満開の桜が色づき、ほのかに散り始めようかという頃。
「タンポポ、ナノハナ――あなた達に使命を与えます」
とある街の路地裏で、奇術師めいた装いの一人の女が切り出した先には、道化師のような衣服を纏った二人の螺旋忍軍の姿。
「この街に、飴細工を生業としている人間が居るようです。あなた達はその人間と接触し、その仕事内容を確認、可能ならば習得した後に殺しなさい」
「飴細工? 美味しいの?」
「飴なんだから美味しいに決まってるじゃない!」
声質から察するに、どうやらまだ年端の行かぬ少年、あるいは少女のようなタンポポとナノハナ。
二人を見つめながら、奇術師の女――ミス・バタフライは思い出したように告げる。
「そうそう、グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
「はーい。でもせっかくだから美味しく頂いちゃおうかなー」
「飴も一緒に食べていいんだよね? いってきまーす!」
こうして、タンポポとナノハナ――二人の螺旋忍軍が動き出したのだった。
●この手で作る小さな世界
「ミス・バタフライという螺旋忍軍の名前、皆も一度くらいは耳にしたことがあるかもしれないね」
トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はそう言って、今回の事件がこの、ミス・バタフライに関連するものであり、プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)が危惧していたことから事件に繋がる手がかりを得られたと続けた。
「で、今回その標的となったのは、京都に住む飴細工の職人さんでね。ミス・バタフライの配下がこの職人さんの所に行って、仕事の情報を得たり技術を習得したりして、その後に職人さんを殺そうとする……大体、こんな感じの事件を阻止してほしいんだ」
ここで阻止出来なければ、いずれはケルベロス側に不利な状況が発生してしまう可能性がないとは言い切れないのだという。
この職人の身の安全の確保と、ミス・バタフライの配下である螺旋忍軍の撃破――それが、ヘリオライダーの青年からの依頼だった。
保護の対象となる飴細工職人の名は、桐谷・洸也(きりたに・こうや)。年齢は三十代後半で、京都の街中から少し離れた郊外に居を構えている。
自宅は工房を兼ねており、主に工房で作った飴をお祭りの屋台や京都市内の店舗で販売する他、各所で実演販売なども行っているのだそうだ。
「飴細工って言うと、こう、熱した飴にハサミを入れて形を作っていくってイメージだったんだけど、伺ってみた所、だいたいそんな感じっぽいから、あんまり気負わなくても大丈夫だよとのことだったよ」
次に、今回の敵である螺旋忍軍との接触方法について、トキサは説明に入った。
基本は、洸也を囮にし、彼を警護しつつ現れた螺旋忍軍を迎え撃つことになるだろう。これは、洸也を事前に避難させてしまうと予期から外れ、敵が別の対象を狙ってしまうのを防ぐためでもある。
あるいは、ケルベロス達が囮になることも不可能ではない。今回は螺旋忍軍がやってくるまで三日ほどの猶予があるので、その間に洸也から飴細工の作り方を教わり、実際に基本的な動物などを作ることが出来るようになれれば、螺旋人軍の狙いを自分達――ケルベロスに変えさせることも不可能ではなくなるだろう。
敵の螺旋忍軍は二人組で、名をタンポポとナノハナといい、サーカスの道化師のような装いに身を包んでいる。幼い子供のような風貌だが、性別は不明。幸いなのが、両名ともあまり物事を深く考えないようなので、見習いレベルの技量を身に着けたケルベロスの言うことならば、特に疑いもせず信じるだろうとトキサは言った。
「だから、技術を教える修行のためとか何とか言って、二人を別々の場所に案内して、そこで倒す……とかね」
洸也の家には戦いに支障のない庭があり、裏口から出れば、その先は川の流れる森に繋がっている。森は地元の人もあまり入らないような場所だ。上手く双方に誘き出すことが出来れば、有利な状況で戦いに持ち込めるだろう。
「という訳で、飴細工作りも楽しみつつ、ケルベロスとしてのお仕事もよろしくおねがいしまーす!」
そう言って、トキサは一連の説明を終える。
「いちまるの飴は、やっぱりむずかしいかなあ……?」
一方、テレビウムのいちまるをぎゅっと抱き締めながら、プルトーネはどんな飴を作ろうかと思いを馳せているのだった。
参加者 | |
---|---|
イェロ・カナン(赫・e00116) |
天矢・恵(武装花屋・e01330) |
リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723) |
円谷・円(デッドリバイバル・e07301) |
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414) |
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801) |
コルト・ツィクルス(星穹図書館の案内人・e23763) |
プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908) |
「お待ちしてました。ちょっとだいぶ散らかってますけど……」
ケルベロス達を出迎えてくれた、人当たりの良さそうな笑顔。工房の扉には修行を優先して『臨時休業』の貼り紙が出され、準備は万端だった。
宜しくお願いします、と緩く笑って頭を下げる飴細工職人――桐谷・洸也に、ケルベロス達も揃って丁寧に挨拶をする。
こうして、飴細工職人(見習い)になるための三日間が始まった。
見習いくらいには達したいと意気込むイェロ・カナン(赫・e00116)は、早速翼を広げる鳥の姿を作り始める。
(「幸運の、なんて。運んでくれると良いけれど」)
イェロの大きな手の中で自在に形を変えていく小さな飴は、硝子細工のようにとても綺麗で。いつもはこういう甘い物は食べないけれど、こうして自分の手で作ったり、誰かのことを考えて作る物はやはり綺麗だなとイェロは思う。
出来上がった鳥を青く色付けしつつ、コツや普段の心意気はないかとイェロが尋ねると、
「コツは素早く瞬間を捉えるとか、かな。心意気はもう、綺麗な子を作るんだっていう、これに尽きるかも」
基本が大事ということらしい。その間にも洸也の手の中では、新たに命を吹き込まれた犬が動き出していた。
「イェロくんも洸也さんも、すごいねー! 僕もがんばれば何とか……うん、きっと何とかなるよねっ」
リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)は、すっかり冷めて固まってしまった飴細工のもとを見てため息。勿論それは何度でも作り直してもらえるけれど、ものすごく不器用なリィンハルトは捏ねて形を作るだけで精一杯で。
「大丈夫、一番大切なのは楽しむ気持ちだから」
洸也がそうアドバイスを贈ったのも、リィンハルトが楽しみながら取り組んでいるのがわかるからこそ。
「うん、ありがとうっ、洸也さん!」
三日間あればきっと簡単な物なら形になるはずだと、リィンハルトは諦めずに手の中の飴と向き合った。
「食べたら同じ飴でも、見た目で楽しめるって、何かいいよね」
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)も真剣に、技術面の飲み込みの早さを活かし、デザイン通りの金魚を作り上げる。けれど、ちょっぴり残念なデザインセンスを持つ円の手の中で泳ぐ魚は、残念ながら金魚というよりは鮭だった。
「失敗したら、食べてもいい? や、失敗しないように頑張るけど!」
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)が目指すのは、イェロと同じく飴の鳥。それも優雅で綺麗な、神々しさのある鳥だ。
どうにか鳥の形に拵えた飴に、重ねるのは赤と黄色のグラデーション。己の不器用さを自覚しているシエラシセロは、完成度を少しでも高めるために洸也に多くのアドバイスを受け、それを少しずつ自分のものにしていくという、並々ならぬ努力を飴に注いでいた。
「わあ……眸さん、すごいねっ」
おしゃべりしつつ、シエラシセロは君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)の手元をふと見やる。機械弄りを良くしているので緻密な作業が得意だという眸は、見たものをそのまま写し取る力に優れ、写実的な小鳥を飴細工で作った。
「飴といウのは細工のしやすい物質だナ……まタ、愛らシく食べられるといウのも善い」
淡々と感想を述べる眸は洸也に視線を向け、やはり淡々と、
「ただ、飴と結婚は出来なイと思ウが」
「んっ!」
真っ当なツッコミに思わず鋏を止めてむせつつも、洸也は何とか答える。
「そうだね、現実的に考えれば飴ちゃんと結婚は出来ないけど。でも、ずっとこの子達と一緒に仕事してるから、結婚してるようなものかなって。あっでもリアルのお嫁さんは出来れば欲しいですハイ」
「……そういウ、物なのダろうか」
「それなら、僕も本と結婚しているようなもの、かもしれませんね」
そこに、コルト・ツィクルス(星穹図書館の案内人・e23763)の柔らかな声が挟み込まれた。図書館の管理人にして本の虫でもあるコルトは、飴に関する本でしっかり予習をしてきたほど。それでも、
(「……矢張り、中々難しいですね」)
知識をそのまま形にするのは難しく試行錯誤の繰り返し。コルトが目指すのは流星を模した飴細工。黙々と淡々と流れる星をコルトは紡ぎ、描き上げていく。
「みんなすごいなぁ……私も頑張らなくちゃ。いちまる、頑張ろうね」
一度作ってみたかったという飴細工を前に、プルトーネ・アルマース(夢見る金魚・e27908)のやる気は十分。そんなプルトーネの目標は、一番の相棒であるテレビウムのいちまるの飴細工だ。
けれども、やはりその姿を飴で再現するのは全くの素人には難しい。そこで、プルトーネは洸也に教えを請うた。
「最初は細工になれたいし、簡単なものを作れるようになりたいんだ。あ、でもいちまるの飴細工も後で作らせて欲しいの!」
「それなら、クマとかから始めてみようか」
「うん、頑張るね!」
元気に答えるプルトーネの傍らで、いちまるは早速癒しの動物動画を流し始めていた。
そして、中でも特に作業に没頭していた天矢・恵(武装花屋・e01330)が作っていたのは『花』だ。花屋兼喫茶・華鳥で培ったノウハウを活かしつつ、予め色を練り込んだ飴の花弁を一枚一枚丁寧に切り、薔薇に蘭、アネモネなどの様々な花を咲かせていく。
新しいメニューがあると、客の心が躍る。その喜ぶ顔を見るために日々新しい物を取り入れていくのは、恵にとって当然のことだ。
独学でやってきたからこそこうして直接習える機会は有り難いと、恵は一切の妥協なく研鑽に励んだ。
三日目、最終日。疲労の色が見られたが、皆それぞれがやりきった、晴れ晴れとした表情であった。
けれど、最後に作ったいちまるの飴細工を洸也に見せるプルトーネはとても不安そうで。
「いちまるはね、凛々しい乙女なんだよ! ちゃんと出来てるかなあ」
洸也はきりっとした眉が特徴的ないちまるの飴細工をじっくりと見つめ、そして、うん、と大きく頷いた。
「とても凛々しくて格好良い、乙女ないちまるが出来たね。プルトーネちゃん、頑張ったね」
その言葉に、プルトーネはぱあっと笑顔を輝かせた。
洸也の判定は全員が合格。不器用さが最大の課題であったリィンハルトも、何とか動物の形を作れるようになり、見習いとしての力量なら十分だ。
ケルベロス達は洸也に尽きぬ感謝を伝え、そして必ず守ると約束した。
そうして最後に、プルトーネは洸也に告げる。
「洸也お兄ちゃん、あのね、ウサギさんを作って欲しいんだ。他にも、またいっぱい作り方教えて欲しいんだ」
洸也は笑みを深め、大きく頷いてみせる。
「ウサギさんでも何でも作ってあげるから。……だから皆、無事に戻ってきてね」
「……あっ、来たみたいだよ」
休業を知らずに訪れた数名の観光客に応対する中、道化師風の衣装に身を包んだ二人組にいち早く気づいたのは円だった。
「おにーさん達、ここの人? 僕達、飴細工についていっぱい知りたいんだけどー」
「いっぱいってことは、作り方とかそういうのから、かなぁ?」
「俺達が基礎からしっかり教えてあげるよ。ところでお二人さん、……お名前は?」
早速声を掛けてきた二人にリィンハルトが笑顔で応じ、イェロがさり気なく名を尋ねた。
「僕はタンポポ!」
「僕はナノハナだよ」
「では、早速……ナノハナさん、森に木苺を採りに行ってみませんか?」
コルトが柔らかな笑みを浮かべ、ナノハナへ誘いをかける。
「木苺?」
「白い飴を木苺の汁で染めるんだよ」
「はい、飴で包むもよし、紅の彩色にするもよし。甘酸っぱくて飴に良く合うかと」
プルトーネとコルトの言葉に瞳を輝かせるナノハナに、眸が更に言葉を添えた。
「森の中にハ創作のヒントとなルものが多イので、色々なものを観察すると善い」
「わかった。タンポポ、行ってくるね」
こうして、ナノハナはコルトと眸の後を付いて森へ向かった。
残されたタンポポを連れてケルベロス達は工房へ。洸也に習った通りの基本的な説明をしつつ、ナノハナ達が離れるまでの十分な時間が過ぎるのを待つ。
「お花とか作れる?」
「作れるぜ。手本を見せてやろうか」
タンポポの問いに恵が頷き、用意したのは黄色い飴の蕾。手早く鋏を入れて小さな花弁を一つ一つ作ってゆけば、あっという間に一輪の蒲公英が咲く。
「わあ!」
「蒲公英、お前の花だ。菜の花も後で作ってやる」
ちらりと恵は壁に掛けられた時計を見た。そろそろ頃合いだろう。
「太陽光の下だと、また違った色合いに見えるよ。確認してみない?」
円がさりげなく、タンポポを庭へと誘った。
「ほんとだ、きれいだねー、……おにーさん達、どうしたの?」
庭に出て飴細工の花を光に透かして楽しんでいたタンポポは、ふと、何かに気づいたように振り向いた。
「……ま、俺達に見つかったのが運の尽きってとこかな、――螺旋忍軍さん?」
「さぁ、いくよ!」
間髪入れず電光石火の蹴りを叩き込んだイェロに続き、シエラシセロが砲撃形態に変形させたハンマーから竜砲弾を放った。土煙が舞う中立ち上がったタンポポは、ぎり、と奥歯を噛み締めてか叫ぶ。
「お前ら、ケルベロスだったのかよ!? よくも騙したな……!」
膨れ上がる敵意と殺意。本性を表し、タンポポは素早くケルベロス達との距離を取ろうとしたが、既に背後に恵が回り込んでいた。
「どの口が何を言う?」
ナイフをちらつかせながら吐き捨てる恵だが、彼が仕掛けたのはナイフではなく、流れる綺羅星を纏わせた重い蹴りだった。
軒下に隠れていた円のウイングキャット、蓬莱に眸のビハインド、キリノとコルトのシャーマンズゴーストも戦いに加わって。蓬莱の翼が清らかな風を生んで守りを齎し、キリノが見えざる力でタンポポの動きを封じ込めると、ゆらゆら揺れていたシャーマンズゴーストが即座に素早い動きでタンポポに迫り、非物質化した爪による一撃を繰り出した。
続けて踏み込んだのは、ゲシュタルトグレイブを構えたリィンハルトだ。
「たとえ見た目がかわいくても、中身が無邪気でも、放っておいたら害を為すっていうなら……全力で、止めるだけだよ」
「いっ、痛いよう!」
稲妻を宿した超光速の突きに抉られ苦しげな声を漏らすタンポポにリィンハルトは少しだけ心が痛むのを感じたが、相手がデウスエクスである以上、ケルベロスである自分達に導ける結末は一つしかない。
(「みんな仲良く出来たらそれが一番だけど……そうもいかないもんね」)
ケルベロス達の猛攻に瞬く間に死の淵へと追いやられたタンポポは、最後の抵抗と言わんばかりに螺旋を込めた掌をリィンハルト目掛けて突き出してくる。
「――いちまる!」
時空を凍らせる弾丸を放つプルトーネの声に応え、果敢に飛び込んできたいちまるがその一撃を受け止め、お返しと言わんばかりに金色のフォークを振るった。
「近づかせない、から……!」
そこに円が投げつけた三日月型の鱗が、タンポポの身体を命ごと縫い止める。
「……ナノ、ハナ……!」
この事態を知らないままの片割れを呼びながら、タンポポはその場に倒れ――砂のように崩れ去った。
『――そろそろ仕上げの時間だよ』
シエラシセロからの連絡に閉じていた両の瞳を開き、眸がコルトに視線で合図を送る。
「そろそろ戻って作業を続けよウ」
ナノハナと目線を合わせるように腰を屈め、眸は優しい口調で促す。
「これだけあれば、タンポポの飴も赤く出来るよね」
籠いっぱいの木苺をお土産に、無邪気に笑うナノハナ。それを見つめるコルトの瞳の奥には、氷のような色が満ちていた。
「あれ、タンポポは?」
眸とコルトと共に戻ったナノハナが、開口一番に尋ねる。
「ここでさよならです。あなたも、『彼』も」
答えたのはコルト。その言葉に首を傾げたナノハナは、けれどすぐにその意味を察した。
「まさか、お前達……!」
「しがない譜い手ではありますが、紡ぎましょう。この譜が、貴方に届きますように」
コルトが鍵盤のスイッチに指を滑らせると、爆音さえも旋律となって色鮮やかな風が咲く。シャーマンズゴーストが導いた原始の炎に焼かれるナノハナを見下ろす、コルトの冷え切った眼差し。
「……ケルベロス!!」
咄嗟に身構えるナノハナへ、円はタンポポにそうしたように伝説上の生物である月竜を模した三日月型の鱗を放つ。寄り添うように傍らについた蓬莱が再び翼を広げて風を招くと、念を閉じ込めた石礫を飛ばすキリノの横を駆け抜けながら、眸は鋭い眼差しでナノハナへと狙いを定め、躊躇なく内蔵モーターにより回転する拳を見舞った。
先のタンポポ戦と同様、一気に畳み掛けるケルベロス達。
「おーちゃん、行くよー!」
全身を覆うオウガメタルを鋼の鬼と変え、威力のある一撃を叩き込むリィンハルト。
「――翼を震わせ響け、祈りの光響歌」
澄んだ声を紡ぎ、シエラシセロが招くは幸いの翼を持つ光鳥。空高く舞い上がる巨大な鳥が祈りを灯した風切音を響かせながら、一筋の光となってナノハナへと飛び込んでいく。
「嫌だ、タンポポ……!」
炎纏う蹴りを放つナノハナもまた、どこにもいない片割れの名を呼ぶ。それを引き受けた眸の背後から、恵が素早く飛び出した。
「これで終わりだ」
恵の手には何処からか召還した一振りの刀。斬華一閃、いつ斬られたのか気づけぬほどの神速の一刀に、首元から噴き出した自らの血に染まりながらナノハナが声にならない悲鳴を上げる。
「――手を貸して」
イェロの呼ぶ声に応え、繊細な白い指先が刃を撫でた。
剣に宿るのは霜の恩恵。凍えるほどに冷たい風が吹き抜け、一閃の後に凍てつく結晶の柱がナノハナを閉じ込め――その命ごと砕いて散らす。
後に残るは、硝子のような煌めき。けれど、それもすぐに風に溶けた。
戦いで荒れた庭をヒールで修復し、洸也に全てが無事に済んだことを伝えに行く。
その途中、恵はふと庭に落ちていた、潰れてしまった飴細工のタンポポを拾い上げた。
「もう少しだけ作業を続けても良いか」
尋ねればもちろんと頷く洸也に小さく頭を下げ、工房へと一人向かう恵。
「お土産に、洸也さんの飴を買わせてほしいの」
「あっ、僕も買うー! ね、みんなで行こう?」
「命の恩人からお代を頂くわけには……!」
慌てる洸也ににっこり笑う円とリィンハルト。それから、イェロや眸、コルトも連れ立って飴を見に。
守り抜いた洸也の笑顔と彼の未来に、シエラシセロは頑張ってよかったと心から思った。
「そうだ、プルトーネちゃんにはこれを」
思い出したように、洸也はプルトーネへ飴細工を差し出す。
「あっ、うさぎさん!」
どうやら皆が戦っている間に作ったらしいうさぎに、プルトーネの瞳が輝いた。
程なく恵も再び合流し、ケルベロス達はお土産の飴を手に、洸也に見送られながら工房を後にする。
恵の手には、黄色い花の飴細工が二つ。その、花の名は――。
作者:小鳥遊彩羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 6
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