●もふ破れ――もとい、夢破れ
最寄りのインターチェンジから数時間。電車の駅からも車で約二時間(とは言っても、駅に止まる電車は一日数本)。
つまるところが、緑ばかりがやたらと目立つ片田舎。前には休耕田となって久しい棚田、背には鬱蒼とした森が広がる地に、こじゃれた感じに改装された古民家が建っていた。
隣接する砂利を敷いただけの駐車場の入り口前に、申し訳程度に立てられた看板には『わんわんもふもふ動物園へようこそ!』の文字。
そして今、古民家の奥に設えられた厩舎の前で一人の男が項垂れていた。
「だって、アラスカン・マラミュートの魅力を伝えるには、ここが最適だと思ったんだ……!」
年の頃は三十を少し過ぎたくらいだろうか? 都会の真ん中でスーツを着ている方が似合いそうなオーバーオール姿の男の周囲の檻の中では、素敵なもふもふ――アラスカン・マラミュート達が大型犬らしい大きい背中をちょこんと丸め、きゅんきゅんと鳴いている。
「ごめんな、サーモン。マグロ、イワシ、アジにカツオ。こんな所なせいでお客さんは来てくれないし、君らの散歩も僕だけじゃ儘ならないし、餌代だって……!」
とどのつまりこの男。アラスカン・マラミュートの素晴らしさを世に伝えるべく、アラスカン・マラミュート『だけ』の触れ合い動物園こと、ワンコカフェを作ったのだが。立地やら何やらの(アラスカン・マラニュートへの愛も含む)拘りが過ぎてしまって、敢え無く閉店に追い込まれてしまい。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
結果、第十の魔女・ゲリュオンに襲われ、もふもふ毛皮を羽織ったワンコ顔の店長型ドリームイーターを爆誕させるに至ったのである。もふっ。
●ようこそ、もふもふ王国へ!
「アラスカ原産アラスカン・マラミュートだからって。サーモンはともかく、マグロとかイワシとか、魚で名前を統一するのも……まぁ、うん」
初っ端から首を傾げる六片・虹(三翼・en0063)はさておき、リザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)はほんのり夢見る顔で第十の魔女・ゲリュオンに端を発する事件について語り出す。
「被害者は獅子堂・菫さん。脱サラして、曾祖父から引き継いだ田舎のお家を改装し、アラスカン・マラミュートと触れ合えるお店を作った方です」
だが一念発起の夢は破れ、後悔は奪われた。
このままだと新たに生み出されたもふもふドリームイーターが次なる事件を起こすし、菫も眠ったままになってしまう。解決するにはもふもふドリームイーター、略してもふイーターを倒すしかない。
「店に乗り込み、いきなり殴りかかっても構いません。ですが、先にアラスカン・マラミュート達と存分に触れ合ってあげると、もふイーターは満足を得て戦闘力が弱体化します――そう、もふもふです!」
「あの憧れの大型犬ともふ三昧!」
途端、目を輝かせた虹に、そうなんです! とリザベッタも笑み崩れる。
だってアラスカン・マラミュートだ。大きい子は成人男性もまたがれそうな巨大もふもふ犬。しかも賢く、人懐っこくて大人しい! ちなみに、シベリアン・ハスキーに似てるけど、サイズはアラスカン・マラミュートの方が一回りは大きい。瞳はダークカラーで、ふんわり巻き尾!!
「あ、でも。ご主人に忠実なわんこさん達ですので。店長がもふイーターにすり替わってる今は、ちょーっと気が立っているかもしれません」
そんな注釈入れつつ、リザベッタが説明したもふ堪能メニューは、一緒にお散歩と餌やり体験の2コース。
因みに散歩は延々と裏山や近所の田畑を歩き続けること。約二時間くらい。
餌やり体験は、専用のドッグフードを腹ペコわんこの前に置き、お座り、お手、お代わり、待て、の四段活用を経てからの、はいどうぞ。
「成犬は15頭いますので、存分に触れ合えると思います」
そして肝心の戦闘場所はと言えば、此方はカフェになっている古民家内の玄関付近。
大きな犬たちといきなり楽しめるよう、十五畳ほどの三和土が広がっているので、そこなら他を気にせず戦うことが出来るだろう。
そうリザベッタが締め括ったところで、虹がふと尋ねた。
「そういえば、成犬と言ったか? なら子犬もいるのか?」
「はい。今は菫さんが倒れている自宅兼事務所の方に、五匹の子犬がいます。此方とは、ドリームイーターを倒した後でなら触れ合うことが……」
「はぁぁぁ、アラスカン・マラミュートの子犬! コロコロしてるのに、脚はりっぱなふかふか毛玉! さぁ、征こう! 魅惑のモフとの出会いに!!」
今にもヘリオンに乗り込みそうな虹だが、その勢いにやや引いたことで、夢見るモードから現実に返った少年紳士は、ふと呟く。
「苑上さんのもふもふ懸念、どストライクでしたね……」
そう。
すべては苑上・郁(糸遊・e29406)が予想した通り。
まにあっくな動物触れ合い店が奏でるラプソディである。もふっ。
参加者 | |
---|---|
朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081) |
泉本・メイ(待宵の花・e00954) |
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125) |
月霜・いづな(まっしぐら・e10015) |
リディア・アマレット(蒼月彩雲・e13468) |
アーネスト・シートン(動物愛護家・e20710) |
苑上・郁(糸遊・e29406) |
ユアン・アーディヴォルフ(生粋のセレブリティニート・e34813) |
●もふ出逢い
白に少し赤茶がかった毛が混ざった子がサーモン。全体的に黒が強めなのがマグロ。体横に並んだ点斑があるのがイワシ。
――なぜかしら? おさかなやさんにきたようなきもち。
首輪についた名前を一頭一頭確認する間は、月霜・いづな(まっしぐら・e10015)もそんな事を思ったりしていたのだけれど。
「わっ、みんなっ、おちついてっ」
まずは挨拶と軽く触れ合う筈が、いつの間にやらモフに集られ埋もれる泉本・メイ(待宵の花・e00954)を見れば、辛抱溜まらず。
「わたくしも、まぜてくださいませっ!」
小さな体はモフ山の頂上目掛けてダイヴ。
もふもふっ。もふもふっ。ももふもふっ。
「わんさんがもっふり……わんさんがふっかり……」
モフ――もとい、アラスカン・マラミュート達の熱烈なお迎えに、ユアン・アーディヴォルフ(生粋のセレブリティニート・e34813)の瞳も語尾も蕩ける。
「カツオ!」
「わふっ!」
呼ばれた名に、朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081)目掛けてスタイリッシュな一頭がまっしぐら。ばうっと飛びつくと成人男性な斑鳩でもよろめきかけるのだから、サーモンとアジに圧し掛かられた苑上・郁(糸遊・e29406)の現状は言わずもがな。
しかし巨大モフに押し倒されながら郁もやっぱり思う。
(「……なんで魚?」)
そこは店主である菫の趣味(きぱ)。そう断言した所で橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)に視線を向けると、やや小柄なイワシの喉元をわしゃわしゃ。今日も今日とて主に仕える職種モードな芍薬、事前に犬達に嫌な思いをさせぬよう、全員の服をさっとクリーニング(あれこれ匂いを嫌がる子もいるかもだから)。
「じゃ、私はこのイワシと散歩に行ってくるわ!」
「待て☆」
そんな気遣いの人がお楽しみタイムに出かけようとするのを、虹が引き留めた。
「何?」
「ワンコ達は何頭でしょう?」
「……15?」
「そう! 故に、二頭は連れていって貰わねば困る――と、そこの店長が!」
「Σ」
散歩体験選択者は、芍薬にメイ、いづな、斑鳩に郁。それと斑鳩と郁と一緒にやって来た夜と愛。プラス虹。
「そういうシステムなの!?」
「いってらっしゃい」
「気を付けて下さいね」
愕然とする芍薬らを、リディア・アマレット(蒼月彩雲・e13468)とアーネスト・シートン(動物愛護家・e20710)は優しい笑顔で送り出す。もふっ。
●もふ翻弄
「マグロ、サバ」
「サワラ、サヨリ」
メイといづな、ぎゅっとリードを握り締めた。
「行こう!」
「さぁさぁ、わたくしといっしょにまいりましょう」
「――」
ワンコ、一時沈黙。
からの。
「「きゃああああああ」」
綺麗にハモった少女コンビの悲鳴は、体躯に見合った力でずるずる引き摺られ始めたせい。
で。
「まずは裏山……」
イワシに加えカツオのリードを握る芍薬が言うと、振り返った犬達と視線がバチン。ニコっと笑ったような気がした直後、
「「わふっ」」
「まぁ、そうなるわよねー」
負けじと踏ん張ってはみたものの、鑪を踏まざるを得なかった足元に、芍薬は仰いだ序に運も天に任す。
「今日まであまりお散歩も出来なくて我慢してたのかな……。今日はいっぱい歩こうね! 走ってもいいよきゃあぁあ」
「!」
私、精一杯頑張るから――とぐいぐい引っ張られながらのメイの献身を皆まで言わせず、彼女の優しさを察した犬達は太い脚で大地を一蹴り。増した速度は微風程度だが、メイの視界では穏やかな春山の風景が、あれよあれよと流れ始める。
「まあまあ! だめです、わたくしをどこへつれさるのですー!」
気付けばいづなはサワラの背の上。
「うふふふ、もっと、もっととおくまでゆきましょうか!」
確りリードを握ったままのサヨリを従え、いづなはもふもふ大行進の先導者と化す。若干、どっちが散歩されているのか分からなくなってはいるが。ともあれ、春の香りに惹かれたのか、イワシ達が目指すのは裏山の方。
「仕方ないわね」
犬達の奔放さと、年下の少女らの愛らしさに目を細め、芍薬も行き先を気儘に任せ。虹もイサキに引き摺られ後を追う。
郁がリードを握った最初、サーモンとアジは微動だにせず。意気揚々だった分、郁はしょんもり。だってタイとスズキを連れた斑鳩の方は、
「うわ、結構力が強いな! リードを持っていかれないようにしないと」
こんな具合で既にぐいぐい。でも、天は郁を見放したのではない。試したのだ。
「ひゃ!?」
変化は突然。一瞬、郁をチラ見した二頭は、そのまま全力ダッシュを開始。しかしここで負ける郁ではない。
「ミヤコは大丈夫……じゃないみたいだね」
「もふへの愛と根性と忍者の機動力を舐めるなぁ!」
斑鳩が見遣った時には、郁は風になっていた。ばびゅん。されど段々畑の向こうに消えるのは満面笑顔だから。斑鳩はふっと和やかに眼を細め、
「じゃ、俺たちも行こうか」
カサゴとクエを連れた夜に、フグとムツに引っ張られつつある愛と共に郁を追い始める。
黄に青、桃に白。自然に咲く野草は可憐で美しく、都会より澄んだ空の色に良く映えた。
慌ただしくも心地よい、大自然の散歩道。感激しきりだったメイは、今は広い叢でフライングディスクを投げて犬と戯れる。
「よーし、賢いわね」
芍薬もボールを放っては受け取り、また放るを繰り返す。けれど、遊ぶうちにテンションが上がるのは人も犬もほぼ同じなものだから。
「さぁ、ちゃんと取ってき――おふっ! ぶ、ブレーキブレーキ!」
楽しくなり過ぎたカツオに、わふんっと飛びつかれ、背中からひっくり返る羽目になる。けれど柔い新緑は、芍薬も犬たちも傷付けない。
(「もふイーターって何、って思ったけど」)
口角が上がりっぱなしの犬達にじゃれつかれるのは、悪い気分じゃない。元より、芍薬も犬は嫌いではないのだ。
「今日は存分にもふもふさせて貰って楽しんでいくわよー♪」
わしゃわしゃと下から腹を撫でられ、カツオはヘソ天ポーズでひっくり返る。
「ね、気持ち落ち着いて来た?」
そうして人心地。メイが犬達の背を優しく撫でる頃には、いづなもすっかりサワラとサヨリの友達になっていた。
「あれ……アイは何処に行ったの?」
駆けに駆け、追いに追い。縦横無尽に野山を廻った斑鳩達の旅路は、森林浴が心地よい陽だまりの中で一段落。されどのんびりする間に、斑鳩はきょうだいとも呼ぶ少女の姿を見失う。
「全身でもふもふ、楽しいです」
聞こえた声を頼りに探すと――。
「翼犬……?」
「とってもいやされます」
「じゃなくてアイか!」
背中に天使の翼が生えたムツ――ではなく、その背に埋もれた愛の姿。
絶好のシャッターチャンスに夜はパチリ。そうして過ごす時間は、いつまでもこうしていたいくらいモフ幸せだけれど。
そろそろ二時間。
「それでは、また全力で帰りましょうか!」
サーモン達との勝負に華麗に引き分けた郁がモフ山から立ち上がった処で、まずはのお開き。
「清々しい汗をかきました。心洗われる景色においしい空気、歯がうずうずするくらいに愛らしいもふ達――」
「ミヤコ、ミヤコ。よだれよだれ」
「っは、失礼しました」
額に首筋、あちこち汗を煌かせ帰参を告げる郁の口の端からは、斑鳩がそっと耳打ちするよう、たらりと涎。けれどそれも目立たぬ程に、散歩を終えた犬達も涎たらたら。
「皆、お腹減ったのね。でもまずは、綺麗にしてからよ」
かくて芍薬が犬と人間達に再びのクリーニングを施せば、モフ三昧は次なるステージに移行する。もふっ。
●もふ圧倒
運動量の多い犬の散歩は危険。ホント、死ねる勢いで危険。
実家にランドシーア(もふもふ大型犬)とボルゾイ(ふさっとスレンダー大型犬)がいる(序に大型猫三匹も)ユアンは、畳カフェで伸びる散歩終わりの同胞らを、とっても遠い眼差しで眺めて――いたら。
「――、」
ずぅんと腰に頭突きを喰らって我に返った。
振り返ると、そこにはハッハハッハと息荒い五匹のモフ。その熱視線は、ユアンが持つお食事セットに注がれており。一頭が痺れを切らしてしまったのが運の尽き、ずぅんずぅんの頭突き祭が始まる。
「Oh……チョットマッテマッテ」
思わずカタコト言葉になるユアン。犬達に翻弄されながら、専用皿にドッグフードをざらざら。
確かに運動量の多い犬との散歩は大変。だが、それを終え腹ペコMAXプラス主が違って落ち着きない犬達への餌やりも相応に大変。
「大型犬と言うと、私の故郷では狩猟犬でしたが……この子達はソリ引きも出来るだけあって、本当に大きいですね」
担当を受け持った五頭の前へ餌皿を並べ、リディアは彼ら彼女らの大きさにまずは圧倒され。意を決し、次段階へ進む。
「お手」
どどんどんどん(五頭の右前足がリディアの手に入れ代わり立ち代わり乗せられる音)。
「おかわり」
でしででしでし(五頭の左前脚が以下略)。
いちいち、手が沈みそうな衝撃は大型犬ならでは。だが、ここからこそが本番。
「待て」
(「……餌やり体験なのに『待て』は、ちょっと気が引けますね……」)
そんなリディアの内心の葛藤を知らぬ犬たちは、一先ずお座り姿勢をキープ。が、我慢と涎があっさり限界を超え。
「わふっ」
「わふわふっ」
命じてもいないのに、お手とおかわりを繰り返し出した。
「あらあら……」
「あはは、本当に落ち着きないですね」
多少噛まれるのも覚悟していたリディアは思わぬアピールに目を円め、動物好きのアーネストは笑い。一撫での「どうぞ」で犬達へご馳走を解禁する。さすればあっと言う間に餌皿に群がるモフたち。その勢いは凄まじく、うっかり逃げそびれた人間までも巻き込む。
「こ、これが餌やり体験の醍醐味なのですね……」
リディアがモフの恐ろしさ(?)を知った瞬間であった。
腹がくちくなれば、眠くなるのは世の倣い。
十五頭も仲良く厩舎に戻って、うつらうつらと船を漕ぐ。
「……大丈夫。すぐに御主人に会わせてあげますからね」
けれどユアンの囁きに、ぴくんと耳が揺れて顔が上がるから、やっぱり犬達も主の事を案じているのだろう。
こうしてモフを堪能したケルベロス達は、もふもふ見守っていたもふイーターを取り囲む。
「この子達の本当のご主人、返して頂きます」
「何モフ!?」
リディアの宣戦布告に驚いても、もう遅い。もふもふっ。
●で。
物陰でじっと(色んな意味で)我慢していたサーヴァント達も輪に加わると、戦闘は賑やかに。
愛用の番傘を開いてぽぉんと跳ねたテレビウムを『玉響、可愛い……』なんて郁がうっとりしていたら。そこへ着脱式のモフ尻尾がぶぅんと襲う。
「はぁっ、もふ!」
「やばい、この攻撃すごく強力だ……」
痛みはある筈なのに、モフられ幸せそうな郁の様子に斑鳩は戦慄し、とりあえず頭を冷やそうと時空さえ凍結させる弾丸を放ち。うっかりこのままでもいい気がしちゃった郁も、正気に戻って冷え冷えハンマーをワンコ顔に叩き込んだ(そして、番傘で敵をどついた玉響はやっぱり可愛い)。
「――ヴィル」
モフ攻撃にあわや見入りかけたユアンも、若干慌て気味にテレビウムのヴィルヘルムの名を呼び平常心を取り戻す。彼女が人見知りでなければ、「羨ましい、なんて思ってないです」な本音が聞けたかもしれないが、そこはそれ。ユアンは渾身の力で命奪う大鎌を放り投げ、ヴィルヘルムも凶器でもふイーターを打ち据える。びしっ。
「少し心の痛む相手ですが……オオカミたちのチームワークを模した力を再現したこの力をあなたにくれてあげます」
そしてアーネストが狼達の行動を模した十数発の弾丸で撃ち抜く頃には、元より弱体化極まってた敵はへろへろ。
「とっと終わらせて子犬をもふらせてもらうわ!」
赤い画面顔のメイド服テレビウム九十九に応援された芍薬は、夢喰いの腹へ叩きつけた拳の放射口から、集中させておいた熱エネルギーを内部へ叩きこむとっておきの一撃でデウスエクスを爆ぜさせ、
「もう、いぬは、あるじさまといっしょが、しあわせですのに!」
命寿ぐ清風で仲間の傷を癒し続けた(この戦闘は超ダイジェストでお送りしています)いづなは、和箪笥風のミミックつづらと華麗なコンビネーションを炸裂させてもふイーターを瀕死まで追い込む。
そして。
「あの子達をこれ以上、寂しがらせない様……終わらせて頂きます。グラビティ・チェイン、収束開始」
澱むモザイクをねめつけ、リディアは二対四枚の集束翼を展開し。
「照準補正完了。射線クリア」
周囲のグラビティ・チェインを集束圧縮すると、アームドフォートの砲身をデウスエクスへ向け。
「R-1、発射します!」
放った破壊光線でもふイーターを完膚なきまでに吹き飛ばしたのだった。
余談。
断末魔は「もふー!」だったとさ。もふん。
●もふっと幸せ
「この子達の事が本当に大好きなのは、分かるのですが……お客を呼びたいのでしたら、来訪者や採算の事も考慮しませんと」
「そうですよね」
メイや斑鳩、郁。そして犬達を引き連れたいづなに起こされた菫は、リディアに説かれて頭を垂れた。
「この子達が好きだけでは、仕事としては成り立ちませんよ」
「はい」
犬達を思うからこそのリディアの指摘は、菫の身に沁み。諸々状況を把握した男のやる気を鼓舞する事となる。
「まずは皆の里親を探します。そして次はもっと身近で触れ合える場所を作ろうと思います」
力漲る菫の眼差しに、犬達の行く末を案じていたメイは安堵の笑みを浮かべて助力を約束し。
「みんな、大切に育てられたのが分かる良い子達ですから。きっと大丈夫です!」
犬達と風を分かち合った郁の太鼓判に菫は破顔し、「まずは皆さんに御礼を……」と子犬たちをケルベロス達に紹介した。
小さいけころころ達は、まるでぬいぐるみ。
「何ここ天国?」
まずはと菫にまとめて五匹渡された芍薬は、尊い宝物を独り占めの心地でうっとりと酔い。眺めるだけでアーネストも和む光景は素晴らしく魅力的で。こんな様子をネット配信したら良い客寄せになるのではと提案したユアンは、
「私は大きい子も好きですよ。勿論、小さい子も好きですが」
マグロの耳の後ろや、大きい背中をむにむにマッサージ。慣れた手つきは優しく心地よく、あっと言う間にマグロは蕩け。イサキやクエも「次は自分!」とユアンに擦り寄る。
けれど、どうやら子犬達は自分達と体格が近いヴィルヘルムが気になるらしく。
「……仕方ないですね」
群がられる様子に、ユアンはちょっぴり焼きもち。同時に、実家のわんにゃん達への恋しさを募らせた。
――わたくしも、あんなりっぱなけなみに、なりとうございますねえ。
フカフカのサワラに全身で抱き着いては、うっとりと。
――わたくしとおなじくらいかしら? はじめまして、ごきげんいかがかしら。
ころんまろび出て来た子犬へは、恭しく頭を下げてみたのだけれど。
そこが、いづなの限界。
「もうもう、いっしょにあそびましょう、ですの!」
お淑やかに憧れるいづなの根っこはワンコ。動物変身でころりゴールデンレトリバーの子犬に転じると、そのままアラスカン・マラミュートの海に飛び込む。
転げて、跳ねて、じゃれあって。
「わふわふっ。わふん(だいすきなあるじさま。ほんによろしゅうございましたね)」
「わん!」
弾む犬語(?)は踊るリズム。
しかーっし。
ようやくいづなと一緒にいられると思ったつづらは、ぽつんと部屋の隅に蹲り。じぃっと羨望の眼差しを毛玉達へ向けていたのでした。嫉妬!
「ねえねえ虹さん、この子もあの子も可愛すぎるよ!」
まだ名のない子犬を腕に、メイが興奮に頬を染める。円らな瞳に、むくむくまぁるい体つき。ずっしりとした重ささえ、愛しい温もりに早変わり。
「親子でモフれば幸せ四倍です」
サーモンとイサキの娘だという子犬を腕に、そして親たちを両サイドにという贅沢仕様で、郁は地上の楽園を満喫。
「子犬の方は更にもふもふじゃん」
てとてと歩く子犬を抱き上げた斑鳩は、顔ごとモフを堪能して癒され――相変わらずシャッター切りまくりの夜に手を伸ばす。
「折角なんだから、ヨルも一緒にもふればいいのに」
「いや、俺は戻ってから――」
ケルベロスさんなら責任もって育ててくれるでしょう、と菫の信を受けた夜は、既に一頭の子犬の里親になるのが決まっていて。だから今は、と斑鳩の誘いを断りかけたのだが。
「来ないなら、こっちから行こうか?」
決めた斑鳩の手は早く。気付けば、モフに足を取られてモフ山に転げ入る羽目に。しかもその隙を逃さず、斑鳩が自分達の様子をカメラに収めるものだから、自然と笑いも沸こうというもの。
でも。
「しー、なんです」
人差し指を口元に当てた愛が促す視線の先には、何時の間にやら犬達の中で寝入ったいづな(ワンコモード)とメイの姿。
「きっと、お散歩で疲れたんですね」
健やかな寝顔に、二人が夢の中でも散歩しているのを想像し、堪らなくなった愛もムツに頬を寄せ。
何て素敵なモフ天国。
「じゃあ。そーっとそーっと。記念撮影しましょう」
いつかの再起を願い郁が言えば、モフ海から起き上がった夜がまたカメラを構える。
どんな写真が撮れたかは、帰ってからのお楽しみ。
だって確認するより、今はお日様の匂いのする犬たちと心行くまで戯れたいから。もっふもふっ!
作者:七凪臣 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
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