その手に握るは細い腕

作者:幾夜緋琉

●その手に握るは細い腕
 和歌山県、新宮市に存在する、浮島の森。
 国の指定する天然記念物にもなっている、日本最大の浮島。
 ……そんな浮島に残る噂話の一つ……大蛇に呑まれ、底なし沼に消える美女。
『そんな噂話があるのね! 面白そうじゃない!』
 と、意気込んで来た彼女。
 多少は自分の美貌に自信があり、心霊話が大好きな彼女。
 当然時間は、深夜、丑三つ時……周りに誰も居ない中、肩に下げた一眼レフカメラを構える。
 そして、心霊話と同じシチュエーションにしようと、沼に向かい、足を……。
 突然聞こえてきた、他の女性の声。
 第六の魔女、アウゲイアス……そして彼女の鍵は、すっと彼女の心臓を穿つ。
「……ふふ。私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』には、とても興味がありますね」
 と、アウゲイアスの言葉に……その傍らに生まれたのは、人の身体の両腕が、大蛇になった様な怪物。
 それに合わせる様に、『興味』を奪われた彼女は其の場に崩れ墜ち、そして大蛇怪物はシィィ、と気色悪い鳴き声を上げながら、町へと向かい始めるのであった。

「皆さん、集まって頂けましたね? では、説明しますね」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達へ一礼し、早速。
「今回は、不思議な物事に対し、強く興味を持ち、実際に自分で調査を行おうとしているヒトが、ドリームイーターに襲われ、その興味を奪われてしまう事件が起きてしまった様です」
「この興味を奪ったドリームイーターは、既に姿を消している様ですが……この奪われた興味を元にして、現実化した化け物型ドリームイーターにより、事件が起きようとしているのです」
「この怪物型ドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破してきて頂きたいのです。このドリームイーターを倒す事が出来れば、興味を奪われた被害者も、きっと目を覚ましてくれると思います」
 更にセリカは。
「今回のドリームイーターは一体のみで、特に配下などは存在しておりません。しかしこの怪物型ドリームイーターは、人間を見つけ次第、自分が何者であるか、を問いかけてくる様なのです」
「この答えに誤ると、その者を優先して殺そうと行動する様です。逆に言えば、それで己へと攻撃を寄せ付けることが可能な様です」
「また、このドリームイーターは、自分の噂話を心の中で信じている人に吸い寄せられる性質を持っています。なので、この沼の近くで噂話などをしていれば、ドリームイーターの方から寄ってくる事でしょう」
「尚、このドリームイーターの攻撃は、二つの腕の蛇のようなものを手足に巻き付け、強く締め上げることで骨を砕く、怪力の巻き付き攻撃です。それ以外には特に特徴的な攻撃手段は無い様ですが……この一撃自体がかなり強力なので注意して下さい」
 そして、セリカは。
「この様に、怪談話に興味を持つのは人として自然だと思います。でも、その興味を利用し、化け物を産み出すだなんて許せません。皆さんの力で、確実に倒して来て下さい。宜しくお願いします」
 と、頭を下げた。


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
ウカノ・フォスレター(荒野の狐・e00244)
アイシア・クロフォード(ドタバタ系ツンデレ忍者・e01053)
クロード・リガルディ(行雲流水・e13438)
姫橋・憂妃(夜の踊り子・e15456)
フィア・ルシフェリア(星の記憶と歩む少女・e19823)
金剛院・雪風(雪風は静かに暮らしたい・e24716)
アークレスフリート・ヴァルキュリアーク(其の正義の心は静かに瞑想する・e27191)

■リプレイ

●浮島に浮かぶ
 和歌山券新宮市、浮島の森。
 国の指定天然記念物にも指定された、日本最大の浮島……そこに残る噂話が一つ、大蛇に呑まれ、底なし沼に消えてしまうという美女、の噂。
 ……そして、その噂話を聞いた、自称記者の女性がアウゲイアスに興味の感情を利用されてしまう、という話を聞いたケルベロス達。
「んー、今回の敵は人の両手が蛇で自分が誰かを聞いてくるか……って、これなんか今迄出逢ったドリームイーターの中では、一番オバケっぽいのだよ!!」
 と叢雲・蓮(無常迅速・e00144)が大きく驚きの声を上げると、それに。
「あぁ……大蛇か。また興味深いな……この手の噂話はやはり絶えないものか……本当かどうかわからないものが、一番興味を示しやすいしな……」
 こくっ、と頷くは、クロード・リガルディ(行雲流水・e13438)。
 興味の感情から産まれたドリームイーター。
 両手が蛇で、それを絡みつかせてこようとするドリームイーター……とは、想像しただけでも、中々に怪物然とした姿である、と言えるだろう。
「こういう興味を奪うドリームイーター。パッチワークの事件もまだまだ長引きそうだね。でも、こう言う事件を一つ一つじっくり潰して行くのが重要だって事か。相手は怪物だし、遠慮することもなさそうだね」
「そうなの。興味を利用して悪い事をするのは、だめ」
「興味だけが形を成した存在か、興味を元にした新しい存在か。まぁ、どっちだっていいか。誰も知らない誰かの感情なんて、それこそ興味無いしな」
 アークレスフリート・ヴァルキュリアーク(其の正義の心は静かに瞑想する・e27191)、フィア・ルシフェリア(星の記憶と歩む少女・e19823)、そしてウカノ・フォスレター(荒野の狐・e00244)らの会話。
 そして、金剛院・雪風(雪風は静かに暮らしたい・e24716)とアイシア・クロフォード(ドタバタ系ツンデレ忍者・e01053)の二人も。
「まぁ、暖かくなってきたし、周辺の植物観察とか楽しそうだなぁ……噂話よりこの地域を散策したい気持ちが強いんだけどね。まぁ、何にせよドリームイーターをこのまま放置しておく訳にはいかないしね」
「そうだね。よーし、大蛇退治だ、頑張るぞー! 忍者の力を見せてあげる!!」
 拳を振り上げるアイシアに、蓮も。
「そうだね。オバケが暴れだしたら怖いもんね。ここで皆とやっつけちゃうのだよ!!」
 と拳を振り上げる。
 ……そんな仲間達の声を聞きつつ、姫橋・憂妃(夜の踊り子・e15456)は。
「しかし……自分が何者かわかんない妖怪、か……なんだか……似てるな……」
 呟いた憂妃に、軽く首を傾げるウカノ。
「ん、どうした?」
「いや、何でもないよ。ただ……興味から産み出されるドリームイーターか。興味の元になった噂話は、本当なのかな?」
 と言うと、ウカノはそうだな……と少し考えつつ。
「うん。化け物が興味の感情なのか、興味を元に命宿る化け物になったのかは知らないが、興味の味には興味がある。どんな味がするのだろうな」
「……興味の味、かぁ……」
 軽く空を見上げる憂妃……と。
「ほら、二人共。早く行くよー!」
 アイシアがぶんぶんと手を振り、呼びかけるのにやれやれ、と言った感じで、そちらへと向かうのであった。

●両手蛇の恐怖
 そして、ケルベロス達は浮島へと、足を掛ける。
 沼の上に浮かぶ浮島……と言う名の通り、橋で繋がった浮島。
 足を掛けると、僅かではあるが沈下が怒り、本当に浮いているのだ、と改めて感じる事が出来る。
「凄いわねぇ……でもこれ、なにかいわく付きの沼なのかしらね? 底なし沼なんて今時、めったに見ないけれど」
 と憂妃が言うと、それにアイシアと雪風が。
「そうだねー。この沼に大蛇が出るんだってさ! どこにいるのかなー?」
「うん、沼に大蛇がいるんだね。それはなんか凄そう。スマホでもいいかな?」
 とか言いながら、ゴーグルを装着し、スマホを取り出して周囲の写真をパシャパシャと。
 そしてフィアも、二人の言葉に。
「そう、なの……大蛇さんが出てくるのは、怖いけど……一度逢ってみたい気もする、なの」
 と、頷いたりして、その噂話に乗って行く。
 そんな仲間達に対し、蓮、ウカノ、クロードにアークレスフリートの四人は、こっそり息を潜めながら、後を追いかける。
「……何だか、みんな楽しそうだね?」
「そうだねぇ……まぁ、囮というのもあるけど、元々噂話が好きなのかもしれないね」
 と蓮にくすりと笑うアークレスフリート、そしてクロードも。
「……そうだな……まぁ、この作戦はドリームイーターが現れない事には始まらないしな……」
 肩を竦める。
 ドリームイーターは、話を聞くに噂話をしている人の元に現れるという……だからこそ、女性陣は噂話をまことしやかに話し合っているのだ。
 そして、浮島を歩き続け数分。
 コケやシダの叢を見て、残る自然に声を上げつつ、更に、奥へと進んで行く。
 ……すると、ケルベロス達の後ろの方から、すっ、と姿を現わす、両手蛇のドリームイーター。
『我は……何者だ?』
 と、突然後ろから声を掛けてくる。
 それに僅かに驚くが、それを隠しつつ、振り返る憂妃。
「何者か、ねぇ……もしかして異世界の憂妃なのかしら? なんてね」
 と憂妃が言うと、続くアイシアも。
「違うよ憂妃。これはねー……アライグマ?」
 と言いつつ、すぐに其の場に殺界形成を発動し、一般人避けを行う。
 勿論、そんな答えをドリームイーターは望むわけも無く……。
『はずれぇ……フセイカイシャには、ばつを』
 と、その腕の蛇を放ち、絡みつかせようとしてくる。
 しかしその一撃を、カバーリングで受け止める憂妃。
 巻き付いた腕を引き付けながら。
「そうねあなた。何処かに寂れたいわく付き神社があるとか、そんな噂知らない?」
『シルカァ!!』
 と、憂妃の言葉に、更に臨戦体勢になったドリームイーター。
 すぐに憂妃へフィアが。
「回復します、なの」
 と気力溜めを飛ばし、減った体力を回復する。
 そして、隠れていた仲間達も一気に姿を現わし、ドリームイーターを包囲。
「さて、それでは始めようか」
 と先陣切ったアークレスフリートが、「幻影のリコレクション」をドリームイーターに放ち、先ずは武器封じを付与。
 対しクロード、雪風のスナイパー二人は、後衛から。
「我が喚ぶ、『骸大蛇』……標的を薙ぎ払え……」
「見せてあげる――ボクのバトルセンスを――思いつきから生まれる無双の拳だよ」
 と、『薙ぎ払う骨の尾』と『爽快無双拳』で攻撃を畳みかける。
 更に流れる様に、蓮が。
「さー、バッサリでゴーゴーなのだよ!」
 と言うと共に、次の瞬間、身を翻し、傍らにあった木々を利用し、上方へジャンプ。
 ドリームイーターの体、ど真ん中を狙って、レゾナンスグリードの一撃を叩き込み、大ダメージを一気に叩き込む。
 そして、その一撃に一瞬怯んだ隙へ、ウカノ、そしてミミックのチャコジャイが。
「化け物だろうが殴り飛ばすくらいにはせねばな……チャコジャイ、行くぞ」
 ウカノの声にカタカタと音を鳴らし答えるチャコジャイ。
 主人とサーヴァントの連携で以て、降魔真拳に愚者の黄金で攻撃していく。
 更にアイシアと憂妃は。
「さてと、護りを固めて耐えないとね」
「そうね。あんな蛇の手に巻き付かれて死ぬなんてマネだけはしたくないわ」
 と頷き合いつつ、分身の術で自己強化をするアイシア、対し憂妃は【暴走する殺戮機械】を放ち、更にバッドステータスを積み重ねていく。
 そしてまた、ドリームイーターの攻撃。
 しかしその攻撃は、アイシア、憂妃の二人が確実にカバーリングを発動し、攻撃を他の仲間に通さない。
 そして、喰らったダメージは、即座にフィアが気力溜めやオラトリオヴェールを使い、回復する。
「ありがとー♪」
 とアイシアの言葉に、フィアはこく、と頷き、微笑む。
 そして、その攻撃を見ながら。
「大蛇に締め付けられるのは嫌だなぁ」
「ああ……以前ウサギが蛇に掴まった場面に遭遇した時と同じようになると考えたらおぞましいからな……出来るだけ回避を心がけたい所だ……」
 と雪風、クロードは頷き合いつつ、ドリームイーターとはしっかり距離を取った位置から、ヒットアンドアウェイでホーミングアローにマインドソードの一閃。
 更にアークレスフリートも、ペトリフィケイションで石化を追加付与。
 そして蓮は更なるアクロバティックな動きで、ドリームイーターを引っ掻き回しながら、雷刃突を一閃、ウカノも旋刃脚で蹴り叩く。
 勿論、アイシア、憂妃も攻撃の手は決して緩めず。
「さぁ、ビリビリ痛いよー♪」
 と【雷遁 雷刃手裏剣】に、フレイムグリード。
 ……そして、そんなケルベロス達の猛攻は止む事無く、数分が経過。
 明らかに、ドリームイーターの体は傷だらけ。
 そんなドリームイーターの状況を、観察し続けていたアークレスフリートが。
「……そろそろ頃合いの様だね。みんな、一気に仕掛けようか」
 と声を掛け、それに皆も頷く。
「武装した聖者の行進曲、不浄たる天使の讃美歌、穏健なる盟友の軍歌 、不死なるものへ旅立ちの歌、さようならのかわりに」
 と、【魔導交響曲】の調べを奏でると共に、クロードのホーミングアロー、雪風のマインドソード。
 その一閃が、ドリームイーターの左蛇腕を切り落とす……ウガアアア、と悲鳴の叫びを上げるドリームイーター。
「さーさー、一気にいっちゃうのだよ!!」
 と蓮がドリームイーターの体を蹴上がり、そして、最至近距離からの二刀斬霊波。
 その一閃が、残る右蛇腕をも切り落とし、残る体も、まるで靄の様に、消失していった。

●失われた興味の先には
「……ふぅ。どうやら終わった様だね」
 と、息を吐き、微笑むアークレスフリート。
 そして、とうに姿を消したドリームイーターの亡骸に向けて、ウカノが。
「化け物の末路なんてどの物語でも一緒だろう? めでたしめでたし、で幕が下りるなら、それは願っても無い事だしね」
 と肩を竦める。
 そして、蓮も。
「そうだね。幕も降りたし、一件落着、って事かな? ボク、役に立ったかなー?」
 と言いながら、視線をアイシアや雪風に向ける。
 ……それにアイシアが。
「うんうん。よーくがんばったよー。褒めて上げる♪」
 と頭撫でると、蓮は笑顔でありがとー、と嬉しそう。
 ……そんな蓮とアイシアの二人にくすりと笑いつつ、雪風、フィアが。
「さて、と……せっかく噂の沼まで来たんだから、もっと観光を楽しまないとね」
「ええ……あ、でも……傷痕の修復……しないと、なの」
「あー……そっか。そうだね……」
 当然、戦闘の痕跡というのは、周りを見渡せば色々と残ってしまっている訳で。
「……ま、パッと片付けて、パッと終わらせればいい」
 とクロードが立ち上がり、ヒールグラビティを次々と掛けていき……さっさと元の姿へと修復していく。
 ……一通り修復し終わった後は、それじゃ、という事で。
「すぐに帰っちゃつまらないし。散策が趣味のボクとしては、ここ、おもしろいスポットだと思うんだよね。みんなも行かない?」
 と雪風の提案に、フィアは。
「あ、はい。一緒に行きます、なの」
 と雪風に付いていき、浮島の上を散策。
 多くの自然が広がる島内には、オオミズゴケやヤマドリゼンマイなど、目に映るは新緑。
 ……そんな新緑散策と共に、周りのお土産屋さんでは、憂妃が。
「さて、と……折角和歌山まで来たんだし、何かお土産を買って行こうかしら。あいつにも……まぁ、仕方ないわね」
 と呟きつつ……友人、知人の顔を思い浮かべながら、みんなに向けたお土産を、色々と買い込んでいくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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