サディスティック・エデン

作者:朱乃天

 極彩色のネオンが眩しく煌めく夜の繁華街。
 雑多な人々で賑わいを見せる華やかな街並みに、突然耳を劈くような悲鳴が響き渡った。
 何事かと声が聞こえた方を振り向くと、男性がアスファルトに叩き付けられ、血塗れになって身体を痙攣させていた。
「あーあ、もう動かなくなっちゃったの? もうちょっとアタシを愉しませてくれないと」
 次に聞こえたのは少女の声だった。その少女は深紅のベビードールに身を包み、全身には蜘蛛の巣と蝶の刺青が刻まれている。
 そして何よりも、彼女は少女というには大きな体躯の持ち主で。人々の誰もが異形の存在たる彼女を見上げ、恐怖に顔を引き攣らせる。
 彼女の正体は、巨躯の戦士たる種族――エインヘリアルだ。
 少女は倒れた男性を踏み躙り、力を込めると。不快な鈍い音と共に男性は無残な姿に変わり果て、少女の足と地面が赤い血の色で染め上がる。
 エインヘリアルの少女は男性だったモノを無造作に足蹴にし、怯える人々を光のない瞳で一瞥しながら、口元を不気味に歪ませる。
「壊れた玩具に用はないから、新しいのを探さなくっちゃね」
 つい先程まで人々の活気に包まれていた街は、嗜虐嗜好な拷問吏の少女の手に掛かり――瞬く間に屍山血河の地獄絵図へと変貌していった。

 過去にアスガルドで重罪を犯したエインヘリアルが、尖兵として送り込まれて人々を虐殺し始める。
 ヘリポートに集まったケルベロス達に、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)が予知した事件の内容を語る。
 このまま敵を放置しておけば、多くの人々の命が奪われてしまう。そして人々に恐怖と憎悪が齎され、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられる。
「おそらくそうした狙いもあって、この凶悪犯罪者達を解き放っていると思うんだ。そこでキミ達には現場に急行してもらい、エインヘリアルの撃破をお願いしたいんだ」
 エインヘリアルが現れるのは夜の繁華街だ。敵の襲撃を受ければ現場は忽ち混乱し、非道な殺戮が繰り広げられてしまうだろう。
 ケルベロス達が到着するのは、敵が街に出現した直後となる。その時ならまだ街の人達は襲われていないので、一般人を戦闘に巻き込まないように敵を引き離す必要がある。
「今回キミ達が戦うエインヘリアルの名前は『エデン』。見た目は少女のようだけど、嬲るように苦痛を与えて殺すのが趣味という、陰湿で歪んだ性癖の持ち主なんだ」
 嘗ては拷問官だったらしいが、度を過ぎた残虐性が災いして罪人にまで身を落とすのは、皮肉な因果としか言いようがない。
 更にこのエインヘリアルは、若い男性を特に好むようである。そのような性質を利用して敵の注意を引き付けられたなら、警察官達が避難誘導に動いてくれるので、後は戦闘だけに専念すれば良い。
 敵の攻撃方法は、鞭を振るって相手を虐げ、焼き鏝で呪いの烙印を押し付けてきたりする。そして闘気を蜘蛛の巣状に張り巡らせて、相手を捕らえようとしてくるようだ。
 因みにエインヘリアルは、不利な状況になっても敗北を認めようとせず、最後まで戦い続けるので逃走される心配はない。
 相手はアスガルドで凶悪犯罪を起こすような危険な存在だ。しかし何の罪もない人々が、一方的に虐殺されるような横暴を許すわけにはいかない。
「とにかく、キミ達の力なら後れを取ることはないと思うから。それじゃ、行こうか」
 己の欲望を満たす為だけに力を振るう悪逆なる罪人に、裁きの鉄槌を――。
 シュリは真剣な眼差しでケルベロス達を見つめ、事件の解決を彼等に託した。


参加者
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
森光・緋織(薄明の星・e05336)
御剣・冬汰(君が好き・e05515)
フェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342)
ゲリン・ユルドゥス(白翼橙星・e25246)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)
メィメ・ドルミル(夢路前より・e34276)

■リプレイ

●奴隷の楽園
 夜の繁華街は人々の活気に満ちていた。
 ネオンに彩られた華やかな街の空気に、人々は魅了されるかのように集まってくる。
 しかし煌びやかな光に引き寄せられるのは、彼等だけではない。そこに集う人間達の命を求めて近付いてくる、一つの大きな災厄をも招き入れてしまう。
 見た目は少女のようなその存在は、人と呼ぶには余りにも巨躯で異質な――怪物だった。
 異形の少女――エインヘリアルが街に出現すると、辺りは騒然として緊迫した空気に包まれる。このままでは彼女の手に掛かって人々が虐殺されてしまう。その時だった――。
「エデン……こんな形で再会するとは思わなかった」
 エインヘリアルの少女の前に立ちはだかった一人の青年。レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)が複雑そうな表情を浮かべながら、少女の顔を見上げる。
 ヴァルキュリアである彼は、かつてエインヘリアルに奴隷として虐げられていた。そして当時の主人であった少女が、今彼の目の前にいる。
 彼女を引き付ける為、葛藤する感情を押し殺して囮となるレスター。エデンは若い男が特に好きである。そうした性質を利用した作戦は的中し、エデンの興味は一般人から彼の方へと向けられる。しかし次に彼女が示した反応は、余りに素気無いものだった。
「アナタはなあに? アタシの玩具になってくれるの?」
 エデンにとって奴隷は慰み者の玩具でしかない。飽きたら毀して捨てるだけ。個人の認識すらも忘れる程に、少女はこれまで数多の奴隷を虐げてきたのだ。
「……色々思うことはあるが。親友として、悪夢を晴らせるように最善を尽くすとしよう」
 エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)は友人たるヴァルキュリアの青年の力になるべく、参戦を決意して彼に同行してやって来た。街の様子を見回せば、警官達が避難誘導に動いてくれている。どうやら人々を巻き込む心配は杞憂であった。
「僕達の親友の為に、レスター君の悪夢を晴らす為に……。そうだよね、兄さん」
 そう言ってエリオットに話し掛けるのは、双子の弟であるエリヤ・シャルトリュー(影踏・e01913)だ。彼は兄とは違って物静かな性格ではあるが、友を案ずる気持ちは少しも変わらない。
 大切な友がこの戦いに臨む心境を推し量りつつ、エリヤは敵の注意が一般人に向かないように目を光らせる。
「傷付けるなら、絶望を齎すならオレにもしてよ♪ 誰よりも良い声で啼いてみせるよ?」
 敵の意識を引き付けようと、御剣・冬汰(君が好き・e05515)が誘うように呼び掛ける。それとも満足させられないのかい、などと挑発じみた態度を取れば。拷問吏の少女は嗜虐的な笑みを浮かべて、手にした鞭を冬汰に振るう。
「本当に悪趣味ね。でもフェリスの前では、仲間を傷付けるような真似はさせないよ!」
 そこへ小さな影が躍り出る。フェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342)が狼のように身軽な動作でしなやかに、素早く割り込み鞭をその身に受けて耐え凌ぐ。
 フェリシティは一瞬苦痛に顔を歪めるが、ゲリン・ユルドゥス(白翼橙星・e25246)がすかさず癒しの力を用いて治療を施した。
「さあ、これでもう大丈夫だよ。ボクがみんなを支えるからね」
 ゲリンが光の翼を大きく広げ、祈るように魔力を込めると。指輪から光が溢れて仲間を包み、加護を齎す盾へと変わる。
「おれは痛いこともデウスエクスも嫌いだ。……あんた、気にいらねえな」
 メィメ・ドルミル(夢路前より・e34276)が薄く開いた瞳で射殺すようにエデンを睨む。戦いの火蓋は既に切られた。メィメは敵の攻撃に備え、紙兵の群れで壁を築き上げていく。
「どういう事情があるのか、知らない人間が踏み込むわけにはいかないからね。だからオレは、全力でサポートに徹するよ」
 敵と宿縁ある者が、心置きなく戦えるように支援するのが自分の役目だと。森光・緋織(薄明の星・e05336)が全身から光の粒子を散布させ、仲間の戦闘感覚を研ぎ澄まさせる。
 ケルベロス達は戦闘態勢を整えて、エインヘリアルの少女を迎え撃つ。
 片や彼等と対峙するのは、見た目とは裏腹に残虐性を秘めた危険な存在だ。その彼女の口角が不気味に吊り上がる。

●嗜虐のエデン
「アナタ達、そんなにアタシの玩具になりたいのなら、いっぱい愉しませてあげるわよ」
 エデンの全身から、殺意を帯びた闘気が迸る。それは蜘蛛の巣のように張り巡らされ、獲物を逃すまいとケルベロス達を締め上げる。
 ――あの時も、呪縛のようにこの身を捕らえて離さなかった。
 辛い記憶を仕舞い込んでも、肉体は受けた痛みを忘れない。レスターの内に混在する負の感情。恐怖に怯え悲嘆に暮れて、生きることに絶望した日常。彼の双眸からは、疾うに枯れ尽きた筈の涙が地獄の炎と化して、手にした槍を伝って燃え上がる。
「……駆け付けてくれた仲間の為にも、ここでは退けない。キミは……俺の手で討ち倒す」
 闘志を奮い立たせて想いを込めて、炎纏いし聖なる槍でエデンの身体を斬り付ける。
「ああ、何も恐れることはない。俺達が傍に付いているからな」
 親友を励ますように語り掛けるエリオット。冷静に敵を見据えて動きを分析し、闘気を練り上げ拳に纏わせ、強烈な一撃を叩き込む。
「友達の為に、僕でも何かができるんだ。だから、友達を助ける為なら、僕は頑張るよ」
 エリヤにとってレスターは、自身が覚えている限りでは初めての友人だ。友であり、もう一人の兄として慕っている彼の力になろうと発奮し、御業を駆使して敵の動きを抑え込む。
「行くよ、そば粉! 一緒に仕掛けるよ!」
 ここは手数を重ねていこうと、フェリシティが攻勢に出る。戦場を疾走して軽やかに飛び跳ねて、重力を乗せた流星の如き蹴りを炸裂させる。そして彼女の後に続いて相棒のボクスドラゴンが猛突進し、体当たりを食らわして追い討ちを掛ける。
「その程度じゃ、オレはまだ満たされないよ。もっと虐めて、痛めつけてくれないと♪」
 揶揄うようにエデンを煽り、冬汰が巨大な槌を振り上げる。竜の力を宿して高火力の一撃を叩き付け、手応えを感じると同時に赤い鮮血が飛散した。
「おれはまどろっこしいのが嫌いなんでな。いたぶられるなんざまっぴらだ」
 寝惚けたような掠れ声で吐き捨てながら。メィメは冬汰とは対照的に、エデンという少女の存在を心底嫌う態度を見せる。
 その言葉を体現するように、メィメは目にも止まらぬ速さでエデンの懐に潜り込み、刃の如く鋭い蹴りを放って敵の巨体を怯ませる。
「相手に苦痛を与えるのが趣味みたいだけど、自分が傷付くのはどういう気分かな?」
 これまで他者を虐げてきた彼女が逆の立場になるのは因果なものだ。緋織は武器を構えながらそんなことを思いつつ、しかし情けは無用と手を緩めることなく攻め立てる。
 緋織が手にした深紅の巨大な鎌を投擲すると、刃がうねりを上げて旋回し、血肉を啜り喰らってエデンの身体を斬り刻む。
「ふぅん……まだ躾が足りないみたいね。その生意気な口を、二度と利けないようにしてあげる」
 エデンの顔から笑みが消え失せる。彼女は禍々しい形状の焼き鏝に魔力を注ぐと、先端が炎を帯びて赤熱し、隷属の証である烙印を緋織に押し付けようとする。
「……っ! それだけは、絶対にやらせない!」
 レスターが咄嗟に反応して緋織を庇い、身を挺して敵の攻撃を受け止める。しかし熱く灼けつく烙印が押し当てられると、レスターは苦悶の表情を浮かべて呻き声を上げる。
 弱者を嬲る優越感。肉が灼かれる音がエデンの歪な嗜癖を刺激して、少女は口元を緩ませながら愉悦する。
「大丈夫だよ……ボクがその苦しみを取り除いてあげるから」
 ゲリンが落ち着かせようと微笑みかけながら、掌に癒しのオーラを集束させて。傷口に触れると温かい光が炎を浄化し、火傷の痕を消し去っていく。
「――メェ メェ 黒羊さん  君から羊毛はとれるのかい?」
 魔女のコートの中には秘密がいっぱい。フェリシティが身を翻してコートの中から取り出たのは、まあるく小さなお薬一粒。万病に効くと云われる秘薬を、フェリシティは小さな掌の上で転がして。指で弾いて仲間の口の中へと放り込み、忽ち活力を取り戻していった。
 ケルベロスとエインヘリアルの少女との戦いは、両者譲らず拮抗した状況だ。この均衡を先に崩すのはどちらになるのか――戦場の空気が一層緊迫感を増す。

●儚き終焉
 群がる番犬達を殺意の網で捕獲しようとするエデンだが、彼等の攻撃の手は止まらない。
「攻め続けていれば必ず勝機は見えてくる。それまでは……この身に代えても」
 友を助ける――と。エリオットが強い決意を抱いて掲げた槍に、空から雷が降り注いで穂先に帯びて。紫電の如く速く駆け、稲妻の刃を奔らせながら斬り払う。
「僕も、悪夢を晴らすと約束したからね。だから、絶対に負けないよ」
 心の底から勇気を絞り出し、エリヤが黒い残滓を操り触手のように伸ばして捕らえ、エデンの足を絡め取る。
「今のうちに火力を集中させるよ――動かないで」
 少しでも敵を抑え込み、動きを鈍らせることを続ければ――。緋織が瞳に魔力を宿すと、左眼が血の色のように赤くなり。夢現の瞳で相手を睥睨し、命じるように言葉を投げて敵の動きを封じ込む。
「オレの心を君の言葉で、心で、息で、満たして、染めて――」
 縋るような視線をエデンに向けながら、冬汰が甘い言葉で囁き漏らして。渇いた欲を満たそうと、手招きしながら少女の心を引き寄せる。
「傷つけて、剰え殺して欲しいな! そうすれば、オレは永遠に君だけのモノ♪」
 求めても得られることのない冬汰の欲望は――怨となり、闇となり、数多の影手と成りてエデンを襲う。具現化した力は光を貪るように、彼女の身と心に永き苦痛を植え付ける。
 メィメが取り出した魔導書を捲って、読み聞かせるように呪文を唱えると。そこは幻想的な夢の世界に包まれていた。常春に微睡むような心地良さに身を委ねるエデンだが、その夢はメィメが喚んだ『怪物』だった。
「よく眠れたか? これからもっと、よく眠れる――」
 目が覚めて気付いた時にはもう遅く。怪物ですら眠る冬の寒さに身体が凍り付いていた。
「な、なんなのよ……。こんな子供騙しの攻撃なんか、アタシには効かないわ!」
 ケルベロス達の息をもつかせぬ猛攻に、エデンの感情が徐々に揺らいで苛立ち始める。思うようにいかず癇癪を起こすのは、見た目通りの少女の性か。平静さを欠いて手当たり次第に力を振るおうとする、それが付け入る隙を与えてしまうことになる。
「残念ながら、目の前の悪を見逃すほどお間抜けさんでもないの。そろそろ潮時ね」
 フェリシティが掌を翳して念じると、大気が歪んで竜の形を成していく。魔法によって創り出された竜の幻影は、炎を吐いて紅蓮の紗幕でエデンを覆う。
「――《我が邪眼、燐光の蝶》《群れをなせ》《其等の炎で罪を灼け》」
 更に追撃を掛けようと、エリヤが奥の手となる魔術を展開させる。緑の瞳に浮かぶのは虚空に舞う蝶であり、黒いローブに織り込まれた魔術回路に同調させて、自らの影の一部を蝶の姿に投影させる。
 エリヤの影から生まれた蝶は、光を求めるようにエデンに群がると。黒い炎となって少女の罪を灼き祓おうと呑み込んでいく。
「――黒炎の地獄鳥よ、我が敵を穿て!」
 エリオットが地獄の炎を足に纏わせて、地面を蹴ると漆黒の炎の鳥が顕れる。自身の力を極限まで圧縮させた炎の鳥は、羽ばたく軌跡を見せることなく高速突撃し、弾丸の如くエデンの腹部を鋭く穿つ。
 燃え盛る炎は、咎人への罰を下すかのように、尽きることなく激しく少女の身を焦がす。
「奴隷同然のくせに……番犬なんかが……アタシに歯向かうなんて!」
 ケルベロス達の畳み掛けるような集中攻撃を浴び続け、エインヘリアルの少女はとうとう窮地に追い詰められていく。
 しかし彼女は決して敗北を認めようとしない。見下していた相手に負けるということは、死よりも耐え難い屈辱だからだ。ならば命ある限り抗うだけと、最後の力を振り翳す。
 執念を込めた烙印の一撃が、エリオットを狙って押し当てられる。それは今まで親友を苦しめてきたモノ――彼と同じ痛みを味わいながらも、エリオットは決して顔には表さない。自分のせいで引き金が鈍ることがあってはならないと、友に微笑み返して全てを託した。
「ふわりふわりと飛んでいる星たちと、心がもやもやしている人たちのためにこの歌をささぐ……橙色星の子守唄」
 ゲリンの口から優しい唄が紡がれる。仲間を守りたいと想う心を、魔力に宿して調べに乗せて。歌声に合わせるかのように、純白と橙色の光が空に舞い踊り。ゲリンの記憶の片隅に残る旋律が、同胞たる友に安らぎと勇気を齎していく。
「エデン……今までキミは、俺の……呪縛だったよ」
 影を落としたような表情で、レスターは溜めた想いを吐露するように寂しく呟いた。
 嘗て彼女に刻まれた隷属の刺青は、今も枷となって彼の心を締め付ける。だが一日たりとも忘れたことのない悪夢のような永劫の苦痛から、解き放たれる日が漸く訪れた。
 ――俺はもう、奴隷じゃない。
 一人のケルベロスとして、命の重みを背負う狙撃手として。煉獄を篭めた銃弾を装填し、別れを告げる接吻をライフルに交わす。
「この涙は罪を穿つ、地に堕つ蝶を断つ!」
 刺青に組み込まれた魔術回路と融合し、呪いを帯びた弾丸をエデン目掛けて狙い撃つ。放たれた弾丸は楔のように撃ち込まれ、体内を喰い破ろうと炎が蝕み――幽かに揺らめく蝶の幻が、常世へ導くように舞い散った。
 エデンの光のない瞳には、その刹那の幻影はどう視えただろうか。残虐の限りを尽くした少女の最後を、消え逝く彼女の残影を、レスターは悼むように見送った。

 ――さようなら、エデン。
 空へと還る蝶の幻を目で追いながら、少女の魂の安寧を心の中で静かに祈る。
 しかしどれ程哀しもうとも、濡れた涙を流すことはもうできなくて。尚も止まない右腕の疼きに焦燥しつつ、小さな炎の雫が闇に溶け込むように零れ落ちていく。
 きっと彼は未だ罪悪感に囚われているのかもしれない。ゲリンは少しでも癒しになればと願いを込めて、少女を弔う子守唄を口遊む。
 せめて今だけは、悪夢も悲しみも、一時だけでも忘れて自由に飛び回れるように――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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