●時を喰む牡山羊
白粉をはたいたような奇抜なアイメイク。虹色の繭から紡いだかの如きふわふわの髪の上には、やけに背の高いシルクハットをちょこりと乗せて。
「御機嫌よう、小さな紳士に淑女の皆々様!」
大人が二人がかりで抱えそうな花瓶をひょいと摘み上げ、『スチームパンクの世界観で中世貴族を描いたらきっとこう』と思わせる衣装を纏った男は、晴れの日を迎えた壇上で恭しく頭を垂れた。
「今日はワタクシから贈り物が――って、そこのアナタ。勝手しないで下さいナ」
足元で腰を抜かしていた初老の男が、よろよろと逃げ出そうとするのを見止め、芝居がかった口調の男は手にしていたステッキを、フンっと振る。
「みんな、逃げ――っ」
初老の男の懸命な訴えは、彼の背丈と同じくらいの得物に頭から殴られた事でフツリと途絶えた。代わりに、べちゃりと濡れた音が響く。
「嗚呼、何てこと! 折角のお遊戯の前に、汚れてしまったじゃないですカ!」
燕尾の裾を汚す朱に、今や壇上の主となった男――エインヘリアルは今にも滴りそうな蜜酒色の瞳を不快気に眇めた。その隙に、衝撃から我に返った人々は、出口を求めてワァっと駆け出す。
「こらこら、駄目ですヨ」
木製の床を一蹴り。ダァンと群れる人々の中心に舞い降りたエインヘリアルは、寸でで踏み潰さずにすんだ子供を視界に収め、ぱぁっと目を輝かせる。
「おやまァ、何と可愛らしイ!」
叫ぶ子供の親らしき男女を持ったままだった花瓶で薙ぎ払い、エインヘリアルはぶるぶる震える子供をステッキの先で突く。が、杖先が子供の顔に傷をつけた途端、ブスリとむすくれた。
「何てこと! 傷物になってしまいましタ! もう要りまセン」
言うが早いか、ぐるりと巻いた大層立派な山羊角飾りを左右に振って、男は子供を思い切りよく踏み潰す。
そこはとある小学校の体育館。
新一年生を迎えた祝いの式典は、一体のエインヘリアルによって地獄と化した。
●時を喰む牡山羊
過去にアスガルドで重罪を犯したエインヘリアルが、コギトエルゴスム化から解き放たれて地球へ襲来し、人々を虐殺する事件が起きる。
狙われたのは、とある小学校の入学式。新入生を最前列に、父兄や在校生が見守る中、校長が祝辞を述べている時に現れたそれは、無辜の命を次々奪い、恐怖と憎悪を齎す。
「こんな事、許せるはずがありません」
尊い人命のみならず、地球で活動するエインヘリアルの定命化さえ遅らせる可能性のある災禍を前に、リザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は固く拳を握り締めた。
予知が外れるといけないので、入学式そのものは予定通りに催される。しかし既に避難用の人員手配はリザベッタの方でしたので、現場に居合わせる人々はさほど混乱させずに逃がす事が出来るだろう。
「件のエインヘリアルは、相当な子供好きのようでした」
好き、と言っても、純然たる好意ではなく。愛らしい姿のまま己が玩具として傍に置きたいという歪んだ偏愛。
「外見が幼い方は敵の興味を惹きやすいと思います。ですが、一番敵意を向けられるのは、その幼い方を護ろうとする方です」
道楽貴族か、はたまた道化か。そんな風貌のエインヘリアルは、己が楽しみを邪魔する者を許さず、子供が癇癪を起したような勢いで排除しにかかる。
「何と言いますか……頭の螺子が数本飛んだような相手ですので、逃亡する心配はありません」
ゾディアックソードを繰る敵の名は不明。ただ、愛い存在を愛いままで愛でる所業は、成長を止める――時を喰らうとも言えそうで、リザベッタは姿形と合わせて『時を喰む牡山羊』と呼称し話を締め括る。
「折角の祝いの日。水を差してしまうのは申し訳ありませんが、命があれば明日に繋がります。皆さんの力で皆の未来を護って下さい」
参加者 | |
---|---|
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612) |
鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632) |
春日・いぶき(遊具箱・e00678) |
安曇野・真白(霞月・e03308) |
ルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642) |
エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765) |
グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784) |
月守・黒花(黒薔薇の君・e35620) |
●潜
真新しい一張羅に身を包んだ小さな紳士淑女の横顔を、職員列の末席に座した春日・いぶき(遊具箱・e00678)は眩しく眺めた。
緊張に赤らんだ頬は、元気一杯のエネルギーを内に秘め。その無邪気で愛らしい様は、いぶきの目にも好ましく映る。
満開の桜の庭から入場してくるピカピカの新入生たちの行進に、ごそりと動くバッグを抱えたルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642)は父兄席に在って心音を高鳴らせていた。
それは幼い子らのドキドキが移ったものか。はたまた『ここ』に間もなく訪れる災厄を知っているからか。ともあれ晴れの日の式典は、式次第通りに進み。いよいよ学校長が壇上のマイクにふぅと息を吹きかけた――その時。
「皆様、お逃げ下さいませ!」
ギシリと何かが撓む音に、紛れ込んでいた高学年席から立ち上がって安曇野・真白(霞月・e03308)が声を張った。
直後、体育館が割れた。文字通りに。
横っ面を張られたように舞台に近い壁に穴が開き、衝撃で天井が崩れる。だがその轟音さえ掻き消す勢いで、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は肩から抱えた売レンスギターを掻き鳴らす。
「はいはーい、これからケルベロスライブの時間デス! 慌てず騒がず、避難をお願いしますデス!」
底抜けに明るい警告に、驚愕に飲まれかけた人々らは呆気に取られ。我に返った時には、速やかな退避を促す警備員らが仕事を始めていた。
「見つけましたヨ!」
ぶち開けた風穴を巨体がぬぅっと潜るのを横目に、いぶきは壇上から転がり下りた校長の手を引き、親族に扮していた鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632)は『それ』の足元へ進み出る。
「おやァ?」
「礼儀を知らない貴族さんは悪い子だね。こんなにも可愛らしい子たちと遊ぶ前に、わたしとか如何?」
まっしろなワンピースの裾を摘まみ、冬の娘が優美に一礼。人波を掻き分けまろび出て来た匣竜のドラゴンくんも、ハクアに倣って青いマフラーを巻いた首をこてりと垂れた。
「……ム」
十分に愛い光景は、しかし牡山羊男のお眼鏡には叶わず。だが稼いだ間に、他の新入生らを逃がすようにエドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)が舞台手前の席列から躍り出る。
「おまえのあいては、こっちです」
椅子の下に置いた手提げ袋に隠していた、ぬいぐるみを思わせる箱竜――メルを伴う雄姿は、どこからどう見てもケルベロス。しかしドール型レプリカントに相応しい美しい幼子の登場に、エインヘリアルの目は爛々と輝いた。
「何と可愛らしイ!」
好みに合うなら敵でも何でも良いらしい。そのおぞましい嗜好に、月守・黒花(黒薔薇の君・e35620)は怒りを燃やし敢えてエドワウの前へ走り込む。
「許しません、幼い子供に手をかけるなんて!」
幼子を欲する手を阻む少女に、蜜色の眼差しに不快が募る。
「アナタは育ち過ぎデス。要りまセン!」
(「悪趣味……という表現では到底足りないな。虫唾が走る」)
黒花目掛けて振り下ろされる刃を目に、逃げる人らを隠す壁として広げていた翼を仕舞い、グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)は父兄席があった体育館後方から駆け出す。
(「他に目をくれる余裕など与えてやるものか……その前に、確実に仕留める」)
胸焦がす憤りは静かに熱く。敵への射線を確保した男は、ドラゴニックハンマーを振りかぶった。
●攻防
グレッグが放った足止めの砲弾を追い、エドワウは重力宿す蹴りを山羊角へ呉れ。すかさず続いたメルのブレスが敵を縛める。
「可愛いあなたはじっと待っておきなサイ!」
桃色がかった金の髪に、宝石の瞳。ビスクドールを思わせるエドワウに興を引かれた怪人は、邪魔者を排そうと黒花を強かに打ち据えた。
これと決めたら他に目が行かぬ素行は、大人になれない子供のよう。
(「……ちょっと怖い、かな」)
『箱』の中、本だけと日々を過ごしたハクアは、お伽噺の登場人物さながらの偏愛志向に戸惑う。触れた処から、悪意が沁みてきそうな相手だ。けれど、討ち果たす為には触れねばならず。澱む何かごと切り裂くかのようにハクアも流星と化し。白い軌跡が巨躯の背を打つ隙に、ドラゴンくんは己が属性をグレッグへ注ぎ込む。
ケルベロス達は着々と手を重ねつつあった。
しかし。
(「あれ?」)
稲妻纏う槍の切っ先が向けた相手にするっと躱されたのに、先ほどまでバッグの中にいたテレビウムのイコが黒花を応援する動画を流す横で、ルルは首を傾げる。
命中精度はそこまで悪くない筈なのに。エインヘリアルはルルの一撃から華麗に逃げてみせた。
「赤き煌めき辿りて、光れ、惹かれ。あとへ、あとへ」
(「真白のこの力が、キルシュブリューテさま達まで届けば……」)
「あとへと続け、足跡絶やすことなきように」
つぅと示す指先で、赤き星たちを導きながら真白は惜しむ。狙い定める加護を齎す真白のグラビティの効果範囲は、自分に並び立つ者たちだけ。だが、紡ぐ力は誰かを助けると真白が信じたように、彼女の箱竜の銀華はいぶきへ自浄の守りを授けた。
「ありがとうございます、小さなお仲間さん」
贈り物を受け取り紫眼を細めたいぶきも、短く唱える。
「生とは、煌いてこそ」
途端、煌く硝子の粉塵が後陣に構える者たちを包み。肌に触れ溶け、皮膜に似た盾を形成した。
躱すにも、当てるにも長けた敵を前に、ケルベロス達の視野には元から長期戦が入っている。
「っ、残念デース! でも諦めないデスよ!」
故にナイフで敵を捉え損ねたシィカも余裕を失さず、
「許しません、許せません。必ず倒しましょう。幼気な子供をどうにかするなんて、許せることではありません!!!」
綺羅星と流れながらも板目を割るに終わった黒花の怒りの根底に、不愉快な貴族を見上げる者たちは戦意を奮い立たせた。
「当たらないなら、当てるまでだ」
低く言ったグレッグは気力を練り。高めたオーラを一発の弾丸へと転じて投じ、歯車回る敵の左肘を砕く。
「オヤ、痛イ」
「そうです。みんな、いたいんです」
高みの口が漏らした痛みを見上げ指摘し、エドワウは構えた巨砲から凍結光弾を射出する。
言った所で、響かぬ相手なのは百も承知。でも感情の起伏に乏しいエドワウでも、同年代の子らを己が欲の為のみに玩ぼうとする敵の在り様は醜悪に思え。宿した氷が、メルのタックルで張り広がるのに少しだけ胸がすく。
「こういうのはロリショタペド野郎って言うんデスよね!」
男たちが作った流れに乗って、シィカが一気に敵へと肉薄する。
「まったくロックじゃないデース!」
その実、自分で発した言葉の意味はよくわかっていないシィカだが。その評価は異装の怪人の本質の的を捉え、オウガメタルを纏わせた鬼の拳もエインヘリアルの左膝を捕らえた。
砕け散る、洒落た装具。だが白面の男は紫色の唇を吊り上げる。
「また残念でしたネ?」
踊るように星辰の剣が振るわれると、巨躯の足元で山羊座が輝く。彼が使ったのは己を癒し、同時に自浄の加護を授ける力――だが。
「させてあげない」
一陣の木枯らしが体育館に吹いた。否、ハクアが駆けた。そして神速を超えた拳が、敵が得たばかりの幸いを砕く。
「凄い、ハクアちゃん!」
絶妙なタイミングで敵の意を挫いた友の一撃に導かれ、今度はルルが春風のように舞い、細身の体躯には不似合いな大得物を軽やかに担ぎ上げる。
「今度はどうかな」
放たれる竜の砲撃は、今度こそ敵を穿つ。ふらついた足元に、すかさずドラゴンくんがブレスを吹き掛けた。
「何てこと!」
「安曇野さん」
カラフルな目尻を吊り上げる敵をよそ目に、イコが黒花を癒したのを見止めたいぶきは、並ぶ少女の名を呼びグレッグへ視線を馳せた。
「お任せ下さい、春日さま」
それだけで共に回復を担ういぶきの意図を察した真白は、自陣の戦列にあって最大の火力を誇るグレッグの破壊力を底上げすべく、満月にも似る光球を練り上げる。
「ふふ。楽しいことはじっくりゆっくり、なのは此方も同じなのですよ」
銀華の吐息は敵に届かなかった。けれどいぶきは余裕を笑みで嘯き、黒花に施す緊急手術の準備に入る。
これは、可愛い子供たちの明日を守る戦い。
(「彼らには、笑って頂かないと。満たされないじゃないですか、僕が」)
だって食事の機会が摘み取られてしまいますから――というサキュバスらしい本音は、エゴという面では親近感さえ覚える敵とは違って表にはせず。
「努めましょう。身も心も念入りに仕留められるように」
いぶきは欲の権化の集中砲火を浴びる少女を癒した。
●重ねた時に強さ得て
欠いた命中精度は、徐々に安定を得た。相応に時間を要した分、どうしても黒花は疲弊をしたが。同じ盾を務めるルルらが我が身を顧みず庇った甲斐あり、体力に劣る黒花も戦列に留まれている。
「一歩も退けないんです!」
「そうだよ!」
「月守さま、キルシュブリューテさま……」
気概を燃やす黒花やルル、そしてサーヴァント達の背の向こうに敵を観て、真白はきゅっと唇を噛んだ。
容姿が好みの者を愛で、遮る者を力尽くで排除しようとするモノ。それはあの日の叔父であり、庇ってくれた兄であり。
(「……っ」)
今に重なる過去に、真白の心が軋む。されど少女は懸命に、痛みを繰り返さぬよう癒しの力を紡ぎ続ける。
癒し手たちの懸命さに加え、前に多くの者を配した布陣が黒花をよく守った。
そして、遂に。
「これでどうデスかー!」
小振りな竜翼をはためかせ敵の懐に飛び入ったシィカのナイフが、奇人の胸部装甲を深々と切り裂いた瞬間が運命の刻。
「……嫌なコト、してくれましたネ?」
「嫌な事をしているのは、あなたの方です!」
きつい縛めに敵が不穏に眼を眇めるが、黒花は知った事かと、力任せに握ったスマートフォンを大きな脛に叩きつけた。
これまで弄られるしかなかった娘からの渾身の反撃に、煌びやかな更に目元が歪む。
「不愉快デス!」
「あんた、勝手だな」
顔色は一切変えないながら、子らを守りたい気持ちと卑劣漢への怒りを胸に宿すグレッグは、敵の背後へ走り跳躍した。
「終焉は速やかな方がいい……」
黒花を早く楽にさせる為にも、ありったけの力を込めた脚を撓らせる。背骨に見舞った苛烈な蹴りは蒼炎を帯び、散った残滓まで不死者を地獄へ誘う篝火のように燃えた。
「メルもいけるよね?」
エドワウがけしかけたブラックスライムは大きな牙を剥き、バランスを崩した敵の右脚を丸呑みにし、少し我儘な口調で伴われたメルも追撃をかける。
「何てこと、何てことデス!!」
予想以上の痛手に特大の癇癪球を炸裂させて、虹色の綿帽子をかき乱し巨躯が地団太を踏む。
その仕草に、ハクアは白い息を吐いた。
(「時を喰らう……成長しない、愛らしいままの」)
それはとても純粋なもの。しかし、そんなモノは存在し得ない。
(「わたしも、貴方も。いつか疲れて消えてしまう」)
「さ、もう遊びの時間はおしまい――子供はおうちに帰っておやすみしなきゃ」
雪の音色で宣告し、ハクアが一度の跳躍で二度の蹴撃を山羊角へ見舞うと、左角が捥げる。
「お任せ致します」
「はい、大丈夫です」
一つ前に飛来した殺意のオーラが仲間に残した傷をいぶきに託し、真白は片角の牡山羊を見上げた。
誰の心にも、邪魔を厭う嫉妬心は巣食うもの。だが眼前の男は、ヘリオライダーの少年が言った通りに頭の螺子が飛んでいるようだから。
「真白の穿つ攻撃で、代わりが埋まりますでしょうか?」
言って真白がバールを投げつければ、いぶきは幾度目かの粉硝子を巻きながらくつりと笑う。
「螺子の代わりにバール、ですか。ちょうど角が折れた方の頭に刺さりました」
結果として、ケルベロス達はデウスエクスを圧倒した。
「ワタクシに! 戯れさせ、なサイ!」
狂気にぎらつく瞳に、もう個を識別する理性はなく。エドワウと己を隔てる壁を破砕しようと刃を振るう。
「行こう、イコちゃん!」
頭上から襲い来た剣を交差した腕で受け止め、ルルは桜の装いのテレビウムを呼ぶ。
「遊ばせてなんかあげないんだよ」
希望を朗らかに笑い、花の魔術師たる少女は古代語を繰ると眩い光を放ち。心通わすイコも、花咲く凶器で大きな足先を強かに打ち据えた。
「わたくしが!」
「では、今度は僕が行かせてもらいます」
常に互いを意識した真白といぶきは、終局に至ってもそれを忘れず。破壊力強化は真白へ任せ、いぶきは悪夢へ誘う魔力弾を投げる。
「ヒィッ! 何ですカ! この世界ハッ」
巨躯を身震いさせた男が、何を視たかは知れぬこと。だがおぞましさに歪んだ顔は、きっとこれまで彼が玩んだ命への慰めにはなったはず。しかし、過去は過去。消せぬ罪を襤褸に変わった佇まいに透かし見て、シィカは拳を固く握り締めた。
「これが本当のぉ……ロックデス!」
ケルベロスとしての使命感とロックな魂(実は、にわかだが)を胸に燃やし、シィカは床を蹴ると、オウガメタルで覆う一撃で金色の装甲を思い切り殴りつける。
「ワタクシの素敵なお召し物ガ!」
「あの世で悔い改めて下さい!」
「――まぁ、そういう事だ」
黒花の先鋭化した意識が爆破した残り角の粉塵を浴び、しかし僅かも動じぬグレッグは敵左脚へ強烈な蹴りを見舞った。真白の加護を受けたその力は絶大で、嫌な音を立てて膝から下が吹き飛ぶ。
「何てコト!」
支えを失った巨躯は頽れた。低くなった時喰む魔物の眼前には、エドワウが居た。
「……嗚呼、やはり留めネバ」
「おれたちは成長するいきものです」
昨日を経て、今日を歩み、明日を想う。それこそが人なのだと光の中でエドワウは言い。小柄な体躯を、きらきらと眩い光が包む。
「ここに生きるひとたちの未来をうばう権利は、おまえにはないです」
光の消失と共に、新たな姿で敵の心を引き裂いた。
「絶望デス! 悪夢デス!」
そこに居た筈の幼子は、儚くも美しく成長した青年の姿になっていたのだ。少し色褪せた薄桃色の髪がいっそ憎らしい。
衝撃にエインヘリアルの手から剣が滑り落ちる。
(「そういえば」)
いっそ滑稽な様を少しだけ哀れみ、ハクアは鹿を模した氷のサモンを創り出す。
「砕け散れ、花よ舞え」
「……!」
(「この人の名前ってなんだろう」)
声にせぬ問いに応えは返らず。返ったとて、呼べるのは可愛い子だけとでも言ったのだろうが。透ける冷たさに触れたデウスエクスは、砕け散る薄氷の花吹雪にも似る煌きに飲まれて悠久の時を終えた。
手分けして施したヒールは、式典会場を更に華やかに彩り。災禍に負けんと、晴れの日の宴は強かに再開された。
「おれ、おとなになったらケルベロスになる!」
「あたしも!」
恐れ知らずにはしゃぐ子らは眩く、それらを眺めいぶきは、口をもぐと動かし笑う。
――やっぱり子供は笑顔が一番です。
作者:七凪臣 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2017年4月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|