闇に響く怨恨の咆哮

作者:幾夜緋琉

●闇に響く怨恨の咆哮
 どこか薄暗い、ぼんやりとしか周りが見えない室内。
 無機質な配管やら、パイプがむきだしに壁を張っている様な部屋のど真ん中に、一台のキングサイズの実験台がある。
 そんな実験台の上に横たわっているのは……目つきが悪い、何処か不良の雰囲気が漂うごろつきの男。
『……はっ……な、何だよこれ、てめえ、はずせ、はずせよ!!』
 と、じたばたと腕、足を震わせるが、しっかりと拘束されており、脱出することができない。
 そして……そんな男の元へ、仮面で素顔を隠した男、ドラグナーが。
『ふふふ……喜びなさい、我が息子よ』
 と笑う彼に対し、男は。
『何だよ! てめえなんて見た事ねえよ!!』
 と苛つき叫ぶ。
 しかし、ドラグナーの男……竜技師アウルは、彼の言葉に全く耳を貸すこと無く。
「お前は、今、ドラゴン因子を植え付けられた事で、ドラグナーの力を得たのだ!! しかし、未だにお前はドラグナーとしては不完全な状態であり、このままではいずれ死亡するであろう!」
『死亡、する……? なんだよ、俺はなんもしてねえだろうが!』
「大丈夫だ、我が息子よ。それを会費し、完全なドラグナーになる方法があるのだ! その為には、今与えられたドラグナーの力を振るい、多くの人間を殺すのだ! そうする事により、多くのグラビティ・チェインを奪い取る必要があるのだ!」
 と。
 ……その言葉に、はっ、と表情を変える彼。
 そして、彼は。
『……面白えじゃねえか。俺を騙してのし上がっていった奴らをぶっ殺してやろうじゃねえか!!』
「うむ、それでいい。どっちみちこのままでは死亡する。最後に一花咲かせてみるのだ!!」
 とアウルのその言葉に、次の瞬間、手足を拘束していた拘束具がカチャツと外れ……そして未完成のドラグナーの男は、ヘヘ、と不敵に微笑み、街へと向かって行くのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね? それじゃ早速ッスけど、説明させて貰うッスよ!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロス達へ。
「今回、ドラグナーの『竜技師アウル』によってドラゴン因子を移植され、新たなるドラグナーとなった人が事件を起こそうとしているんッスよ!」
「この新たなドラグナーは、未だ未完成とも言うべき状態の様で、完全なドラグナーになる為に必要な大量のグラビティ・チェインを得る為に、又、ドラグナー化する前に惨めな思いをさせられた復讐と称して、人々を無差別に殺戮しようとしている様なんッス!」
「復讐を実現させる訳にはいかないッス! という訳で、ケルベロスの皆さんには、この未完成ドラグナーを撃破してきて欲しいッスよ!」
 そして、更にダンテが。
「今回の未完成ドラグナーは、どうも元社会人のドラグナーの様ッス。昇進の為に仕事をしてたら、その手柄を友人に奪われてしまい、逆に失敗の尻拭いをさせられる、って言う事をされてしまった様なんッスよ」
「そしてその友人が、飲み会と称して繁華街を歩いている所に姿を現わし、廻りにいる人達も纏めて殺そうとしている様なんッス。つまり、最初にしなければならないのは周囲の一般人達の避難ッス」
「夜の繁華街故、騒がしい状況になっていると思うッス。声に頼らない様な避難誘導が必要ッスし、多少は力尽くも止むを得ないと思うッス」
「又、現れるドラグナーはこの未完成ドラグナー一体のみッス。その手に簒奪者の鎌を持ったドラグナーッス。ただ、ドラゴンへの変身能力は持っていないッスから、確実に体力を削っていけば倒せる筈ッスよ!」
「ちなみに、夜の繁華街ッスから、人を避難させれば視界は問題無いと思うッス。とは言え繁華街ッスから余り広い場所は無いッスから、その辺り注意して欲しいッスよ!」
 そして、ダンテは。
「何にせよ、新たなドラグナーがグラビティ・チェインを蓄え、完全なドラグナーになるのを許す訳にはいかないッスよ。皆さん、撃破宜しく頼むッスよ!!」
 と、拳を振り上げるのであった。


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
アルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)
ムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404)
ガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)
ヒカト・グラン(色づき始めた白・e04658)
ヒューリー・トリッパー(微笑の道化・e17972)
六壬・千那(六壬エンチャンター・e35994)

■リプレイ

●力の跡
 竜技師アウルの力によって、ドラグナーの力を手に入れた男。
 彼に植え付けられたドラゴン因子はまだ、彼へと定着しておらず、彼を未完成な状態に陥らせている。
 ……だが、彼がそんな力を手に入れたのは、友人の裏切りへの復讐が為……。
「うーむ……その友人とやらも碌でもない奴じゃな……」
「そうね。理不尽に対して怒る気持ちはわかるけど……抵抗出来ない相手への八つ当たりはダメなんだよ!」
 とガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)に喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)が憤る。
 と、そんな二人の言葉にムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404)とアルヴァ・シャムス(逃げ水・e00803)も。
「力があれば何でも出来ると思ったのか。短絡思考は手術の成果、元からか……」
「ま、実際気の毒だとは思うが、これは見逃してはやれんよなぁ。殺す気なら殺されても仕方があるめぇよ」
 そしてガナッシュが。
「そうじゃな。流石に殺される訳にもいかんしのう。おまけに無差別殺戮など言語道断じゃし、絶対に阻止せんとの」
 と肩を竦めると、それにソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)とヒューリー・トリッパー(微笑の道化・e17972)、六壬・千那(六壬エンチャンター・e35994)らも。
「そうですね。もし、彼にほんの少しでも人間の心が残っているなら、話を聞くだけでも、して差し上げたかったのですが……」
「いやはや、人の心を無くしましたか……ならば、倒すしかないですね」
「うん。まぁ、仕方ないか。しっかりと始末をつけてあげないとね」
 と苦笑する千那、そしてヒカト・グラン(色づき始めた白・e04658)も。
「ああ、そうだな。さあ、行くぞ」
 と、その言葉に皆も頷き、ケルベロス達は、ドラグナーが襲う繁華街へと向かうのであった。

●怒りの鎌は
 そして、繁華街。
 周りには、飲み会一次会終わりで次の店へ、と繁華街を歩く人達が多数。
 と、そこに。
「おらぁ、邪魔なんだよ、邪魔だ!!」
 と、怒りの声を上げて、向かいの方から走ってくる男……そんな男に混乱し始める周りの人達。
「仕方ありません……残念ですが、貴方はもはや、敵なのですね」
 と、ソラネがぽつり呟きながら、周囲に凛とした風を展開するソラネ。
 更にヒューリーが剣気解放を展開しつつ、ソラネは割り込みヴォイスで避難を促していく。
 一部、恐怖に脱力したりしている一般人達には。
「早く逃げろ。死にたい訳ではなかろう」
 と言いながら、手を貸したりして逃がしたりして避難させる。
 その一方、他のケルベロス達は、至急ドラグナーの前へと立ち塞がる。
『あぁん、何だよてめぇら!! 邪魔なんだよ!!』
 と怒りの声を上げるドラグナーだが、それに。
「おっと、向こうのジャマはさせんぞい!!」
「そうだね。しかし死ぬ位なら罪なき人に手を掛ける……と。そんな自分のことしか考えられないから、君は今のように騙されて利用されるんじゃない?」
『な、なんだとぉ!? 侮辱しやがって!!』
 烈火の如く、怒るドラグナー。そんな怒りを更に挑発する様に。
「そうですよ。力を手に入れて弱いものいじめですか? ドラグナーさん?」
「人間としてもドラゴン……ドラグナーとしてもお前は半人前以下だな。全く、情けないものだ。手柄を奪われる様な隙を作る方が悪いんだ。それもわからないのか?」
『ギャウウ!!』
 ヒューリー、ヒカト、さらにソラネのボクスドラゴンが啼いて挑発。
 ……良くも悪くも、完全にケルベロス達に、ドラグナーの注意が引き付けられる訳で……その間に、ムスタファ、ソラネは次々と周囲の一般人達を避難させていく。
 ……そして、ドラグナーに、波琉那とアルヴァが。
「ま、てめえがクソ野郎な事は全く変わらねえよな? 人を殺して私欲を満たそうだなんて思ってんだからよ。ま、クソはクソなりに、さっさと野垂れ死ねばいいんじゃねえ?」
「そうね。まぁ……怒りやすい自分の欠点を棚に上げるなんて……その性格も、きっと貴方が招いた欠点じゃないかしら?」
『!! くっそ、うるせえ。てめえらをさっさと殺してやらぁ!!』
 と完全に怒りの境地に達し、簒奪者の鎌を掲げる。
 と、そうしている間に、避難誘導をしていたムスタファ、ソラネ達も合流、そして。
「力を持ってしまった先人として……君は此処で殺す。だから恨み辛みは全てボクにぶつけてくると良いよ!」
 と千那の言葉に頷くと共に、ガナッシュが。
「さぁ、まずは敵の攻撃力を下げるとするかのう?」
 と言いながら、斉天截拳撃を先手を切って叩き込むと、ヒューリーもサークリットチェインを前衛陣に付与。
 が、ドラグナーは、その両撃をバックステップで回避。
 そして、反撃とばかりに簒奪者の鎌を、その頭上か叩き込む。
「ぬぅ!』
 と、その一撃を、千那が日本刀を使い、太刀筋を逸らす。
「全く……復讐心に身を焦がすのはカッコイイ事もあるけど、君の復讐心の晴らし方は本当、見てて惨めだね」
 と更なる挑発の言葉を投げかけながら、月光斬で反撃の一閃を叩き込む。
 そして、ヒカトが。
「行け小龍! 敵の装備を剥ぐんだ!」
 と『鎧壊小龍』で敵の防御を削ぐと、ジャマーに立する、千那のテレビウム、矢星はぶんぶんっと凶器を振り回して襲いかかる。
 更に、ムスタファソラネの二人も。
「さて……人々を殺そうとするお前を殺すのは、何の因果か……と言う気もするが、此処で止めさせて貰おう」
「ええ……ギルティラ、行きましょう!」
 ソラネは『人竜一体・掠竜散開』で破剣を前衛に付与。
 そして、波琉那が。
「それじゃ私が、貴方を縛り付けてあげる」
 と猟犬縛鎖で、ドラグナーに捕縛を付与。
 そして、一通りの付与の後、クラッシャーのアルヴァ。
「戻って来たんだったら、しっかり援護しろよ、ムスタファ。後ろから撃たれるなんて御免だからな!」
「ああ、任せておけ」
 と言いつつ、ムスタファはアルヴァを補助する様にスターゲイザーで足止めを付与。
 そして、連携したアルヴァが。
「ま、アンタはアンタで間違い無く被害者なんだろうけど、だからといって見逃してやる事は出来ないんでな。悪く思うなよ!」
 と、二刀斬霊波の一閃を叩き込むと、併せてガナッシュもルーンディバイド。
 そして、ヒカトのボクスドラゴンは。
「ホイップ、行くぞ!」
 と指示を受けて、ボクスブレスの一撃を叩き込むと、ヒューリーもサイコフォースをその手元めがけて。
「手元がお留守ですよっ!」
 と、放つ。
 ……そんなケルベロス達の猛攻に、ドラグナーは唇を噛みしめ、恨みがましい視線を向けて。
『クソっ……てめえらにもバカにされるなんて、畜生!!』
 と怒り叫ぶのだが……それに不敵な笑みを浮かべながら。
「そんなものなんですかぁ? それでは倒れませんよぉ? ほらほらぁ、そんなものですかぁ!?」
 と、敢て挑発し、一般人へ注意が逸れない様にする。
 そして、次の刻。千那は。
「ほら、こっちだよ!」
 と目の前を飛び回り、獣撃拳を叩き付けると、ヒカトも、ホイップのタックルに続いて。
「その程度の速度で私に敵うと思っているのか!」
 と言う声を上げながら、ハウリングフィストを叩きつけると、矢星の凶器攻撃に、ムスタファの縛霊撃、ソラネの騒音刃、波琉那がグラインドファイア。
 そして、アルヴァが降魔真拳で殴り掛かると、ガナッシュがスカルブレイカー、ヒューリーも。
「言っておきますが、此れに斬れるモノは…無い!此れが為すのは…唯の邪魔立てですっ!」
 と『脆刃の紫』でジグザグ降下、バッドステータスを倍加する。
 そして、戦闘開始から、十数分。
 ドラグナーは、かなりのダメージをくらい、苦しんでいる。
 やはり、付けられたドラグナーの力を、上手く活用出来ていない様で……悔しそうではある。
 そんなドラグナーの瀕死の状況に。
「……そろそろトドメの頃合いか?」
「そうだね。よーし!」
 とヒカトに頷きながら、千那が。
「十二天将が一柱、南東を守護せし災火ノ凶将、丁ノ炎蛇よ。六壬の巫女が願い奉る。万物を焼き払いしその神威、彼の者らに与えたまえ」
 と、『六壬式神威付与術・騰蛇』を前衛陣に付与為、一気に攻撃力を上昇させる。
 そして、ヒカトも。
「ドラゴニアンの加護を!」
 と、サークリットチェインの更なる付与を。
 そして、ソラネの気咬弾に、波琉那の轟竜砲が続くと。
「よし。行くぞムスタファ!」
「ああ、仕留めるぞ。合せろアルヴァ」
「テメェが合せろよ! 決めるぜムスタファ!」
 とアルヴァ、ムスタファの二人が相互に声を掛け合い、連携。
 気咬弾の一撃に、アルヴァが。
「一の太刀を疑わず」
 と『二太刀不要』の斬撃を穿ち……深々と、胸に刺さるその一撃。
『ぐ、ぐああああ!!』
 と咆哮を上げるドラグナー。
 そして、ガナッシュが。
「こいつでトドメじゃ、ルーンディバイィィィド!! 一刀両断、スカルブレイカー!!」
 と渾身のスカルブレイカーの一撃を、その頭に叩き込むと……ドラグナーは、その身諸共地面へと叩きつけられ……崩れ墜ちるていくのであった。

●忘却の角に
 そして、ドラグナーを倒したケルベロス達。
 ……段々と、姿が消え行くドラグナーは、壮絶な中に、どこか諦めたかのような表情。
 そんな消え行くドラグナーに、波琉那が。
「……ごめんなさい……私達はまだ未熟だから……こういう方法でしか悪い因縁を断つ事が出来なかった……ごめんなさい……」
 と、手を取り、謝罪の言葉を掛ける。
 ……勿論、その言葉がドラグナーに通じているかは分らないし……それで、事態が変わる事も無い。
 している事は、彼女の心の自慰の為、だと言われるかもしれないが……でも……。
「……いくら人間を殺しても、お前はドラグナーになれない。無意味だな……」
 と、ヒカトがあえて厳しい言葉を呟くと、それにヒューリーも。
「そうですね。力ですか……呑まれてしまえばそれまでですね……」
 と、敢て厳しい言葉を紡ぐ。
 そんなケルベロス達の言葉の中……完全に姿が消えるドラグナー。
 そして周りには、静寂が訪れる……。
「……さて、と。とりあず戦場の片付けでもするかのぅ?」
 とガナッシュの言葉に皆も頷き、千那も。
「そうだね。後は……彼の遺族がいるのなら、その遺品でも持って行きたい所だけど……無いかな?」
「ええ……そうですね、残念ですが」
 と千那に頷くソラネ。
 ともあれ、周囲の戦闘の被害を一つ一つ片付けて行き……戦闘の痕跡を全て片付けていくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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