禁断の果実は甘く誘う

作者:陸野蛍

●共生を求めた無花果
「この甘さなら、出荷出来るな。旬じゃないとは言え、需要がある以上良い物を市場に出したいからなあ」
 糖度計を使い、その果実の糖度を計りながらつなぎを着た青年が呟く。
 青年が父親から、この無花果園を継いで10年以上が過ぎていた。
 青年は両親の背中を見ながら育っていた。
 だから、高校も誰に言われるでもなく農業科に進学したし、父がこの『無花果園』を自分に譲りたいと言った時も、何の疑問も持たず……いや、むしろ喜んで継いだ。
 今は自身に、妻となる人もいれば、妻のお腹の中には新しい命も芽吹いている。
 刺激のある生活では無いのかもしれない。
 それでも青年は、ただ今の『ふつうのしあわせ』を愛おしいと思っている。
 だから、この無花果園で取れた無花果で、食べる人々を幸せに出来ればそれでいいと思っていた。
 だが、西から吹く風が彼のそんな幸せを脅かす『胞子』を運んできたのだ。
 彼は、知らない……その胞子が大阪城から飛んできたものだということを。
 彼は、知らない……その胞子が彼の育てた果実を攻性植物に変えてしまったのだということを。
 彼は、知らない……ブラックアウトしていく視界の理由が自身の育てた無花果に取り込まれたからだということを。

●一年中実る果実は何を求めたか
「俺、無花果の旬って夏頃から秋頃までだと思ってたんだけど?」
 大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、予知した事柄と時期が合わないことを疑問に思い、瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)に尋ねる。
「えっとね、ボクも調べてみたんだけど、愛知県の一部地域では一年中栽培しているらしいよ。で、今回の農園も一年中出荷してるみたいだね」
「ふむふむ。まあ、何にしても、人的被害も生産物の被害も出したくないな」
 雄大の言葉に、うずまきも大きく頷く。
「そうだね。ボク達の頑張り次第だね!」
「おし! じゃあ、始めるか。みんなー! お仕事の時間だ―! 集合!」
 叫ぶ様に雄大がヘリポートで声をあげると、ケルベロス達が集まりだす。
「ここに居る、うずまきの協力で、愛知県の無花果農園で攻性植物の胞子を浴びた無花果がが栽培主である青年を取り込み、その後事件を起こすことが分かった。みんなには、この攻性植物化した無花果の撃破及び可能であれば宿主にされてしまった青年の救出をお願いしたい」
 現場には、無花果栽培専用のビニールハウスが並んでいるそうだが、攻性植物は青年を取り込んだ後、市街襲撃の為にビニールハウスから出るので、極端に被害の出る大掛かりなグラビティを使わない限りは、取り込まれた青年が育てた無花果に被害を出さずに済むだろうとのことだ。
「攻性植物の説明な。身体を緑で覆われ、各所に無花果を実らせた2m強の人型サイズで、二足歩行。その中に、栽培主の青年が捕らわれている。攻性植物の撃破だけなら、みんながそこまで苦戦することは無いと思うけど、青年を救うことを前提にした場合、かなり難しいダメージ調節が必要になる」
 青年を殺さずに攻性植物だけを撃破する方法は、攻性植物にヒールをかけながら戦い、ヒール不能ダメージを蓄積させ、攻性植物だけを撃破することだ。
 ヒールをかければ当然戦闘は長引き、青年が耐えられるダメージを超過してしまえば青年は命を落とす。
 戦闘中という緊張感の中で、どれだけ冷静に相手の状態を把握するかが鍵になる。
「攻性植物の撃破失敗は更なる被害を生む、撃破を失敗する恐れが出た場合、青年の死も仕方がないのかもしれない……だけどみんななら最善の成果を出せると信じてる。だけど、現場での判断はみんなに一任するから、後悔の無いようにしてくれ」
 戦場、戦況……現場によって方針を変えなくてはならないこともある。
 だからこそ雄大は、青年の救出に対して『必ず』という言葉を付けられないのだ。
「攻性植物の攻撃手段は、無花果を手榴弾のように投げて種を散弾させる攻撃、無花果と共生関係を構築することがあるイチジクコバチと言う蜂の幻影を放つ攻撃、無花果の甘い香りで催眠効果を与える攻撃の三つだな」
 無花果は古代の伝承に於いて『禁断の果実』として扱われることも多く、魔力を秘めた果実とも言われる。その為なのか、グラビティ・チェインの乱れを引き起こすことが得意な個体とのことだ。
「今回の事件も、攻性植物の胞子が原因であることは事実なんだけど、無花果と言う植物が共生という手段をとることや、解明されていないだけで伝承に残るような果実ってのが今回の事件を引き起こした可能性もある。……これは、予知じゃなくて予感だけどな。……とにかく、みんなには可能な限り最善の未来を選び取ってほしい。頼むぜ、みんな」
 優しげに笑うと、雄大は未来をケルベロス達に託した。


参加者
リーズレット・ヴィッセンシャフト(最後のワンダーランド・e02234)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
翼龍・ヒール(ドクトルドラゴン・e04106)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
クララ・リンドヴァル(鉄錆魔女・e18856)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)

■リプレイ

●ふつうのしあわせ
「イチジクは、久しく食べておりませんね。甘くて、美味しいですよね」
 戦場となる場に向かいながら、物腰穏やかに貞淑な女性然とした、翼龍・ヒール(ドクトルドラゴン・e04106)が言う。
「可能な限り、人の被害も現場の被害も減らせれば良いですよね、甘くて美味しいイチジクなんでしょうし」
「けど、イチジクって、ビニールハウス栽培なんだ……知らなかった、よ。……蓬莱知って、た?」
 胸に抱くふわふわのウイングキャット『蓬莱』に円谷・円(デッドリバイバル・e07301)が尋ねれば、蓬莱は『……別に』とでも言いたげに『にゃ~お』と鳴く。
 その鳴き声に反応したか、茶虎で翡翠翼のウイングキャット、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)の相棒『猫』も『にゃにゃ~ん♪』と鳴く。
「……おい。あんまり、はしゃぐんじゃない」
 陣内が言うも、猫はじゃれつくように蓬莱に向かっていく。
「ねえ? ねこさんは、混ざらなくてもいいの?」
 その和やかな姿を眺めていた、瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)は、スチームパンク風の翼で宙を羽ばたく、スリムな紳士の風格を纏った相棒、ウイングキャットの『ねこさん』に聞く。
 だが……ねこさんは、チラリと見ただけで『子供ですね』とでも言うように現場を目指す。
「折角、こんなにお友達が沢山いるんだから、仲良くしてもいいのに~」
 今回の参加メンバーケルベロスは、ペット同伴……いや、サーヴァントを相棒としているメンバーが半数以上なのだ。
 ヒールの傍らでは、ちょっと不気味な救急箱と言った感じのミミック『メディカルボックス』がトコトコ歩いているし、うずまきが姉のように慕っている、リーズレット・ヴィッセンシャフト(最後のワンダーランド・e02234)も蒼と白の美しい毛並みのボクスドラゴン『響』を連れている。
 思わぬ形で、大所帯なメンバーとなっていた。
「……自分が丹精込め、作ったものに殺されなければならない未来なんて……辛すぎるからな。……なんとしてでも助け出さねば」
 自身が育て愛した無花果に囚われた青年を思い、リーズレットが口にする。
「……そうだね、悲しい未来が訪れないように僕らはここに来たんだ……掴んだ情報を無駄にしないように、頑張らないとね。うずまきさん」
「うん! そうだよね、頑張らなくっちゃ!」
 紅い瞳に強気な笑みを浮かべ、ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が言えば、うずまきも強く頷き答える。
(「けど……何で無花果? イチジクコバチの共生関係と攻性植物が誰かを共生対象にしようとするのに何か関係があるのかな?」)
 植物に感情がもしあるのならば、愛が家族にも分散したと嫉妬の情を抱いたのかもしれない……攻性植物と言う存在が普通のこの世界で、植物に感情など無いと言い切るのは難しい。
(「……イチジクコバチの番い。……たった1人……お互いに、大切って添い遂げらる関係には、憧れるよ……でも。今のボクにそんな相手を求める資格があるの……?」)
 たった一人の運命の人に憧れる気持ちも当然ある……けれど、うずまきが心に問いかければ普段は隠している、自信の持てない臆病な自分が顔を出す。
「……まき。……おい! うずまき! しっかりしろ! 大阪城からの春のお便りを受けたお相手が現れたんだ。しゃんとしろ!」
 陣内に怒鳴られ、うずまきが前を見れば、緑を纏った身体に芳醇な無花果を宿した攻性植物『イチジク』がハウスの陰から姿を見せ、眼前十数メートル前に立っている。
 うずまきは表情をケルベロスのものに変え、回復グラビティを高め始める。
「にしても……有難迷惑な贈り物だな。大阪城のカンギもまだまだ元気ってことだな」
 言うや否や、陣内はイチジクに接敵すると鋭利な黒豹の爪でイチジクに先制攻撃を与える。
(「『ふつうのしあわせ』、結構じゃないか……旦那とビニールハウスの両方を、無事に家族へ還してやらないとな」)
『ふつうのしあわせ』……愛する人と共に過ごす日常……このイチジクに囚われた青年が死ねば、その愛する家族も『ふつうのしあわせ』を失うことになる。
 翡翠の翼と髪に咲いた木香薔薇が美しかった自身の姉が亡くなった時の空虚な気持ちが陣内の心に傷を付けたように……。
「えと……皆さん、攻性植物をビニールハウスからなるべく離して、被害を最小にしましょう」
 電流の障壁を構築し、クララ・リンドヴァル(鉄錆魔女・e18856)が大きなつばにリボンの付いた帽子から瞳を覗かせ仲間達に言う。
(「……植物を育て愛し……何と、誇り高い生き方なのでしょう。このような方々が居るからこそ、わたし達の普段の生活が滞りなく流れているのですね。……囚われの方……必ずお救いします」)
 クララが胸で誓いを立てていると、ヒールの高笑いが聞こえてくる。
「オーッホッホッホ!! 甘さ、色、どれを取っても、ワタクシにピッタリの果実ですわ! だから、大人しく食べられなさいな!」
 春の陽光に色鮮やかに映っていた藍色の瞳にサディスティックな色を乗せ、ヒールがチェーンソー剣の轟音を辺りに響かせ無花果を斬り裂いた次の瞬間、静かでどこか穏やかな男性の声が響く。
「――これも、自分に出来る事ならば」
 納刀した『白綴』から、零れる花弁のような光を舞わせ、自身の内にある地獄の炎を共振させると、筐・恭志郎(白鞘・e19690)は、イチジクへと癒しの力となる白い炎を纏わせた。
 力を放った代償に自身の過去の傷跡が小さな痛みを感じ、鞘を握る恭志郎の瞳が僅かだけ陰った……。

●救うための策
(「『ふつうのしあわせ』……彼の生き方は、俺がかつて歩もうとして、そして突然失ったもの」)
 恭志郎は幼い頃から、祖父が大事にしていた畑を手伝うのが日常だった。
 ただ穏やかに時が流れる田舎での暮らし。
 そこに疑問も不満も無かった。
 何れは自分が家を継ぐのだろうと、当たり前のように思っていた。
 けれど、一度手が離れてしまえば二度と手にすることが出来ないかけがえのないもの。 囚われた青年の生き方は、恭志郎が手にすることになるだろうと思っていた、もう……けして、戻れない生き方。
『ふつうのしあわせ』
 それが、眩しくて、羨ましくて、だからこそ……。
「どうか、どうか――彼が、その家族が、ふつうのしあわせを失わないように」
 祈りを込め、恭志郎はイチジクに与える回復のグラビティの力を上げていく。
「響! 恭志郎さん、うずまきさんの順に属性インストール。その後は、みんなを庇いながら他のウイングキャット達と連携し、グラビティの乱れへの耐性をみんなに付けていくんだ。時間をいくらかけてもいい……確実に青年を助け、イチジクのみを撃破するのだ」
 リーズレットは、響に指示を出しつつ、歯車作りのスチームパンク風弓『Loreley』に矢を番えると正確無比の一矢でイチジクの脇腹を射抜く。
 イチジクにダメージが確実に入ったのを確認すると、ヴィルフレッドが癒しの力を持つ木の葉の力を弾丸に込めリボルバー銃で撃ち出す。
「まださ、まだここで倒れるわけにはいかない……そうだろう?」
 ヴィルフレッドの癒しは、力を与えられた者に大切な思い出……郷愁の幻影を見せる不思議な力。
 その力が、イチジクの中で眠る青年の意識を少しでも保たせてくれれば……ヴィルフレッドは願わずにはいられない。
 だが、その願いをイチジクは当然知らず、自身の無花果を投擲するとグラビティの爆発を起こす。
 前衛陣が爆発に巻き込まれるが、全員が防御姿勢を取っている為、ダメージは大きくない。
 それでも、乱されるグラビティ・チェインの流れはすぐに、円の雷壁が正常な流れに戻す。
「ひゃっ……! みんな、大丈夫? もう、自分達のヒールも怠ってらんないなぁ」
(「それでも、みんなで決めたんだもん、ね。おにーさんを絶対に助ける、って」)
 円は最後衛に位置しながら、傷つけられ次の瞬間には癒しを施されるイチジクをジッと観察する。
(「春だから攻性植物って活発になってるのかなぁ……。花粉だけでも厄介なんだから、迷惑な胞子は……しっかり滅さないと、ね。まだ、攻性植物との最終決戦ケルベロス・ウォーが出来る訳じゃないけど、私……攻性植物の侵攻、好きじゃないんだよ、ね。侵略寄生とか、みんなが悲しいのは嫌……だよ」)
 関わってきた攻性植物の事件を思い返せば、円の胸に怒りと悲しさが湧き上がる。
 少しでも、悲しい思いをする人を減らしたい……その思いが伝わったのか、蓬莱も『にゃ~ん』と鳴くと、ふわふっわな翼をはばたかせ仲間達に力を与える。
「すまいるっぜろえんーっ」
 愛用の銃で癒しの弾丸をイチジクに撃ち出す、うずまき。
 弾道は虹色に輝きイチジクの中で弾けると、囚われの青年に笑顔が戻ればと温かな光を放つ。
「攻撃は、お任せなさい! ワタクシの毒は、攻性植物にだけ巡り……イチジクだけを消し去るのよ! ホーッホッホッホ!!」
 黒き生命体を鋭い槍に変え、イチジクを貫きながら、ヒールが高らかに宣言する。
「おいおい、やり過ぎるなよ……まあ、一撃で男が死に至るってことは無いだろうがな……」
 言いつつ、攻性植物の首筋辺りをすっぱり切り裂く、陣内。
 今回のメンバーのポジション構成は超持久戦編成と言ってよかった。
 普段であれば、メインアタッカーはクラッシャーかスナイパーと言うのがケルベロス達の常識と言っても過言ではない。
 そうすることにより、ケルベロス達は殆どの場合、戦闘を10分以内で終わらせている。
 だが今回、ケルベロス達はメインアタッカーをキャスターとジャマーで担うことにより、グラビティの流れを乱しイチジク自体の行動能力を制限し、継続ダメージの入るグラビティを攻撃の主体としていた。
 クラッシャーやスナイパーでは、大き過ぎるダメージの上限調整は難しくなる。
 クラッシャーは一撃の基本ダメージが大きく、スナイパーは確率にもよるが一撃のダメージがクラッシャーのそれを超える事が頻繁に起こることもある。
 中衛主体の攻撃はダメージコントロールを容易にするという意味では一つの正解である……但し、撃破が普段より時間がかかってしまうのは事実。
 ケルベロス達の集中力がその長い戦いの中続くか、イチジクの蓄積ダメージと超過ダメージを計る眼力が、青年の命を決めると言ってよかった。
(「作戦を成功させる為、皆さんをしっかりお支えしなくては……!」)
 クララは癒しの雨を仲間達に降らせながら、仲間達の体力とイチジクの動き……そして、その中で眠っているだろう青年の体力を肌で魔力で感じるように瞳を閉じた……。

●還るべき場所
「いくよ蓬莱っ……!」
 円が叫べば、蓬莱の王冠型リングがイチジク目掛けて飛び、猫も木香薔薇のリングを撃ち出す。
「こっち来ちゃだめ、なんだから……! 地獄を見せて……あげよう、か? イチジク、あなただけに……!」
 イチジクコバチの幻影を放ち続けるイチジクに円は、オリジナルの試作痺れ薬を投げつける。
 その隙に、ねこさんが金属補強された羽をはばたかせ、仲間達の体力を万全にする。
「イチジクだけの撃破……えと、いけると思います。わたしも最後の攻勢行きます……。至近距離でも……戦えますっ……!!」
 クララは言うと、戦場を荒々しく動こうとする『噛み回る魔導書』を力で制御し、イチジクの傷口を広げる。
「イクわよ! 聞こえているんでしょう! 子が、妻がいるんでしょう! ならば藻掻きなさい! あなたは私のもの。憎しみも愛も永遠に……」
 イチジクの中の青年に呼びかけながらヒールは、黒薔薇を纏った喪服の老婆の幻影を生みだす。イチジクの命だけを刈り取る為に。
 陽炎のような地獄の炎と痛みを胸に抱きながら、恭志郎は光の剣をイチジクに突き刺す。
「助けに来ました……あなたは、まだ『ふつうのしあわせ』の元へ戻れます。……どうか……あと少し、堪えて下さい」
 悲痛さすら感じる、恭志郎の言葉が戦場に静かに響く。
「保険に回復を飛ばす。付いちまう光の盾は、リーズレットが叩き壊せ」
 威力が高すぎない光の盾による回復をイチジクに飛ばし、陣内が言えば、リーズレットもすぐに動き、高速の動きで光の盾を破壊し、イチジクに拳を打ち込む。
「夏にお子さんが生まれたら、うずまきさんと一緒に見に来きたいの! ……帰ってきて!」
「そうだよ! 赤ちゃん……ボクもお祝いしたいよ! だから、イチジクとの共生を絶って!」
 右手の縛霊手を霊力放射と共に撃ち下ろしながら、リーズレットの言葉にうずまきは大きな声で答え、青年へ呼び掛ける。
『uccello bianco』師匠から譲り受けた白い銃を構え、ヴィルフレッドが年齢にそぐわない静かな声音で言葉を紡ぐ。
「イチジク……君は終わりだよ。彼を返して、地に還るんだね」
『ズガアァァァン!』
 ヴィルフレッドが目にも止まらぬ速さで撃ち出した弾丸は、大きな音を建ててイチジクの命だけを撃ち抜いた。
 倒れたイチジクが枯れ、大地に還れば……その枯れた緑の中から寝息を発て眠る青年が姿を現す。
 彼の静かな生きている証を聞きながら、ケルベロス達は青年に駆け寄るのだった。

●はなことば
「しかし、イチジクかぁ。一年中、美味しいのが食べれるのは嬉しいね。今でも甘そうなのに、旬になったらどんなに美味しくなるんだろう? 楽しみだね」
 少年の顔に戻ったヴィルフレッドが、ヒールを施しながら笑う。
 無事に救われた青年は、ケルベロス達に幸せそうな笑顔を見せ、礼を言うと、ハウスの無花果を見に走って行った。
 これからも続いていく家族との幸せの為に、彼は日常に戻ったのだ……。
「ふつうのしあわせか……」
 煙草の煙を吐き出しながら呟くと、陣内はポケットに入れている携帯灰皿を探る。
 恭志郎は、離れていく青年に何も言えず、ただ……後姿を眩しく見つめていた。
「ヒールが終わり次第ヘリオンに帰還でしょうか?」
 戦闘中とは真逆の柔和な笑みを見せヒールが聞けば、クララが頷き、身に付けた長手袋を抜き取ると、戦場となった大地へ、ふわりと落とす。
「……この、のどかな農園で……あの方がいつまでも幸せに暮らしていけますように……」
「ほんとに、ね。あの、おにーさんのしあわせが何時までも続けば嬉しいよ、ね」
 円も蓬莱を強く抱きしめ、言う。
「そう言えば、うずまきさん、イチジクの花言葉ってご存知かな?」
 リーズレットがイチジクの甘い香りを感じながらうずまきに聞けば、うずまきは首を振る。
「『実りのある恋』らいしぞ? 無花果を食べれば背中が押されるんじゃないだろうか?」
「は、はわわ~!?」
 リーズレットの言葉にうずまきは、顔を真っ赤にすると、大いに狼狽えるのだった……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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