危険思想を食い止めろ、未亡人増やそう教の脅威!

作者:質種剰


 夜の公園。
「未亡人に勝る女の色香は無い!」
 威勢良く怪気炎を上げるのはビルシャナ。
「そうだそうだ!」
「未亡人最高ー!」
 ビルシャナを囲む信者達も口を揃えて追従する。
 何とも不謹慎な話題で盛り上がっているものだが、その人数の多さにも驚く。少なくとも15人は居るようだ。
「未亡人ほど想像を掻き立てられる女の立場が他にあるものか。死んだ旦那に操を立てて日々泣き暮らしているように見えて、そこは一度男の味を知ったる女、枕を濡らすは決して涙のみとは限るまいよ」
 これぞ、講釈師見てきたように嘘をつき——と言った所だが、信者達はビルシャナの滑らかな弁舌にすっかり妄想を煽られた様子で。
「良いよなぁ未亡人……」
 と、だらしのない表情で見果てぬ夢を追っている。
「何より、未亡人が何より唆ると言う事は長い歴史に裏打ちされた文化が証明している。未亡人に言い寄る古典小説や落語、小説やドラマが後を絶たないのも、それだけ未亡人との恋愛や肉体関係が魅力的だからであるっ!!」
 ビルシャナは得意満面で持論をぶち上げると、更にとんでもない事を言い出した。
「諸君! 果報は寝て待てと言うが、未亡人は待てど暮らせど容易には現れぬ。ならばどうするべきか……我々の手で新たな未亡人を増やせばいい良いのだ!!」
「おお〜っ!」
 ビルシャナの語る教義の危険性が一気に増した瞬間だった。

「まさか、未亡人を作る為に世の旦那連中殺すつもりかしら。とんだ過激派ね〜」
 心底呆れた表情なのはソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)。
 『未亡人を増やそう教ビルシャナ』の存在を突き止められたのは、彼女の尽力あっての事だ。
「世の既婚男性が狙われる……到底放置しておけない由々しき事態であります。皆さんへは早急に未亡人を増やそう教ビルシャナの討伐をお願いしたいであります!」
 小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が、慌てた様子で説明し始めた。
「それに、ビルシャナは一般人を配下へと変えてしまうであります。そのような結果にならないよう、どうか撃破を宜しくお願いします」
 ぺこりと頭を下げるかけら。
 事実、ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力があり、放っておくと集まった一般人16人が配下になってしまう。
「ですが、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が配下になることを防げるでありますよ」
 未亡人を増やそう教ビルシャナの配下となった人々は、未亡人を増やそう教ビルシャナが倒されるまでの間、彼の味方をしてこちらへ襲いかかってくる為、戦闘は避けられない。
 だが、未亡人を増やそう教ビルシャナさえ倒せば元の一般人に戻るので、救出は可能である。
「万一、一般人の配下と戦うことになった場合は、ビルシャナを先に倒すのが先決であります。一般人がケルベロスの皆さんに倒されてしまうと、そのまま命を落としてしまうのであります……」
 かけらはそう補足した。
「未亡人を増やそう教ビルシャナは、敏捷性が活きた謎の経文を唱えて、遠くの相手に催眠効果を狙ってきたり、孔雀炎を長距離放射してプレッシャーも与えてくるでありますよ。両方とも単体攻撃であります」
 ビルシャナのポジションはジャマー。旅行鞄を振り回してくる配下も同様である。
「教義を聞いている一般人の方はビルシャナの影響を強く受けているので、理屈だけでは説得することは出来ませんでしょう。やはり何かインパクトのある演出をお考えになるのが宜しいかと」
 そこまで語るや、眉を顰めるかけら。
「かけらは、未亡人ゲットの為に殺意を抱かれる旦那さんが気の毒で……『未亡人よりも興奮する人妻との禁断の恋』なんて内容で対抗するのは如何でありましょうか」
 未亡人との恋愛には望めない、旦那の目を気にしながら逢瀬を盗むスリル、身の破滅と隣り合わせの綱渡りな関係だからこそ感じる興奮、強い結びつきなど、アピールポイントは随所にあるはずだ。
 何より一般人達が未亡人信仰を完全に捨てられるよう、強い意志で対抗案を推すのが肝心だ。
「既に完全なビルシャナと化した未亡人好きな当人は救えませんが、これ以上一般人へ被害を拡大させない為にも、どうか未亡人を増やそう教ビルシャナの討伐、宜しくお願いします」
 かけらは改めて皆へ懇願した。


参加者
叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)
トウコ・スカイ(宵星の詩巫女・e03149)
進藤・隆治(布団に引き篭も竜・e04573)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
ルナ・カグラ(蒼き銃使いの狂想・e15411)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
月島・空丸(こいぬ侍・e31737)
レイヴン・ハルゼー(アキュートパラディン・e33656)

■リプレイ


 公園。
「未亡人を増やすぞー!」
 夜の帳にも紛れぬ大声で未亡人信仰を叫ぶビルシャナと信者達は、誰が見ても危ない集団だった。
「未亡人を増やすためなら罪も犯すとは捨て置けません。何としても止めましょう!」
 まず、月島・空丸(こいぬ侍・e31737)がキリッとした表情で説得に挑む。
「どう考えても普通の恋愛が一番だと思います。大体、旦那さんに危害を加えてでも未亡人を増やそうというのは、もし未亡人の方にばれた時どうするつもりなんでしょうか?」
 普段は比較的無口だが一度喋りだすと止まらない性質らしく、立て板に水の如く快調な滑り出しを見せた。
「ば、バレないように殺るに決まってるだろが」
 堂々反論する信者を冷めた目で睨め付け、空丸は尚も問いかける。
「そもそもみなさんは未亡人との恋愛や肉体関係そのものを楽しむことだけを考えてるようですが、その先のことを考えていますか?」
「その先?」
 未亡人とヤリたい一念しか頭にない信者が、首を傾げた。
「相手のことを重んじず、ただ自分の欲望だけを満たすために動いてるようではいけません」
「む……」
 それでも僅かに良心があるのか、空丸の正論を前にたじろぐ。
「どうぞ、まずは仲間のみんなの説得を聞いてください」
 真摯に訴えていた空丸だが、
「……もし、仲間の説得を聞いても考えを変えないなら仕方ありません。そのような煩悩の元を断ちましょう」
 一気に不穏な空気を纏って、ちゃき、と刀の柄に手をかけた。
「ずばり去勢しましょう。斬るのは得意です」
「ヒィィィ!!?」
 低い声でとんでもない事を言い放つ空丸へ、信者が恐怖する。
「痛みを感じる間もなく斬ってみせますので、安心して新しい自分になってくださいね!」
「待て、早まるな!?」
「解った、話だけは聞いてやるから落ち着け、な!」
 妙にイイ笑顔になって断言する空丸の、脅し文句の威力は絶大だった。
「どうも、気に入らないんだよね……未亡人に恋愛感情を持って接して幸せにしてあげたいというのでなく、単に色気があるからって情欲でしか見ていないのが……」
 次いで、叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)が渋い顔つきをして進み出る。
 自身も愛する女性がいる為、他人から女性を奪う手段としてその女性を不幸にしようという考えには、当然ながら全く共感を持てない宗嗣。
 故に、未亡人を増やそう教ビルシャナの事を殊更嫌悪していた。
「君たちは、未亡人と恋愛をしたいのかい? 単に未亡人と関係を持ちたいだけに聞こえるけど……それなら、未亡人を作るなんてデメリットが大きいよ。そういうお店に行った方がいい」
 それでも冷静を努めて、宗嗣は真っ向勝負に出る。
「デメリットか……決意が鈍るな」
「でも、恋愛できたら良いよなぁ」
 信者は様々な反応を示した。
「恋愛したいにしても、幸せにしたい人を何よりも不幸のどん底に叩き落すことが本当に愛した人にすることなのかい? 俺は、そうは思わないけどね」
 インパクトにも頼らず、何の搦め手も使わず、ただただ正論を説いて未亡人教義を非難する宗嗣。
「確かに、自分の手で不幸にした相手を慰める白々しさったら無いな」
 信者達の一部は、宗嗣の憤りに心を揺さぶられたのか、未亡人増やそう計画を改めて見つめ直し、反省すらし始めた。
「修羅場も愁嘆場も第三者としては楽しいものですけれども、リアルなサスペンスは断然お断りですのよ?」
 と、鷹揚におっとりと微笑むのは、トウコ・スカイ(宵星の詩巫女・e03149)。
「とにもかくにも、未亡人に『する』ところから、というのはまず社会的リスクが高過ぎましてよ?」
 トウコが最初に語りかけるのも、他の仲間同様、殺人について回る大き過ぎるリスクについてだ。
「あなた方の主張から考察するに必要なのは略奪愛。そうでないのなら単なる犯罪に犯罪を重ねるだけのもの……不倫や浮気の方がスリルという上乗せがありますし、法的にも刑事罰になるのは余程の状況。そちらを狙うのはいかがですの?」
 加えて、殺人と比べてリスクの低い略奪愛を薦める、策士ぶりを発揮した。
「略奪愛、か……唆られるかも」
「まあ民事でがっぽり請求されてしまいますけれども」
 かと思えば、不倫や浮気のデメリットを微かに呟いて、くすくす笑うトウコ。
「そうなると矢張り原石を見出して育て磨き上げる方が、実際のところ一番確実なローリスクハイリターンだと思うんですのよね」
 真剣に話を聞いている信者達へ、好みの女性を手に入れる方法として、自ら育てるという選択肢を提示した。
「そ、育てる?」
「調教みたいなもんか」
「好みの色気を追及するのであれば、いっそ育て上げるところから始める方が、より自分好みになるはずですわ?」
 一見、清楚で上品に見えるトウコが直截的な単語を躊躇いなく使って、信者へ育成というなかなか過激な方策を薦める辺り、インパクトがある。
「そうだな。漢なら光源氏計画だろう。何も知らない少女を自分好みの女性に育て、そして自分で摘み取りたいと思った事はないのか?」
 また、蒼眞もトウコの説得を生々しい欲望込みで後押しした。
「色気の追及!」
「自分好みの女に育てる、背徳感あって楽しそうだな!」
 信者達もすっかりトウコの話術に乗せられ、まだ見ぬ好みの女へ胸を高鳴らせた。


「視野狭窄って怖いよねぇ、というか属性じゃなくて本人を見なきゃね」
 レイヴン・ハルゼー(アキュートパラディン・e33656)は、至極真っ当な正論を皮切りに、自説の主張を始める。
「未亡人? まぁ属性としてはいいけどさぁ……過去の男の影って、辛くない?」
 彼が着眼点を置いたのは、未亡人とは切っても切れぬ、亡くなった旦那の存在。
「君がそういうの大丈夫ならいいんだよ? 例えば、デートに行った時に『あ、ここ昔来たことあるわ』とか。古い映画を見たら『昔、彼と一緒に見たの……』とか」
 常に亡夫の影がつきまとうようなデートを例に挙げて、信者へ揺さぶりをかける。
「そっか、何につけても自分より詳しかったり経験豊富な可能性あるよな」
「まぁ、確かに余り良い気はせんかも」
 自然と苦い表情になる信者。
「僕ならやだなー、だって、思い出には勝てないもの。どれだけ今が良くても、甘美な思い出に勝るのは難しくない?」
 あ、勝てる方法があるならむしろ教えてほしいかも!
 あくまで口先だけは明るく問いかけるレイヴンだが、実際のところ、ビルシャナの主義主張が全くもって気に入らない為、かなり苛ついている。
 それでいて、美化された思い出には勝てないという人間心理を的確に突いてくる辺り、決して冷静さを欠いている訳でもないようだ。
「それにさー、ある程度自分色に染めたり、相手の色に染まったりするっていうのが恋愛の醍醐味なんじゃない?」
「ふむ……自分色に染めるか」
「思い出には勝てない……勝てない」
 レイヴンの巧みな弁舌にすっかり翻弄された信者達は、各々陰鬱な苦悩を始めた。
「これが結婚は人生の墓場という奴なのね」
 その傍ら、ルナ・カグラ(蒼き銃使いの狂想・e15411)が、本気とも冗談ともつかぬ感想を洩らして、こくこく頷く。
 クールな雰囲気に見えるガンスリンガーだが、下ネタも決して嫌いではないサキュバスの女性。
 むしろ、敢えて刹那的に快楽を求めるところがあり、レイヴンとは気も合えば身体の相性もバッチリという遊び友達で、彼を相当気に入っているそうな。
「アナタ達、未亡人だって一人の女なのよ?」
 まず、ルナはサラサラした長い青髪をかき上げて、ちらっと意味ありげな視線を信者達へ向けた。
「知らない男と比べられてアレが奥まで届かないとか、前の夫ならもっと保ったのに……なんて思われる生活。ホントに耐えられる?」
 思わずどぎまぎする信者達へ、未亡人との夜の営みに関して、想像し得る精神的ダメージを容赦なく並べ立てるルナ。
「うぇっ……」
「……も、もしかしたら、前の夫よりも勝ってるかもしれないし……た、多分」
 空々しい言い訳をする信者の目は、完全に泳いでいた。
「私なら誰でも愛して受け入れてあげられるけど。皆……私じゃ、ダメ?」
 その上で、ルナはちょっと恥ずかしそうな上目遣いを武器に、信者達をじぃっと見つめた る。
 ラブフェロモンも駆使して、信者達が本当に誘惑されるかどうかを試そうと演技したのだ。
「マジで相手してくれるなら、未亡人でなくてもいっか」
「俺も俺も!」
 意思の弱い信者が数人、ウェスタンシャツに覆われフリンジつきベストに包まれても尚見事な存在感を放つルナの巨乳や、ガンベルトを支える腰に魅せられたらしく、だらしない顔で声を上げる。
「あらあら、素直で可愛らしいこと。それじゃ、後で迎えに行くからね」
 ころっと骨抜きにした信者3人を、ルナが公園やコンビニの近くへ体良く追い払う。
 これには、ビルシャナとの戦いへ巻き込まない為の避難誘導の意味合いもあった。
 ともあれ、ベッドの外と中で話題を分けつつ、亡夫の存在と勝てない思い出についてがっつり語ったレイヴンとルナの作戦は大成功である。
 一方。
「未亡人を手に入れるために旦那を殺すって……前提条件が違うだろう」
 と、心底呆れ果てた様子なのは進藤・隆治(布団に引き篭も竜・e04573)。
(「そういえば、一応我輩も既婚者——過去形ではあるが、狙われるのだろうか?」)
 自身は妻を亡くした男やもめであるだけに、ビルシャナや信者に命を脅かされるのかも少し気になるようだ。
「何に魅力を感じたり、欲求を感じたりしても個人の自由だから止めることは出来ない。だが、そのために罪を犯すことは果たして正しいのか?」
 ともあれ、満を持して布団の外へ出てきた隆治の詰問は、分別弁えた大人らしく、落ち着きすら漂う正論だ。
「仮に、旦那を殺して未亡人にしたとしよう。その未亡人はお前達を見てくれるのか? 愛する旦那を殺したお前達を」
 ぐっと言葉に詰まる信者へ、無表情のまま更に畳み掛ける隆治。
「まず、見ないだろう。お前達がそれをやった時点でただの敵でしかないのだから」
「いや、でも、バレなければ……そもそも、殺したのがバレた時点で、未亡人に近づくどころか、逮捕されるし」
 敵、という単語の重さ——そして自分達が犯そうとしている罪の重さに耐え兼ねたのか、信者が必死に抗弁する。
「ボッチが何を言ってるんだ。証拠隠滅に協力してくれる恋人もいない癖に、くだらないな」
「何ィッ!?」
 隆治は、わざと鼻で笑って、信者の神経を逆撫でしてから続けた。
「たとえ殺した所を見ていないとしても、その未亡人にとってお前達は前の旦那よりも魅力的なのか?」
「ううう……」
 レイヴンやルナに具体例を出された事もあり、今度も自信を持って言い返せる信者は、いない。
「こんな所で燻ぶっている奴に魅力なんて、これっぽっちも感じないのだがな」
 信者の心持ちを良いように翻弄し尽くして、最後は彼らの意気地のなさをばっさり唾棄する隆治だった。


「未亡人とお付き合いしたいが為にご亭主を襲うなんて……そんな危険な教義は改めていただきませんとね」
 固く決意するニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)の瞳は久しぶりに色を失っていた。
「未亡人とお付き合いすると言いますが、その際の様々な苦労を考えた事はございますか?」
 それだけ——様々な教えを掲げるビルシャナを見てきた彼女でもドン引きするぐらい、未亡人増やそう教が理解不能かつ危険極まりない思想という事だろう。
「容姿や性格、趣味や嗜好、更には年収等々、生前のご亭主と諸々比較されるのは言わずもがな。またお舅やお姑、ご子息の信頼を得る、或いは懐いてもらう為に面倒を見ていかなくてはならないのもありますね」
 ニルスがつらつらと述べる『未亡人と付き合う上で必要な苦労の数々』を耳にして、信者達は眉を顰める。
「子どもや両親との付き合いか、考えてなかったな」
「いや、でもお互い愛し合ってさえいればどんな困難でも乗り越えられ——」
 どうしても甘い考えを捨て切れない彼らへ、追い討ちをかけるニルス。
「愛さえあればと思っているでしょうが断言します、あなた方は絶対に未亡人とお付き合いは出来ません」
「なっ」
 これには信者全員が言葉を失う。話術のメリハリだけでインパクト——衝撃を与えた好例となろう。
「何故なら未亡人にあなた方を必要ないと突き放されるから。上辺のみの、あんな事こんな事がしたいだけの欲望……簡単に見抜かれますからね」
 未亡人なめちゃいけませんよ? と、ニルスはここぞとばかりに低い声で凄んでみせた。
 信者達が欲する未亡人と同じ女性であるニルスが自信を持って言い切るのだ。説得力の無い訳がない。
「ましてや未亡人を増やす為にご亭主を亡きものにするなんて、却ってご亭主のご家族やその未亡人から命を狙われてしまいますよ?」
 尚且つ、殺人のリスクを具体的に並べ立てたニルスは強かった。
 勿論、罪を犯すのだからバレなければ良いという物では無いが、ビルシャナの洗脳も甚だしく罪の意識が薄れている信者相手という事で、『警察にバレない場合でも残る危険性』を詳細に解説したのだ。
「ひっ!?」
 現実味を帯びて迫る命の危機へ怖気づき、顔面蒼白になる信者達。
「そんな高いリスクを負うよりも、年相応の未婚者とお付き合いするのが良いでしょうねー。特に年下のお相手なら、年上というだけで大人に見られる頼りにされる」
 彼らを見据えたニルスはにこりと笑顔に戻って、新たな可能性を提示する。
「後はお仕事とか頑張って男に磨きをかけて真剣なお付き合いを心掛ければ……どうぞ、本当の人生の春を迎える為に、その方向で励んで下さいね」
「……年相応の未婚者、ねぇ」
「命あっての物種だしな、殺されるよりはそっちの方が良いかもな」
 真面目なニルスらしい無難な着地点へ導かれて、命を狙われる恐怖感に苛まれた信者達が、殊の外素直に頷いていた。
 他方。
 ドシャアッ!
 卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)は、何故かヘリオンから蹴落とされて地面に激突するも、平然と立ち上がり言い放つ。
「お前達、未亡人は好きか? 一緒になりたいか!?」
 一緒になりたい、と信者達の一部が叫んだ。
「ならばテメーらも死ぬしかねぇ」
 そんな彼らを一気にドン底へ突き落とす泰孝。
「えっ!?」
 彼は普段から相手を弄ぶ話術に長けている。上げて落とすなど朝飯前だ。
「だってそうだろ? 結ばれちまえばそこで相手は未亡人じゃなくなる。結婚せずに付き合う? 相手にもし結婚して欲しいと迫られて、一緒になりたいテメーらは断れるか? いや、無理だね!」
 泰孝はとにかく勢いを武器に、未亡人特有の色香や魅力は再婚したら当然失われてしまう、それでも一緒になりたいのかと責め立てる。
 誰もが目を逸らし続けていた矛盾点、未亡人増やそう教の綻びをズバリと指摘され、戸惑う信者達。
「そ、それじゃ、最初から一緒じゃなくても……」
 弱気な数人が意見を翻したら翻したで、泰孝が許す筈もなく追撃に移る。
「へぇ、それってつまり、相手の心に入り込めるような恋愛対象から外されちまっても良いって事さね」
「え……?」
「恋愛やら肉体関係に発展できず眺めるだけ、それで我慢できるのか?」
 一緒にならないイコール恋愛すら不可能と決めつけられて、ますます困惑する信者。
 だが、あながち泰孝の暴論とは言えない。
 何故なら、恋愛の終着点を結婚と考える未亡人は決して少なくないからだ。
 まして、亡夫との結婚生活が幸せであればある程、再婚相手へも同等の幸せや安心を求めるのが自然だろう。
 なればこそ、未亡人と一緒になりたくない奴はそもそも恋愛できないと断じる泰孝の理屈も、未亡人側の選り分け方としては筋が通るのだ。
「いいや、無理だね! 夢を見続けているテメーらに我慢できるわけがねぇ! 折角未亡人を増やしても見てるだけ、そこに何の意味がある?」
 またしても泰孝に言い切られて、信者達の我慢の尾が切れた。
「クソっ、確かに無理だ! 未亡人に巡り逢えても見てるだけだなんて!」
 『未亡人との恋愛は現実的に不可能』という帰結を迎えた泰孝の説得、効果は上々だ。
「殺人に手を染めて復讐されるなぞ真っ平だ!」
「俺は好みの女を育てる方に賭ける!」
 そして、ケルベロスそれぞれの説得が実を結び、信者達が次々と正気に戻り始めた。
「ふ、おばちゃんが手を下すまでもなかったわね」
 ソフィアはガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)と共に、いそいそと元信者に逃げるよう促す。
 全員避難した所で、残ったビルシャナを挑発するのは泰孝。
「オレを殺せば未亡人が増えるぜ、何せ幼妻がいるんだ」
 普段ストーカー扱いしている癖に都合の良い時だけ妻扱い、小檻が日頃慕う彼を蹴落としたのも、かの幼妻へ同情したからか。
「閃きました! 股間直撃強制煩悩退散、雷刃去勢突ーッ!」
「ギャアアア!?」
 最後、ビルシャナへトドメを刺したのは、空丸の一箇所へ狙い澄ました雷刃突であった。
「レイヴン、ディナーご馳走してくれるなら、その後のサービスくらいはするけど?」
「おっけー、ルナ、ご飯食べに行こう」
 仲良く連れ立ってその場を後にする2人。待たせてある元信者3人は、最初から放置するつもりだったらしい。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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