●REC
握りこぶし大のコギトエルゴスムに、細い機械の八本足。
夜のゴミ捨て場を徘徊するもの。ずばり、家電製品と融合する小型ダモクレスである。
廃棄された家電なら大概のものと融合してしまうそれが、今回選んだのはビデオカメラ。
大事なレンズが割れているけれど、ダモクレスには関係ない。
だってこれから直すもの。機械的なヒールでちょちょいのちょい。
出来上がったのは――ずばりそのまま、ビデオカメラマンだ。
のっぺらぼうの右肩にカメラが生えている。ついでに左手もカメラになっている。
右膝にもカメラが付いている。なるほど、マルチアングル対応っぽい。
それで何を撮るのだろう。
ビデオカメラマンが進んだ先は、ゴミ捨て場とブロック塀を挟んで立つ一戸建て。
抜き足差し足忍び足。湯気の漏れ出る窓へと近づいていく。
あぁ、こいつぁ、あれだ。
覗くつもりだ。
慎重にピント合わせの練習をして、準備万端。
窓に取り付く。途端、聞こえる叫び声。
「キャー!!」
『ウワー!!』
即バレするとは思わなかったのか、ダモクレスは反射的に右肩を光らせる。
それはカメラだが、同時に武器でもあった。撃ち出されたエネルギー弾が女を焼き殺す。
そして盗撮ついでに惨殺もこなしたダモクレスは、次の獲物を求めて走り去っていく。
●ヘリポートにて
「――というわけで、ダモクレスが現れるわ」
予知に繋がる情報を提供したシャルロット・フレミス(蒼眼竜の竜姫・e05104)に話し終えると、ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)はリピート再生するように語り始めた。
「ゴミとして廃棄されていたビデオカメラに、小型ダモクレスが融合してしまうの。例のごとく被害が出る前に、また廃棄物へ戻してちょうだい」
戦場は住宅街の中だが、避難が通達されているため、ひと気はない。道幅も十分。
ケルベロスが到着する頃にダモクレスも現れるので、囲ってスクラップにしてやろう。
「外見は成人男性くらいの人型で、右肩と左手と右膝にカメラを備えているわ。どれも射撃武器と同等の機能を有しているようだから、見た目に油断して大怪我しないようにね」
それからもう一つ、特に女性ケルベロスが気をつけなければならないこと。
「このダモクレス、とにかく何かを撮影……というか盗み撮りとか隠し撮りとか、そういうことがしたくてたまらないようなの。戦っている最中にも絶え間なく録画しているでしょうし、あわよくばこう、スライディングとかで股下に潜り込んできたりするかもしれないわ。居心地の悪い思いをするかもしれないけど、相手のペースに飲まれないようにね」
ミィルは苦笑いを浮かべつつ言って、説明を終えた。
参加者 | |
---|---|
アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772) |
レイ・ブリストル(金色の夢・e02619) |
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634) |
丹羽・秀久(水が如し・e04266) |
シャルロット・フレミス(蒼眼竜の竜姫・e05104) |
モニカ・カーソン(木漏れ日に佇む天使・e17843) |
鬼島・大介(最終鬼畜喧嘩屋・e22433) |
エング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745) |
●クランクイン
「変わったダモクレスもいたものですね」
無人の街を行く最中、モニカ・カーソン(木漏れ日に佇む天使・e17843)は呆れたように言った。
なにしろ、今回の敵は盗撮などという犯罪行為に拘りがあるらしいのだ。
「欲望、なのかしら。それとも持ち主の念がそうさせているのかしら」
「あぁ、なるほど。執着心……っていうより残留思念なのかな? ダモクレスからすれば興味を引くものでもないだろうにねぇ」
「……では、元からその様なことに使われていたカメラだったのでしょうか?」
シャルロット・フレミス(蒼眼竜の竜姫・e05104)と、レイ・ブリストル(金色の夢・e02619)に続いて、アレクセイ・ディルクルム(狂愛エトワール・e01772)が何やら上品な仕草で考え込む。
もしもアレクセイの思う通りだったとすれば、これまた一大事である。カメラに人との縁を見出し、そこから愛をも結んだ丹羽・秀久(水が如し・e04266)などは、躍起になって持ち主を見つけ出そうとするかもしれない。
しかしケルベロスたちには、仮定で話を進めるよりも先にやるべきことがある。
言うまでもなく、ダモクレスの撃破だ。
少し離れた街灯の側。乱雑に積み重なったゴミの塊が揺れて、中から這い出てきたそれの見た目は丸切りマネキン人形のようだったが、右肩にはテレビ局のスタッフが担いでいそうな大きいビデオカメラが生えていた。
左手はハンディカメラの形。右膝にも小さいレンズ。
全てきゅいきゅいと音を鳴らし、ケルベロスたちに焦点を合わせている。撮影準備は万端らしい。
「……素材がカメラだと、こんなダモクレスになっちまうんだな」
非常識な標識――標識部分に三日月状の大きな刃を取り付けた戦斧を担いで、鬼島・大介(最終鬼畜喧嘩屋・e22433)はため息をつく。
何とも本能に忠実な――それが機械相手に適切な言葉かはさておき――敵を見ていると、先だってブチのめしてきた触手豚どもが重なってしまうのだ。アレも十分に気色悪いが、コレもまた気味が悪い。この胃もたれみたいな感覚を晴らすには、ダモクレスを囲って袋にするしかないだろう。
一方で、アレクセイは段々と思考を逸らして、彼にとってあるべき位置に収めていく。
つまりは彼が世界に存在する理由、その全てである彼女について。
「私も愛しの姫の姿を365日一挙一動逃さずレンズに収めておきたいので、お気持ちはわからないでもないですが……ね」
いくらアレクセイが柔和な表情を貼り付けた美形の青年だとしても、吐き出された台詞は十分に危うい。
街にひと気が無くて幸いであった。
しかしこれを独り言とせずに、拾ってしまった細身の色男が一人。
誰が呼んだか流浪のキッド。赤いスカートをひらりと揺らすボクスドラゴンのポヨンを連れた木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)である。
「いいよな。盗撮されているとも知らずに過ごす姿を眺めるもよし、盗撮に気付いた時の反応を楽しむもよし」
うんうんと頷く様は、まるで経験者のそれ。
勿論、冗談だ。ところがどっこい、此処に集まった者たちの関係性はせいぜい、一期一会の冒険仲間で括るのが精一杯。
茶化すも突っ込むもなく、妙な空気が漂う。それを打破する先もまた一つしかなく、ケイはずびしと敵を指差した。
「……なんて言うとでも思ったか! 言ったけど! それ犯罪だからな? 撮る時は被写体の許可を貰いなさい!」
熱弁むなしく、ダモクレスの肩からズームアップする音が聞こえる。ケイの形容し難い表情は、きっちりと撮影されてしまったようだ。当然、無許可で。
「そのレンズが、我が姫の姿を捉える前にスクラップにしましょう」
仲間の一人相撲を軽やかに流したアレクセイが、邪なダモクレスとは真逆の、一点の汚れもない愛を身体に漲らせ、跳び蹴りを放つ機を窺って構える。
シャルロットも「狙うモノが違えば役立ったかもしれないのに……」と残念がりつつ剣を抜き、テレビウムの『彼』を伴うエング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)は兜のような頭部から二つの目を煌々と光らせ、敵を睨めつける。
「さ、始めようか? 変態ダモクレスさん」
最後に、レイが指輪から光の盾を生み出しつつ言えば、ダモクレスは右肩の大型カメラをがっちりと構えて、小走りに近づいてきた。
●シーン1
「おい、止まれ。ここから先は通行止めだ、通りたけりゃ通行税を払いな」
敵を取り囲もうと動くケルベロスたちの中から、大介が進み出て制止を呼びかけるも、何ら反応はない。
ならばやることは一つ。実力行使。通行税の強制徴収だ。
支払いは当然ながら、ダモクレスのスクラップ一括のみで受け付け。
「止まれって……言ってんだろッ!」
担いでいた戦斧が光り輝き、袈裟懸けに振るわれる。見るからに破壊力抜群の一撃は――しかし空を裂いて、アスファルトに埋まった。
「チッ、ちょこまかと動きやがって!」
早くも苛立ちを見せる大介が振り返れば、宙に跳んだダモクレスは肩のカメラを向けている。
レンズには集中する光。ビデオカメラに搭載されているはずもない攻撃機能を、ダモクレスはエネルギー弾の形へ整えて撃ち放つ。
だが、ケルベロスたちに驚きはない。それは予め聞かされていたものだ。
まるで戦いの中にあることを感じさせない優雅さで、レイが光の盾を維持したまま大介を庇いに入る。着弾とともに感じる衝撃は極めて破壊的だったが、レイは戦況に応じて形状・硬度を自動変化させるゴスロリドレスをはしたなく翻すことも、口から惨めに呻き声を漏らすこともなく、追撃の一手にまでしっかりと淑やかに耐えてみせた。健闘を称えるようにテレビウムの『彼』が励ましの動画を流し、ポヨンは水の力を注ぎ込んで癒やす。
そして道を耕した大介の戦斧も、結果オーライと言うべきか。彼を越えていったダモクレスは、取り囲もうとするケルベロスの間へ自ら収まる形に。
早速、アレクセイが敵の着地に合わせて星空のような翼を翻し、溜めに溜めた飛び蹴りを打つ。狙い澄ました渾身の一撃を避けることは難しいと判断したのか、ダモクレスは大事なレンズを壊されまいと身を捩り、何も備えていない右腕を差し出して受けた。
けれども防御の態勢は一瞬ばかり、ダモクレスから自由を奪う。
隙を見逃すはずもなく、シャルロットが雷の霊力を込めた蒼眼竜霊刀・咢の蒼い刃を力強く突き出せば、ケイは大太刀シラヌイを巧みに操り、集中して鮮やかに一閃。金属が擦れ合う音すら立てずに斬り抜けていく。機械的なヒールにより構成されたばかりの身体が、大きく裂けた。
しかしダモクレスは、彼らに反撃するどころかレンズも向けない。
耐えて偲んで、そうまでしても手に入れたい――いや、だからこそ手に入れられるものがある……と、そんな感じのことを言っているような気がしないでもない雰囲気で仁王立ち。
その右肩、左手、右膝。全てが集中する先には、ひらひらひらめくモニカのスカート。
仲間の集中力を高めるためにオウガ粒子を振りまきながら、注意を引いてみようとする彼女の行動に、ダモクレスはまんまと釣られていた。
「――! 盗撮は犯罪だ。可能な限り阻止する」
眼力で見る命中率の具合から、攻撃に賭けるよりも守りを選んでドローンを放出していたエングがモニカを背に、不法を取り締まる官憲の如く鋭い眼差しで立ちはだかる。
機人らしい頑丈な身体は、ガード役にうってつけだ。
ところが、ファーストショットの攻防は攻め手に軍配が上がった。ダモクレスは重厚なエングの股下をスライディングで潜り抜け、そのままの勢いでモニカの下まで通過していく。レンズは当然、上向きで。
しまった、やられた。婦女子に恥辱を受けさせてしまうとは失態だ。
エングは新たなドローンを用意しつつ、少々申し訳なさそうに護衛対象を見やる。
「……残念でした」
当のモニカはスカートの裾をちょぴっと摘んで、けろりとした顔。
まさか覗くわけにもいかないが、どうやらその綺麗な布地の下は、機械に撮られたところでどうということのないようにスパッツでガッチリ、防衛されていたらしい。
●シーン2
撮られた方が『それでいい』のなら、それは一向にかまわない。
問題は、純朴そうなモニカには分からない――分からなくてもいい世界が、あるということ。
のっぺらぼうのダモクレスは至極満足げに、首を縦に振っていた。
多分、あれだろう。スパッツなら、それはそれで。そういう、アレだ。
「……うん、よく撮れてたんだな」
何故か、ケイが腕を組んで頷く。
「ここでありがちなミスっていうのが、スカートの中を撮るのに夢中になって顔を撮り忘れる事だ。それじゃ、 誰のスカートだか判らなくなってしまうぞ。できれば全身を撮っておこう。後になって見返す時にも役に立つ」
なるほど。さすがプロは違う。
貴重なお言葉は後世に残すべきだろう。ダモクレスは、しっかりと彼の語る姿をレンズに収めていた。
「……って、何の話をしているんだ俺は!」
冷たい視線ばかりが突き刺さるので、やむなく自己弁護に走るケイ。
いや、当然のことながら全て冗談だ。彼の名誉のためにも念を押しておこう。
ただどうにも、それをそうとは取られ辛い雰囲気にあるだけで。
「……ゆるせない」
案の定、秀久が拳を握り、肩を震わせている。
怒りの矛先は――当たり前だがダモクレスである。動画と静画の違いこそあれ、カメラというもので仲間を傷つけ、あまつさえ汚らしい欲望までも果たそうとするなど、言語道断。
「カメラは人の想い出を映す物……それを傷つけるために使うなんて……絶対にゆるせない!」
ここから先は決して思うようにさせまいと大量のドローンを展開してから、秀久は一気に加速して突撃をかけた。
たとえ敵が群れでも吹き飛ばす技は、次の攻撃か撮影かに動こうとしていたダモクレスの足を止める。
攻めるには絶好の機。
「テメェ、喧嘩の最中に何やってんだオラァ!」
すっかりプッツン状態の大介が、自らの足を凶器にして襲いかかる。
斧を振るうのと大差のない命中率でも、相手が動けないなら外すわけがない。バコンと金属の凹む大きな音が響いて、ダモクレスの右腕があらぬ方向に曲がる。
そこに続くのはアレクセイ。大きな槌を丁寧に叩きつければ、超重の一撃はダモクレスから進化の可能性と、ついでに撮影能力の一部を凍結させていく。
しかしまだまだ。カメラは複数箇所にあるのだ。ダモクレスはやっぱり男どもには見向きもせず、今度はレイの足元を狙った。
ゴスロリドレスの丈は長いが、裾はそこそこ短い。それを翻したりはしないが、押さえつけたりもしない。
行ける。ダモクレスは確信を持って――あくまでそのような雰囲気を醸し出して、ドレスの下に飛び込む。
ほんの一瞬前まで自由を奪われ、囲まれ叩かれしていたのに随分な俊敏さだ。
「すごーい! きみは盗撮が得意なレンズなんだね!」
ここぞとばかりにケイが一発披露してみるが、空気は温まらなかった。
そして盗撮というにはアクロバットが過ぎる行為を受けたレイは……さして気にする素振りも見せずに、優麗な笑みを浮かべている。
『ウワー!!』
同時に、ダモクレスが叫んだ。
さすがの変態でも、女の子のような男の子は対象外だったらしい。
これはしてやったりといったところだろう。きっと、セクシー系黒下着も効果覿面だったに違いない。
「ふふ、良い絵は撮れたかい? それじゃ、ごきげんよう」
このまま潰してしまえ。剣に雷を宿してグリグリと押し付けるレイ。
ダモクレス好みのプレイではないはずだ。それを示すように左手から光線が放たれたが、真下からであったにも関わらず、レイにはかすりもしない。
「その為に俺がいる。攻撃も撮影も許さん。全て遮らせてもらうぞ」
いつの間にかレイと体を入れ替えたエングが、頼もしい台詞を吐いた。
●クランクアップ
「また来ます!」
モニカが叫べば、敵の行く手に秀久が立ちはだかる。
引き連れたドローンの群れは治癒にも使えるが、警護にも使える。エングのものとも合わせ、大量の無人機が浮遊する空間では、ダモクレスの射撃武器も思うように目標まで届かない。
撮影の方も、あれ以降は成果なし。
代わりに積もるのはケルベロスたちの攻撃による不調ばかり。
変態機械一つでは為す術もなく、ついには回復を担っていたモニカもよく狙い定めて御業から炎弾を撃ち放ち、ポヨンはレンズを向けてくれないことに拗ねるような素振りで重箱に収まりつつ、猛烈なタックルを喰らわせる。
そこに振るわれるは、オウガメタルに飲み込まれて巨大化した斧剣。
「さっさとスクラップになりやがれ!」
大介は、ダモクレスをこれでもかというくらいメッタ斬りにして捨てる。
さらにはシャルロットの剣や、ケイとエングの刀、アレクセイが敵の内部から生じさせた黒薔薇などが次々と炸裂すれば、ダモクレスは人の形を失って崩れ落ちた。
その残骸は殆どが、すぐに塵と化して消えたが、しばらくしても一塊だけ、掌に収まるほどのものが残っている。
「ダモクレスのカメラ……左手の部分か」
じっと見下ろしていたエングは、仲間たちを見回して尋ねる。
「プライバシー保護の為に破壊した方がいいと思うが、構わないな?」
「ダモクレスは倒れましたし、きっとデータも消えて――」
そうアレクセイが答える途中で、塊は粉々に。
「……大丈夫だとは思うが、念のためにな」
標識を持ち上げて、大介が言った。
どうせ元から壊れていたものだ。
ここまでしておけば、何を心配することもないだろう。
「そうだ。せっかくですから盗撮なんかじゃなくて、きちんとした記念写真を撮りませんか?」
愛用する年代物のカメラを手にした秀久の、そんな提案で戦いの幕は閉じた。
作者:天枷由良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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