二丁拳銃の賊

作者:森下映

「はーい。みなさんこんばんわ〜。ヒマリの気になるうわさ、しらべちゃおー! の時間で〜す」
 Tシャツにショートパンツ、長い髪をツインテールにした少々あざとい感じの女の子が、スマホで動画を撮影しながら、海辺の岩場を歩いている。
「このあたりにはなんとなんと、海賊さんの亡霊が出るってうわさがあるんですけど……あっ! 見えてきました!」
 フレームインさせるように伸ばした指の先には、洞窟の入り口らしきものが見えている。
「その海賊さんというのはですね、あの洞窟に隠されている宝を守ってるんだそうです! んで、近づいてきた人を両手に持った拳銃で……」
 少女が片手でスマホをぶんぶん振る。恐らく画面はぐらんぐらんの大変なことになっているだろう。
「……という具合にしちゃうそうです! わかりますよね!」
 そうこうしながら洞窟の入り口についた。少女は中をライトで照らし出し、
「今のところ海賊さんはいないようですね〜では、さっそく宝を探しに洞窟に入りましょうー! ……え、ヒマリが危ないって? へーきへーき、この動画をみなさんがみてるってことはヒマリ、無事ってことですから! ゆーしー? じゃあ、れっつごー、」
 ぱたりと少女が倒れた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 たった今少女の心臓を突き刺したばかりの鍵を手に、第五の魔女・アウゲイアスが言う。
 その隣に現れたのは、2メートル以上ありそうな筋骨逞しい男。
 男は羽飾り踊るパイレーツハットからうねった黒髪を垂らし、赤いコートを腕を抜いて羽織っていた。大きく開けた胸元には3重の鎖飾り。黒い顎髭を蓄えた顔の右頬には大きな傷跡が走り、重厚なロングブーツを履いた脚は腿の筋肉の盛り上がりが黒革の上からもわかる。
 そして黒革のグローブをはめた手には、左右それぞれに拳銃が握られていた。

「海賊型のドリームイーター……か」
 資料を覗き込もうと足元でぱったぱったしたり背伸びをしたりしていたテレビウムのミュゲを抱き上げながら、レイヴン・クロークル(偽りの黒翼・e23527)が言った。セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は頷き、
「『興味』を奪ったアウゲイアスは既に姿を消していますが、この奪われた『興味』を元にして現実化したドリームイーターは事件を起こそうとしているようです。被害が出る前にこのドリームイーターの撃破をお願いします」
 ドリームイーターを倒せば、『興味』を奪われ、洞窟の入り口に倒れている被害者も目を覚ます。

 海賊型のドリームイーターは、洞窟から続く海辺を徘徊している。そして人間を見つけると自分が何者であるかを問い、正しく答えられなければ即座に殺してしまう。
「この場合だと『洞窟に眠る宝を守る海賊』が、正しい答えか」
「はい。正しく答えれば何もせずに去っていくようです。皆さんには戦闘に持ち込んでいただかなければなりませんが、どのように答えても戦闘に影響はないでしょう」
 さらにこのドリームイーターは、『自分の事を信じていたり噂している人がいる』と『その人の方に引き寄せられる』性質がある。
「それを利用してうまく誘き出せば、恐らく有利に戦えるな」
 ドリームイーターのポジションはスナイパー。クイックドロウ、制圧攻撃、バレットタイム、跳弾射撃、リベリオンリボルバー相当のグラビティを使用する。

「夜の海岸での戦闘という事をふまえての準備が必要かもな」
 レイヴンが資料から顔を上げると、狼耳もぴくりと動いた。
「とにかく犠牲を出すわけにはいかない。確実にドリームイーターを倒して、このヒマリという子も無事に助けださないと」
 レイヴンの言葉に、ミュゲもうんうんと頷く。
「どうか、よろしくお願いします」
 セリカはそう言って、頭を下げた。


参加者
藤守・つかさ(闇視者・e00546)
小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)
レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)
ルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890)
レイヴン・クロークル(偽りの黒翼・e23527)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)

■リプレイ


「足元に気をつけろよ」
 腕から降りるなり走り出したテレビウムのミュゲを心配し、レイヴン・クロークル(偽りの黒翼・e23527)が言う。ライトをグリーンのスモックドレスにつけてはいるものの危なかっしさは否めない。と、その後ろを薄い羽根をぱたぱた、首長竜のような箱竜のハコが飛んでいく。
「ハコ、ちゃんと見てあげてね」
 朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)が声をかけ、
「そう言えば、レイヴンさんとつかささんと一緒の依頼って初めてだね?」
「そうだな。というか、結も前向かないと危ないぞ?」
 藤守・つかさ(闇視者・e00546)が言うと、
「大丈夫なんだよ、滑りにくい靴はいてきたんだよ」
 と、追いかけて行ってしまった。
「お、準備運動に追いかけっこかなー!」
 タンと岩を飛び越して桜色の髪まで駆けていく。小早川・里桜(焔獄桜鬼・e02138)はあっというまに追いつき、結に後ろからわっとやっている。
 つかさはレイヴンと顔を見合わせ肩をすくめた。スリーブレスと黒手袋との間の素の腕は鍛えられているのが傍目にも分かる。レイヴンの白煉の名を持つ一揃えは結からの贈り物。褐色の肌に長袖と手袋。両腕は、外には出さない。
「ルイとも依頼は初めてだな。里桜もか」
「そうですね。何かとクロークルさんにはお世話になってはいますが」
 青い炎が燈るランプをかざし、ルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890)が言った。黒髪に髪留めの様に縦に並んだ瞳と同じ赤い縷紅草の花。鷹に似た翼は星のない夜空を飛べば紛れそうだ。
「宝の噂は昔から変わらないな」
 レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)ブーツの踵を蹴るようにして足場を確かめた。
「ガキの頃は宝探しもやったもんだ。何も見つからねえのがオチだが……今回は番人に会えるときたか」
 但し、夢喰いの。白い髪に竜の角もつドラゴニアン。かつて利き腕だった右腕に今は地獄の銀炎を纏い、左手でシングルアクションの古めかしいリボルバーを扱う。
「海賊とはね」
 大きな天使の翼にピンク色の花咲く長い金の髪、胸元には寄り添うバラが描かれたペンダント。アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)。天光色の魅力的な瞳を持つ顔立ちは美しい少女のそれだが、はきはきと喋る様は少年的であり、かつ年齢よりも落ちついた印象を受ける。
「日本に海賊が居なかった訳じゃないだろうに、出現するのが洋風な辺り…… うん、まぁ、深く追求しないが吉か」
「噂って流行りものから影響受けるわよね」
 小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)。ショートカットの黒髪に赤い瞳。戦闘用に仕立てたチャイナドレスのスリットから細い脚が覗く。
「このあたりでどうかな?」
「岩も少ないですし、良いのではないでしょうか」
 ルイが言う。
「そうだね。過不足がないように光源を置いておこう」
 アンゼリカが言い、皆で場所を整える。そして誘き出しへ。
 里桜がハンズフリーライトを点けた。照らされた横顔には長めの前髪がかかり、縦の傷が赤い右の瞳を通る十字の傷がある。
「海賊ってどんなのかな? すっごくゴツくてすっごくヒゲモジャで、すっごく強いかなー!」
 里桜が言うと、アンゼリカは、
「どうだろうな。宝を守っているのだから、相応の強さはありそうだ」
「私、海賊って、ちょっと素敵だと思うの」
 結が言った。こういうところがとっても女の子だなあと里桜は密かに思う。
「素敵、素敵なぁ……」
 つかさは折り曲げた指を顎先に当てながら、
「海賊……は、まぁ割とロマン方向になる……場合が多いよ、な?」
「ロマン? ロマンかな?」
 結とハコが同じ方向に小首を傾げる。と、
「洞窟のお宝といったらロマンだよ! というかお宝ってなんだろう……」
 涼香は言いながら、セーラー衿の似合うロシアンブルー風翼猫のねーさんをじっと見て、
「私だったらアレかな。猫グッズとかかな」
「猫好きの海賊ならありえますね」
 ルイは微笑み、
「二丁拳銃の海賊……やはり興味は湧きますね」
「ああ。ぜひ相手をしてみたいものだ」
 以前はガンスリンガー。ミュゲの砂をはたいてやりながらレイヴンが言った。その時。
「俺が何だか分かるか?」
 赤いコートが風に生き物のように動く。砂を踏みしめて立つ脚の両脇には銃をもった手が垂れ下がり、不敵な笑いを唇に浮かべる。禍々しさに思わず後ずさった結を、レイヴンとつかさはさりげなく隠すように立つ。
(「いよいよ!」)
 里桜の口角が上がった。強さを望む戦闘狂にして、死合中毒者。かつて力の無さを憎み、弱さを呪い、傷痕を残して全てを奪い去った宿敵を求める途の上。
「えーと、」
 涼香が前へ出る。
「コスプレの人?」
 海賊の片眉が上がり、
「時代錯誤な格好してようと、夢喰いは夢喰いだ」
 レスターと海賊の視線が合った。
「おれもちょっとは銃が使えるんでな。どっちが上手か試してみようじゃねえか」
 レスターが左手で銃を構える。
「見せてみろ、海賊の銃捌きってもんを」
 ――船出の準備はできたか。二度と戻れねえ船旅の。
 海賊は正面のレスターから目を逸らさず銃口を真横に向け、引き金を引いた。


 レスターは狙いをつけたまま横へ跳んだ。海賊は逆へ跳ぶ。砂が舞った。その煙幕の中、金の髪のオラトリオが舞い降りる。
「――さぁ、黄金騎使がお相手しよう」
 もう1度砂が舞った。海賊は一瞬上を見上げると直ぐに上体を下げ避けようとしたが、叶わず。アンゼリカが大きく回した脚が煌めきを連れて海賊の左半身を蹴り飛ばす。同時遠くで弾丸が跳ね返った。
 血が滴る顔をのけぞらせた海賊の頭から帽子が落ちる。海賊が爪先でそれを跳ね上げるより早く里桜の手が掴んだ。里桜は帽子を指先で回しながら、軸の片足で安安とバランスを取り、脇腹へ長い脚を振りかぶる。
「ホラホラ、掛かってきなよ!」
 アンクレットが揺れ、足先が肋骨を砕いた音がした。
「骨も残らず、焼き尽くしてあげるからさァ!!!」
 耀く赤い瞳は走る傷をも燃やしそうだ。好きに戦えばいいと思える位の縁がレイヴンにはある。一瞬目を閉じた彼の手には光剣が現れた。
「銃で勝負……は銃使いの方が向いてるだろうさ」
 つかさは漆黒のナイフを顔の前に水平に構え、もう片方の中指で刃先を触れる。
「そっちの得物がそれならこっちはこれ、ってな。『我が手に来たれ、黒き雷光』」
 電気音が肌を鳴らした。尤も本当に得意なのはナイフでもない。出自からすれば当然、必然。理由あって今は使わない日本刀が、彼の。
 海賊が大股に跳び、空中で番犬達を見渡した。
「今、回復するね!」
「頼む」
 結の声。死角から襲いかかった銃弾がレスターの左背から胸を貫いていた。温かな光が傷の熱さとひりつきを和らげる。
「助かった」
 と言ったレスターに結が手をふって応えた。ハコは旋回、海賊へ氷の息を吐きかける。
(「必ずみんな、支えきるよ!」)
 結の胸に誓いが灯る。眼前つかさが踏み込みナイフを真横へ薙ぎ払った。後ろからはレイヴンが袈裟懸けに光剣で断ち、黒い雷と光の瞬きが混ざりあって散る。ミュゲは愛情たっぷり強度もしっかりなドットのパラソルで攻撃、海賊の顔が恐怖に翳った。
 続きレスターが撃鉄を起こす。音に気づいて動くより早く、弾丸は海賊の右のリボルバーを破壊していた。海賊は舌打ちをして駆け機会を狙う。しかし。
「『蒼き祈りは蒼黒の意志。この身に宿す魔力を以って、その意志貫かせて頂きましょう』」
 練り上げられる魔力に空間が蒼く透けた。守護と幸運を司る勾玉は、彼が主と呼ぶ命の恩人が作り上げ、其れを通され宿された力は『護りたいものを確実に護れるように』。
 広げた翼が蒼を映す。ルイが纏う煌めきへ、涼香が放ったオウガ粒子が重なって落ち、ねーさんの羽ばたきから送られた風は浄化の力を贈る。
 両手に握られる、柄に星を抱く蒼く長い刀身の星座剣。一閃、二閃。魔力得た剣は壮麗に動き、海賊の胸元へ深い傷を刻んだ。海賊は不快な音を立てて唇の端から血の泡を零す。が同時、気配に結の耳がぴくりと反応する。
「気をつけて!」
 海賊が砂を蹴った。
(「ここは守る、」)
 涼香が真っ先に飛び出す。辺りが燃え上がった様に見えた。射撃の炎、翻るコートの紅。耳障りな鎖の音。前衛へ飛びこんできた海賊の攻撃は盾役達が受けきった。ねーさんの翼は燃え、相性の悪さもあって傷も深い。が、
「『穢れ祓う翅、風となって、そこに』」
 翡翠色の風が結自身の髪を揺らし涼香達の首筋も通り抜ける。ねーさんの炎が消えた。さらに結は、
「ミュゲちゃん、お願い」
 頷きミュゲが動画を流すとねーさんが見入る。ハコはお菓子缶ごと体当たり。海賊が銃で払いのけるより早くが飛び去った視界には、滔々と左眼から焔を流すレイヴンの姿があった。
「『逃れてみせろ、出来るものなら』」
 構える銃は漆黒と白銀。止まらない後悔の様に過去る夢の様に流れる焔は弾丸となって装填される。
 海賊は外周へ逃れようとした。だがレイヴンが左右同時に引き金を引き、獄焔の驟雨が降り注ぐ。
「ギャアアアアア!」
 全身が穿たれ、海賊が獣のような声を上げた。焔の残滓は海賊の神経を焼き続ける。過剰に焔を零し続ける事が負担である事は近しい者にはすぐにわかった。しかし誰も口にはしない。どの道心配をかけまいと、問題ないというだろうから。
 不器用な白狼。ならばとつかさはナイフを握り直す。今は全力で、敵を倒すだけ。


「おっと! 銃の腕はさすがってとこだね」」
 見切ったつもりが里桜の肩を弾丸が削り、チョーカーの首元まで血が跳ねた。海賊が笑う。敵は攻撃を外さず、逆に此方の攻撃は度々躱される。が海賊も意識と身体の自由は鈍ってはいる。
 と、海賊の真後ろから涼香が飛び上がった。
「隙有り! っていうのかな、斧だけど!」
 刻まれたルーンが光り、浮かびたなびく。ねーさんは尻尾を一振り、リボンのリングを放ち、涼香の斧が海賊の頭を思いきり叩き割ると、どうと流れた血に海賊の顔が血に染まった。
 ねーさんのリングが手錠の様に海賊の両手を締め付ける。その一瞬に死角へ滑り込んだつかさが空の霊力を宿した黒刃で傷を斬り広げ、ルイの二剣が海賊の顔にまで走る十字斬りを叩き込んだ。
 結はミュゲや盾役達と協力して戦線を支え、ハコも確実に傷を抉り呪を破壊、アンゼリカも海賊の四肢を止め、凍らせていく。連携が頻発した事も大きな利となった。
「撃つのなら、我が魔法も負けてはいないさ」
 アンゼリカの身体が光を帯びる。光状のグラビティが彼女の手元に集束した。
「闇を払う銀の剣――これが、光だ」
 約束の魔法。唇に絆と約束を。追い詰めるアンゼリカの両手にあるその輝きが、最高の光を放つ。
 あえて踏み込まず全身を弓のようにしならせ、アンゼリカが光を振り下ろした。光に半ば喰われながら走る海賊の前、里桜が緋色の符を勢い良く宙へばらまく。一斉に発動した符に桜散り、光鳴り。
「『ま・しぇりみたいに上手くないケド……下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるってね!』」
 瞬間、全ての符が見覚えのあるマスケット銃となって里桜の周囲に次々と突き刺さった。双焔とお互いを呼ぶ、燃える髪のガンスリンガー。
「とは違うケドね!」
 引き抜くや否や撃ちこんだ炎弾は、膝を曲げのけぞった海賊にかわされた。しかし、
「当たらないなら、当たるまで撃ち続けるだけだ!」
 見よう見真似の銃技、どの銃も既に撃鉄は起こされている。戻ってきた海賊の上体を次に引き抜いた銃が襲い、まるで炎弾の雨霰。
 魔法が飛び交い、ナイフが閃き、銃弾が燃える戦いが続く。ひととびで後衛の前にもコートの赤が翻り、駆け込んだ涼香のチャイナドレスの肩口が血に濡れ、腕を伝った。レスターからは炎が咲き、背に傷を受けたレイヴンは緩みかけた前足をわざと強く踏んで跳ぶ。
 結は痛みに歯を食いしばった。気遣う瞳は心強い。でもそれ以上に、
「大丈夫! 絶対に倒れさせないし、倒れない! だから全力で行って!」
 片腕を夜空を仰ぐように払う。翡翠色の風は強い渦を作って前衛の炎を吹き飛ばした。流れる血を厭わず突っ込んでいたレスターは、右腕を纏う銀炎を無風とよばれた竜の『骸』にまで纏わせ、叩きつける。
「『穢れを払う風を』」
 ミントの香りがしたような気がした。後衛へ涼香が吹かせた癒しの風。レイヴンは回復してくれたミュゲに頷き、獣化した脚で海賊の腹を蹴り潰す。
 盾役の体力は削れてきていた。が、海賊も回復を繰り返す。
「『約束だ。……来い』
 レスターが骸の切先で敵を指し示す。途端灰燼が軍勢の貌と為って吹き抜けた。亡者の鬼哭が竜の骨から滲み出し、敵を討ち果たせと鼓舞が前衛の背中を押す。
「まだまだ行くよ!」
 際限なくも思える銃を次々と引き抜いては撃ち込む里桜の炎弾の間を器用に抜け、つかさはナイフの黒刃を酷と変化させて正面へ出た。反射的に海賊が銃を振り上げる。しかしばさりと羽ばたく音、金色の影、頭上から落ちる羽根。そして強烈な蹴りの一撃。
「騎使は魔法や剣技も得意だが―…足癖も悪くてね」
 アンゼリカが片膝を立てて着地。つかさは開いた脇を抜けて背側へ回り、
「そろそろいいんじゃないか?」
 一夜の夢で十分だ。刻み目並ぶナイフを突き刺す。逃さずルイは魔力宿した蒼剣を左右違えて真横へ振るい、
「貴様にはもう、流す血もないだろう」
 海賊が銃を構えた。レイヴンは涙の様に焔を流す。
 同時に銃声が響いた。レイヴンの頬に血の線が走る。ミュゲが駆け寄った。大丈夫だとレイヴンが言う。
「ウオオオオオーーーーー」
 地獄の焔が海賊の身体を満たし、無と消し去った。


「ヒマリさん、早く起こさないと風邪ひいちゃう!」
 と駆け出した結の後を追いかけて皆で洞窟の入り口へ。
「死にたくなけりゃ無闇に危ない事に首突っ込むな」
「デウスエクスが出なかったとしても、夜の海に女性1人は危険ですからね」
「はあ〜い……」
 起きるなりヒマリは、レスターとルイに正座で怒られている。涼香は、
「危ないとは私も思うよ。好奇心旺盛なのは……まあ、人の事言えないけどね」
 だよね! とヒマリが目を輝かせた。が、すぐにルイに諭される。
「あのさー、ゆーづーきかないトカって言われない?」
「何か?」
「なんでもないですう……」
「ねーねー」
 ささっと鐐がヒマリの横に膝を抱えて座った。
「……すっごい強そうなヤツの噂もある?」
「聞こえてるぞ」
 レイヴンが溜息をつく。アンゼリカはまたルイに叱られ直しているヒマリを見ながら、
「ふふ、犠牲がなく平穏に1日が終わる。それが宝というべきかな」
 遊ぶハコとミュゲと結。毛づくろいをするねーさん。
「今度はプライベートで来るのもいいかもな」
 つかさが言う。
「そうだな」
 レイヴンが言った。海に来るにはいい季節になる。

作者:森下映 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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