可憐さを裏返す夢

作者:幾夜緋琉

●可憐さを裏返す夢
 一面に広がる大草原。
『えへへ……わーい!!』
 と、笑いながら草原を掛ける少年。
 その少年の前を走るのは、体高40cm程の、成犬した柴犬。
 ……何だか分らないけれど、この子と遊んでる時は、色んな事を忘れて、思いっきり楽しく過ごせる。
 でも……実は、これは夢。
 小さい頃から一緒に育った柴犬のチロは、もう、現実世界にはいない……だから、これは夢の中だけの、幸せな時。
 ……しかし、そんな夢を。
『グルルルゥゥ……』
 突然、妨げる、チロの唸り声。
「え、どうしたの、チロ?」
 と少年が問いかけるが、唸り、威嚇に吼え続けるチロ。
 そして、次の瞬間……その身体は、ぐんぐんと大きくなり、数倍の大きさに。
 更に、そのまま自分に覆い被さり、襲いかかろうと……!
「え……い、いやあああ!!」
 と、悲鳴を上げた次の瞬間……布団から飛び起きる少年。
「え……な、なに……これ……夢、だったの……?」
 と言う少年に……すっと、その背後から突き刺されるは、鍵。
 鍵は少年の心臓を貫く……そして。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮、楽しかったわ」
 と微笑み、その驚きを具現化したかの様な、大きな犬のドリームイーターを産み出す。
 そして、その驚きを奪われた少年は、意識を失い、其の場に崩れ墜ちるのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね! んじゃ、早速ッスけど説明させて貰うッスよ!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスに手を上げて微笑みつつ。
「皆さんは、子供の頃にビックリした夢とか見た事無いッスか? 全然理屈は通ってないのに、とにかくビックリして、夜中に飛び起きたりした事とか」
「今回、こんなビックリする夢を見た子供がドリームイーターに襲われ、その『驚き』を元にして現実化したドリームイーターが事件を起こそうとしている様なんッスよ」
「ケルベロスの皆さんには、このドリームイーターによる被害が出る前に、撃破してきて欲しい、って訳ッス。このドリームイーターを倒す事が出来れば、きっと驚きを奪われた少年も、目を覚ましてくれるッス!」
 更にダンテは続けて。
「このドリームイーターが現れるのは、深夜の市街地のど真ん中ッス。幸い深夜ッスから、周辺に住民達が居る事は無いッスけど、余り大きな音を上げると起きてこないとも限らないッス。周りに音を響かせない様な工夫が必要だと思うッス」
「そしてこのドリームイーターは、人を驚かせたくてしょうがない様ッスから、付近を歩いていれば、ドリームイーターの方からやって来て、驚かせようとしてくると思うッス。そして驚かない人を優先的に狙う様ッスね。幸い、このドリームイーターは一体のみッスから、他に配下とかは居ない様ッス」
「攻撃手段ッスけど、当然その鋭い牙で噛みついてくる攻撃がメインの様ッス。でも、この噛みつき攻撃の他に、その巨体を活かしたボディプレスの攻撃もある様ッス。ボディプレスに押し潰されると、捕縛の効果になる様ッスから、注意して欲しいッス!」
 そして、ダンテは最後に。
「何にしても、この様な子供の純粋な夢を奪い、ドリームイーターを創り出すなんて許せないッス。被害者の子供が再び目を覚ましてくれる様、皆の力で事件を解決してきて欲しいッス!!」
 と、拳を振り上げるのであった。


参加者
ペトラ・クライシュテルス(血染めのバーベナ・e00334)
源・那岐(疾風の舞剣士・e01215)
天野・司(マンドラゴラの叫び・e11511)
立花・吹雪(一姫刀閃・e13677)
チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
葛籠折・伊月(死線交錯・e20118)
弓曳・天鵞絨(イミテイションオートマタ・e20370)

■リプレイ

●夢は恐怖
 夢の世界を奪いしドリームイーター。
 既に亡くなった筈の、愛犬の柴犬が、突如巨大化して自分へと襲いかかってくるという……愛犬家の夢を奪い、最大限の恐怖を植え付けるという事件……。
「……大きな犬のドリームイーターですか……大きな犬……どれほどの大きさなんでしょうね?」
 と、立花・吹雪(一姫刀閃・e13677)が小首をかしげると、チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)と四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)、ペトラ・クライシュテルス(血染めのバーベナ・e00334)らも。
「んー……どうなんだろう。でも人を襲うって言うから、結構大きいのかなっ? かわいいものが急に怖くなったらびっくりしちゃうよねっ!」
「そうね。犬って悪戯好きだから、そういった所も夢に現れているのかしら?」
「ええ。夢くらい気持ちよくみたい物だけれどぉ、そうもさせてくれないのよねぇ……?」
「本当、ドリームイーターも何を考えて居るのかしら。深い理由があるのか、それとも本能的に動いているのか……考えるのは、片付けてからの方がよさそうね」
 と、それに天野・司(マンドラゴラの叫び・e11511)と葛籠折・伊月(死線交錯・e20118)、源・那岐(疾風の舞剣士・e01215)らも。
「まぁ感情ってのは人それぞれの記憶でできあがるからな。愛犬という気持ち……生半可な気持ちで弄って良いもんじゃないんだ」
「そうだな。幼い頃から一緒に育った友の夢を、ドリームイーターとして使うなんて……許せないな。絶対に止めよう」
「ええ……子供の大切な思い出を穢し、尚且つ利用するドリームイーターのやり方……絶対に許せません。必ず倒します」
 そして、玲斗、吹雪らも。
「そうね。人に危害を加えるのであれば、これは看過できないわね」
「犬は好きですが、まずは少年を悪い夢から救い出す為にも負けられませんね。皆さん、油断せずに参りましょう!」
 そんな仲間達の言葉に、こくっ、と頷きながら、弓曳・天鵞絨(イミテイションオートマタ・e20370)が。
「しかし……夢を見るのは基本夜だと分ってはございますが……こういった深夜の戦闘となると、気を使うでございますね……それに、天鵞絨は驚いたと認識して貰えるでございましょうか?」
 元々ポーカーフェイスの天鵞絨……今回のドリームイーターは、特に驚いてくれない人を集中的に狙う、と言う話。
「……まぁ、驚くも驚かないも、倒す事には変わりないしねぇ……さっさと倒さないといけないわねぇ」
 とペトラが肩を竦めると、他の仲間らもそうだね、と頷き……そしてケルベロス達は、急ぎ街角へと向かうのであった。

●夢か現か
 そして、ケルベロス達は、ドリームイーターの徘徊する、深夜の市街地へと辿り着く。
 周りには、住民達が居る筈だが……既に深夜、すっかり寝静まっており、歩いている人は殆ど居ない。
 ……そんな街中を、ぶらぶらと歩くケルベロス達。
 一応、人払いに那岐が殺界形成を使用し、更に吹雪がキープアウトテープをある一定のエリアに張り巡らせて、人の立ち入りを禁止する。
 更に暫し、街中をぶらぶらと歩いていると……ウォォォン、と遠吠えで啼く犬の声。
 その声の方向へと、更に向かうケルベロス達……すると、闇の中から、突如姿を現わす……巨大犬ドリームイーター。
 闇の中から突然現れるドリームイーターは……流石にちょっと怖い。
「……わー、驚いたでございます」「そうよぉ。やだぁ、レディを驚かせるなんて無粋な子ねぇ」
 と天鵞絨、ペトラが言葉を紡ぐと、それにワウウ、と小首を傾げるドリームイーター。
 尻尾をフリフリと振っているのは……なんだか可愛く見えるのだが……その巨体が可愛さを帳消しにしている。
「ワンちゃん……っていうか、こんなにおっきかったらオオカミじゃん!!」
「そうですね。これほどの大きさとは……流石に驚いてしまいますね」
 チェリーと吹雪、更に玲斗も。
「そ、そうね……元は柴犬みたいだけど……これはこれで、別の生物よね」
 と、口々に驚いていく。
 一方、囮役になるべく、司、那岐、伊月は、ドリームイーターの真っ正面に対峙すると共に。
「いやいや、これただのでっかい犬っころじゃないか!! ほらほら来いよ。俺が芸の一つでも仕込んでやるぜ!!」
「そうですね……この位では私は驚きませんよ。以前は体長4mのオオカミや、巨大なメロンパンとも戦いましたからね……これ位なら、驚くに値しません」
「そうだね……まぁ、何にしてもこのまま放置しておく訳にもいかないしね。さっさと片付けるよ」
 と三人の言葉に、ドリームイーターは。
『ウゥオオオン……』
 と啼いて対峙……そして、ドリームイーターが足を地面にガリ、ガリッ、と爪を立てる。
「さて、せっかく出て来て悪いけど、帰るトコにきっちり行っちゃいな!」
 と司も、ドラゴニックハンマーを構えて、一瞬即発の対峙体制。
『ワゥウーーン!!』
 と言うと、ドリームイーターはその巨体で、ジャンプ。
「来るぞ!!」
「早速だね……那岐さん」
「ええ!」
 と、ディフェンダー陣の那岐、司、伊月がそのドリームイーターの射線を判断し、その下へ。
 ……みるみる内に上空から接近してくる柴犬のお腹。
「足、踏ん張りますよ!」
 と那岐の掛け声に、構え……ドリームイーターのボディプレスを、六つの手で抑える。
『ワウ……』
 と、ドリームイーターはそのまま体をごろんとさせて、一端距離を取る。
 ……とは言え巨体を受け止めた三人、かなりの衝撃に腕、足が痺れていた。
「大丈夫?」
 と玲斗がすぐにメディカルレインで、ディフェンダー陣を回復すると、司は手を上げつつ。
「大丈夫大丈夫……でも、これ、かなり重いな……」
「ドリームイーターでございますから、軽い……と言うのは無いという事でございますか」
 と天鵞絨の言葉に司はああ、と。
「まぁ、何にせよ……その口を塞いで吠えられなくしてあげるわぁ!」
 と、次にペトラは言うと共に、グラインドファイアを放ち、炎へ包み込む。
 更にスナイパーの吹雪、チェリーもスターゲイザーと、降魔真拳を繰り出し、確実にダメージを加える。
 又、天鵞絨も。
「しぶとい相手ではございますが……焦らずいくでございます」
 と呟きながら、破鎧衝で的の防御力を削ぐ。
 更にディフェンダー陣三人。
「姿形は可愛いですが……油断しませんよ」
 と那岐の黒影弾に続き、司と伊月も。
「そうだな。遊んで欲しいんだったら、もうちょい上手におねだりしてこいよ!」
「こんな巨体でじゃれられても、ちょっと困るけど、ね……」
 と苦笑し合いながら、『あの思い出をもう一度』とデストロイブレイドを叩き込んで行く。
 そして、次の刻。
 ドリームイーターは、受けたダメージにクゥン、と小声で啼きつつ、今度は真っ正面から接近。
『ウゥゥ……!!』
 と、ガブリ噛みつこうとしてくる。
「っ……!」
 咄嗟に庇う司、牙はその腕にかなり深く刺さり、かなり痛い……筈だが。
「こらこら、じゃれ方もちゃんと躾けてやらなきゃ駄目か?」
 と、敢て軽口を叩き、ドリームイーターを挑発。
 勿論、喰らったダメージを玲斗が即座に。
「噛みつきは危険ね……」
 と、ウィッチオペレーションで大回復する。
 そしてペトラが。
「ズバっと切れるわよぉ!」
 と、『お天道様の通り道・改』で斬り付けて行くと、吹雪の月光斬に、チェリーの旋刃脚が続く。
 更に天鵞絨が、破鎧衝で更に的の防御力を削いで行く。
 そして那岐の絶空斬に、司の戦術超鋼拳、伊月が猟犬縛鎖と続き、確実に体力を減らす。
 次の刻、またドリームイーターは飛翔し、ボディープレスするが……ディフェンダー陣で受け止め、大きな音を立てないようにしつつ、カバー。
 距離を取ったドリームイーターに追撃し、バッドステータスを積み重ねる。
 牙の噛みつきに対しては、ディフェンダー陣がローテーションで庇い、その攻撃を受け止める。
 ……そして、戦闘開始から約20分。
 攻撃され続けたドリームイーターの体は、至る所が傷だらけで……もう、立っているのでも精一杯。
 そんな悲壮感の漂うドリームイーターを見て。
「そろそろの様でございますね……」
「ああ。皆、一気に行くぞ!」
 と天鵞絨に頷き、叫ぶ司。
 至近距離に接近すると共に、天鵞絨が。
「――Code:EtherBlade、起動。魂に裂傷を与えよ」
 と『霊子燐光剣』の一閃を穿つと、更に続く伊月のデストロイブレイドが、ドリームイーターの体を貫く。
 そして……。
「少年を蝕む悪夢を、この一閃で切り裂く!」
 と『雷華』の一閃で、その心臓を貫き通すと、チェリーが。
「一撃当千!避けないと……危ないよ!」
 と、渾身の『赤河拳聖の鉄拳制裁』を叩き込み……ドリームイーターは、悲鳴を上げて崩壊していくのであった。

●夢は幻
 そして、ドリームイーターの影も、形も消え失せた闇の中。
「ふぅ……何とか、終わったみたい、か?」
 と司が周りを見渡しながら、ぽつり呟く。
 幸い、大きな被害は生じていない。
 が……ボディプレスやら、爪で地面を掻いたりとかで……所々のアスファルトが窪んだり、筋が入ったり、地面が露出してたり……。
「……流石に無傷で、という訳にはいきませんでしたか……」
「そうね。キープアウトテープとかも片付けないといけないし……後もう一仕事、って感じね?」
 苦笑しつつ、テキパキと片付けを始める玲斗。
 そして那岐、吹雪や司、伊月なども片付けに加わり、傷ついた所を迅速に修理していく。
 大方修理が終わり、ほんの僅か、空に陽が昇り始めると。
「……終わりましたでございますね。では、天鵞絨帰って寝ることにするでございます……」
 と、どこか眠たげな口ぶりで、ふらふらぁ、っと其の場から去って行く天鵞絨。
 そして、他の皆も帰ろうと……する中、那岐は。
「さて、と……この子の家は、あっちでしたね」
 と。
「ん、あれ、それは何かしらぁ?」
 と、ペトラが覗き込むと、そこには住所……このドリームイーターに夢を一度奪われた、少年の家。
「このまま帰っても良いのでしょうが……きっとこの子、チロが襲いかかってきたのは覚えているかもしれません。ですから……大きくて怖いチロはもういなくなったから、存分に夢の中でこれからも遊んで上げてね、と声を掛けて上げようと」
「ふぅん……それ、いいわねぇ♪」
 どこか楽しそうに微笑むペトラ。
 そして、少年の元へと向かう者と、そのまま帰る人の二手に分かれ、ケルベロス達はその場を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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