)は灰色の髪をふわりと揺らして、ビハインドのアデルに微笑みかける。そうして、迷い込む一般人に注意を払っていた陶・流石(撃鉄歯・e00001)は、どうやらその心配も無いようだと頷いて――当初の目的である、エインヘリアルをはっ倒すべく意識を集中した。
「おいおい、強いヤツがいると聞いてきたのに、此処には弱い者苛めしか出来ねぇみみっちぃヤツしかいねぇのか」
 期待外れかねぇと殊更ガサツな口調で挑発を行い、流石はエインヘリアル――ユルヤナの注意を引きつける。恐らく此方に向かってくるとは思うが、念には念を入れる彼女に続く八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)もまた、射線を遮るようにして正面から挑むことにした。
(「奇縁な事に、二刀使いと良く出逢うものですね。其れも、短い間に」)
 ――嬉しくも無い、縁で結ばれた者たちでしたけれど、と。微かに瞑目する鎮紅の脳裏には、これまでの戦が鮮やかに蘇っているのだろうか。しかし吐息を吐き出し、ゆっくりとかぶりを振った彼女のまなざしには最早、憂いの欠片は見当たらなかった。
「少しは慣れてきました。ならばあなたの二刀がどの程度のものか、見せてもらうとしましょう――」
 己の原点である深紅のダガーナイフ――ユーフォリアを手に、鎮紅も双刃を構えて敵を迎え撃つ。その一方で、戦乙女の矜持を胸に立ち上がった者たちも居た。
「……寒さの余りに、理性すら放棄したのかしら」
 右目に宿る蒼炎を揺らめかせて、セリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288)は可憐な相貌に見合わぬ、凛とした勇ましき声を響かせる。
「矜持も無く信念も無く、在るのは狂気と害意のみ。そして、その獣にも劣る品性……勇者たる資格も無いものと知りなさい」
 嘗ての主神、アスガルドの神々に反旗を翻したエインヘリアル達――今なお戦を求める彼らに対する敵意は、セリアの心を焦がして止まない。
(「……でも、私は一度も夢を見ない」)
 過去の記憶を失った自分は、本来の矜持まで見失っているのではないかと――そんな戦乙女が信念を語るのかと、セリアは微かに自嘲もしていたけれど。似たような想いは、もう一人のヴァルキュリアであるレイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)も、少なからず抱いているようだった。
(「戦士の矜持すら持たぬ、犯罪者か。……もっとも、人間からすれば過去の私も同様の存在だったのだろうが」)
 ――それは、ただひたすら任務に忠実だっただけのこと。殺す事に愉悦を感じる事は無く、故に淡々と多くの命を摘み取り続けた自分は、魔女と呼ばれるに相応しかったのだろう。
 ただ一度、それに迷いを感じたのは――と、其処でレイリアは無意識に触れていた赤雫のピアスから指を外し、追憶を振り払って槍を構えた。
「我が名はレイリア・スカーレット、兵站と看取りを司る者。貴様を葬り去る者の名だ、冥土の土産としてよく覚えておくといい」
 ははッ、とレイリアの勇ましい名乗りにも、ユルヤナは乾いた笑いで応えるのみ。戦士を生むだけ生んで、用済みになったら処分かと――彼は心底愉快な様子で、今の状況を嘲笑っていた。
「ああ、同胞の不始末を正すのも私達の役目だろう」
 けれどレイリアは、氷の表情を崩さずきっぱりと告げて。その後ろに控えていた鴻野・紗更(よもすがら・e28270)は其処で、優美な微笑を湛えたまま慇懃に一礼する。
「あなたは、冬は戦を呼ぶ……と仰せですが。わたくしは否、と答えましょう」
 片眼鏡の奥の瞳をそっと和らげて、紗更は丁寧に言葉を紡いだ――冬はやがて訪れる春をはぐくみ、芽吹く花蕾をいとおしむのだと。
「つめたい冬は殺伐ではありません。実るものを不浄から守り清める、尊い季節であるのでございます」
(「――……っ」)
 その紗更の言葉に、イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)は弾かれたように顔を上げていた。彼の考えは自分と同じもので、雪深い村で育ったイルヴァは冬に対し、特別な想いがあったから。
「……そう、冬は戦を呼ぶものではない。命をまもり、みちびくものです」
 ――目の前のエインヘリアルが戦と死をもたらす冬であるというならば、自分は平穏と生命を守る冬であろう。淡い水色の髪が名残の雪の如く風に舞う中、イルヴァは冬の在り方を証明しようと、紗更と視線を交差させた。
「ええ、その為にわたくし達はあなたの前に立ちはだかり、そして戦いましょう」
 其処に慢心も弱音も無く、自分の実力を信じる紗更は冷静な立ち居振る舞いを心掛け――一方のイルヴァは、自分なりの戦いへの矜持を胸に、透き通る水晶の刃を握りしめる。
「あなたを斃して、皆を守ります。わたしの名にかけて、ぜったいに!」

●大いなる冬の訪れ
「はッ、なら精々俺を楽しませてくれよォ? それだけ大口を叩いたんだ、簡単に壊れるんじゃねェぞ……!」
 自分の前に立ちはだかったケルベロス――その堂々たる名乗りに興味を惹かれたユルヤナは、二刀を振りかざして咆哮をあげた。争いを呼ぼうとする彼は狂戦士と化し、その刹那荒れ狂う冷気と共に、星座の輝きが辺りを凍りつかせようと襲い掛かる。
「ひゃ、はははははは……ッ!」
「……流石に頭が痛いわね。早々に刈り取ってしまいましょう」
 溜息を吐くセリアは、勇者の名を背負うには余りに相応しくない存在だと言い切って、直ぐに装甲から粒子を放出して仲間たちの傷を癒していった。加えて超感覚を覚醒させ、狙いを確かなものとしながら――一方でカティアは、後衛の付与を確かなものとするべく澄んだ歌声を響かせる。
(「例え明日、世界が終わるとしても……」)
 ――歌うのは、人々に笑顔を取り戻そうとした道化師の詩。内面に満ちる豊かな感情を乗せたカティアの歌は、望む加護を与えられずとも皆の背を押した筈だ。
「行きます! ……アデルはみんなを守ってね」
 ビハインドに声を掛けてから、フェイトは自分に課せられた使命を果たそうと、真剣な表情で地を蹴って跳躍――真っ直ぐな心を宿す流星の蹴りが、エインヘリアルの足取りを鈍らせる。更に其処へ、アデルの飛ばした物品が叩きつけられたのにびっくりして、思わず『ふえええ』と声をあげてしまうフェイトであった。
「さてと、手荒なのは好きではありませんが……やむをえませんね」
 いざ、参りましょうかと優雅な物腰を崩さずに、紗更もユルヤナの足止めを行うべく花浅葱の戦鎚で砲撃を見舞う。竜砲弾の咆哮が轟く中、鎮紅は一刀に全身全霊を尽くそうと、緋鴉の刀を構えて緩やかな月の弧を描いた。
「意志亡き剣など、悲しいほどに無意義なものです」
 ――彼女が想起し、模倣するのは友人の姿。それは鎮紅にとっての剣士の象徴であり、緋に染まる刃は獲物の急所を断とうと追い縋る。と、青ざめたエインヘリアルの肌に刻まれる朱を認めたイルヴァは、懸念していた命中率は問題ないと判断した。
(「これなら……っ!」)
 戦弓のルーンを刻む暇すら惜しむように、電光石火の蹴りがユルヤナに迫る。舞うような動きで敵の鳩尾を貫いたイルヴァは、このまま相手の動きを封じることを旨として動こうと決めた。
「貴様の存在は不愉快だ」
 そして只それだけを告げて、稲妻を帯びたレイリアの槍が突き出され――いかれた神経回路ごと焼き切ろうと穂先が唸りを上げる中、流石もお望み通りボコってやろうと拳を突き合わせる。
「ったく、力を誇示したいんだろうけど、何年生きてきたか知らねぇがガキくせぇ相手だな。ンなモン、本当に力があんなら、見るヤツが見りゃ魅力的に映るだろうによ」
 生憎自分たちには、そう見えていないと言うのが答えなんだろうが――そう吐き捨てた流石は、鋼のように冷たく鋭い視線を向けて、標的の心身を動揺させ恐れを抱かせようとした。が、向こうも重罪人と恐れられたエインヘリアルであり、凶悪な力を宿していたのだ。
「……ガキだと? はッ、随分大きく出たもンだなァ」
 流石の眼光にも怯んだ素振りを見せないユルヤナは、野生の勘じみたもので此方の力量を感じ取ったのだろうか――挑発に対し、流石の戦法が漠然としたものだと見て取った彼は、二刀を交差させて超重力の十字斬りを叩き込んだ。
「……お前の動きは単調過ぎる。ほらほらどうしたァ、ガキくさくてみみっちぃ野郎にのされる気分はよォ!」
 天地を揺るがすような衝撃を受けて、流石の身体が勢いよく地面に叩きつけられる。同時に全身を痺れが包み込んで、彼女は悪態も吐けず只々苦痛に耐えるしかない。手痛い一撃を貰った際、どう対処するか――前衛に立つ者として心がけねばならないことに、流石は想いを巡らせていなかったと気付く。
(「この……動、け……ッ!」)
 例え、魂を喰らう一撃を放つ手段があったとしても、どう使うか意識していなければ咄嗟には動けまい。彼女にあったのは撤退を考慮しないと言う気概のみであり、敵は理性を欠いた獣だからこそ――本能によって獲物の脆い場所を嗅ぎつけてきた。
 ――敵の性根を見下しこそすれ、実力まで見下してはならない。襲い掛かる星座の煌めきが、すべてを氷漬けにしようと迫る中、危機に陥った流石を庇ったのは鎮紅であり。彼女は意趣返しだと言わんばかりに、冷気を纏う一閃でユルヤナを押し返した。
「軽いですね。アナタの剣は、其の程度ですか?」
 実際は決して軽いものでは無かったが、挑発を行うのならこの位言わねば通じないだろう。氷結の嵐を凌いだカティアのウイングキャット――ホワイトハートが清浄の羽ばたきで邪気を祓い、一方のレイリアは敵の意識を此方に向けようと、冴えわたる空の霊力で以って傷口を斬り裂いていった。
「……ま、下らない妄執は大概になさいな。それに大体……お前の様に争いを呼ぶ者は、そんな妄執に関係なくいつ何処にあろうと戦禍を生む」
 そういうものでしょう、とユルヤナを見上げるセリアは、彼のもたらす災いから仲間を守ろうと、星辰の剣を手に守護星座を描いていく。氷の呪縛を浄化するべくカティアもまた、生きる事の罪を肯定する調べを紡いでいくが――癒しきれない傷は、確実に増えていった。
(「その程度の氷で、ボクの歌を止めることなんて出来ない」)
 ――そう、それでも彼女たちは抗うことを諦めない。自分は歌うことしか出来ないけれど、それでも止めてみせるとカティアは誓ったのだ。大切な存在を守る為に、ずっとずっと戦いに身を投じてきて――その目的が果たされた末に、生きる目的を見失ったとしても。
「それだけ吠えようとも、ボクはこの歌で皆を癒すだけ」
 自分は戦う力を持たずとも、皆がお前を倒してくれると、カティアのまなざしは仲間たちの背を真っ直ぐに捉えていた。

●廻る季節、命の終わり
 ユルヤナの刃を受け止める盾役は徐々に追い詰められており、特にサーヴァントの消耗が激しくなっていた。アデルに守られるフェイトは、もし彼が倒れたら――と瞳を曇らせるものの、自分の成すべきことをしようと猛き斧の一撃を繰り出す。
(「バランスを考慮して、満遍なく敵の力を封じるようにするのですよ」)
 高々と跳び上がったフェイトが頭上から斧を叩きつけると、後方からは紗更が戦鎚を振るい、獲物を凍結させていった。その瞬間で最も有効な手段を探り出し、即座に行動に移す――それを実際に行うのは非常に難しいが、自分はそうありたいと紗更は思う。
「どうぞ、おやすみなさいませ」
「――ちッ、鬱陶しい奴らだ……!」
 ユルヤナに蓄積された異常は、確実に彼の身を蝕んでおり――精彩を欠いた動きを見た鎮紅が其処で、深紅の刃を形成して、舞い散る花弁の如き剣閃を浴びせていった。
(「わたしは、春をもたらす冬であると誓った」)
 刃を変形させて、獲物を斬り刻むイルヴァの心に宿るのは、遠き春を望む命たちを守り、その芽吹きを導く――あたたかな冬の姿映しであり続けようと言う決意。だから戦を呼ぶエインヘリアルを葬るのは、新たなはじまりを守る為であった。
「やがて訪れる芽吹きの季節を、穢させはしない……!」
 ――そう、冬は何れ終わるもの。季節は廻り、芽吹きの季節は必ず訪れる。しかし、其処にお前の居場所は無いのだと――セリアは氷精の吐息を纏わせた剣を振るい、傷跡にうつくしき氷の華を咲かせていった。
「永劫の冬の中で眠りなさい……唯々孤独に」
「ハ、ハハハハ……!」
 自身が凍らされる気分はどうだと、問いかけるレイリアの声にさえ、ユルヤナは陶然とした笑い声を響かせるのみ。最早、完全に理性を無くしたらしい彼へ舌打ちをして、流石は硬化した竜の爪を一気に振り下ろす。
「もし選定をした者が居るのならば、その者の代わりに私が貴様を処分する」
 冷然と告げたレイリアへ、ユルヤナは最後の力を振り絞り剣を向けようとしたが――麻痺に蝕まれた肉体は硬直し、力無く腕が地面に落ちた。
「そう、だ……殺せ、血塗られた魔女であり続けろ……」
 ――最期の言葉にも、レイリアは眉一つ動かさない。そして光の粒子と化した彼女は真っ直ぐに、罪人を貫いてその死を看取った。

 無事に襲撃を阻止した一行は、破壊された建物や怪我人への対処を行い、ヒールを行うフェイトには何処からか『結婚してくれ』などと熱い声援が飛んできているようだ。
(「わたしは、彼を許せません。けれど……」)
 消滅していく亡骸を見つめていたイルヴァが、ひとつ間違えば自分もこうであったかもしれないと思う中で――レイリアは淡々と、己が創造してきた戦士たちについて考えていた。
(「奴らがまだ生きて、罪を重ねているのなら。奴らを全て葬り去るのが、私の使命だろう」)
 それで私の罪が、消えるわけではないとしても――夕陽を受けた光の翼は、春を祝福するように輝きを放っていた。

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。