猫の魔法使い

作者:天木一

「ニャ―」
「ニャオー!」
 月の明りが照らす夜の町に猫の鳴き声が響く。
「わぁ、猫さんがいっぱい。猫の集会だっ」
 駐車場に集まった猫達を一人の少女が覗き込み、弾む声を慌てて手で塞ぐ。チラリと見るが猫達は気づいていないようだった。
「猫さんは夜に集まって魔法の儀式をしているってホントーかな? 猫さんの正体は魔法の世界から人を支配するために送られてきた兵隊って聞いたけど……」
 怪しむように少女が猫をじーっと観察する。
「ニャ―ン」
「ニァーー!」
 だが猫達は距離を取って座っていたり、近づいて体を擦りつけたり、鳴いているだけでこれといって怪しい行動をする様子はなかった。
「んー、なーんだ。魔法は使わないのかー。こういーっぱい猫を呼び出して躍らせたりとか……あっ、そろそろ帰らないとママにバレるかも!?」
 家を抜け出している事を思い出し、少女は振り返る。するとそこにはいつの間に現れたのか一人の女性が立っていた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 その手にある鍵が少女の胸に突き刺さる。すると少女は意識を失いその場に崩れ落ちた。女はそのまま幻であったかのように消え、その代わりに一匹の大きなぽっちゃりした黒猫が現れた。
「吾輩の目的は一つ……それは人々を支配する事であるにゃ!」
 猫は人の言葉を操り、2本脚で立ち上がると、黒いローブを纏い杖を手にする。その姿は童話に出てくるような魔法使いのものだった。

 集まったケルベロスの前で、無表情な神宮時・あお(惑いの月・e04014)が礼儀正しくぺこりと頭を下げた。
「こちらの神宮時さんから依頼されて調べていたのですが、『興味』を奪う第五の魔女・アウゲイアスが新たな怪物型ドリームイーターを生みだし、人々を襲わせる事件が起きるのを予知しました」
 あおに代わって隣に並んだセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が事件の説明を始める。
「ドリームイーターはグラビティ・チェインを奪う為に人々を襲います。被害が出る前に敵を撃破し、眠ったままの少女の意識を戻してほしいのです」
 今ならまだ少女の近くで猫と遭遇できる。倒せば少女の意識も元に戻るだろう。
「敵は黒猫、それも人の子供くらいの大きさをしていて魔法を使う猫です。可愛らしい姿をしていますが、ドリームイーターなので油断はできません」
 少女のイメージする猫魔法を使う。見た目で侮ると痛い目に遭うだろう。
「現れるのは神奈川県の町にある駐車場です。周囲に住宅はありますが、野外に少女以外の一般人は居ません」
 駐車場付近で戦えば他の一般人を巻き込む心配はない。
「暖かくなってきたからか、よく野良猫を見かけるようになりました。猫は可愛い動物ですが、ドリームイーターとなれば話は別です。少女を助ける為にも、この猫の魔法使いを退治してください」
 よろしくお願いしますとセリカが一礼し、ヘリオンの準備へと向かう。それに続くようにケルベロス達も出発の準備を始める。
 後に残されたあおは猫だらけの魔法の世界とは素敵な世界なのかもと想像する。だが現実で人に迷惑をかける猫は倒さなくてはと、ぷるぷると頭を振って小さな拳を握り仲間達の後を追った。


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)
エンリ・ヴァージュラ(スカイアイズ・e00571)
鉄・千(空明・e03694)
茶菓子・梅太(夢現・e03999)
神宮時・あお(惑いの月・e04014)
ケーシィ・リガルジィ(黒の造形絵師・e15521)
黄瀬・星太(火風・e28582)

■リプレイ

●猫の集会
 日が長くなり始めた空もすっかり暗くなり、周囲から人気が減り始める時間。ケルベロス達は町へ降り立った。
(「……人間を、支配、する、お猫様は、悪い、お猫様、です、ね」)
 そんな猫にはお仕置きしなくてはと、神宮時・あお(惑いの月・e04014)は闇夜を見通すように駐車場のある方へ視線を向ける。
「わたくし、猫大好き。猫の魔法使いだなんてとっても可愛いと思うの」
 杖とじゃれ合う猫を想像してメイア・ヤレアッハ(空色・e00218)は相好を崩す。
「でもでもお仕事だもの、ちゃーんと倒すよ」
 可愛くても仕事はやり遂げてみせると拳を握った。
「二足歩行の猫といえばケット・シーのような感じかな? 魅惑の肉球は健在かな……?」
 エンリ・ヴァージュラ(スカイアイズ・e00571)は妖精猫をイメージする。
「あとベルベットのような光沢のある毛並みにもふもふな手触りも……早く確かめたい!」
 そわそわとした様子で辺りを青い鉱石のランプで照らした。
「ぼくもケットシーっていう猫の妖精のお話を思い出したにゃー」
 ケーシィ・リガルジィ(黒の造形絵師・e15521)が猫に悪さをする人を捕まえる妖精の話をする。
「捕まった人間は帰ってこれなくなるのにゃ……にゃふふー、お子さま脅かすお話にはありきたりにゃね」
 そう言って猫の顔でニヤッと笑ってみせた。
「猫だらけの世界……は、とっても魅力的なのだけど。ドリームイーターは倒さないと、ね」
 猫がいっぱい居る世界を想像して、無表情なままほのぼのした茶菓子・梅太(夢現・e03999)は少し残念そうな声を漏らす。
「アウゲイアス……力を持たない人を傷つけるのは許せませんね」
 黄瀬・星太(火風・e28582)は魔女の行動に怒りを覚える。
「女の子の興味を取り返して、必ず目覚めさせましょう。猫が一般人に危害を加える前に倒さないと」
 犠牲者は出させないと駐車場へと足を速める。その先には何台も車の止まった駐車場がある。
「ニャ~」
「ナォーン」
 そこからは猫達の合唱が聴こえてきた。多くの猫が集まり集会を開いているのだ。
「夜の猫の儀式……幻想的で素敵なのですが、人知れずのことは危険を伴うこともありますから」
 誰かが危険な目に遭う前に対処しようと、十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)は踵をこつ、こつ、こつと鳴らして駐車場に足を踏み入れる。
「ニャッ」
「ニャーーン!」
 その音に気付いた猫達がケルベロスに気付き素早く駐車場から逃げていく。
「にゃにものにゃ!?」
 駐車場に残ったのは一匹の大きな猫。まるで人のように杖を手にローブを纏った二足歩行の黒猫だった。黒猫は目を丸くしてケルベロス達を見つめる。そこから少し離れた場所に女の子が倒れているのも視界に入る。
「なんたるまるまるステキなにゃんこさん! かわいい……けど、手加減はしないのだ!」
 意気込んで鉄・千(空明・e03694)は猫へと向かっていく。

●魔法使い
「ここは吾輩の縄張りにゃ! 侵入者は懲らしめてやるにゃ!」
 ケルベロスを近づかせまいと黒猫は杖を振るう。すると無数の猫達が召喚され、にゃーにゃーと駐車してある車を踏み潰して破壊する勢いで駆け回る。その前にボクスドラゴンのクルルが立ち塞がり突進を受け止めようとするが、数に押されて撥ね飛ばされた。
「猫の魔法使いさん、肉球までついてるのね……うう、可愛い……」
 メイアは思わず猫に見惚れる。するとボクスドラゴンのコハブが構って欲しいと足に頬をこすりつけながら属性を与える。
「あっ、コハブの方が可愛いよ、大丈夫だよ。コハブのほうがもふもふだし、いい毛並みだものね」
 その頭を撫で、メイアは気を取り直して仲間を守るように紙兵を撒き散らした。
「かわいいにゃんこさん! はっ!? ダメダメ!」
 思わず見惚れてしまった千は自らのほっぺを両手でぺちぺち叩き、まずは少女を避難させようと抱き上げて移動を始める。
「……わ、おどろいた。本当に猫なんだね」
 梅太が杖を向けると雷が降り注ぎ敵との間に壁を形成する。すると壁にぶつかった猫達が消滅していく。
「イメージどお……イメージよりもぽっちゃり? でも肌触りは良さそう!」
 触ってみたいと思いつつエンリは翼を広げて風を受け、舞うように猫の群れを飛び越え頭上から拳を叩き込んだ。
「みなさんが無事に帰れるように。そして、少女の夜がきちんと明けるように」
 同時に泉は左手にナイフを、右手にオーラを纏い一気に駆け出す。猫を斬り殴り道を作り、すれ違いざまに左手を一閃して黒猫を斬り裂いた。
「その絶望、砕いてあげるよ」
 無表情になった星太は駆け出し、一直線に空いた空間を突っ切って黒猫の腹を蹴り抜いた。
「吾輩を傷つけるとは! やっぱり人間は支配しなくてはダメにゃ!」
 地面を転がった黒猫が杖でコツンと地面を叩くと、新たに現れた猫の群れがにゃ~んと甘く鳴いて撫でてくれと云わんばかりに腹を見せる。思わずあおの手が伸びかける。
「猫の魔法使いかにゃー。にゃふふー、それにゃら猫の造形絵師がお相手致すにゃ!」
 ミミックのぼっくんを敵の前に放り投げると、ケーシィの体からぱやぱやしたオーラが放たれ仲間を包み癒す。そしてぼっくんは頭上から黒猫の頭に噛みついた。
「やめるにゃ! 歯形がつくにゃ!」
(「……もふもふ、ふかふか……。……ちょっと、だけ、触って、みたい、です……」)
 じーっと表情を変えぬままあおは頭のミミックを引き剥がす黒猫を見つめる。そしてその胸に飛ぶ込むように突っ込み鋭い蹴りを腹に浴びせよろめかせた。
「相手が何であれ、手加減はしません」
 そこへ泉は矢のように突っ込むと右の拳を無慈悲に腹に叩き込んだ。くの字になって黒猫の体が吹き飛ぶ。
「にゃー! にゃにゃにゃーん!」
 宙を舞う黒猫がミュージカルのようにリズムに乗って杖を振るう。するとダンスするように猫達が跳ねて動き回りケルベロス達を引っ掻く。
「可愛くっても好きにはさせないからね」
 メイアは紙兵を大量に配置して敵の攻撃を身代わりとなって破れていく。
「さっきちょっと触った感じでは、つやつやの毛並みだったねっ」
 風に乗るように飛行したエンリは飛び交う猫を掻い潜り、黒猫の腹に蹴りを浴びせる。蹴り飛ばしながら足にぷよんとクッションのような弾力を感じた。
「行くよにゃんこさん!」
 少女を避難させて駆け戻った千は角、翼、尻尾を出して突っ込み、ハンマーをフルスイングして黒猫の体を打ち抜く。すると凹んだ胸から凍り始めた。
(「……猫さん、が、いっぱい、です……」)
 猫の大群にあおは少し息を弾ませ気を取られながらも、魔力の弾を撃ち出して黒猫の体を穿ち石化させる。
「なにやら可愛らしい相手に攻撃だけど……油断はしないようにしないと、ね」
 梅太は薬液の雨を空から降らせ、水を嫌う猫達を追い払う。
「にゃんと~!」
 すると回転して着地した黒猫はコンコンと地面を叩き猫達にゴロゴロと寝転ばせる。それは思わず混じりたくなるような光景だった。ふらりとエンリと千が飛び込もうとする。
「にゃ、愛らしい猫だにゃ~。だけどぼくを魅了するにはもふもふが足りないにゃ!」
 ケーシィがぱやんっとオーラを放ち仲間を正気に戻していく。
「人を襲うデウスエクスは許さない」
 冷たく言い放った星太は猫と猫の隙間を躱して進み、鋼を纏った拳を顔面に叩き込んだ。
「吾輩をぶつなんて! 猫世界に対する挑戦だにゃ!」
「残念ですが、そちらに手番は回しません」
 杖を振るおうとする黒猫の背後から迫った泉が、銀の刃を振るって背中を斬りつける。
「ライちゃん、あそこの猫の魔法使いさんにビリビリをお願いね」
 メイアの羽根がふわっと淡く光り雷鳴と共に雷獣が現れる。それは閃光となって奔り猫を貫き、軌跡に残る光の絲が動きを封じるように絡みついた。
「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ」
 感電した黒猫の身体が痙攣する。
「お腹は弾力があってぷにぷにだったよ! もっとじっくり触りたいけど我慢しないと……」
 そこへ地を滑って跳んだエンリは、足に炎を纏い猫を蹴りつけた。
(「……もふもふでも、手加減は、しま、せん……」)
 あおは花を纏う巨大なハンマーを砲身へと変形させ、砲弾を発射した。弾は黒猫の足元で爆発し倒れそうになった体を吹き飛ばす。
「これでも喰らうにゃ!」
 空中で黒猫が杖を掲げると、マタタビの実が降り注ぎ猫達は酔っぱらったようにじゃれる。その雰囲気が伝染するようにケルベロス達の顔も赤みを帯びていった。
「猫魔法……恐ろしい魔法だね」
 にゃーにゃーと可愛らしい猫の集団にほんのりと癒されつつ、梅太は杖をメジロに変えて飛ばし、猫の顔にぶつけた。
「こんなもので誤魔化されたりしないよ」
 目を閉じて猫を視界から追い出し、瞼を開いた星太は黒猫だけに集中して跳躍し、飛び蹴りを叩き込んだ。
「猫いっぱいなんて何という恐ろし可愛い技……! けど、支配はご遠慮するぞ。いっしょ仲良く! 共生が理想である!」
 千は手にしたスイッチを押して爆発を起こし、マタタビと猫を纏めて吹き飛ばした。
「猫の弱点はよ~く知ってるにゃ!」
 漆黒のライフルを構えたケーシィが光線を放つ。光を浴びた黒猫の体が凍り始める。
「にゃ! 寒いにゃ~!」
 慌てて黒猫は飛び退きぶるぶる震えた。

●猫魔法
「よ、よくもやってくれたにゃ! 許さないにゃ!」
 ガチガチと歯を鳴らしながらも黒猫は杖を向けてくる。
「弱ってきましたね、ではパターンを変えましょうか」
 泉は右手にグラビティ・チェインを集め、魔法を使う前に顔面に拳を打ち込む。
「ぎにゃっ」
「コハブも可愛いけど、どちらかと言うとわんこ系だし……わたくしは猫も好きなの」
 だから珍しい猫をもう少し見ていたいと良く見て弓を構えたメイアが矢を放つ。その矢は猫の腕を貫き時を止めるように傷口を凍結させた。
「また冷たいにゃ! もう冬は終わったにゃよ!」
 猫の群れを呼び辺り一面をごろごろする猫で埋め尽くす。
「とっても可愛いけど……魔法の効果を打ち消すね」
 僅かに迷いながらもエンリは手を組んで祈りを捧げる。すると青く輝く石が周囲に現れ、灯った七色の光が広がり仲間を包み込み、召喚された猫達が消え去っていく。
「ほらほらこっちだよ~」
 千がハンマーをちょういやちょういやと猫じゃらしのように動かす。
「その程度の誘いに吾輩が引っ掛かるとでも思ってるのかにゃー?」
 澄まし顔で釣られた黒猫がハンマーに飛び掛かる。そこを千がカウンターで蹴り飛ばした。
「吾輩は偉大なる猫魔法の使い手にゃ、負けるはずがないにゃ……」
 傷つきながらも空元気で黒猫は魔法を使い、現れた猫達が一斉に行進してくる。そこへ横からクルルがタックルして妨害する。
「こっちは、行き止まりだよ」
 梅太が雷の壁を作って猫達の進路を塞ぐ。
「そっちが悪い魔法使いなら、こっちは良い魔法使いにゃー」
 ケーシィはオーラを放って魔法と拮抗させ行進を止めた。
「……ちょっと、だね、なら……いい、ですよ、ね」
 軽く地面を蹴ったあおは頭上から猫を蹴り、そのまま押し倒すようにして上に乗った。ふわりとまるでクッションのような弾力が返る。
「これはピンチにゃ!」
 ごろんごろんと黒猫は横回転してあおを振り落として起き上がる。
「逃がさないよ」
 背後から接近していた星太は金属に覆われた腕を振り抜き、黒猫の首根っこを引っ掻けるようにして地面に叩き伏せた。
「吾輩がこの世界を支配してやろうというのに、どうして逆らうにゃ!」
「私も百と一緒に猫会議に参加したことあるけど、人を支配するお話はしてなかったって思う。にゃーにゃーとおすすめおやつとか話していたに違いないのだ!」
 千はジャンプしてハンマーを振り下ろす。猫が紙一重で避けハンマーが地面を叩く。すると地面を凍らせ猫の足を捕らえた。
「この世界にデウスエクスが安全な場所なんて存在しないよ」
 星太はナイフを幾重にも走らせ傷口を抉っていく。
「もっと見ていたいけど、倒さないとね」
 輝く翼からメイアは聖なる光を放って猫に浴びせると、体中の傷がくっきりと浮かび上がり痛みが増加する。
「ちょっホントに痛いにゃ! やめ、止めさせるにゃ!」
 黒猫が無数の猫を召喚して壁にするとよろよろと後退する。そこへぼっくんがマタタビをばら撒くと猫の群れがそちらに向かった。
「ふにゃ~」
「最後にもう一度だけ!」
 同じように釣られた黒猫に、エンリが拳を腹に打ち込みぼよよんという感触を感じながら吹き飛ばした。
「眠くなってきたからそろそろ終わらせないと、ね」
 梅太が炎を纏った球体を作り出し、地面に転がすと思い切り蹴り飛ばした。真っ直ぐに飛んだ球がビターンッと猫の顔に直撃する。
「猫なら猫らしくしておくべきでした」
 人に仇名すものに容赦はしないと、泉はナイフでガードしようとする腕を払い、拳で腹を打って動きを止めると、返す刃で首を斬り裂いた。
「にゃあっ猫に酷いことすると祟りがあるにゃよ!?」
「悪い魔法使いは最後にやられるのがお約束にゃ」
 ケーシィが足元に伸ばしたスライムが広がって黒猫を呑み込み動きを封じる。
(「……猫の世界、そんな場所が、あるの、なら……」)
 その世界に帰そうと、あおの放つ魔力が旋律となって広がる。すると天より光が差し黒猫を跡形もなく消滅させた。

●帰り道
「ふぅ……手ごわい敵であった」
 壊れた車をヒールしながら、違う意味で手強かったと千が汗を拭う。
「ん~猫の魔法使いが……あれ?」
「大丈夫かな? 君は悪い魔法使いに眠らされていたんだ」
 フェロモンを放ちながら星太は安心させるように微笑んだ。
「こんな夜には魔法使いの猫ではなくて、危ない人たちもでてきますから帰りましょう?」
「20時はもう遅い時間だもの。お外に出るの、危ないよ」
 目をぱちくりさせる少女に泉も優しく話しかけ、メイアが時間を教えてお家に帰ろうと少女に手を伸ばす。
「もうそんな時間なんだ! ママにバレる前に帰らなきゃっ」
「もう遅いから、送っていくよ」
 その手を掴んで元気に起き上がった少女に、梅太が皆で一緒に行こうと先導する。
「夜に一人で出歩いたらダメだよ」
 エンリがクルルの顎の下を撫でながら注意を促す。すると少女の視線はクルクルと喉を鳴らすクルルに釘付けになった。
「かわいい! おねーちゃんこの子に触ってもいい?」
「早く帰らないと猫の国に連れてっちゃうにゃよ?」
 はしゃぐ少女に、魔法使いのような帽子を被ったケーシィがニィと笑みを作ってみせる。すると一層少女は喜んだ。
 そんな様子を少し離れた場所で見ていたあおは、猫の感触を思い出してほんのりとご満悦そうな雰囲気を醸し出していた。
 賑やかな帰り道に遠く聞こえる猫の鳴き声に合わせ、泉はブルースハープの音色を響かせた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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