双刃

作者:天枷由良

●紅と黒
 穏やかな昼下がり。
 街中に突然現れたそれは、腕を回して身体をほぐしたあと、一息で七つの首を刎ねた。
 血飛沫と一緒に、まだ生きている人々から悲鳴が上がる。
「これだよこれ、たまんねぇなぁ」
 軽薄な笑みを歪なものに変えて、満足げに頷くそれは紅と黒、二本の刃を振り回す。
 戦いではない。一方的な虐殺が、無辜の民に襲いかかる。
「……もうちっと、殺りがいのあるやつが欲しいとこだが――」
 また一人を両断しながら、それは――重罪人として同族より封じられていたエインヘリアル『ヴァルザクト』は、僅かな不満を滴る血で埋めていく。
「質より量ってのも、まぁ……悪くねぇよな!」
 逃げ惑う人々を追い回し、ヴァルザクトはただ両手の剣を奮って生命を奪い続ける。
 街が静まり返るまで、さほど時間はかからなかった。

●ヘリポートにて
「エインヘリアルによる虐殺事件を予知したわ」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は手帳に目を落としつつ、ケルベロスに語る。
「名前はヴァルザクト。どうやらエインヘリアルの支配するアスガルドにて重罪を犯し、コギトエルゴスムとして封じられていた凶悪犯罪者らしいの」
 ただでさえ好戦的な種族であるのに、そこへ凶悪とくれば、よほどのことだろう。
 事件を阻止しなければ、甚大な被害が出るのは明白である。
「すぐに現場へ向かって、ヴァルザクトを撃破してもらえないかしら」
 場所は、とある地方都市の一角。
「現れるのはヴァルザクトだけよ。見た目は、紅色のツンツン頭に軽薄な笑みを浮かべる若い男で、獣の骨で作ったような鎧と二本の剣が特徴ね」
 その剣から繰り出される攻撃は、どれも単純だが強力。
 ヴァルザクト自身の攻撃性も相まって、備えを怠れば手酷い傷を追うかもしれない。
「後衛にまで届くような攻撃はないけれど、その分、前衛や中衛を務めるケルベロスには負担がかかるでしょう。荒っぽい割に、厄介な攻撃を仕掛けてくる相手や確実に命中しそうな相手を狙ってくる傾向にあるようだから、隊列や回復の配分、防具の選別には十分配慮したほうがいいと思うわ」
 現地への到着は、ヴァルザクトの出現とほぼ同時になる。
「皆は現場に着いたら、速やかに攻撃をしかけてちょうだい。そうすれば、戦いそのものを好むヴァルザクトの興味は皆に向くでしょうし、街の人々が逃げ出す時間も作れるはずよ」
 現場は広い道が四方八方に伸びているので、ケルベロスたちが何をしなくとも、避難に時間はかからないだろう。また、ヴァルザクトが逃走する心配はない。
「何をしでかして封じられていたのか分からないけれど、危険なエインヘリアルに間違いないわ。しっかりと準備して、苛烈な攻撃に耐えられるようにしていきましょうね」
 ミィルは手帳を閉じることで説明の終わりを示し、ケルベロスにヘリオン搭乗を促した。


参加者
ゼレフ・スティガル(雲・e00179)
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
月神・鎌夜(ストレイド・e11464)
カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)
御忌・禊(憂月・e33872)
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)
差深月・紫音(自称戦闘狂・e36172)

■リプレイ

●衝突
「――死ねやァ!」
 炎塊と化した月神・鎌夜(ストレイド・e11464)の無骨な剣を、現出したばかりのヴァルザクトは紅い刃で受け止めて笑う。
「……これだよこれ、たまんねぇなぁ」
 吐き出される言葉は、予知されたものと同じ。
 けれども意味が異なる。血は未だ、一滴として溢れていない。
 代わりに湧き上がる悲鳴。遠ざかっていく、その流れに逆らって。
 ゼレフ・スティガル(雲・e00179)が雲のようにふわりと、敵の懐に飛び込んだ。
 そこから喉笛に向けて突き出される銀の刃が――黒い剣に阻まれて行き場を失う。
「危ねえ。もう少しで首が飛ぶところだったぜ」
 言いながらも、敵の語り口は押さえきれない悦びに弾む。
「愉しそうだね」
「あぁ。もう楽しくてしょうがねぇや。生きのいい奴らに出迎えられてよ」
「それは何より。僕らならそう簡単には壊れないから――」
「存分に楽しむがいい。これがお前の、最後の戦いなのだからな」
 二人の合間に水の如く流れ込んで、龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)が手甲を打った。
 双剣を押さえられた今が好機と、黄金色の軌跡を残す力強い拳が迫り――。
「最後? はっ、随分と舐められたもんだな!」
 獲物を捉える寸前、両腕の一振りによって三人纏めて弾き返される。
(「あぁ、これは相当溜まってるんだろうね」)
 攻撃の熱量を消化する過程で自らの足が削り取った街路に目を落としながら、ゼレフは一つ深い息を漏らした。
 落ち着いて花見酒でも、なんて誘いには毛ほども興味を抱かないだろう。
 ならば存分に暴れて。自由を、解き放たれた喜びを謳歌して。
 それから死に辿り着き、果てればいい。
 冥府への案内役は八人もいるのだ。招待状は三度拒絶されてしまったが、いずれ受け取らざるをえない。
 そんなゼレフの見立てを、程なく少女が証明してみせた。
「ジャッジメント!!」
 古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)の一声で、空から降る神槍の模造品。
 それは真っ直ぐに飛んで一度弾かれながらも、宙で方位磁針のように回って断罪すべき相手へ向き直り、再び加速。エインヘリアルの巨躯を支える腿を貫いて消える。
「おもしれぇな、嬢ちゃん。けど、玩具にしちゃ可愛げがねぇな」
「御生憎様ね、人形遊びは卒業したのよ。……ところで貴方、どっちが利き腕なのかしら」
 己の倍以上も大きな身体を持つ相手に臆することなく言い返す、少女の瞳は遥か天頂から廃棄物を見下ろすように冷ややか。
 気の短いものなら、一瞬で腸を煮えくり返らせたかもしれない。けれどもヴァルザクトはただ笑って、二つの剣を振るうべき相手を探し求める。
「なるほど二刀流……じゃあ……私もそれでいこうか……」
 四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)が携える妖刀の影から、ひっそりと黒い直刀を抜いて構えた。
 同じ二刀を扱う者に多少の興味も湧いたか、ヴァルザクトが身体を向ける。
「……と、見せかけて……」
 千里は呟き、熱い視線への答えとして刀でなく超集中による爆発を返した。
「チッ、捻くれたガキどもだな、おい!」
 すぐさま身を焦がす炎から抜け出て、ヴァルザクトは叫び、猛進していく。
 その行く手を遮ったのは、戦化粧として目尻に紅を入れた男。
 差深月・紫音(自称戦闘狂・e36172)は簒奪者の鎌を握ったまま、光輝くオウガ粒子を放ち、哮る。
「いいねぇ! お前みてぇのは大歓迎さ! 来いよ!」
「威勢がいいのは構わねぇが、一発で伸されんじゃねぇぞ!」
 彼我の距離は瞬く間に縮まり、刃のぶつかり合う激しい音が響いた。
 しかし、剣を受けた鎌の色は紫音のそれと違う、蒼と黒。
「確かに威勢はいいよね、お前も。でもさ、その紅いのも黒いのも、この子たちには全然及ばないかな」
 死角からするりと忍び寄ったカッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死竜ー・e19121)は、自らの愛鎌とせめぎ合う刃を眺め、小さく舌なめずり。
「嬢ちゃん、あんま調子づくと可愛い尻尾がちょん切れちゃうぜ?」
「へぇ。やってみたら? その前にお前の汚い首が飛ぶと思うけど」
 強靭な肉体との力比べにも怯まないカッツェに、ヴァルザクトの笑みが歪む。
「そういう気の強さは嫌いじゃねぇが――オレは嬢ちゃんみたいな奴が、泣いて喚くのを見る方が好きでなぁっ!」
 紅い剣が真一文字に薙ぐ。ほんの僅かな力の加減で体勢を崩したカッツェの腹が裂け、剣よりも濃い赤が地に滴り落ちた。
 しかし、その色はエインヘリアルのみならず、己を死神と称する少女をも昂ぶらせる。
「……いったいなぁ」
 微かに溢れた声とは裏腹に、顔を埋め尽くす愉悦。ともすればヴァルザクトは、相対する少女の価値観に通ずる部分を見出したかもしれない。
 けれども、この場に置いて示すべきは理解でなく力。語らうべきは刃。
 虚を纏う蒼鎌が逃げ道を塞ぐように後方から回り込んで、鎧を突き抜ける。
「あぁ……」
 不死の存在から生命の欠片を奪う、この瞬間。何度味わおうとも飽きることのない快楽。
 埋めきれない傷を、御忌・禊(憂月・e33872)が満月に似た光球を当てて癒やせば、余韻に浸るカッツェはますます狂気を帯びた瞳で敵を睨めつける。
 ヴァルザクトにとって、それは何より望むものだ。殺し、奪う。相手が力強く反抗すればなお、己の前に屈従させた時の快感は味わい深いものになる。
 だからこそ。
「お前、随分としみったれた顔してんなぁ」
 憂いを帯びた禊の表情は、熱情に水を差すほど不愉快。
「……僕は、戦うことが嫌いです……あなたのように楽しむ事など、出来ません」
「はあ? じゃあ何しに来たんだよ」
「無辜の方々を守るためです……彼らに手を出さないと誓う限り……こちらも全力で相対すると誓いましょう……」
 未だ大太刀を抜かず答えた禊に歯噛みして、ヴァルザクトは目を背ける。
「はっ、なまっちょろいクソガキだぜ。テメェは殺しても面白くなさそうだ」

●攻勢
 ヴァルザクトの意識は死神少女へと戻り、今度は黒い剣が唐竹を割るように下りてきた。
 力強さに加えて、呪いを拠り所とする一振り。奇しくもケルベロスとデウスエクスに共通する眼力は、そちらの方がカッツェに効果的であると示したのだろう。
 ましてや守勢に重きを置く彼女を退ければ、ケルベロスの耐久力は格段に落ちる。
「別に、そっちも受けたっていいんだけどさ」
 それでは役割を分けた意味がない。カッツェが僅かに下がって開いた場所へ、嬉々として紫音が入り込む。
「俺とも楽しい死闘と洒落こもうじゃねぇか。なぁ!」
「きゃんきゃんうるせぇな、おい。粋がんなよ」
 他のものとは一段、経験に差があることは命中率の差で見抜かれている。
 刃は鋭く、紫音が羽織る着物から肉までを裂いた。
 しかし彼もまた、戦いのなかで激情を迸らせる戦士。
 直後に禊から受けた光球も相まって、両眼が爛々と輝く。
「いいねぇ、いいねぇ! 血沸き肉踊る戦いはこうでないとな!」
 微塵も恐怖を見せず、自らの血にグラビティを加えて治癒と防御を図る紫音の姿に、さすがのヴァルザクトも気圧された。
 その一瞬に、初撃をいなされたケルベロスたちが次々と襲いかかる。
「へっ、ビビってんのか!?」
 絶対的な滅びを与える二つの鉄塊剣で、骸の鎧に十字を斬って叫ぶ鎌夜。
 与えた傷跡には地獄の炎が残り、身体を蝕み始める。
 それから逃れる術をヴァルザクトは持ち合わせていない。
 逃れるという選択肢があっても、彼は選ばない。
 力には力で。来るもの全てをねじ伏せ、殺し尽くすだけ。
(「そのような輩、掃いて捨てるほど見てきたがな」)
 静かに詰め寄って、隆也が腕を突き出す。
 腿の傷によって動きを鈍らせたヴァルザクトの脇腹を、硬化した爪が裂いた。
 しかし直撃しなかったのは、不調を補うだけの能力が相手にあるから。
「……確かに力はある。いい経験になりそうだ」
「此処で死ぬ奴が言う台詞じゃあねえな」
「参ったな。そう簡単に壊れるつもりはないと、言ったはずだけれど」
 言葉は飄々と、しかし長柄の刃には燃え盛る炎を抱かせ、ゼレフが背を袈裟懸けに斬って抜けた。
 彼の髪と肌が炎の赤から元の色に戻りかけた頃、るりの放った魔法光線がヴァルザクトの身体を強張らせ、砕くように千里が鋭い蹴りを放つ。
「――っ! おい、テメェのそれは飾りかよ!」
「……さぁ、どうだろうね」
 得物を振るわないことを咎められても、千里はさらりと流してしまう。
 徐々に募るヴァルザクトの苛立ち。それをカッツェが、降魔の力宿す黒鎌で斬って煽る。
「お前のも飾りみたいなものじゃない? ほら、また斬ってみなよ」
「……」
「どうした? 殺すしか能がねぇ癖に、大したこたぁねぇな!」
 沈黙の間に、鎌夜も嘲りに加わる。
 ヴァルザクトはただじっと聞き入り、それから大きく息を吸って。
 浮かべていた笑みを捨て払い、黒い剣を高々と天に放り投げた。

●反転
 回る刃が空を裂く音が聞こえる。
 それは、ほんの僅かな時間。
 けれどもエインヘリアルが力を示すには、十分な時間。
「八人ぽっちで、いつまでも凌ぎ切れると思ったか?」
 両手で握られた紅の剣が、紫音の身体に深々と突き刺さる。
「――!」
 事態を真っ先に汲み取ったのは、癒し手を務める少年だった。
 光の球を撃ち出して、禊は治癒を試みる。受けた紫音は獣のように吠え、溢れ出す血を鎧に変える。
 同じ盾役を務めるカッツェが蒼鎌で斬りつけながら立ちはだかり、るりの喚び出した槍が空から降る。
 それらの与えた傷を千里が妖刀一本で斬り広げて、攻めを担う三人――鎌夜と隆也、ゼレフが猛撃を加える。
「狡いよ。遊ぶなら平等に、だろう?」
「おおっと。そいつぁすまねぇ」
 柔らかくも挑発の意を含んだゼレフの言葉に、ヴァルザクトは笑みを取り戻した。
「平等に。そう、平等に――ブチ殺してやらなくちゃなァ!」
 天へ預けていた黒剣が左手に収まり、エインヘリアルの持つ巨体が溶けて消える。
 真に失せたわけではない。一息で七つの首を刎ねるほどの速さが錯覚させただけ。
 しかし理解が追いつくより先に、事象は具現化する。
 斬られた。そう感じた瞬間、ゼレフの口端から赤い波が零れた。
 拭う間に鉄塊剣を握る鎌夜の腕が裂け、隆也の纏うケルベロスコートは、どす黒く滲む。
 そして鎌を携えるカッツェの身体が横薙ぎに払われた時、彼を守るものはもういない。
「安心しな。お仲間もすぐに追いつくからよ」
 乱れ打ちの終着点となって、紫音の叫びは、ぷつりと途切れた。
(「……間に合わなかった……」)
 禊が数珠を介して広げた地獄の力が、倒れた男の武器に虚しく宿る。
「――野郎ォ!」
「ハッ、弱いやつほどよく喚くなァ!」
 十字を斬る鎌夜の鉄塊剣を身体で受け止めきって、ヴァルザクトは咆哮を轟かせた。
 同時に鎧から滲み出す、禍々しい力。
(「……それは、不味い」)
 盾の一枚を失った後で、より苛烈な剣戟を捌き切ることは困難だ。
 呪いの力を打ち砕くべく、千里は刃に己の心を重ねる。
 だが、集中には僅かな時間を要した。そして折り悪く、攻めに全力を傾ける三人はそれぞれが持つ呪力破壊の技と、同じ力に拠るもので攻撃したばかり。
「次はテメェだ!」
 紅と黒、どちらでも狙える絶好の相手を認めて、ヴァルザクトが動く。
 その前に立つのは、鎌夜。
「来るなら来いや!」
 吠えて返すも、小手先で凌げる相手でないのは十分理解出来ている。
 それでも気合と根性。消えることのない地獄で身と心を焦がし、似非の英雄への怒りを燃やして耐えきるのみ。
 覚悟を決めて鉄塊剣を握る。そして紅の剣は高々と掲げられ――。
「ほんと、弱いやつほどよく喚くよ」
 愛すべき鎌を手放し、硬化した爪で巨躯を穿った少女によって既の所で止められた。

●決着
 一度は勢いを失った刃が、新たな熱を得て振り下ろされる。
 カッツェの半身は常人なら死に至るほど斬り開かれ、おびただしいほどの赤が流れ出た。
 けれど膝は折れず、少女の身体は血溜まりに沈まない。
「しぶてぇ嬢ちゃんだ!」
 もう一度あれば耐えられまい。追撃を打って確実に砕き尽くし、それから残りを。
 そんな目論見を、禊が防ぐ。
(「……これが平和に通じるなら……今度こそ」)
 幾度も放った光球を、また一つ。その輝きがカッツェの闘争心を力に変えていく。
「っ、クソガキがぁぁぁ!!」
「煩いわね。いい加減、泣いて許しを請わないのなら串刺しか――」
 火あぶり、と言い切る前に、るりの前から飛ぶドラゴンの幻影。
 敵に喰らいついて燃えるそれに照らされながら、ゼレフが銀の炎纏う刃を緩やかに、しかし力強く叩きつける。骸の鎧に包まれた巨躯が、ぐらりと揺らぐ。
「最期だ。戦いの中で死ぬのだ、満足だろう」
 淡々と語る隆也の指先は、ヴァルザクトの身体に流れる気を一突きで堰き止めた。
「……オレが! こんなところでッ!」
「さては貴方、負けたことがないのね? 格下に勝ち続けるだけでは何事も上達しないわ。一度負けてみるのもいいものよ」
「二度目など、ありはしないがな」
 るりの語り口に返す隆也が、見やる先。
「冥土の土産に見せてあげよう。君が望んだ、本気の二刀流を……さあ」
 刃と心を一つに束ねた千里は言うが早いか、瞬時に敵を斬りつけて過ぎ行く。
 ただの一度。そうとしか見えなかった斬撃は、千里の動きが完全に止まると同時に噴き出した血で、敵の身体に無数の花弁を浮かべて彼岸花を作り上げた。
 それが散る時、ヴァルザクトは果てる。
 しかし鎌夜は、余韻を与えることすら許さない。
「テメェは英雄なんかじゃねぇ。ただ殺す事しか能のねぇ人でなしさ。俺と同じでなァ!」
 炎獄の恒星と化し、全身全霊の怒りを込めて打った一撃が、敵を鎧ごと灰に変えた。

「なにこれ。すっからかんじゃん、つまんないの」
 残った剣を砕いて、カッツェが不満の声を漏らす。
 持ち主が消えたそれは、模造刀以下の粗悪品と化していた。
「いやぁ、なかなか強烈だったねえ」
 剣を収めて、ゼレフがのんびりと呟く。
 最期の顔を見る限り、あれはそれなりに満足して散った。多分、恐らく。
 確かめる術はないから、そうであったことをゼレフは祈る。
「あー! 畜生、ぶっ倒れるなんて情けねぇ」
「……すみません、差深月さん。僕一人では支えきれず……」
 むくりと起き上がったところで禊に声をかけられ、紫音は快活な笑みを浮かべた。
 倒れる間際の攻撃が、流れるような剣戟だったことで深手を負わずに済んだのだろう。
「気にすんなよ。それよりも禊、あれだ、腹減った。魚とか旨い酒とか出すような店、この辺にねぇか?」
「……ええと」
 困り果てる禊。
 そういえばこの街は何という名だったか。
 先に聞いた覚えもなく、ケルベロスたちは帰還の途上でそれを知るのだった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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