呪われた館のディクショナリー

作者:飛翔優

●呪われし書物は興味を餌に
「第一回! オカルト研究部探索作戦! ……ってまあ、一人しかいないんだけどさ」
 月のない夜。塀にも壁にも蔦が生い茂っている町外れの洋館を前にして、中学生と思しき少女が一人不敵な笑みを浮かべていた。
「ともあれ、第一回に相応しきこの洋館! 聞くところによると呪いの書物に支配され、様々な人を殺した果てに持ち主がいなくなった場所! きっと何かある。その証拠をつかめば、きっと部員も……」
 含み笑いを漏らしながら、懐中電灯で照らしつつ門に手をかけていく。
 鍵がかかっていなかったのか、それとも壊れたのか……門は開いた。
 少女は素早く中へと入り込み、玄関へ。
「……流石にここは閉まってるみたいね。でも、知ってるのよ。東側の端っこにある窓が壊れてるって。そこから中にはいれば……っ!?」
 意気揚々と踵を返した時、瞳の端に人影を捉えて身をすくませた。
「……」
 恐る恐る視線と懐中電灯を向けていく。
 フード付きの黒装束を纏った女性が佇んでいた。
「あ、えっと、その……」
 見咎められると思ったのか、少女が一歩、二歩と後退った。
 それよりも早く、女性が距離を詰めてきた。
 玄関扉へと追い込まれ、少女は震える瞳を向けていく。
「ち、違うんです。これは、その、肝試しっていう……か……」
 言葉は、半ばにて途切れた。
 女性が握る鍵で、胸を貫かれてしまったから。
 鍵を回しながら、女性は言う。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの興味にとても興味があります」
 言葉とともに鍵が引き抜かれた時、少女は意識を失い倒れ伏した。
 入れ替わるように、辞書くらいのサイズを持つ書物が虚空に浮かんでいく。
 表紙と背表紙を飾るタイトルは、モザイクに覆われていた。
 ドリームイーターであることを示していた。

●ドリームイーター討伐作戦
「……そう、起きてしまったのね」
「はい、なので……っと」
 メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015) と会話をしていた笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、足を運んできたケルベロスたちと挨拶を交わしていく。
 メンバーが揃ったことを確認した上で、説明を開始した。
「不思議な物事に強い興味をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人が、ドリームイーターに襲われて興味を奪われてしまう……メリルディさんの予想から、そんな事件を察知したんです」
 興味を奪ったドリームイーターは、既に姿を消している。しかし、奪われた興味を元にして具現化した怪物型のドリームイーターが事件を起こそうとしているのだ。
「ですから、怪物型のドリームイーターによる被害が出る前に、退治してきて欲しいんです!」
 このドリームイーターを倒すことができれば、興味を奪われてしまった被害者も目をさましてくれることだろう。
 続いて……と、ねむは地図を取り出した。
「ドリームイーターが活動しているのはこの街。発生したのは……この、町外れの洋館から、ですね」
 その洋館は、呪われた書物に支配された洋館という噂を持つ、地元の学生たちの間では有名な場所。
 被害者である少女はその呪いに強い興味を持ち、真実を暴くために侵入しようとしてドリームイーターに襲われたようだ。
「女の子の興味をもとに発生したドリームイーターは、辞書くらいのサイズを持つ本です。表紙と背表紙のタイトルがモザイクに覆われているのが特徴となってます」
 そのドリームイーターは獲物を探すため、街中へと飛んでいった。
 故に、人払いを行いながら街中を探索する必要がある。
「怪物型のドリームイーターは人間を見つけると、自分が何者であるかを問うような行為をして、正しく対応できなければ殺してしまうという行動を行うようです。正しく対応できれば見逃してくれることもあるようですね」
 それ以外に、自分の事を信じていたり噂している人が居ると、その人の方に引き寄せられていく性質もある。故に、噂をしながら歩いていけば向こうの方から寄ってくるだろう。
「この情報を元に、探索を行って欲しいんです。そして、実際に遭遇したなら戦いへと持ち込んで下さい。打ち倒せば、女の子も目覚めるはずです」
 戦いの際は、妨害に特化した力を用いてくる。
 使ってくるグラビティは三種。本を開きたいという、魅了に似た衝動を与える。相手の腕を異質なナニかに変貌させるかのような呪いをかけ、攻撃の勢いを減ずる。血を捧げさせる呪いを施し、実際にその血を奪い取り傷を癒やす……といったものだ。
「以上で説明を終了します」
 ねむは資料をまとめ、締めくくった。
「女の子の好奇心。それが、化け物を生み出すなんて許せないですよね! だから、どうかお願い! 女の子を救ってあげて下さい!」


参加者
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)
ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)
黍乃津・桃太郎(桜前線上の侍・e17781)
燈灯・桃愛(陽だまりの花・e18257)
薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)
小柳・瑠奈(暴龍・e31095)
リオネル・ジヴェ(静謐の藍・e36251)

■リプレイ

●人を変える呪いを探して
 月も星も形をなく、涼し気な風が木々をざわめかせると共に昼間の残り香をいずこかへと運び去っていく夜のこと。ケルベロスたちは人払いの力を放ち、朧気な街灯を渡り歩く。
 遠くを走る車の音、微かに漏れ聞こえる家族の賑わい。ただ静かに受け止めながら、リオネル・ジヴェ(静謐の藍・e36251)が口火を切った。
「この近くに血を求める呪われた本がある、呪われた館があるようですよ」
「呪いの書物に呪いの館。ああ、なんて素敵な響き。知的好奇心を擽られるよ。この街のどこにあるのかな」
 ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)はピンククマぐるみのマルコに語りかけながら、落ち着いた微笑みを浮かべながら周囲に視線を送っていく。
 電信柱に家の門、小さな車庫にブロック塀。
 何かが起きているとは思えぬほどに自然な、夜の街。
 もっとも、ニュニル表情は変わらない。
 どことなく歩調を弾ませながら、前へ前へと歩き続けていく。
 呪いの館なんて、オカルティックでミステリアス。そういう噂話は大好きだ。
 だからこそ、眠らされた……ドリームイーターに興味を奪われた勇敢な少女を応援するためにも、きちんと退治してあげなくてはならない。
 早期決着を目指し、ケルベロスたちは今宵のドリームイーター。辞書くらいのサイズを持つ書物……といった姿をした存在のエピソードを語りつつ、歩を進め続けていく。
 一軒家が少なくなり、代わりにアパートやマンションが目立つ区域へといたった時、西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)は眼鏡の位置を直していく。
「呪いの本と聞くと、人の皮をなめして作った羊皮紙ならぬ人皮紙の本というおどろおどろしいイメージがありますね」
「そうね。生物の一部を用いる。人間ならばなおさら、イメージはマイナスへと近づいていく……」
 頷き、セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)は小さく肩をすくめた。
 小柳・瑠奈(暴龍・e31095)もお腹の前で腕を組み、小さな息を吐き出した。
「実際に読めと言われたらご勘弁願いたいところだけどね。本は普通に面白いものがいい。私は読むなら、探偵小説や歴史」
 先頭を歩いていたニュニルに手で制され、瑠奈は口を閉ざし立ち止まる。
 黍乃津・桃太郎(桜前線上の侍・e17781)も歩みを止め、ニュニルの示す方角へと目を凝らした。
 道路に飛び出ることのないよう、枯れてしまわぬよう丁寧に刈り込まれた低木の隙間。辞書くらいのサイズを持つ書物が一冊。不穏な気配も覗かせず、ケルベロスたちを伺うかのように顔を覗かせていて……。
「……あれだね」
「ええ、そうね……っ」
 タイミングを図っていたのだろう。書物が飛び出してきた。
 ――私は誰でしょう?
「おや……キミが何者かって? ダンボールから抜け出してきた、売れ残りの古本君かな?」
 タイトルがモザイクに覆われている書物に対し、ニュニルのようにとぼけるもの。
 きちんと、呪いの本だと答えるもの。
 作戦通りの答えを返しつつ、各々自らの立ち位置へと移動していく。
 月のない空の下、草のベッドに寝かされている勇敢な少女を少しでも早く救うため。
 彼女の興味が、誰かの悲劇となってしまわぬ内に……。

●悪魔がかけた呪いの書物
 桃太郎が剣を抜き、ゆらり、ゆらりと浮かぶ書物の動きを目の動きだけで追いかける。
 しかけるタイミングをはかりながら、思いを刃に乗せていく。
 興味から生まれるドリームイーター。
 パッチワーク事件も、中々おさまる気配を見せない。
「……それでも、僕達にはできることがある」
 こういう事件を一つ一つ解決していくことと翼を広げ、守護星座の力を解放。
 前衛陣が浄化の加護を得ていく中、燈灯・桃愛(陽だまりの花・e18257)は目を閉ざした。
「あなたと私の秘蜜の魔法。誰にも言えない内緒の魔法。――ねぇ、お願い、目を閉じて。あなたの力を目覚めさせるの。――ちゅ」
 力の加護もまた、広がっていく。
 背中を押される形で、前衛陣が書物に攻撃を仕掛けていく。
 虚空を貫く魔法とドラゴン。
 合間を駆けるは激しき雷、薬師・怜奈(薬と魔法と呪符が融合・e23154)の杖が示すがままに。
「さて、興味を持つことは悪い事ではありませんが……」
 危険はある。
 デウスエクス以外にも、沢山。
「……いずれにせよ、先に討伐、ですね」
「はい、ですから……っ」
 眼鏡を外し腕にオウガ粒子を走らせ踏み込もうとしていた霧華が、動きを止める。
 不意に覚えた、両腕に違和感を。
「……これが呪い、ですか」
 オウガ粒子を散らし視線を向ければ、両腕それぞれが二叉の刃に変わっているような景色が重なった。
「電話帳と呼んだのがお気に召さなかったのでしょうかね」
 表情は変えることなく改めてオウガ粒子を纏い直し、違和感を頭の片隅に押しやりながら踏み込んだ。
 勢いを載せた、鋼鉄の如き拳によるストレート。
 放物線を描き飛んでいく書物を眺め、告げた。
「書物は時としてその知識が人を害することがあるのだとしても、決して人に直接害を加える物ではありません」
 言葉が届いたかどうかは分からない。
 書物は地面に激突した直後、跳ねるようにしてもとの高さまで浮かび上がった。
 さなかにも右へ、左へとブレる書物に狙いを定めるため、瑠奈はライフルのスコープを覗き込む。
「私にも見えたよ。霧華の腕が二重に映ったようにね。だからといって、惑わされるものでもないけどね」
 呼吸を止め、トリガーを引く。
 弾丸は虚空を貫き書物にぶつかり爆ぜた。
 グラビティを中和され、書物の高度が下がっていく。
 最終到達点を予測し、リオネルは刀の切っ先を突きつけた。
 様々な理由によって、きっかけとなった女性から託された思い。
 解決への願い。
 応えるため、そしていい報告ができるよう最善を。
「……」
 願いを込めた弾丸を撃ち込んで、書物の背表紙を凍てつかせた。
 即座に構えを変え、好機をうかがい始めていく。
 ケルベロスたちが操る様々な力に翻弄されながらも、書物の気配は変わらない。
「……」
 前触れもなく、ニュニルが立ち止まる。
 さきほど霧華がしたように、自らの色とりどりの花や蔓が巻き付く儀式杖を持っていない方の手に視線を向けた。
 変わらぬはずの腕にブレる、二叉の刃。
「可憐なボクが盾役だなんて。それでも完璧にこなしてみせるよ。それが淑女というものだからね」
 腕を変化させるわけにはいかないと、小型のテディベアを召喚しながらボクスドラゴンのスクァーノに視線を送る。
 ボクスドラゴンのスクァーノは頷き、ニュニルの治療を開始した。
 二人が、このドリームイーターの性質を活かし攻撃を引きつけてくれている。
 バックアップも万全。
 憂いなく攻め上がる事ができるのだと、セレスティンは影から影へと身を隠し、書物の死角へと斬りかかる。
「恨みつらみとも思ったけれど……どうかしら。どことなく、少し異なるような気がしてきたのだけど……」
 書物は、人を拒絶していない。
 害を与えることはしているけれど。
 もっとも、さしたる興味はない。
 ただ、戦いの中で分かることだけでいい。
 数枚のページを切り飛ばしながら、セレスティンは笑みを深いものに変えていく……。

 書物への誘惑に抗うため、足を止めていく霧華。
 植え付けられんとしている魔力を払うため、桃愛は力を注いでいく。
「お願い、笑顔の華をたくさん咲かせてっ!」
 傍らではウイングキャットのもあも翼をはためかせ、霧華の治療を行っていた。
 さなかには、瑠奈が凍てつく光線を浴びせかけていく。
 数枚のページが凍りついていくさまを見て、ライフルのスコープから目を離した。
「だいぶダメージが重なっているみたいだね」
「そろそろ、追い込みをかけましょうか?」
 怜奈の放つ雷撃が貫いた時、書物は地面に落下した。
 氷が砕ける住んだ音色が響く中、セレスティンは距離を詰める。
 唐草模様が施されているライフルの銃口を表紙に押し付けた。
「よく聞きなさい、これが私の唄よ」
 爆音とともに闇を収束させた弾丸を打ち込めば、書物は空へと跳ね上がる。
 顔を上げ観察する中、再びページを捲り虚空に浮かび始めていく。
「……そうね、これは恨みつらみではなく、無差別ではた迷惑な魔術。あるいは、人ではなく悪魔の呪い……といったところかしら」
 口元に笑みを浮かべながら、リロード。
「人間の恨みであったなら……私が慈しむ死者の想いは尊重するし、亡者な可能性はあるけれど……」
 語られていく中、次の攻撃準備が行われていく。
 さなかには、桃太郎が構えを取る。
 束の間の静寂の中、翼をはためかせながら急接近。
 腰元の鞘に収めた刀に手を当て、書物を間合いに収めるとともに、一閃。
「我が剣技の神髄ここに有り」
 刃から逃れんと下がる書物の角を、風刃で切り飛ばす。
 バランスを崩したか、書物は激しく左右に揺れ始めた。
 焦るような様子も見せ始めた。
 桃愛は小さな息を吐き、手元にオーラを溜め始める。
「……さぁ、怖い物語はもうおしまいよ。これからは楽しい物語を紡いでいけるといいね」
 終幕の時を告げるため、オーラによる砲撃を。
 もあがリングを重ねる中、怜奈は用いる。能力を開放するための秘薬を。
「殲滅させ被害者を返して頂くわ」
 体中から細かな電流を走らせ、火花を散らし、オーラに跳ね飛ばされリングに縛られた書物を指し示す。
 不意に発生した突風に全てを載せ、書物の表紙を焼いていく。
 炎上することはない。
 リオネルの弾丸が、氷の中へと閉じ込めたから。
「今です、止めを」
「了解」
 深い息を吐き出して、瑠奈はスコープを覗き込む。
 煌めきの中心に狙いを定め、ゆっくりとトリガーに指をかけ……。
「Hasta la vista」
 ――音もなく、一筋の光が氷漬けの書物を貫いた。
 耳障りの良い音色を立てながら、氷が砕け散っていく。
 破片に混じり、書物もまた形を失っていく。
「……」
 構えを解いた瑠奈が見つめる中、戦いの終わりを知ったケルベロスたちが安堵の息を吐き出す中……書物は、消滅した。

●月明かりが差し込めば
 各々の治療や、戦いによって生じた痕跡の修復を行った後。ケルベロスたちは有志を募り、少女が倒れているはずの洋館へと足を運ぶ。
 雑草に埋もれるようにして、少女は眠っていた。
 倒れた時に生じたらしいもの以外、怪我らしい怪我はない。ケルベロスたちは治療を施した後、風の届かぬ玄関口へと寝かしつけた。
 五分ほどの時が経った頃、涼し気な風にくすぐられるようにして少女は目覚めた。
 状況を把握しようとしているのかきょろきょろと周囲を見回している少女に対し、怜奈が落ち着いた声音で語りかけていく。
「ケルベロスよ、大丈夫?」
「え、あ、はい……」
 頷き、小首を傾げていく少女。
 深くは語らず、怜奈は街へ視線を送っていく。
「もう、夜も遅いわ。そろそろ帰りなさい」
「部員獲得も良いですけれど、命を落としちゃったら大変ですよ」
 霧華も若干強い声音で少女を諌めた。
 でも……と、少女はうつむき、ためらう様子を見せていく。
 それは決意か、それとも維持か。
 桃愛は瞳を閉ざし、静かな息を吐き出した。
「でもね、もう、終わったの。怖い物語は」
「……え?」
「だって……」
 微笑みながら視線を外し、洋館の庭を示していく。
 思いのままに成長し、風のなかで踊る雑草たち。洋館を、塀を飾る蔦の群れ。
 雲の切れ間から、差し込み始めた月明かり。
 見方が変われば、景色も変わる。
 捉え方が変われば、場所の持つ意味も変わっていく。
 自然のままに伸びゆく植物に、おどろおどろしい意味は存在しない。街の中、自然のままの景色に抱かれながら、洋館は静かに眠り続けていく……。

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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