快感キリングフィールド

作者:青葉桂都

●死に至る快楽
 青年は、防火扉の前で力なく崩れ落ちた。
 微笑みながら、女が彼に近づいてくる。
「大丈夫ですよぉ。悪いところは、ぜーんぶこの私、ハルモニカ・マチルダが治してあげますからね」
 身につけている肌もあらわな装甲は、どこか蜘蛛を思わせるデザインをしていた。
 すらりとした脚の間から、倒れている人々の姿が見える。
 とある街のデパートは先ほどまで買い物客でにぎわっていたが、今や動くものはハルモニカだけであった。
「さあ、マッサージを始めますね。徹底的に、治しちゃいますから」
 腰を抜かして動けない青年へと、デウスエクスの女は優しい笑みを投げかける。
「ひっ、ひいっ……うあああああ!」
 恐怖の声は、女の柔らかな手の動きと共に、歓喜の声へと変わった。
 この世のものとは思えない快楽が彼の体を支配する。
 だが青年は知っていた。ハルモニカに触れられた人々は、誰もが同じように歓喜の声をあげながら死んでいったことを。
「ずいぶんと疲れてらっしゃるんですね。徹底的に治してあげますから、安心してくださいね」
 青年の恐怖を意に介さずに、彼女はマッサージを続ける。
 常人にはとても抗えぬ心地よさは、やがて青年の神経を焼き切り、彼を永遠に沈黙させた。

●ヘリオライダーからの依頼
「エインヘリアルによる虐殺事件の発生を予知しました」
 石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は集まったケルベロスたちに告げた。
「事件を起こすエインヘリアルは、過去にアスガルドで事件を起こした凶悪な犯罪者です。……いえ、凶悪というのは少し違うかもしれませんが」
 ハルモニカ・マチルダと名乗るエインヘリアルは、とある街のデパートに現れ、そこにいる人々を無差別にマッサージし始めるのだ。
 それもただのマッサージではない。
「人知を超えた技術によるマッサージを施された者は、常人では脳や神経が耐えきれないほどの快楽と幸福感を受けます」
 限界を超えた快楽により、人々は死を迎えるのだという。
 マッサージを殺人技術の域まで高めたエインヘリアル、それがハルモニカ・マチルダなのだ。
「なお、念のため付け加えておきますが、彼女のマッサージは別に性的な類のものではありません」
 真面目な表情のまま芹架は告げる。
「放置しておけば、彼女は目につく人々すべてにマッサージを行おうとするでしょう」
 多くの命が無惨に奪われるばかりか、人々の恐怖により地球で活動するエインヘリアルの定命化が遅れる可能性がある。
 犠牲者が出る前にハルモニカを撃破して欲しいと芹架は言った。
 ハルモニカが現れるのは夕方、デパートに客が集まっている時間帯だ。
 1階の入り口から入り込み、手近にいる者を老若男女問わず捕まえては殺人マッサージを施す。
 へリオンで移動すれば、敵が出現するより多少早く現場に到着できるだろう。
「ただ、彼女は単純に人が集まっている建物を目指したものと考えられます。事前に避難させてしまうと別の場所に向かうかもしれないので気をつけてください」
 次に芹架は敵の戦闘能力について説明を始めた。
「彼女の最も警戒すべき攻撃は、殺人的なマッサージ能力です」
 近距離に仕掛けるマッサージは対象の快楽中枢を刺激し、常人ならば神経が焼ききれるほどの幸福感によるダメージを与えてくる。精神が磨耗し、彼女を味方だと思いこんでしまう可能性がある。
 また、グラビティを鎮静作用のある香りに変えて範囲攻撃を行うこともできる。攻撃を受けると武器を持つ力が鈍ってしまうだろう。
 他に明るい癒し系の雰囲気を漂わせるバトルオーラも身にまとっている。
「罪人であり、使い捨ての戦力として送り込まれた彼女は、おそらく逃げることはないでしょう」
 確実に倒して欲しいと芹架は告げた。
「アスガルドからも放逐されたようなエインヘリアルを野放しにしておくわけにはいきません。どうかよろしくお願いします」
 例え快楽を与えるのが目的だとしても、その先に待っているのは死なのだから。


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
浜荒津・蓄音(智種の意図・e02091)
レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)
西院・織櫻(櫻鬼・e18663)
愛澤・心恋(夢幻の煌き・e34053)
榊原・一騎(銀腕の闘拳士・e34607)

■リプレイ

●食らってみたい攻撃
 ケルベロスたちはヘリオンを降りて、目的のデパートへと向かっていた。
「エインヘリアルにも随分変わった力の人もいるのですね……どちらかというと、サキュバスに近いような? ともあれ、被害を出さないようにしなくてはいけませんね」
 うつむきがちに愛澤・心恋(夢幻の煌き・e34053)が呟く。
「そうねえ。快楽を与え与えられるのは結構だと思うわ」
 サキュバスであるデジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)が、人差し指を口元に当てて思案する。
 高校生の格好をしているが、それは偽装のためで実際には学生ではない。
「けど、命を奪ってしまうのは頂けないわね。快楽は何度も違う形で味わい続けないと♪ そこで終わりにしてはする方もされる方も残念だわ」
 だから、残念だが彼女の命は終わらせなければならない。彼女は唇の端を湿らせる。
「殺戮じゃなくて、快楽を与えるのが目的か……。今までの物騒なヤツ等よりはマシだが……」
 レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)が呟いた。
「しかし、敵じゃなけりゃ、デートにも誘うんだがなぁ……無差別にやるの止められればワンチャン……いや、ダメだろうな……」
 お調子者の銀狼が大きく首を横に振った。
「でも、倒れるまでマッサージされちゃってデートにならないんじゃないですか?」
 心恋の素朴な疑問にレイが真剣な顔で思案し始める。
「前にも似たような敵と戦った事があるよ。あいつは過剰な回復力で殺そうとしてたけど今回はマッサージで殺そうとしてくるんだね」
 榊原・一騎(銀腕の闘拳士・e34607)の言葉は、そこまでは真面目だった。
「でも人知を超えた技術によるマッサージ……味わってみたいなぁ」
 大きなため息とともに、一騎は言葉を吐いた。
「危険を冒してでも受けたいマッサージか。羨ましいことだ、ね」
 浜荒津・蓄音(智種の意図・e02091)の言葉に棘があるように感じられて、思わず一騎は彼女のほうを向いた。
「いやもちろん倒すよ!? 見逃すなんてありえないからね!」
 気のせいかもしれない。
 けれども抱いてしまった妄想のうしろめたさに突き動かされて、言い訳がましい言葉を一騎は並べ立てる。
「ただ、どうせ倒すならその前に一度だけ……いえ、なんでもないです」
「責めているつもりはないんだよ。ただ、私も美容治療施術師を自称しているから、ね。対抗心というやつだよ」
 言葉を切ったところで、一騎はじっと見つめていた畜音が、小柄ながらずいぶんと豊満な肉体を持っていることに気づいてしまった。
 走るたびに、帯を巻き付けただけにも見える胸が揺れているのに気づいているのかいないのか。一騎は首の後ろを軽く叩いた。
「マッサージで命を奪えるとは、異色の敵ではありますが技量は確か。我が刃の糧としましょう」
 西院・織櫻(櫻鬼・e18663)は、レイや一騎と違って敵を倒すことしか考えていないようだった。
 鋭い眼光を向けた先に、もう目的のデパートが見えている。
 入り口の透明な扉をくぐると、八代・社(ヴァンガード・e00037)はすぐに手近にあった店へ大股に近づいていく。
「これからデウスエクスが近くに現れる! だが、俺たちはケルベロスだ。必ず守るから指示に従って避難してくれ!」
 社は制服を着た女性に近づいて、警備室への指示を言づける。
 敵はすぐに来るはずだ。他の者たちも行動し始める。
 入り口付近に立っていた警備員に事情を話していたローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)は二刀一対の斬霊刀を抜き放った。
 肌もあらわな一人の女性が扉をくぐってくるのが見えたのだ。
 蜘蛛をイメージした装甲は腰や胸の一部しか覆っていないが、それでもエインヘリアルの鎧であることはわかった。
「エインヘリアルが来たわ! 足を止めるわよ!」
 仲間たちに呼びかけるローザマリアへとハルモニカ・マチルダは穏やかに微笑んだ。

●危険な遊戯
 手近にいる者に触れようと近づいてくるハルモニカの手から、心恋のテレビウム、メロディが割り込む。
 社はエアシューズをはいて走った。
 空を飛ぶことすら難しくないという靴による加速が火花を起こし、敵を炎に取り巻く。
 炎を起こすほどの加速の反動が『アルイーズ定理』によって右腕に収斂していった。
「こっちは任せたぜ!」
 仲間たちに声をかけながら、社は敵の前を駆け抜けた。
 移動しながら、彼は人々に逃げるよう合図していく。
 見た目には悪そうな顔をしている社だが、地球人である彼はむしろ人々から信用を比較的得やすい。
 学生の変装を解いたデジルは、主に敵に近い場所にいる者を誘導しているようだった。
 レイが1人の女性の手を取りつつ、周囲の人々にデウスエクスから逃げるよう呼びかけている。心恋もだ。
 入り口からなるべく奥に向かって、ケルベロスたちは人々を誘導していった。
 誘導に回った4人を除いた残る4人と、それにレイのライドキャリバー・ファントムと心恋のテレビウム・メロディはハルモニカの周りを囲んだ。
「あら、ケルベロスの皆さんよね? あなたたちも、私に治してもらいたいんですか?」
 ハルモニカに問いかけられて、一騎がつばを飲み込んだ音を、みんなは聞かなかった振りをした。
「悪いけど、キミのマッサージは私の美学にあわないんだよ、ね」
 蓄音はエインヘリアルに向かって言い放った。
「美学?」
 聞き返してくるハルモニカ。
「そう。マッサージは単に気持ちよければいいってものじゃない。行く先が地獄ではなく、天国へと導いてやるのが美と快楽に携わるものとしての責務というやつだよ!」
 蓄音のほうも、両手のナイフは構えたままだ。
「あら、地獄になんて送っていませんよぉ。だって、私のマッサージを受けた方はみんな、幸せそうな顔で逝きますもの」
 悪意のない表情でハルモニカは答えた。
 幸せなまま死なせるのが正しいことなのだと本気で信じているのだろう。
「それが地獄に送るというやつだよ。どうしてアスガルドを追放されたのか、考えたらどうだい?」
「考えるまでもありませんよ。気持ちいいのが嫌いなんでしょう」
 蓄音に近づこうと動き出す敵。
「あんたの相手は、こっちよ」
 そこに、ローザマリアの石化魔法と織櫻の毒の弾丸が命中する。
 マッサージの暗黒面にとらわれてしまったハルモニカは、もはや自分を省みることすらできないのだろう。
 だが、気を引くことには成功したようだ。
(「行きついた先が『殺人』であるとはいえ、一つの技芸を、別のことをなし得るまでに磨き上げたことは、素直に尊敬するけれど、ね」)
 絶望しない魂を歌い上げて、彼女はハルモニカを挑発する。
 ケルベロスたちの攻撃を意にも介さずにエインヘリアルは蓄音へ手を伸ばしてくる。
 一騎はハルモニカの前に割り込んだ。
「待て! どうせなら僕に……じゃなくて仲間には手を出させないぞ!」
 間近で対峙する敵は、一騎にとっては正視するのが難しい姿だった。
 男子校育ちの彼は女性には免疫がないのだ。特にハルモニカのように肌もあらわな姿をしているのではなおさらだった。
「でも、目をそらすわけにはいかないんだ。ケルベロスとして。ケルベロスとしてだ!」
 柔らかな手が、一騎の手を取った。
 流れるような動きで腕のツボを刺激し、返す手で背中の凝りがほぐされる。
「う……うはああああ!」
 ケルベロスですら受け止めきれぬ感覚が一騎の体を走り抜けた。
 むず痒さと熱さがまるで奔流のように彼の意識を押し流そうとする。
「こ、これが……これがあなたの生涯最後のマッサージだ、全力で来い!」
 攻撃はすべて自分が受け止めきる。
 その気概を持って、一騎は敵にしがみつく。
 仲間たちの避難誘導は順調なようだった。
 織櫻は横目で確かめながら、瑠璃の象嵌が施された刀に雷鳴を宿した。
(「ケルベロスをたやすく骨抜きにするあの技量……良き刃の糧となるでしょう」)
 無表情に敵を見据えて距離を詰める。
「敵はグラビティの効果を発揮しやすい距離で戦ってる。気をつけて。特に榊原」
 ローザマリアが空間を凍結するオラトリオの弾丸を放つ。
 それを追って走りこんだ織櫻は凍り付いた敵に向かって刃を突き出した。
 エインヘリアルの技を血肉とすべく、白刃は敵の体を貫いた。

●快楽の果て
 避難誘導をしていたケルベロスたちは、ある程度一般人を戦場から遠ざけると、後は警備員たちに任せた。
 レイは戦場を振り向く。
 ハルモニカが仲間と戦っている姿が見える。主に蓄音が狙われており、一騎が必死にかばって攻撃を食らおうとしているようだ。
「見た目は可愛い女の子なんだけどな」
 外見だけならば、エインヘリアルは人間とさして変わらない。
 それを倒さなければならないのだということを、レイは少しだけ嘆いた。
 社がデパートの床を蹴った。彼の長身が飛翔するかのように低空を移動し、重力を操ったローリングソバットを敵に叩き込む。
「女蹴っ飛ばすのは気の乗らねえ仕事だが――お前が殺しすぎるんじゃ、仕方ねぇ」
 心の中で同意しつつ、レイは二丁の魔銃を素早く引き抜いた。
「カワイイ子に悪いが……ここで止まって貰うぜ」
 使い手の命をも喰らうというフェンリルと、すべてを飲み込むというアビス。
 高速で狙い撃つ二丁の銃が、敵の動きを制限する。
 デジルが蟹脚型のバールを構えて、メカニカルな蟹のパーツを持つ擬人化した女性をグラビティで生み出す。
 蟹の腕から放つ光線がハルモニカを打った。
 攻撃を引き受けている一騎は限界を超える快楽によって曰く言い難い表情をしていた。
 心恋は疲弊している彼に代わって仲間を守ろうと走っていく。
「榊原さん、私が代わります。無理をしないでください」
「ダメだ! 彼女のマッサージは僕が……僕が全部食らうんだーっ!」
 一騎の装着したガントレットの宝玉が真紅に輝き、加速された一撃があろうことか心恋へと襲いかかった。
 身にまとうバトルオーラで拳を受け止めようとするが、衝撃は殺しきれない。
「……榊原さんが女性に飢えているのはよくわかりましたから、落ち着いてくださいね。今、治しますから」
 オーラを溜めて一騎に注ぎ込み、回復すると同時に催眠を消し去る。メロディも応援動画を流して手伝ってくれた。
「はっ! ……ごめん、どうやら僕は惑わされていたみたいだ」
「いえ、気にしないでください。男の人なら仕方のないことですよね」
 柔らかに告げた心恋に、なぜか一騎は衝撃を受けた顔をしたが、気にする暇はない。
 蓄音もまたはまちー式美容治療の奥義で一騎を治していた。
「躊躇わないで。ほら、いい子いい子というやつだよ」
 全身を強烈に連打するマッサージを受けて一騎は顔をまた緩ませる。
「浜荒津さんのマッサージもいい……。けど、僕は意地でもハルモニカさんから離れるわけにはいかないんだ。みんなを守るために!」
 緩み切って顔を赤らめながらも、一騎は決意を述べる。
 とはいえ彼にいろんな意味で余裕がないことは間違いない。前衛を包み込むハルモニカの香気を、心恋は2人分受け止めた。
 避難誘導を行っていたメンバーが戻り、劣勢だったケルベロスたちは反撃に移った。
 ハルモニカは8人と2体を相手取っても容易く倒せる相手ではなかったが、ケルベロスたちの連携は確実に敵を追いつめていく。
「あ……ッ!」
 仲間をかばってマッサージを受けた一騎が、やり遂げた男の顔で膝をつく。
「ようやく1人……。私のマッサージにここまで耐える方がいるとは思いませんでしたよ」
 デジルは妖艶な眼差しで、肩で息をするハルモニカを見据えた。
「貴方の行為は所詮快楽を与えてあげたつもりの自分だけの快楽。相手も自分も楽しみ『続けて』こその快楽よ」
「そんなはずはないわ。だって、みんなあんなに幸せな顔をしていたのに」
 一騎を指差す敵に、デジルは首を振ってみせる。
「本当にそう思っているのなら、残念だわ」
 かつて倒した敵の残骸から作った蟹脚型バールを振り下ろす。
 とっさに敵は回避したが、それはデジルにとって誘いの一撃に過ぎなかった。
 敵の背後に疑似ビハインドというべき女性型の人影を生み出す。それは、やはりかつて戦った敵の蟹型のアームを備えていた。
 蟹の腕から光が敵を撃ち抜く。
「……流石リモデの残滓から作っただけあって、愉しそうねー」
 直撃によろめくハルモニカへと、デジルは微笑みかけた。
 仲間たちがたたみかける。
「悪いが眠れ……ブリューナクッ!」
 レイの拳銃が高密度のエネルギーを発射。空中で5つにわかれて敵を追いつめる。ファントムも機銃を浴びせる。
「見事な技ですが、そろそろ我が刃の糧となってもらいましょう」
 空の魔力を帯びた織櫻の二刀が追撃をかけた。
 心恋の歌にあわせて、メロディがバールで殴りつけた。
「君も疲れてるみたいだ、ね。私がマッサージしてあげるよ」
 蓄音の激しい連打を受けて、弛緩した表情になったハルモニカの腰が砕けた。
 心を落ち着かせ、戦う力を削ぐ香りが蓄音に向かって放たれ、さらにレイやローザマリアをも包み込む。
 けれども、もはや抵抗は意味をなさない。
「M.I.C、総展開! 終式開放ッ!!」
 立ち上がろうとした隙に、社がこれまでの戦闘で溜め込んだ応力を連続解放、レールガンにも匹敵する一撃を叩き込む。
 ローザマリアは心をくじこうとする香気を振り切って前進する。
「劒の媛たる天上の御遣いが奉じ献る。北辺の真武、東方の蒼帝、其は極光と豪風を統べ、万物斬り裂く刃とならん――月下に舞散れ花吹雪よ!」
 重力から腕を解放すると、因果と応報を司る一対の刀が加速した。
 逃れようとするハルモニカを衝撃波が追いつめ、切り刻む。
 抜く手すら見せぬ連撃は、ローザマリアを周囲にまるで花が咲いているように見せていた。あたかも、髪に咲いた薔薇が舞い踊るかのごとく。
「頼んでもいないエステは、お断りよ」
 斬霊刀の鍔が鞘にぶつかり、涼やかな音を響かせる。
 二刀を収めたローザマリアの前で、ハルモニカは音もなく崩れ落ちていった。
「道さえ間違えなければ、もっと美と快楽を追求できたのに、ね」
 倒れたハルモニカに近づき、蓄音は静かに見下ろした。
「そうだね。彼女の技を鹵獲できたらいいんだけど……相容れなかったとはいえ、そのマッサージ技術は残してあげたいしね」
 デジルは彼女の使っていた技を反芻しているようだ。
「技だけじゃなく、本人も美人だったのに惜しいよなあ」
 レイがため息をつく。
 エインヘリアルはもはや動かない。
 どこか蓄音と似た技を使う彼女は、マッサージの暗黒面にとらわれてしまった。
 ハルモニカを超えたことで蓄音も成長することができたのだろうか。
 彼女のようにはならず、けれど彼女の技を忘れずに、なお高みを目指そうと蓄音は思った。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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