●夢、散って
「ほっと出来て、可愛くて、ずっとお喋りしていたくなる……そんな部屋に、出来たのに」
溜息の主は、可愛らしい『部屋』のすぐ隣にあるカウンターに両肘をついて、何でだろうと黄昏れていた。
フローリングは明るい茶色で、艶々のぴかぴか。
壁紙は、目にも心にも優しそうなクリーム色と白のボーダー。
床には、素足を優しく受け止めてくれる大きな大きな純白のラグマット。
抱えて顎を乗せると丁度良いぬいぐるみ達や、枕やソファ代わりに出来る沢山のビーズクッションも転がっていて、白レースのカーテン、その向こうでは星瞬く夜空がある。
「パジャマパーティにはぴったりの、キュートでガーリーなお部屋なのになあ……ココアや紅茶、朝までお喋り用の珈琲もこだわったし、カロリー控えめだけど、ちゃあんと美味しいお菓子も用意したのになあ……」
おからのクッキーに、砂糖控えめケーキは種類豊富で、全て摘んで食べられるプチサイズ。それらを乗せる皿は、藍色の縁取りに星屑が寄り添うお洒落なものにした。
なのに、と男の口は後悔を紡ぐ事を止めず、自分だけの空間を悲しげに見つめて笑う。
「……働くみんなの癒しスポットになればと、思ったんだけど。ビジネス街に作ったからかなあ……潰しちゃったなあ」
ああ、俺の夢もこれで終わりかあ。
涙を含んだ声が零れ、後悔の想いは止めどなく流れ――そして。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
心臓を一突きされた男はその場に倒れ、男を襲った女――第十の魔女・ゲリュオンは、男の傍らに誕生したドリームイーターを見て微笑んだ。
●ステキな夜のすごしかた
「自分の店を持つっていう夢を叶えたけれど、それがひとときの儚い夢に終わる……なんて、確かに後悔してもしきれないだろうなぁ」
後悔を抱えていた男性がドリームイーターに襲われ、奪われた『後悔』からドリームイーターが生まれた。撃破を依頼してきたラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)曰く、ドリームイーターを倒せば被害者は目を覚ますという。
「被害者の名前は猪戸・大吉、40歳。残念ながら潰れてしまったのは、ビジネス街にあったパジャマパーティが出来るお店だよ」
パジャマパーティ。それは、年頃の少女が集まってパジャマ姿で楽しい夜更かし――というものだが、仕事を終えた後、『よしパジャマパーティしよう!』という人は滅多にいないだろう。
「パジャマを持ち歩く人も、そうそういないんじゃないかしら……?」
花房・光(戦花・en0150)の疑問に、ラシードがうんうんと頷いた。
「一応、パジャマの貸し出しもしていたみたいなんだけどね。サイズはSからXLまで。タイプも和洋中と揃えて……でも、人が来ないと意味がない」
結果、閉店に追い込まれてしまった店に居座るドリームイーター。その外見は被害者に似ており、ごくごく普通の白いパジャマに、ぽんぽん毛玉の付いた三角帽子を被ったムキムキの成人男性だ。
「逞しい外見だからこそ、心を大事にと思ったのかもしれないね。さて、敵は戦闘になればモザイクを飛ばして大暴れ――なんだけど」
「なんだけど?」
「みんなでパジャマパーティをしてわいわい楽しむと、向こうも満足して弱体化する」
「まあ素敵」
更に、満足させてから倒すと意識を取り戻した被害者から後悔の気持ちが薄れ、『前向きに頑張ろう!』という気持ちになれるようだ。
ラシードはケルベロス達の参考になればと言って、プリントアウトした店の外観と内装、そしてメニュー表を配っていく。
月や星でデコレーションされ、店名の書かれたプレートはライトブルーのドアでゆらゆら。入ってすぐ靴を脱ぐ場所があり、『部屋』にあがった後は、飲み物やお菓子を片手に楽しいパジャマパーティを、という具合になっている。
「ごろごろしたりお喋りしたり。そんな風に過ごせば、きっと被害者である猪戸も嬉しいんじゃないかな」
彼が提供したかったのは、働く人々の癒しスポット。
リラックスして、笑顔で過ごしてもらう事が彼にとって最上の喜びだろう。
「それじゃあ、後は頼んだよ」
「ええ。『ブルーミング・ナイト』でのパジャマパーティ、大成功させましょう」
夢を、そして猪戸・大吉という男を救う為――ステキな夜を、過ごしにいこう。
参加者 | |
---|---|
ロゼ・アウランジェ(時謡いの薔薇姫・e00275) |
来栖・カノン(夢路・e01328) |
神乃・息吹(楽園追放・e02070) |
イーリィ・ファーヴェル(クロノステイシス・e05910) |
リルミア・ベルティ(錫色の天使・e12037) |
フェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342) |
ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679) |
月守・黒花(黒薔薇の君・e35620) |
●乙女ばかりのパジャマパーティ
ハムスターのぬいぐるみクッションを抱え、後ろに倒れればビーズクッションに受け止められる。その勢いで、フリル踊る薄青色の裾が一瞬浮き上がった。
「私の部屋より女子力高いです」
「そうなの?」
隣でビーズクッションにもたれていた花房・光(戦花・en0150)に、はい、と肯定したリルミア・ベルティ(錫色の天使・e12037)のパジャマは、青と白の小花柄が愛らしいワンピース。そんな彼女の感想を猪戸・大吉が聞いたら、どんな風に喜びを表したろう。
壁紙を彩るボーダー柄は淡い色合いで、ラグマットを掌で撫でれば心地良く、『部屋』のあちこちに愛らしいアイテムが転がっている。
そんな空間の隅には『店長似の夢喰いがいるカウンター』というオマケも付いているが、まずは今夜のパジャマパーティを楽しむ事が最重要事項。その為の装いは皆バッチリで。
「ロゼさんの眠り姫、やっぱりすごくお似合いです……!」
「桜さんこそ、本当に赤ずきんちゃんの様で」
可愛い、と笑顔を綻ばせたロゼ・アウランジェ(時謡いの薔薇姫・e00275)は、頭に小薔薇とティアラの髪飾り、彼女と一緒に来た桜は桜の髪飾りを付けていた。
2人ともふんわりキャミソールだが、ロゼの物は薄ピンクのフリルとたっぷりのリボンで彩られ、赤いフードの付いたボレロも纏った桜の物は、白フリルとリボンのアクセントが愛らしい。ロゼのテレビウム・ヘメラも、主と色違いのお揃いを着てか、嬉しそうにステップを踏んでいる。
ラグマットの上にぴょんと飛び乗った来栖・カノン(夢路・e01328)は、レースをあしらったベビーブルーのネグリジェ姿。弾む心そのままの笑顔を浮かべていた。
「えへへ、初めてのパジャマパーティ、とっても楽しみなんだよ!」
くるり回れば、レースもふわりと舞う。
「似合ってるかなあ?」
「ちょーかわいい! 似合ってる!」
断言したジャスティンはキャミソールに南瓜パンツスタイル。ピンクの色合いが春らしい少女に言われ、カノンはまた笑い――ふと香った甘さを探して顔を動かせば、琥珀と一緒にカウンターに行っていた月守・黒花(黒薔薇の君・e35620)が戻ってきていた。
裾や袖口を鍵盤と五線譜で彩られた白のパジャマを着た黒花は、銀のお盆をそっとラグマットの上に置く。
「皆さん、ケーキと飲み物貰ってきました。頂きましょう」
種類の多さは、まるでケーキブッフェ。初めてのパジャマパーティ、その予習をしてきたミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)は目を輝かせていた。これは想像以上に嬉しい。
「これ好きなだけ食べていいんじゃろう?」
夢喰いの方を見れば、カウンターに両肘ついた夢喰いがニッコリ笑顔でウンウン頷いている。プチケーキを全て美味しく頂いたら、その後は? その疑問に、テレビウム・シュルスとお揃いの中華系パジャマに身を包んだイーリィ・ファーヴェル(クロノステイシス・e05910)が、心配ご無用と声高らかに。
「追加でもって来ちゃいました!」
だって魅惑のお菓子はすぐに無くなる運命。あのね、あのねと広げたのは、ミントやラズベリーのチョコレート。
「オススメいっぱいだからみんな食べよー」
「フェリスは飲み物を用意してきたのよ。ホットジャムミルクなんてどうかしら?」
「2人とも準備がいいのう」
感心した梅子はあったかリス耳フード付きパジャマで、フェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342)が用意したものは、彼女が着ているもこもこパジャマと同じくらい、お休み前の心と体を温めてくれそうだった。
ショートパンツを穿いているけれど、大きなシャツパジャマ姿でちょっぴりセクシーな装いの神乃・息吹(楽園追放・e02070)は、フェリシティからホットジャムミルクを受け取り、ふふ、と笑った。これは絶対、楽しい時間になる。それに。
「パジャマパーティとか、ちょっと憧れてたのよ、ね。ツーも、お貸ししたパジャマ、良くお似合いよ」
「ほんと? カワイイ?」
へへー、と笑ったツーはパーカーに付いている兎耳を掴んでご満悦。
そうして皆が皆笑い合えば、美味しいお供を味わうわけで。
「こんな時間に甘い物なんて、ちょっと背徳感ね」
「今日は無礼講です!」
息吹に黒花が力いっぱい返し、食べましょう、とチョコケーキに手を伸ばした。一口で味わえば、しっとり濃厚な味わいに笑顔が零れる。他のもきっと、とびきり美味しい。1つ摘んで食べればその通りで――。
「あ、黒花の食べてる苺のケーキも美味しそう」
温かいミルクティーにチョコケーキ。2つを順に味わっていた琥珀の目がお盆へ、そして黒花の持つケーキへチラチラリ。今日くらいは好きに食べても、と迷っていると。
「半分こ、する?」
甘くて美味しい助け船の横では、沢山のプチケーキを前に暫し迷う声。
「んー……イブは苺のと、チョコのにするのよ。ツーはどれにする?」
「あたしチーズケーキにする! ……やばいこの時間のこれは罪の味」
一口食べて感じ取った危機。けれど今日はパジャマパーティ。『ま、たまにはいっか』が魔法の言葉になる夜だ。
生クリームとフルーツたっぷりの物を食べたカノンは、頬張ったまま目を輝かせる。
「わ、わ、お砂糖控えめなのにすっごく美味しいんだよー!」
喜びでじたばたすれば、隣のジャスティンも笑顔でもぐもぐ中。
「パジャマでごろごろしながらケーキ食べれるって最高!」
「明日からダイエットしないと」
けれどリルミアは、紅茶をお供に全種制覇を目指さずにはいられない。
銀の盆、その上に並ぶプチケーキはどれもこれも順番待ちをしているよう。乙女達は皆、1つ1つ味わいながらお喋りに花を咲かせていった。
●女子トークも、コイバナも
梅子の指が器用に動く。折角可愛いパジャマ姿、『ちとかわいくしてやろうかのう!』という事で、フェリシティの長髪――弄り甲斐のある髪を前に、どんな髪型がいいかと楽しく考えながら、イーリィに教えつつ器用に編み込んでいく。
「なるほど、こうやって、うんばっちり」
イーリィの出来た、を聞いて編み込んでもらった髪に何度も触れる。窓硝子に映したフェリシティはくすぐったそうに笑った後、イーリィと一緒に梅子の後ろに並んだ。
「今度はフェリスとイーリィの番ね」
「フェリスには私が教えるね」
「わしの髪も編み込んでくれるのじゃ? わーいなのじゃ、完成が楽しみじゃのう!」
そして数分後。
「うんっと、えっとこんな感じ?」
ちょっと不器用な手付きのフェリスが、たまに『あれ? 次はどこから取るんだっけ?』と小声でイーリィに訊いたりしつつ、2人で完成させたのは。
「すっごく可愛いよ梅子!」
「あ……うん、可愛いからオッケー!」
「……む? 何をそんなに妙な顔をしておるのじゃ? さて、どうなって……」
「ダメ! 後、後で!」
そこにあった多分危機を回避して、今度またお泊まり会を――と次の約束も。その時は星空が見えるように、と提案するフェリシティの膝上では、箱竜・そば粉がウトウトと。その微笑ましさに、リルミアは笑みを零しながら目の前に視線をやった。光の長髪に手を添え、櫛を通す。
「そこに自分以外の長い髪があればいじりたくなります」
「ふふ、わかるわ。後で私にも弄らせてもらえないかしら?」
とても綺麗な金髪だから、と言われ、リルミアも笑顔を返す。と、その指先からするりと流れた髪を見て湧き上がる興味。
「シャンプー何使ってます?」
乙女同士の触れ合いは、こっちでも。
「ふわふわな角? と翼と尻尾、前から気になってたんだー!」
「いいよジャスティンさん。お手入れはちゃんとしている方だと思うから、きっと触り心地いいはずなんだよ」
もふもふさせて、のお願いにカノンが答えれば、ジャスティンからお礼にと箱竜のピローを差し出される。その触り心地は、言われた通り抱き枕のようだった。
「ピローってお名前にも頷けるんだよう……」
そして弾む会話は、カノンの家系はもふもふなのかという事。自分以外は全員鱗系。そう言ったカノンを、ジャスティンはピローごとぎゅっと抱き締めた。
「あ~このまま寝ちゃえたらもっと幸せなのに~」
「わわ……!」
戯れる少女達。ぱたぱた動く尻尾。ほら。
「ツー……これが女子会と言うヤツよ」
「なんか照れちゃう!」
「空気からして華やかで、女子力が満ちてるわよね」
見習わねば、と息吹はしみじみしながらツーと。ツーも集音デバイスの精度を上げ、息吹と視線を交えニカッと笑った。
「女子会ってきらきらしてるね。なんか自分もきらきらしてきたみたい!」
その笑顔に息吹は目を細め、ふ、と微笑む。傍にあった猫ぐるみを抱いて、ぽつりと言った。
「美人さん揃いなのに、コイバナは控えめかしら。参考にしたかったのに残念……あぁいや、なんでもないわ?」
「えっ恋バナ? なになに、恋バナ振ってきたってことはなにかあるんでしょー!」
目を輝かせ食い付いたイーリィは、自分は口が堅い方だしと胸を張る。
「梅子おばーちゃんとか経験豊富っぽいけどー?」
「残念ながらわしにそういう浮いた話はないのじゃよ! おばあちゃんじゃからの! それよりもふたりの話がきになるのじゃ!」
「えーフェリスはー?」
持参したホットジャムミルクを飲んでいたフェリシティは、その効能に引かれかけた自分を力いっぱい戻した。
「みんなの恋バナ聞くまで寝れませんけど! 聞く準備なら万端だからねっ! 任せて!」
「うむ、わらわもみなの話を聞かせてもらうかのぅ。わらわの今後に絶対役に立つじゃろうしの。詳しくじゃぞ!」
「ボ、ボクも聞きたい!」
参考になりそうな気配にミミは期待と聞く気満々の、カノンは興味津々といった姿勢だ。息吹は、恋バナと聞いた夢喰いの目も何やらキラキラしているのに気付かないフリをしつつ、首を傾けた。
「美人さんが多いし、綺麗の秘訣とか、是非ともお聞きしたいのよ」
「私も、スイーツのレシピやお店の情報交換とかしてみたいです」
リルミアも乗れば、この流れは誰にも止められない。口火を切ったのは黒花だった。
「皆さんの好きなタイプの男性ってどんな方? 私は、強く美しく、誰にも汚されない孤高さがある人が好みです」
何人かは頬を染め、また何人かは小さな歓声を上げる。黒花もほんの少し頬を赤くし、初恋なのだと囁いた。隣のツーがつられて照れたのに気付き、息吹はツン、と突く。
「その辺、どうなの? ツーの好みってどんな人?」
へっ。少し裏返った声の後、ツーは少し考え、あっ、と声を上げてから息吹を見た。
「あたしのデータの中にはまだ『恋』がないから、そのこころをあたしにくれるひとがいいな!」
イブキはもうそのドキドキを知ってる? どんな感じか教えて、と思わぬカウンターに、今度は息吹が目を瞬かせた。
「えぇと。そうね……イブはもう知ってる、かも。でも、今は秘密」
ツーもいつか恋をくれる人に出会えたら、その時は語らいましょう。2人が約束を交わす傍ら、黒花も琥珀に好みのタイプについて訊いていた。
「あまり考えた事がなかったな。うーん……」
出て来た答えは、一緒にのんびり過ごしてくれる人。隣に居るだけで安心できるような、そんな相手となら、長く居られる気がすると。
「いつか素敵な人と出会えたら良いな」
「うんうん。隣にいて安心できる人は大事よね」
「……ね。黒花の初恋のこと、もっと聞かせて?」
黒花の理想はその初恋の相手なのか。年上の男性なのか。気になった琥珀からせがまれ、黒花の白い頬が赤くなる。
「初恋の方は、年上よ」
話した事はない。けれどあれは、一目惚れだった。
次のバトンを受け取ったのは、ケーキを摘んでいた桜。フードの色が落ちたように、頬を赤くして『彼』への想い、その切欠を話し始める。
「桜の、彼の好きなところは……良いところも、悪いところも、全部だけど」
自分が泣けなかった時に代わりに泣いてくれた事が、とても嬉しくて――。
「好きだなあって、思ったのよ」
「すごく素敵。ふとした瞬間に愛に気がついたのね」
慈しむように桜を見つめ、ケーキを摘んだロゼ――だったけれど。
「桜はね、ロゼさんのプロポーズのお話、聞きたい……」
「え!」
プロポーズ、と聞いた全員の目がロゼに注がれる。恋仲になるのと、そこから夫婦になるのとではやはり次元が違う。何やら夢喰いも物凄い真顔で見ている気がしたが、ロゼは絶対にそっちを見なかった。
「クリスマスに2人で飾ったツリーの前で『ずっとそばにいさせてほしい。この命にかえて貴女を守り、幸せにすると誓います。だから僕と結婚してください』って」
「いいなぁ、すごく素敵なプロポーズ……!」
「やだ、カッコイイね旦那さん!」
憧れます、と桜は夢見る眼差し浮かべ、イーリィは小さく拍手する。プロポーズの時を思い出して、ロゼは頬を薔薇色に染めながら、テレビウムのヘメラをぎゅっと抱き締めた。
しみじみ頷いていた夢食いがカウンター席から動いたのは、その時。乙女心で溢れた楽しいパジャマパーティが、違う空気へと変わっていく。
●夢の終わりとリスタート
しぱぱぱ、と投げつけられたファンシーピンクなモザイクが、すぽっとミミを呑む。
「かわいそうだと思ったが前言撤回じゃ! やっつけぬわけにもいかぬしのう!」
怒ったミミの前方、黒花は夢喰いの姿をしっかりと捉えたまま、その精神を極限まで高めた。
「ガールズトークに割って入るなど、無粋です!」
精神を起爆剤とした一撃と叱咤の声。夢喰いの体が衝撃で震えたそこに、ロゼは自爆スイッチに手をかけ、そ、と微笑んだ。
「楽しい時間をありがとう」
「楽しい時間をくれたお礼に、一思いに倒して差し上げるのだわ」
続いた息吹も加わって礼と共に起こるのは、カラフルな爆発と雷壁の華麗な共演。ヘメラの流す動画も一緒になって仲間達の心身を鼓舞する。
「ほんと、パジャマパーティすっごく楽しかったよ。ありがとね!」
「私も、パジャマパーティ楽しかったです」
『部屋』を駈け抜けた炎――イーリィの蹴撃が炎と共に決まり、彼女の声を受けたシュルスが顔に動画を映してミミをめいっぱい応援した。
「趣向は悪くないと思うけど、その場所のニーズにあったお店を出そうってことかな?」
ビジネス街じゃね、とイーリィが納得顔を浮かべた直後、リルミアの放った雷撃が弾けながら火花を散らし、続いた光の斬撃がモザイクを断つ。
攻撃を受けても尚、ニコニコしている夢喰いにかける感謝の言葉は、夢喰いの元となってしまった大吉が、夢を叶えようとしたからこそ過ごせたひとときだったから――ケルベロスの少女達は、大吉の為にと仲間への支援と攻撃を続けていく。
「そば粉!」
フェリシティの起こした紙兵が燕のように飛び回る中、声を受けたそば粉が全力で羽ばたき、癒しもたらす属性を贈った。
「ルコ、ボク達も!」
カノンの駆けた軌跡が炎を起こし、激しい蹴撃の直後に虹と草花纏った箱竜・ルコのブレスが『部屋』を煌々と照らす。
「よし、ゆくぞテレビウム!」
さっきのお返しとばかりにミミは竜槌から砲弾を撃ち出し、テレビウムも眩い光を発した。
目を庇うような仕草をした夢喰いが、ずり落ちかけた三角帽子を直しながら口をもごもごさせ――合わせた両手を肩頬の下に。俗にいうオヤスミポーズと共に発せられるむにゃむにゃが、ケルベロス達の与えた傷を癒す。
だが、心ゆくまでパジャマパーティを楽しんだケルベロス達によって、傷を癒しても、繰り出す攻撃の威力は格段に落ちていた。
ガーリーな『部屋』での戦いにそう時間はかからず――後悔から生まれた夢喰いは、ニコニコ笑顔のまま消えていった。
バックルームで意識を取り戻した大吉は、大きな体を何度もくの字にして礼を言う。最初に謝罪を口にした後、ずっとありがとうを繰り返していた。
「閉店は残念だけど……でも、何だろう。思ったより気持ちが明るくて」
「それは良かったのじゃ。わらわには、ここは天国のようじゃったぞ」
またパーティをしたいくらい。ミミの感想に大吉は心底嬉しそうな笑みを浮かべており、それを見たリルミアは密かにほ、と安堵の息をついた。
黒花と息吹も柔らかな笑顔を浮かべ、改めて礼を伝える。一番伝えたかった相手は、あの夢喰いではなく大吉その人だったから。
「とても楽しかったです。こういったお店、運営していくのは難しいかと思いますが、頑張ってください」
「お店としては難しかったかもしれないけれど……とっても癒されたのよ。有難う」
楽しかったひととき、癒しの場所。そして、応援の気持ち。どれも真のものだという事が伝わったのだろう。大吉が一瞬涙ぐんだ後、そっと手を差し出してきた。
「本当に、ありがとう」
ここでは駄目だったけれど、店を開ける場所は他にもある。
救われたから、また頑張れる。
希望と前進を胸にした大吉の笑顔は、春のように朗らかだった。
作者:東間 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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