馬鹿野郎、目玉焼きにはマヨネーズだろ文句は認めん!

作者:質種剰


 澄み切った青空の下。
「目玉焼きにはマヨネーズこそ至高であるッ!」
 集まった聴衆へ向かって自説をぶちあげているビルシャナがいた。
「目玉焼きにはマヨネーズをかけて食べる、これぞ一番旨い食べ方に他ならない!!」
 ビルシャナの主張は、意味としては容易に理解できるシンプルなものだが、果たしてそれへ簡単に賛成できるかと言うと疑問が残る。
 ただでさえ対立が起きやすい目玉焼きの味つけ論争の中でも、マヨネーズ派はソース派や七味派ほどの存在感すらない、かなりの少数派閥ではあるまいか。
「卵の味つけを卵で為す……これぞ美味しい物を作る時の鉄板、セオリーではないか!」
 だが、自分達がいかにマイナーかなど気にした様子もなく、続けるビルシャナ。
「そう! 味噌汁に一番合う具材が豆腐や油揚げであるように、同じ原材料の物同士、相性が良いのは明々白々! まさに世界の真理である!」
 さらにはいささか無理のある理由づけまで始めた。
「クリームシチューだって牛肉を牛乳で煮込むから旨いんだ! 野菜の味つけにはウスターソース!」
 米をふっくら炊く為には米油を垂らせ! 魚介を煮込むには海水と同じ濃度の塩水に勝る物無し!
「豆を煮るに豆殻をもって炊け!」
 最後のは兄弟間で争うのは良くないと言う戒めなのだが、恐らくビルシャナは自分の都合良いように解釈しているのだろう。

「えっと、ねむはマヨネーズをかけた目玉焼き、まだ食べたことないんですけどっ」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が、とても楽しそうに言い募る。
「もし食べるとしたら、まーるい黄身の周りにマヨネーズで花びらを描いて、お花にして食べたいですっ!」
 それを聞いていた永代・久遠(小さな先生・e04240)も優しそうな笑みを浮かべた。
「ふふっ、明太マヨネーズでやってみたらお花っぽく見えて可愛いかもしれませんねー♪」
 彼女の調査をきっかけとして、『目玉焼きにはマヨネーズこそ至高ビルシャナ』の存在を察知するに到った。
「さてさてっ、そんなマヨネーズ大好きなビルシャナさんが提唱する教義は、目玉焼きの味つけで一番美味しいのはマヨネーズだと言い張る、とっても揺るぎない主義なのですっ!」
 どうやら、マヨネーズ目玉焼きの美味しさを人々に説き、他の味つけが好きな連中を宗旨替えさせて、世界をマヨネーズ目玉焼き派閥で席巻しようという企みらしい。
「一見平和に見える野望でもビルシャナの悟りは危険ですから、みなさん、悟りを開いてビルシャナ化した元人間やその取り巻きの一般人さん達と戦って、ビルシャナさんをばっちり撃破してくださいねっ!」
 元気よく依頼するねむ。
「ビルシャナ化した人間の言葉には強い説得力がありますから、このまま放っておくと一般人さんは配下になっちゃいますのでっ!」
 しかし、ビルシャナの主張を覆せるほどインパクトのある主張を行えば、一般人が配下になる事を防げるという。
「目玉焼きにはマヨネーズこそ至高ビルシャナの配下となった人々は、目玉焼きにはマヨネーズこそ至高ビルシャナが撃破されるまではみなさんを敵だと見なして襲いかかってきますっ」
 とはいえ、目玉焼きにはマヨネーズこそ至高ビルシャナさえ倒せば元に戻る故、救出は可能だ。
 また、ビルシャナより先に配下を倒してしまうと、往々にして命を落とすのへも気をつけて欲しい。
 今回は、ビルシャナがマヨネーズ目玉焼きの美味しさを広め配下を増やそうとする空き地へこちらから乗り込み、説得及び戦闘を仕掛ける流れだ。
「目玉焼きにはマヨネーズこそ至高ビルシャナは、浄罪の瞳と孔雀炎を使って攻撃してきますよー!」
 敏捷性を活かした浄罪の鐘は、複数人へダメージを与え、トラウマを具現化させる可能性を持つ遠距離攻撃。
 理力に満ちた孔雀炎の方は、射程こそ長いが単体へだけ命中、時に火傷を負わせる。どちらも魔法攻撃だ。
「周囲の一般人さんは12人です。みんな、おっきなフライパンを鈍器代わりに振り下ろして殴りかかってきます。ポジションはディフェンダーみたいですねっ」
 ただ、説得さえ成功すれば一般人は皆正気に戻るため、ビルシャナ1体と戦うだけで済む。
「教義を聞いてる一般人さん達は、目玉焼きにはマヨネーズこそ至高ビルシャナの影響をかなり強く受けちゃってますから、理屈だけでは説得できなさそうですっ。ねむはインパクトが大事だと思うので、説得の際は何か演出を考えてみるのはどうでしょうか」
 ねむは続けた。
「ここは、やっぱり『マヨネーズ以外の目玉焼きの味つけ』で対抗するのが一番でしょう! お塩に胡椒、ソース、七味、ケチャップ……他にも、探したら色々あると思います!」
 マヨネーズに対抗できる味つけなら何でも良いが、あくまでも美味しい味つけにならないと説得は難しいだろう。
 とにかくマヨネーズ派を全否定する気概で、只管推しまくるのが肝要である。
「既に完全なビルシャナになってしまったマヨネーズ好きさんは救えないですけど……これ以上一般人さんへ被害が拡大しないためにも、しっかりビルシャナをやっつけてくださいねーっ!」


参加者
キーラ・ヘザーリンク(幻想のオニキス・e00080)
ルリナ・アルファーン(銀髪クール系・e00350)
神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)
永代・久遠(小さな先生・e04240)
アウラ・シーノ(忘却の巫術士・e05207)
竜峨・一刀(龍顔禅者・e07436)
ガラム・マサラ(弱虫くノ一・e08803)
佐竹・銀(魂の炎燃やし尽くして・e36293)

■リプレイ


 公園。
「目玉焼きはマヨネーズかけるのが一番旨い!!」
 『目玉焼きにはマヨネーズこそ至高ビルシャナ』が信者と結束を強める中、ケルベロス達はヘリオンより降下した。
「マヨネーズと卵……そんなに良いものなんでしょうか?? ルリナには理解不能ですね」
 ルリナ・アルファーン(銀髪クール系・e00350)が、抑揚のない声を出しつつも、きょとんと首を傾げた。
 音楽に魅せられアイドルを目指すレプリカントで、寡黙な無表情アイドルとして将来有望な逸材だ。
 そんなルリナが懇切丁寧に説くのは、マヨネーズと卵を組み合わせて食べた場合の栄養価に関して。
「ただでさえ栄養価の高い卵に、栄養価の高いマヨネーズ……そんなものを食べて大丈夫ですか?」
 卵の高過ぎる栄養価について、淡々と語るルリナ。
「高カロリーに高コレステロール……ビルシャナは何を食べても平気かもしれませんが、あなた達は大丈夫なのでしょうか?」
 ともすれば冷たく聞こえそうな物言いが、ひとたび疑心に駆られた信者達の心へ鋭く突き刺さる。
「肥満、高血圧、心臓や脳の血管への負担……死の危険性もあるでしょうね。さらには糖尿や痛風など苦痛を伴う病気になる危険性もあります」
 更には、わざと大袈裟に話を盛って信者達を恐がらせる狡猾さもみせた。
「そ、それなら、カロリーを何割かカットしたマヨネーズとか!」
 尚も言い訳を探す信者へ、ルリナは、
「例えマヨネーズをカロリーが半分の商品にしても結局卵の栄養で補われてしまいますよ? あなた達はそんな教えを信じていくつもりですか?」
 現実を知らしめる事で彼らの甘い考えをバッサリと切り捨て、反論を封じたのだった。
「くっ……卵が完全食であるばかりに!」
 何故か卵を持ち上げるも大変悔しそうな信者達、かなり心乱されたようだ。
「私は、目玉焼きには塩コショウ派です。が、やはり好きなものを皆さんの自由な食べ方で頂くのが一番なのです」
 次いで、キーラ・ヘザーリンク(幻想のオニキス・e00080)が楚々とした風情で進み出る。
 物静かな雰囲気の中に澄んだ神秘性を湛える、オラトリオの占い師だ。
 占いを人間観察の手段として捉えているキーラだけに、他人を言い包める話術にも長けているようで、
「同じ原材料のもの同士の組み合わせが至高というならば……たとえば、プリンとマヨネーズの組み合わせも然り、ということになりますが……?」
「えっ?!」
 即座に『同じ原材料同士組み合わせて相性最悪になる例』を挙げて、信者の動揺を誘った。
 卵の滑らかな甘さとつるんとした喉越し際立つプリンに、酢の酸味が目立つマヨネーズなど合う筈もない。
「茶碗蒸しにマヨネーズも相性がいいことになってしまいますね。チーズにバターを乗せて食べますか?」
「うぷっ」
 出汁の旨みが温かい卵に沁み渡る茶碗蒸しへ液体化したマヨネーズがどろっとぶっかけられた様を思い浮かべ、信者が口元を抑える。
 チーズにバターを塗ったとて何が美味しいものか、牛乳らしさが嫌な臭みを増して口の中へ広がり、胸焼けを促進するばかりである。
 卵と卵が双方を引き立てるというビルシャナの教義はただの夢幻であったと思い知らされるぐらいに、キーラの示した料理は強烈だった。
「このように、同じ原料だったとしても、一緒に食べることが必ずしも美味しいとは限らないものです」
 想像するだけでも吐き気を堪え切れぬ信者達を見やり、キーラは笑顔で素晴らしい演説を締め括った。
「あたしの初めての依頼……なぜマヨネーズ目玉焼きを熱く語る敵がいるんだろうか」
 一方。佐竹・銀(魂の炎燃やし尽くして・e36293)は、光を失った目で途方に暮れていた。初依頼でこんなマニアック嗜好推しビルシャナに当たったのが運の尽きか。
(「あたしは塩胡椒の方が好きだ、だからきっとそうなんだろう。そういう事にしておこう」)
 無理やり気を取り直し、息を整えて質問を始める銀。
「あたしは目玉焼きにマヨネーズがいいとは思わないな! 同じ卵料理であるゆで卵には何をかける?」
「塩……かな」
 信者の1人が答えた。
「そう、それと同じだよ! やっぱり目玉焼きには塩、そして胡椒が一番だと思うんだ。シンプルだしさっぱりしてるし」
 本人曰く、難しく考えるのが苦手な銀は、とにかく勢いに任せて塩胡椒派の意見をバーンとぶつける。
「それにさ、目玉焼きにマヨネーズなんて見た目からしてクドくならないかって思うんだ」
 その点、塩胡椒の目玉焼きは見た目もクドくないし——実際のところ、銀の話しぶりは堂々としていて説得力があり、内容も簡潔で解り易い。
「だからマヨネーズ目玉焼きなんてやめて、塩胡椒目玉焼きにしようぜ!」
 締めには、自ら焼いた目玉焼きへ己が塩梅で味つけしたのを信者達へ食べさせた銀。
「ん。塩胡椒の目玉焼きも意外とイケるもんだな!」
 初めてとは思えぬ危なげない演説ぶりで、信者達の心を動かすのみならず、胃袋をも掴んでみせた。


「だからな。至高とかどうでもいいんだよ! 美味けりゃ卵に何かけたっていいだろうが!」
 そう豪語するのは神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)。
 すっきり纏めた銀髪と涼やかな紫の瞳が印象的な、シャドウエルフの青年だ。
 エスニックな雰囲気の小物が光るラフな服装が常だが、今日の瑞樹はその上から割烹着と三角巾装備。
「正直言うと、調味料以前の問題として焼き具合にも拘りたいとこだが、まあ今はそれはそれとしてだな」
 妥協しても尚やる気満々の瑞樹は、携帯用コンロに火を入れ、油を引いたフライパンを温めている。
 片手で卵を割り入れる様も、実に馴れたものだ。
「俺のお勧めは黄身に火が通ってない焼き具合に、濃い口醤油をたらし、それをあったかご飯に乗っける。いわば卵かけご飯状態にして食うのが一番だ」
 と、半熟よりも更に弛めの目玉焼きへ手際良く醤油を回して、炊き立てのご飯が盛られた茶碗へ滑らせる瑞樹。
 白身がドロッとする事もなく、黄身の濃厚さを存分に味わえる食べ方だとアピールして、信者達へ振る舞った。
「これは、悔しいが旨い……!」
 卵かけご飯風目玉焼き丼の強烈で安定した美味しさには、頑なな信者すら素直にがっつく程の力があった。
 瑞樹曰く、薄口醤油では味わえない濃口ならではの風味もポイントらしい。
「うん美味い……しかしマヨネーズって太りそうだよな」
 自分でも黄身を箸で崩して味わいながら、瑞樹がぼそっと呟く。
「……やっぱり、マヨネーズ目玉焼きは体に悪いんだな」
 それを聞いた信者達の目が、面白いぐらいに泳いだ。
「目玉焼きくらい好きに食えばいいじゃろうに……」
 竜峨・一刀(龍顔禅者・e07436)は、呆れた様子で溜め息をついた。
 蒼い鱗と白い髪や眉の対比が鮮やかで、落ち着いた大人の貫禄漂う竜派ドラゴニアンだ。
「目玉焼きにマヨネーズをかけることで、料理全体の味のバランスが崩れる場合がある。例えばこれじゃ」
 一刀が信者達へ配ったのは、目玉焼きハンバーグ2種。
 それぞれ、デミグラスソースとマヨネーズがかかっている。
「実際に食べ比べてみい」
 言われるままに両方食べる信者達。
「うん、デミグラスソースのかかった目玉焼きハンバーグは普通に旨い」
「こっちは……マヨネーズ目玉焼きは旨いけど、ハンバーグにマヨネーズは合わないな」
 そう。片方の皿は味つけがマヨネーズオンリーである為に、目玉焼きはともかくハンバーグの味が損なわれてしまうのだ。
 これこそが、一刀の伝えたかったマヨネーズ目玉焼きによって料理全体の味のバランスが崩れるという、斬新な視点から切り込んだ主張である。
「ま、まぁでもデミグラスソースがハンバーグに合うのも子牛の骨を使ってるからじゃ……」
「このデミグラスソースとて、牛や鶏の素材は使っておらん。原材料同士がかけ離れていても美味いものは幾らでもあるんじゃ」
 悪足掻きする信者へも、噛んで含めるように諭し聞かせる一刀。
「そ、そうか……」
「原材料にこだわっておったら、この先どれだけ美味いものを見逃すか」
 人生経験豊富な一刀が言うだけに含蓄のある忠告を、ハンバーグによってマヨネーズ目玉焼き至高の価値観を崩された信者達は、黙して聞いていた。
「馬鹿野郎とは何事ですか、女の子ですよ、ぷんすこぷんぷん!」
 他方。ガラム・マサラ(弱虫くノ一・e08803)は可愛く怒ってみせながら、こちらも手製の目玉焼きを焼いていく。
「タマゴの上にオンタマゴ、タマゴの過剰摂取ですね……過ぎたるは及ばざるが如しともいいますれば、もう少しバランスを考えて頂ければと思う所です」
 つまり何が言いたいかというと——白く盛り上がった谷間の中から、ある調味料の瓶を取り出すガラム。決してドリンクバーでは無い。
「華麗忍法、なんでもかんでもガラムマサラさえかければカレーの風味が付いてなんでも美味しく食べられるじゃないですかの術!」
 長い。
「必要なのはガラムマサラをひとつまみ、これだけです! 素晴らしい!」
 ガラムがぱらぱらと目玉焼きへ振りかけたのは、彼女と同名のミックススパイス。
(「やっぱりカレーか」)
 同じ師団の一刀が遠い目をした。
「ん~、まぁ、マズくはないかな」
 信者達はガラムマサラ目玉焼きを食べて、大半が首を傾げている。
「美味しい物に罪はないのです、排除するなんてとんでもない。どうして共存共栄ができないのでしょうねぇ、ビルシャナって」
 ガラムは戸惑う信者にも構わず、正論を吐いてうっとりと目を細めた。


「お味噌汁には豆腐、冷奴にはお醤油……なるほど、同じ原材料を重ねる事は正義でありましょう」
 アウラ・シーノ(忘却の巫術士・e05207)が、一旦はマヨネーズ目玉焼き教に理解を示すように頷いてから、背負ったり肩にかけていた大荷物を地面へ降ろす。
 どさっ。
「ふぅ」
 大きなリュックを降ろした瞬間、仕舞っていた白い翼がぴこんと飛び出すのが可愛らしい。
 リュックの中身は携帯用コンロやフライパン等の調理器具で、クーラーボックスの中はバターに水、牛乳、甘酒。勿論肝腎の卵も忘れていない。
 しかも、重い荷物運びでむくんだ身体を、きらきら光ってお手入れする念の入れようである。
「ですが、私は申し上げねばなりません……マヨネーズの原料が卵と知っている方は、案外少ないのです……そこで!」
 早速割烹着を着込んだアウラは、コンロにかけたフライパンへたっぷりバターを引くと、卵を落とし、水を軽く足して蓋をする。
 信者達へ振る舞われたのは、黄身の色濃い半熟目玉焼き。
「あれ、終わり?」
 味つけの工程が無かった事を訝る信者。
「塩も醤油も、勿論マヨも一切不要、ほのかにバターの塩味がついただけの目玉焼きです」
 彼らへ堂々と説明するアウラ。彼女の推す味つけ、即ち素材の卵の味のみなシンプル極まった目玉焼きを。
「さあ、割った黄身をソースのように白身にまぶしてお召し上がり下さい……いかがでしょう?」
 最初こそ、狐につままれた顔をしていた信者達だが、
「うん、まあ、これはこれで旨いな」
 卵本来の味を味わうにつれ、意外にも賛同し始めた。
「そう、とろーり蕩けた黄身こそが目玉焼きの最高の調味料、真の『卵ON卵』なのです!」
 次第に熱を帯びるアウラの演説も、彼らの胸を打ったようで。
「真の『卵ON卵』か……」
「黄身を塗して白身食うの、結構イケるな」
 何人もの信者が、何の味つけもしていない目玉焼きを、ぺろりと完食した。
 さて。
「マヨネーズの原材料は殆ど油であって、大さじ一杯でお茶碗半分のご飯に匹敵する高カロリーなのです」
 遂に永代・久遠(小さな先生・e04240)が満を持して、マヨネーズのカロリーの高さを具体的な比較を用いて語り出す。
「それを元々栄養価の高い卵に使うだなんて……カロリーの過剰摂取でおデブさん一直線なのですよ!」
 加えて、マヨネーズ目玉焼き派の末路をビシッと容赦なく言い放つ姿勢は、シンプルながら教師然とした凄味があり、初動のジャブとして威力も充分。
「そんな物を布教するそこのビルシャナは全女性の敵なのです!」
「何だと……」
 断言されてわなわな震えるビルシャナを尻目に、久遠の糾弾は止まらない。
「そもそも、折角の素材の味を殺してしまうソースなんて邪道なのです! ナンニデモ=マヨネーズな味覚障害なマヨラーは黙ってろなのです!」
 珍しく語気を強めて吠えながら、手早く目玉焼きを作った。
「作ってくれた人に対して失礼だと思わないのですかっ!」
 どん、と信者達の目の前、テーブルに置いた皿の上には、丁度良い半熟具合の目玉焼きが、縁の焦げも申し分ない色づきで収まっている。
「その点、塩胡椒なら低カロリーなので安心です。とろりとした卵の食感に仄かな塩気とピリっとした胡椒のアクセント……これがパンにもご飯にも合う、シンプルにして一番美味しい食べ方なのですよ。疑うのであれば実際に食べ比べて下さい」
 久遠は、日頃から師団員へ飯テロと恐れられる表現力を駆使して塩胡椒の魅力を思う存分論じるや、信者達へお手製目玉焼きをずずいと薦めた。
「ん、旨い……胡椒は白身と相性良いな」
「黄身に塩を足すとこんな旨いのか」
 焼き加減も塩胡椒の味つけも元々完璧だったが、久遠はそこへひと手間、メイド服ならではのおまじないをかけて、塩胡椒目玉焼きの説得力が増すよう努力している。
「そう! 目玉焼きには塩胡椒こそ至高なのです! 仄かな塩気とピリリっとした胡椒のアクセントこそが唯一の正解なのですよ!」
 もはや信者を逆に洗脳しそうな勢いで力説する久遠。
 同じく塩胡椒派の一刀も、うんうんと穏やかな顔で頷いている。
「俺、これから目玉焼きには塩胡椒しかかけない!」
 そして、彼女の思惑通りに信者の1人が突然立ち上がり、塩胡椒派に転向する。
「俺も濃口醤油かけて飯に乗せて食う!」
「俺も!」
 ケルベロス8人の中でも多数派だった塩胡椒の影響は大きく、次々と正気に戻っていく信者達。
「俺は何もかけずに黄身を塗すの、家でもやろう」
「ガラムマサラ、近所でも売ってるかな」
 中には、真の卵ON卵やガラムマサラ党に乗り換えた者もいたが、とにかく信者全員がマヨネーズ目玉焼き教義を完全に捨てられて何よりだ。
「う、嘘だ、マヨネーズが只の塩胡椒に負けるなんて……」
 ビルシャナは信者にすっかり離反された現実を受け入れられず、茫然自失の態である。
「事ここに及べば、お主の負けよ。違わず浄土へ送ってくれる」
 その隙を突いて、一刀が見舞うは絶空斬。
「あなたは目玉焼きではなく……焼き鳥になっておしまいなさい!」
 トドメはアウラの煉獄符と、
「Is de tijd van het oordeel……」
 キーラの呼び寄せた裁きの雷が見事に決まって、宣言通りビルシャナを黒焦げにしたのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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